恨みを込めて力と共に

    作者:幾夜緋琉

    ●恨みを込めて力と共に
    『くそ……何でだ、何でだよ!! 俺達の方が実力が上回ってるのは確実な筈だろ!?』
    『そうだ。畜生……あいつら、何か汚い手を使いやがったんだ。いや、間違いない!!』
     千葉県某所のとある中学校……野球部の部室の中は、とても騒がしかった。
     今日は練習試合の日……実力もほぼ同等の、余所の学校を招いての練習試合。
     しかし試合の結果は……見るも無惨な惨敗。その悔しさを部室内で爆発させていた。
    『そうだ、間違いねえ。あいつ等は卑怯な手を使った。だったら……俺達も報復してもいいよな?』
    『ああ……そうだな! ……だが……だが……!!』
     ……最後の言葉を告げた、部長と思しき男子生徒。
     その頭には、黒い小さな角が……むくり、と生えていたのである。
     
    「ふふ……皆さん、集まった様ですね? では、説明を始めます」
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は、集まった灼滅者達を見渡しながら、早速説明を始める。
    「皆さんに行って貰いたいのは、千葉県某所にある中学校です。こちらに現在、一般人が闇落ちし、ダークネスになろうとしている事件が発生しようとしているのです」
    「通常であれば、闇落ちしたダークネスはすぐさまダークネスとしての意識を保ち、人としての意識はかき消えるものです。しかし……刈れは元の人間としての意識を残していて、ダークネスの力を持ちながらも、ダークネスになりきっていない……狭間の状態なのです」
    「皆さんへのお願いは、彼が灼滅者の素質を持つのであれば、闇落ちから救い出して欲しい……もし完全なダークネスになってしまう様であれば、その前に灼滅をしてきて頂きたい、というものです」
     そして姫子は、続けて闇落ち仕掛けた一般人について説明を加える。
    「彼を闇落ちから救う為には、戦い、KOする事が必要となります。KOすると、ダークネスとなれば灼滅され、灼滅者の素質があれば灼滅者として生き残るのです」
    「尚、闇落ちし掛けた彼と相対した時に、彼の心に呼びかける事で戦闘力を下げる事が出来ます」
    「彼は野球部の部長の様で……試合にボロ負けした腹いせに相手チームへ復讐をしようとしていますが、葛藤で悩んでいる状態の様です。幸い周りに人気はありませんが……彼の周りには、他の部員達も居ます。他の部員が10人居る様です」
    「ちなみに、他の部員達も試合に負けた事に対して大変腹立たしく思っており、その辺りを踏まえた上で説得を試みるのが良いかもしれませんね……?」
     そして、最後に姫子は。
    「闇落ちした彼らは、試合に負けて失意のどんぞこに居ます。そんな彼らを灼滅する事は、ある意味心苦しくもありますが……ダークネスになってからでは遅いのです。皆さんの力で、今此処で助けてあげて下さい、お願いします」
     と、頭を下げた。


    参加者
    佐々木・侑(風・d00288)
    鳳凰院・那波(朧月姫・d00379)
    神楽・慧瑠(戦迅の藍晶石・d02616)
    アルファリア・ラングリス(蒼光の槍・d02715)
    九条・泰河(陰陽の求道者・d03676)
    神楽・雄介(壊れた心の歯車・d04467)
    音羽・彼方(不偏なる灼滅者・d05188)
    櫓木・悠太郎(半壊パズル・d05893)

    ■リプレイ

    ●恨みし心子から永久まで
     姫子から、事件解決の依頼を受けた灼滅者たち。
     千葉県は某所の中学校を訪れると、丁度練習試合が終わった様で、グラウンドの方が騒がしい。
    「……どうやら、間に合ったようだな」
    「そうですね……しかし今回の対象、羅刹ですか。古来より伝承に現われる粗暴な鬼、と……うん、面白い」
     神楽・雄介(壊れた心の歯車・d04467)に、音羽・彼方(不偏なる灼滅者・d05188)が少し楽しげに呟く。
     そう、今回灼滅者達が相手にするのは羅刹。鬼の様で、人に似た外見ながらも凶暴な性格を持ちし者達。
     そんな彼らは……野球の試合に負けたという腹いせに、殺しを行おうというのだ。
     櫓木・悠太郎(半壊パズル・d05893)と、アルファリア・ラングリス(蒼光の槍・d02715)は、そんな理由に対して。
    「試合に負けた腹いせ、ですか……よほど悔しかったんでしょうね」
    「ええ。きっと練習通りに実力を発揮出来れば勝てた……そう思っていたのでしょう。ですがそれよりも、彼らは強かったという事……油断が招いた敗北、そういう事は珍しくありません。勝負事であればなおさらの事です」
     そんな二人の言葉に。
    「ったく、アホらしいなぁホンマ。自分に都合の良い言い訳などしよって」
    「そうでございますね。その発想に幼稚さが感じられますが……それは年頃という所でございましょうかね」
     佐々木・侑(風・d00288)に、神楽・慧瑠(戦迅の藍晶石・d02616)が優雅に頷く。
     まぁ子供だからこそ、自分勝手な考えをしてしまうというものなのかもしれない。
     そんな彼らをしっかりと正しい道へと引き戻すのも、灼滅者としての今回の仕事。
    「野球で負けた恨みを暴力で返すのは、少々さわやかさに欠けるよね? そして彼らも、それは解っているんだろうね。感情が乗ると視野が狭くなるものだ。なら先ずは、自らと向かい合い、考えさせる事が重要だな」
     九条・泰河(陰陽の求道者・d03676)の言葉に。
    「例え彼らが幼い考えを持っているとしても、年長者としてはこれを正しく導きませんといけませんわね」
    「そやね。ちゃっちゃと目ェ覚まさせなアカンわ。取り返しがつかんようになる前にな」
    「ええ。実力に自信があるからこそ、負けた理由を何処か別の所に求めたくなるのは、幼さ故の心理。純粋さの裏返しでもありますし、ただ否定するのではなく、上手く諭して差し上げられれば良いのですが……ね」
    「そうですね。残念ながら、正直な所、僕自身はスポーツをやらないので、彼らの気持ちが余り理解出来ないんですよね……ヘタに先方を怒らせてしまわないか、ちょっと心配なのですが……まぁ、気をつけますよ」
     悠太郎、アルファリア、侑、慧瑠らがそんな会話をして、そして鳳凰院・那波(朧月姫・d00379)も頷いて。
    「では、行くとするかの。皆、決して油断するではないぞ」
    「ええ……ああ、恐らく場所は野球部の部室になるでしょうから、野球道具等が墜ちてても、傷つけないように皆さん注意して下さいね。雷轟も、気をつけて下さいね」
     悠太郎がそんな注意を促しながら、灼滅者達は野球部の部室へと向かうのであった。

    ●我儘の儘
    『くそ……畜生!! 奴らに負けるはずがないんだ。奴らは何か汚い手を使いやがった、そうに違いない!!』
    『ああ!! あいつらずりいよ。そんなら俺達だって……よ!!』
     そんな怒号の声が、部室の外までも響いてくる。
     その怒りはかなりのもののようで、一瞬入るのを圧倒される程の声色。
    「……かなり荒れている様ですわね……簡単に言う事を聞いてくれるかと思いましたのですが……難しそうですわね」
    「ああ……ま、仕方ないですね……では、突入しますよ」
     彼方はそう言いながら眼鏡を懐にしまう
     そして頷き……一斉に灼滅者達は、部室の中へと突入する。
    『っ!? な、何だおまえらはよ!』
     大声を上げる野球部員達に、泰河がすっと前に出て。
    「……大体の事情は聞いている。実力伯仲だったのが、ワンサイドゲームになるだなんて確かに衝撃的だ。それで……何で負けたんだい?」
     その言葉に啖呵を切って切り出すのは……血の気の多そうな男。
    『そんなの、奴らが卑怯な手を使ったからに決まってる!! 俺達が負けるわけないんだ!!』
    「ふむ、卑怯な手……それじゃそれ以外は? 部長はそれ以外って、どんな理由が考えられる?」
    『それ以外になり。俺達は真っ正面から戦えば負ける事は無かったんだ……なのに負けるだなんて、あり得ないだろうが!!』
    「そう……僕は野球は素人だから、適当な事を言っているかもしれないけど、例えば作戦を変えたり、皆より向こうがもっと練習したとか……っていうのは考えられないの? 相手はそんな、卑怯なルール無用の暴挙をやってたというのかな?」
     その問いかけに、むぐ、という言葉のみで、返答出来ない彼ら。
    「例えそうだとしても……それで勝つことに、復讐する事に意義はあるのかな? バットで撃つのはボールだろ? 他の手段で復讐したとしても、それなら野球で負けたまま、だよ」
     泰河の告げた言葉に、それに更に侑が畳みかける様に。
    「ったく、お前ら野球舐めとんのか? 実力が上回ってた筈っちゅーとるけど、それは何時の話っやねん? 相手かて必死に練習しとるんや。いつまでも弱いままの筈がないやろうが! それに仮に卑怯な手を使うたとしても、おまえらが同じ事をしてどないすんねん。卑怯な手ぇ使われても、圧勝したる位の根性魅せろや! お前ら野球好きなんやろ? ほんなら野球に恥じるような真似すんなや!」
    『……っ』
     二人の厳しい物言いに、うっ……と僅かに威圧された模様。
     そんな彼らに続けては……慧瑠とアルファリア、そして雄介と悠太郎の四人が、優しげな声で語りかける。
    「……貴方たちが、負けて悔しいのはよく分かります。練習も沢山したのでしょうし、実力に大きな差はなかった、という自負もおありでしょう。それならば……だからこそ、暴力に訴えるのはおやめ下さい。だって……あなた方は、野球が大好きなのでしょう?」
    「あなた方がこれまでに積み上げてきた努力に自信がおありなのは理解しておりますわ。そしてその努力が報われず悔しく思っているのも当然のこと……しかし、あなた方が真なる野球選手であるのならば、ご自身の努力を貶める事の無き様」
    「そうだ。復讐しちまったら、今までの自分達の努力まで穢すことになっちまうんだぜ? 昨日の負けより明日の勝ち。次の戦いに向けて努力する事にも目を向けて欲しいんだがな」
    「負けたのなら、次は絶対負けないって位に練習し、またし合いに勝てば良い話だと思いますがね。勝手な思い込みで、怒りに全てを任せたところで、何一つ解決なんてしませんよ……部長さんは解っているんですよね? そんな事」
    「報復なんてしてしまったら、もう野球が出来なくなるかもしれませんよ? そんな事になる位ならば、次の機会に実力で打ち任せば良いのです。あなた方ご自身の野球を信じてみては如何でしょう。野球で負けたままで宜しいのですか? 次こそ勝って、どうだ、と胸を張って欲しいです」
    「ええ。今、ここで感情にまかせて報復を行ってしまえば、皆様の積み上げてきた努力は水泡に帰してしまいましょう。自分達はこれだけ強いのだ、と次の試合で示せばよろしいのではありませんか?」
     代わる代わる、次々と野球部員達を励まし、そして……一際熱く声を掛けたのは那波。
    「お前等……一番になるっていっただろ! 富士山の様に、日本一になるっていっただろ! ならお前、昔を思い出せよっ! 今日からお前は、富士山なんだっ! 諦めんなよ、諦めんなよお前!! どうして此処で止めるんだよ、そこでもう少し頑張ってみろよ!!」
    『……でも、よ……』
    「ダメダメダメ! 諦めたら!! 周りの事を思えよ、応援してる人達の事を思ってみろって! あと、もうちょっとの所なんだから! チャンスは何度でもある。その時は必ず来る! だからもっと熱くなれよ! 熱い血、燃やしていけよ!! 人間熱くなった時が本当の自分に会えるんだ! だからこそ、もっと熱くなれよ!!」
     いつもの雰囲気とは違う、ありえない程に熱く……そして真剣に。
     ……その熱い説得の言葉に……頭を抱える部長。
    『……くそ、五月蠅い五月蠅い五月蠅い!! 勝ちたくたって、勝てねぇときだってあるんだよ!!』
     そう言うと……かき乱した部長の頭に、黒曜石の角が隠れ見える。
     更にそんな部長の言葉に。
    『そうだそうだ! お前等は本当に俺達の事を解っちゃいねぇよ……ぶっ殺してやる!!』
     彼の周りの野球部員達も、そんな声を上げる。
    「……そうでございますか、では仕方在りませんわね……」
     そうぽつり言うと、慧瑠が殺界形成で殺気を放つ。
     その強い殺気は、羅刹ではない一般人を……恐怖に戦かせる。
    『ひ……な、何なんだよあいつ!!』
    『し、知るかよ!! 起こらせちまったみたいだぜ……に、逃げようぜ!!』
     そう捨て台詞を吐きながら、部室を次々と這々の体で逃げていく。
    『おいこら、逃げんな!!!』
     部長の怒号が響き、部室に残るは羅刹の部長が一人……と、取り残された2人の部員達。
     ただ部員達は、足下がガクガクと震えているのが見て取れる。
    「……よし、それじゃこっちも行くとするぜ」
     雄介がヴァンパイアミストを使用し、前衛列に先ずは壊アップの効果を施す。
     そして。
    「その心に巣くう闇、討ち払うは我等が使命……行きます!」
    「……内なる鬼に負けた先に待つのは殺戮の道、わたくしの全霊を以て、止めさせて頂きますわ!」
     突撃と共に部長の前へと立ち塞がるアルファリアと、慧瑠。
     アルファリアが紅蓮斬で斬りかかると、それに併せて悠太郎のライドキャリバー、雷轟と侑のライドキャリバー、シェリーちゃんも一緒になって前線を引き上げる。
     そしてまずは、立ち塞がる一般人の少年達へ……彼方が手加減攻撃で、まずは一人を気絶させる。
     残る部長の下へ、キャスターにつく那波、悠太郎が神薙刃による連携攻撃。
     更に後方の侑と泰河も。
    「行くで!」
    「うん。我が結果術……何処まで通じるか挑ませて貰うよ!」
     遠距離からのバレットストームと除霊結界。
     対する部長は、羅刹の力をそのままに、立ち塞がったアルファリアに向けて殴りかかる。
     重い一撃が、その体力を大幅に削り去る……が。
    「……負けたりはしません。ええ……!」
     真っ直ぐにアルファリアは彼を見据えて、自己に戦神降臨で回復しながらも戦列を維持。
     第二ターン。
    「次に眠るのは、貴方でございますわよ」
     そう慧瑠は告げると、素早く動いてもう一人残った一般人の元へ。
     手加減攻撃で懐に一撃を食らわせ、彼もまた気絶する。
    「さて……後は貴方一人だけでございますわよ」
    『っ……五月蠅い五月蠅い!!』
     既に何かを聞く石は持っていない様で、ただただ攻撃に傾注。
     そんな彼に泰河が。
    「その怒りを! 恨みを! 悔しさを浄化して、己の力として魅せろ! 鬼の道は反転し、至れば神の道が拓かれん!!」
     声高らかにそう宣告。
     ……勿論、彼がその言葉に何か反応を返したりする訳ではないが……羅刹に負けず、仲間となって欲しい事の現われだろう。
     そうして、1対8の戦いは数ターンの内に、羅刹圧倒的不利な状況を産み出して……肩で息をしながら睨み付ける彼に。
    「……闇に屈せず、闇に抗う強い心を持って下さい。打ち勝てると信じて!!」
     更にアルファリアが声を掛け、彼に呼びかけ……そして。
    「……喰らえ!」
     雄介が、渾身のギルティクロスをたたき込み、ガクリと膝を落とすと。
    「……我が斬艦刀に断てぬものなし!」
     那波の宣言と共に、悪をたたき落すのであった。

    ●その力を先に
    「……終わりましたね」
     そう彼方は言いながら、再度眼鏡をかけ直す。
     ……彼が再度起き上がる前に、その身体に受けた傷の応急処置をする。
     そして彼が回復するのを待つ間。
    「しっかしなぁ……負けてそんだけ悔しいって思うんやったら、もっと頑張ったらええやろ? 部長さんは覚醒したみたいやから、学園に連れて行かざるをえんからなぁ……」
    「そうじゃな」
    「まぁこのままこの学校に居続けるのも辛いだろうしな」
     侑に那波と雄介が頷く中。
    「まぁクラブの友達らと離れなアカンっちゅーんはちっとだけ可哀想やけどな。でも二度と逢えんようになるわけでもなし、それくらい飲み込んで貰うとせんとな。こいつが抜けても人数が九人おるねんから、野球も続けられるしな?」
    「そうですね……っと、そろそろ、起きそうですよ?」
     と彼方が言うと。
    『……う……ん……?』
     起き上がった彼……周りを見て、きょとんとしている彼に。
    「……気づかれましたか? …何が起こったか理解出来ていないでしょうが……それは我々も、同じような身上でございました。内に闇を宿し、呑まれる事の無いよう卸しながら生きること。そう宿命づけられた者達が集まる学園に属しております。宜しければ、貴方も共に歩みませんか? きっと貴方の心強い『仲間』となってくれる事でしょうから」
     慧瑠がそう言いながら差し出す書類。
     戸惑う彼だが……先ほど、己を突き動かしていた衝動の影も、少し思い出す。
     そして……そんな彼へ、軽く肩を叩きながら侑が。
    「……ま、すぐ決めんでもええ。お前も部長やしな? ただ、もし来るならこの部活の部長として最後の仕事になる別れの挨拶、ビシッと決めときな?」
     と、笑いかけるのであった。

    作者:幾夜緋琉 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年9月22日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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