伏した少女は――生わらびモッチア登場!

    作者:聖山葵

    「ぼく、もう駄目みたいだ……」
     横たわった少女は自分の手を取る少女に、穏やかな顔で告げた。
    「何を言っ」
    「いい。もう解るんだ、自分のことだからね……」
     何か言おうとする友人に力なく頭を振ってみせると、微かに苦笑する。
    「無理があったんだよ……ダイエットなんて」
     自嘲気味に笑う瞳に映ったのは、「ダイエット、今年の夏の悲劇を忘れるな」と書かれた部屋の張り紙。
    「だから、さ」
    「え」
     呟いた少女の身体が次の瞬間、変貌し始め。
    「もう我慢しないもっっちぃ! 生わらび餅たべくるるもっちぃ! ひゃっっはぁぁぁっ!」
    「わらびちゃぁぁぁん?!」
     自室の窓ガラスを突き破って外に飛び出た元少女は友人の視界から消えた。
     
    「生わらび餅……」
     定番といえるかは微妙かも知れないがと一之瀬・暦(電攻刹華・d02063)の言葉に頷いた座本・はるひ(大学生エクスブレイン・dn0088)は、君達に向き直ると情報提供者の暦を横に事情を説明し出す。
    「定番の御餅のモッチアに取りこぼしはないかと暦が探してみたところ、一般人が闇もちぃしてダークネスになる事件が起こりそうだと言うことが解ったのだよ」
     つまり、それっぽい事件がないか探してみた結果が今回の発見に繋がった、そう言うことである。
    「ちなみに、問題の人物は一時人の意識を残して踏みとどまる様なのでね」
     もし件の少女に灼滅者の素質があるのであれば、闇もちぃからの救出を。
    「そうでない時は、完全なダークネスになってしまう前に灼滅をお願いしたい」
     それが、はるひからの依頼であった。
    「今回闇もちぃする少女の名は、生和・わらび(いくわ・わらび)。高校一年生の女子生徒だな」
     ダイエットの為、大好物の生わらび餅を絶っていたわらびは愛する生わらび餅を食べられないあまり、闇もちぃし、全裸に巨大生わらび餅を数枚纏ったような姿のご当地怪人、生わらびモッチアとなって自室の窓ガラスを突き破り外に飛び出すらしい。
    「君達がバベルの鎖に引っかからずわらびと接触出来るのは、生わらびモッチアが外に飛び出した直後だ」
     人気のない細長い路地に降り立つので、通路の両側を封鎖した状態で待ち伏せればいい。
    「そうだな、この生わらび餅を渡しておこう」
     闇堕ちした一般人を救うには戦ってKOする必要がある為、戦闘は避けられないが、接触し人の意識に語りかけることで弱体化させることは出来る。
    「これを使えばわらびも君達を無視して立ち去ろうとすることなく、話に耳を傾けると思うのでね」
     わらびが闇もちぃした理由は、夏に無惨な水着姿を晒してしまった汚名を払拭する為、ご当地愛と好物への思いを押さえ込んでまでダイエットしようとした反動にある。
    「つまり、食べてもやせる方法を示してやればいい」
     その分ジョギングするとか、エクササイズを勧めてみるとか。
    「まぁ、そう言ったことが思いつかないほど思い詰めていたと言うことでもあるのだろうがね」
     若干気の毒そうな顔で頷くと腕を組んだ。
    「さて、話を戻そう。戦闘になると生わらびモッチアはご当地ヒーローと護符揃えのサイキックに似た攻撃で応戦してくる」
     ただし、飛ぶのは符ではなく平たく薄い生わらび餅であり効果を失った生わらび餅は食べられるらしい。
    「その辺りはご当地怪人だからなのだろうな。ともあれ、このまま一人の少女がダークネスになることなど見過ごせない」
     わらびのことを頼むと口の端にきな粉をつけたままのはるひは君達に頭を下げたのだった。


    参加者
    一之瀬・暦(電攻刹華・d02063)
    南風・光貴(黒き闘士・d05986)
    四御神・湊(遠雷の異形戦士・d18400)
    真柴・櫟(シャンパンレインズ・d28302)
    大神・狼煙(リグレッタブルラフメイカー・d30469)
    静守・マロン(シズナ様の永遠従者・d31456)
    甘莉・結乃(異能の系譜・d31847)
    新堂・柚葉(深緑の魔法使い・d33727)

    ■リプレイ

    ●出待ちというもの
    「何というか……」
     そこから先を一之瀬・暦(電攻刹華・d02063)は声に出して口にしなかった。
    (「もしかしたらと思ったら本当にいたとは。と言うか多いな、ダイエット関係の闇落ち事件」)
     殆ど表情を変えず、見つめる瞳にはオレンジ色に染まった一件の民家が映っている。
    「このお家なのですね。まずは二手に分かれて待ち構えましょう」
    「承知したである。しかし、ダイエットというのはよくわからないであるなあ。好きな物を食べればいいではないであるか」
     促す新堂・柚葉(深緑の魔法使い・d33727)に応じつつ、静守・マロン(シズナ様の永遠従者・d31456)は唸りつつ首を傾げ。
    (「好きなもんを好きなだけ食べて、好きなスタイルになれると思ってたら甘々なんだよね。やるかやらないかだけなんだけどなー。気合いだよね」)
    「うむ、やはり好きな物を食べればいいとしっかり伝えねばいけないであるな!」
     肩をすくめ甘莉・結乃(異能の系譜・d31847)が嘆息する中、なにやら自己解決にいたってマロンは顔を上げた。
    「ともあれ、配置は完了だな」
     ずれた眼鏡を直しつつ、四御神・湊(遠雷の異形戦士・d18400)は横目で路地の反対側を封鎖する仲間を一瞥すると他者の見ていた民家に視線を戻す。
    「念には念を、というわけで百物語。始めますよ?」
     周囲に確認を取ってから大神・狼煙(リグレッタブルラフメイカー・d30469)は怪談を語り出しつつ、内心で安堵する。
    (「良かった、怪談で人除けする必要ないとか言われなくて。それと……」)
     自分の顔が怖いことを気にしている狼煙からすれば無理からぬ心の声だが、狼煙はもう一つロリコン疑惑という頭痛の種も有していた。
    「意識しすぎもかえって藪蛇ですよね」
     二班に分かれた内小学生がもう一方の班に行ってくれたこともある意味救いではあったかも知れない。
    「モッチア、か。そう言えば、群鳥も……」
     元モッチアな後輩の姿を脳裏に過ぎらせた真柴・櫟(シャンパンレインズ・d28302)が見た民家の窓にはまだ変化もなく。
    「助けないとな」
     救出さえ出来れば、学園で初めての友人だと懐いてくれてる後輩のように学園でやっていけるだろうからと胸中で続け、櫟は仲間達に告げる。
    「来るよ」
     その直後だった。
    「ひゃっっはぁぁぁっ!」
     内側から突き破られた窓ガラスの欠片を夕日に輝かせつつ、それが飛び出してきたのは。
    「っ」
     すかさず南風・光貴(黒き闘士・d05986)がスレイヤーカードの封印を解き。
    「話に聞く以上にすごい格好だな……」
    「あぁ、うん。何故何時もモッチアって素っ裸なんだ」
     履いてない、生わらび餅以外付けてないご当地怪人の姿に湊が恥ずかしそうに視線を逸らせば、暦も表情こそ殆ど変えないもののため息をつく。
    「なっ、これはどういう――」
     ただ、当の生わらびモッチアはそれどころではなかった。部屋を脱出し生わらび餅を確保しに走り出そうとしたところで行く手を塞がれていることに気づいたのだから。
    「はむはむ、っく、いや中々美味であるなぁ」
     しかも、その中に見せつけるようにして何かを食べている者が約一名。
    「な、何もっちぃぃぃ? これは一体どういうこともっちぃぃぃ?」
    「取り合えずまぁ、落ち着こうか」
     混乱するご当地怪人の肩に手を置き、暦はそう言った。

    ●説得されるもっちぃぃ
    「この状況でどう落ち着くもっちぃ? そこを通すもちぃ、生わらび餅食べたいもっちぃぃぃ!」
     もっとも、今まで我慢して限界を向かえかけた元少女からすれば飢えた自分の前で何かを食べられるというのは、耐えきれない者であったのだろう。
    「待て、生わらびモッチアよ!」
     喚くご当地怪人に今度は光貴が声をかけ。
    「もちっ?」
    「生わらび餅でダイエットができない? 笑止! 本物のわらび粉を使えば、そんなにカロリーは高く無い筈! つまり今まで食べていたのは、芋のでん粉なんかが多く混ざった紛い物!」
     振り返る元少女へ指を突きつけた。
    「まがい……もの?」
    「それに黒蜜や砂糖+きな粉で食べていたのだろう? きな粉だって砂糖を加えなければ、大豆。つまり低カロリー高たんぱくのダイエットに適した食品! 真に生わらび餅を愛する者なら、純度の高い本わらび粉を使い砂糖の少ないきな粉でダイエット食とできんぐっ」
     呆然とする生わらびモッチアへ更に続けようとした光貴の口を塞いだのは、誰だったか。ともあれ、呼びかけは明らかに元少女の気を惹くことに成功し。
    「知合いにもっちあが多すぎるから、君の悩みは多分わかる」
     暦は元少女が我に返るより早く頷いて見せ。
    「俺も数年前までぽっちゃり気味だったからな」
    「ほ、本当もちぃか?」
     これに同調した湊はご当地怪人の肢体を出来るだけ見ないように視線を逸らしつつ語り始めようとして詰め寄られた。
    「あ、あぁ。食べるのは一向に構わない、ただしその分運動をして燃焼させよう。だから離れ――」
    「そう、好きなだけ食べていいんだよ? 痩せるまで動きまくるだけなんだから」
    「動く、もちぃ?」
    「うん。女子はね、結果出るまでやれるか、諦めるかしかないんだよ」
     色々際どい格好の元少女へ急接近されるというピンチを見た結乃は、会話に加わることでフォローしつつ、振り返った元少女の目を見つめたまま、生わらび餅の袋を開ける。
    「でも、辛い道だと解っていても尚、諦めないなら――応援するから頑張ろうよ」
     ちなみに並モードから鬼神モードまであるよ、と付け加え結乃が生わらび餅に楊枝を突き立てる。
    「うぐっ」
     それだけで、ご当地怪人は目が離せなくなり。今更周囲の灼滅者達を無視して逃走を図るなど不可能だった。
    「運動は色々あるけど自分は筋トレに励んでいた。痩せていくのが楽しくなって、今やこんな感じだ」
    「おおおっ、凄いもっちぃ」
     何やらライトアップで補助をする狼煙の助力の甲斐もあってか、袖を捲って腕を曲げて力こぶを作ってみせる湊へ元少女は感嘆の声を上げる。もっとも、湊からすると際どい格好の異性に接近されると言うピンチに陥っている訳だが、ご当地怪人の方は全くこれに気づかず。
    「まあ、我慢しすぎるとストレスが溜まって逆に良くないからな」
     顔を背けた湊は素っ気ないふりを装って距離を取る。
    「見ての通り、運動すれば成果は出る。で、その間食べるのを我慢する必要は全く無いわけ」
    「それから先程の話ですが、我慢だけでは身体に悪いしストレスもたまるので、食べたいのを少しだけ食べると我慢しやすいです」
    「成る程、もちぃ」
     代わりに説明にまわったのは柚葉と櫟で、ふむふむと生わらびモッチアが耳を傾けているのは、ダイエットを試みようとしていた人の方の意識がまだ残っているからか。
    「シズナ様は子持ちであるがグンバツであるぞ!」
    「な、ちょっ」
     ただ、自身のアピールがマロンを触発させる事になるとは湊も予想していなかったのだろう。体系を強調するよう服に力を加えられたビハインドのシズナが恥ずかしそうにする様は、ご当地怪人とタメを張れるレベルで硬派な男子大学生には危険だった。身体のラインが出易い服を着ているマロンを含めて。
    「これは演出これは演出これは演出これは演出これは演出」
     際どい格好のビハインドへ狼煙が鏡をレフ板の如く使いつつ呪文のように繰り返し唱えているのもまぁ、仕方ない。
    「あと、餅系はカロリー高いので、飲み物はゼロカロリーのを合わせましょう。お茶や痩せる的な機能性飲料がいいですね。そして、餅を食べたら朝昼晩のどこか減らしましょう」
    「あー、そういう方法もあるもちぃね」
     一方で灼滅者とサーヴァントの張り合いへ置き去りにされた感のある元少女は柚葉の説明へ感心した態で唸り。
    「皆さんも仰ってる通り、食べるのを我慢しなくてもダイエットは出来ます。それに、このままだとわらびさんは闇もちぃしてしまうのです」
    「闇もちぃ、もちぃ?」
     話はようやく一同が元少女の前に現れた理由に至ったのだった。

    ●救いの手を
    「七星、出番だよ」
    「目覚めろ、パラサイト!」
     結乃達が、スレイヤーカードの封印を解く。
    「ほ、本当にやるもちぃか?」
    「ああ。節食したり、それでストレス溜めたりしても逆に太りやすくなるだけだし。そう言う意味でも良いストレス解消にもなるんじゃないのかな?」
     助けるために戦う必要があることは流れで伝えてある。頷いた櫟は手にしたKEEPOUTをスタイルチェンジさせ。
    「それは」
    「ゆくぞよ!」
    「な」
     そちらに気をとられたご当地怪人へ最初に肉迫したのは、マロンだった。口に生わらび餅をくわえたまま、半獣化した片腕を振り上げ。
    「もべばっ、がっ」
     引き裂かれた生わらびモッチアが悲鳴をあげたところにシズナが霊撃を叩き込む。
    「うぐぐ」
    「これぞ武蔵坂のエクササイズ戦闘流法! 好きな物を食べていいのである! こうやって動き回れば!」
     息のあった連係だった。呻くご当地怪人へエクササイズを思わせる動きをしつつマロンは胸を張り。
    「いいか? ダイエットに必要なのは食べることなんだ。食事を抜くと体が『食料が乏しい』と勘違いして脂肪を溜め込むようになるからな。食べ過ぎはよくないが、ダイエットの基本は食べること。大事なことだから二回言ったぞ!」
     すかさず狼煙がそんなマロンへ帯を纏わせつつ言う。
    「う、動く……もちぃか」
     傾いだ上体を起こしつつ元少女はアドバイスを反芻し。
    「……ふむ」
     後方から忍び寄った暦は大きな生わらび餅の隙間から手を突っ込むと徐にご当地怪人のもっちあ(名詞)を掴んだ。
    「ひぅっ」
    「いいな、柔らかくて触り心地がいい。何より女の子らしい」
     体型を確認しているらしいが、あちこちをなで回す姿はどう見てもセクハラ。
    「な、なにをす」
     これに抗議しようとしたご当地怪人は、次の瞬間。
    「へもびじぶっ」
     投げられた。
    「見なかった。俺は何も見ていない」
     ずれた眼鏡を直しつつそっぽを向いた湊は絶対不敗と別の何かの暗示を同時に自分へかけると言う器用な真似を見せつつ、それをスルーし。
    「よくもやったもちぃな!」
     激昂したご当地怪人が胸の谷間に手を突っ込み、取り出した生わらび餅を投げつけた。
    「ぶっ」
    「わぷっ、ん?」
     幾人かに生わらび餅が命中するも、ダメージはなく。
    「今、もちぃ!」
     ワンテンポ遅れて発動した攻性防壁こそが元少女の狙いだった。
    「ふうん。これはなかなか」
    「ふふふ、思い知ったもちばっ」
     防壁作成に寄与した生わらび餅の一つを食しつつ結乃は呟くとそのまま音波で応戦し、勝ち誇っていたご当地怪人を吹っ飛ばす。
    「うっぐ、何をす」
    「レイザースラスト、発射!」
    「ひぃぃ、もっちゃぁぁ」
     更に跳ね起きて文句を言おうとした所で、光貴が射出した帯に襲われ逃げ惑い、光貴の乗っていたバトルキャリバーに轢かれる。
    「好きな食い物が無い俺にはモッチアになる程の執着は分からないけど、餅投げられるのがすげー迷惑なのは分かる」
     いや解ったと言い換えても良いのだろう。
    「癒しの言の葉を、あなたに……」
     きな粉まみれになった仲間を癒やす柚葉を視界の端に止めて櫟はビハインドであるイツツバの影から呟き。
    「回復ありがとう」
    「いえ、お役に立てて何よりです」
     帯を纏い、きな粉まみれの顔で礼を言うセクハラ犯から柚葉は顔を背けた。
    「さて、再反撃と行くか」
    「ひぃ、来るなもっちぃぃぃ」
     何というか、まともな戦いを期待してはいけなかったのかも知れない。説得で弱体化して余裕がないことも相まってか、もっちあ(動詞)されるのを恐れたご当地怪人が逃げ出そうとし。
    「ドライブ、バーナー! 燃えろ!」
     隙が出来たところに炎を宿した無敵斬艦刀が振り下ろされる。それはさながら、大きなフィレナイフででっかい生わらび餅を切り取ろうとするかの如く。
    「熱もべっ! ぐ……嫌ぁ、こんなのもう嫌もちぃ」
    「ダイエットの前から根を上げてどうする! 俺も浪花名物を断つことになれば、その苦しみは筆舌に尽くしがたいことだろう。だが真に名物を愛する心があれば、運動の苦しみなど耐えられる!」
     涙目の元少女を叱咤激励つつ、光貴はエアシューズを駆って走り出した。
    「――ァ、キィィィィック!」
    「もぶべっ」
     燃えさかる炎に包まれた足が逃げ腰の生わらびモッチアを蹴り転がし。
    「そろそろおしまいであるな」
     ジャキンジャキンと鋏を鳴らしつつ、シズナと並んで歩くマロンが倒れた元少女へ歩み寄る。
    「あ……」
    「物を食べる時は野菜から! 先に野菜を食べる事で脂肪吸収されにくくなる!」
     何処かから聞こえる声に注意を割いている余裕がご当地怪人にあったかは解らない。
    「きな粉はもう付いていなさそうね。それじゃ、もう一切れ頂こうかしら」
    「う……」
     ただ、ご当地怪人としては絶体絶命であることを理解し。
    「ちょ、ちょっと待」
    「大いなる魔力よ、今ここに集え!」
     撃ち出された魔法の矢に言葉はかき消され、元少女の悲鳴が周囲に響く。もっとも、それは戦場限定だが。
    「サウンドシャッターしておいて良かったですね」
     やがて悲鳴が止むと、アスファルトの上に倒れ伏していたのは、人間の少女だった。

    ●ぼく達のダイエットはこれからだ
    「お疲れさま」
    「お疲れさま。とは言え、もう一仕事残ってるけどな」
     仲間を労う光貴の声に応じた暦は、玄関で服を被せられへたり込む少女へ目をやると、振り返って狼煙を見た。
    「ライトアップしたり鏡は使わないのか?」
    「どういう意味ですか?!」
     思わず叫んだ狼煙は悪くないと思う。
    「いや、脱ぐ人がいたら、照らすんじゃ無かったのか?」
    「あれは演出です! ここはそれやっちゃ駄目な場面でしょう!」
     歴の予想に反して人に戻っても全裸にはならなかった少女だったが、戦いの余波なのか服は全くの無傷とも言い難く、その結果が今し方のコントめいたやりとりである。
    「ともあれ、まずは説明だな」
     さらりと抗議者の指摘をスルーした暦は武蔵坂学園のことを一通り説明してから、少女へ手を差し伸べ。
    「私達と来ないか? わらびの力に成れるから」
    「ぼく、の?」
    「ああ。ダイエットの方もな……あまり思い詰めるのも良くないからな。自分の出来る範囲でやっていこう」
     眼鏡を直すフリをして視線を逸らしつつ、暦の代わりに湊が頷けば。
    「よ、よろしくお願いします」
     立ち上がった少女を横目で見て、結乃は踵を返す。
    (「あちらはあちらだけれどアタシも今日は食べたものね」)
     戸口をくぐり密かに抱くのは、一つの決意。
    「さて、身体も維持しないとね。帰りは走り込みかな」
     スタイルを維持するための猛特訓、その始めの一歩を結乃は踏み出す。
    「筋トレの後の生わらび餅だって、最高のデザートになる! それを励みに頑張れ」
     少女への声援を肩越しに聞きながら、始めた走り込みが実を結ぶと信じて。

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年10月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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