琵琶湖近くの町の小さなマンションで、秘密のやりとりが行われていた。
「あ~極楽極楽……」
「うふふ、ありがとうございます」
明かりを落とした部屋の中、ベッドに寝そべる羅刹の上に服をはだけたいけないナースが跨り、そっと倒れ掛かる。すると両者の体に挟まれ、柔らかい胸が形を変えた。
「気の済むまで楽しんでいってください……」
「おお……」
ナースは淫靡な笑みを浮かべると、体を上下に動かし、逞しい胸板に自身の体を擦り付けた。
冬間・蕗子(高校生エクスブレイン・dn0104)が湯呑の茶を飲み、淡々と説明を始める。
「DOG666が琵琶湖周辺のマンションの一室を使い、傷ついたダークネスにマッサージをしています。そこを襲撃し、いけないナースを灼滅してください」
HKTの分化組織であるDOG666は以前道後温泉に拠点を置いていたが、灼滅者の襲撃により撤収を余儀なくされた。そこで安土城怪人と天海大僧正の勢力がしのぎを削る琵琶湖周辺に移り、傷ついたダークネスに接触しているようだ。
「しかしいけないナースは警戒心が強く、普通に襲撃してもすぐに逃走します」
だが二手に分かれて戦闘すれば、いけないナースは戦闘不能になった方を招き入れてマッサージしてくる。そこに乗り込めば、いけないナースを灼滅することができるだろう。
「いけないナースは淫魔および殺人注射器のサイキックを使います。あまり強力ではありませんが、隙あらば逃走しようとするので注意すべきでしょう」
しかしいけないナースはマッサージしていた相手を守ろうとするので、その間は逃げない。それを利用すれば、逃がすことなく灼滅できるはずだ。
「ただ、いけないナースのところに潜り込むには本気で戦う必要があります。そちらの方が激しい戦いになるかもしれませんね」
工夫すればいけないナース戦で有利に立つこともできるかもしれないが、それよりは潜入を成功させることが先決だ。いっそ後のことは考えずに全力で戦う方が手っ取り早いかもしれない。
「いけないナースが活動をしているということは、もっともいけないナースも琵琶湖周辺にいる可能性があります。何らかの糸口を掴み、もっともいけないナースと接触したいところですね」
また、マンションの近くには空き地があり、灼滅者同士で戦うにはそこが適しているだろう。最後にそれではよろしくお願いしますと締めくくり、蕗子は灼滅者達を見送った。
参加者 | |
---|---|
小野屋・小町(二面性の死神モドキ・d15372) |
渋谷・百合(きまぐれストレイキャット・d17603) |
シグマ・コード(フォーマットメモリー・d18226) |
風間・紅詩(氷銀鎖・d26231) |
鈴鳴・真宙(蒼銀の自鳴琴・d26553) |
阿久津・悠里(キュマイラ・d26858) |
照崎・瑞葉(死損ないのディベルティメント・d29367) |
合瀬・鏡花(鏡に映る虚構・d31209) |
●偽りの戦い
空き地に集まった灼滅者は殺界形成とサウンドシャッターで準備を整え、戦闘態勢に移る。
(「DOG666が何を考えとんのかわからへんけど、知らぬ顔はできへんね」)
「さぁ……はじめようかい!」
小野屋・小町(二面性の死神モドキ・d15372)がスレイヤーカードの封印を解き、殲術道具を解放。口調を切り替えて大鎌を握り、紅に染まった刃を斬り下ろした。
灼滅者達の作戦では、小町、風間・紅詩(氷銀鎖・d26231)、阿久津・悠里(キュマイラ・d26858)の3人と、渋谷・百合(きまぐれストレイキャット・d17603)、シグマ・コード(フォーマットメモリー・d18226)、鈴鳴・真宙(蒼銀の自鳴琴・d26553)、照崎・瑞葉(死損ないのディベルティメント・d29367)、合瀬・鏡花(鏡に映る虚構・d31209)の5人に分かれ、小町達が負ける手はずになっている。だが、初めから勝敗を決め付けずぶつかった方が、いけないナースに見破られる危険性は低かっただろう。
(「怪我人を癒やす……人道的には悪いこと、してないけどね。私達からしたら、都合が悪いの」)
とはいえ単なる善意でそんなことをするはずがなく、その目論見を破るのが百合達の今回の目的だ。仲間と戦うのも騙し討ちするのも気は進まないが、必要ならやるだけ。後方から飛び出し、悠里目掛けて渦巻く槍を突き立てる。
(「申し訳ないけど、これも淫魔を灼滅するためだからね」)
真宙はごめんと声に出して言いたかったが、敵を欺くためにやっている以上それは叶わない。百合に続き、大きな十字架をハンマーのように叩き付けた。
(「楽しめるかなと思ったけど出来レースじゃ身が入りにくい。まぁ手は抜かないけど……」)
勝敗の決まっている勝負に気乗りしないシグマ。そもそも予め勝敗を決めておく必要はなかったのだが、今さら気にしても仕方ない。杖の先に黒く禍々しい弾丸を生み出し、相手に向けて撃ち出した。
(「模擬戦なんぞをやるとライブハウスのことばかり思い出すが……いやしかし、これはこれは」)
3対5という戦力差に、悠里が思わず苦笑を浮かべる。勝ち目は薄いが全力でぶつかるのみ。縛霊手から祭壇を展開して結界を作り出すと、ウイングキャットのウナも肉球でパンチを見舞った。
「悪いけど全力で戦うよ!」
相手が全力なら遠慮はいらない。瑞葉がエアシューズで疾走し、加速とともにローラーに炎を纏わせて蹴り上げる。赤く燃える一撃が、宙を舞うウナを打った。
(「DOG666は、一体何がしたいのやら。双方に影響力を持ちたい、ということかな?」)
鏡花はウロボロスブレイドを振り回し、蛇のようにしなる刀身の速度が増す。悠里達に向けて放つと、ガラス片のように透き通る刃で切り刻んだ。
(「HKTも残ったのは数少ないけど、残った1つのDOG666は今も活動活発だね」)
淫魔を倒すのに一芝居必要なのが面倒だが、ダークネスを討つためなら実行するだけだ。打つ手があるだけマシと考え、仲間との戦いを続行する。
●決着、そして
「こちらからもいかせてもらいます」
紅詩がギターに炎を纏わせ、シグマ目掛けてぶつける。相手のダメージを軽減させるため攻撃を分散させようと考えたが、それでは本気の戦いにならない。全力でギターを振り抜き、火炎の刃で一閃した。
「中途半端ではつまらないな。全力でやらせてもらおう」
傷付いた悠里は纏うオーラを癒しの力に転じ、自身を回復。だがウナはすでに限界を迎え、消滅していた。
「早く倒れてもらおうか」
鏡花はエアシューズを駆動させ、回り込んで剣を振るう。悠里は紙一重で斬撃を避けるも、霊犬のモラルが駆けて魔を絶つ刃で一太刀浴びせた。
さらにシグマが影を伸ばして追撃。影が目前で広がって呑み込み、真宙は伝説に迫る歌声を響かせて精神を揺さぶった。
「くっ……」
とうとう力尽き、悠里がその場に倒れる。残るは小町と紅詩だ。
「次!」
縛霊手を振りかぶり、暗い想念を手に集めて漆黒の弾丸を作り出す瑞葉。サイドスローの感覚で放り投げ、縛霊手を砲台に変えて撃ち出した。
「はっ!」
小町は刃の車輪を携え、大鎌を振るって応戦するが、どう戦うかを考えていなかったため思うように反撃できていない。攻撃に注力していたため、火力を集中されると脆く、すぐに戦闘不能になった。
「諦めるわけにはいきません」
1人になった紅詩だが、だからといってここで手を抜くことはできない。激しくギターの弦をかき鳴らし、懸命に音波で攻撃した。
(「決まった勝負は好みじゃないけど、これもお仕事、加減はしないわ。……死なない程度に、ね」)
だが多勢に無勢、さすがに5対1では勝ち目はない。百合の白銀の剣が光に変わり、肉体を貫通して魂を貫いた。紅詩が小さな呻きを漏らし、空き地に沈む。
勝利を得て、5人の灼滅者が空き地から去っていく。その場には、戦闘不能になり気を失った3人が残された。
「……マッサージして差し上げますね」
そこにやってきたのは、白いバンの軽自動車。バンが空き地の前に停車すると、中から白衣の女が現れ、3人を車に詰め込んでいった。
●いけない袋小路
「いかがですか? ふふ、お疲れのようですね」
「ああ……悪くないな」
近くのマンションに連れ込まれ、いけないナースのマッサージを受ける悠里達。ベッドに腰掛けて足を揉まれるが、程よい力加減でなかなかどうして気持ちいい。ワンパターンにエッチなご奉仕をしてくるのかと思いきや、いろいろな要望に対応しているようだった。
「あなたもいかがですか?」
「いえ、私はまだ軽傷なので最後に」
いけないナースが勧めるが、紅詩は遠慮するふりをして断る。ナースが他の仲間をマッサージしている間に視線を走らせ、窓やドアを確認した。手を洗うと言って部屋を後にし、玄関の鍵を開ける。
「……サービスタイムはおしまい、よ」
何事もなかったかのように紅詩が部屋に戻り、その直後、先ほど勝利した灼滅者達が部屋に乱入。心霊手術で体力を回復させて戦闘準備は万端、百合が突進して螺旋描く槍で貫いた。
「困るんだよな、そういうことされると」
シグマはあくまで悠里達の敵を装い、素早く前進。スペードとハートを象った杖を至近距離から突き出し、敵を打つと同時に魔力を注いだ。青紫色の淡い光がナースの体に流れ込み、中から蝕む。
「お引き取り願いましょう」
いけないナースは瞬時に呼吸を整え、甘い歌声を響かせる。その悦楽に満ちた歌は脳を蕩けさせるように、灼滅者を襲う。
「まひろの方がうまく歌えるんだから!」
だが真宙は対抗心を燃やし、負けじと歌い上げた。元気な歌声がナースを包み、思考を揺さぶる。
「前は道後温泉にいたよねぇおっぱいこの野郎。そこから撤退して今度はこんな所で何してるのかな? おっぱいこの野郎」
瑞葉はまるで口癖のように「おっぱいこの野郎」を繰り返し、縛霊手を振りかぶって迫る。一直線に突進し、胸目掛けて打ち込んだ。
「あんっ」
命中した瞬間、拳が何か柔らかいものに触れる。いけないナースの口から嬌声が漏れた。
「おっぱいこの野郎おっぱいこの野郎おっぱいこの野郎!!!」
ふと自分の胸に視線を落とすと、自分のお腹もよく見える。そのぽよんとした感触の正体を理解した瞬間、怒り狂って叫びを上げる瑞葉だった。
「さあ、早く終わらせようか」
鏡花がウロボロスブレイドを振るうと、刃が鞭のように伸び、大蛇のように巻き付く。同時に透き通る刃が白衣に無数の傷を刻んだ。
「ぐっ……」
劣勢を悟って唇を噛むナース。ダークネスとしては力量が低く、消耗した灼滅者を撃退することも叶わない。灼滅者が入ってきたドアを一瞬ちらりと見やる。
「待って、見捨てんといてや……」
「ええ、ご心配なく。お客様はわたくしが守りますので」
しかしその時、小町が絞り出すような声で心細そうに縋りついた。するとナースは安心させるように微笑みを見せ、巨大な注射器を構えた。
●白衣の魔の最期
「逃がしたりしないよ!」
小町を守ろうとして逃げられないナースに、攻勢を強める灼滅者達。真宙は悪魔の翼と尻尾を揺らしながら肉薄し、鋭く伸びた爪で斬り抉った。シグマは夜色の帯を刃に変え、すれ違いざまナース服ごと切り裂く。
「……」
百合は眉一つ動かさず、淡々と追撃。光り輝く刃を真っ直ぐ突き出し、魂だけを刺し貫く。鏡花はエアシューズを駆って接近し、炎を帯びたローラーを回し蹴りとともに叩き付けた。モラルは銭の弾丸を連射して援護する。
「ここで終わりですよ」
マッサージを受けていた紅詩と悠里もナースを裏切り、包囲を固める。紅詩の影が形を変えてナースの四肢を拘束し、悠里は低く跳んで跳び蹴りを見舞った。復活したウナも魔法を発動し、不思議な力で動きを奪う。
「どうせここらのダークネスに取り入る魂胆だろうけどおっぱいこの野郎」
瑞葉が早口でまくし立てながら一歩ずついけないナースに近づいていく。最初は探りを入れるつもりだったのだが、もはや怒りに完全に支配されて修羅と化していた。
「上司とか放っておいてけが人と乳繰り合ってていいのかなおっぱいこの野郎死ねえええええええぇっ!!!」
「ああんっ」
瑞葉の怒りが炎となってローラーに宿り、赤く燃え上がる。渾身の力とともにシューズをぶつけると炎がナース服を焼き、その豊満な裸体が晒され、やがてナース自身も消滅していった。
「ナースのコスプレは嫌いなんだよ、おっぱいこの野郎」
いけないナースのナース服はコスプレではないのだが、それは瑞葉の知ったことではない。瑞葉の怒りはナースを燃やしてもまだ尽きず、消えたナースに向かって言い捨てた。
「なんか、ごめんな……」
それはだまし討ちをしたからか、それともそれ以外の理由か。守られるふりに徹していた小町はどこか疲れた表情を浮かべ、ささやかな謝罪の言葉を送った。
「ナースのご奉仕はどうだった? 気持ち良かったかい?」
「ああ、意外とね」
鏡花に尋ねられ、悠里が微笑みながら答える。いけないナースには標準装備なのか、それともあの個体の特技だったのかは分からないが、普通のマッサージの腕もなかなかの物だった。
(「それにしても、いけないナースが傷ついたら誰が治療してくれんだろうな」)
ふと疑問に感じ、心の中で首を傾げるシグマ。もともとダークネスは他者からの治療を必要とするものではないが、必要とあらばいけないナース同士でやりくりするのだろうか。
「怪人達が見回りしてるみたいですし、早めに離れましょう。ナース達も相手を無差別に癒すなんて、何を考えているんでしょうか……」
真宙の言葉に賛成し、灼滅者達は速やかにその場を後にする。道後温泉で行っていたことを考えればいけないナース達の目論見もある程度想像がつくが、しかしもしそれ以上の企みがあるのならば、暴き出して阻止したいところである。
作者:邦見健吾 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年10月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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