修羅となりし羅刹の望むは勝利の美酒か

    作者:長野聖夜

    「……大僧正様はあの女に甘過ぎる……。このままでは、骨抜きにされ、恐らく奴らを倒すこと叶わなくなるだろう……そう、あの武蔵坂学園の灼滅者達を……」
     筋骨隆々の武人と形容するに相応しい男が独りごちる。
     彼の名は、夜見。
     元々、徒党を組んで人知れぬ暗闘を繰り広げていたのだが、最近になって、敵対組織の1つに所属する灼滅者と遭遇しても戦わずに逃げることを厳命されていた。
     生温い、と思う。
     彼等は所詮、半端者。けれども最近になってその勢力を急速に伸ばしてきている。
     このまま進めば最悪、他の勢力よりも遥かに危険な勢力になりかねない、実力者たちの集団だと言うのに。
     そんな時に、彼が思い出したのは……。
    「聞けば、あの女を堕とした者も、安土城勢力にいるとのことだしな。……であれば、仲間達の仇を討つ為の力を得る為の協力を得るには、申し分ない相手だろう」
     風の噂で聞いたその話を頼りに、夜見がのしり、のしりと盛大な足音を立て、その宿を後にした。
     ……彼の求める場所は、もう直ぐだ。
    「……依……か」
     ぼんやりと外を眺める、北条・優希斗(思索するエクスブレイン・dn0230)。
     顔を僅かに青ざめさせながらも、何かを考え続けるようにしている優希斗を気遣う様に、何人かの灼滅者達が彼に近付く。
    「……ああ、皆。すまないね。……実は闇堕した琴さん……いや依になるのか……が、天海大僧正の使者として、武蔵坂学園に来た」
     優希斗の複雑そうな表情に、頷く灼滅者達。
    「……夜見と言う名の強力な羅刹が天海によって破門され、安土城怪人勢力に合流しようとしていると言う情報を」
     その夜見が、近い内に琵琶湖の近くにある宿屋に現れる、と言う事らしい。
    「君達には、その夜見を灼滅して欲しいんだ。……後顧の憂いを断つためにも」
     優希斗の呟きに、灼滅者達は其々の表情で返事を返した。
     
    「夜見は羅刹だ。だから、神薙使いに類似したサイキックと、バトルオーラに類似したサイキック、それと、ロケットハンマーに類似したサイキックを使いこなす。その実力は一撃で山をも砕くとされているらしい。……まあ、君達8人がかりで、漸く戦えるか、それでも少々厳しいか、位の強さらしいんだ」
     優希斗の呟きに、灼滅者達は気を引き締める。
    「後、ポジションはディフェンダーを好むらしい。ちなみに、君達が介入できるのは、彼が宿に泊まったその夜だ。……つまり、一般人を巻き込む可能性がある」
     となるとまずは一般人の避難を優先させるべきだろう、と優希斗が淡々と続ける。
    「最も、正々堂々と武人として戦うことを好むとのことだから……其れを考慮に入れて戦えば、一般人への被害は無くなるだろう。但し、手強い。それだけは、忘れないで」
     優希斗の念押しに灼滅者達は静かに首を縦に振った。
    「……踊らされている、と思う人もいるだろう。まあ、天海を完全に信じられないのは確かだけど。でも……其々に思う事はあるだろけれど、離反者が出るのを承知の上で天海が手を打ったのも確かだ。この際だ。利用出来るものは、何でも利用したい。だから皆……どうか、よろしく頼む」
     優希斗の呟きに、灼滅者達は静かにその場を後にした。


    参加者
    巨勢・冬崖(蠁蛆・d01647)
    花園・桃香(はなびらひとひらり・d03239)
    御盾崎・力生(ホワイトイージス・d04166)
    レオン・ヴァーミリオン(鉛の亡霊・d24267)
    荒吹・千鳥(患い風・d29636)
    夜神・レイジ(熱血系炎の語り部・d30732)
    アリス・ドール(斬撃の人形姫・d32721)
    楯無・聖羅(悪魔を狩る悪魔・d33961)

    ■リプレイ


     夜の帳に包まれた一軒の旅館。
     その旅館に、1人の筋骨隆々の男が宿を取っている。
    「大僧正様は、あの女に甘すぎる……。このままでは、骨抜きにされ、恐らく奴らを倒すこと叶わなくなるだろう……そう、あの武蔵坂学園の灼滅者達を……」
     部屋で、1人呟いているその男は襖の向こうに8つの気配を感じた。
    「誰だ?」
    「初めまして、夜見さん」
     眼鏡をかけた少女……花園・桃香(はなびらひとひらり・d03239) が襖を開いて入りながら挨拶をすると、夜見は着服していた浴衣の帯を軽く締め直した。
    「その様子……此処に気が付いたと言うことは、お前たちは灼滅者か?」
     その気配に少しだけ気圧される様にしながら、桃香は1つ首を縦に振る。
    「はい。私達はあなたが安土城怪人と合流すると聞いて其れを阻止しに来ました」
    「……あの女の差金か」
     微かな苛立ちを感じさせる夜見に頷き返すは、レオン・ヴァーミリオン(鉛の亡霊・d24267)。
     夜見から発せられる王者を思わせる程の威厳ある風格に胸が震える。
     格の違いを感じさせるその姿は、レオンだけでなく、夜神・レイジ(熱血系炎の語り部・d30732) の心に火を灯し、夜見と同じく大柄な体格である、巨勢・冬崖(蠁蛆・d01647) の胸の裡に、闘志の炎を育んだ。
    「そうだ。俺達は、夜見。お前に、正々堂々と勝負を挑みに来た」
     レイジの言葉に、得心した様に頷く、夜見。
    「……なるほどな。貴様たちの立場からすれば、その行動はある意味当然か」
    「ああそうだね。ボク達は、不意打ちをやろうと思えばできた。でも、そうはしなかった」
    「ここより……広い所で……勝負したい……」
     レオンの言葉を引き取る様に、たどたどしいながらも、アリス・ドール(斬撃の人形姫・d32721)が告げる。
     ――……むずかしいこと……わからないけど……。
     強い側につき、弱い子を力でねじ伏せようとする、そんな風にも思える夜見に、精一杯の想いを籠めて。
    「……以前から思っていたが、お前たちは、矛盾の塊だな。自分達から勝負を仕掛けておきながら、その上で周囲の被害を減らしたい、と提案してくる」
     どこか遠くを見るような表情の夜見。
    「……あなたは、少なからず私達に因縁があるご様子ですね」
     問いかける様に囁きかける、桃香。
    「多くの同胞を死に追いやったお前達に、因縁がないと言うのもおかしな話であろう。お前たちが討ち取った者達の中には、私の友だった者もいるしな。……良かろう。安土城怪人へと、お前たちの首を手土産に持っていくのも悪くない話ではあるか」
     あの女の取り入り方と同じなのが少し気に食わないが、と1人呟く夜見。
    「それなら、うちらからの勝負、受けて貰えるということでええんやな?」
     荒吹・千鳥(患い風・d29636) の確認に、夜見は首肯した。
    「うむ。では……」
    「まあまあ、待ってくれ。こんなとこでごちゃごちゃやるのもなんだ、ちょいと広いとこに出ようぜ」
    「……駐車場……近くにあるから……」
     レイジが軽く外を親指で差し、ポソポソとアリスが呟くと、仕方ないな、と溜息を一つつく、夜見。
    「では、行くとしようか。お前たちの求める戦場に」
     ゆっくりと立ち上がり浴衣姿のまま、外に出ていく夜見の姿に、レイジ達は内心で安堵をつきつつ、駐車場へと向かった。


    「さあ、行くぞ!」
     楯無・聖羅(悪魔を狩る悪魔・d33961) の鋭い叫び。 
     それと同時に放たれるは、鋭い殺気。
     駐車場を常人には近づき難い殺気が覆う。
     浴衣姿の夜見が息を整え、直立不動の構えを取ると御盾崎・力生(ホワイトイージス・d04166) がそれに応じて構え、隣の冬崖に目配せを一つ。
     彼がそれに応じると、それまで、『静』の姿勢だった夜見が開眼し、凄まじい速さで接近、剛腕を振るう。
     対象は、レイジ。
     だが、夜見の腕が届くよりも先に力生が前に立ちはだかり、その剛腕を胸で受け止める。
     放たれた衝撃で、力生の服が吹き飛ぶが、同時に、夜見の着ていた浴衣も衝撃で吹き飛び、其の筋骨隆々とした肉体が露わになる。
    「来い。まだだ」
    「なるほど。多少は出来るようだな」
     鋭い眼光を光らせる夜見に頷く力生。
     夜見がその身を引き、闘気を力に変え、力生を狙う。
     冬崖が立ちはだかり、その攻撃を全身で受けた。
     胸に叩きつけられた無数の乱打に、揺るぎながらも楽しそうな笑み。
    「見てくれは飾りではないってことだな」
    「それは貴様も同じことであろう」
     放たれる闘気に混じった瘴気による頭痛を堪えながら、オーラキャノンで反撃する冬崖。
     撃ち出された光が、夜見を撃ち抜く。
     咄嗟に身を引いた夜見に、冬崖の背に庇われた力生が彼の背から飛び出し頭上を飛び越え、炎を纏った回し蹴り。
     鈍い衝撃が背中に走り、一瞬其方に意識を向けた夜見の目の前に、アリスが酷く緩やかに見える動作で接近し、刀を振るう。
     斬り払いか、と夜見が腕を上げた時、彼の胸に鋭い銀爪が突き刺さっていた。
    「む……」
    「本気の勝負……だから……アリスのすべてを……ぶつけるの……」
     そのまま猫の様にしなやかな動作で離脱したアリスを目で追う間に、赤く煌めく星を纏った膝蹴りを、レイジが叩き付けていた。
     腹部に入ったその一撃に僅かに衝撃を受ける夜見。
     すかさず、レオンがダイダロスベルトを射出。
     射出されたベルトが夜見の腕をきつく締めあげるが、軽く力を籠めるだけで、筋肉が膨張し、一瞬でダイダロスベルトが解かれる。
    「ああクッソ。やっぱり強いなぁ……」
     口では悔しがっているが、キラキラと目を輝かせる、レオン。
     まるで、楽しくて、嬉しくてしょうがない、という風に。
     ――それは、強者への憧憬故だろうか。
    「やっぱり、手強い相手みたいやな」
     千鳥が呟きながら殲術玉串『塞之神』の黄色の宝玉を掲げて前衛を強化。
     同時に、桃香とまっちゃが、其々、ラビリンスアーマーと浄霊眼で、力生と冬崖を癒そうとする。
     させぬ、とばかりに、夜見がまっちゃに襲い掛かろうとするが。
    「そううまく行くと思うなよ!」
     聖羅がデッドブラスター。
     撃ち出された毒の弾丸が、夜見の攻撃を遮った。
     仲間の攻撃の隙を埋めて来た聖羅に、夜見が笑みを浮かべる。
    「成程……。見事な連携だな。特に壁として立ちはだかるお前たちの姿は敬服に値する」
    「俺と冬崖君。俺達が、お前の攻撃を防ぐための肉の壁だ」
     桃香に癒された力生の言葉に、ワン、と抗議する様にまっちゃが吼える。
     まっちゃに力生は少しだけ笑い、毛並みを撫でた。
    「そうか。お前もいたな」
    「もっとこいよ、夜見。個々の力は弱ぇかも知れねぇけど、心意気は立派な男だってのを見せつけてやろうじゃねぇの」
    「フム。では、遠慮なく行かせて貰おう」
     苦痛を堪えながらの冬崖の笑みに、夜見は嬉しそうに笑い、再び構えを取り直した。


     ――4分。
    「……炎で……切り裂く……」
     苛烈な戦いの中で、アリスが木を軽やかに上り、斜め上から、足と刀に炎を宿し、矢の様な速さで刃を振るって襲撃。
     刀技と蹴技、2つが集約されて生み出された炎の軌跡が、夜見の胸板を大きく切り裂く。
     其れに合わせる様に、仲間達を庇い、傷を負っていたまっちゃが口に咥えた斬魔刀で斬りかかった。
    「ぬぅっ?!」
     まっちゃの刃が、腕に纏っていた黒曜石を破壊し、夜見の防御を崩す。
    「行くぞ!」
     猛る叫びを上げながら、聖羅が黒桜を夜見の足に向けて突き出した。
     放たれたその一撃が夜見の足を抉り、一瞬動きを止めた夜見に、千鳥が、黄泉比良坂交別神奈比で、黄泉の国に眠る魂たちを地上へと顕現させ、其れを砲弾にして撃ち出す。
     死者たちの魂の抱える、死したことへの嘆き、苦しみ、そして深い闇といった、『死の冷たさ』を奏でながら放たれた其れが、夜見の肩を凍てつかせた。
    「ふむ……だが、この程度でやれはせぬ!」
     凍傷と火傷による激しい痛みを意にも介さず、夜見がレイジに怒涛の様に殴り掛かる。
     だが、その前には冬崖が立ちはだかった。
    「やらせねぇよ!」
     焼けるような胸痛に苛まれつつ、体を張って強烈な拳を受け止める、冬崖だったが、痛みからか大きくよろける。
    「どうした! 背中ががら空きだぞ!」
     夜見の攻勢の隙をついて背後からその手に炎を纏った力生が一撃。
     素早く側面に体を向け、炎を帯びた拳を手で受け止めた夜見のガラ空きの胴に、レオンがボルトカッター状の巨大な鋏を夜見に深々と突き刺し、内側からその肉を抉り取る。
     血がレオンに注がれていくのを気に留めず、夜見はドン、と強く地面を踏みつけ、地響きを起こす。
     振動が、コンクリートの地面を隆起させ、レイジ達を巻き込み、飲み込まんと欲した。
    「ぐぅ……ウォォォォ!」
     振動が全身を苛む苦痛に響き、益々顔を顰めつつも、冬崖が腕を大きく引く。
    「ハァッ!」
     自らの腕が悲鳴を上げる程の負荷を掛けながら、ロケットハンマーを大振りし、夜見の胸に叩き付けた。
     胸に強烈な一撃を叩きつけられて一瞬呼吸を止め、踏鞴を踏む、夜見。
    「やっぱり、アンタ強いな! もっと楽しもうぜ!」
     隙を逃さず崩れかけたコンクリートの足場を踏み抜かんばかりの勢いでレイジが上空に飛び上り、マテリアルロッドを掲げる。
     収束された魔力がまるでコロナの様に巨大な炎弾を生み出し、マテリアルロッドを槍の様に突き出す。
     先端から放たれたコロナが、夜見の中央で大爆発を起こした。
    「ぐっ!」
     痛みに苛まれる夜見だったが、倒れる気配を見せずにその場に立ち止り、目の前のレオンに対して闘気を集中させ、無数の乱打を放ち、一気にその体力を奪おうとするが。
    「ワンッ!」
     レオンと夜見の間に、まっちゃが割り込んだ。 
     連続した打撃を叩きつけられ、ふらつきながらも辛うじて四股を踏ん張り立ち上がる、まっちゃ。
     まっちゃを打ち据えた闘気の余波がレオンの耳朶と頬を掠めていき、彼の頬からツッ……と一滴の血が滴る。
    「全力を尽くせるってのは、楽しいに決まってるよな!」
     笑いながらレオンが、魔祓いの薔薇十字を握りしめ、夜見の懐に飛び込む。
     そして、聖別された十字架で夜見に容赦のない猛攻を掛けた。
    「……切り裂く……」
     負傷から綻びを見せつつある夜見の死角に回り込み、アリスが日本刀を逆袈裟に振り抜き、夜見の脇から肩に掛けてを斬り上げる。
     脇腹から噴き出した大量の血液が地面に血溜まりを作り、それに僅かに足を滑らせるが、軽く足に力を籠めて転倒を防ぐ、夜見。
    「やっぱり、一筋縄ではいかない様ですね……」
     傷の深い力生をラビリンスアーマーで癒そうとする、桃香。
    「そうは……!」
     治癒されるよりも前に倒す覚悟で夜見が攻勢に出ようとするが、その時には既に聖羅が飛び出している。
     鬼神の如き猛攻で攻撃を相殺した聖羅に報いを浴びせようと肘鉄を叩き付けようとする、夜見。
     だが……。
    「それはやらせられへんなぁ」
     何時の間にか側面へと回り込んでいた千鳥が鳥之石楠を使用してのグラインドファイア。
     生み出された炎と共に放たれた蹴撃で、夜見を足止め。
     その間に後退した聖羅と共に、千鳥もまた、素早くその場を離脱。
     追撃の機会を失った夜見が笑う。
     傷は深くとも、目の眼光は決して衰えることなく、その笑みは肉食獣の如し。
    「お互い、意地の張り合いか。ならば、どちらが先に倒れるか、試させてもらおう」
    「そやな。まぁ、安心しぃ。ちゃんと、あんたの最期は、うちらが看取ってやるわ」
    「……その力……大きくなる前に……斬り裂く……」
     釣られる様に千鳥が笑い、アリスが静かな決意を込めて、呟いた。


     ――それから、更に10分後……。
    「まだだ! まだやられはしない!」
     己を鼓舞する様に声を張り上げ、烈火の如き炎を叩き付ける聖羅。
     蓄積に蓄積を重ねた炎の一撃が、既に傷だらけの夜見の全身を焼く。
     底なしか、と思える程の体力を持つ夜見の動きもまた、此処まで来ればかなり緩慢となっていた。
     だが、灼滅者達も限界が近い。
    「まだだ! まだこの程度では俺は倒せん!」
     力の限り咆哮し、夜見がまだ辛うじて動く右腕で、今、正に炎を帯びた回し蹴りを叩き付けようとしているレイジを襲う。
    「うおおおおっ!」
     渾身の力を籠めたレイジの蹴りに片腕を焼き尽くされながらも、左腕でレイジを殴り飛ばす、夜見。
    「ぐあっ!」
    「これで、終わりだ!」
     鞠の様に吹き飛ばされたレイジに止めを刺すべく練り上げた闘気を撃ち出す夜見だったが、間一髪まっちゃが間に合い、その攻撃を受けて地面に崩れ落ちる。
    「まっちゃ!」
     桃香が思わず声を上げるが、まっちゃは、桃香を見て頑張ったよ、と言う様に一声吼えてから消滅した。
     これ以上の回復は無駄と割り切り、桃香は回復を捨て、攻撃へと転じる。
     桃香の放ったダイダロスベルトに、締め上げられる夜見。
     その隙を見逃さず、アリスが猫の様に素早く走り、狼の如き速さで刀を翻した。
    「……最速で……斬り裂く……」
     目に見えぬ銀閃と共に、血飛沫をあげ、よろける夜見。
    「グ……ガァァ……」
    「……これで、どうだ!」
     力生が炎を纏った正拳突きを夜見の鳩尾に見舞った所に、更に千鳥が黙示録砲。
     『死の冷たさ』を感じさせる其れが夜見を撃ち抜き、夜見が大きく傾ぐが……。
    「まだだ! まだ……!」
     叫びながら、大きく拳を振り上げ、負傷しているレオンを狙う。
     だが……それには、冬崖が割って入った。
    「やらせねぇよ!」
     満身創痍で立っているのもやっとの冬崖が、最後の力を振り絞り、縛霊手でその攻撃を防御。
     だが、其れが限界だった。
     力負けして地面に倒れる冬崖を飛び越え、レオンが夜見の死角に踏みこむ。
     ――そして……。
    「……強かったぜ、アンタ」
     呟くと同時に。
     夜見の全身から、大量の血が溢れ……その巨体が崩れ落ちた。


     周囲を血の池に染め、全身の骨を砕かれた夜見。
     死は避けられぬ定めではあったが、彼には、ほんの少しの時間だけ、『生』を甘受する時間が残されていた。
     その夜見の傍に膝をつき、寄り添う様にする、千鳥。
    「……見事だ、お前達……」
     声にならない声で囁きかける夜見に、千鳥が小さく首肯する。
    「約束したやろ。あんたの最期を看取ってやるってなぁ。……なんか、言い残すことあるやろか?」
    「お前達なら、あの女を必ず……。大僧正様……生まれ変わったら……また、貴方に……」
     そう呟き、消えて行く夜見を見送る為に立ち上がり、粛々と祝詞を捧げる千鳥。
     その祝詞を耳にしながら、アリスはそっと空を見上げた。
    「闇堕ちした子……早く……帰ってきてね……」
     祈りの様なアリスの呟きは、風に乗って消えていった。

    作者:長野聖夜 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年10月21日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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