追跡者

    作者:立川司郎

     どれ位、闇の中を走っただろうか。
     浜辺から真っ直ぐ、西へ西へと走り続けてきた。後ろを振り返る事もなく、ただひたすら西へと。
     足も腕も傷だらけで、それは追っ手に付けられた傷なのか木々の枝で切ったものなのか、覚えて居ない。
    「……はぁ、はぁ……」
     荒い息を堪えて、八重は目を細めた。
     速度を緩めて、ゆっくりと振り返る。そこに見える深い闇の中に、まだ羽音が微かに聞こえていた。
    「あの……灼滅者達はどうなったんだろう」
     恐怖の中、ぼんやりと記憶が蘇る。彼らは仲間も多く、自分よりもっと余力があるように見えたから、きっと無事なのだろう。
     ふらりと再び足を進める。
     仲間は、無事だろうか。
     そしてあの方は……。
    「……っ!」
     気付くと、上空に影があった。
     小さな羽音に気を取られ、上に回り込まれた事に気付いていなかった。最後の力を振り絞って刀を振るうが、それはするりと羽虫の体をかすめて空を切った。
     3mもの巨大な羽虫型のベヘリタスが、彼女の体を掴みあげる。弱った彼女の体は、いとも易々と捕まえられて持ち上がった。
    「い、いやだ……離せっっ!」
     運ばれた先で、再びあの悪夢が始まるのだと考えた彼女は、身を震わせたのだった。
     
     彼女はいつものように、道場で一人瞑想していた。
     音もなく背後から近づいた中神・通(柔の道を歩む者・d09148)は、気付いていたように振り返った相良・隼人(大学生エクスブレイン・dn0022)に驚きもせずに声をかけた。
    「……あのアンブレイカブルの消息が分かったぞ」
     通が言っているのは、先日助けたアンブレイカブル『八重』の事であった。
     あの後、八重がどうなったのか気になった通は周辺の捜索を続けていた。
    「どうやら、西の方へと向かったらしい。日本海側を目指しているのは分かるが、泉ケ岳の麓で見失ってしまった」
     通から話を聞いた隼人が調べた所、どうやら近いうちにスキー場近くで羽虫型のベヘリタスと鉢合わせする事が分かった。
     すぐに隼人は、灼滅者達を招集した。しかし隼人は、険しい表情を浮かべている。
    「どうやら八重は、日本海側を目指して逃走しているようだな。業大老派のアンブレイカブル全体に何か起こっているのは、間違いなさそうだ」
    「今から間に合うか?」
     通の言葉は、助けに行きたいというように聞こえた。
    「間に合う。今からスキー場に行けば、駐車場近くで八重とベヘリタスくらいなら捕まえられるだろうさ。時間帯は夜だから、人も居ない」
     おそらく、到着して三〇分程で八重が、そしてそこからさらに一〇分ほどでベヘリタスが来るだろうと隼人は話す。
    「八重は連戦でかなり疲労しているから、おそらくベヘリタスの追撃を片付けるのは難しいだろう。放っておけば、すぐに捕まえられちまう」
     出現する羽虫型ベヘリタスは、3mほどに成長したものが一体。戦闘力もかなり高くなっており、一体とはいえ総力を挙げて戦う必要があるだろう。
     八重はベヘリタスが到着する頃までには片付く程、衰弱している。
    「ぼうっとしてると、八重はベヘリタスに連れて行かれて羽虫の苗床にされちまう。残酷なようだが、ベヘリタスを片付けられねぇと思ったら八重を片付ける方が最終的には良い。それに、アンブレイカブルが何か動きを見せているなら、放ってもおけねぇしな」
     と聞いて通が黙っていると、隼人は頭をかいた。
    「……とはいえ、お前達も一端助けた女を倒すってのは気が重いだろう。……いずれにしても、どちらか片付けて帰ってくればそれでかまわねぇ」
     彼女達がどこに向かっているのか、分からない。
     彼女を片付けて、ベヘリタスが来るまでに撤収するか。
     それともベヘリタスと八重が戦闘を開始して双方が消耗した後、ベヘリタスだけ、もしくは八重だけを片付けるか。
     八重が倒されるのを待って、ベヘリタスを片付けるか。
     いずれにしても、ベヘリタスが強力である為、連戦となると勝つのは厳しいだろう。
    「この羽虫型ベヘリタスからしても、相手側の戦力は相当強大になっていると見える。もはや放ってはおけんな」
     溜息まじりに隼人が言う。
     通は、アンブレイカブルの動きも気になっていた。彼らが、業大老をサルベージしようとしているという情報も耳にしていたからである。
    「八重は業大老に心酔しているようだった。ならば、彼女も業大老の元へと向かうんじゃないか?」
    「そうかもしれんな」
     隼人が頷く。
     彼女を助ける事で、業大老派とコンタクトが取れるかもしれない。そう、隼人も考えているようだ。
     しかし、ベヘリタス達がやっている事を考えると、気が重くなるのであった。


    参加者
    狐雅原・あきら(アポリアの贖罪者・d00502)
    レイ・アステネス(高校生シャドウハンター・d03162)
    煌・朔眞(秘密の眠り姫・d05509)
    中神・通(柔の道を歩む者・d09148)
    森沢・心太(二代目天魁星・d10363)
    柿崎・法子(それはよくあること・d17465)
    カリル・サイプレス(京都貴船のご当地少年・d17918)
    ソーマ・ノルンヴァール(恐れなき黎明・d35795)

    ■リプレイ

     しんと静まりかえった駐車場には、仲間の影しか見当たらなかった。
     スキー場の広い駐車場は、今はまだ人で溢れかえるには早い時期である。
     空気は少し肌寒く、レイ・アステネス(高校生シャドウハンター・d03162)は風を背にして夜空をじっと見上げていた。流れる雲に見え隠れする月が、青白く美しい光を落としていた。
     微かに聞こえるのは、煌・朔眞(秘密の眠り姫・d05509)の声だろうか……何か歌っているのか、躍るように朔眞が駐車場をふわりと歩いていた。
    「月灯りが綺麗で、良かったね」
     朔眞はヘッドライトを身につけており、月明かりが在れど灯りはあったほうが良さそうだ。
     そうだな、と短く答えてレイは月を見つめる。
     だが、そろそろ来る頃だろう。
    「話し合いが出来るのは一〇分ですよね。聞きたいことは、出来るだけ絞っていきましょう」
     カリル・サイプレス(京都貴船のご当地少年・d17918)は、事前に打ち合わせた事を思い返しながら、仲間にそうもう一度確認した。何があったのか、そして今後共に戦えるかどうかの2点が気になる部分である。
     段取りを頭に入れながら、カリルも周囲を見まわす。
     腰に手をやると、カリルが持ってきたライトがそこにあった。
     じっと同じように森の方を監視していた森沢・心太(二代目天魁星・d10363)と中神・通(柔の道を歩む者・d09148)であったが、心太が森を見通したように、すうっと手を伸ばした。
    「どうやら来たようですよ」
     夜闇の森の中、心太が指した方に通が目を凝らす。
     ああ、たしかに影がこちらに向かってやってくる。
     その影は、こちらに気付いて一端足を止めたが、しばらくしておそるおそる歩き出した。息も絶え絶えで、足取りはおぼつかない。
     レイ、心太、通は彼女と一度会っていた。
     その時よりも大分落ち着いているようだったが、レイは自分達の事を覚えて居るだろうかと、少し心配が胸にあった。
    「また会ったな」
     レイがそう声を掛けると、彼の顔を見た後八重ははっと気付いたのか、顔色を変えた。
    「ああ……君達は確か、海岸で助けてくれた」
    「覚えてくれていたか。どうやら縁があるようだな」
     通が言うと、八重はその場にへたり込んだ。
     縁がある、というより待ち伏せしていたのだろうとは八重も察しているだろう。その事について、八重は何も言わなかったからだ。
     通は自分から名乗って、挨拶をした。
    「俺達は武蔵坂学園の者だ。この間は挨拶も出来ないままだったからな、少し心配していたよ」
    「まずは治療をさせてもらいます」
     心太は話すと、仲間を振り返った。
     狐雅原・あきら(アポリアの贖罪者・d00502)がブラックフォーム、朔眞は予言者の瞳、心太はソーサルガーダー、ソーマ・ノルンヴァール(恐れなき黎明・d35795)がヴァンパイアミストを使って心霊手術をするつもりだった。
    「ボクはまだシャウトがあるから、ブラックフォームを潰しても構わないデス。でも、森沢サンは潰さない方がいいかもしれないデスね」
     あきらがそういうと、それならばと朔眞が代わった。
     朔眞が言うには、途中で離脱するかもしれないと聞いていた為、だったら後衛で心霊手術をしていた方が、ベヘリタスが来た場合も即座に対応出来る。
     そうして朔眞が心霊手術を始めると、心太が彼女の傍に来て声をかけた。
     幾つか彼女には、聞きたいことがあった。
    「答えられるだけでいいので、答えていただけませんか?」
    「……かまわない」
     こくりと八重が頷くと、あきらが周囲に視線を投げかけながら、駐車場のアスファルトに横になったままの八重に声をかけた。

     まず、聞きたいのは今回の件についてであった。
    「今回の件にはタカトが関わっていると思われていマス。タカトについて、何か知っている事はないデスか?」
    「私はシン・ライリーの配下だったから、それ以外の事はよく知らない」
     彼女の返事を聞いた柿崎・法子(それはよくあること・d17465)は何か考えているようだったが、慎重に話を続けてきた。
    「それでは、シン・ライリーについては覚えて居るんだね?」
     法子が加えて聞くと、八重は首をかしげた。
     ラブリンスターについての情報はまだ未確認だが、絆を奪われた事により記憶がなくなるのではないかと推測されている。
     少なくとも八重は業大老の事は覚えて居るようだったし、シン・ライリーについても知っている。
     法子は他にも業大老やラブリンスターについても触れたが、そもそもラブリンスターについては知らないようだ。
    「どうして西に向かっていたのか、聞いてもいいですか?」
     朔眞が聞くと、八重は黙り込んだ。
     分からないのだ。
     何故かは分からないが、西に導かれているのだ。
    「……ただ、あのお方が呼んでいる気がした」
     カリルは皆と視線を合わせると、八重にここまでの状況について話す事にした。
    「実は、業大老は軍艦島に拠点を置くダークネスの勢力が救出に当たっているという情報を得ています」
     驚いて声を上げた八重を制止して、カリルはおちついた声で話を続けた。
    「シン・ライリーさんは以前よりアンブレイカブル達を強引な手で配下に引き込んでいましたが、ここ最近動きがありません。彼の配下が優先してベヘリタスに狙われている以上、シン・ライリーさんもどうなっているか分かりませんし」
    「いったい、どこで何があった。…覚えて居るか?」
     レイは、それがシン・ライリーとも関わるかもしれないと言った。八重は思いだそうとしているようだったが、ベヘリタスに突然襲われた以外の記憶はおぼろであった。
     襲われた場所も、植え付けられた場所もバラバラであったとも考えられる。
     思いだして身を震わせる八重の肩にそっと手をやり、レイは声を掛けた落ち着けようとした。
    「思い出したくない事を聞いたようだな。すまない」
    「襲われたのはあなただけなんでしょうか? まとめ役だった恭二さんとかは、今どうしているか知っていますか」
     続けて心太が聞くと、八重は首を振った。
     だが、いずれにしても恭二は元々シン・ライリーの配下ではなく、業大老の代わりとして上に着いたシン・ライリーに従っているだけだという様子だった事を思い出す。
    「シン・ライリーも軍艦島を探しているという事か? それに軍艦島の連中自体が信用出来るものかどうか……」
     ぽつりと通が言うと、心太も肩をすくめた。
     彼らの情勢にくわしくないソーマは二人の会話に耳を向けていたが、アンブレイカブル達が軍艦島に向かうというなら、それは無視出来ないだろうと考える。
     心霊手術のお陰で、八重は大分落ち着いてきていた。
    「その調子なら、もう立てそうだね」
     ソーマが様子を伺うように聞くと、八重は気恥ずかしそうにしながら体を起こした。もう時間がない事は、仲間の様子からもソーマは察していた。
     配置に付きながら、立ち上がった朔眞が八重を後ろに庇う。
    「すぐに来ます。仲間の所に行くつもりなら、後ろの方にいてください」
    「だがもし戦えるようなら、手を貸してくれると助かる」
     ソーマがそう訪ねると、八重は自分の刀を手元に寄せた。
     むろん、戦えると彼女の表情が物語っていた。

     突如、茂った森の闇の中から大きな影が飛び出してきた。
     それは羽根を羽ばたかせながら、巨体で木々の間を器用に飛び抜けて真っ直ぐにこちらに飛びかかってくる。
     丁度心霊手術が終わった所で、傍にいた朔眞と法子が八重を後ろに庇った。法子はテーピングを空に放ち、幾重にも八重の体を巻き上げる。
     きっちりと体をテープで巻き上げると、目を細めた。
    「大丈夫、キミを無事に逃がしてあげるよ」
     法子は言い聞かせるように言った。
     突っ込んできたベヘリタスは、唸り声を上げる愛犬ヴァレンとカリル、そして通が背後に回り込む。
     ベヘリタスの巨体は、ヴァレンだけで押しとどめるにはあまりに大きい。
    「……っ、とにかく前衛維持だけを優先します」
     カリルがベヘリタスの突撃を堪えながら、呟く。
     通は羽根を掴もうとするが、鋭い羽根が通の腕を切り裂いた。つかみ所のない巨体と、あまり戦う事のない異様な風体に、通も戸惑う。
    「この間までは、あんなに小さかったんだがな」
     甥や姪に言うなら可愛らしいが、これは全く可愛らしくない。戦うとなればベヘリタスの風体も受け入れられるが、あまり笑えない状況だとレイはしげしげベヘリタスを見つめる。
    「3mか……これ以上大きくならなければいいが」
     そう願いつつ、レイは通やカリルに向けてイエローサインを放った。
     黄色いライトが、彼らに注意を促す。
     サインはレイの言葉と混じり、どこか注意と警戒心を前衛にもたらした。
    「今でも十分強そうなのに、これ以上大きくなって量産されては困りますよ」
     心太はそう言葉を返すと、あきらと視線を合わせた。
     ベヘリタスの懐に飛び込み、心太が腕を異形化させて振り下ろす。
     唸りをあげて振り下ろされる腕と、同時にあきらが放ったガトリングガンが腹部に炸裂した。掃射された弾丸と拳が、ベヘリタスの体を引き裂き炎で包む。
     燃え上がるベヘリタスの体は、チリチリと火花を上げた。しかし、怯む事も動きが鈍る事もなく、ベヘリタスは傍の心太に喰らいかかった。
    「離れろ!」
     通が押し退け、ベヘリタスの牙を受ける。
     牙の力は強く、腕が引き裂かれそうな激痛が襲った。喰らい付いたままのベヘリタスに、横合いからあきらが槍で貫く。
     けらけらと笑いながら、更に槍を抉るように押し込んだ。
    「いつまで歯を立ててるんですか、蟲野郎サン! 余所見してないで、ちゃあんと避けないと駄目じゃないですかぁ」
     煽るようにあきらは言うと、槍を構えた。
     ベヘリタスの攻撃を押しとどめようとする通であったが、あきらは前に前にと飛び出していって縦横無尽に攻撃を繰り出した。
     もはや、あきらを後ろに庇うのは無理そうだ。
     通がちらりと振り返ると、朔眞が縛霊手から霊糸を放った。蹴りで押し戻そうとしたが、ベヘリタスの動きは速く捕らえるのが難しい。
    「……朔眞の力は、ベヘリタスの力と同じ。朔眞が得意なものは、ベヘリタスも得意……なんですよね」
     力を使い分けながら、朔眞は思案する。
     それでも、足止めを計らなければ案外ベヘリタスの攻撃力は強く、3人で止めるのがやっとであろう。
     すると、横合いから八重が飛び出した。
     脇に構えた刃を、抜きながら冗談から一気に振り下ろす。鋭い一撃は、上段から断頭台の刃のようにベヘリタスを切り裂いた。
     きぃん、と乾いた音とともにベヘリタスの牙が欠ける。
    「せめて一太刀、浴びせてやらねば気が済まない……からな!」
     ようやく安堵したのか、薄く笑みを浮かべて八重が言った。

     牙を欠かしたベヘリタスに、ソーマがバスターライフルを構える。狙いを定めた一撃は、わずかにベヘリタスの体を掠めて後方に消える。
     大鎌に持ち替えつつ、ソーマは八重を振り返った。
    「行くなら今だ」
     カリルは巨大なモノリスを振り回しながら踏み込み、八重の前に立った。
    「八重さんがすべきなのは、一刻も早くこの場を離脱する事。そして、僕がなすべき事はベヘリタスさんと戦う事です!」
     カリルに先立ち喰らい付いたヴァレンに続き、カリルがモノリスを振り回してベヘリタスを圧倒する。
     一歩下がった八重に、カリルが話す。
    「そして出来るなら、ベヘリタスと今後戦う時に共闘させてください。……既に他の勢力も攻撃を受けていて……っ!」
     話を続けていたカリルに、ベヘリタスが漆黒の弾丸を放って打ち込んだ。
     じわりと体を蝕む毒の感触に、カリルが唇を噛む。気付いた法子が、クルセイドソードを掲げて意識を集中させる。
     祝福は風に乗り、カリルの傷を浄化していく。
    「ベヘリタスに狙われているのは、キミ達だけじゃないんだよ」
     ラブリンスターも、既に……。
     むろん、ラブリンスターの事は彼らにとって眼中にはないのかもしれないが、無関係でもない事件である。
     法子は通の方に視線を向けると、再び剣を手に取った。
     既に、法子の意識は八重にはない。後は、一刻も早くこのベヘリタスを片付けてしまわねばならないからだった。
     以前より遙に、力が強まっている。
     通とカリルの傷は深く、前に飛び出したあきらもまた自らの血で濡れていた。
    「じっとしていてね、今テープを巻くから」
     法子が通の腕にテープを巻いていくと、手当を受けながら通が八重に何かを差しだした。それは、通自身の連絡先が書かれていた。
    「俺達はソウルボードで戦う事も出来る……もし奴等に反撃するつもりなら、一枚噛む事も出来るかもな」
    「…分かった」
     こくりと八重が頷くと、レイとあきらも念の為にと連絡をするように八重へ言った。
     連絡があれば、出来るだけ助けよう。
     レイは重ねてそう言うと、踵を返した八重を見送った。
     正面を向き直ったレイの瞳に、心太の蹴りとあきらのガトリングが巻き上げた炎が写る。明々と燃える炎は、鮮やかに空を彩った。
     最後尾のソーマが、八重の無事を見送るように振り返って確認する。
     やがてセイバーを構えてソーマが踏み出したのは、八重は無事に行ってしまったという事だろう。
    「さて、後はベヘリタスだけだな」
    「足止めをしますから、その間にお願いします」
     カリルがモノリスを構え、仲間に声を掛ける。
     意志を汲み取り、同時に朔眞が仕掛けた。
     飛び込んだカリルと朔眞の攻撃が、ベヘリタスを地面に叩きつける。ずしんと地面に落ちた巨体に、更に上からソーマのセイバーが振り下ろされる。
     巨体に食い込んだ刃は、ベヘリタスの体をざっくりと切り裂いた。
     羽ばたきながらもがくベヘリタスを、朔眞が見下ろす。
     -…大丈夫、次はいい夢を見られるわ-

     その後隠された森の小径を使って近くを法子があきら達数人で見て回ったが、ベヘリタスが残って居る様子もなかったという。
    「もう残党はいないようだね」
     カリルはぺたりと座り込んだヴァレンの背を撫でながら、労っている。
    「じゃあ、無事に行った?」
     朔眞が聞くと、ソーマは彼女が消えた方を思い返すように振り返った。
     アンブレイカブルとの戦いに関しては、今まで様々ないきさつがあったとはソーマも聞いている。だが、彼らも武人であるのだ。
     恩を仇で返したりはしない、と信じたかった。
    「さて、これから業大老達から連絡は来るデショウか?」
     あきらが視線を上げると、座って息を整えていた通がふと笑った。
     さあな、と通は息をつきながら答える。
    「やるべき事はやった。……だが、反撃するつもりで集結しているんだろうと俺は考えている」
    「シン・ライリーの配下のうち、どの程度脱出したのかが気になりますね」
     心太は八重の言葉を思い返しながら、言った。
     逃げきれなかった者は、恐らく……。と、レイはあのベヘリタスを想像して言葉を飲み込んだ。

    作者:立川司郎 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年10月22日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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