孵った虫は逃走を許さず

    作者:緋月シン


     山中の奥深くを、一人の男が駆けていた。
     否、時折後方を振り返りつつ、必死になって走っている様は、逃げているといった方が正しいだろう。
     そして事実、それはその通りであった。
     死にかけた……いや、実際あのままであれば間違いなく死んでいただろうアレから、既に数日。それだけの期間逃げ続けていたが、未だに安心することは出来ない。
     だがこの先に辿り着くことさえ出来れば――。
    「……っ!?」
     しかし、その願いが潰えた事は、視界の端に映ったそれが示していた。
    「ベヘリタス……くそっ、ここまで来て……!?」
     あの禍々しい姿を、見間違えるわけがない。
     どうやら一匹しかいないようだが、それは慰めにもならないだろう。遠目からでも、それが十分に成長しているのは分かる。こちらの体調が万全ならばともかく、今の状態ではどう考えても勝ち目はなかった。
     かと言って既に補足されてしまった以上は、逃げられるわけもなく……。
    「これ以上は無理、か……だが、せめて……!」
     一矢報いようとするが、それすらも虚しく、呆気ないほど簡単に打ち倒される。
     気を失ったそれの身体を虫が捕らえ、そのままやってきた方向へと飛び去っていくのであった。


    「さて、早速だけれど、アンブレイカブルにベヘリタスの卵が植え付けられて羽化する、という事件が最近発生していたのは覚えているわよね?」
     四条・鏡華(中学生エクスブレイン・dn0110)はそう言って一旦皆の反応を確認した後で、話を続けた。
     そこに介入した結果、生きて逃走することに成功したアンブレイカブルが出てきたわけだが、四津辺・捨六(伏魔・d05578)達の追跡により、その後の状況を知ることができたのである。
    「今のところ、逃走したアンブレイカブルは、日本海の北側に向けて山中を移動しているようね」
     ただ、そこで何か問題を起こした、というわけではなく、そのアンブレイカブルは羽虫型のベヘリタスに追跡されており、襲撃されてしまうのだ。
     このまま放置すれば、そのアンブレイカブルはベヘリタスに倒されてしまい、そのまま連れ去られてしまうだろう。
     そうなれば、再びベヘリタスの卵の苗床にされてしまうと思われる。
    「ダークネス同士の争いだから、一般人への被害などは今のところないけれど、ベヘリタスの動きを放置する事も出来ないわ。それにアンブレイカブルに関しても、放置しておくべきかは微妙なところね……」
     何せアンブレイカブルの向かっている先は、日本海の北側。現在軍艦島が存在していると思われる場所だ。
    「そのアンブレイカブルの師は業大老だったみたいだし、その業大老を軍艦島のダークネス達がサルベージしようとしているという情報もあることを考えれば、何か関係があるのかもしれないわ」
     そこに合流するというのならば、その前にそちらも灼滅してしまう、というのも一つの手だろう。
    「今回はアンブレイカブルとベヘリタスが接触する場所に先回りする事も出来るから、正直一番楽なのはそれでもあるのよね」
     アンブレイカブルは消耗しているため、戦闘自体は楽に勝てるだろうし、その場合、ベヘリタスが現れることはない。
     当然ベヘリタスを倒すことは出来ないが、アンブレイカブルを灼滅し、且つ卵を植え付けられるのも阻止出来ることを考えれば、戦果は十分だろう。
    「ベヘリタスを倒そうとするならば、アンブレイカブルと戦い始めるのを待ってから、そこに介入する必要があるわね。ただ、その場合だと、アンブレイカブルは戦闘を離脱して逃走してしまうわ」
     消耗していることもあって、共闘などをすることは不可能だろう。ただし、伝言を頼んだり、声を掛けたりすることは可能かもしれない。
    「あとは、ベヘリタスがアンブレイカブルを倒してから、介入する、という手もあるわね」
     或いは、その前にこちらでアンブレイカブルを倒し、そのままベヘリタスと戦う、という手もある。
    「まあ、どの手段を取るかは任せるわ」
     ベヘリタスは形こそ今までの羽虫型のそれと同じだが、その大きさが3m弱にまで成長しており、戦闘能力もかなり強力になっている。現れるのは一体のみで、配下なども連れてはいないが、油断出来る相手ではないだろう。
     対するアンブレイカブルは消耗していることもあり、戦闘能力はかなり低い。倒そうとするならば、かなり楽に倒すことが出来るだろう。
    「成長したベヘリタスを見る限り、ベヘリタス勢力の戦力はかなり強大になっていると思われるわ。……何か嫌な予感もするし、出来るだけここで戦力を削いでおきたいところね」
     鏡華はそう言って、話を締めくくるのであった。


    参加者
    犬神・沙夜(ラビリンスドール【妖殺鬼録】・d01889)
    海川・凛音(小さな鍵・d14050)
    花衆・七音(デモンズソード・d23621)
    足利・命刻(ツギハギグラトニー・d24101)
    神之遊・水海(秋風秋月うなぎパイ・d25147)
    比良坂・柩(がしゃどくろ・d27049)
    白石・明日香(リア充宣伝担当幹部・d31470)
    日下部・颯太(小学生七不思議使い・d33731)

    ■リプレイ


     ふと見上げた空には、青空が広がっていた。周囲には太陽の光が降り注ぎ、吹き抜ける風に木々がざわめく。穏やかで気持ちのいい日和であったが、生憎と今日はピクニックに来たのではない。
     未だそこに何の姿もないことを確認した後で、視線を下ろす。アンブレイカブルの方も、まだ来てはいないようだった。
     それでも、そう遠くない内にその姿を現すことだろう。周囲を見渡せば、仲間の皆も身を潜め隠れつつも、その時に備え身構えている。
     とはいえそのほとんどは、別にアンブレイカブルを助けよう、などと思っているわけでもないだろう。
     海川・凛音(小さな鍵・d14050)もまた、その一人だ。救ってあげたい、などという気持ちも特になく――。
    (「でも、ベヘリタスに対抗するために、あるいは今後の学園のために共闘……あるいは情報収集だけでもしておきたいところです」)
     そのために、この場は助ける。それだけであった。
     と、皆の身が僅かに固くなったのは、その時である。耳に届いたのは、土を踏み締め、駆ける音と、荒い呼吸音。
     凛音もその方向へと視線を向け、直後に現れたのは、件のアンブレイカブルだ。
     だがそこでその足が止まり、後方に振り返る。叫びながら構え、上空より一匹の虫が強襲し――瞬間、そのさらに上方より飛来した拳が、その身体を地面に叩き付けた。
    「武蔵坂推参なの!」
     神之遊・水海(秋風秋月うなぎパイ・d25147)である。
     その言葉と姿に、僅かに覚えのあるアンブレイカブルは咄嗟に身構えるが、水海は最初からそちらを見てすらいない。そんな場合ではないのだ。
     数十匹に取り囲まれ、フルボッコにされた先日の記憶は未だ真新しい。その時に感じた悔しさも、だ。
     そのお礼参りが早くも出来るというのだから、こちらの方が余程重要である。千切っては投げ捨ててやるというその意気込みのままに、再度拳を叩き込んだ。
     そんな光景を、身構えたままのアンブレイカブルは、困惑のままに眺めていた。状況が分からないというか、咄嗟にどうすべきかを迷っている、という感じである。
     とっとと逃げてしまうのが一番ではあるのだが、背中を向けたところを襲撃されてしまったら堪らないし――。
    「うちらの目的はこのベヘリタスや。逃げるなら今の内やで」
     そこに、ベヘリタスの背後から奇襲を仕掛けながら、花衆・七音(デモンズソード・d23621)が声を掛けた。
     ベヘリタスをその場から引き離し――。
    「今はあなたと敵対するつもりはありません。無事なうちに早く戦場から離れてください。これは私達がなんとかします」
     その間に凛音が割り込み、さらにベヘリタスへと飛び込んだ影が一つ。
    「ちょいと、オレと遊ぼうぜ。ベヘ虫!」
     白石・明日香(リア充宣伝担当幹部・d31470)である。
     飛び込んだ勢いそのままに、その手に握った一振りの刀――不死者殺しクルースニクを振り下ろした。
     それでもアンブレイカブルはまだ何処か迷っている様子ではあったが、そこに一通の手紙が差し出される。
     足利・命刻(ツギハギグラトニー・d24101)だ。
     ベヘリタスを牽制しつつ――。
    「アレらが厄介なんは、今更言わんでも分かるやろ? そのための、ベヘリタスに対抗する為の提案や。伝言が書かれとる。軍艦島に無事辿り着けたら……そうやね、誰でもいいから、適切だと思う相手に渡しといてや」
     瞬間、僅かな隙を突き、ベヘリタスがアンブレイカブルへと飛び掛った。
     手紙に手が伸びかけていたアンブレイカブルはそれにまったく反応できず――だがその寸前で、異形巨大化した腕が叩き込まれる。
    「随分と虫に好かれているんだね、キミは。助けてあげるよ、正義の味方なんて柄じゃないけど」
     比良坂・柩(がしゃどくろ・d27049)だ。
     それでもベヘリタスは諦めていないのか、空中で体勢を整えると再度突撃の構えを見せ――巻き付いた鋼糸が、その動きを封じた。
     犬神・沙夜(ラビリンスドール【妖殺鬼録】・d01889)である。
     正直沙夜としては、アンブレイカブルがどうなろうと知った事では無いし、相手もこちらの都合などどうでもいいだろう。
     所詮お互いそういった立場であり――。
    「まあ……死にたくなければ走れ」
    「今は逃げなよ。喰い止めててあげるからさ。僕達も手を焼いてたからね、この虫。……まぁ、精々気を付けてね」
     日下部・颯太(小学生七不思議使い・d33731)もまた、その間に立ち、言葉を投げかける。
    「ああ、ただ、行く前に名前くらい教えてくれても罰は当らないんじゃないかな。こうしてまた会ったのも何かの縁というものだろう?」
     付け加えるように、柩がさらに言葉を放ち……何かを諦めたかのように、アンブレイカブルは溜息を吐き出した。
    「……豪真だ。この前会ったやつもいるようだが、礼は言わん。だが……代わりと言っては何だが、これは確かに届けよう」
     言って、手紙を受け取り、背を向ける。
    「あ、最後にいっこだけ教えて。シン・ライリーって、知ってる?」
     そこに命刻が質問を投げたが、豪真は顔だけで振り返ると首を傾げた。
    「知ってるが……それがどうした?」
    「あ、ううん。そか、おおきに」
     お礼を返しながら、命刻はラブリンスターの件から考えるに、シン・ライリーの事を忘れていれば、彼もまたタカトに絆を奪われた証左となるのではないかと考えたのだが、違っていたのだろうかと首を捻る。
     だがどちらかといえば、これは質問が悪かった、と言うべきだろう。
     例え絆を奪われていたとしても、その後に会っているのならば知っていて当然だからだ。
     しかし何にせよそれ以上の質問をしている暇はなく、顔を前に向けるとそのまま去ってしまった。
    「あ」
     タカトやシン・ライリーの所在や目的を尋ねようとしていた柩が手を伸ばしかけるも、少し考え、止める。虫に食い殺されかけていた……否、その予定だったことを考えれば、そんなことを知る由もない下っ端だろうと考え直したからだ。
     追跡するのを阻止するため、ベヘリタスへと向き直り――その隣で、颯太がちらりと後ろを振り返ると、小さく息を吐き出した。
    (「あのアンブレイカブルには……別に友情とか思い入れは無い、けど。一度助けといて今度は都合が悪いからって灼滅するのは、抵抗が無いって言えば嘘になる」)
     今回の依頼の話を聞いた時、颯太は一度助けた者を灼滅する選択肢があった事に若干の戸惑いを覚えていたのである。例え相手が特に思い入れのないダークネスであろうとも、だ。
     だから逃がす方針になった事には心底安堵していたし――。
    (「……自分にとって最善の結果を出すために」)
     ここで負けるわけにはいかないと、その手に握った黄色標識を、味方に向けて振るう。
    「さあて、本番はこっからや! お待たせ、ベヘリタス!」
     同じように、命刻もまた黄色標識を振るいつつ、豪真へと向かわせぬよう立ち塞がる。
    「足利流威療術、臨床開始!」
     既に戦闘を始めていた皆に続くように、飛び出した。


     未だ豪真は逃げ切れたとは言えないが、皆が戦闘に入った以上は目の前のそれをこの場から逃がすことはないだろう。
     つまりは、先に命刻も言ったように、ここからが本番である。
     勿論先ほどまでも手を抜いていたわけではないが――。
    「さぁて、前はよってかたってボコボコにしてくれたから、しっかりお礼しちゃわないとね~」
     ベヘリタスより伸ばされた触手を叩き落しながら、水海は目を爛々と輝かせていた。
     ここから先は、本当の意味で遠慮をする必要がない。
     で、あるならば、前回のリベンジに燃えている水海が、張り切らないわけがないだろう。
     とはいえ、ベヘリタスが放ってくる触手は厄介だ。何せその数が多く、一本一本が重い。なるほど以前より強力になっているというのは確かなのだろう。
     だが、それだけである。どれだけ強力になったところで、所詮は単体。前回の脅威には程遠い。
     もっとも。仮に前回と同じ脅威だったとしても、今の水海を止めるには足りていなかっただろうが。
    「ちぇりゃー!」
     オーラを纏った拳で触手を殴りながら前に進み、また触手を殴る。回避とか何それおいしいの、という感じだが、何の問題もないし――そもそも、そこの虫の目は二つしかないのだ。
    「少しは成長したみたいだけど、所詮は虫だね」
     瞬間背後からその羽に振り下ろされたのは、非物質化した剣。それは一切の外傷を与えずに通り過ぎたが、ダメージを与えなかったというわけではない。
    「こそこそせず、わざわざ潰されに来てくれるのなら、余計な手間も省けるというもの。キミがこの間の羽虫かどうかはわからないけれど、大人しくボクが癒しを得るための糧となってくれたまえ」
     柩の与えた霊的な痛みに反射的に振り返り、だがそれはつまり、正面から意識を外したということだ。
    「隙だらけなの! せいやっ!」
     当たり前のようにそれを逃さず、放たれた風の刃がその身を斬り裂く。
     だが絶叫する暇もなく、迫ったのは緋色のオーラを宿した刃。振り抜いた明日香のそれが続いて斬り裂き――飛び退いた直後、轟音と共に地面が抉られた。
     蠢く触手は、その心境を表してのものか。一瞬、豪真の去った方向へとその視線が向けられ――。
    「こっちや!」
     しかしそれは許さない。飛び込んだのは、黒い魔剣と化した七音だ。
    (「ベヘリタス、いやベヘリタスの落とし子か。意図が見えんから益々不気味やけど、何かされる前に企みはぶっ潰させて貰うで!」)
     その姿を眺めながら思い、その身に影を宿し――。
    「目的聞いても話さへんのやろ? だったら、とっとと灼滅させて貰うで!」
     殴り飛ばした。
     触手が伸ばされるも、即座に引き、代わるように命刻が踏み込む。
    「こんなんに追い回されたらサブイボ出るわー」
     そんなことを嘯きながら、宿した炎で触手を焼き尽くし、さらに一歩。
     ――しつこい羽虫は叩くに限る、ってね!
     そのままぶち込んだ。
     しかしそれで頭に来たのか、ベヘリタスが周囲へと出鱈目に触手を叩き込み始め、さすがにそれをかわすことは出来ない。
     命刻の身体に触手が迫り――だがそれが届くことはなかった。
     割り込んだ凛音がそれを代わりに受け、だが即座に颯太が指先に集めた霊力を撃ち出す。
     そこにさらに触手が放たれるも、今度は誰に届くこともなく途中で弾き飛ばされた。
     その場に響く沙夜の歌声が、続いてベヘリタスをも震わせ、その動きを僅かに止める。
     その隙を逃さず、癒された傷に凛音は視線だけで礼を述べながら、構えた盾で殴り飛ばした。


     傷だらけで暴れまわるベヘリタスを眺めながら、沙夜はその思考を回していた。
    (「面白いのは類稀な追跡能力を持つベヘリタスか。バベルの鎖もあるでしょうが、それすらも意に介さない」)
     一旦は逃げ延びたであろう相手を、どうやって正確に追跡することが出来たのか。しかもそれだけではなく、バベルの鎖があるにも関わらず、楽々と捉えることを可能にしている。
     それはベヘリタス単独の能力によるものなのか、或いはあのアンブレイカブルとの間に何かがあるのか――。
    (「この両者に何が成り立っているのか……興味が尽きませんが、問うた所で無駄でしょう」)
     それは、二重の意味で、だ。
     聞いたところで話すとは思えないし、そもそも話せるとも思えない。
     まあ、何はともあれ。
    「しかし、このクソ虫ブンブンが。さっさと死ね」
     これ以上情報を得られないのであれば、用はない。
     影を宿した拳で、殴り飛ばした。
     さらにベヘリタスが暴れ、触手を振り回しだすが、見続けていればいい加減慣れる。寸前で避け、その隙に踏み込んでいた影が一つ。
     命刻だ。その斬撃は的確にそれの急所を切断し、僅かによろめいたところに、凛音が地を蹴る。
     その勢いを殺さないままに、宙に軌跡を描くのは一条の焔。炎を纏った足がぶち込まれ――だが直後に再度蹴り、その反動で飛び去った瞬間、その周囲を丸ごと闇が包み込んだ。
     それはベヘリタスが発生させたものであり――しかしそこに迫ったのは、闇が滴り落ちる黒い魔剣。七音が通り過ぎた後に残された白は、闇ごとベヘリタスを斬り裂き、刹那の間も空かずにその懐にあったのは颯太の姿。
     半獣化させた己の腕で薙ぎ払い、鋭い銀爪がその身を引き裂く。
     それによってベヘリタスが倒れかけ、だがまだ早いとばかりに、その方向からの衝撃に貫かれる。
     柩だ。
     さらにそこで終わりでもなく、流し込まれた魔力が、直後に爆ぜた。
     そして訪れる死は、上空より。振り下ろされた断罪の刃――咎人の大鎌・絶命を、明日香が振り抜き、再度倒れ掛かったところを、水海が掴む。
     ミシリという、何かが軋むような音が響いたのは、その手の先、それの頭部からだ。
     開かれた口は、絶叫を放つためであったのか。或いは、別の何かであったのか。
     だが関係なく――そのまま、握り潰した。
     さらに持ち上げると、半回転。思い切り腕を振り下ろし、地面に叩き付けた。
     轟音と共に地面が爆ぜ、その衝撃の全てを受けた身が痙攣し、数度跳ねる。
     やがてそれも収まると、周囲にはただ静けさだけが残った。
     空は変わらず蒼く、風は穏やかに過ぎ去る。
     誰かが吐き出した安堵の息が、戦闘終結の合図となるのであった。

     腕を引き抜くと共に、沙夜は小さく息を吐き出した。
     何か目ぼしいものでもないかとベヘリタスの死体に手を突っ込んでみたのだが、何も見つからなかったのである。
     もっとも最初から期待はしていないので、特に落胆などはしていない。
     そしてそのタイミングで、まるで見計らったかの如く、ベヘリタスの死体が端から崩れ、消えていった。
     後には何も残らず、戦闘の痕跡だけが、その場に残る全てである。
    「さて、あのアンブレイカブルはどう動くかな?」
     明日香が、豪真が逃げていった方角を眺めながら呟くが、果たしてそれを知ることの出来る機会はいつになるやら、というところだろう。
     そもそも知ることが出来るのかも分からないが……まあ、運がよければすぐにでも知ることが出来るのかもしれない。
     凛音の方を見てみれば、今から駆け出そうとしているところであった。
     どうやら合流を狙い、追いかけるつもりらしい。
     合流できる保障などは欠片もないが、試すのは無しか有りかで言えば、まあギリギリ有りだろう。
     問題があるとするならば、それに付き合う必要があるのかということだが……依頼は皆で家に帰るまでが依頼である。
     見上げた空は、やはり何の変わりもない。吐き出された溜息が吸い込まれていき、だが何が起こるでもなく、ただ消えていくのであった。

    作者:緋月シン 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年10月17日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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