巨虫飛来

    作者:天木一

    「うーん、どうかな~似合う?」
    「もちろん! メイちゃんに最高に似合ってるよ!」
     ブティックでは派手な見た目の女性が次々と服を試着しては購入予定の服を重ねていく。
    「じゃあじゃあこっちはどう?」
    「まるで妖精のようだよっメイちゃんは何を着ても似合うね!」
     女性がモデルのようなプロポーションの体を惜しげもなく見せつけるようにポーズを取ると、連れの男が目を輝かせて褒める。その姿は他人でも思わず目を惹かれるものがった。
    「ふふっありがと、じゃあこれ全部買ってくれる?」
    「もちろんさ! これくらいいくらでも買ってあげるよ!」
     女がおねだりすると、男は胸を叩いてカードを取り出した。
    「これで支払いを」
     男がレジに向かっている間に、女はスケジュール帳を眺める。
    「ふふ、この後は誰とデートだったかな~。あ、それと定時報告しなくっちゃ、あれ、誰に報告するんだっけ?」
     その人物を思い出せずに首を傾げた時だった、店の入り口から羽虫か飛んでくる。それは黒く塗りつぶされたような色に赤い線が走る巨大な虫。見たこともない奇妙な生き物だった。だが何よりおかしいのはその大きさ、3mはある巨大な虫だったのだ。
     羽音に気付いた女が振り向く。だが時既に遅く目の前に巨大羽虫は飛来していた。
    「きゃっ……」
     悲鳴を上げるよりも速く羽虫は糸のようなものを伸ばして女の顔にへばりつき、そのまま圧し掛かるようにして羽虫が押し倒すと、女の体を糸で繭のように拘束する。そのまま持ち上げると、店の外へと消えていった。
    「買ってきたよーって、あれ? メイちゃん?」
     男が買い物袋を提げて戻った頃には、跡形も無く女の姿は消えていた。
     
    「大変な事件が起きたよ、『宇宙服の少年』が、都内で路上ハグ会を開いていたラブリンスターを襲撃して、絆を奪ってそのまま連れ去ってしまったんだよ」
     能登・誠一郎(高校生エクスブレイン・dn0103)の言葉に集まった灼滅者達も驚いた顔になる。
     星野・えりな(スターライトエンジェル・d02158)達が、ラブリンスターの行方を追ったが、羽虫型ベヘリタスに邪魔されて追う事ができなかったのだという。
    「更には絆を奪われ、ラブリンスターの事を忘れてしまったラブリンスター配下の淫魔を、羽虫型ベヘリタスが襲撃して連れ去ってしまうんだ。みんなにはこの配下の淫魔誘拐を阻止して、羽虫型ベヘリタスを倒してもらいたいんだよ」
     一般人の被害が出る訳ではないが、ベヘリタスの行動が活発化している。これを放置すればどのような事態になるか分からない。
    「敵が現れるのはショッピングセンターのブティックだよ。そこに居る淫魔を襲うから、待っていれば接触できる。敵は一般人を襲う訳じゃないので、戦闘に巻き込まないようにすれば犠牲者は出ないはずだよ」
     敵の目的は淫魔のみ、だが邪魔をすれば相応の反撃をしてくるだろう。
    「羽虫型ベヘリタスは3mもの大きさに成長していて、以前出ていたものよりも強力になってるみたいだね」
     糸による搦め手やその巨体を生かした戦いをするようだ。飛行していても室内なのでそれほど上空を飛べないので、戦闘に支障が出るようなことはない。
    「淫魔はメイという名前で、戦闘力はあまり高くないみたいだね。こちらが戦い始めれば逃げ出すはずだよ。上手く説得すれば一緒に戦ってくれるかもしれないけど、そのへんの判断はみんなに任せるよ」
     協力が得られれば優位な戦闘になるだろうが、敵は強くはなってはいるが灼滅者だけでも倒す事ができる。
    「羽虫型ベヘリタスは順調に育ってしまってるみたいだね、しかもラブリンスターまで拉致してしまうなんて想定外だよ。このままベヘリタス勢力が戦力を増強し続けるとどんな事が起きるのか考えるだに恐ろしいよね。みんなの力で何か起きる前にベヘリタス勢力を叩いてほしい、お願いするね」
     ラブリンスターを拉致できる勢力との誠一郎の言葉に、灼滅者達は真剣な面持ちで頷き、対処するため現場へ向かうのだった。


    参加者
    椎那・紗里亜(言の葉の森・d02051)
    三上・チモシー(津軽錦・d03809)
    高峰・紫姫(辰砂の瞳・d09272)
    天城・理緒(黄金補正・d13652)
    比良坂・柩(がしゃどくろ・d27049)
    只乃・葉子(ダンボール系アイドル・d29402)
    上里・桃(生涯学習・d30693)
    有馬・鈴(ハンドメイダー・d32029)

    ■リプレイ

    ●アイドル淫魔
    「今まで何度も協力してくれたラブリンスター、彼女へ繋がる手がかりが掴めればいいのですけど」
     高峰・紫姫(辰砂の瞳・d09272)がブティックを見渡す。するとそこには中睦まじく服を見立てるカップルの姿があった。
    「と、それよりも、まずは目の前の彼女を助けることが先決ですね」
     紫姫が目の前の事件に集中しようと軽く首を振ると、買う物が決まったのか、男性が支払いにレジへと向かった。 
    「ふふ、この後は誰とデートだったかな~。あ、それと定時報告しなくっちゃ、あれ、誰に報告するんだっけ?」
     連絡相手を忘れ不思議そうに首を傾げる女性。そこへ入り口から赤黒い巨大な羽虫が飛来する。羽虫が女性に襲い掛かる前に、その進路を妨害するように人影が現れた。
    「学園と友好関係にあるラブリンまで襲うとは、べヘリタスは許せませんね。てことでこの気持ち悪い羽虫にはご退場願いましょうか」
     天城・理緒(黄金補正・d13652)が迫る羽虫を剣で受け止め、押し返すように振り払って距離を離す。
    「大丈夫??」
     女性に近づいた有馬・鈴(ハンドメイダー・d32029)が優しく尋ねる。
    「う、うん、大丈夫だけど、あなた達は?」
     すると脅えながらも女性は頷き、灼滅者達を見渡して尋ね返した。
    「武蔵坂学園の者です。あなたを助けに来ました」
     殺気を放って店内の一般人を外に追い出しながら、椎那・紗里亜(言の葉の森・d02051)がちらりと振り向いて女性に告げる。
    「ホントッ!? 嬉しい!」
     突然の事態に驚いていた女性の顔に安堵が広がる。
    「頼れる人がいるなら早く連絡とって。わからないならとりあえず私達の近くが安全だと思うよ」
    「え、えっと、頼れる人……居たような、気がするんだけど……誰だったっけ?」
     鈴が治癒の光を放って安心させると、女性は消えた記憶に困惑していた。
    「えっと、今逃げられたとしても、自分たちが負けちゃった場合またあの虫に襲われるだろうし、ここで協力して倒した方がいいと思うんだよね」
    「この羽虫を逃したらまた追いかけられるかも?」
     敵を見ながら三上・チモシー(津軽錦・d03809)が共闘を申し込み、理緒も首を傾げながら言葉を続けた。
    「逃げたきゃ逃げてもいい。キミが思い出せるとは限らないからね」
     比良坂・柩(がしゃどくろ・d27049)の足元から伸びた影が、羽虫を飲み込むように大きく広がり全身を覆い尽くす。
    「キミが絆を奪われた彼女のことを知りたいというのなら、こいつを倒してからゆっくり教えてあげるよ」
     柩が背中を向けたままそう告げる。
    「絆……思い出す……うーん、なんだかもやもやする! 追いかけられたら困るし、私も手伝うわね! 私はメイっていうの、よろしくっ♪」
     一つ頷きウインクをしてハートを飛ばし、女性がささっと灼滅者後ろに回って援護の体勢に入る。
    「メイさんどうか後ろに。 必ず守ります」
     守る為にメイの前に出た上里・桃(生涯学習・d30693)は、音を封じる結界を張って戦闘音が外に漏れぬようにした。
    「メイさん、あなたの奪われた大切な絆、思い出させてあげます!」
     ダンボールをかぶった只乃・葉子(ダンボール系アイドル・d29402)がラブリンスターの曲をスピーカー型のシールドから流す。そしてそれに合わせて歌い出すと、羽虫がふらふらとバランスを崩して落下してくる。
    「こいつは今ここで倒しておかないと、お店にも被害は出させません!」
     そこへ葉子の歌声に合わせて歌っていた紗里亜が帯を飛ばして羽虫の体に突き刺した。

    ●巨虫
    『ギッヂゥッ』
     奇怪な音を漏らしながら羽虫が飛び掛かってくる。3メートルの巨体が勢いのままぶつかる。
    「危ないですね、なつくん一緒に止めましょう」
     理緒がビハインドのなつくんと共にメイを守る。剣と衝撃波で突進してくる羽虫を受け止めた。
    「……なんか最近のベヘリタスって、あれだね、節操無しだね」
     胸元にダイヤのマークを浮かべたチモシーが漆黒の弾丸を撃ち出す。それに対して羽虫も糸を口から吐き出してぶつけ、相殺した。
    『ギヂヂ』
     羽虫が上昇して天井付近を飛び、急降下してメイを狙う。
    「きゃっ」
    「動かないでください」
     頭を抱えてメイが屈むと、割り込んだ紫姫が淫魔の翼を模した縛霊手で頭上から襲い掛かる羽虫を殴りつける。すると霊糸が巻きつき羽虫の体を絡め取った。
    「絆だけでなく、その身まで奪おうとするなんて許せません!」
     そこへ舞うような動作で近づいた紗里亜は、流れるような動きで巨大な十字架を叩きつける。そしてそのまま敵を押さえ込んだ。だが口を開いた羽虫は糸を噴出し、紗里亜を吹き飛ばす。そして飛翔してメイの元へ向かう。
    「メイさんの近くには行かせません」
     進路上に立ち塞がる桃が異形化させた腕で羽虫を押し止める。
    「あっちへ行ってください!」
     そして拳で殴り飛ばした。後退した羽虫は蛇行しながら間合いを取る。
    「大切な絆を奪うなんて許せません!」
     葉子がマイクを手に歌い踊りながら指で銃の形を作ると、雷が奔り羽虫を打ち据えた。
    「アンブレイカブルの次は淫魔か、なんとも節操のないことで」
     衝撃を受けて動きの止まったところへ、柩が帯を飛ばして羽を貫き、羽虫は体を傾けて地面に落ちる。
    『ヂヂィッ』
     地面から灼滅者を近づけまいと糸を噴出す羽虫。
    「援護するよ」
     鈴が符を投げると、みるみるうちに蝶の姿となってひらひらと飛び、羽虫の攻撃を防いだ。
    「協力をお願いします!」
    「うん、分かったわ!」
     背後からメイが唄うと羽虫の動きが鈍る、そこへ紗里亜がするりと近づき炎を纏った蹴りを叩き込んだ。
    『ヂーヂィッ』
     蹴られた衝撃で体が浮いた羽虫はそのまま宙へ戻る。だがその背後からチモシーが近づいていた。
    「まずはその邪魔な羽をもいじゃおうかな」
     跳躍したチモシーが巨大な斧を振り下ろす。分厚い刃が羽を半ばから切断した。
    『ギギッギヂッl』
     激しく口元を動かして糸を紡ぎ、千切れた羽を接合する。
    「私は友人と繋がれたから、絆を持てたから、変わることが出来ました。それに自分からそれを投げ捨てようとしてしまったとき、闇堕ちした時も、友人たちとの絆に助けられました」
     紫姫の影が黒猫となり羽虫に跳びかかり包み込むように覆い被さった。
    「だから、その絆を奪うことは許せないし、人とダークネスの共存の可能性を見せてくれたラブリンスターは助けたい」
     影が羽虫を締め付けミシミシと全身から軋む音がする。
    『ギギェッ』
     羽虫は羽を広げて戒めを解き、天井にぶつかる勢いで飛び上がった。そして羽を激しく動かし鱗粉を撒き散らす。
    「粉だらけになっちゃいそうですね、汚される前に燃やしちゃいましょうか」
     飛び込んだ理緒が炎を纏った蹴りを放って鱗粉を燃焼させ、なつくんも衝撃波で吹き飛ばす。
    『ギギッ』
     だが更に強く羽を動かし、吸う息に鱗粉が混じり体の動きが鈍り始める。
    「ここは私が」
     桃が前に出ると薙刀を回転させて鱗粉を吹き飛ばす。その間に仲間が攻撃を仕掛ける。
    「存在を忘れ去られる、か」
     柩の影が骨のような形となって起き上がると、囲うように羽虫を覆い尽くす。
    「業大老やシン・ライリーに同じことが起きていないことを考えると、この状況はタカトの能力とは無関係なのかも知れないね」
     疑問を口にしながらも、影は容赦無く羽虫を蝕んでいく。
    「さ、ご一緒に!」
     メイの方を見えて葉子が手でハートマークを作る。
    「え、えっと、こう?」
     すると勢いに流されてメイも一緒にポーズを決め、ハートのオーラが飛び出して羽虫にぶつかった。衝撃に羽虫の攻撃が止み、体勢を立て直すように上昇した。
    「鱗粉は厄介だね、少しでも防げるようにしておこう」
     鈴が仲間へと次々と符を投げ、鱗粉を妨害するように紙の蝶々が戦場を飛び交う。

    ●ベヘリタス
    『ギギギギギ』
     甲高い音を発したかと思うと、ブンッと羽が高速で動く。それと同時に速度の上がった羽虫が動き回る。
    「想い出して! あなたの大切な絆を!」
     熱を入れて葉子が歌う、美しい歌声が響くと酔ったように羽虫がふらふらと壁にぶつかった。
    「大きいのに動きが速いですね」
     その隙に紗里亜が帯を飛ばして羽虫の背に生えた羽を貫いた。
    「だったらこれで動きを鈍くさせるよ」
     チモシーが指輪から魔力の弾丸を放つ。弾は胴体に入り込み侵食した魔力が羽虫の動きを鈍らせる。
    「拘束してしまいましょう」
     紫姫の足元から駆ける影の猫が伸びてぐるぐると羽虫の全身に巻きつきた。
    「近くで見ると本当に気持ちが悪いですね」
     思わず視線を逸らしたくなるのを我慢しつつ、理緒は剣を振り上げると、切っ先が羽虫の胴体を抉る。同時になつくんも刃を振るって横から傷をつける。
    「ダークネスがどうなろうと知ったことじゃないけど、あの名物女がいないのは少し物足りなくもある」
     続いて柩が鬼の如く腕を異形化させて羽虫の顔を殴りつけた。衝撃に巨体が吹き飛び天井すれすれで姿勢を戻す。
    『ヂィァッ』
     羽虫が大量の糸を噴出す。それは灼滅者を押し退けメイに届いた。
    「きゃあっ何これ!?」
     メイの体が粘着性のある糸に絡まり身動きを封じられる。
    「動かないで、今断ち切ります」
     落ち着くようにメイと視線を合わし、桃は薙刀を振るい糸だけを見事に断ち切った。
    「あ、ありがとね!」
     礼を言ってメイは羽虫の視線から逃れるように桃の後ろに隠れた。
    「フォローは任せて、戦いに集中できるように動くよ」
     鈴が帯を伸ばし、メイに巻きつけて傷を癒しながら攻撃を防ぐ鎧と化す。
    『ギィヂッ』
     羽虫が糸を飛ばす。その射線にはメイが居た。
    「私が相手です」
     それを紫姫が縛霊手で受け止める。そして掴み取ると振り回して投げ飛ばした。だが壁にぶつかる直前に羽虫は糸を切って空中で留まり、ぐるりと旋回する。
    「させません!」
     メイを背に隠した紗里亜が中華風の剣を振るう。刃が突進してくる羽虫の体を素通りする。だが羽虫はバランスを崩して壁にぶつかった。刃が肉体ではなく魂を斬り裂いたのだ。
    「結構硬い皮膚をしてますから、こういうのが有効みたいですね」
     続けて理緒も剣を上段から振り下ろし、羽虫の魂に傷を刻む。
    『ギヂィィィッ』
     怒り狂ったように激しく口が動き、突進してくる。
    「そう何度もやらせないよ」
     鈴の持つ蝋燭から黒煙が立ち昇り、蝶の形となって仲間の周りを飛び敵を惑わす。
    「落とすよ」
     チモシーの放った漆黒の弾が羽虫の羽を撃ち抜き、羽虫が懸命に羽ばたいて落下を免れようとする。
    「……まぁ、タカトが何を企んでいようとボクのやることは変わらない。ボクが癒しを得るための糧となってもらうよ、ベヘリタス」
     柩が腕を上げる。それに合わせて床に描かれた髑髏の影も腕を伸ばす。影はそのまま伸び上がって羽虫を捕まえて引き落とした。
    「無理矢理誘拐しようだなんて、悪い子にはお仕置きだよ!」
     そこへリズムに合わせノリノリで踊る葉子が指差して雷を放って羽虫を穿つ。
    『ヂッギヂギッ』
     よく見れば前進の傷口からどろりと黒いタールのような体液が流れていた。羽虫は低空を駆けるように飛んで足元を襲う。
    「そこは既に私の間合いです」
     待ち構えていた桃は薙刀を一閃させて羽虫を斬り払う。
    『ヂギヂギッ』
     羽虫は周囲に糸を吐き結界のように張り巡らせる。そして鱗粉が撒き散らされる。
    「仕上げといくよ」
     鈴の投げた符が蝶の群れと化し鱗粉の隙間を作り出す。
    「これで終わりです」
     紗里亜が舞うように糸を抜けて掌打を打ち、間合いを離したところへ蹴りを放った。
    「これ以上被害を拡大させるわけにはいきません。ここで灼滅します」
     桃が被害を薙刀を振るって雷を撃ち羽虫を射抜いた。
    「こんなところで巣作りされたら邪魔だよ」
     チモシーが斧をフルスイングし糸を断ち切った。返す刃が羽虫を襲うが、一足早く飛び上がって出口の方へ向かう。
    「この部屋からは逃がしませんよ」
     理緒が跳躍して突進を受け止める。全身に黄金色のオーラを纏い、蹴りを放って押し返した。
    「今回の事がこの先、禍根になろうとも、今の私は私と繋がりのある人もダークネスも助けたい。自己満足だとしても、後悔はしたくないから」
     紫姫の影が跳び掛かり、羽虫を蹴って地面に落とす。
    「さあ、キミの運命はここまでだ、ボクの糧となれ」
     柩の異形の拳が羽虫の腹部を捉え、拳の形に大きく腹が凹み体液を撒き散らしながら地面をのたうつ。
    「最後にもう一度! これで止めです!」
    「ハートね♪」
     葉子がウインクしてメイと視線を合わせ、ダブルハートのオーラが床を転がる羽虫を撃ち抜き、その体か砕けて虚ろのように消えていった。

    ●失った絆
    「定時報告の相手はたぶんこの人のことだと思う」
     そう言いながら鈴がラブリンスターの写真集を見せた。
    「わぁっ綺麗な人……」
    「ラブリンスターとの絆を思い出せないみたいですね」
     メイの知らぬ人を始めて見た様な反応に、紗里亜が首を振った。
    「キミは絆を奪われて彼女のことを忘れてしまっているんだ」
     柩が淫魔とラブリンスターの関係について説明する。
    「嘘、でもでも、確かに何か忘れてるような気も……」
     困惑したようにメイは自分の記憶を思い出そうとする。だがその顔が晴れる事はない。
    「ラブリンスターの事を何か思い出しましたか?」
     何か絆を取り戻すきっかけはないかと紫姫が尋ねる。
    「ううん、わかんない……」
    「覚えてたはずなのに全然思い出せないって、すごくもやもやするよね」
     チモシーは悩むメイを見て、同意するように頷いた。
    「無理に思い出す必要は無いと思うの。その代わり新しく覚えて欲しいかな」
     そんなメイに鈴が優しく声をかける。すると難しい表情が和らいだ。
    「他のアイドル淫魔も狙われるかもしれません、仲間へ警告しておいてください」
     桃がこれと同じような事件が起きると忠告する。
    「わかったわ、連絡が取れたら教えておくね」
     メイは深く頷いて返事をした。
    「それと、よかったらまた学園祭遊びに来てくださいね」
    「えっと、灼滅者の学園なんだよね、怖いけど、今までどうして平気だったんだろ? でも、機会があれば行ってみるね。あ、次のデートに遅れちゃう! 今日は助けてくれてありがとう!」
     桃の誘いに首を傾げていたメイはこの後の予定を思い出し、手を振って灼滅者に別れを告げて去っていった。
    「べヘリタスはまだまだ居そうですからね。そこからラブリンの居所も探れるといいのですが」
     理緒は見送りながら今後の事を考える。
    「ダークネスの方とのセッションする夢は叶いましたが、まだラブリンさんと一緒に歌えてません。必ず手がかりをつかんで救い出してみせます!」
     今日の舞台に満足しながらも葉子は新たに意気込む。
     灼滅者達は淫魔の誘拐を阻止できた事に安堵しその場を離れる。そしていずれは事件の真相に迫ろうと決意するのだった。

    作者:天木一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年10月27日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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