悪拝に心奪われ

    作者:幾夜緋琉

    ●悪拝に心奪われ
    「さて……皆さん、よくお集まりになりました。今日は皆さんに、一つ面白い事を説明しましょう」
     ……神奈川県は小田原市の郊外、余り人気の無い広場。
     6人の男、女と……小上がりに上がった一人の男が居た。
     男が壇上から説明するのは……いわば悪魔崇拝。
     いや、彼らからすれば悪魔ではなく、救いの主だ、と。
     ……一般人であれば、呆れて帰りそうな話しではあるが、六人の男女はまっすぐに見つめ、真剣にその話を聞いている……。
     そして。
    『さぁ、我等が神を信じるのです。信じれば、大きな力を必ずや授けてくれるでしょう! 私の様に神を信じ続ければ、強い力も手に入れる事が出来るのです!』
     次第に声が大きく成り行く男。
     ……そんな男の目は、何処か何かに囚われたが如く、真っ直ぐに何もない空間を見つめていた。
     
    「あ! みんな集まったんだね? それじゃあ説明、始めるね!」
     須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)は、集まった灼滅者へニコニコと笑いながら説明を始める。
    「今回みんなに頼みたいのは、ソロモンの悪魔の配下になってしまっている人を退治してきて欲しいんだ」
    「配下といえども、ソロモンの悪魔の力を受けている訳だから、強力で危ない敵だよ。でもそれを灼滅する事は灼滅者であるみんなの使命なんだよね。だから厳しい戦いになるかも知れないんだけど……お願い、出来るよね?」
    「あ、勿論バベルの鎖の力はあるけど、私の予測した未来に従ってくれれば大丈夫! その予知をかいくぐって迫れるからね!」
     そして、まりんは続けて状況を整理して説明する。
    「彼は勧誘の為、人里から少し離れた所に根城の様なところが合って、ここで毎週勧誘を行っているみたいなんだ」
    「彼の能力は、大体皆が4人集まって互角な位かな? それだけ言うならこっちの方に分があるかもしれないけど、その周りには宗教に勧誘されて、感化されてしまった一般人が六人いるみたいだよ」
    「教主の彼の武器は契約の指輪みたい。バッドステータスの攻撃が厄介だと思うから、その辺り注意だね」
    「ちなみに他の一般人達は、武器は殺戮ナイフで、前に出て攻撃をし続けてくるみたい。こっちはバッドステータスの能力はさほどでもないけど、人数が多く手数も多いから、油断はしない様にね?」
     そして、最後に纏めるようにまりんは。
    「こっちには未来予測の優位はあるけど、総合の戦闘力はみんなよりも上だよ。だから絶対油断しないでね。みんなが勝利を収めて、笑顔で帰ってくる事を待ってるからね!! っ、きゃぁ!?」
     激励の意味でジャンプして励まそうとするまりん……だが、最後にばたん、とコケてしまうのであった。


    参加者
    因幡・亜理栖(おぼろげな御伽噺・d00497)
    天王寺・楓子(和洋折衷の魔法使い・d02193)
    朝霞・薫(ダイナマイト仔猫・d02263)
    シェリー・モーガン(-D-・d02348)
    葉山・一樹(ナイトシーカー・d02893)
    東雲・朔(中学生ダンピール・d05087)
    天城・優希那(おちこぼれ神薙使い・d07243)
    織田・のすり(熱き矢の如く・d07363)

    ■リプレイ

    ●救い求めし者
     まりんから事件の解決依頼を受けた灼滅者達。
     彼らが向かうのは、神奈川県は小田原市郊外……余り人気の無い広場へと向かう。
    「しかし都合の良い屁理屈を信じてお題目を唱えていれば、人生一発逆転出来るだなんて、なーに寝ぼけて居るんだか……」
    「全くだ。信者を増やし、闇墜ちへと誘うのが目的か? 相変わらず熱心な事だ。しかし悪魔が神の権威を使って、人を集める等と……実に笑えるじゃないか」
    「そうですねぇ……誰がどんな神様を崇拝して、どんな宗教に入るかは個人の自由だと思うのですが……ソロモンの悪魔さんは流石にダメだと思うのですよぅ」
     朝霞・薫(ダイナマイト仔猫・d02263)の言い出した言葉に、シェリー・モーガン(-D-・d02348)と、天城・優希那(おちこぼれ神薙使い・d07243)の二人が告げる。
     今回、灼滅者達が倒すべく相手は、ソロモンの悪魔に魅入られ、教主となった男性。
     またまりんから聞くには、その周りには彼の立ち上げた新興宗教に入信してしまった男性、女性達が居るとも言う。
    「それにしても、教主って人は友達居ないのかしらねぇ? 悪魔を呼び出してでも友達を増やしたいとか、哀れな人よね。むしろ悪魔と友達になりたいのかしら? ちょっと遠慮願いたいわね」
    「うんうん。ダークネスじゃないけど、これ以上仲間を増やされちゃ困るね。だから、ここで頑張らないと……自分からかもしれないけど、これ以上希望も何もない世界に染まるのはダメだよ。だって、暗い世界は何も無いもん。明るい世界の方がやっぱりいいよ!」
     東雲・朔(中学生ダンピール・d05087)の背中に半ば隠れながら告げる天王寺・楓子(和洋折衷の魔法使い・d02193)に、因幡・亜理栖(おぼろげな御伽噺・d00497)が声を荒げると。
    「うん、これ以上、信者が増えて大変な事になる前になんとかしなくては、ですね」
    「そうだな。宗教なんぞにすがる奴の気が知れん。一発、目を覚まさせてやるか」
    「ああ。多生初依頼で緊張はしているが……皆で力を合わせれば、勝てる筈だ!」
     優希那に織田・のすり(熱き矢の如く・d07363)、葉山・一樹(ナイトシーカー・d02893)が気合いを入れて、そして。
    「よし、みんな張り切って行こうか!」
     朔の言葉に皆も頷き、そして広場へと向かう坂道を登る。
     ……その途中。
    「でも……奴らの根城は広場って言ってたわよね? えっ、まさかホームレ……ま、まぁいいわ。未来予測の指示通りに奴らの所に乗り込んで、有象無象の区別無くたたきのめせば良いだけよね」
    「そうだな。別に住処がどうとか、考えなくても良い」
     薫に頷くシェリー。
     彼らが住処無き存在であるかないかなど、ダークネスとなったかないかは関係が無い訳であった。

     そして小田原市郊外の広場……目の前の広場では。
    『さぁ、我等が神を信じるのです! 信じれば、必ずや大きな力を授けてくれる筈。私の様に神を信じ続ければ、必ずや強い力も手に入れる事が出来るでしょう!!』
     激しく高揚した声で、目の前の信者達に説法する彼ら。
     何度と無く同じ事を告げて……信者達を盲目的にさせる、催眠的な方法を使っているのだろうか。
    「よし……みんな、準備はいいか?」
     一樹が確認するように訪ねると。
    「OK……天下布武……!」
    「あなたの物語を、終わらせようか」
     のすり、亜理栖がスレイヤーカードを解除し、そして朔も。
    「どうせ一般人に見られないのなら、派手に行くぜ!」
     ライドキャリバーに乗り込み、そして戦艦島を片手に抱え構える。
    「では……行くわよ!」
     薫の号令に、一斉に灼滅者達は攻撃を仕掛けるのであった。

    ●悪を奉り
    「さぁ行くぜぇえ!!」
     一気にライドキャリバーに乗って突撃を仕掛ける朔、そして続けて駆けてくる亜理栖とのすり。
     そんな灼滅者達の不意の襲撃に……信者は慌てるが。
    『慌てるのではありません!! 彼らは罪深き冒涜者達……さぁ今こそ、その力を発揮する時です!!』
     そんな教主の言葉に、信者は解りました、と言って、教主の前に構える。
    「立ち塞がるなら、それ相応の覚悟はあるんだろうな? ほら……!」
     と一樹が鏖殺領域をその場に展開。
     更に続けて優希那が教主に狙いを付けて。
    「え、えと……喰らって下さいっ!」
     と制約の弾丸を放ち……教主にパラライズの効果を与える。
    『くっ……怯むな! 行け、行きなさい!!』
     教主はそう叫ぶ……そして信者達は前線を引き上げ、亜理栖、朔、のすりとライドキャリバーに向けて次々と攻撃。
    「っ……本当、鬱陶しいぜ!」
    「出来れば貴方達を傷つけたくは無いですが……言っても解らなさそうですから、仕方在りませんね……!」
     そう言いながらも、一般人達の攻撃を受け止める。
     そして、敵前衛の攻撃に加え、後方に控える教主は。
    『……貴方達も、悔い改めなさい!』
     と契約の指輪を掲げ……ペトロカース。
     朔に石化のバッドステータスを生じさせる……が。
    「バッドステータスの回復はアタシがやるわ。シェリーはダメージの回復を頼むわよ!」
    「ああ」
     後衛の薫とシェリーは素早く行動を振り分け、薫が防護府で朔を、シェリーが亜理栖をヒーリングライトで回復する。
     そして最後に、楓子が。
    「……当たれ」
     と、キャスターのポジションを活かしたマジックミサイルで、敵信者達を撃ち抜くする。決して一般人達には決して低くは無い被害。
     しかし……教主の指示を受け、決して怯む事は無く、灼滅者達への攻撃を継続する。
    「本当気持ち悪い奴らだぜ。とっとと倒れりゃ楽になるぜ?」
     そんなのすりの宣告を……当然聞き届ける訳も無い。
     信者達はただただ盲目的に、教主を守が如く前線での猛攻を繰り返していく。
    「仕方ないな。気絶させて戦闘不能に追い込むしかないだろう」
    「そうだね。なら全力で行くよ」
     そう前衛陣は頷き合い、そして亜理栖は戦艦斬、朔は森羅万象断、ライドキャリバーがキャリバー突撃と攻撃を主軸に。
     対しのすりはディフェンダーとして戦神降臨で強化した壊を主体にし、痛い一撃をぶち込む。
    『うぁああ……!』
     流石にその連携猛打を受けて、一般人の内一人が倒れる。
     残る一般人は5人。
    「俺は教主をバッドステータス漬けにしてやる。二人は攻撃で、出来る限りはやく活路を切り拓いてくれ!!」
    「は、はい、解りましたっ!」
     一樹に頷く優希那、そして楓子。
     次いでHPが低い相手をターゲットにして、優希那、楓子共にマジックミサイルで同じ相手を狙う事で、更なるダメージを蓄積させていく。
     また、一樹自身は影喰らいで……教主に今度はトラウマのバッドステータスを付加。
     一方、薫とシェリー二人は……敵の攻撃を待つ。
    『っ!?』
     このタイミングでは、教主の攻撃はパラライズの効果で失敗……大きなダメージは生じない。
     それを仲間達とアイコンタクト。回復対象者が一人であるのを確認すると。
    「お前等、神への祈りは済ませたか? 祈りの時間は短いぞ」
     とシェリーが宣告し、続けて予言者の瞳で自己能力を強化、薫はそのまま夜霧隠れで回復する。
     そして次のターン。
     信者達の体力、状況を確認しつつ……確実に信者を一匹ずつ打ち倒していく。
     また、シェリーもセイクリッドクロスとヴォルテックスを使い、敵前衛へ次々と攻撃を加え、その数を減らし行く。
     ……七ターン程が過ぎた頃。
    「お前の信仰心など、お前の骨と同じく簡単に砕ける程度だ。さぁ……Time to make the sacrifice」
     シェリーのセイクリッドクロスが決まると、最後に残った信者もその場に崩れ落ちる。
     そして残るは教主のみ……能力者達も前線を上げ、近接位置に捉える。
    『ぐ、ぐぬぬぬぬ……!!』
     悔しそうな、そして碇の表情を浮かべる教主に。
    「ふん。悪魔でも、神の慈悲を請う事があるのか?」
    「……アンタがこのていどじゃあ、親玉である貴方も格は低いみたいね。どこの野良ダークネスの使いパシリさ。どうせ親玉も宿無しで名前なんか無いでしょ!!」
    『う、五月蠅い五月蠅いうるさいっ!!!』
     憤怒の表情……そして攻撃を嗾ける。
    「ふん。お前の作り出す悲しい結末などいらん。さっさと倒れて貰うぞ」
    「そうだ。もう残されて居る時間は無いぞ」
     のすりとシェリーの宣告。
     当然聞く耳など持つことは無く、攻撃一辺倒に動く教主。
     攻撃が命中すれば、一発でかなり痛いダメージとはなるが、薫と、時には優希那も加わって。
    「大丈夫ですか? 今回復しますね」
     と闇の契約にて回復を施して、体力を維持する。
     また、一樹が影縛りで、楓子もフリージングデスで捕縛と氷のバッドステータスを仕掛け、彼に次々なるバッドステータスの嵐に包み込む。
     そして……十ターン目。
    『はぁ……はぁ……っ!』
     既にかなりの疲弊に陥った教主。
    「ふん……もはや限界か? たわいも無いな」
     と言い捨てるシェリー。
     そして。
    「もう一息だ。一気阿世に打ち込むぜ!」
    「解った……」
     一樹に頷く楓子。
     斬影刀で斬りかかり、楓子が彗星撃ちでブレイクを行い……生じた隙に。
    「さぁ墜ちな。何よりも深い闇に!」
     ライドキャリバーと連携し、すれ違い様の紅蓮算と制圧射撃。
     そして。
    「……倒れな!!」
     亜理栖のレーヴァテインの一撃で、彼の体力を吸収し尽すと共に、教主……いや、ダークネスの身体は、崩壊し、闇野中に消え去るのであった。

    ●一度の後
    「……ふぅ、皆様お疲れ様でした。お怪我の具合はいかがでしょう?」
     と優希那が心配そうに訪ねる……そんな優希那にニコリと笑いながら。
    「大丈夫大丈夫……まぁ、すっごい疲れたけどね」
    「全くだ……盲目的な信者の連中を相手にするのは全くもって面倒だ」
     亜理栖とシェリーの呟きに、他の灼滅者達も頷く。
     そして。
    「さて……と……傷が残っては面倒だしな……」
     とのすりが一般人達の傷の様子を確認する。
     幸い大きな傷は負っては居ない様ではあるが……細かい傷は生じている。
     そんな彼ら彼女らに、優希那と協力して包帯などでの簡単な治療を施す。
     ……その一方、楓子とシェリーは……教主の後ろにあった偶像を確認。
    「……悪趣味ね」「全くだ。一体、誰を信仰していたのやらな」
     二人はそう呟き、続けてすぐに……その偶像をぶちこわす。
     単なる木製の偶像の様で、散らばる木片。
     さらにその木片自体も細かく砕き割り、一切の跡形も無くぶちこわしていく。
     そして……治療と破壊、共に終えたところで。
    「もう変な悪拝なんぞに心惑わせないで欲しいものだ……お前達にはこれからがまだあるのだからな」
     とのすりが、気絶している一般人に向けて告げ、そして優希那は既に跡形も無くなったダークネスの教主に向けて。
    「……どうか、安らかにお眠り下さい……」
     と冥福を祈る。
     ……そして。
    「さて……と。せっかく小田原まで出てきたんだから、話題のB級グルメをスルーなんてないわー。鯵の天丼、鯵の中華丼、鯵ラーメン……ふふっ、こんなこともあろうかと、準備は万端なのよ。さぁ皆、行きましょう!!」
     薫の有無を言わさずのお誘いに……一部をのぞき、小田原へと出ていってぶらり小田原名物を食す灼滅者達なのであった。

    作者:幾夜緋琉 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年9月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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