我ら、破門済み愚連隊

    作者:るう

    ●琵琶湖周辺の商店街
     メリメリ、バキバキ!
    「ヒャッハー、久々の娑婆の空気は美味いぜぇ!」
    「なーにが天海大僧正だ! 羅刹の癖に、灼滅者ごときを恐れやがって!」
     好き放題に店の軒先を荒らして回る二人の男羅刹の後ろから、女羅刹が声をかけた。
    「あんた達、そのくらいにしておきよ。ここは天海大僧正の勢力下じゃないかい」
     それを聞いた男羅刹たちは、一瞬、暴れる手を止めるが、すぐに不満げに女羅刹に抗議する。
    「いいじゃねえか。どうせ俺たちは破門された身だ」
    「考えてもみろよ。こうして暴れた実績を作りゃ、安土城怪人に取り入る時に役立つかもしれないぜ?」
     まだまだ暴れ足りない様子の二人の顔を交互に覗いてから、女羅刹は少し考えて……にやりと大胆な笑みを浮かべた。
    「それもそうだ。けどあんた達、天海に追っ手を差し向けられたら敵わないよ? もうちょいとばかり遊んだら、揃ってとっととずらかるよ」

    ●武蔵坂学園、教室
    「加賀・琴(凶薙・d25034)さん……いえ、今は刺青羅刹の『依』となった彼女が、再び武蔵坂学園に接触して来ました」
     五十嵐・姫子(大学生エクスブレイン・dn0001)の話によると、彼女は、天海大僧正の勢力を離れ、安土城怪人の勢力に鞍替えした羅刹たちの情報を持ってきたという。
    「天海大僧正は自分の配下に、人間を苦しめたり殺したりしないこと、灼滅者とは交戦しないことを命じたようなのですが、中にはそれに不満を持った羅刹たちもいたみたいです」
     天海大僧正はそのような配下を破門にしたが、彼らが人間を襲う危険性は高いとして、依は武蔵坂学園に話を通しに来たのだ。今回、姫子が対処して貰いたいと言うのは、そのような羅刹たちの中の一グループだ。
    「そのグループは、一人の女羅刹と二人の男羅刹で構成されています。女羅刹が男羅刹たちの親分といったところでしょうか?」
     強さで言えば、女羅刹は灼滅者二人と互角な程度、男羅刹はもう少し強く三人と互角な程度であり、ダークネスにしては大した事はない。今回は高い精度で未来予測ができたため、灼滅者たちが、彼らが実際に商店街で暴れる前に強襲できる場所も見つかった。人通りのあまり多くない住宅街の路上の一角で、戦場として不利ではない。
    「けれども、曲者なのは女羅刹です。確かに男羅刹たちよりは弱いのですけれど、暴れる事ばかりの彼らとは違って、冷静に状況を見渡せるみたいなんです」
     男羅刹たちは意地を張る事もあるものの、女羅刹の命令にも概ね忠実に従うようだ。また女羅刹を大切に思っており、必要とあらば命すら賭けかねない。厄介な事だ。
     もちろん、いくら厄介だと言っても、灼滅者たちならば決して敵を取り逃がしたりはすまいと姫子は信じている。
    「配下の離反を引き起こしてでも武蔵坂学園との停戦を望む天海大僧正の真意は判りませんけれど……折角の情報を無駄にする必要もないでしょうからね」


    参加者
    卜部・泰孝(大正浪漫・d03626)
    夢代・炬燵(こたつ部員・d13671)
    大御神・緋女(紅月鬼・d14039)
    廣羽・杏理(ソリテュードナルキス・d16834)
    西園寺・めりる(フラワーマジシャン・d24319)
    ディエゴ・コルテス(未だ見果てぬ黄金郷・d28617)
    リュカ・メルツァー(光の境界・d32148)
    守部・在方(日陰で瞳を借りる者・d34871)

    ■リプレイ

    ●包囲網
     ざり……。
     アスファルトの上の小石を軋ませて、草鞋の足は動きを止めた。靴では収まらぬほどの肥大を遂げた毛むくじゃらの足は、黒い鉤爪と分厚い筋肉を緒の間から覗かせている。それが四本。
    「妙な匂いがするぜ」
     草鞋の足の持ち主たる男羅刹の一人が、猛牛の如く鼻息を荒げて辺りを見回した。
    「おうよ。あの女だ」
     別の男羅刹が顎をしゃくる。その顎が示した先には……和服に身を包み、和傘を差した黒髪美人。
     身構える羅刹たち。彼らを見据え返す女――守部・在方(日陰で瞳を借りる者・d34871)の瞳は、冷酷な赤い色を灯していた。
    「素直に逃げていれば私たちとは会わなかったのに。こういう選択肢の一つ一つが……運命と言うのかもしれませんね」
    「なんだテメェ、何が言いてぇ!」
    「俺たちは安土城怪人の配下様だぜ?」
     けれどもいきり立つ羅刹たちを威圧し返すように、金の鎧に身を包んだチンピラ男が在方の隣に並んで金の錫杖を向けた。
    「……随分と程度が低い奴らだな。テメェみてェなチンピラが、安土城怪人の目に留まるとでも思ってんのか?」
    「「なっ……!」」
     ディエゴ・コルテス(未だ見果てぬ黄金郷・d28617)の挑発に、男羅刹たちは顔を真っ赤にして全身の筋肉を膨張させる……が。
    「おやめ。敵はそいつらだけじゃないよ」
     多数の護符を扇子のように広げて隠した口元を、愉しそうに歪めた女羅刹の鶴の一声が、息巻く男羅刹たちを落ち着かせた。
    「ほら……いるんだろ? 後ろの塀んとこに」
    「ご明察」
     羅刹たちを包囲するように、廣羽・杏理(ソリテュードナルキス・d16834)が現れる。彼は、気取った風に片手で帽子を押さえながら歩み出ると……にやり。まるで獲物を見つけた鮫のように嗤う。
    「特段、君たちに恨みのあるわけじゃあないが……進んで他人様に迷惑をかける悪い子にはお仕置きをしなければね。そうだね……地獄への片道切符なんてのはどうだい?」
    「巫山戯やがって!」
     男羅刹の片方が怒りに任せて殴りかかる。が、獣鬼と化した杏理の腕も彼の顎を捉えていた。
     クロスカウンター……よろけたのは、羅刹が先だ。
    「テメ……!?」
     かつん。
     羅刹が何事か言い終えるよりも早く、軽やかなヒールの音が鳴り響いた。すると、篭手の霊力で羅刹の体勢を崩させていたリュカ・メルツァー(光の境界・d32148)の体が宙に舞い、鮮やかに羅刹の背を蹴り飛ばす!
     血のように紅い霧がリュカを取り巻き、手の中に破邪の剣を具現化させた。
    「ちょっくら暴れてやろうってか羅刹ども? 望むところだ……来いよ!」

    ●小手調べ
    「初めての鬼さん退治、がんばるです!」
     西園寺・めりる(フラワーマジシャン・d24319)の翡翠の刀が、男羅刹の腕を斬りつける! けれども羅刹の筋肉が盛り上がり、逆にめりるを跳ね飛ばした。
    「ナメるなガキが! 桃太郎にでもなったつもりか!」
     背中からコンクリート塀に叩きつけられ、思わず尻餅をついためりる。羅刹は好機到来とばかりに、振り上げた拳にさらに力を篭める。
     けれども振り下ろした彼の腕は、まばゆい光と共に弾かれた! 体毛を焦がす炎を吹き消すと、羅刹はぎろりと、力ある護符を投げた邪魔者を睨みつける。
    「おいおい、俺はこのガキと遊んでやっただけだぜ? そいつを邪魔しやがって!」
    「抜かせ悪鬼よ、お主らにどのような思惑があるのか、そんな事はどうでもよい」
     荒ぶる太刀を豪快に首の後ろに担ぎ、大御神・緋女(紅月鬼・d14039)は塀の上から羅刹を見下ろした。それからにやりと八重歯を見せると、炎を太刀に纏わせる。
    「お主らが悪鬼である以上、わらわはお主らを灼き滅ぼすまでじゃ」
     その間に、ナノナノの『もこもこ』がめりるに寄り添い癒していた。するとめりるは師匠から貰った刀をぎゅっと握り直し、再び勇気を出して立ち上がる。
    「あんた達!」
     女羅刹の叱責が男羅刹たちへと飛んだ。同時に護符が宙を舞い、彼らに力を行き渡らす。はち切れんばかりの膂力をもって、今度は今までの流れとは逆に、鬼の腕が灼滅者たちを苦しめる!
    「どうやら、天海の奴が灼滅者に媚びを売ったって噂は本当だったようだねぇ! 灼滅者なんて、群れなきゃ何もできないような雑魚どもの癖に……ま、他人の事を言える義理じゃないか」
     最後に自嘲気味に笑った女羅刹へと、夢代・炬燵(こたつ部員・d13671)は戦闘中とは思えぬ、おこたで転寝している時のような蕩けそうな顔で笑いかけた。
    「どうやら、ご自分の実力をよく解っているみたいですね」
    「……何だって?」
    「上の考えに反発するような人は、ダークネス組織にもやっぱりいるんですね……でも、そんな事をした上で自分の弱さまで認めるなんて、勇気が要るんじゃないですか?」
     表面上は微笑みながら、けれども炬燵の指先は、石化の呪いを紡いでいる。女羅刹に、灼滅という結果を与えるために。
    「其の度胸、敵ながら天晴れ也」
     全身を包帯で覆った男が炬燵の言葉を継ぎ、心底愉快そうな声を上げた。けれども男は、すぐに声色を真剣なものへと変える。
    「然し、見逃し生まれる被害、到底看過は出来ず。我、天海の掌の上で踊ろうとも、如何でか悪鬼羅刹を滅せん」
     男――卜部・泰孝(大正浪漫・d03626)が槍先で女羅刹を指すと同時、氷がその身に喰いついた。女羅刹は声を張り上げ、男羅刹たちに命令を下す!
    「あんた達……こいつらはただ殴ってりゃいい相手じゃないよ! いいかい……これからあたしの言う通りにやるんだ、解ったね!」
    「「おうよ姐御!」」

    ●劣勢
     ディエゴの金色のオーラが輝くと同時、錫杖が同色の魔力に包まれる。それは抗い難き誘惑たるがゆえに、力強く羅刹の顎を打つ。
    「オラオラァ! 灼滅者ごときにやられる気分はどうだ?」
     札束に頬を叩かれるのにも似た屈辱に、一方の男羅刹の顔が歪む。
     そしてもう一方の男羅刹も、防戦一方となる戦況に、見るからに苛立ちを募らせていた。
    「糞ったれのキザ野郎めが!」
    「その『キザ野郎』に斬り刻まれる気分はどうだ」
     杏理の手の中で光る銀色の力の刃が、止め処なく羅刹へと注がれている。今の杏理の魂で燃える感情は、怒りでも、勝利欲でもなく……ただ純粋に、戦闘への渇望と愉悦。
     女羅刹の語調が感心を含んだ。
    「フン……灼滅者の癖に、随分と大したもんだよ!」
     だがそれは、戦いの矛を収める理由には繋がらない。端正な口元から真っ白い牙を覗かせて、彼女は護符を天高く投げる! 女羅刹ににじり寄っていた炬燵の呪いと泰孝の影が、突如生まれた結界に押し戻されて弾け飛んだ!
    「やっぱり、いくら弱いダークネスといっても、そう簡単にはやられてくれないみたいですね」
    「油断大敵を忘れるべからず、夢代嬢。彼の者、腐れども誇り高き羅刹の一人よ。侮りつつ勝てる敵に非ず」
    「解ってんじゃないかい。けれど……」
     にやり。女羅刹はさらに口元を吊り上げる。
    「侮らなけりゃ勝てるってもんじゃないって事を、一人ずつあんた達に刻み込んでやるよ! いいね二人とも!」
     ……包帯の奥の泰孝の瞳が、滑稽そうに変化したのにも気付かずに。
     男羅刹たちは待ってましたと言わんばかりに、揃って拳に力を入れた。狙うのは……随分と小癪な事を言ってくれためりる、ただ一人!
    「それじゃ反撃と行きますぜ姐御。他人の玩具を殴るのはあんまり気が進まねえがよぉ!」
    「悪く思うなよガキ! せいぜい俺たちに歯向かった自分を責めるんだな! ま、姐御が言うなら仕方ねぇ!」
     ただでさえ大質量の鬼の拳が、速度と数を揃えてめりるに迫る。刀を真っ直ぐに羅刹たちへ向け、緊張の面持ちで彼らと対峙するめりる。
    「そんな構えじゃ虫一匹殺せねえぜ!」
     ぐわんという強烈な衝撃が、小さな体を揺さぶった。けれども彼女は吹き飛ばない。きっと相手を睨みつけ、大地を踏み締めたまま深呼吸する。
    「まだ頑張るです!」
    「その威勢、どこまで通用するかなぁ!」
     もう一方の羅刹も拳を振り上げた。だがヒールの音が響いた直後、風のような何かが二人の間に入り込む……リュカだ。
    「天下の羅刹様が弱いもの苛めってか?」
     挑発の言葉と同時に薙がれた剣は、拳から僅かな時間、全ての力を奪い去る。そして脱力の一瞬を逃す事なく、リュカは自ら拳に当たりにゆき威力を逸らす! 彼女と肩幅だけ離れた空中で、黒猫の『イオ』が尾の輪を光らせながら、にゃぁ、と鳴いた。
    「どうです」
     女羅刹を矢で護符ごと撃ち抜きながら、在方は訊いた。
    「逃げるなら今のうちです。もっとも……ここは、あなた方が離反した天海大僧正のテリトリー。そして我々は武蔵坂学園の先駆け。ここで我々を打ち倒さないと果たして、どうなるでしょうか?」
     在方の言葉はハッタリだ。別に学園は天海と蜜月にあるわけではないし、ましてや後続が控えているわけでもない。それでも自信満々な語気は、それが真実と思わせるのに十分すぎる効果を持つ。
    「チッ……そんなザマで戦いながら、偉そうに」
     女羅刹は舌打ちし、それから男羅刹たちへと再び命じた。
    「こいつら、どうやら既に勝った気でいるらしいよ。それがどれだけ大それた過ちか、存分に思い知らせておやり!」

    ●危機
     男羅刹たちの殴打がその速度を増し、次第にめりるを追い詰める!
    「負けないです……!」
    「清めの風よ、癒しとなれ!」
     ついに塀際まで追い遣られためりるを、一陣の風が救い出す。あと一歩を邪魔された羅刹たちは、憎々しげに緋女を見る。
    「言ったであろう悪鬼ども。わらわがお主を相手しよう、と」
    「そう思うならかかって来いや!」
    「さっきからチマチマ回復ばかりしやがって!」
     それが? そんな風に言いたげに、緋女は両目を細めてみせた。思わず矛先を変えようとする男羅刹たちを、女羅刹が叱りつける。
    「落ち着きな! 奴ら、狙う相手もバラバラで、連携のれの字もないじゃないかい!」
     女羅刹の指摘はもっともだった。杏理とディエゴという攻撃の要が、それぞれ別々の男羅刹を相手している。めりるは攻撃される度に刀を向ける相手を変えて、リュカも緋女もサーヴァント達も、そんな彼女の尻拭いに翻弄されているように見える。そんな中にもかかわらず、炬燵と泰孝は在方と共に、女羅刹ばかりを狙っているのだ。
     戦力の分散という悪手、まさにここに極まれり。
     間もなく、その代償が訪れた。
     一方の羅刹の攻撃からめりるを庇い、まずはイオがリュカの中へと還る。
     次の攻撃。師匠からの刀ともう一本の剣。それらを交差して受け止めてなお、めりるの体は塀と拳の間に挟まれる。
     それでもめりるは諦めはしない。
    「鬼さんこちら……ですよー」
     鬼の足元に花が咲く。大きな、影のラフレシアの花が。
     けれどもそれは……何も傷つける事なく枯れ果てた。
    「あっはっは、見た事か! こんな奴らにご執心だなんて、天海もよほど耄碌してんだろうねぇ!」
    「然り……」
     泰孝は頷いて……けれども、はて、と首を傾げた。

    ●挽回の一計
     今や最後の砦となったリュカへと、男羅刹たちは舌なめずりすらしながら迫る。その攻撃をステップを踏んで躱せども、リュカも次第に追い詰められてゆく。
     それでも泰孝は穏やかな声で、女羅刹を相手に説法を続ける。
    「……されども、目に見える物のみが真実には非ず。目のみに頼れば其れ即ち盲目と同じと見えるが如何に?」
     だからどうした……そう笑い飛ばそうとした女羅刹の顔色が、さっと蒼白に変化した。口は動く……けれども声が、思うように出ない。慌てて思い至って炬燵を睨む。
    「どうやら、ようやく気がついたみたいですね、私たちの作戦に。石化の呪いが喉にまで広がっているみたいですけれど……この状況からどうやって逃げますか?」
     すぐさま護符で解呪する女羅刹。改めて戦場を見回せば、自分も、男羅刹のどちらもが、いつの間にか随分と無理をさせられている。
    「彼らを呼び戻している暇がありますか?」
     炬燵の問いに、女羅刹は悔しげに歯噛みした。そんな事をすれば背を向けている間、男羅刹は灼滅者の格好の的だ……もっとも、それは呼び戻さなかったところで同じだが。
     リュカへと両腕を振り上げた羅刹を、炬燵の影が捕縛する。その背を黄金色の光が、最期に輝けとばかりに照らし出す!
    「まずは……テメェはここまでだ。灼滅者ごときにやられる気分はどうだ?」
     ディエゴの力の源は『黄金郷』……そこから生まれる欲望は、時に、文明一つを滅ぼすほどの力を生んだ。それを正しく導きさえすれば、ダークネスに灼滅をもたらす蹴りとなる。
    「兄弟……!」
     ディエゴに背を貫かれて果てた男羅刹に慄き、もう一人の男羅刹が逃げ出そうとした。だがその体を掬い上げるように、一振りの鞭剣が巻き取ってしまう。
    「どこへ逃げるんでしょうか? 私が先ほど何と申し上げたか、憶えていらっしゃいますよね……特にそちらの奥の貴女は」
     在方は冷たい表情を浮かべた。自信に満ちたハッタリが、再び女羅刹の中で棘となる。
    「姐御……!」
     情けない声を上げた男羅刹を、ぎろりと杏理の瞳が睨んだ。けれども、今までのクールで熱い闘志とは異なり、彼はすぐに興味を失ったかのようにその脇を通り過ぎる。
    「Adieu――さようなら、だ」
     杏理の伸ばした腕を這うように、銀色の布帯が滑り出た。それは進退窮まった女羅刹を、誤たず貫いて果てさせる。
     男羅刹に脂汗が滲む。
    「やめろ……! 俺たちが悪かった! 二度と天海様を裏切ったりなんてしねぇ!」
    「お主は、わらわ達が何者か判っておるのか?」
     緋女の燃え盛る紅剣が、天を突いた。
    「灼滅者たるわらわ達にそのような命乞いをしても、ここがお主の死地となる事に変わりはない……紅蓮の如く燃え散るがよい。灰も残さぬ」
     そしてその剣が……振り下ろされた。

    ●鬼退治の後
     羅刹たちは炎に浄化され、一筋の煙となって天に昇っていった。
    「ケッ。せめて知っている事を全て吐いてから死んでくれりゃァよォ」
    「コルテス殿。ダークネスと言えども死すれば逝くべき道を進むが道理」
     泰孝は悪態を吐くディエゴを嗜め、両手を合わせて経を読む。
     一歩間違えれば総崩れになる賭けに、灼滅者たちは勝った。だが、それが敵の弱さのお蔭ではない事を、杏理の拳は知っている。
    「めりるさんの容態は、どうですか?」
     覗き込んだ炬燵へとリュカは答えた。
    「どうやら奴ら、気絶させるだけでも精一杯だったようだな」
     安堵の表情を浮かべる炬燵。緋女と在方の緊張も解ける。
    「羅刹の恐怖重圧に耐えつ最後まで灼滅の意志を貫く。此れ桃太郎よりも見事也」
     かっかと笑う泰孝の声の下、気を失ったままのめりるは、うっすらと口元に微笑みを浮かべたように見えた。

    作者:るう 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年10月19日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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