灼滅者は畑へ豚狩り芋堀りに

    作者:夕狩こあら

     とある田舎の畑では、秋の味覚――サツマイモが収穫の時を迎え、畔に座る老夫婦がその豊作を喜んでいた。
    「おじいさん、今年もお芋が立派に育ちましたねぇ」
    「おばあさんや、これもお天道様のお蔭じゃのぅ」
     二人は高齢とあって、この時期は特別にアルバイトを雇って芋の収穫をしているのだが、畑の全てを若者の手に任せている訳ではなく、或る区画は更に小さな、幼児らの手に任せている。
    「明日には園児らも芋掘りに来るしのぅ」
    「もう楽しみで楽しみで」
     園児達の元気な笑顔を見るのが何より幸せな老夫婦だが、サツマイモ畑の更に奥――鬱蒼とした森の中に、二人が終ぞ見た事のない生き物が棲み始めた事はまだ知らない。
     そして、熊でも豚でもない異形の巨躯が、芋を掘り起こすと同時に森より這い出し、畑も芋も、人さえも蹂躙して回るなど――、
    「今日もいいお天気でしたねぇ」
    「ほんにのぅ」
     平和な二人には想像だにせぬ話であった。
     
    「美咲の姉御! 大変っす!」
    「まさか……」
    「そっス! バスターピッグの群れがサツマイモを狙って森から出てくるんス!」
     秋の味覚に喜ぶのは何も人だけではない――。
     館・美咲(四神纏身・d01118)は日下部・ノビル(三下エクスブレイン・dn0220)が差し出した求人情報に目を落とすと、次に凛然たる佳顔を持ち上げて言を聞いた。
    「奴等は掘り起こされた芋を狙って森から出て来るんで、姉御らにはアルバイトに扮して芋を掘りながら、こいつらを討伐して来て欲しいんスよ!」
     アルバイトの定員は十名。灼滅者が全員参加しても一般人が出てしまうが、どうか彼等の身の安全を守って欲しい。
    「あと、翌日には園児らが芋掘りに来るんで、その一画だけは畑を荒らされないよう配慮して欲しいッス」
     芋掘りは、園児も老夫婦も楽しみにしている行事である。
     ノビルの意を汲んだ美咲は力強い頷きを返した。
    「出現数は六体。そのうち一体は群れを束ねるボスで、こいつだけは背にある二門のバスターライフルのうち、片方がガトリングガンになってるッス」
     何より突進力のある巨体だ。相手に負けない力を以て戦いに挑みたい。
    「お昼には収穫した芋を焼いて食べるんで、お弁当は要らないッスよ」
    「焼き芋……秋じゃの」
     美咲は『弁当不要』とメモにペンを走らせると、
    「ご武運を!」
     ノビルの敬礼を受け取って現地に向かった。


    参加者
    館・美咲(四神纏身・d01118)
    銀夜目・右九兵衛(ミッドナイトアイ・d02632)
    リオン・ウォーカー(冬がくれた予感・d03541)
    フレナ・ライクリング(お気楽能天気残念ガール・d20098)
    フェイ・ユン(侠華・d29900)
    伊月・夕弦(桜羽探訪・d32491)
    葵・さくら(ツンデレ系女子高生・d34645)
    ノーヴェ・カルカブリーナ(しゃどうはんたー・d35635)

    ■リプレイ


     闇夜に融けていた山稜が白み始め、暁光が里山に被る狭霧を暴く朝。
     静寂を貫く鶏鳴を耳に集まった若者達は、吐く息の白さに身を縮めながら、畝の間に列を成して歩いていた。
    「うー……朝早いし眠いよー……」
     先頭を進むフェイ・ユン(侠華・d29900)は、少し指が余る軍手でまだ冴えぬ灼眼を擦りつつ、白煙と変わる欠伸を霧に混ぜると、
    「ふわ~、農家の朝は早いですわね。欠伸が止まりませんわ」
     それが伝染ったか、畝を挟んで隣を歩く葵・さくら(ツンデレ系女子高生・d34645)も、反射的に漏れる白息を両手に隠す。誰よりも早く来て畑を見回った彼女は慣れた足で進むものの、佳顔に眠気は差した儘だ。
     銀夜目・右九兵衛(ミッドナイトアイ・d02632)はそんな微睡みがちな少女らに頬笑み、
    「光を浴びたら覚めますえ。ほら、あんなに輝いて眩しおすなぁ」
    「太陽は向こうです!」
     差し込む朝陽を額に反射させた館・美咲(四神纏身・d01118)は、手を翳して此方を見遣る悪戯な視線を睨むと、怒気に任せて蔓を掻き分けた。本人は心外といった処だが、自然現象には逆らえない。
    「ほな、あんじょう芋堀りましょかー。本来俺は働きモンやねん、ウシャヒャヒャヒャ!」
    「……精々働いて下さいね」
     二人は交わす声に自ずと場を和ませつつ、芋の収穫に取り掛かる。
     フレナ・ライクリング(お気楽能天気残念ガール・d20098)は土に汚れるのも構わず蔓を豪快に引き抜き、
    「せっかくデスから、こういう体験もEnjoyするデスよ♪」
     まさに芋蔓式に顔を出す秋の味覚に花顔を綻ばせると、
    「お芋掘りなんてやった事ないデスからHappyデース!」
    「掘り出すまで大きさが分からないから、運試しみたいに何だかわくわくするのですよー」
     土の深みに白い手を沈めていた伊月・夕弦(桜羽探訪・d32491)も笑顔眩しく、取り出した芋の大きさに瞳を丸くして喜んでいた。
    「結構な重量だから、運ぶのは任せてくれ」
    「ありがとうございます~」
     ノーヴェ・カルカブリーナ(しゃどうはんたー・d35635)は、同じくアルバイトに励む大学生らに柔らかく微笑みながら、
    「最近お芋を狙った熊や猪が出没するらしいですね~」
    「ま、じでか?」
    「注意しないとですね~」
     それとなく話題を振って戒心を呼び、頓て来る危急に備える。
     敵の襲撃で畑が荒れる前に芋を取り出すべく、先ずは作業に精を出した彼等は、それからどれだけ収穫しただろう――、大学生らが運ぶより早く芋が山を成した頃、黒々とした樹木の間に僅かな瞬きを認めたのはリオン・ウォーカー(冬がくれた予感・d03541)で、
    「……来ます!」
     それがバスターピッグが背負う筒の光と分かるには幾許の時もない。
    「ピギー! ピギッ!」
    「ピーギー!」
     木蔭より現れた巨躯の群れは喊声を発して突進し、狂気の瞳を只管芋の山に繋げつつ、闇雲に駈ける脚は土を踏み躙って荒々しい。
    「いくらサツマイモが美味しそうだからって畑を荒らしてはいけませんよ!」
     凛然たる声を鏑矢に殲術道具を解放した灼滅者らは、敏捷く陣を展開して迎撃した。


     長閑な朝を雄叫びに裂き、大地を揺らして迫るバスターピッグらは、人影に気付いたか、背に構えた二門より灼光を弾いて驀進する。
    「子供達のお芋掘りの為にも、ボク達の焼き芋の為にも頑張らないとね!」
     ビハインドの无名がその拳に軌道を手折って盾を成す傍ら、ユンは無数に撃ち込まれる魔光線を縫うように交わして疾駆すると、
    「張り切っていくよ!」
    「ピィギィィッ!」
     初撃、敵の群れに炎の奔流を解き放って突進力を殺いだ。
     視界を遮る紅蓮に敵勢が塊を崩した隙には、
    「素早く敵を倒せば~、畑の被害も少なくなるでしょうし~」
     と、速攻を図るノーヴェが癒しの矢を射て自陣の戟を研ぎ澄ませ、彼女のビハインドが傍らに霊障波を衝き入れると、もんどり打った個体が天を砲撃つ。
    「ピギィ! ピギッ!」
    「うわっ!」
    「化け物だ!」
     目の前の非現実に慄く大学生らには、右九兵衛が高速演算モードで照準を絞りながら避難を促し、
    「ほい、ほなにーちゃん達は、とっとと逃げ。こっからはバイオレンスフルアクションや」
    「き、君達は!?」
     彼が陣内に二人を引き入れると、美咲は己が身を包む神獣型強化装甲服【麒麟】を最終決戦形態にして驚異の目を惹き付けた。
    「畑と一緒にお主らも踏み均されてはならんからの。安全な場所まで下がるのじゃ」
    「はっ、貴女は闘いの女神!?」
    「お導きを!」
     思わず崇めようとする彼等を助け起こし、軍神が安全圏まで護送する間は、リオンがオーラキャノンを挟んで退路を守る。
    「振り向かず走って下さい! 背はお守りします!」
     腕に付けた【Le Coin Ensoleile】をギュッと掴んで緊張を解いた彼女は、そのミモザ色に援けられて闘志を覚醒させると、精緻なる軌跡に流れ弾を相殺した。
     爆ぜる衝撃は烈風と轟音を逆巻いて畑を駆け抜けるが、フレナが戦場の檻にそれらを遮蔽したお陰で村落を騒がせる不安はなく、それ故にか彼女の翼猫コンゴーも熾烈なる攻撃を躊躇わない。
    「こんなところに出てくるとは迷惑なPigたちデース」
    「ピィィギィッッ!」
     猛進する巨躯に猫魔法で応酬した相棒を見ながら祝詞を紡いだ主は、心地良い微風を前衛に送り、被弾して血を滲ませる肌を優しく癒していく。
     味方へのダメージを拒むのはさくらも同じで、
    「大切な仲間を傷つける事は許しません事よ!」
     彼女は細指に嵌めた指輪に闇の力を引き出しながら、術力を強化して自陣を支援した。
     後衛にて冷静に戦況を見極める黒瞳が、翼猫ルフナと共に駆ける疾風を見届けたのは間もなくのこと。
    「ルフナ……よろしくね」
     戦闘の直前、魂の欠片を抱き締めて初陣の無事を祈った夕弦は、その温もりに力を得たか、螺穿槍と肉球パンチと合わせた鋭撃にて敵躯を土に転がし、
    「一匹ずつ確実に数減らしてこか」
     その一瞬を右九兵衛は見逃さなかった。
     彼は沈着の裡に持ち上げた眼鏡に標的を映しつつ、閃く光弾に敵の脳天を撃ち抜き、
    「ピィギャアア!!」
     先ず一体――と囁く低音は絶叫する悪声に掻き消えるも、今のバスタービームが敵勢を揺るがしたのは間違いない。
    「動揺が走ったね! 分かるよ!」
    「ピィィギィッ!」
     咄嗟に敵陣へと飛び込んだユンが黒風を巻き起こせば、風刃に身を刻まれたバスターピッグらは地に横転して土に汚れ、
    「いきますよ~」
    「お芋と畑は守ります!」
     ノーヴェより婚星の煌きを受け取ったリオンは、超感覚を呼び起こして光条を弾き、敵の脚を灼いて機動力を奪った。
    「ピィギィィッッ!」
     一体が激痛を叫べば、他は憤怒に染まって銃を乱射し、
    「ピギッ、ピギー!!」
    「ピギャー!」
     激情のまま突進する先には――園児を待つ芋畑が静かに佇んでいる。
    「行かせないよ!」
    「シオリさん、畑を守って下さい!」
     園児に悲しい顔はさせまいと、主の意を汲んで一斉に防御を成すサーヴァント達。
     迫り出た盾は四枚と厚みはあるが、斉射して進撃する五体十門の重砲の火力は凄まじく、暴雨の如く降り注ぐ光弾に苦戦を強いられる。
    「大丈夫ですか? オーラの癒しで回復して差し上げますわ」
    「園児たち用の畑は死守デース! コンゴーも耐えて下サーイ!」
     さくらは集気法を、フレナは祭霊光を施し、敵弾と巨躯の突進が防衛線を超えぬよう援護は抜かりない。
     回復が重複せぬよう二人が声を掛け合う中、一際大きな魁偉が喚声を突き上げ、
    「ブォオヲヲォォォ!!」
     それがボスと分かったのも一瞬、鋭い発声に合わせて筒を構えたバスターピッグらは、土を踏み締めて渾身の砲弾を放った。
    「ピギィィィッッ!」
    「ピーギーッ!」
     堅牢なる盾もあわや破られるかと思った刹那、之をアイギスとならしめたのは美咲で、
    「護るものあればこそ、奮い立つものもあろう」
    「ピギャッ!」
     大学生らを避難させた彼女は、戦闘に合流すると同時に盾に加わり、一斉射撃を終えた瞬刻の敵影を除霊結界に捕えた。
     大技を繰り出した後の緩みに付け入る二の矢は既に迫り、
    「おじいちゃんとおばあちゃん、小さな子達の笑顔の為に、頑張るのですよ」
     夕弦の足元より滑った闇黒は、よりダメージを負った個体に伸びて咽喉を裂く。
    「ピ……ッギ……ッ、ッ!」
     痛撃を叫ぶ声も奪われ――二体目が土に沈んだ。


     重量ある突進と、数を活かした怒涛の侵撃、遠きにあっては砲門を唸らせる厄介な敵にも、灼滅者らは弄する術を良く心得ている。
     捕縛、足止め、パラライズ――、敵の機動を削ぐサイキックを多様に用いた彼等は、畑の被害を極力抑えつつ、凶獣らを戦術的に囲繞していった。
    「バスターライフルにガトリングガンかー、なんや親近感覚えますな」
     彗星の如く飛び込む魔光線に小気味良い笑みを浮かべて応射する右九兵衛は、格の違いを見せ付けたか、弾く鋭弾の属性を変えて敵を翻弄し、
    「俺は豚面やあらへんけど。もっと男前どすけど、なァ美咲ちゃん」
     冗談交じりの言を受け取った美咲は、シールドバッシュを衝き入れて敵面を間近に拝む。
    「豚の面の方が愛嬌があると思わんかのぅ、右九兵衛?」
    「ほんま皮肉も達者で、デコ可愛らしい」
    「~~っ!」
     怒りを付与して引き付ける筈が、自らの憤怒に敵躯を押し潰し、三体目を駆逐したのは善き誤算。
    「ピィギャアアアッッッ!!」
     数を半減させた敵勢は焦燥の色を見せるも、既に優位が覆らぬ事は明らかで、
    「畑にガイジュー(害獣)つきものデスけど、眷属とか超オジャマムシ!」
    「同感ですの」
     自陣を強化し尽くしたメディック陣が攻勢へと転じたのも、形勢不利を知らしめる。
    「すぐにオタッシャして貰いマース!」
    「神秘なる弾丸で動きを封じて差し上げますわ」
     呼吸を合わせて細指を翻したさくらが、魔弾の軌跡に敵を拘束すれば、地を滑る如く身を低くして死角に回り込んだフレナが、黒刃に敵背を斬り裂いて血潮を噴かせた。
    「ピーギーッッ!」
     尚も砲弾を止めぬ躯にはノーヴェが影を這わせ、闇の触手に縛すると同時、ビハインドが霊撃を衝き入れれば絶叫も枯れ――、
    「ピ……ギャ……ッ、ッ……」
    「これで四体目ですね~」
     戦闘中にも崩れぬ柔和な笑みが、却って残酷を突きつける。
    「ピギイィィィッッッ!」
    「ブオヲォォッッッ!」
     敗北を拒むように乱射する魁偉は、生命として窮境を悟ったか、血走った眼で灼滅者らの陣に侵攻し、邀撃に踏み出たディフェンダー陣と角逐して凄まじい波動を生む。
     尤名の霊障波を援護すべく、空を駈る双翼ルフナとコンゴーは猫魔法を合わせ、シオリがカウンターアタックに霊撃を衝き入れれば、抗衡を破られたバスターピッグらは衝撃にのたうち、
    「明日には皆が笑顔でいられるように、灼滅するのです」
    「悲しい思いさせたくないですもんね」
     頷きを交わした夕弦とリオンは感情の絆を繋いで連携も疾く鋭く、敵影を除霊結界に捉えると同時に闇黒が忍び寄り、最後の手下をトラウマに喰い尽くす。
     今際の咆吼すら深淵に呑み込めば、群れの長とて覆らぬ劣勢に尻込みもしようが、己の進退を逡巡する間もない。
    「焼き芋がボクを待っているからね! さっさと終わらせちゃうよ!」
     朝陽を背に飛翔した赫々たる緋――ユンのバニシングフレアが魁偉を包み、凄惨たる焔の渦に呼吸を奪い、
    「ブォ、ッ……ブオオヲヲォォッ!」
    「焼き豚…………はっ、ボクは何を!?」
     皮膚の焼ける様に垂涎の表情を浮かべたのも一瞬、更にグラインドファイアを被せて火柱に突き上げれば、焼豚――否、バスターピッグは灰と化して蒼穹に消えた。


     灼滅を見届けたさくらが、戦闘で汚れた眼鏡を外して拭くと、それを終幕と受け取った一同は鉾を収めて吐息する。
    「お怪我があれば回復しマース」
     フレナが緋瞳を巡らせて仲間の負傷を確かめ、その大きく真っ直ぐな眸に眼鏡を外した顔を映されたさくらは、
    「そんなに見ないで下さい。恥ずかしいですわ」
    「? 頬が赤いデース」
     クールな麗顔も何処へやら、可愛らしい童顔に照れた表情を浮かべた。
     気付けば霧は晴れており、現れた景色を眺め見たユンは土の汚れを払いつつ、
    「あとは戦闘痕の始末と……」
    「アルバイトの続きですね」
     焼き芋までもう少し、と微笑するリオンに肩を落としつつ頷く。
     そう、彼等にはまだ仕事が残っており、
    「では大学生達を呼び戻し、芋掘りを完遂せんとな」
    「あら、太陽はん喋らはった」
    「妾じゃ!」
     美咲は右九兵衛を叱り飛ばしつつ、大学生らを迎えに走った。
    「お芋掘りに戦闘と、いっぱい動いた後の焼き芋は特においしそうです~」
    「頑張り甲斐がありますね」
     ノーヴェの声に夕弦も両拳を握ると、再び気合を入れた一同は畑の修繕と芋掘りに取り掛かり、寺の鐘が正午を告げるまで黙々と作業に励んだ。

     最後に落ち葉を集めれば、あとは焚き木を囲んで腹を満たすのみ。
    「焼けてますやん」
     パチパチと爆ぜる音を耳に小枝を差し込んだ右九兵衛は、器用に焼き芋を取り出すと、
    「熱いで、気をつけ」
    「あつ、あつ」
     食いしん坊が急かしたか、直ぐさま受け取ったユンは喜色満面に包みを剥き、急いで頬張った所為で喉を詰まらせる。
    「んっんっ」
    「落ち着いて、たんとお食べ」
     老夫婦は芋掘りのみならず、猪を駆除してくれたと喜んで多くの芋を焼きいれた。
     道端に立ち上る煙は甘い馨香を放ち、
    「食欲の秋というが……匂いも良いのう」
    「ん~、焼き立てホカホカのSweet potatoオイシイデース!」
     美咲もフレナも柔らかな頬を膨らませて綻び、その破顔は見ているだけで美味しい。
    「この焼き芋、もふもふしておいしい~。いくらでも食べられますわ」
     馥郁たる香りと甘さに普段の凛然を緩ませるさくらは、時にハッとして、
    「……食べ過ぎちゃって恥ずかしいですわ」
    「今日は沢山動いたから大丈夫ですよ」
     彼女に声を掛けるリオンが両手持ちなのは、片方はシオンの分。食べ物が美味しい季節に、旬の味覚を楽しめる幸せを分かち合おうという訳だ。
     大切な人と美味しさを共有したいと思うのは夕弦も同じで、
    「火傷しないくらいに冷ましたら……はい、ルフナも一緒に食べよ」
     半分に割った焼き芋をフーフーと冷まし、端から齧らせてやる。
    「明日が楽しみですね~」
    「ほんに、皆さんのお陰じゃ。子供達も喜ぶじゃろうて」
     万一の場合も想定していたノーヴェだが、無事に守れた事は何より。
     彼女は老夫婦の笑みに制勝の感を得ると、あつあつの焼き芋を一口食べて、のんびりと微笑んだ。

     斯くして里山に平穏を齎し、勝利の福音に秋の味覚を堪能した灼滅者らは、老夫婦に見送られて戦場を後にしたのだが、翌日、芋畑に園児らの笑顔が満ち溢れた事は――立ち合わずとも目に浮かぶようだった――。
     

    作者:夕狩こあら 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年10月18日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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