ビルの殺戮鬼

    作者:望月あさと


    「どういうことだよ! こっから出られねぇなんてことあるんかよ!!」
     ビルに入ったはいいが、何故か出られなくなったことに男は憤って、辺りにある物を手当たり次第に蹴り上げた。
     同じく閉じ込められた人たちが、激しい音を聞いて短い悲鳴をあげる。
    「イライラするぜ……。そうだ、あんた……。そう、あんただよ、ねえちゃん。あんた、やわらかそうな肉してるな……」
     男は、顔を真っ白にして足を震わせている女性に目を向けた。
     男は、手に持っているナイフを舐める。
    「こんなにイラついちゃあ、考えることもできねぇ。ひとまず、落ち着かせてもらおうか!」
     男は、ナイフをぎらつかせると、女性を始め、周りにいる人たちを無残な姿に切り裂いた。
     

    「エンドレス・ノットの行先はどこかと調べていたら、新たな六六六人衆の密室事件が発生していることがわかったんだ」
     有城・雄哉(高校生ストリートファイター・d31751)は、抑揚のない表情で淡々と語った。
     今までの密室と異なり、中にいる六六六人衆も密室に閉じ込められ脱出できないらしい。そのためか、六六六人衆は同じく閉じ込められた一般人を殺戮しようとしているようだ。
    「一般人を殺す六六六人衆は灼滅しなくてはいけない。
     密室は中から外に出られないだけで、外からは簡単に中へ入ることができる。だから、今回の事件をエクスブレインが予知できたみたいだ」
     雄哉はエクスブレインから聞いた内容を話し始めた。
     
     場所は5階建てのビル。
     閉じ込められた六六六人衆は、ビルから出られない苛立ちから閉じ込められている一般人を手当たり次第に殺そうとしている。
    「六六六人衆は、1階から順に人を殺して上の階へあがっていく。
     僕たちが着いた頃には、すでに1階にいた人たちは殺されてしまっているようだ。
     ただ、ビルに入ってまっすぐに2階へ向かえば、2階へ行くために階段を上っている六六六人衆と出くわすことができる」
     移動方法は、階段とエレベーターの2種類。
     階段を使えば、六六六人衆の背を追い、エレベーターを使えば六六六人衆の前に出る形になる。
     しかし、エレベーターは、階段を使うより遅くたどり着いてしまう。
    「戦闘場所は、階段になるだろうけれど、作戦しだいでは、六六六人衆2階に上らせて広い所で戦う所もできるみたいだ。
     どちらにするかは、僕たちが決めていいとエクスブレインが言っていた。
     あと、一般人は、六六六人衆が怖くて上に逃げているから、2階には誰もいないみたいだよ」
     どちらにしても、一般人を気にすることなく戦える。

    「六六六人衆は、奇里という20代前半の男だ。
     ナイフを武器に、近接攻撃を得意としている。かなり、狂気じみているようだから、説得には応じないだろうね」
     奇里は、ナイフで一人を惨殺する技と、ナイフをふるって起こした風を遠くまで飛ばし、そこにいる一列を切り裂く技を使ってくる。

    「この密室は、閉じ込められた六六六人衆が作ったものではないみたいだ。何者かが何らかの目的で密室に六六六人衆を閉じ込めたらしい。もしかしたら、新たな密室殺人鬼を生み出すためかもしれない。
     エンドレス・ノットが関わっているのかわからないけれど、みんな、この事件の解決をお願いできる?」
     雄哉は、そう言って言葉を閉じた。


    参加者
    阿々・嗚呼(剣鬼・d00521)
    不知火・隼人(蒼屍王殺し・d02291)
    梓奥武・風花(雪舞う日の惨劇・d02697)
    垰田・毬衣(人畜無害系イフリート・d02897)
    中島・陽(ハートフルメカニック・d03774)
    渡世・侑緒(ソムニウム・d09184)
    アデーレ・クライバー(地下の住人・d16871)
    成田・樹彦(紅い夢・d21241)

    ■リプレイ

    ●1
     灼滅者は、1階に止まっていたエレベーターへ乗り込んだ。
     扉を閉じて、2階のボタンを押せばエレベーターが動き始めた。
    「六六六人衆絡みの密室は以前にも何回かありましたが、ダークネスも閉じ込められて出られないとは、今回は少し毛色が違うようですね」
     それでも、やることは変わらないとアデーレ・クライバー(地下の住人・d16871)は思いながら、サングラス越しに扉を見た。
     見慣れているはずの扉が重く見える。
     垰田・毬衣(人畜無害系イフリート・d02897)は眉根をよせてうなった。
    「がぅー。六六六人衆自身が密室に閉じ込められるっていうのは気になるけど、一般人を殺させちゃ駄目なんだよ! まだ殺されていない人達のためにも全力で行くんだよ!」
    「そうですね。殺界形成を使って、上にいるという一般人が興味本位で降りてこないようしますね」
     アデーレは、万が一をも考えていた。
    「六六六人衆。不思議なことですね、密室に閉じこめられるなど。ですが、これ以上、やらせはしません。全力で止め、きっちり灼滅します」
     梓奥武・風花(雪舞う日の惨劇・d02697)は、表に出していないが、宿敵である六六六人衆のやり方は気に入らなかった。
    「一般人の被害は増やしたくないところですし、ある程度の努力はしますかね」
     阿々・嗚呼(剣鬼・d00521)は、口の端を持ち上げて日本刀の柄に手をそえた。
     中島・陽(ハートフルメカニック・d03774)は、エレベーターの出入り口の前に立って目を鋭くさせる。
    「犠牲者が出てるのは悔しいけど、これ以上絶対にやらせない!」
     2階のエレベーターが止まり、扉が開いた。

    ●2
     2階へ立った灼滅者は、誰もいない広間を見渡した。
     大きな窓の横に植物が倒れているのは、一般人が殺されないように慌てて逃げたためだろうか。
     エレベーターの側にある階段の方に耳を傾ければ、六六六人衆の上がってくる足音が聞こえてきた。血に飢えた息づかいも聞こえる。
    「六六六人衆を広い場所へおびき寄せるために、ここで待ちませんか?」
     風花は、2階の中でも動きやすい場所の中央へ仲間を集めた。
     六六六人衆を待ち受けるのだから、わざわざ狭いところで戦う必要はない。しかも、そこは3階へ続く階段へ背を向けることができた。
    「ここだと、安心して戦えそうです。これ以上の犠牲は絶対に出さないように頑張らないとです!」
     渡世・侑緒(ソムニウム・d09184)は、もふもふなウイングキャットをぎゅっと抱きしめる。
     階段から人影が現れた。
    「みーっけ」
     階段を上がりきった奇里は、灼滅者を見つけると、にたー。と、笑って血に濡れたナイフを舐めた。
     殺せる相手を見つけたとでも思っているのだろう。
     不知火・隼人(蒼屍王殺し・d02291)は、ワイルドな顔を笑ませて片手を軽くあげた。
    「よう、殺人鬼。邪魔させてもらうぜ」
    「初めまして奇里さん。嗚呼です」
    「んんー? てめぇ、なんで俺の名前を知っているんだ」
     奇里は怪訝そうな顔をして、殺気を強めた。
     しかし、嗚呼は相手が敵であっても礼儀を忘れず、静かな表情を返した。
    「ここに閉じ込められたみたいですが、何か心当たりはありませんか?」
    「あぁ?」
    「前に、何かやらかしてしまったとか」
    「さっきから、訳のわかんねーこと、ごちゃごちゃうるせぇーなぁ!」
    「おや、何やら苛立っているようですが。カルシウム取ってますか?」
    「今から取ってやるから、てめぇの骨をよこせや!」
     ナイフを突き出した奇里が灼滅者たちへ向かってきた。
     毬衣と陽は、密かに3階へ続く階段を意識する。
     隼人はイグニッションカードを手にした。
    「さあ、ここからは狩りの時間じゃねぇ。俺たち灼滅者とお前達ダークネスの戦いの時間だッ!」

    ●3
     赤い3本角を額に生やした装備へ変わった隼人は、クラッシャーとして奇里に突進した。
     今回は、ディフェンダーやメディックの人数がしっかりといる思いが隼人の足を躊躇させない。
    「これでもくらえ!」
     隼人は、右腕に持つ弑逆之杭“蒼屍王殺シ”で奇里を殴りつけた。
     嗚呼も、アイアンキッカーの摩擦によった起きた炎を足にまとって蹴り上げる。
     侑緒は飛び蹴りを炸裂させて、風花は祭壇を展開させて、技の持つ枷を奇里に与えた。
    「てめぇー!」
     奇里はナイフで隼人をめった刺しにした。
     その衝撃は、一般人なら声を上げることもできずに命を落とす強さだ。
     しかし、相手は灼滅者。即死はしない。
    「死ね、死ね、死ねぇー!!!!」
    「悪いわね、そっちが単調な攻めなら……こっちは手堅く支えさせてもらう!」
     白地に青い線の入った憑依霊装式強化外骨格“転神”専用インナースーツに身を包んでいる陽が、小さな光輪を放って隼人を癒した。
     成田・樹彦(紅い夢・d21241)も、クラッシャーが怪我を気にせず戦えるために、ヴァンパイアの魔力を宿した霧を広げて治癒を施す。
     毬衣は、ふと奇里の視線を遠くにとらえたことに気づいた。
     灼滅者たちの後ろには、3階へ続く階段。
     奇里はニタリ。と、笑うと、灼滅者たちの中を突っ切ろうと駆けだした。
    「ひゃははは! 殺せるやつは、まだいるぜ!」
     奇里は、灼滅者を簡単に殺せないと判断して、上の階にいる新たな獲物を見つけようとしたのだ。
    「逃がしはしません」
     風花は、急いでエアシューズをすべらせた。
     全身で蹴るかのように炎をまとった足をふりあげ、奇里の行く手を阻む。
     毬衣は、すかさず飛びかかった。
     それは、獣と見間違うような姿だ。
    「つまんない、もっと遊んでもらうんだよ! ぐっと溜めて……がぅーっ!」
     毬衣は、雷を宿した拳を力いっぱい振り上げ、奇里の顔を天井へ向かせた。
     そして、隼人がご当地ビームを撃ちだせば、奇里の表情は怒りに満ちた。
     歯をギリギリならして灼滅者たちをにらみつける奇里は、ナイフを持ち構える。
    「てめぇら、許さねぇ!!」
    「剣風、来るよッ!」
     陽はナイフが振るわれるしぐさに声を上げた。
     ナイフで起こした風が鋭い凶器となって、前衛陣かけめぐろうとしている。
    「ヴェスさんお願いします!」
     侑緒は、すぐに陽の言葉に反応をして、ウイングキャットと共に仲間をかばった。
     相手をよく見、連携ができる時を見逃さないように意識を向けていたため、とっさでも動けたのだ。
     風の刃を受けずにすんだ嗚呼は、奇里の懐へもぐりこんだ。
    「ナイフ、お好きなんですか? 奇遇ですね。私も刃物が好きなんです」
     刀を使うのが一番楽しいと感じる嗚呼は、一瞬で圧壊刀『かいしん』を抜いた。敵への礼節を忘れずにしっかり殺しにかかる。
     奇里が汚い声の悲鳴をあげた。
     サングラスをはずして戦っていたアデーレは、奇里の見せたわずかな隙を逃さず、オーラを集束させた拳を何度も打ちつけた。
     奇里はナイフを横にふりはらい、アデーレを傷つけようとする。
    「離れるのです!」
     侑緒は、思い切り奇里を殴りつけて霊力を放出し、アデーレが離れる間を作った。
     その代償にナイフを突き刺かれ、侑緒は顔をしかめる。
     毬衣は、倒れないのが仕事なのだ。と、回復役に回ってすぐに傷を癒した。
    「持ちこたえようね」
     樹彦は、天上の歌声で一人一人を癒す。
     アデーレは、寄生体に殲術道具を飲み込ませて、巨大な鷲のつめのような刃を作り上げた。
    「翻弄する側の立場と逆転しちゃった感じですかね?」
     アデーレは、刃をふりおとして鮮やかな一閃を描いた。
    「この……俺様……が」
     くぐもる奇里の最後の言葉となった。

    ●4
    「終わったから、1階で殺された人の死体を片づけようっと。放置したまんまじゃ、色々よくないもんね」
     毬衣は、仲間をエレベーターに乗せて、一緒に1階へ下りた。
     1階は来た時と同じ光景で何人もの遺体が転がっている。
     特に、階段付近にたくさんあるのは、たくさんの人が上に逃げようとしたからだろう。
    「上には、人がいるんだよね。うかつに片づけたりしたら、逃げた人たち変に思わないかな」
     樹彦の言葉に、毬衣は片づけようとしていた手を、ぴたり。と、止めた。
     姿は見えなくても、一般人はいるのだ。
    「がぅ……」
     悲しいけれどこのままの方がいいと思った毬衣は、小さく鳴いた。
    「せめてもですが、私が走馬灯使いを試みてみます。……せめて、最期は安らかに過ごしてほしいですから」
     失われた命に、ごめんなさい。と、心の中でつぶやいた風花は、遺体の損傷が少ない人へかりそめの命を与えようと遺体に手を当てた。
     しかし、うまくいかない。見た目よりも傷が深いのかもしれない。
     その間にアデーレは、仲間に手伝ってもらって以前に報告があった密室事件と比べて変わったことがないか調べてみた。
     色々さぐってみたが、特に変わったことはない。
    「ビルからは、出られるようになったみたいね」
     陽は、電気系統などにも問題がないことを確認しながら言った。
     全てに走馬灯使いを終えると、長居はできないと、灼滅者たちはビルから外へ出た。
     ふと、嗚呼は、侑緒や隼人たちへ振り向き、
    「一人だけですが、かりそめの命をもらった人がいたようです」
     嗚呼は、一人だけ胸を動かしている一般人の姿を思い浮かべた。

    作者:望月あさと 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年10月25日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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