先生、出番ですよ?

    作者:波多野志郎

     滋賀周辺のその町に、その男は不意に現われるようになった。
    「ふむ、異常はないでござるな」
     時代劇の浪人のような姿、そこまでは百歩譲っていいだろう……良くはないが。その頭は、刀――刀剣怪人である。時折すれ違う人々も、恐れて近付こうとはしない。その姿以上に、まとう空気が剣呑であった。
    「卑劣漢なり、武蔵坂。許しはしないでござるよ」
     瓦の目、という鈍く輝く刃紋を輝かせ、刀剣怪人は言い捨てる。よらば斬る、そんな空気があった。そして、それは事実だ。己の役目の邪魔になる者は迷わず斬る、そういう決意が彼にはあったのだから……。

    「灼滅者がいけないナースを灼滅している事を知った安土城怪人が、いけないナース達を守るために、琵琶湖周辺の町を刀剣怪人を巡回させ始めたんすけどね?」
     湾野・翠織(中学生エクスブレイン・dn0039)は、そうしみじみとため息をこぼす。
     今回、翠織が察知したのはダークネス、ご当地怪人である刀剣怪人の存在だ。
    「滋賀周辺の町で、刀剣怪人がこちらの動きを警戒して見回りをしてるんすよ。一般人を襲うという事は無いっすけど、このまま放置すると、いけないナース事件の解決に向かう灼滅者が危機に陥るかもしれないっす」
     だからこそ、先に見つけて灼滅して欲しい――そういう事だ。
    「夜、町を巡回しているところに、接触してほしいんすよ」
     刀剣怪人は1体のみ。町中を堂々と巡回する刀剣怪人に勝負を挑んでほしい。刀剣怪人が巡回している通りには、公園がある。そこに誘えば、素直に応じるだろう。
    「そこで、ESPによる人払いをしておけば問題ないっす。光源も街灯があるから問題ないっす」
     相手は、どうやら正々堂々戦うのを望んでいるらしい。正面から、受けてたってくる――ただし、強敵だ。きちんと作戦を練った上で、連携しなくては返り討ちにあうだろう。
    「精鋭である刀剣怪人を灼滅する事ができれば、最近勢力を大きく伸ばしている安土城怪人への打撃にもなるはずっす。どうか、よろしくお願いするっすよ」


    参加者
    天方・矜人(疾走する魂・d01499)
    識守・理央(オズ・d04029)
    赤星・緋色(朱に交わる赤・d05996)
    桐淵・荒蓮(タカアシガニ調教師・d10261)
    西原・榮太郎(霧海の魚・d11375)
    吉野・六義(桜火怒涛・d17609)
    白石・作楽(櫻帰葬・d21566)
    旭日・色才(虚飾・d29929)

    ■リプレイ


     時刻は夜半、滋賀周辺のその町に男の姿はあった。時代劇の浪人のような姿に、頭を瓦の目という鈍く輝く刃紋を輝かせた刀にした者――刀剣怪人だ。
     よどみない歩みが、不意に止まる。そして、その言葉が投げかけられた。
    「武蔵坂学園、天方矜人だ。ちょっとオレ達に付き合ってくれ、刀剣怪人さんよ」
     そこにいたのは、天方・矜人(疾走する魂・d01499)だけではない。
    「こんばんは刀剣怪人さん。武蔵坂灼滅者だよ。私達を探してたのならちょっとそこで勝負していかないかな」
    「ほう、堂々現われるとは」
     赤星・緋色(朱に交わる赤・d05996)の言葉に対する刀剣怪人の声色には驚きの色がある。吉野・六義(桜火怒涛・d17609)は踵を返し、刀剣怪人へと告げた。
    「どうせなら邪魔の入らない場所で思いっきりやろうぜ」
    「探してたんだろ。武蔵坂の灼滅者を。勝負を挑ませてもらう」
     識守・理央(オズ・d04029)の視線を受けて、刀剣怪人の頭がキラリと光る。それが笑みに見えたのは、決して錯覚ではなかった。
    「ふむ、話が違うでござるな」
    「話が違う、とは?」
     何気ない刀剣怪人の言葉に、白石・作楽(櫻帰葬・d21566)が問いかける。灼滅者達と共に歩き出した刀剣怪人は、その問いに答えた。
    「いけないナースの方々の、傷ついた者を治してやりたいという想いを利用した卑劣な闇討ちを行なう悪漢ども、と伝え聞いていたが……会えば、中々の正々堂々。少し、調子が狂うでござるな」
    「……今迄学園が行った身を張ったナース達への騙し討ちの事を考えれば、そちらの言い分も尤もではあるな」
    「が、勝負は勝負。手加減はせぬし、無用でござる」
     竹を割ったような返答に、思わず作楽も苦笑する。
    (「刀剣だけあって……かどうかは知らんが、見上げた職務熱心だ」)
     しかし、そこに付け入る隙がある、と桐淵・荒蓮(タカアシガニ調教師・d10261)はそう判断した。
    「ここで、いいのでござるな?」
     小さな公園、そこにたどり着くと刀剣怪人が確認する。それに、旭日・色才(虚飾・d29929)が前髪を掻き上げながらニヒルに笑った。
    「ふっ、互いに信ずることがある者たち同士の戦いといったところか。つまりは勝ったほうが正しいということだ。腕が鳴るな」
     そして、色才が、作楽が、スレイヤーカードを手に告げる。
    「封印されし絢爛なる魔獣よ、我が力として顕現せよ!」
    「一期は夢よ、ただ狂え」
     戦闘体勢を整えた灼滅者達に、刀剣怪人も腰を落とした。左腕に手を伸ばし、虚空を掴むとそこに刀が出現する。
    「やれやれ、あちらさんも意図があっての事とはいえ……此方側としてはなんとしてもご退場願わないといけませんな。やるべき事は何時もと変わらず――きっちり灼滅致しましょうか」
     西原・榮太郎(霧海の魚・d11375)が言い捨て、2振りの和式ナイフ――切歌を引き抜いた。
    「鳴神抜刀流、霧淵荒蓮。……いざ、尋常に!」
    「拙者は無銘、銘無き刀剣怪人にござる……参る!」
     荒蓮の名乗りに答え、刀剣怪人は刀を横一閃に振り抜く。その鮮やかな斬撃が衝撃となり、灼滅者達を襲った。


     ドォ!! と、鈍い衝撃音が鳴り響く。その衝撃の中を、矜人が駆け抜け聖鎧剣ゴルドクルセイダーを柄を掴んだ。
    「さあ、ヒーロータイムだ!」
     ガガガガガガガガガ! と鞘が分解、鎧となりながら矜人を包む。破邪の白光が闇夜に軌跡を刻み――。
    「ッ!?」
     ガキン! と火花を散らせ、刀剣怪人の刀に受け止められた。ただ、受け止められたのではない。ほんのわずかな握りの遊び、それが矜人のクルセイドスラッシュの一撃の威力を逃がし、受け切らせたのだ。
    「いけないナース達の為にこんな夜中に巡回するなんて殊勝なこった。もしかして、気になってるナースでもいるのか? もしそうだとしたら、尚更オレ達を止めなきゃなあ?」
     ギリギリと鍔迫り合いしながら矜人は言い放ち、ふと我に返る。
    「……あれ、なんかオレ達悪者っぽくね?」
    「まったくでござるな!!」
     ガッ! と刀剣怪人の前蹴りが、矜人を吹き飛ばした。そこへ、理央は交通標識は赤色標識にスタイルチェンジした交通標識を渾身の力で振り下ろした。
    「正々堂々、か。嫌いじゃないよ。そういうの。……受けて立つ」
    「そう、そういうノリでいいでござるよ?」
    「ああ、勝負といこうじゃないか!」
     ガッガガガガガガガガガ! と一合、二合、三合と交通標識と刀が激突する。互いに一歩も退かぬ攻防、そこに緋色が飛び込んだ。
    「ふははははー。かかったな刀剣怪人め! いけないナースを灼滅してたのは、精鋭である刀剣怪人をおびき寄せるための罠だったんだよ!」
    「何と、やっぱり卑劣!?」
    「あ、嘘」
    「そうでござるかー」
     緋色の繰り出した螺旋を描く槍の刺突を、刀剣怪人は弾き、掻い潜っていく。左右からの攻撃を受け切れない、と判断すると、刀剣怪人は迷わず後方へ跳んだ。
    「鳴神抜刀流、太刀之事始――」
     しかし、その着地点に死角から荒蓮が回り込んでいる。納刀したままの刀の柄へ手を伸ばし――。
    「一閃ッ!」
     ザン! と着地した刀剣怪人の足を、抜刀による斬撃で切り裂いた。刀剣怪人の体勢が崩れる――と思った瞬間、斜め上から振り下ろす上段回し蹴りが、荒蓮の首を薙ごうとした。
    「蹴りか」
     荒蓮はそれをすかさず身を退いてやりすごす。タタン、と着地しながら刀剣怪人は言い捨てた。
    「剣道にあらず、剣術でござるからな。剣は術のひとつにすぎんでござる」
    「刀を使う者としては一度位は相見えてみたかったのですよね、刀剣怪人」
     言い捨て、榮太郎が踏み込む。近い間合いだ、刃が意味のないその位置で榮太郎は花を模した光の障壁を拳に展開し、拳を押し当てた。
    「刀とのやり方を知っているでござるな!」
     榮太郎のシールドバッシュを腹部に受けながら、刀剣怪人はその肘を落とす。それを榮太郎は一撃を繰り出した勢いそのまま、駆け抜けてかわした。
     そして、そこへビハインドの琥界がキセルを咥えて迫る。ガガガン! と刀剣怪人と琥界が打ち合う中、作楽は蒼く輝く刀身に茨と月の装飾が施された偃月刀を演舞がごとく優雅さで振り抜いた。
    「ハアッ!!」
     裂帛の気合と共に放たれた氷柱、作楽の妖冷弾を刀剣怪人は斬撃波で撃墜する。バキン! と舞い散る氷、その中を色才が駆け抜けた。
    「さあ……宴の始まりだ……!」
     まるで不死鳥が翼を広げるかのごとく両腕を掲げ、色才は跳躍する。そして、横に一回転――ゴォ! と炎をまとった蹴りが、刀剣怪人へと放たれた。
    「無駄に洗練された無駄な動きを……ッ」
     色才のグラインドファイアを刀剣怪人は刀で受け止め、踏みとどまらずに横へ跳ぶ。その間に、ウイングキャットのクロサンドラの鈴が尾のリングを輝かせた。
    「夜桜も悪くないだろ。ソメイヨシノビーム!」
     ソメイヨシノ発祥の地とされる駒込のご当地ヒーローである六義が、桜色のビームを刀剣怪人へと打ち込んだ。舞い散る花びらのようなビームの残滓の中、刀剣怪人は刀を構える。
    「ただのチャンバラ遊びとは違うって事を見せてくれよ!」
    「刀剣魂、お見せするでござる!!」
     六義の挑発に、刀剣怪人が断言した。全ては刃で語ろう――その気迫を灼滅者達は真っ向から受け止めた。


     剣戟の音が、心を揺さぶる。
    「まったく、ここまでですか」
    「それは、こっちの台詞でござる」
     ガ、ガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!! と榮太郎と刀剣怪人の刃が激突した。二刀と一刀、小回りで勝る榮太郎の斬撃を刀剣怪人は技で受け流す。そこへ、緋色が大きく跳躍して襲い掛かった。
    「ちょいやー!」
     ドォ! と緋色の跳び蹴り、スターゲイザーを刀剣怪人は紙一重で受け止める。ズン、とかかる重圧に、矜人が回り込みタクティカル・スパインを手の中で回転。
    「おっらああああああああ!!」
    「ぐぬ!?」
     ゴォ! と矜人が繰り出した横薙ぎのフォースブレイクが命中、衝撃に刀剣怪人が吹き飛ばされた。それでも、刀剣怪人は着地に成功、そこに六義はデモノイド寄生体で生み出した砲門を向ける。
    「目標捕捉……ファイヤー!」
    「チェイ――!!」
     ドン! と六義の撃ち込んだDCPキャノンを刀剣怪人は着地と同時に大上段、相殺して両断した。しかし、ドン! と爆発が巻き起こり、荒蓮がその爆炎ごと死角から刀剣怪人を切り裂く!
    「削って削って磨り上げきった刀はもはや刃こぼれを待つのみだそうだ。……お前もじきにそうなるだろう」
    「面白い冗談でござるな!!」
     荒蓮の挑発に、刀剣怪人はその場で一回転。森羅万象断の一撃で、周囲を薙ぎ払った。その衝撃を飛び越えたのは、理央だ。
    「個の力で劣る分は連携で補う。敵は一人。こっちは8人――」
     それを刀剣怪人が、下段から刃を振り上げ迎撃する。だが、その軌道の直前で体を空中で捻り――理央は、踵を落とす!
    「ちゃんと力を合わせれば勝てるはずだ」
    「なるほど、道理だな」
     作楽の足元から音もなく、墨染の桜吹雪が舞い踊った。その影の破片はそれぞれが刃となって刀剣怪人を花吹雪で切り刻んでいく。そして、琥界がその手の中の枝を振るった瞬間、霊障波が刀剣怪人を襲った。
    「クロサンドラの鈴よ、我が風に続け!!」
     色才がガチャリ、と剣を掲げた瞬間、セイクリッドウインドの風が吹き抜ける。それに合わせ、クロサンドラの鈴も尾のリングを輝かせた。
    「大したものでござるな、半端者でありながら」
    「灼滅者が「守る」事に関してダークネスに後れを取るわけにはいかねえ!」
     刀剣怪人は、六義のその言葉に小さく笑みを漏らして言う。
    「言ったでござるな――灼滅者」
    (「やはり、ダークネス。侮れる相手ではないな」)
     理央が下したその判断は、正解だ。刀剣怪人の実力は、こちらが全員力を合わせてようやく拮抗する――そういうレベルだ。だからこそ、連携が活きる。一進一退の真っ向勝負、その均衡を崩したのは――。
    「俺の技の切れ味もお前に負けちゃいないぜ!」
     武器を飲み込んだデモノイド寄生体の刃の切っ先を六義は真っ直ぐに、刀剣怪人へと突きつける。
    「いくぜ、文字通りの真剣勝負だ!」
    「応でござる!!」
     それに、刀剣怪人は左手を横に払い、答えた。その左手にもう一本の刀が握られ、まるで鋏のように交差された二刀が、六義の首を狙う!
    「お――ッ!!」
     その殺刃鋏を、六義は大上段の斬撃で受け止め――そのまま、振り切った!
    「ぐ……ッ!?」
     六義のDMWセイバーに切り裂かれながら、刀剣怪人が後退する。そこに、榮太郎は切歌を金具で鋏の形に戻して迫った。
    「……鋏の試し斬り位はしても良いですかね」
     ガギン! と榮太郎の蒐執鋏が刀剣怪人の刀を刻み、鋏がそれを喰らう。残った一刀を構えた刀剣怪人へと琥界が豪快な霊撃をたたき込み、作楽は瑠璃水晶の神床に、古巻物と蔦花が絡む縛霊手の一撃を叩き込んだ。
    「今だ――!」
    「あぁ」
     そこへ続いたのは、理央だ。畏れを宿した槍を鋭く振るい、刀剣怪人を吹き飛ばした。
    「と、とと!!」
     空中で身を捻り、体勢を立て直した刀剣怪人が着地する。その間隙に、荒蓮は燃え盛る回し蹴りを刀剣怪人の刃の顔へと叩き込んだ。
    「どうした? 動きが荒いぞ?」
    「ッ! 忠告、感謝するでござる!」
     蹴り飛ばされながら、刀剣怪人は呼吸を整える。よくよく考えれば、どこが口かもわからないのだが。
    「俺のクロスコンバットスタイルを見せてやろう」
     右腕一本で巨大なクロスグレイブを振るい、色才が言い放つ。ダダダダダダダダダダダダン! と空中で十字架と刀が火花を散らす中、クロサンドラの鈴の猫魔法が刀剣怪人を拘束した。
    「さあ、ダイナマイトにハジけるぜ!」
     そして、そこへ目映い光に包まれた矜人が駆ける。ガルン! と炎が噴出すマフラーから轟音を轟かせ、矜人はゴルドクルセイダーを振りかぶった。それに合わせ、緋色が跳躍――!
    「ふきとべー。とどめの小江戸キーック!」
    「斬捨御免! ダイナマイト・ストライザー!」
     ご当地の力の宿る跳び蹴りが頭の刃を砕き、非実体化した魂を断ち切る刃が胴を一刀両断する――その連撃に、刀剣怪人は満足げに笑った。
    「見事……否、美事に、ご、ざる――!!」
     ドォン! と刀剣怪人が、爆発する。剣に生き、剣に終わった怪人の、最期であった……。


    「存分に怨んでくれ。互いに生きる道が交われないのは今に始まった事ではないからな……善き黄泉路を」
     作楽は、そう黙祷を捧げた。あるいは、あの刀剣怪人ならば敗れた己の不足を口にしても、恨み言は口にしないかもしれない。だとすれば、それは互いにとっての救いになるだろう。
    「乱入は、ないようですね」
     気を抜かずにいた榮太郎のその言葉に、緋色は小首を傾げて言った。
    「いけないナースが灼滅されて、刀剣怪人も灼滅されて、安土城怪人は次にどんな手で来るのかな?」
     今、この場に襲撃がなくてもこの戦いの結果が次へと繋がる事だろう。そして、それがどうどこへ繋がるのかを、知る術は今はない。
    「では、掃除だけして去るとするか」
     荒蓮は、そう周囲を見回した。戦いで荒れ果てた公園を整え直し、灼滅者達はその場を後にする。この戦いの先を知るのは、勝者の権利であった義務である――だからこそ、彼等は新たな戦いのために帰路へとついた……。

    作者:波多野志郎 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年10月21日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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