頭が刀になった怪人……怪人としか表現のしようがないそれが、殺気立った様子で、街をうろついていた。人々はそれに一瞬視線を向けるが、すぐに何もなかったかのように目を逸らす。
関わり合いにならないのが一番だ。そんな剣呑な空気があった。
「……灼滅者め、この刀の錆にしてくれよう」
その任務は警邏のはずだが、その実、怪人は敵を斬りたくてしょうがなかった。それこそが刀の存在意義なのだから。
むしろ敵よ現れろと念を込めながら、刃は闊歩する。
安土城怪人が、琵琶湖周辺で活動するいけないナースを守るために、刀剣怪人を放ったようだ。灼滅者達が見た予兆を信じるなら、グレイズモンキーあたりの入れ知恵もあるのかもしれない。
「ともあれ、これはよくない状況よ」
現在、いけないナースを駆逐する作戦も並行して展開されている。刀剣怪人を放っておくと、そちらの行動が大きく制限されるだろう。
加えて、刀剣怪人は安土城怪人配下の中でも精鋭だ。この機に灼滅してしまえるなら、大きなチャンスでもある。
「放っておいたら安土城怪人とナースの間で利害の一致も生まれるかもしれないし、潰しておくに越したことはないでしょうね」
と、目。他のダークネスに取り入るのは淫魔の常套手段。それが成功しかけていると見ることもできる。
「刀剣怪人は街を巡回しているわ。ただ、かなり殺気立ってるからみんなを見かけたらすぐに攻撃してくる」
できれば、一般人がいない場所で戦闘に持ち込みたいところだ。怪人は自分から一般人を攻撃することはないが、巻き込むことは気にしない。
「だから、河原を通ったところで戦闘を仕掛けるのがいいと思う。昼間なら、人は通らないから」
刀剣怪人は、日本刀とご当地怪人のサイキックを使う。配下となる戦闘員はいないが、その分、実力は確かだ。
「じゃ、頼んだわよ。刀剣怪人が街をうろうろするのも物騒だしね」
この作戦が成功すれば、安土城怪人といけないナース両方の力を削ることにもなる。特に前者は勢力を広げているため、大きな意義のがあるだろう。
参加者 | |
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神楽・三成(新世紀焼却者・d01741) |
マルティナ・ベルクシュタイン(世界不思議ハンター・d02828) |
風雷・十夜(或いはアヤカシの血脈・d04471) |
新月・灯(誰がために・d17537) |
栗元・良顕(にんげん・d21094) |
スペチアリヌイ・アフタマート(ペネトレイトアビスウォーター・d25565) |
ルチノーイ・プラチヴァタミヨト(トライエレメンタルドラグーン・d28514) |
柊・玲奈(カミサマを喪した少女・d30607) |
●抜刀
刀剣怪人を倒すため、灼滅者達はエクスブレインの指定した河原で待ち伏せしていた。十月も半ばとなればずいぶん風も冷たくなり、水辺では肌寒いくらいだ。
やがて、きらりと光るものが視界に入ってきた。当然、刀剣怪人である。抜身の刃は点を穿つかのごとくそびえ立ち、その戦意の高さを思わせる。
「よう鈍ら野郎、薄汚ねえ面晒してお散歩か?」
念のため殺気を放ちながら、神楽・三成(新世紀焼却者・d01741)がそう罵声を浴びせた。普段は至極慇懃な彼であるが、戦場においては野獣じみた凶暴性を見せていた。
「ほう、俺が鈍らとはな。では貴様らは随分と切れ味が良いのだろうな」
こちらの姿を認め、怪人は不敵に笑った。ようやく獲物に遭えたのだ。歯応えがなくてはつまらない、と。表情など分からないが、しかし好戦的な空気が全身から滲んでいた。
「辻斬りなのです怖いのです」
思わずぶるりと身体を震わせるルチノーイ・プラチヴァタミヨト(トライエレメンタルドラグーン・d28514)。怪人の士気は高い。隙を見せれば、容赦なく切り捨てられるだろう。外見とは裏腹に、怪人の実力は確かだ。本能が逃げろ、と警告する。
「……ふぅん、こんな形なんだ」
栗元・良顕(にんげん・d21094)は怪人を一瞥して呟いた。やる気があるのかないのか、ぼんやりしている。
「よっしゃ、やろうぜ。待ちかねたぜ」
武装を解放した風雷・十夜(或いはアヤカシの血脈・d04471)は、右に槍を、左に霊縛手を装備。さらに槍をくるりと鮮やかに名回転させ構える。ウイングキャットのゼファーも彼の頭上で同じ構えをとった。主従そろって燃えていた。
その後ろで、神妙な面持ちで新月・灯(誰がために・d17537)はギターの絃に触れながら、遮音のESPの発動を念じる。
(「みんなの足を引っ張らないようにしなくちゃ」)
今回は怪人の妨害を担う。その役割を果たせなければ、より仲間が傷付くことになるだろう。そう思うと、緊張で指が硬くなる。
「おお、なんて出オチ……」
刀剣怪人の頭に、気が付いたら感想が口に出ていた。マルティナ・ベルクシュタイン(世界不思議ハンター・d02828)の傍らで霊犬の権三郎があんぐり口を開けているが、知らん顔。
「銘を聞いてもいいかな? 私は武芸者じゃないけどね、名乗り位は聞いてあげる」
柊・玲奈(カミサマを喪した少女・d30607)は黒の刀を抜き放ち、そう問うた。怪人を倒せば天海に利する可能性もあるが、こうなってはもはや斬り合うのみ。
「ふん、銘など要らぬ。名前で切れ味が増すわけではないからな」
その問いを、怪人は切って捨てた。その身は剣、ただ斬るのみ。名誉など二度の次であった。敵を斬ることこそ存在意義であり、同時にそれを示すことが彼の望みなのだ。
●推参
刀剣怪人一体に対して、灼滅者側は八人とサーヴァントが二体。頭数は上だが、果たして。
「では、推して参る!!」
叫びとともに抜き放たれる一刀。主と同じく、飾り気もない、何の特徴もない刀だ。けれど、刃には並々ならぬ『斬る』という意思が秘められていた。闘気が集まり、振り抜くと同時、光線となって後衛へと襲い掛かる。
瞬間、弾かれたように玲奈が動いた。ギリギリのタイミングで射線に割って入る。
「……やるね」
舌を出して、小さく笑う。ぱっくり避けた肩からは鮮血が流れ、覗けば骨が見えそうだ。けれど、顔にはまだまだ倒れぬと書いてあった。こんなところで破れるつもりはないのだから、それも当然。
「これアレでしょ、『またつまらぬ物を』的な」
くだらない事を口走りりつつ、マルティナはすかさず縛霊手から癒しの光を飛ばす。何か反応ないかな、と権三郎を見るが、敵の動きに神経をとがらせているためその余裕はなかった。サーヴァントの方がよほど真面目だ。
「粉砕じゃぁ!!」
機関部内で杭が高速回転。スペチアリヌイ・アフタマート(ペネトレイトアビスウォーター・d25565)が引き金を引けば、爆発的な速度で発射される。が、怪人は体をひねってかわす。着物を少し巻き込むだけだった。
「これ効くかな……」
投げやりな様子で、良顕は怪人に近付く。何を考えているのか分からない、というより何も考えていない風でもあった。その暗い眼には何も映ってはいない。攻撃は鎬で逸らされ、
「笑止。そんなことでは気付かぬ間に死ぬぞ」
返す刀で斬撃が降りかかる。誰にも見えぬひと振りは、納刀と同時に噴水みたいに赤をばらまいた。
「歩法がなってないのです。体幹がふらふらで刀が振れると思っているのです?」
刹那、隙のできた背中にルチノーイが飛び込んだ。青い鱗型の装甲をまとった霊縛手を叩き付ける。わずかにたじろいだ瞬間、龍に似た霊力の網が怪人の全身を走り、動きを奪った。
「今よ!」
動きが止まったところに、さらに灯が追い打ちをかける。ピックの動きに合わせ影が五線譜のように伸び、怪人の体へ絡みついた。
「自慢の刃、へし折ってやんよ!」
ゼファーの尻尾が輝き、ついに怪人はぴくりとも動かなくなった。硬直した体を、螺旋の槍で抉り穿つ。鉄のような固い感触があったが、構わず力任せに打ち抜いた。
「ヒャッハー!! 安土城の奴に伝えとけや! 手前らは俺達が必ずぶっ壊してやるってな! もっとも……手前が生きて帰れたらの話だがな!」
下品な叫び声を上げながら突撃する三成。傷口からこぼれる血は瞬時に炎に変わり、灼熱の獣と化して、鉄の塊じみた斧を振り下ろす。斬る、というよりも割る、といった方がいい一撃だった。衝撃で、ずしんと地面が振動する。
「口ほどにはやるな、灼滅者!!」
頭となった刀身が叫んだ。傷が癒え、刃で斬ったように拘束が解ける。
戦局は一進一退。無銘の剣は、なお鋭い。
●鎬削
灼滅者の武器が手数ならば、怪人の武器は絶対的な攻撃力と精度だ。それを維持するためか、炎は無視し、動きを制限された場合のみ回復を使用していた。
「なるほど。長久手といい、戦局を左右するのも頷けるか」
河原の上から見下ろす怪人。全身に傷を負い、半身を炎に包まれていても刃は錆びることとも鈍ることもない。
「いくら刀剣が女子の間で流行してるからって面白怪人出さなくてもいいのに、ね……あ」
視線を感じ、マルティナがまたどうでもいいことを口にした瞬間、権三郎が目の前で弾けた。主を守ろうとしたのは誰の目にも明らか。つまり狙いは彼女だった。
「空気も読めずに芸人気取りとはな。舐め過ぎだ」
声音は零度に近い。ひどく面倒そうに言った。
「っ! 一緒に行くのじゃ!」
「はいなのです!」
殺気に反応し、スペチアリヌイの肩がぴくりと震える。やられる前にやる。目の前の敵には、それが必要だと直感した。悠長なことをしていては、切り伏せられる。考えが伝播したのか、ルチノーイがそれに続いた。金と青、二筋の流星が怪人に突き刺さる。押しかかる重力の枷がまた動きを鈍らせた。
「隙だらけだぜ!」
影が十夜の拳を包み、巨大な黒い手となった。懐に潜り込み、フックの要領で側頭部に打ち込む。刀がどんな悪夢を見るかは分からないが、目に見えて落ち着きがなくなった。
「まだまだ!」
灯はギターのネックを持ち、ハンマーのように構え直した。掌から伝わるエナジーが弦を通して伝わり、真紅の炎を纏う。技巧など無視、勢いのままに叩き付ける。
「……当たってね」
力なく伸ばした、錆びた鋼糸。とうに朽ちて千切れているはずのそれは、殲術道具となったことであり得ない剛性としなやかさを得ていた。持ち主である良顕の存在感の薄さもあって、亡霊のように不気味だ。
「ウーハー!! 焼却だァーッ!!」
溶岩にも似た、鮮烈な赤のオーラが三成の拳を覆い、加速させる。オーラは速度によってさらに熱を帯びて発光、真紅の嵐が怪人の全身を打ち付ける。
「ここで倒しきる!」
玲奈の左手に提げた鞘が淡く光を帯びる。否、光っているのは刀だ。非物質化したそれは鞘をすり抜け、本来あり得ない軌道を描きながら怪人の体内を走った。肉体ではなく、魂をこそ斬る斬撃。
「さぁ来い餓鬼ども! 俺はまだ折れん。折れるまで斬るぞ!」
叫び、刀を握り直す。追い詰められながらも、刃はまだその意味を手放してはいない。
●血戦
灼滅者、怪人ともにダメージの蓄積は大きい。決着はそう遠くはない。今まさに修羅場だった。
「もう一度、動きを止めるのです」
身の丈ほどはある霊縛手を振り上げるルチノーイ。内蔵された祭壇が強く輝き、龍鱗も同じく輝き、霊綱で怪人を縛り上げる。
「ぬるい!」
怪人は力ずくで束縛されたまま抜刀した。斬光線が大気を断ち切り、疾風のごとく飛ぶ。
「ヒャッハー!! 好きに、させっかよ!!」
奇声を上げ、三成は仲間の盾になる。光線によって腹を抉られ、口から血の塊がこぼれるが瞬時に炎となり、地に落ちることはなかった。全身の傷に加え口からも炎を吐き、火竜のごとく立ち塞がる。
「まだ、倒れないんだから!」
玲奈が刀身を撫でれば、祝福の風が吹く。窮地にあって倒れることのない意思が大気を動かし、傷をわずかながらに癒す。
「…………」
無言、無表情のまま癒しの風を重ねるマルティナ。ボケても誰も反応する余裕がないと分かっているのか、あるいは権三郎がいないからか。サーヴァント使いではどうしても威力が落ちるが、そうも言っていられない。
「てえええやぁあああああああっ!!」
怪人が、高く跳んだ。空中で体ごと回転。手にした刀と頭部とで巨大な斬撃を繰り出す。半径十数メートルはあろうかという弧型の斬撃が、前衛の灼滅者を飲み込んだ。
「……あ、れ?」
良顕の体から、力が抜けていく。まず寒気があって、次第にそれすら感じなくなっていった。倒されたことに気付いたのは、意識を失うほんの少し前。自分の状況も確認できないまま、目を閉じる。
「……ふ、見たかよ」
まともに着地もできず、怪人は地面に激突した。だがすぐに立ち上がった。宣言した通り、本当に折れるまで戦うつもりだ。
「ええ、でも!」
ならば折るのみ。斬られるつもりなどない。かすむ目を気合いでこじ開けて、灯は絃をかき鳴らした。振動は心臓の鼓動と重なって、破滅的で情熱的なサウンドとなって怪人を穿つ。
「く、おぉっ!!」
「決めるぞ、ゼファー!!」
十夜とゼファーは、怪人の左右から迫る。全く同じタイミング、コンマのずれもなく影の拳と肉球が、刀剣怪人を捉えた。
パキリ、と小さな音。それに一瞬遅れて、手にした刀が折れた。
「……ここまでか」
そこからさらに一瞬。頭部が折れて弾け飛び、空に吸い込まれていった。
作者:灰紫黄 |
重傷:栗元・良顕(雨の・d21094) スペチアリヌイ・アフタマート(ペネトレイトアビスウォーター・d25565) 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年10月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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