道を歩いていた安曇・陵華(暁降ち・d02041)の横を、数人の小学生が通り過ぎてゆく。
少年たちは「噂」という単語を発していた。
「毎日居るんだろ? あの神社、オレたちの秘密基地だったのにさー」
「うん、毎日出て、暴れてて怖いって噂だよ」
「あのモフモフした生き物、結局なんなんだ?」
「うーん……犬、にしては大きいし。ライオン、っぽいよね。あんなのが居るって分かったら、危なくて近寄れないよ」
噛まれたりしたら危険だと、小学生たちは溜め息を吐いた。
「とある神社で、もふもふの狛犬が暴れている噂だ」
「狛犬は都市伝説が実体化したものだぜ。夕方になると、この古びた神社に狛犬は現れて、暴れてるぜ。神社には神主も常駐していないし、人も滅多に寄り付かないので、人払いの必要は無いな」
陵華の言葉に、神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)が頷き、説明を始める。
ヤマトは地図を灼滅者たちに見せ、場所を教えた。
「どうやら何かを捜して、暴れているようだ。本来、狛犬は対で置かれているからな……ひょっとしたら、片割れの像を捜しているのかも知れない。見つけてやれば、満足して消える筈だ」
説明を終えたヤマトが、灼滅者たちを送り出す。
「像を捜してやるか、それとも力ずくで狛犬を倒すか。決めるのは、お前達だ!」
参加者 | |
---|---|
榛原・一哉(箱庭少年・d01239) |
安曇・陵華(暁降ち・d02041) |
荒谷・耀(護剣銀風・d31795) |
哭神・百舌鳥(百声の演者・d33397) |
白峰・歌音(嶺鳳のカノン・d34072) |
ウィスタリア・ウッド(藤の花房・d34784) |
茶倉・紫月(影縫い・d35017) |
新堂・アンジェラ(業火の魔法使い・d35803) |
●
「灼滅すれば簡単なんだけど、それは本当にどうしようもなくなったらにしたいわね」
神社の前で、新堂・アンジェラ(業火の魔法使い・d35803)が言う。
それに頷いて見せるのは、同じく神社側に残った数人の仲間たち。
「灼滅するだけがすべてじゃない。狛犬の片割れを見つけて、平和的解決を目指したいね」
榛原・一哉(箱庭少年・d01239)が眼鏡の奥の瞳を閉じ、そっと告げる。
「一匹だけじゃ寂しいわよね。狛犬は阿吽が揃っててこそだもの」
「狛犬って対で一つだから半身無くした感じなんかな」
ウィスタリア・ウッド(藤の花房・d34784)の言葉を聞き、安曇・陵華(暁降ち・d02041)が思案気に疑問を投げる。
陵華の目は、ウイングキャットのゴルさんに向いた。
もしゴルさんが行方知れずになったとしたら……そう考えると、狛犬の気持ちが少し分かるような気がした。
「狛犬さんって普通ならお互いが向き合ってるはずだよね……それが見つからないってことは何かあったのかな……?」
哭神・百舌鳥(百声の演者・d33397)が神社に入り、丹念に調べながら言う。
古びた神社の敷地内は手入れが行き届いておらず、雑草があたり一面、くまなく生えていた。
神社が林に囲まれている為、あたりは薄暗い。
「いつも居た筈の片割れが居ない、とても不安だろうな……」
茶倉・紫月(影縫い・d35017)がぼんやりとした口調で言い、林の中へ足を踏み入れてゆく。
「台座とか残ってないかな……」
百舌鳥が台座を調べると、像の無いほうの台座に修復したような痕跡が残っていた。
「モフモフを傷付けるのは気が進まないのよね、出来れば灼滅するのは避けたいわ」
ウィスタリアはそう言いながら、紫月とは反対方向の林を目指した。
直後、ウィスタリアの携帯電話が鳴った。
「こちら、……。情報を入手したぜ」
通話の相手は、白峰・歌音(嶺鳳のカノン・d34072)だ。
ごっこ遊びをしているように、偽りの名を使っている。
「こちら、……。なんかいい大きさの段ボールめっけたけど被るのは自重よね?」
「こちら、……。怒られるからスルーするべきだぜ」
「了解よ、……」
ウィスタリアも歌音も、どことなく顔が濃くなっている。
一緒の寮に住んでいる2人は仲良く、そして真剣に、遊んでいた。
●
「あの子はただの都市伝説……意志なんてない、サイキックエナジーが噂を纏っただけの存在。なんですけど……やっぱり、だめですね。困ってる子を放ってはおけません」
都市伝説がサイキックエナジーの塊だと理解はしているものの、戦闘以外の方法が有るのならそれがいいと、荒谷・耀(護剣銀風・d31795)は思っている。
「できる限り、頑張ってみましょうか」
耀は周辺を駆け回り情報収集に、てっする。
やがて手掛かりを得て、耀は仲間たちが待つ神社へ向かった。
情報を集めていた歌音も神社へ駆け足で向かい、灼滅者たちは合流する。
日は、暮れ始めていた。
「今回は藤姉と一緒に行動できるから嬉しいし心強いぜー!! おっと、そうだ! 手に入れた情報だぜ」
嬉しさがおさえきれないといった様子で、歌音はウィスタリアに向けて声を掛ける。
聞き込みをしたところによると、つい最近、不良グループの手によって台座が壊されたとのことだった。
台座は修復されたものの、像は不良グループがどこかへ隠してしまったという話だ。
「そうか……だからこの台座は……」
修復の痕跡が残っていたのだと、百舌鳥は台座にそっと触れる。
「像は林の中に置き去りの状態らしいです。……まさか、地面に埋まってたりはしないですよね?」
耀も情報を簡潔にまとめて伝え、後半はやや不安そうに言う。
「棚ボタラッキー、になんて遭遇できるほど世の中甘くはない。だから地道に探すんだが……骨が折れそうだな」
林の中から出て来た紫月が、こっちのほうは見つからなかったと、首を横に振るだけで伝える。
「うーん……蛇変身してりゃ、人間の入りにくいところにも入っていけるでしょ」
ウィスタリアはそう言うと白蛇に変身し、再び林の中へ潜ってゆく。
「狛犬ってお城のシャチホコとかみたいのだっけ。魔除けって感じだし……」
「魔除けという点では、あながち間違ってはいないね。書物でそう記されていたのを見たことがあるよ」
林の中で、像を捜しながらアンジェラと一哉が言葉を交わす。
「何も見つけられなかったら、灼滅するしか無いな。仕方無いが。仕方無いが」
二回同じ言葉を続ける、陵華。
灼滅者たちが懸命に捜していたが、都市伝説が出現する時が刻一刻と迫る。
そして、ついに、夕方になってしまった。
なにも無い場所から、突如現れた都市伝説の狛犬。
狛犬は大きく吠え、暴れ出した。
●
大きな物音と獣の咆哮を聞き、素早く獣の前に躍り出たのは歌音だ。
「狛犬が無意味に暴れてるんじゃなくて、もう一方を探してるんだったらかわいそうだよな。どうなるにしても相方を探して会わせてやりたいぜ! お前の相方を見つけるまで止めさせてもらうぜ!!」
仲間が像を捜してくれるのを信じて、歌音は獣に攻撃はせず、足止めに徹した。
獣は吠えては暴れるだけで、歌音に襲い掛かることはしない。
獣からは、怒り、寂しさ、不安、悲しみ……そんな感情が、ひしひしと伝わって来る。
「見つけたわよ。でもこれ……ちょ、重っ! 重すぎ! あたし1人じゃ運べないわ」
変身を解いたウィスタリアが林の奥から声を上げ、仲間たちに伝える。
すかさず、紫月が声のしたほうへと向かい、怪力無双を使って軽々と像を持った。
「狛犬の所まで持っていく」
暴れている狛犬を引き付け、足止めしている仲間たちの元へと、紫月は向かう。
ウィスタリアも急いで後を追った。
「石像のイメージしかなかったからな。実物化して毛並みが見て取れると……こう、妙な感じ」
暴れる狛犬を、仲間たちと協力しておさえつけながら、一哉が呟く。
「いや、僕は別にもふりたいわけではないけど……戦う上で触れるのは、不可抗力というか、必然だよね」
などと言いつつ、ちゃっかり毛並みに触れている一哉。
「できる限り、ねばりましょう」
耀は足元から影を伸ばし、影の触手で狛犬をおさえこむ。
出来るだけ攻撃はせずに像の到着を待っていた仲間たちの元へ、やっと像が運ばれて来た。
像を前にすると、狛犬はぴたりと暴れるのを止め、おとなしくなってその場に伏せた。
「大丈夫そうだな、もふろう」
陵華がモフモフの狛犬に接近し、全身を埋めるようにして感触を堪能しだす。
ふわふわと柔らかな毛が、陵華を幸せな気持ちにさせる。
「それにしても、いいモフモフだわね」
「藤姉、これは全力でモフるべきだぜ!」
ウィスタリアと歌音は仲良く隣り合い、狛犬の毛に埋まる。
「狛犬っていうけどライオンみたいでもあるわね。ライオン犬? 不思議な国ニッポンね」
狛犬を見るのが初めてなアンジェラは、少しズレた発言をする。
「もふもふか。ぎゅうっとしたら温かいだろうな……」
寒い為、温かそうな狛犬の毛並に惹かれて仕方が無い紫月は我慢出来ず、狛犬にぎゅっと抱きつく。
温もりと柔らかな感触に、紫月は癒される。
「オレも……もふもふするよ……」
百舌鳥も加わり、モフモフタイムを満喫する。
暫くの間、じっとしていた狛犬が不意に起き上がり、像にすり寄る。
その体が透け始めたのを見て、百舌鳥は都市伝説の狛犬を吸収した。
吸収される直前に狛犬が吠えた一声は、灼滅者たちに礼を言っているように聞こえたのだった。
●
「狛犬をちゃんとお互いに向き合わせたいんだけど……茶倉さんに頼んでいいかな……?」
「狛犬は左右揃って居るのが、狛犬らしい在り方だ」
百舌鳥が紫月に頼むと、紫月は頷き、怪力無双を使って台座の上に像を置き、残っていた像と向き合うように設置する。
やっと対になれた像に、百舌鳥は水をかけて掃除を始めた。
「やっぱもふもふは正義だな!」
満足そうに言う、陵華。
「狛犬って2つで1組なのよね。揃ったのをこうして見ると、本当に魔除けって感じね」
アンジェラが、お互いに向き合っている狛犬を見て頷く。
「問答無用で戦闘……にならなくて良かったわ」
「オレは不良グループに制裁の鉄拳を食らわせてやりたい気分だぜ!」
ウィスタリアが安堵したように言うと、歌音は拳を握る。
「みんなで頑張った甲斐がありましたね」
耀がほっとしたように、柔らかく笑う。
「神社にお参りもしていこうか」
一哉が声を掛け、灼滅者たちは揃ってお参りを済ませ、仲良く帰路を辿った。
作者:芦原クロ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
|
種類:
公開:2015年10月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
|
||
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
|
||
あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
|
||
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|