琵琶湖を臨む小さな街の商店街を、異様な風体の男が闊歩していた。
古風な着物を着ていることも、今時下駄履きであることも、確かに珍しくはある。だがその男が何よりも異様なのは、その頭部が日本刀の刀身そのものであることだろう。
「ママー、変なおじちゃんがいるー」
「しっ、目を合わせちゃいけません!」
「あのおじちゃん、目はどこにあるのー?」
チラチラと自分の方に目を向けながらも、関わり合いにならないように足早に去っていく人間達を気に掛けることもなく、その男――刀剣怪人がひとり、同田貫怪人は商店街を悠々と練り歩いていた。
「さぁて、武蔵坂の連中は出てくるかな? できればもう一度手合わせしてぇからな。か弱いナースを狙い打ちにするなんつうせこい真似してねぇで、とっとと出てきやがれってんだ」
「嗚呼、サイキックアブソーバーの声が聞こえる……。灼滅者がいけないナースを灼滅している事を知った安土城怪人が、彼女達を守るために、刀剣怪人を巡回させ始めたと」
集まった灼滅者達に、神堂・妖(目隠れエクスブレイン・dn0137)は陰気な声でそう告げた。
「……刀剣怪人は特に一般人を襲ったりはしないみたいだけど、このままだと、いけないナース事件の解決に向かう灼滅者が狙われる可能性が高い。……その前に、刀剣怪人を見つけて灼滅して欲しい」
とはいえ、刀剣怪人は安土城怪人配下の中でも精鋭だ。かなり手強い相手になるだろう。
「……今回予知できたのは、同田貫怪人という刀剣怪人の動き」
「同田貫怪人!? あやつでござるか!」
反応したのは、かつて慈眼衆との戦いで同田貫怪人と共闘したこともある源・勘十郎(高校生デモノイドヒューマン・dn0169)だった。
「……そう。同田貫怪人は過去に2度ほど灼滅者と接触したことがある。その時の経験で灼滅者の実力を認めてるから、決して油断することも、侮ることもない」
「あやつは確か、ご当地ヒーローと日本刀に似たサイキックを使っていたでござるな」
勘十郎の言葉に、妖が頷いた。
「……同田貫怪人と接触できるのは、彼が商店街に姿を現したタイミング。昼日中で、それなりに人通りもあるから注意して」
幸い、同田貫怪人は一般人を人質に取ったり巻き込むような戦い方をすることはないという。
「……精鋭の刀剣怪人を灼滅できれば、最近勢力を増大してる安土城怪人への打撃にもなる。強敵相手だけど、頑張って」
妖はそう締めくくると、灼滅者達を送り出したのだった。
参加者 | |
---|---|
天津・麻羅(神・d00345) |
七瀬・遊(烈火戦刃・d00822) |
水瀬・瑞樹(マリクの娘・d02532) |
立見・尚竹(大事なものは目蓋の裏・d02550) |
狗神・伏姫(GAU-8【アヴェンジャー】・d03782) |
央・灰音(超弩級聖人・d14075) |
アリス・ドール(斬撃の人形姫・d32721) |
葵・さくら(ツンデレ系女子高生・d34645) |
●戦支度
商店街を闊歩していた同田貫怪人は、行く手を遮るように立ちはだかる数人の少年少女達の姿に気付き、足を止めた。
「おまえら、武蔵坂か? まさかそっちから出てくるとは思わなかったぜ」
「お久しぶり、いつかの慈眼衆の時以来ね。あの時は結果的に共闘することになったけど、今日は思いっきり戦いに来たわ」
同田貫怪人と面識のある水瀬・瑞樹(マリクの娘・d02532)が、一同を代表して来意を告げる。
「その話しぶりだと、いけないナースを灼滅に来たって訳じゃなく、最初から俺狙いみてえだな。おもしれえ、相手になってやるぜ」
早速構えを取る同田貫怪人を、だが七瀬・遊(烈火戦刃・d00822)は手を突き出して制止した。
「ちょっと待った。やり合う前に別の場所に移動しないか? こっちは被害を抑えたいし、そっちも一般人を巻き込む気も無いンだろ? でも万が一ってこともあるかもしれないし、どうせやり合うなら思いっ切りやりたいじゃん?」
「あいにく、こっちはここで充分やり合えるんだよ。そこまでおまえらに合わせてやる義理はねえ」
しかし、既に臨戦態勢を取った同田貫怪人は、構えを解く様子を見せない。
「だが、そちらも部外者を巻き込むのは不本意かと思われる。せめて避難が終わるまでしばし待っては貰えないものだろうか」
立見・尚竹(大事なものは目蓋の裏・d02550)が、ならばと次善の策を口にすると、同田貫怪人はしばし考え込む様子を見せた。
「……アリスたちが……ねらいなら……他の人を……おそわないほうが……いいよ……。……むだに動けば……それだけ……あなたの手の内を……読めるの……」
そして、アリス・ドール(斬撃の人形姫・d32721)の言葉に、同田貫怪人はようやく構えを解いた。
「安い挑発だが、いいだろう、乗ってやるぜ。3分間だけ待ってやる。その間に避難でも人払いでも好きにするんだな」
そして、その場にどっかりとあぐらをかいて座り込んだのだった。
「ここは危険です、逃げてください」
さっそく央・灰音(超弩級聖人・d14075)が『パニックテレパス』を発動させ、周囲の一般人に避難を促し始める。遊も『割り込みヴォイス』で周囲への呼びかけを手伝っていた。
「さあ、こっちでござる」
源・勘十郎(高校生デモノイドヒューマン・dn0169)が右往左往する人々を誘導していき、赤槻・布都乃もそのサポートに回る。
「さて、我も動くか」
独り、商店街全体が見渡せる3階建の店舗の屋上で様子を見守っていた狗神・伏姫(GAU-8【アヴェンジャー】・d03782)も、『プラチナチケット』を用いて誘導に加わった。事前に屋上から人の流れや誘導ルートを確認していただけあって、動きに無駄がない。
「まだ残っている方はいませんか? 怪我したくなかったら、この場から一刻も早く遠ざかって下さい」
あらかた一般人の待避が終わったところで、葵・さくら(ツンデレ系女子高生・d34645)が駄目押しとばかりに『殺界形成』を発動させた。これで、一度避難した人達が戻ってくることもないはずだ。
「……さあ、3分経ったぜ。始めるとしようじゃねえか。この同田貫怪人が、相手になってやる」
同田貫怪人がおもむろにあぐらを解き、立ち上がる。
(「どうたぬき……どうたぬき……どう……たぬき、どう? たぬきをどうかと聞かれれば……燃やすんじゃね? カチカチ山的に……」)
明後日の方向に思考を巡らせていた天津・麻羅(神・d00345)は、同田貫怪人が戦闘態勢に入ったのを見て取ると、あわてて断斬鋏を構えたのだった。
●激突
「こっちの提案に乗ってくれてありがとうな。ってことで『さぁて、派手に行きますか!』」
遊は同田貫怪人に3分待って貰った礼をすると、スレイヤーカードの封印を解除し怪猫爪を実体化させる。
「さて、存分に仕合おうではないか」
尚竹はニヤリと笑って真打・雷光斬兼光を上段に構えると、そのまま電光石火の勢いで間合いを詰め、一息に同田貫怪人目掛け振り下ろした。
「ぬっ!」
咄嗟に頭部の刀で受け止めた同田貫怪人だったが、その刀身に、わずかだがヒビが入る。
「見たか、同田貫のような数打に真打が負けられん」
「抜かしやがるっ!」
同田貫怪人は頭部の刀を振り回し尚竹の体勢を崩すと、そのまま頭部の刀を振り下ろした。だが、そこに割って入ったのは灰音だ。
「万に一つもそちらの攻撃を取りこぼしません」
灰音の騎士剣が、同田貫怪人の頭部の刀を受け止める。そして、同田貫怪人の動きが止まった隙をついて、背後に回り込んでいたアリスが動いた。
「……斬り裂く……」
アリスは猫のようにしなやかな動きで絶刀『Alice the Ripper』を手に、同田貫怪人の足下を駆け抜ける。次の瞬間、同田貫怪人の足首から血が噴き出し、その大柄な身体が揺れた。
「ちぃっ、さすがに戦い慣れてやがる!」
立て直すために一歩引こうとした同田貫怪人だったが、それよりも瑞樹の動く方が速い。
(「ちょっと不謹慎だけどわくわくしちゃうな。だって同田貫と戦えるんだもん。程よく気張ってくかー」)
高揚する気持ちを抑えながら振るわれたのは、炎を纏う大振りな解体ナイフ。同田貫怪人が身を引いたためにダメージ自体は大きくはなかったが、炎が同田貫怪人の纏う着物を燃え上がらせていく。
「やられっ放しってのは、性に合わねえなあっ!」
同田貫怪人が、頭部の刀を薙ぐように振るえば、発生した衝撃波が前衛に立つ灼滅者達に襲いかかっていった。
「我の役割を果たすとしよう」
咄嗟に伏姫がエネルギー障壁を広域に展開し、衝撃波を軽減させていくが、全てを防ぎきるには至らない。傍らでは霊犬の八房も口に咥えた斬魔刀で、可能な限り衝撃波の相殺を図っている。
「迂闊……、立ち位置を見誤りましたわ」
本来回復役として後方に位置していなければならなかったさくらは、衝撃波が自分にまで届いたことで、いつの間にか自分が前衛に紛れていたことに気付き、やや顔を赤らめながら後退していった。
「わしの名は天津麻羅、高天原の神なのじゃ! このエセ邪神めが、成りすましもいい加減にするが良いっ!!」
後退するさくらを庇う位置に立ちはだかった麻羅が、びしっと人差し指を同田貫怪人に突き付ける。
「成りすまし……? 何言ってやがんだこの嬢ちゃんは」
「嬢ちゃんではなく神なのじゃ! くらえい、必殺! 神ビ~ムッ!!」
麻羅が精一杯きつい、けれどどうしてもかわいらしく見えてしまう目つきで同田貫怪人を睨むと、目から発したビームが同田貫怪人目掛けて飛んでいく。
「負けるかっ! 必殺! 同田貫閃光刃っ!!」
対抗するように同田貫怪人も、刀身に集めた陽光を収束し、一条の光線に変えて解き放った。
二条の光線が激突し、拮抗した力は二人の中間地点で大爆発を巻き起こしたのだった。
●真剣勝負
「どっせいっ!」
同田貫怪人の野太い足から繰り出された蹴りが、足下にまとわりついていた霊犬八房を蹴り上げた。健気に何度も灼滅者達を庇い、既に複数の傷を負っていた八房はその一撃に耐えきれず、姿を消す。
「八房……、おぬしの奮闘は無駄にはしない」
伏姫は、動揺を表に出すことなく、動きの止まった同田貫怪人目掛けてガトリングガンの集中砲火を浴びせかけた。
「これ以上犠牲が出る前に、一気に畳みかけるぜ!」
同田貫怪人が守りに入ったのを見て取った遊が、赤い交通標識を怪人の胴に叩きつける。そして、同田貫怪人が一瞬硬直した隙を逃さず、勘十郎が放ったウロボロスブレイドが、その全身に巻き付いていった。
「はははっ、いいぜいいぜ! やっぱりおまえらとの戦いは、慈眼衆や壬生狼組を相手にするより面白え!」
全身を切り刻まれ、着物はあちこちが焼け焦げている。だがそんな状態でも、同田貫怪人は余裕の態度を崩さない。
「こっちも楽しいよ。あなたとは、一度戦って見たかったしねー」
瑞樹が、解体ナイフをクルセイドソードに持ち替え、正面から同田貫怪人に斬りかかる。
「そんな真正直な攻撃、喰らうかよっ!」
同田貫怪人は頭部の刀でクルセイドソードを受け流そうとするが、その瞬間剣が非物質化し、同田貫怪人の刃をすり抜けた。
「何っ!?」
神霊の刃と化したクルセイドソードが、同田貫怪人を切り裂いていく。だが、
「それでも、懐に飛び込んできたのは失策だぜ!」
同田貫怪人は魂に負った傷をものともせず、頭部の刀を瑞樹目掛けて突き出した。至近距離からの、かわす暇すらない一撃。その動きに反応できたのは、ずっと武蔵坂怪人の動きを目で追っていた灰音だけだった。灰音は同田貫怪人と瑞樹の間に無理矢理身体をねじ込むと、身を盾にして瑞樹を守る。その腹部に同田貫怪人の刃が深々と刺さっていたが、
「痛みは、気合いでカバーです」
灰音は刺さった刃をがっちりと掴んで同田貫怪人の動きを封じにかかった。
「こいつ!?」
初めて、同田貫怪人が動揺をみせる。
「……この機会……逃さない。……引き裂く……」
そこへ、電柱を蹴って宙高く舞い上がったアリスが、狼と化した銀の爪で、同田貫怪人に斬りかかった。鋭い3条の爪が、同田貫怪人を深々と切り裂いていく。
「ちっ! この野郎、邪魔だっ!」
同田貫怪人は刀にしがみつく灰音を、上体を反らすことで高々と持ち上げた。そして、そのまま頭部の刀を振り回して遠心力を付け、全力で投げ飛ばす。宙を舞った灰音の身体は八百屋の陳列棚に叩きつけられ、野菜を散乱させた。
「皆さん、回復はお任せあれ。オーラの力で癒して差し上げますわ。大切な仲間を傷つける事は許しません事よ」
すかさずさくらが、自らの内のダークネスの力を灰音に注ぎ込み、その傷を癒していく。
「ええーい、エセ邪神めが。他の者には目もくれず、神たるわしを狙うがよい」
麻羅が、手にした断斬鋏で同田貫怪人に斬りかかった。
「そうかい、なら次は嬢ちゃんの相手をしてやらあっ!」
同田貫怪人が、頭部の刀を唐竹割りに振り下ろす。
「ぐぬぬっ!」
見事に鋏で同田貫怪人の刃を受け止めた麻羅だったが、力の差はいかんともしがたく、堪えきれずに吹き飛ばされた。慌ててウイングキャットのメンチが、麻羅の傷を癒し始める。
「その太刀筋、示現流の使い手か?」
刀を鞘に収めた尚竹の問いに、同田貫怪人はふてぶてしい声で応じた。
「そういうてめえは居合い斬りの使い手と見た。だが、抜く暇は与えねえよ!」
次の瞬間に起きたことは、まさに刹那の攻防だった。
同田貫怪人が残像を伴うほどの速さで振り下ろした刃を、尚竹が紙一重でかわす。そして、
「この一太刀で決める。我が刃に悪を貫く雷を。居合斬り――雷光絶影!」
電光石火の速度で放たれた居合い斬りが、同田貫怪人の刃を、粉々に打ち砕いたのだった。
●決着
「まだだ……、まだ終わらねえ。こんな面白え喧嘩、この程度で終わらせちゃあもったいねえ……」
アイデンティティーたる頭部の刃を打ち砕かれ、満身創痍になりながらも、同田貫怪人はまだ戦意を喪失していなかった。
「おいおい、無理すんなよ、おっさん」
「もう勝負はついたわ。大人しく負けを認めなさい」
そんな同田貫怪人に、遊と瑞樹が言葉を投げかけるが、返事はない。
「見苦しいエセ邪神なのじゃ。ならばわしが安全に確実に倒すだけじゃ!」
断斬鋏を構える麻羅を、しかし制止したのは伏姫だった。
「無駄だ。あの者は既に灼滅されている」
「え?」
皆が一斉に同田貫怪人に目を向ける。見れば同田貫怪人は立ったまま、大往生していた。
「最期まで大した奴だったな、アンタ」
同田貫怪人にそっと声を掛けたのは、後方で回復役に専念していた布都乃だった。
「前回も今回も、アンタを舐めた訳じゃねえコトは伝えとくぜ。せこいマネなんて言わせねぇよう、アンタより強くなってやるぜ。同田貫よ」
以前に同田貫怪人に敗れた経験のある布都乃は、そう同田貫怪人に別れを告げる。一方、アリスは冷たい目で同田貫怪人を見据え、
「……か弱い女の子に……負けちゃった……ね……」
そう言って、背を向けた。
「まだ怪我の残っている方はおりませんか? 癒して差し上げますことよ?」
眼鏡を外し汚れを拭いていたさくらが、傷だらけの仲間達に声を掛ける。そして、ふと素顔の自分に皆の視線が集まっていることに気付き、
「恥ずかしいですわ、あまり見ないで下さい」
慌てて眼鏡をかけ直しながら、頬を赤らめていた。
「これで安土城怪人の行動に掣肘を加える事が出来ただろうか。安土城怪人と天海大僧正の戦い、長期戦の様相になってきたな」
尚竹は、琵琶湖の方角に視線を移す。
これから安土城怪人と天海大僧正の戦いがどうなっていくのか、今はまだ、誰にも分からないことだった。
作者:J九郎 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年10月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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