●燃える紅葉に潜む蜘蛛
秋も半ばに差し掛かり、近畿の山々にも紅葉が広がりつつある。
その山々を縫う渓流沿いにある旅館からは、秋の味覚をふんだんに使った料理の香りが、香ばしく広がっていた……。
「おっ、秋刀魚の匂いが良い感じだな!」
「栗ごはんも美味しい時期よねぇ、ちょうどお昼ですし食べていきましょう」
旅館の前に通り掛かった観光客の老夫婦も足を止め、温かな香りに瞳を細めていて。
――だが、しかし。
旅館からそう遠くないところ、赤々と燃える紅葉にひっそり隠れるように、廃屋がある。
その中で糸を張り巡らせ、じっと四肢を広げた蜘蛛達も、虎視眈々と獲物が掛かるのを、待っていたのだった。
●秋の味覚探し、ついでに蜘蛛退治
今は紅葉に加えて、秋の味覚シーズン♪
何処か美味しい栗ご飯や秋刀魚が食べれるところがないかと、ポルター・インビジビリティ(至高堕天・d17263)が、里中・清政(高校生エクスブレイン・dn0122)にリサーチをお願いしたところ……。
「とある山の渓流沿いに、日帰りでも会席膳を堪能できる旅館がございましたが……」
どうやら、その近くにある廃屋に、むさぼり蜘蛛が棲みついているとのこと。
今は紅葉が見所の時期でもある。
赤々と燃えるような紅葉につられて、観光客が廃屋へ紛れ込んでしまうかもしれない。
「幸い、皆様が赴かれる日と時間に人が廃屋近くに寄ることはございません」
むさぼり蜘蛛は全部で10体。
1体1体は強くなく、転校してきたばかりの灼滅者でも、互角に渡り合える実力だ。
反面、熟練者には物足りないかもしれないけれど、普段慣れていないポジションや立ち回りの確認には、打ってつけの相手だとも言える。
「……範囲攻撃で、一掃できそう、ね……」
「それもアリでございますが、わたくしの仕事がなくなりますので、一応、説明を……」
ポルターの一言に執事エクスブレインは焦りながらも、周辺の地図を広げる。
紅葉に囲まれた廃屋の中は薄暗いけれど、足場も含めて戦闘には支障はないようだ……。
「むさぼり蜘蛛のポジションは、クラッシャーが5体、スナイパーが3体、メディックが2体の編成でございます」
使うサイキックは、前衛5体が断斬鋏、後衛5体が怪談蝋燭相応のものだという。
それを黙々と聞いていたポルターは、再びゆっくりと口を開いた。
「……やっぱり、範囲攻撃で、一掃……」
「こ、攻撃が術式と神秘に偏っておりますので、防具の備えがあれば楽に戦えるかと……」
交戦する時間帯は、早朝から正午の間になる。
この時間帯で戦えば、その後に秋の幸と景色を存分に楽しむことも、出来るだろう。
「無事に眷属退治が終わりましたら、是非旅館にて会席膳と景色を堪能して下さいませ」
「……いいの?」
「料理のお値段もリーズナブルでございますし、渓流沿いで景色を一望できる個室を予約しておきましょう」
旅館の側には渓流がさらさらと流れ、鮮やかに赤く染まる山々の風情を色濃く奏でる。
窓際から紅葉を眺めながら、秋の幸を使った山菜の天ぷら、刺身、煮物に栗ごはん、秋刀魚の炭火焼きを堪能し、デザートの餡蜜と温かいほうじ茶で一服する、レパートリーだ!
「特に、油の乗った秋刀魚の炭火焼と、甘くて大きな栗の栗ごはんは格別かと……」
じゅるり。
ぐぅ〜〜。
食欲が増すような音が交差する中、ワタル・ブレイド(中学生魔法使い・dn0008)も楽しげに瞳を細めた。
「秋刀魚の炭火焼かあ、オレも食いてぇ……じゃなくって、眷属退治に励まないとな!」
「大人数になりました場合は宴会場を確保しますので、お友達やサーヴァントをお誘いの上、いってらっしゃいませ」
参加者 | |
---|---|
月島・立夏(ヴァーミリオンキル・d05735) |
小早川・里桜(花紅龍禄・d17247) |
ポルター・インビジビリティ(至高堕天・d17263) |
豊穣・有紗(神凪・d19038) |
空本・朔和(おひさまスタンピード・d25344) |
浅巳・灯乃人(スターダスト・d26451) |
押出・ハリマ(気は優しくて力持ち・d31336) |
庄治・メアリー(耳はどこかに置いてきた・d33846) |
●燃える紅葉に潜むモノ
「人払いをしておく必要はなさそうね」
紅葉に埋もれていた廃屋の周辺には、人の気配は無い。
扉に手を掛けた庄治・メアリー(耳はどこかに置いてきた・d33846)は、中を伺うようにゆっくり廃屋に足を踏み入れる。
(「この後で景色を楽しむためにも、しっかり退治しなきゃ」)
綺麗な紅葉に美味しいご飯、――そして。
浅巳・灯乃人(スターダスト・d26451)が躊躇いなく廃屋に足を下ろした時だった。
ほぼ同時に、薄闇の奥から10体のむさぼり蜘蛛が、牙を鳴らしながら現れたのは。
「むさぼり蜘蛛も紅葉を楽しんでる……って、わけでもなさそうだね〜」
「紅葉に蜘蛛は……うーん、ちょっと無理っすね」
顔を見合わせる、豊穣・有紗(神凪・d19038)と押出・ハリマ(気は優しくて力持ち・d31336)。
風流というよりも、花より眼前の獲物が良いような?
「ならば、ボクと一緒に殲滅だ!」
「…範囲攻撃で一掃…どーん、ね……」
有無を言わさずクロスグレイブを向ける有紗に、ポルター・インビジビリティ(至高堕天・d17263)が小さく頷く。
それが合図になったのだろう、9人と6体は横一列に並ぶと涼しい顔で武器を構えた。
言うまでもない。只の数の暴力による、高火力一斉砲火であーる。
『ギ、ギチッギチッ!』
異様な光景を前に、蜘蛛達も待ってくれ話せばわかる状態でして。
うん、きっと気のせいですよねっ!
「クールに決めるぜ、リツカ!」
――結論。速攻でボコッて秋の味覚を楽しむべしッ!
颯爽と味方の前に立った月島・立夏(ヴァーミリオンキル・d05735)の傍らには、ライドキャリバーのランスロットも準備万端だと銃口を突きつけていて。
「氷桜、吹雪け……絶対零度の舞を魅せろッ!」
久しぶりに会う大切な友を待たせている今、速攻すら手ぬるい!
蒼に染めた羽織を鋭く靡かせ、小早川・里桜(花紅龍禄・d17247)が放った凍てつく魔法が、氷の花弁が舞うが如く廃屋に咲き乱れる。
そして、半ば嫌がらせに近いパラライズ系サイキックが、勢い良くズドーンと飛び交った!
●惨分クッキング〜蜘蛛編
「いっぱい動いて、いっぱいお腹空かせなくちゃ!」
鼻歌混じりに空本・朔和(おひさまスタンピード・d25344)が放ったのは、霊的因子を強制停止させる結界。
「…蜘蛛を逆に纏めて糸で捕まえる……」
銀の髪を靡かせたポルターも、合わせるように同じものを織り重ねる。
――同時に。ライドキャリバーのぶらっくすわんが機銃を吹かせ、ウイングキャットのエンピレオと灯乃人のウイングキャットが、一緒に肉球パンチを見舞った。
「前のめりでいくっす!」
「オレの華麗なダンスに酔いな!」
瞬く間に敵前列が土煙で覆われる中、ハリマが更にずどーんと除霊結界を重ねていく。
立夏も踊りながら敵の動きを阻害する結界を構築するけれど、パラライズと踊りは無関係であーる。
「これが弾幕戦ってやつだね! なんちゃって」
クロスグレイブの砲門を全て開放した有紗が、敵前列の蜘蛛を光線の乱射で薙ぎ払うけど、これもまたパラライズ系♪
息継ぐ間もない麻痺尽くしで敵前列は一蹴、土煙に薄ら隠れていた後方の蜘蛛達も子犬の如く震えていたけれど、灼滅者達は攻撃を弛めない!
「たまにはどーんといっちゃうよ!」
普段はやらないクラッシャーという立ち位置に、灯乃人も自然と気合が入る。
「ささっと蜘蛛を倒して秋の味覚を堪能したいね」
漆黒の殺気が敵後列を覆い尽くし、更にメアリーの炎の奔流が焼き払った時だった。
「久しぶりに会う友人を待たせているだけじゃない……油が乗った秋刀魚の炭火焼と栗御飯も待っているんだ」
只でさえ凛々しい里桜の双眸が、刃物の如く研ぎ澄まされていて。
――恐るべし、友情と食欲の秋!!
「だから……邪魔な蜘蛛には、さっさと御退場願おうか!」
里桜が巻き起こした絶対零度の氷華が、後列の蜘蛛達を蹂躙する。
「こんな攻撃的な布陣初めてだよね~、夜叉丸ドーンといくよっ」
凍てつく空気を裂くように、有紗が翼の如く帯を放出すると、既に駆け出していた霊犬の夜叉丸が鋭く斬魔刀を振う。
灯乃人に護りごと裂かれた1体が消え、再び除霊結界の一斉砲火が――そして1分後♪
「これは風流っすねー」
「あっという間だったね!」
赤々と燃える紅葉が垣間見える中、凍り付いた蜘蛛が砕け、きらきらと散っていく……。
拍手喝采のハリマの横では、大きく胸を張った朔和がドヤ顔を決めていて。
「フッ、次はオレに任せ……って、はやっ!」
「……オレ、いなくても良かったんじゃね?」
ランスロットと連携して美少女達を……否、味方を庇う間もなく灼滅完了!
格好を崩した立夏の後ろでは、ワタル・ブレイド(中学生魔法使い・dn0008)が、静かに十字を切っていた。
「怪我はしてないっすか?」
ここで怪我でもしていた場合、戦いの後の楽しみが半減してしまう。
ハリマが皆の状態を確認したところ、サーヴァントも揃って元気一杯だった。
「猫さんもお疲れさまだよ」
灯乃人はウイングキャットを招き寄せ、ぎゅっと抱きしめる。
名は無くても心の相棒で大事な友達、大切に大事に労うように……。
「イイ運動したし飯もさらに旨いに違いねェ」
秋刀魚に山菜、栗ご飯。考えただけでも立夏の腹の虫が悲鳴をあげそうで……!
何時の間にか踵を返していたメアリーも、軽い足取りで旅館に向かうのだった。
●秋の味覚と共に
「まずは依頼お疲れ様、乾杯!」
「「乾杯ー!!」」
眷属退治を労うように、今日子と立夏が飲み物を入ったグラスを掲げると、幾つものグラスが心地良い音色を響かせ、楽しい秋の宴の始まりを告げる。
「紅葉も見頃だね~」
蜘蛛を倒したお駄賃は、旅館のお座敷で景色を眺めながらの豪華な会席膳。
席が設けられた個室からは、さらさらと流れる渓流と鮮やかに染まる山々が一望できて。
窓際から聞こえる渓流のせせらぎに耳を傾ける有紗に合わせるように、夜叉丸もじっと渓流の流れに視線を止めていた。
「…ん、いい景色…。…綺麗……」
同じく景色を眺めていたポルターの前に、幾つもの御膳が運ばれて来る。
山菜の天ぷら、刺身、煮物に栗ごはん、秋刀魚の炭火焼……豪勢な秋の幸に、ハリマとメアリーも溜息に似た歓声を洩らした。
「いただきます!」
秋刀魚の炭火焼の香りに鼻孔をくすぐられた朔和は、紅葉より団子♪
元気良く手を合わせる朔和の隣で、ポルターも静かに手を合わせて、いただきます。
「里桜ちゃん、誘ってくれてありがとう、ね」
「ふふっ、円も元気そうで何よりだ……」
円の労いに似た言葉に、里桜は自分も元気でやっているよと、穏やかな笑みを返す。
突然の誘いに同行してくれただけでも嬉しいのに、感謝の言葉しかでなくて……。
沸き上がる思いを胸の内に仕舞い、里桜は秋刀魚の炭火焼に箸を伸ばした。
「ふふふ~、ボクに感謝するのだ」
老舗の旅館なんて普段中々入れないのに、まして夜叉丸と一緒なら尚更で。
有紗はパリッと程よく焼けた秋刀魚の炭火焼を小さくほぐすと、夜叉丸のお皿に取り分けていく。
「はい、どうぞっ」
何処か楽しげに、有紗が取り分けたお皿を夜叉丸に差し出すと……。
それまで行儀良く座ってじーっと有紗の手元を見ていた忠犬も、嬉しそうに尻尾を振って、お皿に吸い寄せられていった。
「穏やかで落ちつくなあ」
氷人と一緒に紅葉に彩られた情景を眺めながら、灯乃人も秋刀魚を口にする。
運動後の食事は格別で、大切な兄と一緒なら尚更美味しく、自然に頬が弛んでしまう。
「ふふ、たまにはこうしてのんびりするのも悪くないね」
戦いで灯乃人が酷い怪我を負った様子もなく、氷人は胸の内で安堵を洩らしていて。
今は妹からのお誘いを存分に楽しもうと、秋の味覚をゆるりと口に運んでいく。
――この雰囲気と、この場所と。
大切な妹とのひとときを、満喫するように――。
「いやーもう山菜いいよね! 歯応えも何もかも!」
樹斉の秋の幸の好みは山菜と栗ご飯!
サクっとした山菜の天ぷらの味わいに樹斉が舌鼓を打つと、秋刀魚の炭火焼をゆっくり堪能していたハリマとワタルも、どれどれと箸を伸ばす。
「秋の幸は色々あっていいっすねー」
「本格な天ぷらは初めてダケド、このサクサク感は癖になりそうだな」
美味しそうに口を動かす2人に、樹斉も2人がどんな味が好きなのか、興味津々♪
口の中に栗ご飯を掻き込みながら、樹斉が先輩達の顔を伺っていた時だった。
ふと、箸を止めたハリマがワタルに訪ねたのは。
「僕はやっぱりこの秋刀魚が……ワタルセンパイはお気に入りの料理、あるっす?」
ハリマの秋の幸の目玉は秋刀魚らしい。
道理で美味しそうに食べていた訳だとワタルは口元を弛め、お椀を手に取った。
「この中だと秋刀魚と栗ご飯だな。あ、刺身にワサビ醤油と紅葉おろしも通だぜ?」
意外に渋……和食通なワタルである。
「さあて、次は何食べよっかな?」
何処かミステリアスな雰囲気のメアリーは、1人気兼ねすることなく、思うがままに秋の幸を堪能していて。
誰かと一緒に食べるのも悪くないけれど、気楽に御馳走に集中するのも、秋の醍醐味に違いない。
「栗ごはんと天ぷらもおいしいねぇ。姉ちゃんと師匠がいないから独り占めできるし」
祖父に叩き込まれた魚の食べ方で頭と骨以外綺麗に平らげた朔和は、御茶を飲み干す。
「ポルターと一緒にご飯食べられて嬉しいな♪」
続けて頬張った天ぷらの歯ごたえに、朔和のアホ毛もぴこぴこ動いてしまっていて。
釣られたポルターも天ぷらを口にすると、なるほど自分好みの味わいだ……。
「…私も朔和と一緒のご飯、楽しい…」
炭火で焼いた秋刀魚は油が乗っていて、箸を置くだけで旨み成分がじわっと滲み出る。
甘い栗が使われた栗ご飯も温かくて柔らかくて、優しい味が口の中に溶けるけど……。
――一緒にご飯を食べられて嬉しい。
何よりその言葉が嬉しくて、不思議と心が温かくなった。
「うん、秋刀魚の炭火焼美味しい……! 円、そっちの栗御飯はどうだ?」
「わぁ……栗ご飯、美味しいよ……里桜ちゃんのは、どうかな?」
秋刀魚の炭火焼を満喫していた里桜に、円も栗ご飯の味わいに舌鼓を打っていて。
「私のもとても、とても美味しいぞ!」
円が「どう?」と訪ねた時には、里桜の栗ご飯は既に半分以下に減っていて!?
一見、繊細に見える里桜体の何処にその量が入るのか、不思議に見えるくらいの大食いっぷりだ!!
「栗ご飯のお代わり……自由みたい、だね」
「……ならば、時間の許す限り沢山堪能するか」
秋刀魚の炭火焼の香ばしさも、栗ご飯の温かさも、まだまだ胃袋に入れられる。
大切な友と久しぶりに過ごす、大切なひとときと共に――。
「おっ、夜叉丸も食べるねっ」
甘ーい栗ご飯をぺろっと平らげた夜叉丸に、有紗はまじまじと瞳を瞬いて。
主人を真っ直ぐ見つめた夜叉丸は前足で自身のお皿を、そっと引き寄せる。
「…………」
その姿は有紗に負けず劣らずの、紅葉より団子♪
次は栗をもう少し入れてよとでも言うように、有紗の肘を鼻で突く夜叉丸でした♪
「臨海学校だったカナ、アレ以来じゃねって思うンだけどー?」
「2年前だね、懐かしいなあ」
ふと、箸を止めた立夏が少し挙動不審になりながら、今日子に話を振る。
皆の給仕に専念していた今日子も御茶を注ぐ手を止め、柔らかく瞳を細めた。
「今日は美味しいところだけ貰って申し訳ないね」
「あん時はキョーコが頑張って、オレは美味しいトコ取りだったしいいんじゃネ?」
お互い様だと笑う立夏に、今日子がそういう訳にはいかないと首を横に振る。
そして、人目を避けるように栗ご飯を箸で摘むと、ゆっくり立夏の口に運んだ。
「今日は頑張ってサービスさせてもらおうかな」
「いやァ、ナンカ照れるちゅうか……」
おもむろに口元に運ばれた幸せのお裾分けに、立夏は嬉し恥ずかしそう。
けれど、粋なサービスを断る理由なんて、漢が廃るものっ!
「あーん」
照れを隠すように笑った立夏は、大きく口を開ける。
モグモグと口を動かせば、栗ご飯の甘みと一緒に幸せが口一杯に広がっていく――。
「お兄ちゃんも、あーん」
「あら、食べさせてくれるのかい?」
灯乃人からの幸せのお裾分けに、氷人も感謝を紡ぎつつ、あーんと口を開ける。
「……うん、凄く美味しいね。ほら、灯乃も。あーん」
口の中で広がる栗ご飯の温かさに、和やかな空気も程よい調味料で。
お返しに氷人からあーんを促された灯乃人も口を開け、幸せをゆっくり噛み締める。
「猫さんもあーんする?」
差し出された秋の美味しいお裾分けに、灯乃人の大事な友達も嬉しそう。
共に過ごす時間と味を楽しむように一鳴きすると、小さな口を目一杯開けたのだった。
「そういえばポルター卵好きだったよねぇ?」
ふと、茶碗蒸しの銀杏に視線を止めた朔和が、ポルターに話を振る。
今度一緒に銀杏拾いに行こうと元気良く顔を上げると、満面の笑みで微笑んだ。
「いっぱい銀杏拾って、おっきい茶碗蒸し作ってもらおうよ!」
「…うん、楽しそうだし行きたい…。…そうなったら手はちゃんと洗わないとね……」
銀杏で手が少し臭くなるくらいが、丁度いい。
2人一緒なら、時間を忘れるくらい、楽しくなるから――。
「この栗ご飯、帰りに持って帰れないかな」
折角のご馳走、帰ったあとも美味しい気持ちでいたい。
メアリーが女将に声を掛けると、年配の女将は栗ご飯のお握りがありますよと、快く快諾してくれたのだった。
「至れり尽くせりっすね!」
ハリマと樹斉のお腹と心も秋の幸で満たされた頃……。
食後の餡蜜と焙じ茶が運ばれてきた瞬間、里桜と円も溜息に似た歓声を洩らした。
「ポルター、サクランボあげる!」
「…いいの…?」
何処か慌てた素振りで朔和がポルターの餡蜜にぽんっと、サクランボを入れる。
「べ、べつに、サクランボ好きそうだからとか、そんなんじゃないんだからねっ」
何故かツンデレな朔和にポルターも口元を少し弛め、素直に礼を述べた。
「…ん、ありがとう…。…甘酸っぱくて美味しい……」
赤い果実を頬張るポルターに、朔和の耳もちょっとだけ赤く染まっていたという。
●渓流の紅葉狩り
メアリーがお握りを作って貰っている間、秋の幸で心と体を一杯に満たした少年少女達は、渓流沿いを歩いていて。
「ちゃんと景色も楽しまないとだよね~」
今日は絶好のロケーション日和!
紅葉に囲まれてはしゃぐ有紗に、夜叉丸はやれやれと首を横に振る。
それでも歩く速度を合わせながら、紅葉と渓流のせせらぎを楽しんでいた。
「渓流の音と紅葉の鮮やかさ……秋ってこんなにもいい季節なんっすねー」
去年の今頃灼滅者になって、この一年色々大変だったけれど、何とか乗り越えて来て。
そんな中で過ごす穏やかなひとときにハリマは瞳を細め、景色をじっくり見回りながら、カメラに納めていく。
「センパイ達、写真撮ろー!」
「おう、カッコ良く撮ってくれよ?」
元気いっぱいに秋を満喫していた樹斉の声に、ワタルとハリマは二つ返事で頷いて。
ハリマは戻ってきたメアリーにカメラを預けると、2人と一緒に渓流沿いに並ぶ。
燃えるような鮮やかな山々を背景に、ぱしゃりとシャッターが落ちた。
「美味しい料理と美しい景色、そして愛する人。最高だね?」
これもサービスだと今日子は微笑む、けれど……。
本心から贈られた言葉に同感した立夏は、優しく笑って頷く。
「キョーコ大好きだぜ」
信頼と愛情を返すように、パチンとウィンク☆
時間が許す限り、立夏と今日子は2人っきりのデートを楽しんだという。
「紅葉綺麗だね~! あっちに遊びに行ってもいいのかな?」
元気よく散策していた朔和の手は、ポルターの手をしっかり握っていて。
手から伝わる温もりと風の心地良さに瞳を細めたポルターが、不意に歩みを止めた。
「…今日は貰ってばかりだし、その……お返し……」
――何だろう?
振り向いた朔和の頬に優しい口づけが重なったのは、ほぼ同時。
「んあ!?」
照れて赤くなって固まった朔和の新鮮な反応に、ポルターの頬も赤く染まっていて。
まるで、紅葉よりも赤く、熱を帯びたかのように――。
「えへへ、とってもおいしかったね。でも、お兄ちゃんの料理には敵わないかなあ」
灯乃人が笑顔で紡いだ言葉に、氷人は嬉しさを噛みしめながらも、謙遜する。
「食べ物って、こういう自然の中で食べると凄く美味しいからね」
――今度、お弁当でも持って、またこういう所に来ようか?
そう告げた氷人に灯乃人は瞳を瞬き、強く頷いて見せて。
「お出かけする時には、お兄ちゃんのおいしいお弁当を期待してるね!」
「紅葉、綺麗だねー……あ、持って帰っても、いいかな?」
ひらりと舞い落ちた葉を円の視線が追う中、里桜の唇が自然と言葉を紡ぐ。
大切な友達との思い出を、綺麗な景観と共に残して置きたかったから……。
「そうだ、折角の機会だし……一緒に写真を撮らないか?」
里桜の提案に円は二つ返事を返すと、自撮棒の変わりに寄生体を伸ばす。
穏やかにピースする円に習って、生真面目な里桜も少し照れたように指先を形取る。
ぱしゃり。
実りの秋が織り成すひとときが、大切な思い出の一つになりますように――。
作者:御剣鋼 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年11月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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