埋もれていく世界

    作者:奏蛍

    ●視界いっぱいの……
    「これも、これも、これもお願いね」
    「う、うん……」
     どこからか聞こえてくる声と同時に、紙の束が降ってくる。必死にかたそうとする志都だが、終わらずにどんどん床に溜まっていく。
    「あぁ、こっちもお願いするわ」
     また紙束が降ってくる。できないと言えばいいはずなのに、その言葉を口にしようとすると体が震えた。
     どうしても口にできない。無理だと告げてしまえば、志都のそばから何もかもなくなってしまうのだ。
     だから無理だ、できないとは言えない。足元が埋まって、膝が埋まって……。
     埋もれてしまう前に紙の束の上に体を出した。そしてまた埋まっていく。
     終わらない作業と降ってくる紙束、響く声に志都は埋もれて消えてしまいそうだった。
     
    ●消えない恐怖
    「拒否したくても、過去の経験からできないみたいなんだよね」
     うーんと眉を寄せた須藤・まりん(高校生エクスブレイン・dn0003)が首を傾げている。ダークネスの持つバベルの鎖の力による予知をかいくぐるには、彼女たちエクスブレインの未来予測が必要になる。
     志都は大人しい少女だった。だからというわけでもないが、頼まれると断れない性格をしていた。
     そのせいで、いつでも人に頼まれたことばかりをしている。今回も、自分の許容量を超えた頼まれごとの数に困惑していた。
     断ればいいのに、志都には断れない理由があった。過去にどうしても無理だと思った時に、断りを告げたのだ。
     その結果、志都は孤立した。志都に悪いところは全くない。
     できる分だけを引き受けようと思っただけなのだ。けれど断られた同級生は、自分のだから引き受けないのかと詰め寄った。
     違うと答えたが、断られたことに怒りを感じていた同級生は志都を罵った。そして次の日には、志都は性格の悪い存在として無視されることとなった。
     高校に入って、同じミスはしないようにしようと志都は決めていた。けれど断らなければ断らないほど、志都の負担は増えていく。
     どんどん弱っていく心に、シャドウが入り込んでしまったのだ。みんなに志都のことを助け出してもらえたらと思う。
     まずはソウルアクセスして志都の夢の中に入ってもらうことになる。志都が寝ている場所までは、大きな物音など立てなければ問題ないだろう。
     そのため、みんなにはどう志都を救い出すかに集中してもらいたい。夢の中に入ったら、紙の束に埋もれた志都を見つけて欲しい。
     そしてどれでも構わないので、紙を破いてもらいたい。そうすると異変を感じたシャドウが現れる。
     シャドウを撃退すれば志都を救い出すことができるが、目覚めてから回復するまで時間がかかってしまう。そのため、可能なら他の二つの方法で救い出してもらえたらと思う。
     ひとつは志都にこれが夢だとわからせた状態で紙を破ることだ。同じように異変を感じたシャドウが現れてくれるので、撃退してもらいたい。
     この方法で救い出すと、眠る前と変わらない無理と言えない志都が目覚める。
     最後の方法は夢だとわからせ、さらに無理なら無理と言っていいし、嫌なら嫌と断っていいのだと教えてあげて欲しい。過去の経験から、そうしてはいけないと思い込んでしまっている志都なので、そう簡単には説得できないだろう。
     言うことによって、起こる可能性がある事態に志都は恐怖を感じている。恐怖を少しでも減らすことができれば、断ろうと思ってくれるかも知れない。
     聞こえてくる声に志都が自ら嫌だと言うことができれば、異変を感じたシャドウが現れてくれるだろう。こうしてシャドウを撃退すれば、志都は眠る前より少し成長して目覚める。
     シャドウは危険を感じれば別のソウルボードに逃げてしまうので、灼滅することは不可能だ。一緒に現れる配下を全て倒すか、自らに危険を感じれば撤退する。
     シャドウはシャドウハンターのサイキックと解体ナイフを使う。現れる配下五体は手裏剣甲を使ってくる。
    「どの方法で志都ちゃんを救い出すかはみんなに任せるよ」
     だからお願いねというように、まりんがみんなを送り出すのだった。


    参加者
    米田・空子(ご当地メイド・d02362)
    陽横・雛美(すごくおいしい・d26499)
    阿礼谷・千波(一殺多生・d28212)
    辻凪・示天(彼方の深淵・d31404)
    樋口・玲音(騙る小悪魔・d32293)
    幸御・たま(小学生人狼・d32660)
    ミレイ・クローディア(紅焔の邪眼・d32997)
    天羽・李(寒柝アリオーソ・d34532)

    ■リプレイ

    ●紙束の山
     夢の中に入った瞬間、紙の束の上に下りた辻凪・示天(彼方の深淵・d31404)が微かにバランスを崩す。紙束で埋め尽くされた部屋は、真っ直ぐな床を確認することすらできない。
     しかしロングコートを揺らしはしたが、示天が驚いた様子はない。隠された素顔も、きっと全く動じていないのだろう。
     そんな示天が思ったのは、シャドウも随分と手間のかかることをしてくれるということだった。
    「あー! いた!!」
     周りを見渡していた樋口・玲音(騙る小悪魔・d32293)が突然声を出した。そして志都の名前を呼びながら、紙の束の上を軽やかに跳ねる。
    「初めまして、わたしはレオナだよう」
     にこにこと可愛らしい笑みを浮かべた玲音が、紙の束の中に埋もれている志都を覗き込む。突然の声と共に現れた玲音に、志都の体がびくりと震える。
    「そんなとこ埋まってちゃダメダメ」
     まずは出てきてから話をしようと、玲音が手を差し伸べる。どうしていいかわからないというように、志都の体が余計に紙の中に埋もれていく。
    「おぬし、志都じゃろ?」
     大きな瞳を瞬きさせた幸御・たま(小学生人狼・d32660)も、確認しながら顔を覗かせる。
    「おいら達は志都を助けに来たんじゃよ」
     そしてたまも手を差し伸べると、おずおずと志都が二人に手を伸ばす。一気に引き抜かれた志都の体が紙の束の上に下りた。
    「これ、夢だよ?」
     突然現れた灼滅者たちに、彷徨っていた志都の瞳が玲音の言葉で停止した。
    「志都ちゃんがどんなにお仕事溜めたって、こんなになるわけないよ」
     床も見えない上に積み重なった紙の束のせいで、床からだいぶ高さがあるのもわかる。こんなことが普通で考えてあるはずがないと玲音が首を振った。
    「あなたたちは……?」
     夢だと言われてさらに戸惑いをました志都がじりじりと距離を取るように下がってしまう。
    「君は誰から何を頼まれ、何をしているんだ?」
     志都とは正反対な冷静な示天の声が響いた。さらに自分たちが誰なのかはどうでもいいと示天に言われて、志都が俯いてしまう。
    「現状をよく見ろ」
     またそのまま埋もれていってしまいそうな志都に、示天が下を向いている場合ではないと諭す。
    「これが現実だとでも?」
     言いながら、足元から示天が紙を持ち上げる。破くわけにはいかないが、こんなものに必死になっている志都を見ていると人間もシャドウと似たり寄ったりかと思ってしまう。
     多少拒否した程度で離れていってしまう関係など、友人どころか知人としても不要だ。その程度の関係のものが離れてしまって、そばから何もかもなくなってしまうとして何が困るのかと首を傾げてしまいたくなる。
    「もう一回、言ってあげるわ。これは夢、悪夢よ」
     思わず志都が陽横・雛美(すごくおいしい・d26499)の背中を覗き込んでしまったのは、もしかしてチャックがあるかもしれないと思ったからだった。けれどチャックは存在せず、ピンク色の羽をした二頭身のヒヨコが普通に動いている。
     まるでマスコットキャラクターのようなのだが……。ごくりと息を飲んだ志都の体から力が抜けていく。
    「そっか、夢なんだ……」
     夢だとわかっても、志都の気持ちは全く晴れなかった。この紙の束ほどは間違いなくないが、目覚めたらまた同じように苦しむのだ。
    「志都さんはすごく優しくて、頑張りやさんだなって思います」
     ずるずると座り込んでしまう志都に、米田・空子(ご当地メイド・d02362)が優しく声をかけた。少しでも志都が感じている拒否することへの恐怖を和らげてあげられるようにと。
    「前に頼みごとを断って、悲しい想いをしたって聞きました」
     痛いところに触れられたように、志都の体が大きく震えた。まるで責められているように体を小さくしてしまう志都に、天羽・李(寒柝アリオーソ・d34532)がそっと触れた。
    「あなたは悪くないです」
     ぎゅっと口を閉ざす志都を見て、意見の封殺というものなのかもしれないと李は感じた。断りたいと思っても、過去の出来事がよぎって志都にのしかかる。
     断らなければと思っても、自分という存在が無視されることが怖くて言葉が抑制される。
    「そんなに抱えてしまって大丈夫……なのかしら?」
     青ざめていく志都の顔を見て、ミレイ・クローディア(紅焔の邪眼・d32997)が思わず呟いていた。できないものをできないとはっきり言えない気持ちはミレイにはわからない。
    「引き受けるのではなく、協力ならできると言えば良いんじゃないかしら?」
     断ることができないなら、一人で抱え込まないようにしたらどうだろうかと阿礼谷・千波(一殺多生・d28212)が首を傾げた。

    ●消える瞬間
     頼みごとが大変なら相手もわかってくれると言う千波に、志都が少しだけ顔を上げた。
    「そうです。頼まれたこと全部を1人でやらなきゃいけないわけじゃないのです」
     誰かに頼ってもいいと空子は思う。
    「空子もお手伝いします」
     だから手始めに、この紙を掃除してしまおうと志都を誘う。おずおずといった具合に、志都が空子の瞳を見返した。
    「とにかく、都合のいい存在にならないように注意しなさいね」
     それでもまだ一歩を踏み出せないでいる志都に、千波がハキハキとした口調で告げる。悪意や嘘などなく、千波が真っ直ぐに言葉を伝えているのが志都にもわかる。
     わかるのだが、頼まれることでつらい思いをしている志都だけに考えてしまう。誰かに頼ってそのひとが自分のような思いをしたら?
    「わたしね、高校生なんだけど寮の管理人やってるの」
     手伝ってもらうことは悪いことじゃないのだと伝えようと、玲音が口を開いた。管理人をしているが、料理は得意じゃないし、掃除が早いわけでもない。
     だから寮に住んでいるみんなに手伝ってもらっている。
    「志都ちゃんもそれでいいんじゃないかな?」
     一人でやったら半日かかってしまうような事も、誰かと協力すれば半日もかからないのだ。一瞬、瞳に光を戻したかと思うと志都の心はまた落ちてしまう。
     かけられる言葉と、のしかかってくる過去の狭間で揺れている。
    「……辛かったのう」
     座り込んでいる志都の視線に合わせてしゃがんだたまが呟いていた。志都の心が揺れているのはわかるが、たまにはなかなか良い言葉が浮かんでこない。
     けれど拙い言葉でも懸命に伝えなければと思う。志都を助けたいという気持ちからだった。
    「仲間はずれやひとりぼっちは寂しいんじゃよ……」
     断って孤立した過去のせいで、ますます断れないという気持ちがたまにはわかる。わかるからこそ、少しでも自分の行動や発言に自信を持って欲しいのだ。
     一人ぼっちだったたまだからこそ、わかることなのだ。
    「良ければ勇気を出してみませんか?」
     自分たちがいるから、一人にさせないからと李が手を差し出す。紙の束から抜け出すためではなく、今度は勇気を出すために立ち上がってもらおうとする。
    「もし貴女が倒れてしまったら……どうなると思う……?」
     ぐずぐずと踏み出せない志都に、ミレイが問いかけた。できないような量の頼みごとを志都にした人たちが一番困るのは、結果が戻ってこないことだ。
     悲しいことだが、それが事実だとミレイは思うし実際そうだろう。だからこそ、結果しか求めないような人たちに、志都が応える必要はないと思うとミレイは告げた。
    「頼みごとは何でも受け付けて良いわけじゃないわ」
     本当の友人の頼みごとにこそ、応えるべきなのだ。
    「だから……断る勇気を持って欲しいわ」
     ミレイに勇気と言われて志都の瞳が微かに見開いた。ぎゅっと拳を握りしめたまま、志都が再び下を向いてしまう。
    「あのねぇ、無理なら無理って言いなさいよ」
     人に色々求めてきて、自分たちが楽するような奴らは友達になるに値しないと雛美がぶっちゃける。大変そうなら助け合うのが友達なのだ。
     断ったことでいなくなるのなら、それは友達でもないし追う必要もない。
    「そんな奴ら、アンタを友達ともなんとも思ってないもの」
     悪夢だと志都に告げていた雛美だが、自分から行動を起こそうとしなかった志都への罰でもあると思う。
    「自分に積もった埃くらい自分で払ったらどう?」
     払おうというのなら、手を貸してもいいという雛美に志都が顔を上げる。
    「少しだけ勇気を出してみるんじゃよ」
     自分たちも応援するからというたまの言葉に、志都が口を開いた。
    「わ、わたし、ちゃんと断りたい!」
     その途端に、足元の紙の束が消える。落ちる感覚に息を飲んだ志都を、慌てる素振りさえ見せない示天が捕まえて床に着地させた。
     外見とは裏腹に、周囲のことをよく見て親切な示天なのだった。ふと澱んだ雰囲気が漂い始めたのを感じたのか、志都の体が震える。
    「わたしたちがここから出してあげる。信じてついてきて!」
     油断なく構えた玲音が声を出したのと同時に、シャドウが姿を現した。
    「でも今は、隠れてて!!」
     ついてきてと言った玲音ではあるが、シャドウに向かっていくのについてこられたら怪我をさせてしまうと再び声を上げていた。
    「メイドキックです!」
     メイド服の裾を揺らした空子が華麗なジャンプキックを配下に決める。同時にどす黒い殺気を千波が無尽蔵に放出して、出現した配下たちを覆い尽くした。

    ●シャドウ
     巨大なカラーヒヨコがふわりと浮いて、殴りつけるのと同時に網状の霊力を放射する。愛らしいマスコットに見える雛美だが、攻撃力は別物だ。
     吹き飛ばされた配下に狙いを定めた示天が跳躍する。そして容赦のない飛び蹴りを炸裂させた。
     ガラスにヒビが入ったようになった配下の体が、衝撃で粉砕される。高い綺麗な音が床に散らばって消えた。
    「よくも……」
     少年の姿をしたシャドウが醜く顔を歪めた。そして漆黒の弾丸を放つ。
     素早い動きで放たれた攻撃は、避ける暇も与えずに一気に李の体を貫いた。微かに息を飲んだ李に、玲音が歌声を響かせて傷を癒していく。
     その間にミレイが常に手にしていた魔道書から手を放した。落ちた本はミレイの影に消えていく。
     そして手を伸ばしたミレイが影から手を引き抜くと、縛霊手が装着されていた。
    「――相変わらず、シャドウたちは人の闇を突くのが好きね……」
     性分なのかしらと呟いたミレイが身を低くしたと思った瞬間、前に飛び出していた。殴りつけるのと同時に放射された網状の霊力が雪のようにきらきらと舞って、配下を縛り上げる。
     慌てたように暴れる配下の体に、たまが迫る。
    「とどめなのじゃ!」
     言いながら片腕を半獣化させて、鋭い爪で容赦なく引き裂いた。立っていられなくなった配下が床に倒れて砕け散る。
     シャドウの意識が倒された配下に向いた瞬間、素早く駆けていた李が目の前に迫っていた。シャドウの弱点を狙って、正確な斬撃を繰り出す。
     はっとしたシャドウが身を捻って避けようとしたが、完全に避けられずに体に傷が広がった。シャドウが眉を寄せるのと同時に、残った配下たちが一気に動いた。
     毒を塗りつけられた大量の手裏剣が前にいる灼滅者たちに向かって投げつけられる。さっと身を翻した空子が手裏剣を避けて床を蹴った。
     しかし着地した空子が衝撃に眉を寄せる。床に足が着くのを見計らったように、配下が決死の回転体当たりを決めたのだ。
    「頼んだよう!」
     玲音に声をかけられたウイングキャットの桜音が空子の元に飛んでいく。そして玲音も立ち上がる力をもたらす響きで仲間を包み込んだ。
    「リコ、行けるよね」
     霊犬のリコに声をかけた千波が素早い動きで一気に死角に回り込みながら、配下を斬り裂いた。その反対側から、駆け出していたリコがさらに斬り裂くのだった。

    ●踏み出す時
    「くそが!」
     悪態をついたシャドウが毒の風を竜巻にして、後方にいた灼滅者たちに向かって放つ。巻き込まれながらも、再び玲音が音を響かせる。
     その間に攻撃をライドキャリバーに受けてもらった示天が、足元に思い切り杭を打ち込んだ。発生した振動波が広がって、配下たちを吹き飛ばす。
     転がりながらも、立ち上がろうとする配下を空子が捕まえる。そして高く持ち上げ、思い切り地面に叩きつけ大爆発させた。
     音もなく着地した空子の髪がふわりと揺れる。
    「メイドダイナミックのお味はいかがでしょうか?」
     その後にご主人様と続けそうな空子がにこりと笑うのと同時に、爆発させられた配下が砕けて消えた。
    「白玉ちゃんは回復をお願いします」
     ナノナノの白玉ちゃんにお願いしながら、空子が間合いを取るために離れる。お願いされた白玉ちゃんが、ライドキャリバーの回復に駆けつけるのだった。
    「あー、もうダルイわ」
     とてもじゃないが友好的とは言えないシャドウに対して、雛美がぼそりと呟く。態度が悪い気もするが、相手はシャドウだから問題はない。
     軽やかに駆けた雛美が、炎を纏った蹴りで配下を燃やし蹴り飛ばした。
    「これがとどめよね?」
     飛ばされた配下が声にぴくりと反応した時には、死角から千波が飛び出していた。そのまま流れるような動きで配下を斬る。
     千波が言ったように、とどめを刺された配下が砕け散った。
    「残りの配下は一体だけね……」
     どうするのかしらと言うように、ミレイの赤い瞳がシャドウを見る。そしてふわりと舞うように青白い光を放つ鋼糸を操った。
     柔らかな動きからは想像できないほどの速さで操られた鋼糸は、容赦なく配下を斬り裂いていく。
    「邪魔しやがって……」
     イラつきながらシャドウが、再び漆黒の弾丸放った。撃ち抜かれたミレイの体が衝撃に吹き飛ばされる。
     何とか床に手をついたミレイが、反動でふわりと浮き上がり着地する。揺らいで膝を付きそうになる体を、片手で支えた。
     すかさず李が炎の花をシャドウに飛ばす。同時に配下に向かって飛び出したたまが、足に炎を纏っていく。
    「志都の中から出て行くんじゃ!」
     言葉と一緒に、思い切り蹴り飛ばす。飛ばされた配下が床に転がりながら、ヒビ割れて砕けた。
     舌打ちが聞こえた瞬間、シャドウが空気に溶け込んでいくように消える。ふっと圧力がなくなったような感覚に、灼滅者たちは力を抜いた。
     示天の後ろで守られるように座り込んでいた志都を、千波がそっと立たせる。
    「焦らず徐々に変わっていけばいいんだからね」
     少しずつでいい、勇気を出すようにと千波が志都に頷いた。
    「何でも請け負うから相手が調子に乗るんだ」
     無理なら無理と断って良いということを忘れるなと示天も声をかける。
    「寄生虫に集られて喜ぶような特殊な趣味があるなら……まぁ別だが」
     変わらず冷静な示天の言葉に、志都が慌てて首を振った。そんな趣味はない。
     そして示天の言葉に思わずというように、志都がはにかんだ笑みを浮かべる。そんな志都の笑顔に、玲音もまた満面の笑みを見せた。
     それは気持ちが届いたという証拠だから……。

    作者:奏蛍 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年10月24日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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