清純派アイドル淫魔・拉致事件!

    作者:相原あきと

     そこは10月になるとコスモスが咲き乱れる関東でも有名な花畑であった。
     薄紫やピンクにも見えるコスモスが咲き誇る一面を、白いワンピースを翻し、つば広の帽子を押さえた美少女が歩く。
     一面のコスモス畑を歩く少女――自称清純派アイドル淫魔の初花(ういか)は、少し雰囲気を出して歩くと、トテトテと戻ってくる。
    「えっと、カット20はこれでばっちりね」
     平日のそれも早めにやってきた為、観光客はまだほとんど集まっていない。
     初花は動画モードで置いておいた自身の携帯をチェックすると、ポケットからメモを取り出し次のカットをどうするか考える。
     そう、まだ売り出し中であり、小さな会場でやっとライブも開けるようになった初花は、現在自分の歌をアピールするイメージ動画を自作中なのだ。
     もっとも、どうやって公開してもバベルの鎖の効果があるため、握手会やライブ会場で手売りする用となるのだが……。
     と、その時だ。コスモスの花弁を散らして花畑から巨大な虫が現れる。
    「きゃあああああああっ!?」
     それは成長した羽虫型ベヘリタス(3m弱)だった。羽虫はグワシッと初花の腰をホールドすると、フワリと上空へ舞い上がる。
     悲鳴を揚げ、サイキックで脚を攻撃しようとするも……「(清純派っぽくないですよね)」と、可愛い声でぽかぽか虫の足を殴る初花。もちろん振り解けるわけもない。
     それでも余裕を持ってアイドルのていを重視するのは理由があった、そう、初花は強大なダークネス組織に所属しており、そこにはあの方が、あの先輩が――。
    「あ、あれ?……事務所で一番頼りになる……えっと、誰、でしたっけ?」
     心の中にぽっかりと誰かがいなくなったかのようにソノ人を思い出せない。
     そして、混乱する初花は無情にも羽虫型ベヘリタスによって空のかなたへ連れ去られてしまったのだった。

    「みんな聞いて、大変な事が起こったわ!」
     教室の集まった皆にエクスブレインの鈴懸・珠希(中学生エクスブレイン・dn0064)が言う。
     なんと都内で路上ハグ会を開いていたラブリンスターを『宇宙服の少年』が襲撃、その絆を奪って連れ去ってしまったと言う。星野・えりな(スターライトエンジェル・d02158)達がいち早く気づいて追跡するも、羽虫型ベヘリタスに邪魔され、結果、最後まで追う事はできなかった。
    「更に、絆を奪われて混乱するラブリンスター配下の淫魔達を、羽虫型ベヘリタスが襲撃し連れ去ろうとし始めているみたいなの」
     ダークネス同士の争いとはいえベヘリタスの動きを放置する事はできない。ラブリンスターの行方も気になるが、まずはベヘリタスの攻撃を迎え撃つことが必要だろう。
    「だから、今回集まってもらった皆には、ラブリンスター配下を襲撃する羽虫型ベヘリタスを迎撃して欲しいの」
     珠希はそこまで言うと、今回被害に遭う淫魔と、襲撃に来る羽虫型ベヘリタスの説明を始める。
    「成長した羽虫型ベヘリタスは大きさが3m弱、戦闘力もかなり強力になってるわ。現れるのが1体、だけど十分強敵だから注意して」
     羽虫型ベヘリタスはシャドーハンターとウロボロスブレイドに似たサイキックを使い、戦い方はとにかく攻撃特化であり、高い能力値は神秘だと言う。
    「襲われる淫魔は、自称清純派アイドルを名乗る初花(ういか)っていう淫魔よ」
     上手く説得すれば共闘してベヘリタスと戦ってくれるらしいが……放っておいて、さっさと逃がしてしまい、自分たちだけで戦っても問題は無い。
     とりあえず共闘してくれた場合、初花はサウンドソルジャーとWOKシールドに似たサイキックを使い、支援が可能な立ち位置で戦うらしい。
    「それにしても、羽虫型ベヘリタスの成長した姿を見るに、ベヘリタス勢力の戦力はかなり強大になってきていると思う……嫌な予感がするわね」
     腕を組んで考える珠希だが、今は目の前の事件の解決だと灼滅者達を見据え「宜しくね」とお願いするのだった。


    参加者
    旅行鳩・砂蔵(桜・d01166)
    若生・めぐみ(歌って踊れるコスプレアイドル・d01426)
    星野・えりな(スターライトエンジェル・d02158)
    風真・和弥(冥途骸・d03497)
    ファルケ・リフライヤ(爆走する音痴な歌声銀河特急便・d03954)
    オルゴール・オペラ(魔女の群・d27053)
    烏丸・碧莉(黒と緑の・d28644)
    戒道・蒼騎(ナノナノ教育係・d31356)

    ■リプレイ


     薄紫やピンクにも見えるコスモスが咲き誇る花畑、その花弁を揺らして現れた巨大な羽虫の姿に自称清純派アイドル淫魔の初花(ういか)は悲鳴をあげる。
     だが、次の瞬間――ガチンッ!
     初花を捕まえようとした羽虫の太い足が空を切り、足同士がぶつかる硬い音が響く。
    「大丈夫か」
     声に初花が我に返ると、そこにはファルケ・リフライヤ(爆走する音痴な歌声銀河特急便・d03954)とメイド服を着た風真・和弥(冥途骸・d03497)がいた。咄嗟に跳び込み初花を羽虫の手から救ったのだ。
    「あ……は、はい」
     何が起こったか解らず初花が返事をすると、初花を庇うようさらに6人の灼滅者が現れる。
     突然の邪魔者たちに羽虫型ベヘリタスがブブブと羽を震わせ威嚇を開始。そんなベヘリタスに和弥が指を突きつけ。
    「とりあえず、ラブリンスターやアイドル淫魔達に近付く悪い虫と、それをけしかけた輩には、俺が漏れなく地獄への日帰り旅行をくれてやる」
    「まったくだ」
     逃げようとする自身のナノナノ白豚を捕まえつつ、和弥に並んだ戒道・蒼騎(ナノナノ教育係・d31356)が呟く。
    「アイドル淫魔狙う理由は知らないが、ぶっ倒してやる」
     蒼騎の声と共に飛び出し、羽虫を取り囲むように位置取りするはオルゴール・オペラ(魔女の群・d27053)と烏丸・碧莉(黒と緑の・d28644)。
    「え、えっと……あの、いったい?」
     まだ状況の掴めない初花にファルケが向き直り。
    「あの虫は悪質なストーカーみたいなもんなんだ。どうだろう、一緒にあいつにお仕置きしないか?」
    「そうなんですか!? あ、でも、ストーカーさんでもファンはファンですし、そういうのはちょっと……」
     何よりもファンを優先するのがアイドルだろうと考えてか、お仕置きに協力する事に同意しない初花。
    「それなら初花さん! 何か、誰かを……忘れていたりしませんか!?」
     そう叫ぶは星野・えりな(スターライトエンジェル・d02158)だ。
    「貴女は、大事な絆を断ち切られてしまっているのです。貴女達の最も頼りにしていた……大切な人との絆を!」
     えりなの必死さが伝わったか真剣な表情で考えだす初花。
    「私達はその方の為に、貴女達の絆を護る為に、貴女を……必ず助けます! だから、だから思い出して! ラブリンスターさんの事を!」
    「ラブ……リン、スター?」
    「そうです、ラブリンスターさんです」
     お久しぶりです、と初花に挨拶しつつ若生・めぐみ(歌って踊れるコスプレアイドル・d01426)が言う。
    「例え忘れちゃっていたとしても、初花ちゃんが奪われたラブリンスターさんとの絆、取り戻せるようめぐみ頑張りますから――」
     そう言うとスレイヤーカードを手に、めぐみが殲術道具を解放。
    「『歌って踊ってエッチもできるスーパー淫魔アイドル・ラブリンスター』です☆」
     キュピーン♪ と本家のポーズ。出現した防具はラブリンスターの着ぐるみである。
     それはえりなや和弥から見ても完コピだった。
     だが――。
    「えっと、その……」
     めぐみ達の一生懸命さは理解出来るが、出てこない人の名前に混乱を始める初花。
    「違和感を、感じているのだろう」
    「え?」
     旅行鳩・砂蔵(桜・d01166)の言葉にハッとする初花。
    「違和感を感じたのは俺達が来たからではなく、目の前のベヘリタス――つまりシャドウ――ソウルボードにアクセスして精神に干渉する存在が原因だ」
     すでに灼滅者を敵と認識し、暴れ始めている羽虫の攻撃を回避しつつ砂蔵が言う。
    「もう少し、俺達の話を聞いてくれないか」


     漆黒の弾丸を吐き、影を纏い攻撃してくる羽虫型ベヘリタスの猛攻を、灼滅者達は防ぎ避けつつ何とか初花の説得を続けていた。
     当の初花の護衛には、えりなのビハインドであり父たる星野永一がぴったりガードし、えりな自身は皆の回復を務め戦線を維持。だが、戦いは決して灼滅者有利という訳ではない。ブブブブブブッと羽虫が激しく羽音を響かせ、ファルケのディーヴァスメロディを回避。同時に歌っていた死ぬほど音痴なファルケの声すらかき消し相手じゃないと他の灼滅者へ攻撃目標を変える。神秘が高い羽虫を相手にファルケは苦しい戦いを強いられる。
    「初花ちゃん!」
     めぐみは初花に言いつつ音楽を流す、それはラブリンスターの曲『ドキドキ☆ハートLOVE』だ。
     羞恥心を抑え込み彼女の曲を振り付きで熱唱するめぐみ、さらに碧莉もめぐみにハモるよう歌い出し、まるで即興のアイドルコンビのよう。
    「……思い出して、頂けましたか?」
     サビを謳い終わり碧莉が聞くも、初花は申し訳なさそうに首を振るだけだ。
    「そっち、行ったから、きをつけて」
     オルゴールの声と共に羽音が近づいてくる、即座にそちらに向き構えを取るは碧莉。
    「初花さんに危害は加えさせませんよ、これでも……食らいなさいっ!」
     放たれた漆黒の弾丸が、初花に向かって来ていた羽虫の顔面を捕えその前進を怯ませる。
    「初花ちゃん、清純派でも、本気で戦わないといけない時もあります。今がその時だとめぐみは思います……一緒に、戦って下さい」
    「でも……清純派の私としては戦いとかは……」
    「おいっ、止まってないぞ!」
     一瞬怯んだベヘリタスだが、即座に前進を再開した事に蒼騎が気づく……だが、このままでは。
    「チッ、お前の出番だ! 覚悟を決めろ!」
     自身のハンマーに逃げないよう鎖で繋いでおいた白豚に声掛けし、ぐるんぐるんとハンマーを回転、鎖に繋がれたナノナノも回りだし白豚の涙が遠心力でちょちょ切れる。
    「足止め……しっかりしとけ!」
     ドッとスイングと共に打ち出されるハンマー&ナノナノ。ドガッと虫の胴に命中し、そのまま鎖と共に白豚がベヘリタスに絡まる。白豚は悲鳴をあげつつ必死に逃げようともがくが、逆に羽虫はそれがウザいと感じたのか前進を止めナノナノへと攻撃を開始する。
    「アイドルの代わりに餌になれれば本望だろう?」
     蒼騎が羽虫に接近しハンマーを取り戻しつつ攻撃、どうやら時間稼ぎはなんとかなりそうだった。
    「初花……清純派と言うからには、アンタはきっと優しいのだろうな」
    「え?」
     蒼騎達をフォローするよう徐霊結界を飛ばしつつ、砂蔵が初花に語り掛ける。
    「それなら、苦戦している俺達を見捨て逃げ出しはしないだろう。その場に留まって応援するなりなんなり『薄情』な真似だけはすまい」
     砂蔵の言葉に神妙に考える初花。初花自身、既知の者や自身のファンの灼滅者が辛そうなら助けてあげたい、真剣に言葉を紡いでいたえりな達を助けたい、しかし――。
    「で、でも、清純派が殴ったりとかするのは……」
     初花の考えが揺れ始めたタイミングで、「その通りなの」と同意しつつ口を挟んだのはオルゴールだ。殺人挟で攻撃し自己を強化しつつ初花の近くに戻って来て言葉を続ける。
    「わたくし、テレビで見たの。アイドルって怪獣が出て来たら歌うの。アイドルは歌ってみんなを応援したり怪獣を鎮めたりするの」
    「そう……なんですか?」
     嘘っぽい話だった、だが、だからこそ――。

    「風真、すまん! そっちに抜けた!」
     蒼騎の声が響き、同時に途中から加速し高速で振り回された虫の足が和弥の腹を切り裂く。燃えるような痛みが和弥を襲う。だが次の瞬間、戦場に流れた歌と共にその痛みがスッと消えた。
    「この歌は……『花言葉はホワイトローズ』」
     振り向けばえりなや碧莉達に並び初花が天使のような歌声で歌っていた。
    「こういう時、応援するのがアイドルの役目だって知りませんでした。私、頑張って皆さんを応援しますね!」
     清純派は騙されやすい……それは初花の考えるアイドル象の1つだ。だから、この行動は決して清純派らしくない行動ではない。
    「それにしても和弥さん、やっぱりメイド服なのですね」
     初花の言葉に、プライベートじゃないのか? と返す和弥。
    「いえ、お仕事中ですよ? PV撮影の途中でした」
     なら、なんで俺はメイド服を……、ガックリくる和弥だが今はここで心折れてる場合ではない。
    「ったく、清純派アイドルに悪い虫がついたり、たちの悪い相手に食い物にされる、なぁんてのはあるのかもしれないが……お前みたいな害虫に、物理的に食い物にされるってのは、一ファンとしてこの俺が許さん!」
     メイド服の裾をなびかせ、和弥はそう断言するのだった。


     初花が共闘してくれたからと言って、敵の攻撃力が減退するわけもなく、強力な一撃は食らった灼滅者に大ダメージを与え続ける。それでも倒れず攻撃の手を緩めない仲間達に、えりなはグッと心が熱くなる。
     彼女は今まで、何度もラブリンスターと直接触れ合って来ていた。学園内で誰よりラブリンスターと話をしてきた自負がある。だから、だからこそ……そのラブリンスターが目の前で攫われたのが悔しかった。
     ――こんな虫や、ラブリンスターさんを攫った人には負けない! そして。
    「絶対に、助けます!」
     心の声が思わず声に出て、クリティカルな天使の歌声が響き渡る。
    「ラブリンスターには……アブソーバー防衛線で助けてもらったの……」
     傷が癒え立ち上がったオルゴールが呟く。
    「その恩は、ちゃんと返さなきゃ」
     バベルブレイカーの杭を高速に回転させながら、オルゴールが羽虫に向かって走り出す。
    「そうですね」
     オルゴールに同意しつつ、並んで走り出すは碧莉。その右手がみるみる鬼のソレに変化していく。
    「まだまだ、私たちの絆は決して途切れたりはしませんから」
     杭と鬼手がベヘリタスのどてっ腹に叩き込まれ、その巨体が虫の悲鳴と共に僅かに持ち上がる。
    「絆を取り戻す……その為には、まずはこの害虫を駆除しないといけませんね」
     碧莉が悲鳴をあげる羽虫を見上げて呟くと同時、仰け反っていた虫の巨体がピタリと止まり、悲鳴から雄叫びへと変わる。そして、振り上げられていた羽虫の両腕が、鋭さを増している右と左の爪がギラリと光る。
     攻撃が来る! そう思った瞬間2人の影が虫の巨体に跳び込んだ!
     それは拳に雷を纏った蒼騎と、一閃の刃を非物質化して構える和弥。
    「抗雷撃!」
    「神霊剣!」
     拳と刃が、振り下ろされ始めたベヘリタスの右手と左手に激突、乾いた轟音と共に両手を破壊した!
     悲痛ともいえる絶叫、同時に我を忘れたかのような殺気と共に残った脚や羽を高速で振り回しながら、灼滅者の後列へと突貫してくる巨大な羽虫。
     だが、めぐみがオルゴールを、白豚が碧莉を、お父さんであるビハンイドがえりなを、それぞれ身を挺して庇いきる。
     誰も倒れなかった事に困惑するベヘリタス、その背中からジュワと音がするとともに吹き上がる白煙。
     それは砂蔵のDESアシッドだ、背中を酸で焼かれた痛みに羽虫が悶え――瞬後、ベヘリタスの更に上へと跳躍したのはファルケ。マイク代わりのマテリアルロッドをくるりと回転させると、ファルケに気づき見上げてくる羽虫と目が合う。
     ――ニヤリ。
     もし羽虫に表情があるならそんなニュアンスだっただろう。ファルケの攻撃は見切りの為に2回に1度は神秘攻撃となり、それはこのベヘリタスにとっては回避し易いサイキックだったから。
    「歌エネルギーチャージ完了、聴かせても心に響かないのならば直接叩き込んで響かせるのみっ」
     ファルケの決め技は魔力直接ぶち込む神秘サイキックだ。だが――。
    「って、歌を理解しねえ虫風情には、俺のビートは勿体ねぇよな!」
     マテリアルドッロから妖の槍に瞬時に持ち替え、油断していたベヘリタスの脳天に上空からトドメの一撃を見舞う。
     落下速度に螺旋の回転も加えた一撃は、羽虫の頭から尻尾までを見事に貫く。
    「次があったら、今度こそ俺のサウンドフォースブレイクを聴かせてやるよ」


     ベヘリタスが消え、花畑に朝の静寂が戻った頃、初花は和弥から渡されたラブリンスター関連のグッズのあれこれを手に立ち尽くしていた。
    「思い出せないか……」
    「えっと、すいません」
     ペコリとお辞儀し、グッズを袋に戻す初花。
     とりあえず武蔵坂側が知っている事を話そうという事になり、めぐみやファルケが説明をし、その間初花は白豚を抱きしめつつ神妙な顔で灼滅者達の声に耳を傾ける。
    「ウイカが忘れた人は、このドキドキ☆ハートLOVEを歌ってる人、ウイカの事務所にラブリンスターのライブとか映像、残っていると思う。それを事務所のみなで見たらどうかしら」
     結局、ラブリンスターの事を完全に忘れてしまっていると解り、オルゴールがそう説明の最後を締める。
    「また誘拐されないとも限らんしな、気を付けた方がいいだろうぜ」
     初花からデレデレしている白豚を返してもらい蒼騎が事務所にいる他のメンバーにも伝えな、と注意を促す。
     しかし、初花は申し訳なさそうに。
    「伝えてはみますが、皆の言う事をどれだけの子が信じてくれるか……」
    「でも、初花ちゃんは信じてくれました」
     めぐみが初花の手を取り言う。
    「それは……正直、ラブリンスターさんという方は全く思い出せないし、今でも信じられません……でも、私は皆さんの事を、信じてますから」
     信じると言ってくれた初花に、だからこそ誘拐されたラブリンスターの身が想いやられた。
    「あ、でも……どうして皆さんは、そのラブリンスターさんの事を覚えているのですか?」
     不思議そうに聞いてくる初花。
     灼滅者の誰もがその問いに対する回答は持ってない、彼らにとってもそこは謎なのだから……。
    「初花、アンタは忘れたままで良いのか?」
     砂蔵に言われ首を横に振る初花。
    「そうだ。絆とはインスタントなものではない。奪って奪われて終い……そんな脆いものではない。奪われて、それを失いたくないと思うのであれば、それ自体がすでに強い絆だ」
    「例えそれを……忘れていても、ですか?」
    「本当の絆というのは奪われても奪われない。その胸に空いた虚を見ろ、それがどれだけ大切ものであったか気がつくはずだ」
     砂蔵の言葉に初花が思わず胸に手を置く。
    「それは失ったままにしていいものである『理由になってない』……そうだろう?」
    「……はい」
     真剣に頷く初花に、今度は碧莉が言う。
    「大切な人を忘れる、それは初花さんにとっても凄く悲しい事だと思います……だから、絆を取り戻せるように、私達も協力したいと思っています」
    「でも、それは危なく無いですか? また、さっきみたいなシャドウが……」
     碧莉に本気で心配するよう初花が言う。
     だが、灼滅者達はお互い顔を見合わせ、代表してえりなが口を開く。
    「私達だけが彼女の事を覚えている……それは、彼女を助けられる唯一の存在で、たった1つの希望なのだと思います」
     それだけが今、断言できる全てであり事実。
    「だから、何があろうと――」
     朝日にコスモス畑が輝く中、えりなは断言する。覚悟と、誓いを込めて。
    「絶対に、彼女を助けてみせます」

    作者:相原あきと 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年10月25日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 15/感動した 4/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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