怪虫操る者の思惑を撃ち砕け

    作者:東条工事

    「ありがとうございました!」
     パチパチと、数は少ないが心の籠った拍手が響く。
     とある公園での無許可ライブ。ぽよんぽよんのぼんぼーんな少女が、かわいらしさとお色気のギリギリの境界線をマッチさせた服を着ての独演会。
    「良かったですよ歌。お色気いらないですけど」
    「歌は好かったです。無駄に下着を見せようとする動きは何してんだと思いますけど」
    「やだ! みんな照れちゃって♪」
     異様に冷静な感想を述べるファン達に、淫魔であるリムは笑顔で返す。
    (「うぅ、ようやく苦労が実って来たよぅ」)
     リムはこれまでの苦労を思い出し心の中で呟く。
     バベルの鎖のせいでダークネスや灼滅者達の情報は過度に拡散される事が無い。
     なので毎日毎日この公園で歌い続け、たまたま歌を聞いてくれた相手がリピーターとして来てくれるまで、延々と頑張ったのだ。
     ちなみに、リムのファンとして今日この場に来ている一般人は、純粋に歌声に惹かれて来ているのだが、リムの方は歌う時の無駄な動きでたっぷたぷ揺れたりスカートの裾が翻ったりする時のチラリズムでファンを獲得できたと思っている。
     男性より女性が多い時点で気付けという所だったが、いかんせんリムは思考面で色々とかわいそうな淫魔であった。
     そんな感じに噛み合わないリムと一般人なファン達であったが、それはそれである意味平和な時間が流れていた。
     しかしそれも、一匹の怪虫により破られる。
     地響きを立て空から降りてきたのは、3mほどの大きさにまで育った羽虫型ベヘリタス。
    「ひっ!」
     突如現れた怪異に、リムのファンは恐怖の声を上げる。それに羽虫型ベヘリタスは、邪魔臭そうに硬質化させた羽を伸ばそうとし、
    「何してんのよアンタ!」
     リムの怒りの拳で阻まれる。
    「折角集まってくれたアタシのファンに手を出そうとしてんじゃないわよ!」
    「ギィ?」
    「あ、あれ? 効いてない?」
     サイキックエナジーを込めた拳を叩き込んだものの、痒そうに拳が当たった個所を羽で掻く羽虫型ベヘリタス。これにリムは顔を引きつせながらも、
    「こっちよ! 来なさい!」
    (「折角手に入れたファン! こんな所で減らして堪るもんですか!」)
     自分のファンを守る為に羽虫型ベヘリタスを引き付けようとする。
     しかしそんな必要は無かった。何故なら羽虫型ベヘリタスの狙いは、最初からリムだったのだから。
    「ちょっ! なに最初から本気出して来てんの! きゃあ!」
     羽虫型ベヘリタスの生み出した黒弾を食らい吹っ飛ばされるリム。
    「痛ぁい! 虫のクセに調子に乗らないでよね! アンタなんか――」
     ……さまがやっつけちゃうんだから!
    「……あれ、私、誰の名前を言おうとしたんだっけ……」
     呆然と呟く。頼りになり、自分なりに敬愛していた筈の大切な誰か。その名前も思い出も、何もかもが、真っ黒になって削られ無くなっている。
    「ぇ……嘘、なんで……」
     じわりと涙が滲む。助けの得られない不安よりも、大切に思う何かが失われた空虚に呆然とする。
     その隙を逃す事などなく、羽虫型ベヘリタスは影を伸ばし絡め取る。
    「いやあ! やめて、やめてえぇっ!」
     響き渡った叫び声も、すぐに聞こえなくなる。繭のように影で包んだリムを、いずことなく連れて行く羽虫型ベヘリタスだった。


    「緊急事態です。都内で路上ハグ会を開いていたラブリンスターが『宇宙服の少年』に襲撃され、その絆を奪われ連れ去られました」
     緊迫した声で東雲・彩華(高校生エクスブレイン・dn0235)は言うと、状況説明を続ける。
    「星野・えりな(スターライトエンジェル・d02158)さん達が、いち早く気づいてラブリンスターの行方を追ったのですが、羽虫型ベヘリタスに邪魔され最後まで追跡しきれませんでした。
     これに加え、絆を奪われ混乱するラブリンスター配下の淫魔達を、羽虫型ベヘリタスが襲撃、連れ去ろうとし始めています。皆さんには、この襲撃の迎撃をお願いします」
     そう言うと資料を皆に渡し説明を続ける。
    「羽虫型ベヘリタスは午後4時に、資料にある公園で無許可ライブをしている淫魔・リムの前に現れます。当日、リムの周囲にはリムの歌声を聴きに来た10名ほどの一般人の方達が居ますので、その避難もお願いします。なお、事前に一般人の方達を逃がしたりすると、リムは羽虫型ベヘリタスが現れる前にその場を去り、他の場所で襲われます。その際の予測は出来ませんでしたので、事前に一般人の方達の避難などは行われないで下さい。
     羽虫型ベヘリタスに関してですが、出現数は1体のみで、配下も連れていません。シャドウハンターと、影業の斬影刃と影縛り、そして契約の指輪の制約の弾丸に相当するサイキックを使用してきます。戦闘の際は、ディフェンダーのポジションに就くようです」
     ここまで言うと、リムに関して説明する。
    「リムに関しては、攻撃よりも回復や支援に特化しており、更に加えて言うと、ラブリンスター配下の淫魔ですので普段からだらけている事もあって戦闘力としては低いです。彼女の歌声のファンである一般人が逃げ出すまではその場に居ますが、居なくなれば即座に逃走します。戦闘に関する行為をしなければ、皆さんが当日周囲に居ても気づきません。
     また、皆さんの言動によって、共闘の可能性もあります。具体的な手段までは予測できませんでしたので、申し訳ありませんが皆さんに対応はお願いします」
     そこまで言うと、最後に懸念を口にする。
    「現在、アンブレイカブルが羽虫型ベヘリタスの苗床にされる事件が続発していますが、今回の事件はそれに類する物と思われます。このまま羽虫型ベヘリタスと、その背後で糸を引く者の動向を許せば、手の付けられない勢力として拡大する恐れが非常に高いです。ですので、ぜひ今回の事件は解決をお願いします」
     ぺこりと頭を下げると、最後に激励を口にする。
    「今の皆さんならば、きっと見えない敵の思惑も撃ち砕けると思います。どうか怪我も無く、敵を撃ち倒して下さい。皆さんのご武運を願っております」


    参加者
    タシュラフェル・メーベルナッハ(白茉莉昇華セリ・d00216)
    氷美・火蜜(銀のフランメ・d00233)
    皇樹・桜(桜光の剣聖・d06215)
    銃沢・翼冷(深淵覗くアステルバイオレット・d10746)
    阿久沢・木菟(八門継承者・d12081)
    九葉・紫廉(稲妻の切っ先・d16186)
    二重・牡丹(セーブルサイズ・d25269)
    天城・呉羽(蒼き鋼の聖女・d26855)

    ■リプレイ

     澄み渡る歌声が、ふんわりと広がっていく。ラストを飾る歌声は、聞く者を包み込むように優しかった。
     羽虫型ベヘリタスにさらわれる予定の淫魔・リムの歌声に、集まった一般人は静かに聞き入る。
     のではあるが、時折リムがぴょんぴょん跳びはねたり、スカートがふわりと舞い上がるような動きを見せるせいで、折角の歌が小さくなったり外れたりと、色々と勿体なかった。
     とはいえ歌は終わり、
    「ありがとうございました!」
     とリムが頭を下げると、数は少ないが心の籠った拍手が響く。それに返すリム。
     そこに現れた羽虫型ベヘリタスにリムが応戦した瞬間、灼滅者達は動いた。
    「おい虫、ちょっと避けろ」
     虫の横っ腹に銃沢・翼冷(深淵覗くアステルバイオレット・d10746)の鬼神変が叩き込まれる。
    「可愛い御嬢さんに何やらかす気だったんだ、あァ?」
    「ギイッ!」
     白い文様が浮かび細長く黒くなった腕で殴り飛ばされ鳴き声を上げる虫。その瞬間、リムは虫から距離を取る。
     虫は逃さぬよう追い掛けようとするが、そこへ阿久沢・木菟(八門継承者・d12081)のスターゲイザーが入り蹴り飛ばされた。
     即座に態勢を整えようとする虫。だが木菟のウイングキャット・良心回路の猫パンチが追撃で入り一時的に麻痺し動けない。
    「だ、誰なの?」
     突如現れた灼滅者達に問い掛けたリムに、
    「拙者らは縁あってリム殿を助けに来た謎の灼滅者!」
     木菟はアコースティックギターに変形させたバイオレンスギターで、バラード調にアレンジしたラブリンスターの持ち歌を弾きながら答える。
    「謎なの?」
     思わず聞き返すリムに、
    「謎に意味はない! あと個人的には美少女は助けられる限り助ける主義なので馳せ参じた!」
     改めて力強く返す木菟。
    「そ、そうなんだ」
     勢いに呑まれたのか反射的に返すリム。そこに、ファンに紛れ一般人達を逃がしていた灼滅者達も合流する。それにリムは慌てて声を上げた。
    「こ、こっちに来ちゃダメ! 危ないから逃げて!」
     ライブの観客として参加し、にこやかに声援を送っていた氷美・火蜜(銀のフランメ・d00233)や、同じくファンを装った九葉・紫廉(稲妻の切っ先・d16186)、そしてファンに紛れていた二重・牡丹(セーブルサイズ・d25269)に天城・呉羽(蒼き鋼の聖女・d26855)を自分のファンと勘違いし、逃げるように声を上げた。それに、
    「悪いけれど、ファンではないの」
     タシュラフェル・メーベルナッハ(白茉莉昇華セリ・d00216)は告げ、
    「え、ええっ? じゃ、誰なの? やっぱり謎の人達なの?」
     リムは混乱したように聞く。そこにタシュラフェルは力強く返す。
    「貴女達のリーダーにお世話になった者よ!」
    「リーダー……」
     この言葉にリムは涙を滲ませる。思い出そうとしても何一つ浮かばない空虚に不安を感じ怯えていた。そこへ、
    「大事なこと忘れているんでしょ。大丈夫、忘れた事は思い出せる。そのための手伝いを私達はできる。後でゆっくりお話しよう?」
     呉羽は、タシュラフェルの言葉を引き継ぐようなタイミングで落ち着かせるように語り掛ける。そこから更に繋げるように皇樹・桜(桜光の剣聖・d06215)は、
    「もし、思い出したいと思うのなら力を貸して頂けませんか?」
     手を伸ばすように呼び掛けた。けれど、
    「思い出す……なにを?」
     何を思い出せばいいのか、それすらリムには浮かばない。そこへ、
    「こんな子に見覚えない?」
     牡丹はビハインドである二重・菊と共にラブリンスターTシャツを見せる。けれど、
    「知らない……分かんないよ……」
     それを見ても何一つ記憶も心も震えなかった。どうしようもない空虚に、リムが涙をこぼそうとした時、
    「泣かないで。私達は、あなたの主の協力者です。羽蟲を倒したら、心の空虚感を埋める手助けをさせて下さい……!」
     火蜜は優しく声を掛け、
    「このグッズが、あなたを守ってくれます」
     ラブリンスターの歌が入ったCDを手渡した。それを縋るように抱きしめるリム。そして灼滅者達は力強く声を掛けていく。
    「ライブ潰されて、ファンを危険に晒されて、大事な記憶も奪われてんだ。あのクソ虫を叩き潰してみたくないか?」
     紫廉は、ライドキャリバー・カゲロウと共にリムを背で庇うように立ち、
    「アンタ一人じゃ無理でも、俺たちと手を組めばきっと余裕だぜ!」
     鼓舞するように告げ戦う為に配置に就く。同様にタシュラフェルや桜、そして翼冷も呼び掛ける。
    「貴女が忘れた人の事、アイツを倒したら教えてあげる。彼女のコトを忘れちゃったのも、アイツとその親玉のせいだから」
    「その通りです。思い出せない空白は、目の前のベヘリタスやタカトの所為なんです」
    「貴女が忘れた大事な人の事を、俺達は知ってる。でも詳しく教えてあげるにはアイツが邪魔だから、手伝ってくれる?」
     それにリムは、
    「戦って、やっつけるの?」
     ファンも居なくなり及び腰になる。だが、
    「大丈夫、倒せるよ。貴方の大事な人ほどじゃないけれど、私達もそれなりに強いんだから。貴方も、貴方のファンも助けられるくらいにはね」
     呉羽が力付けるように言い、
    「あんたの大事な人ば、こいつらの親玉に捕まっとるけん、助ける為にあんたの力ば貸して!」
     牡丹はリム自身ではなく、ラブリンスターの事を出して共闘を呼び掛ける。
     幾つもの呼び掛けと、何よりもファンである一般人の避難を灼滅者達が虫の殲滅より先に動いた事が効果を見せた。仮にその辺りが巧くいっていなければリムは即座に逃げ出しただろう。
     そしてリムは灼滅者達に返す。
    「うん、一緒にやっつけよう」
     その言葉と同時に、不意打ちから回復した虫が敵意の声を上げ、皆に対峙する。そして戦いは始まった。

    ●怪虫を滅ぼせ
     先行して踏み込んだのは、牡丹と菊だった。
    「行くばい、菊」
     龍砕斧・断頭蟷螂の隻腕を手にまっすぐに踏み込む牡丹に、菊は息を合わせ側面を突くように動く。
     牡丹は迎撃に放たれた黒弾を回避し、懐に飛び込むと刃を振るう。勢い良く肉に食い込むも、途中で止まる。だが、
    「硬かばってん――押し通す!」
     牡丹は更に力を込める。それをさせじと虫は迎撃に動こうとしたが、先んじて菊は霊撃を叩き込んだ。
     痛みで動きが止まる虫。その隙を逃さず、牡丹は一気に切り裂いた。
    「ギイッ!」
     虫に反撃する隙を与えず、牡丹と菊はその場を跳び退く。
     そのタイミングに合わせ、桜は妖の槍・桜光の聖槍を手に踏み込む。
    「さあ、狩りの時間だ!」
     SCを開放し、淡い桜光を放つ聖槍を放つ。それは勢い良く貫いた。
    「ギガア!」
     怒りで虫は、周囲を薙ぎ払うように硬質化させた羽を無茶苦茶に振るう。
     しかし誰にも当たらない。桜は即座に距離を取り、追撃に動く者達は虫の動きを見極め的確に攻撃を重ねる。
    「騒ぐな。害虫は大人しく駆除されてろ」
     翼冷は虫の羽の斬撃を見極め、ブレイドサイクロンで切り裂く。それにより虫の動きが鈍った瞬間、解体ナイフ・隠し刀・嘴を手にした木菟は一気に懐に飛び込む。
     仲間が与えた傷口を更にえぐるようなジグザグスラッシュ。そこへ間髪入れず良心回路の猫魔法が叩き込まれた。
     痛みと怒りで顔を向ける虫に、
    「こっちでござるよ!」
     木菟は後続の仲間の攻撃を助ける為に挑発し引き付ける。
     そこへ紫廉はカゲロウと共に踏み込む。
    「どこを見てる虫けら!」
     戦闘時で荒くなった口調で紫廉は敵の注意を更に逸らす。
     そちらに虫の意識が向いた瞬間、死角からカゲロウは突撃。思いきりぶち当たり飛ばすと、
    「ぶっとべ!」
     カゲロウの動きに合わせ距離を詰めていた紫廉は抗雷撃を叩き込み、アッパーカットで真上に殴り飛ばす。
     地響きを立て、虫は地面に激突。よろめきながら起き上った。

     連続で叩き込まれる攻撃に敵は弱っていくも、強力な単体攻撃で敵はダメージを与えてくる。しかしディフェンダー達の活躍と、メディックに就いた呉羽の活躍で最小限に抑えられる。

    「リム、そっちはお願い」
    「うん!」
     呉羽はリムと協力し時折指示を出しながら仲間の回復に動く。シスター服のままセイクリッドウインドを使う姿は、使用するサイキックと似合い凛々しい。
     その横で、チアリーダー姿になったリムがぴょんびょん跳びはねて応援し、回復とエンチャントを付与していた。

     支援に支えられ、皆は攻撃に集中する。

    「絆を奪われる痛み、思い知りなさい」
     タシュラフェルは影業を起動。それに虫は気付き避けようとするも、
    「遅い」
     タシュラフェルの動きの方が速い。放たれた影は虫を飲み込み、苦悶の声を上げさせた。
    「鳴き声も気持ち悪い……いや……!」
     火蜜は、虫の鳴き声で湧き上がる生理的な嫌悪感を我慢し、鋼糸に全身から生み出した炎を宿す。そして、
    「燃えてしまいなさい……!」
     鋼糸を用いたレーヴァテインを放つ。それは巻き付き一瞬動きを止めた後、切り裂きながら焼き、炎で包んだ。

     かくして圧倒的有利に戦いは進み、重ねる攻撃に敵の終わりは近付いていく。

    「心の空虚感は、この虫を放った者の仕業。奴等を倒して奪い返しましょう。一緒に……!」
     火蜜は戦いの中、リムに呼び掛ける。リムはそれに応え、虫に向かい催眠もたらす歌を響かせる。
     それにより自分で自分を羽で切り裂く虫に、火蜜は一気に踏み込みライフブリンガーで敵の生命エネルギーを奪い取った。
     弱る敵に、連続攻撃が叩き込まれる。
    「逃がさんばい!」
     牡丹と菊の連携攻撃。先行して、菊が虫の退路を塞ぐように移動し霊障波。
     動きが鈍った所で、牡丹はバトルオーラ・玲瓏を起動。透き通るように美しい、青色の闘気を宿す無数の拳を減り込ませた。
     攻撃後、後続の攻撃の邪魔にならぬよう即座に跳び退く。
     入れ替わるように跳び込んだのは桜。
    「タカトの思惑なんて、撃ち砕いてあげる」
     バトルオーラ・闇の羽衣を起動。血の如く赤黒いオーラを拳に宿し、無数の拳打を打ち込んだ。
     攻撃は途切れず続く。
    「羽が邪魔だ、切り裂いてやる」
     翼冷はダイダロスベルト・CUBEを起動。サイキックエナジーを注がれた黒い立方体は無数の帯へと解かれ、逃走に向け羽ばたかせていた羽を切り裂いた。
     そこへ間髪入れず、木菟の追撃が入る。
    「こちらも逃げ道はないでござるよ」
     虫の進路に立ち塞がるようにエアシューズで高速移動。先行して良心回路が放った猫魔法で動きが止まった所に、後続の仲間が攻撃し易い位置へとグラインドファイアで蹴り飛ばした。
     そのアシストを生かし、紫廉はカゲロウと共に連携攻撃を叩き込む。
    「虫らしく、潰してやるよ」
     左右挟撃の形で、タイミングを合わせ紫廉はカゲロウと同時に突撃。虫がどちらを迎撃すればいいか迷う隙を逃さず、カゲロウは機銃掃射。
     動きが鈍った虫は、切り裂かれた羽を強引に伸ばし紫廉を迎撃。しかし紫廉は右からの一撃を避け、左の一撃を拳で叩き落す。
    「往生際が悪いんだよ!」
     懐に踏み込むと同時に、叩き潰す勢いで鋼鉄拳を放った。
     拳が減り込み、肉を潰しながら殴り飛ばす。
     その先に移動していた呉羽は、殲術執刀法で切り裂き虫を麻痺させる。そして跳び退くと同時に、
    「今です、止めはお願いします」
     同じクラブで顔見知りなタシュラフェルへと止めを託す。
     それに応えるように、タシュラフェルはギルティクロスを放った。
    「これで、終わらせるよ」
     出現した赤きオーラの逆十字は虫を四つに切り裂き、残骸は地に落ちるより早く塵へと化す。
     こうして戦いは幕を下ろした。

    ●戦い終わり
    「思い出せませんか?」
     戦い終わり、桜はラブリンスターのグッズも出して話して聞かせたが、リムは一切覚えていないことが分かった。グッズを大事そうに抱えるも、
    「ごめんね、分かんない……」
     全く駄目だった。他の灼滅者達が知っている事を全て伝えても同様である。
    「ラブリンちゃんの事だけがすっぽり抜けているようでござるね」
    「でも、それ以外の事は覚えているみたいだね」
     木菟や翼冷の言葉通り、ラブリンスターの事はすっぽり抜けているが、それ以外の事は覚えている。友好関係にある組織などは、そうである事は分かっているが、誰がどうしてそうなったのか、その部分をどれだけ伝えても、実感も記憶も湧かないようだった。
    「タカトが何考えてるのか知らんが、禄でもねぇな。これ以上思い通りにさせないよう、ぶっ潰さねぇと」
     紫廉の言葉通り、放置できる状況でないことは確かだった。
    「このまま放置でけんし、ラブリンスター救出にも動いた方が良いかもしれんばい」
     牡丹の言葉にリムは、
    「助けてあげるの?」
     期待を込めた眼差しを向けてくる。それに、
    「私たちを信じて。大丈夫、必ずその心の隙間は取り戻せるから」
     呉羽は力付けるように返した。それに笑顔を浮かべ喜ぶリム。
    「私も、出来る事を頑張るね」
     そう言うと、その場を去ろうとする。そこに、
    「これ、あなたのリーダー達のです……」
     七不思議使い達の事を聞き、それ自体はリムが覚えていることを確認していた火蜜は、持って来ていたラブリンスター下着を差し出す。
    「魅せるならこれくらいのを……です」
    「これぐらい攻めた方が良いんだ……!」
     驚愕し受け取るリム。それにタシュラフェルは、
    「……別にそういう方向じゃなくても、歌は普通に上手いんだから、そっちに重点置けばいいのに」
     そう言いつつも、
    「色気についてはほら、それが有効な場面でね? ……私はちょっと興味あるけど」
     手をわきわきさせたりした。それにリムは、少し考え込むような間を開けると、ぱっと表情を輝かせ、
    「メリハリが大事って事なんだね!」
     何か色々と間違ってそうな方向に納得した。それに突っ込みを入れるより早く、
    「皆のお蔭でファンの人達も助かったし、ありがとう! 私は私で頑張るね!」
     下着を持った手をぶんぶん振り、どことも知れぬ方向に突っ走って行った。
     こうして、微妙な空気を最後に感じつつも、羽虫型ベヘリタスを灼滅し事件を解決する灼滅者達であった。

    作者:東条工事 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年10月22日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 3
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