マラソン大会2015~今日、僕らは逃げます

    作者:望月あさと


    「みんな! 10月31日はマラソン大会だね! 夜更かししないで体調ととのえてる?」
     今年もやってきたよと、須藤・まりん(高校生エクスブレイン・dn0003)はにこやかに話した。

     マラソン大会は、学園を出発して市街地を走り、井の頭公園を駆け抜け、吉祥寺駅前を通って繁華街を抜け、最後に登り坂を駆け上り学園に戻ってくる全長10キロのコースだ。
     皆がすがすがしく汗をかき、完走を目指して――のはずだが、中にはマラソン大会から逸脱する者がいる。

     そう、エスケープだ!

    「なんか去年もエスケープする人がいたみたい。だから、魔人生徒会がエスケープした人を捕まえる部隊を作るために協力者を募っているんだって。なんと、協力した人はマラソン大会が免除という特典つき! でも、エスケープなんてする人、そんなにいるのかなぁ」
     まりんは首をかしげるが、話を聞いていた誰かが、ここにいます。と、心の中で手を挙げた。
     何が悲しくて完走だけに徹しなければならないのか。
     しかも、話を聞けば井の頭公園と吉祥寺駅前を通って繁華街を通る。
     公園で遊ぶのも楽しそうだし、繁華街で買い食い三昧するのもよさそうだ。
    「あれ? きみ、なんか楽しそうな顔をしているね」
     まりんに指摘された誰かが、慌ててゆるんだ顔を直す。
    「エスケープしたらね。お仕置きが待っているみたいだよ」

     まりんがいうには、エスケープをした人は、魔人生徒会の協力者につかまると、学校のグラウンドでマラソンコース分の距離を走らされるらしい。
     ひたすら、代わり映えのしない景色の中をぐるぐると回り続ける。

     エスケープを企んでいた人たちは、それを聞いて、協力者に捕まらないように何らかの策を講じるのもありだと考え始めた。
     場所は、部外者を巻き込みづらい井の頭公園が最適だろう。

    「ちなみに、去年みたいに罰ゲームってわけじゃないけれど、魔人生徒会の協力者たちがエスケープした人たちをたくさん逃したら、協力者の人たちがマラソンコースと同じだけグラウンドを走らされるみたい。
     協力者の人たちも真剣だよね」

     魔人生徒会の協力者へまわろうと思っていた人たちは、それを聞いて、エスケープの人たちの妨害に屈しないと心に誓った。

     エスケープと協力者の間に起こる嵐に気づかないまりんは、のんきに話を続け、
    「でも、エスケープする方だって、一筋縄で捕まらない人はいるだろうし、協力者の方だって、あらゆる対策を練って捕まえようとする人はいるよね。今年はどっちが勝つかのかな?
     みんなは、どうするの?」


    ■リプレイ


     いよいよ始まったマラソン大会。
     しかし、まじめに走りたくないとサボる人はいるわけで――。
     今回も、あちらこちらとエスケープする者が出始める。

     井の頭公園は、気持ちのいい天気が気分を開放的にさせてくれた。
     マラソンを一生懸命走っている側で、すでに、完走を諦めている神無月・佐祐理は、借り物の大きなデジタルカメラで見つけた逃走者を撮っていた。
     いつもと違うカメラに戸惑うが、何とかがんばっている。
    「あとは、これをスマホ経由で、他の協力者さんに流せば……」
     佐祐理は、メルアドなどを交換できた人たちへ、逃走者の居場所を伝えた。
     そのメールを受け取ったダークスーツ姿の鹿島・狭霧は、直ちに現場へ向かった。
    「ネーベル・コマンドより作戦参加中の全ユニットへ。連絡を受け、コース内で目標を確認。これから実力で排除する」
    「千朝、逃げるんだ」
     たい焼きを食べていた弥灯里・千朝と佐羽島・悠士は、狭霧を見つけて走り出した。
     しかし、千朝は瞬発力はあるものの、身長が低いため、どうしても遅れをとってしまう。悠士は千朝を抱えて逃げた。
    「悠士、あそこに、一緒に作った落とし穴がある」
    「よし、――って、ないぞ。どこだった、落とし穴」
    「そこにあった罠なら、埋めたぜ」
     近くで作業をしていた片倉・光影が、口の端を持ち上げて言った。
     捕まえるより妨害工作の解除を優先していたのだ。
     すでに、何人かが作った罠を解除されて泣きを見ている。
    「罰ゲームマラソンだけは避けないとな」
     千朝が、やるなー。と感心する中、悠士は草結びを作った場所へ移った。
     狭霧は無言の迫力で、どんどん距離を縮めてくる。
     だが、草結びにひっかかって倒れた。
     その隙に、悠士と千朝は逃げる。
     狭霧は、戦戦研のメンバーに伝えた。
    「男女の二人組が南へ逃げた。近くにいたら駆けつけろ」

    「確かこの辺り……あっ、ありました」
     アイスバーン・サマータイムは、見つけた入口から地下にもぐった。
     繁華街や駅まで走るのが面倒なのでコース外に行こうととしているのだ。
    「んと、あとは学園の掲示板さんに……」
     アイスバーンは、相手を錯乱させるために、吉祥寺駅から電車に乗って逃げることを書いた。

    「今なら無かった事にして貰う様に取り図るから、無駄な抵抗は止めなさい」
     クレンド・シュヴァリエは、逃げる貴夏・葉月と百道浜・華夜、黒木・白哉を説得していたが、誰も言うことを聞かない。
    「目隠ししてる私達にとって、通常参加もグラウンドも苦痛度は同じ。なら、魔人生徒会に力を貸すことで、高確率でマラソンを免除してもらえるこの選択こそが一番正しい。そうは思いませんか? 葉月姉様」
    「うぬ、成るほど正しい選択かもしれない! しかし、このエスケープの選択は……逃げ切れば……勝ったものが正しいのだよ」
     葉月を追っていた黒絶・望も、勝負を挑まれて終わる。
     葉月は、この追いかけっこを楽しんでいた。
    「仕方がないね」
     クレンドは、3人を蒼珈・瑠璃の作った落とし穴へ誘導するように追いつめだした。
    「そう簡単につかまりませんよ――きゃあ!!」
     前を見ないでドヤ顔で走っていた華夜が、落とし穴に落ちた。
    「ふふ…… 落とし穴くらいで諦める華夜じゃないですよ」
     華夜は、サイキックでハム次郎を出したら楽しそうだと思ったが、それは同時に仲間にダメージを与える攻撃となる。
     危害を加えるわけにはいかないため、落とし穴から出た華夜は、葉月と手を取って、一気に逃げた。
     ならばと、望とクレンドは、標的を取り残された白哉にしぼった。
    「白哉様! 潔くお縄についてグラウンドで地獄マラソンを独り黙々と楽しみなさい!」
    「白哉ー! 真面目に走らないかー!」
    「ボクはただ走りたくないんですよ!」
     なのに、追われて走る白哉。
     あちこち走っていると、にっこりと笑っている瑠璃の前に出てしまった。
    「どうしますか?」
     ジリジリと追い詰められた白哉。
     だが、落とし穴のところに戻ってきたとは気づかなかった。
    「うわあぁぁ!」
     足を滑らせて落ちる。
     しかし、とっさに手を伸ばしたので、瑠璃も一緒に落ちてしまった。
    「いい趣味をしていますね」
    「こ……これは、事故で……!」
     笑顔で見下ろされる瑠璃の顔が怖かった。
     その頃、烏丸・晃は、尾守・夜野に追われながら、スマホを見ていた。
    「なんで、聞いていたトラップがないんだよ!」
     ネガティブ部の仲間の連絡内容では、ここに罠があるはずだ。
    「しがのさん くおういんさんのほう おいこまなきゃ です」
     夜野は、帽子をかぶりなおして、追いかけっこを楽しみながら、晃を二人のいる方へ追い込む。
     遠くでは、九凰院・紅と志賀野・友衛が、散歩に見せかけながら歩いていた。
    「……リードをつける気はないから、その視線はやめてくれ」
    「ふふっ、大丈夫だ。人狼とはいえ、怒ってはいないから。さて、尾守が元気に追い立てた相手が来たので、私達も役目を果たそう」
     晃は、向かってくる2人に気づいて予定変更した。
     探してる罠は解除されたと判断して、自身の作った罠へ向かう。
     友衛と夜野は、晃を追って草むらの中へ入る。
    「わっ!!」
     立て続けに、二人が結んだ草に足を引っかけて転んだ。
    「俺は、今年こそ絶対にサボるんだ。去年までのようなヘマはしない」
     晃が逃げ切ろうと走ると、高く飛び跳ねた紅が前に立った。
     そして、一気に間合いをつめる。
    「逃がさない」
     紅が晃を捕獲すると、転んだ2人が傷をなめながら歩いてきた。
    「いたかった けど たのしかった。もう おしまい? あそびたりない です」
    「せっかくの行事だし、一緒に走ろう。グラウンドでも、皆と走れば楽しいさ」
     
     タージ・マハルと榊・くるみは、池でボートをこいでいた。
     逃げるはずが、すっかりラブラブデート。誰が見ても嫉妬をしてしまいそうなラブっぷりだ。
    「あ、せっかく作ったたすきをボートに置いて来てしまったよ」
    「あれ、ボクもたすき置いてきちゃった! 大丈夫かな……?」
     協力者にみせかけるタージお手製「魔人生徒会協力者」と書かれたたすきは、今、二人の肩にない。
    「大丈夫だよ」
    「うん! ……あ、マハルさん。あそこに協力者さんが!」
    「くるみ、しっかりつかまっていてね」
     タージは、力強くボートをこいだが、岸に着けばお縄にかかってしまった。
     その光景を影から見ていた天城・理緒は、ビハインドを適当な草むらに隠した。
    「よし! これで追手がなつくんに近づいたら、ペイント風船を投げて逃げればいいですね」
     理緒は、ビハインドにも風船を渡して、自分が見つかった時にはこれを投げてもらい、逃げる隙を作るようにした。
    「これで完璧、一部の隙もない……!」
     さっきも、この策で逃げ切った。

     戦戦研の風間・紅詩は、木の高い所でしがみついている本間・一誠を見つけた。
     真黒なスーツを正して向かおうとすると、一誠がクリームたっぷりの南瓜パイを投げつけてきた。
    「この木は、ボクが占拠した!」
     ポイポイと飛んでくるので、紅詩は特別製のネットランチャーを構えてイヤホンマイクに話す。
    「……目標補足。これから、捕獲に――」
     言い切る前に、横から水風船が飛んできた。
    「逃げて」
     偶然にも近くにいた菊芝・鷹育が、助けに入ったのだ。
     勇気がなくて、ただ一人、ネガティブ部の皆と連絡先交換ができなかった一誠は感激。悲しいリアルはふとっとび。
     びしょ濡れになった紅詩は、髪を整えると、去年の経験を踏まえて距離をとっていた鷹育にめがけてランチャーを発射させた。
     横断歩道を小走りするだけで足がつる鷹育は、逃げきれずにつかまってしまう。
     しかし、今年はそれで終わらない。鷹育は、LINEで密かにネガティブ部の皆へ現状を伝えた。
    「しまった、もうパイが……ギャー助けてーっ!」
     一誠もつかまった。
     2人が捕まったこと連絡をもらってわかった守谷・誠二は、高い木の上で協力者を監視していた。
    「あそこで、つかまったんだね。念のために、鷹育先輩の罠の事を、もう一度確認して……」
     誠二は、踏んだら網にかかるトラップを仕掛けた場所をLINEで聞いた。
     しかし、メールもあまりしたことがないので、文章は考えるのに時間がかかり堅苦しい事務的なものになってしまう。
     履歴を見れば、ちょっと後悔。
     そこに、戦戦研の新城・七葉が、誠二を見つけて網を投げつけてきた。
     しかし、足場が悪くてうまく飛ばない。
     誠二は、山育ちの経験から、それを見越していたので急いで逃げる。
    「ん、逃がしてしまった、ね。そういえば、地下の罠はどうなってるんだろう。何かかかってるかな?」
     七葉は、マンホールを探っている仲間の方を向いた。
     マンホールには、鏡・瑠璃が落とし穴と網、催涙ガスで迎撃準備をバッチリ整え、ヴァイス・オルブライトが、きつーいオシオキをしようと逃亡者を待ち構えて待っていた。
     しかし、今年は誰もマンホールに隠れていないので、誰も姿を現さない。
    「一体どういうことでしょうか。迎撃準備は万端だというのに、誰も顔を出しません」
    「ふむ、不思議だ。前回の教訓を踏まえているのにどういうことだろうか」
     ヴァイスは、マンホールの中に頭を入れて臭いを嗅いでみるが、気になる変化はない。
     顔を上げれば、ヴァイスの胸が大きく揺れる。
    「懲りない奴らとはいえ、音もしないな」
    「向こうに連絡してみます」
     瑠璃は、無線で繁華街にいる仲間へ連絡を取った。
     繁華街の片隅では、戦戦研の葵璃・夢乃がマンホールに逃げた者をあぶりだそうと待機していた。
     連絡を受けて、ここにも現れないことを告げる。
    「煙を充満させて苦しい思いをさせようと思っていたのに。ここは諦めて、別の場所を探すわ。フォルケ、どこにいるの?」

     繁華街では、人がにぎわい、ところどころで美味しい匂いが漂っていた。
     灯屋・フォルケと夢乃は合流すると、早速、獲物を見つけた。
     嶋田・絹代が圧倒的小龍包を食べながら歩き回っていたのだ。
     フォルケはサングラスをかけなおして、絹代に声をかけようとする。
    「わわっ、低身長というアドバンテージがきかないで、見つかったすか?!」
     絹代は、小龍包を口にくわえたまま、逃げだした。
    「Haende hoch! 逃げると撃ちますよ」
    「一般人にあたっちゃうすよー!」
     それは、フォルケもわかっている。そのため、人混みから離れたところで軽機関銃で狙うつもりだ。
     今は攻撃されないとわかった絹代は、ニヤリと笑う。
     しかし、スケートで追いついた夢乃にひざ裏を蹴られて、絹代は地面に顔から落ちた。

    「走るのは得意だけど、珈琲のためだから仕方ないよね」
     山桜・芽衣は、いきつけの喫茶店で取り寄せたコーヒー豆を抱いて、堂々と店から出た。
     路地裏の陰に隠れていたシエナ・デヴィアトレは、芽衣が近づいてきたところで、路地裏に引きこんだ。
     芽衣は、その手を振り切るために、恥ずかしいが珈琲のためだと、体操服に手をかけた。
    「必殺、おへそチラッ、スライディング体操服スペシャル!」
    「それが何か?」
     小学生の女児にお色気は通じない。
    「それは、珈琲豆ですか? 食べさせてあげようと思ったのに残念ですの」
     シエナの手から逃げきることはできなかった。

    「アルヴァン!! 見つけたわよ!!」
     黒島・もいかは、サボりながら女の子をナンパしているアルヴァン・ルティックを見るなり、問答無用で殴りつけた。
     胸ぐらをつかんで、もう一発という時に、アルヴァンが手をつかんだ。
    「いや、まておちつけ。いきなりなんでぐーぱんなのか……!最近、デートしてないからか。んじゃ、今からデートしようぜ?」
    「なに言ってんのよ、マラソンの最中よ!?」
    「どーした?行かねぇの?」
     アルヴァンに手を引かれ、もいかは嬉しいが悔しくもあるので、監視役に徹し、絶対に顔に出さないようにした。
     一方、初めてのマラソン大会で、協力者側を選んだ桜咲・優は、パーカーを深くはおって、逃亡者を探していた。
     気づかれないようにそっと近づくのだが、なぜか捕まえることができない。
    「むぅ~。何が悪いんでしょう」
     優は首をかしげながら、逃亡者を確認しながら歩いたが、結局誰も捕まえられなかった。
     そんな中、優とすれ違うようにして、月影・木乃葉が、体型と顔を隠す服装で、ぼんやりと歩いていた。
    「逃げ切れたら、お寺へ参拝しに行きましょうかね……」
     繁華街を出るために、バスの時刻表を調べる。
     そこで、腕章をつけた秋山・清美に腕をつかまれた。
     清美は、公共機関で逃げられないように見回っていたのだ。
    「どこにもいかせませんよ」
    「何故見つかったのでしょう……。完璧な変装だと思ったのですが……」
    「あまりにも、身長が低すぎて違和感があります。さあ、逃げる体力があったら、真面目に走ってください」
    「この姿では、走れません……」
    「着替えてください」
     容赦なかった。

     学園に帰ってみれば、勝者は協力者だった。
     それでも、捕まえた人数が思ったより少ないのは、井の頭公園で逃げ切った人が多かったからだろう。
     協力者はギリギリの所で勝利を勝ち取った。
     つかまったエスケープ者は、絹代を始め、グラウンドをぐるぐると回り続ける。

     今日、僕らは走っています。

    作者:望月あさと 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年10月31日
    難度:簡単
    参加:37人
    結果:成功!
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