忍者モッチア? 土用餅と忍福モッチア

    作者:聖山葵

    「こんな所にもあったもちぃか」
     ここに決めたもちぃ、と呟いたのは忍び装束に身を包んだ人影だった。
    「土用鰻より土用餅。餡ころ餅勢力が拡大すれば、忍福餅とて……うぐっ」
     腕を組んだまま危険な目で鰻屋の店舗を見つめていたそれが呻いて額に手を当てたのは、その直後。
    「拙者は……なに、を……」
     暫く固まっていたご当地怪人は緩慢な動きで周囲を見回すと首をかしげる。
    「ここは、鰻屋? うぐ……」
     再び額に手を当てたそれは覆面から除く目元を辛そうに歪めたまま、逃げるように店先から去って行くのだった。
     
    「一般人が闇もちぃしてダークネスになる事件が起ころうとしている。今回は餡ころ餅だな」
     正確にはその一種である忍福餅で、現在ダークネスの力をもっちぃながらも人の意識を残しているらしい。
    「ちなみに、今回の情報提供者は、土用の丑の日に餡衣餅怪人が鰻屋を襲うのではと警戒していたこの客人・塞(荒覇吐・d20320)だ」
    「堕ちかけとは思いませんでしたが」
    「底は助けられる可能性があって重畳と思うべきだろう。もし問題の一般人に灼滅者の素質があるようであれば闇堕ちから助け出して欲しい」
     また、完全なダークネスになってしまうようであればその前に灼滅を、と言うのが君達を呼び集めた座本・はるひ(大学生エクスブレイン・dn0088)からの依頼だった
    「今回闇もちぃしかけているのは、福部・忍(ふくべ・しのぶ)。高校一年の生徒だな」
     夏に土用の丑の日を利用して自分の愛する忍福餅を広めようとしたところことごとく失敗、その鬱屈したモノが積み重なって忍び装束に身を包んだご当地怪人忍福モッチアに変貌し、鰻屋を襲撃しようとしているとのこと。
    「何故今更かというと、秋の土用の丑の日が10月28日なのだよ」
     もっとも、人の意識が邪魔をするのか、一軒目は急に額を抑え呻き襲撃を断念して去るのだとか。
    「君達がバベルの鎖に引っかからず接触出来るのは、この後だ。次の店は閉店してしまっていてね」
     店で待ちかまえていれば、忍もとい忍福モッチアの方から現れるとのこと。
    「電気やガス、水道は止まってしまっているものの、閉店していると言うことは人がやってこないと言うことでもある」
     闇もちぃした一般人を助けるには、戦ってKOする必要がある為戦いは避けられないものの、そこならば戦いに一般人を巻き込む恐れはない。
    「まぁ、些少の偽装は必要だろうがね」
     言いつつはるひが君達の前に置いたのは、パックに入った鰻の蒲焼きと忍福餅の箱が数個。
    「残念ながら鰻の方は国産でないが、偽装の足しぐらいにはなるだろう。これらをうまく使えば接触した忍と会話をするところまでは持ってゆける筈だ」
     闇堕ちした一般人と接触し、人の意識に語りかけ説得出来ればダークネスを弱体化させることが出来る。
    「説得を考えるならとっかかりにはちょうど良いと思うのだよ」
     尚、使用後の鰻と忍福餅はスタッフじゃなくて君達で好きに処分していいらしい。
    「敢えて言わせて貰おう、鰻重にするならご飯は自己負担で頼む」
     ぐっと拳を握ったはるひのお腹がちょうどきゅるると可愛らしく鳴った。
    「食欲の秋、と言う訳か。……それはそれとして、戦いになれば、忍福モッチアはご当地ヒーローと手裏剣甲のサイキックに似た攻撃で応戦してくる」
     その一撃がどれほどの威力を持つかは、説得するか、説得が成功するかで大きく変わってくる。
    「いずれにしても、助けられる者なら助けたいと思うのだよ」
     忍のことをよろしくお願いするとはるひは君達に頭を下げたのだった。


    参加者
    久瑠瀬・撫子(華蝶封月・d01168)
    黒咬・翼(ブラックシャック・d02688)
    御神・白焔(死ヲ語ル双ツ月・d03806)
    白牛・黒子(とある白黒の地方餅菓・d19838)
    北南・朋恵(ヴィオレスイート・d19917)
    客人・塞(荒覇吐・d20320)
    水霧・青羽(幸せの青い鳥・d25156)
    蒼井・苺(中学生デモノイドヒューマン・d25547)

    ■リプレイ

    ●接触
    「土用餅……聞いたことないが、そういうのもあるのか」
     ポツリと呟く水霧・青羽(幸せの青い鳥・d25156)へ、御神・白焔(死ヲ語ル双ツ月・d03806)はああと頷いた。
    「土用に餅を食す文化があるとは寡聞にして知らなかった」
     口にこそ出していないもののの、初めて聞いたという事であれば、久瑠瀬・撫子(華蝶封月・d01168)も同様なのだろう。
    (「今回は土用餅ですか」)
     焼き網を手にしたまま、発言者の方をちらりと見れば。
    「忍者のモッチアとは……すごく奇遇ですの。何が何でも助けなきゃですの!」
     側にはぐっと拳を握って意気込む白牛・黒子(とある白黒の地方餅菓・d19838)の姿がある。
    「さて、ならばまずは誘い出さねばな」
    「だな」
     準備を始める黒咬・翼(ブラックシャック・d02688)へ客人・塞(荒覇吐・d20320)は短く応じ、取り出したのは、パックに入った鰻の蒲焼き。
    「あ。私も御飯持ってきましたよ」
     翼が持参したご飯を脇に置くのを見て撫子は自分の用意してきたお弁当箱を側に置き。
    「火が必要なら私がやりますよ~」
    「そうか、なら頼む」
     申し出に翼が場所を譲ると、暫くしてウナギのタレの匂いが漂い始める。
    「本当は国産の鰻の方がよかったのですけど……」
    「この鰻、国産じゃないですのよね……土用の丑の日のための餅があるとはサイオー・ホースな」
     団扇で扇ぎ匂いを拡散させつつ蒼井・苺(中学生デモノイドヒューマン・d25547)が呟けば、横目で焼ける鰻を見た黒子は、鰻ではなく用意してきたお餅に手を伸ばし。
    「だよな。せっかく初めての土用餅だし、鰻はおいといて餅の方を頂こうか」
     青羽もこれに倣う。
    「鰻とタレの匂い……ここもちぃ、なっ」
    「あっ」
     こうして一同が丁度お餅を食べ始めて少し立った頃だった、忍び装束のご当地怪人が現れたのは。
    「はむっ……うなぎもおいしいですけどこれは日本産じゃないので、忍さんが好きなおもちのほうがいいのですっ」
    「一体ここで何をして……って、忍? 拙者のことを知っているもちぃか?」
     想定外の事態に驚愕していたご当地怪人忍福モッチアは、鰻を突いていた北南・朋恵(ヴィオレスイート・d19917)で我に返り問いかけようとし、自分の名が出たことに気付き質問をかえる。
    「襲いかかってこないな」
    「いや、拙者が襲おうと思っていたのは店もちぃからな?」
     様子を伺いつつ呟いた翼の手に饅頭があるのは襲いかかってきたら口に突っ込もうと考えていたからだが、元一般人の忍が襲撃を試みようとしていたのは鰻屋の店舗。閉店した店をまだ営業しているように見せかけたならともかく、店の前で何故か鰻を焼いて餅を食べている集団と遭遇するという事態は忍福モッチアの想像を超えていたのだろう。
    「と言うか、ツッコミどころしかないもちぃよ、それどういうつも」
    「……五月蠅い奴だ。鰻に何の恨みがあるか知らないが取りあえず饅頭でも食って落ち着け」
    「んぐ」
     恨みとか関係なくただ突っ込んでるだけじゃ無いのかと誰かが指摘するより早く、翼は饅頭をご当地怪人の顔に押しつけ。
    「危ないところだったもちぃ」
     口元の覆面に遮られた饅頭がポテっと落ちた。
    「えーと」
    「忍福餅、美味しいですね」
     微妙な空気が漂い始めた場を救ったのは、苺だったと思う。
    「そ、そうもちぃね」
    「土用餅、俺は悪くないと思うぞ」
     我が意を得たりとばかりにテンションをあげつつ、忍福モッチアが肯定すれば、塞が口を開いた。

    ●セトク
    「本当もちぃか?」
     ご当地怪人が喜色を露わとする中、塞はただと前置きして続ける。
    「傍目に見て土用の丑に鰻を食べるって習慣は全日本レベルで認知されてるんじゃないかとも思う」
     口数少なげに見える言動をしていたが、相手を説得し、救うためなら話は別と言うことか。
    「土用餅の習慣を利用してご当地餅を広めるのはいい、ただ鰻を食べる習慣自体を排斥するんではなく、共存する方向性で売り込みをかけてった方が上手くいきそうなもんだが」
    「きょ、共存……」
    「鰻だろうが餅だろうがどちらも旨い物で土用丑の日に大切なものには変わらない。だが、何かを貶めて相対的に価値を高めるのではなく風習を大事にしていく心のほうが大事ではないかね?」
     その発想が無かったのか、言われた言葉を忍福モッチアが反芻する中、今度は翼が問い。
    「も、もちぃ」
    「聞くまで知らなかったが食べてみたら美味かった。もっと広まればいいとも思うが、何かを広めるのに破壊活動は適さない」
     言葉に詰まるご当地怪人へ更に白焔が言う。
    「対立する相手を駆逐して選択肢をなくすのは反発を生む」
    「は、反発もちぃか?」
     そのまま、より魅力を感じる選択肢を提示する形で取り込むべきであると諭されれば、思うところがあったのだろう。確かにと口にして忍福モッチアは考え込み。
    「っていうか、国産鰻って手に入りにくくなってるっぽいし、日本行事的にはもう餅にシフトしてもいいんじゃね?」
    「もちぃ?」
     いきなり話の流れが変わって、ご当地怪人は驚きつつ顔を上げる。
    「いま地球の鰻資源は絶滅の危機に瀕していますの! これから鰻を食べるのは奥ゆかしくないとされる時代が来ますの! 牛肉や豚肉などライバルは多いですが、忍福餅にも普及の勝機はあるとおもいますの!」
    「そ、そう言う考え方もあるもちぃか」
    「つまり、共存を装いつつ今は時期を待つべき、と言うことですわね。……わたくしも一人の餅好きとして協力しますの!」
    「同じ土用食品同士だろ。ライバル意識じゃなくて仲間意識持てよ。鰻と餅、セットで売りだしてみろって」
     青羽の言葉を補った黒子が結論づければ、青羽も引き続き訴えかける。
    「いきなり餅って言われても戸惑う人いるかもしれんけど、鰻食べさせてから餅も食べさせればいいじゃん。味の方向性違うから食べ合わせいけるって」
    「うなぎ餅?! そういえば白いお餅に鰻をスシめいて乗せるうなぎ餅なる餅があるとか……」
     斜め上の発想にはっとした顔を黒子がすれば。
    「いや、そこまで言ったらもう土用餅餅も忍福餅もあんころ餅も関係なくなってる気――」
    「これ結構美味いし、なんか由来も鰻と同時期からみたいだし。行けるって! あ、犬にこういう甘い物ってダメだっけ?」
     流石にツッコもうとした忍福モッチアに疑問を被せた青羽が足下の霊犬に目をやり。
    「まぁ霊犬だし大丈夫か。ほれ、ブラン。お前も食ってみ」
    「おんっ」
    「ちょっ、拙者のツッコミ?!」
     ご当地怪人が愕然とする中、一声鳴いた霊犬のブランが忍福餅を美味しそうに食べ始める。
    「何だか混沌としてきましたね」
     だが、説得を止めるという選択肢はない。
    「……忍さん、人をおそうのを思いとどまってくれてるなら、まだ間に合いますです。自分の好きなおもちを広めたいならちゃんとそれを伝えて、うなぎやさんおそおうとするなんて絶対だめなのです!」
    「っ」
     何だかんだ言っても灼滅者達の説得で、鰻屋を襲撃するのは拙いのではと言う疑問が育っていたのか、朋恵の言葉に忍福モッチアは硬直し。
    「うぐっ……ぬうううっ、もっちああああっ」
     額に手を当てたご当地怪人は、呻くなり咆吼する。
    「これは……」
    「もう少しの所で、よくも余計なことを吹き込んでくれたもちぃね」
     敵意の籠もった視線、豹変した態度、減退した威圧感。追いつめられてダークネスが表に出てきたと察した撫子は着物の袖口からスレイヤーカードを取り出すと、唇を落とした。
    「殺戮・兵装」
    「福部さん……待っていてくださいね」
     仲間がカードの封印を解く後ろで、苺は助けたいという気持ちを決意に変える。
    「これだけきょりがあれば……こわしちゃわないように気をつけるのです」
     ここから、戦いが始まる。店の前でおびき寄せたからか、振り返り、戦うのに充分な広さがあることを確認した朋恵は身構え。
    「ドーモ、忍福モッチア=サン、白牛黒子ですの」
    「ドーモ、白牛黒子=サン、忍福モッチアもちぃ」
     何故か黒子とご当地怪人はお辞儀と共にアイサツを交わすなり、双方が地を蹴った。

    ●礼に始まり
    「イヤーッ!」
    「モチャーッ!」
     気合いと共に両者がぶつかり合う。人形同士をぶつけ合って戦いを演じる子供の遊びめいた動きだったが、繰り出されたのは確かにクルセイドスラッシュとご当地キック もどきであった。
    「ンアーッ!」
    「モチャーッ!」
     双方が同時に吹っ飛ばされる相打ちという形に至ったのは、ご当地怪人が弱体化していた故か。
    「ではまず、さくっと倒されちゃって下さいね」
    「っ、ちょ、ちょっと待」
     もっとも、灼滅者側の攻撃はこれで終わらなかったのだが。起きあがる間すら与えず、撫子が黒い日本刀の刀身へ炎を宿し叩き付け。
    「もぢゃああっ」
    「ふっ」
     悲鳴が上がる中、エアシューズを駆り前触れなく死角に移動した白焔が跳躍するなり急襲する。
    「っ」
     視界から消えた白焔の姿を起きあがろうとしつつ忍福モッチアは目で探そうとするが、それ故に気づかなかった。
    「胡蝶の夢」
     黒子の身体を帯で覆いつつ苺が霊犬に呼びかけたことも。
    「わうっ」
     呼びかけられた胡蝶の夢が六文銭を撃ち出したことも。
    「もぢっ」
     気づいたのは、ぶち当たった六文銭に体勢を崩された瞬間であり、もう遅すぎた。
    「もぢゃばっ」
     三人と一匹の連係が見事に決まり、地面に頬ずりを強要されたご当地怪人へ無言で塞の生み出した渦巻く風の刃が斬り裂き。
    「美味いね。止められない止まらないって奴?」
    「おんっ」
     餅を食べつつクロスグレイブで青羽が殴りかかれば、斬魔刀で別方向から斬りかかっていたブランが一つ吼える。
    「一方的な展開になってきましたね」
    「お話ししてわかってもらえたからなのです」
     灼滅者側には一部に余裕さえ見える集中攻撃に、ご当地怪人は追いつめられて行く。朋恵の言う説得による効果も大きいのだろう。
    「うぐぐ、この程も゛っ」
     呻きつつ肩を押さえた忍福モッチアは継ぎの瞬間、朋恵が放出したオーラに呑まれ。
    「手は止めんぞ?」
    「もがっ」
     オーラからようやく抜け出た直後に翼の繰り出した突きで貫かれ、傾ぐ。
    「ナノナノ~」
    「わたくしならもう大丈夫ですの。しかし、初っぱなからケジメ暗拳とは一方的にやられているように見えて中々やりますわね。ならばっ」
     ナノナノのクリスロッテへ回復はもう良いと示しつつ、謎の戦慄をした黒子は、斜めに跳躍すると錐もみ状に回転する。ちなみにこれサイキック的には何の意味もない、エンシュツ。
    「イヤーッ! あ」
     ただ、忘れていたのだろう、補正という名の運命を。
    「ンアーッ!」
    「もちゃぁぁぁっ」
     空中でバランスを崩したあげく、一撃を見舞うはずがそのまま落下。何をどうしたらそうなるのか、互いの股間に顔を埋めるような態勢にご当地怪人を押し倒したのだった。
    「途中までうまく行きましたのに……ですが、今ので解りましたわ。あなた、女の子ですわね。胸の方もサラシを巻いて押さえ込んでいる感じがしましたの」
     もっとも、ただでは転ばなかったのか、ドヤ顔をしつつ起きあがった黒子はスゴイ・セクハラめいた指摘をして見せた。
    「ちょっ、いきなり何を言ってるも」
    「えぇとですね。土用の鰻のお陰で夏のイメージですが。鰻の旬は冬らしいですよ?」
    「いや、今はそんな話をしもちゃぁぁっ」
     流石に抗議しようとした忍福モッチアはかけられた撫子の言葉に反応しかけたところで帯止め等から射出した帯に貫かれ。
    「う、ぐ、も、もちぃ」
    「遅い」
     よたよたと後退したその背後には既に白焔が立っていた。
    「あ、もう解ったもちぃよ。連係もちぃね、さっきの?」
     覆面から目元だけが覗く引きつった顔での問いに返るのは、答えではなく攻撃サイキック。
    「もちゃぁぁぁっ」
     目を覆いたくなる程一方的な袋叩きが始まるも、朋恵の放っていた殺気によって一般人は近寄らず、目撃者は一同のみ。苺によって戦場の音をもれなくしているから、悲鳴を聞くのも灼滅者達のみ。
    「くっ、せめて一矢報い」
    「その雑念を斬り抉る……」
    「もべっ」
     ボロボロになりつつも無数の手裏剣を取り出し投げ放とうとしたところで死角から翼の一撃を受け。
    「う……え? ちょ、やめ」
     呻きつつ身を起こせば目に飛び込んできたのは、影が変じて形を為した触手。
    「もちゃぁぁぁぁっ」
     塞は口を開かず、代わりに触手被害にあったご当地怪人から悲鳴は漏れて。
    「ま、まだやれる……もちぃ」
    「さぁ。一度眠ってください。目覚めたら新しい自分の始まりです」
    「な、もべっ」
     触手から抜け出し、緩慢な動作で身構え様とした忍福モッチアの意識は、その呼びかけを知覚し途絶え。
    「終わりか」
     ポテッと倒れて人の姿に戻って行く少女を見下ろし白焔はポツリと漏らすと、ちらりと戦いには巻き込まれずに済んだ餅へ目をやった。戦いは終わったのだ。

    ●ごっはん~ごっはん~
    「とりあえず、ご飯にしましょうか」
     意識を取り戻した忍へ説明を終えた撫子はそう提案した。
    「だな。このまま残して帰る訳にもいかないし。それでいいんじゃね」
    「待っていたのです」
     頷き、青羽が同意してみせれば、朋恵は嬉々としてご飯を取り出し。
    「あったかいお茶と薬味も用意してきました。私は交互に重ねて鰻重タイプのひつまぶしにするつもりですけど……」
    「でしたら、あたしも薬味を少し頂きたいです」
     苺の声に応じれば、ご飯に乗せるべく減って行く鰻。
    「いただきますです」
     完成するなり、食べ始める朋恵。
    「御飯とおかずとお味噌汁も用意してきてます。よろしければ、どうぞ」
    「……頂こう」
     撫子が弁当箱から何品か提供したことで本格的な朝食の風景になりかけた元鰻屋の前で。
    「餅を広めるためなら武蔵坂学園、そして我らが餅屋を頼るといいですの! 一緒に来てくださいですの!」
     まず、黒子が誘い文句を口にし。
    「どうです? 私達と一緒に来ません?」
     撫子も尋ねる。
    「うちの学園に来てみろ、似たような境遇の仲間も多い。ご当地アピールの今よりずっと上手い手が見つかるんじゃないか?」
    「拙者は……そうでござるな」
     塞の問いに、身体にかかっていた撫子の毛布と朋恵のタオルの端を握りしめつつ視線を彷徨わせた忍は、ほうと息を漏らすと頷き。
    「救って頂いた恩、報いてこそ人でござろう」
     未だ何人かが鰻を味わう中、そう述べて微笑んだのだった。

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年11月4日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ