子爵襲来~妄執の音叉

    作者:中川沙智

    ●夜半の惨劇
     洋館から数多の羽音が響いた。
     だが誰も耳にした者はいない。ましてや、それがタトゥーバットである事など。巣立った洋館が子爵の手に落ちている事など。
     三重県津市。
     住宅街の一角に降り立った羽には蝙蝠。否、蝙蝠型の眷属であると知れるのは、体表面に眼球状の『呪術紋様』が描かれているからだ。その数、12体。
     真夜中という事もあり人々は寝静まっている。その中で羽音は乾いた音を立て、アパートの一室の窓に牙を剥いた。
     響くのは、ガラスが割れる音。
    「んー……こんな時間になあに?」
     幸か不幸か耳に届いた異音に眠い目をこする女性が一人。
     だが誰も惨劇を理解した者はいない。
     彼女が迸らせた悲鳴と、彼女が襲われ命を啄まれている理由など知りはしない。違和感を覚えて顔を覗かせたとしても。
    「何かあったのか? ――!!」
     何より、女性の夫も同じ運命を辿るのだから。
     
    ●喫緊
    「タトゥーバット事件について、灼滅者の皆が調査してくれていたのだけど。三重県の津市で動きがあったみたいよ」
     告げた小鳥居・鞠花(高校生エクスブレイン・dn0083)の声は硬い。すなわちその状況が緊迫している事を克明に知らしめる。
    「三重県津市の洋館の一つが、タトゥーバットの主人であるヴァンパイアの拠点になるの。そこから、津市全域にタトゥーバットが放たれるのよ。このヴァンパイアの洋館に突入する作戦も同時に行うけど、タトゥーバットが街に放たれるのを防ぐ事は出来ないわ」
     タトゥーバットは市内の人間をすべて血祭りに上げようとしている。
     このままでは津市の市民が次々と殺され、ついには全滅すら免れない。
    「そうしないためにも皆には津市に向かって、タトゥーバットの襲撃を阻止してもらいたいの。宜しくね」

     集まった灼滅者達が頷きを返したのを確認し、鞠花は状況説明のためファイルを紐解く。
     今回対峙するタトゥーバットの数は12体だ。それらは戦闘になると、灼滅者の排除を再優先とするという。つまり戦いに向かう事が市民の被害を防ぐ事に繋がるため、被害者救助などを考慮する必要はない。
    「攻撃は最大の防御ってやつね。ただし、12体っていう数が問題だわ。それでいて1体1体が雑魚じゃないから、作戦はちゃんと立てないと痛い目見るわよ」
     タトゥーバットはブレイズゲートで戦った事のある灼滅者も多いだろう。超音波によって擬似的な呪文詠唱を操ったり、施された呪術紋様で直視した者を催眠状態に陥れたりもする。
     その他、牙を用いて近くにいる相手を穿ったりも――タトゥーバットの数が多いうちは苦戦は免れないとは鞠花の弁だ。
    「素早く敵の数を減らす戦術が重要になってくるわ。気を付けてね」
     戦場になるのは深夜。津市の住宅街、タトゥーバット達がとあるアパートを強襲するタイミングが介入する好機だ。
    「アパートは1階、若い夫婦が住んでるわ。アパートで住人を庇いながら戦うっていう手もない事はないけれど……出来る事ならすぐそばにある児童公園にタトゥーバットを引き付けて戦場を移す事をお勧めするわ」
     児童公園なら夜でも灯りが確保されているし、何より広い。灼滅者の排除を優先するタトゥーバットの性質を利用すれば、そのほうがいいと思うわと鞠花は付け足した。

    「このままでは、津市の市民の多くが殺戮されてしまうわ。そんな事見過ごせない。絶対防いでみせる。――皆なら大丈夫ね?」
     全幅の信頼を寄せて、鞠花は力強く言い切った。
    「行ってらっしゃい、頼んだわよ!」


    参加者
    最上川・耕平(若き昇竜・d00987)
    墨沢・由希奈(墨染直路・d01252)
    日輪・かなめ(第三代 水鏡流巫式継承者・d02441)
    椙杜・奏(翡翠玉ロウェル・d02815)
    黒岩・いちご(ないしょのアーティスト・d10643)
    四季・彩華(白き探求者・d17634)
    桜庭・成美(届かぬ想いを届けたくて・d22288)
    辻凪・示天(彼方の深淵・d31404)

    ■リプレイ

    ●滲む夜
     秋の夜空は高く、深い。
     名月と呼ぶべき天上の輝きも、今宵はどこか禍々しい。
     そんな光注ぐこの街で多くの仲間達が今駆けているかと思えば、自然と気も引き締まるというもの。
    「津市を取られるわけにはいきません、数は多いですがなんとしても全滅させましょう」
     ヴァンパイアの子爵の使いが蝙蝠というのは如何にも古典的だ。桜庭・成美(届かぬ想いを届けたくて・d22288)は朱の瞳を微かに顰め、闇の向こうを見渡した。
     人々を抹殺する蝙蝠なんて許しておけない。
    「コウモリの大群との勝負……、つまりハロウィンパーティーってことですね!?」
     お菓子もあげないし悪戯も御免こうむるけれど。日輪・かなめ(第三代 水鏡流巫式継承者・d02441)は金の髪を風に靡かせ胸を張った。
    「大勢でいらっしゃってもお菓子みたいに血は差し上げませんからね!」
     弾む声に背を押されるように、気心知れた仲の三人は互いに頷く。
    「洋館突入組が憂いなく作戦を行えるように、僕らは此処で成すべきことを確実に成そう」
    「子爵ってのが何を目論んでるのかわからないけど、こんなのの好きにはさせられない! ……後ろにいちごくんもいるし、バッチリ倒しちゃうよ!」
     少女と見紛う容貌ながら芯に抱えるのは確かに少年の強さ。四季・彩華(白き探求者・d17634)が呟けば、同じく前に立ち戦うと決めた墨沢・由希奈(墨染直路・d01252)が後ろを振り返る。
     信頼を寄せる人と共闘出来る事は心強い。ふと向けた視線が黒岩・いちご(ないしょのアーティスト・d10643)のそれと重なれば、互いに自然と柔らかい微笑みが浮かぶ。
     護るために支えると決めたから、胸に温かい何かが宿る。
    「タトゥーバットの1匹だって街に放てません。私達を優先してくるならむしろ好都合ですよね。バッチリここで殲滅しましょう」
     今回の敵は注意さえ引けば灼滅者との戦闘に専念するという。ならばその特性を利用しない手はない。
    「見えた。……噂をすればというやつかな」
     最上川・耕平(若き昇竜・d00987)の視線の先、街灯に照らされる姿はあたかも誘蛾灯に惹かれる蟲だ。自然にはあり得ない生き物の影が幾つも舞う姿に、倒すべき敵を見据えた耕平は己が得物を手にして切先を向ける。
     津市を覆わんとする死呼ぶ蝙蝠。施された呪術紋様が妖しく光を帯びる。
    「あの紋様……まるで狙ってくださいと言わんばかり」
     大人しくしていれば、わざわざ出向く必要も無かったのに。そう口中で呟く椙杜・奏(翡翠玉ロウェル・d02815)は翡翠の瞳を眇める。
     何も無く、終わらせよう。
     その想いが重なったのか。意を決した灼滅者達が駆けだした。目指すは蝙蝠。予知で示されたアパートだ。
     耕平が蝙蝠の群れに突貫する。大きな身振りで殲術道具を振るえば、タトゥーバットが音波の如き甲高い鳴き声を上げる。咄嗟に耳を塞いだかなめもかぶりを振って、蝙蝠の一体を蹴り上げる動きそのままの反動で地面を蹴る。おびき寄せる先は、児童公園。
     大袈裟な仕草で残るタトゥーバットを陽動した成美は、ウイングキャットの超力戦猫タヱと足並み揃え、仲間達の盾とならんと敵に向き直った。
    「タトゥーバットですか、ブレイズゲート以外ではアブソーバー襲撃以来ですねぇ」
     眼前のタトゥーバットは十二体。そのうち妨害の術に長ける個体は半数に及ぶ。
    「……となると受ける妨害の数も相当だな。まさに数の暴力か」
     戦闘で物を言うのは大体は手数と言っていい。辻凪・示天(彼方の深淵・d31404)が冷静な口ぶりで現状を判断する。
     そしてそれは予言にもなる。
     手数の多い敵を前にして、取るべき戦法は――。

    ●響く虚
    「ステージセットは万全♪」
    「ステージ設営は任せてっ!」
     彩華と由希奈が戦場の音を遮断し、殺気を迸らせる事で万が一にも一般人が紛れ込まないよう仕立て上げる。
     さあ、戦いの舞台は整った。
     成美と同じく壁となるべく前に出たのは信頼すべきサーヴァント達。タヱは同じウイングキャットのピオニーと肩もとい輪を並べる。ライドキャリバーのアンサラーがスロットルを高く鳴らせば、ビハインドのアリカが優雅な所作でレイピアを構えた。
     そこはいちごの大切な二人の隣。護る盾となり、共に戦う剣となるために。
    「アリカさん、2人を守ってあげてくださいねっ」
     勿論自分も後ろで支えるつもりだ。いちごの声が飛ぶと同時に、タトゥーバットが何体も羽を揺らす。だが先に一歩踏み出したのは、かなめだ。
    「集中攻撃でどんどん削っていきましょう! 拳の雨、行きます!!」
     名の通り、数え切れぬほどの拳の乱舞。したたかに打ち据えられた個体は身を反らす。
    「絶招『驟雨』なのですッ!!」
    「なら僕も続いていこうか!」
     次なる彩華が拳に湛えるは雨に鳴る雷。一足飛びで敵軍へ滑り込み、傷を負う個体を気合と共に突き上げる。
     その蝙蝠は、首の皮一枚といった風情で呪術紋様を浮かび上がらせて傷を塞ごうとする。それでも焼け石に水と言った様子だ。確かな手応えがある。次の一撃で、仕留められると感触で理解する。
     それ故か、幾人かの灼滅者は初手を強化に費やす事を選んだ。
    「皆を護って……!」
     由希奈が前衛に妨害の技を防ぐシールドを展開する。奏も同じく後衛に幾重にも耐性を付与する標を示す。自分の役目は味方の強化と敵技の阻害と正確に理解するから、奏は唯一の中衛としての役割を淡々と果たす。
     まだ攻勢は終わらない。耕平の生み出した剣の嵐は集中攻撃を受けたタトゥーバットの息の根を止める。
    「世界を収束させる!」
     敵の攻撃手を巻き込むそれは己の攻めの鋭さをも増した。
     しかし。
    「来ます……!」
     護り手として最前に立つ成美は夜を駆ける。実際に目の前にすると蝙蝠のなんと、多いことか。牙を剥くそれから仲間を守るべく構えると、予想を上回る超音波が不協和音となり襲い来る。
     腫れたように耳の奥が熱い。視線を走らせると自分だけではない、何人もが妨げのため不自然なふらつきに陥っている事がわかる。
    「あ……」
     由希奈の顔から血の気が引く。
     教室でエクスブレインが告げた言葉が胸裏に浮かぶ。
     そう、『素早く敵の数を減らす戦術が重要になる』と言っていたはずだ。
     でも今はどうだろう。護りと回復に傾くこの布陣は、いっそ長期戦に向いたものではないだろうか。
     彼女の不安を自然と汲み取ったのか、いちごは戦場にあっても余裕をなくさず、背を支えるような想いのままギターを爪弾いた。立ち上がる力を齎す響きで、浄化すら届くよう。
    「今、防護を奔らせる」
     守護の符を攻撃手である彩華へ飛ばす。冷静さを腹の底に横たえながら、曇りなき眼で戦局を見据えるが故に示天の胸裏で懸念が回る。
     今は回復に専念するしかないけれど。
     もし自分が破魔の力で攻撃を重ねたら、蝙蝠達の持つ妨害の力も打ち消す事が出来ただろうか。

    ●牽く牙
     行動を重ねるたび天秤が傾いていく。
     自分達に傾けばいいのに、どうしても敵の錘に傾いていく。
     何が綻びの始まりだったのだろう。
     練度の高い灼滅者揃いだった。個々の能力は決して低くはなかった。戦場を変えれば恐らく、定石とも言える戦法だっただろう。
     なのに連携は部分的にしか繋がらず、有効に働いた奏の耐性付与もいちごと示天の治癒も、妨害役が一体たりとて欠けず制約を飛ばしてくる現状ではとても追いつかない。
     回復手段が潤沢な分、そちらに手を費やせば自然と攻撃はおろそかになる。
    (「ああ、」)
     耕平の思考に理解が下りてくる。
     確かに『タトゥーバットの数が多いうちは苦戦は免れない』と事前に聞かされていた。
     ならば。
    (「少なくとも序盤は全面的に攻撃に専念すべきだった。迅速に数を減らすための策を、立ち位置を、技を、選ぶべきだった」)
     脳の奥底を揺らす催眠の力だけでなく、熱で全身が腫れぼったくなっていて武器を振るうにも支障がある。これが抑圧の業だろう。今や頭を振るのが精一杯だ。
     命中精度に重きを置く一撃すら僅かに狙いが逸れる。あざ笑うかのように響く羽の音は耳障りだ。
    「! 落ちたか」
     粛々と守り手としての役目を担っていたアンサラーが掻き消える。示天は動揺こそしないものの、徐々に布陣を侵食されている現実に眉根を寄せた。彼が飛ばす守護の力漲る符も、衝撃の深さと制約の多さが必ずしも一致しないことから思うように行き届かない。
     他のサーヴァントももはやいない。だが彼女達が懸命に身を呈してくれたからこそ、灼滅者達が未だ立っていられるのだ。特にアリカは主人と仲睦まじくする人々を献身的に庇い続けた。威力の重い一撃を繰り出せる二人が早々に倒れなかったのはアリカのおかげと言っていい。
     だからここで成されるがままになるつもりもない。天使を髣髴とさせる天上の歌声で手足の傷が塞がるのを確認し、その歌声に乗せて由希奈は馳せる。
    「彩華ちゃん、歌のサビに合わせて行こうっ!」
    「勿論、この好機、逃さないよ!」
     カミの祝福宿りし風刃が奔走すれば、続けざまに巨大杭打ち機で死の中心点貫く。
     一体のタトゥーバットが地に落ちる。だがまだ残敵は多い。知らず知らずのうちに奥歯を強く噛んだのは誰だっただろう。
     奏が付与した炎は秋の夜に鮮やかな火花を散らす。だがそこで気がつくのだ。確かに付与できる焔は多いものの、より大勢を巻き込む形に出来れば尚良かったかもしれないと。
    「……っ、水鏡流が発勁の奥義!! 天地神明ッ!」
     荒い呼吸を必死で整え、敵群に肉薄したかなめは双掌打を繰り出した。放たれた魔力はタトゥーバットの体内で暴発し、ようやく一体を地に伏せさせる事に成功する。
     だがまだ一体、一体。まだ宙には何体も。羽音を震わせ紋様を翻す蝙蝠は、妨害役を残しているのが現状だ。それ故に被る打撃は減ったものの、精神を揺るがす技の数は序盤から一向に減りはしないのだ。
    「――やってくれるわね」
     成美が動線を塞ぐ事で
     前衛も勿論、後衛から確かな命中率で一撃を食らわせる二人への攻撃も見過ごせない。何度目かの超音波を放たれれば、神経への直撃にたまらず地面に膝をつく。
     だがすぐに立ち上がる。屈するわけにはいかないのだ。
     まだ夜は、長い。

    ●轟く闇
    「――……!」
     揺れる意識の中で、それでも彩華は足を踏みしめる。呼吸が荒い。肺が軋む音が、どこか遠くに聞こえる。
     苛立ちを吐き捨てたいところだが、それすらままならぬと身に数多と存在する裂傷が知らしめる。
     真綿で首を絞めるという表現がこの状況にはふさわしい。致命的なダメージにこそ至らないが、状況を見れば危機的と言わざるを得ない現状。灼滅者全員が膝をつかないものの癒しきれぬ傷を抱え、サーヴァントすべての姿が掻き消えている事実が、その証明だ。
     残りは二体。
     されど二体。
     いちごの脳裏に――実のところこの場の灼滅者すべてに共通していたのだが――撤退の二文字が掠める。同じ市内で戦う仲間に手間をかけるかもしれないが、それでも仲間の命に代える重さになりはしない。護るべきものを読み違えてはならないし、したくもない。
     その様子を見て彩華と由希奈も周囲に視線を流した。表情を窺い短く頷く。
     幾らか体力に余裕を残すタトゥーバット達を目の前にすんなりいくかは別として、方向性を転換すべき時は今。
     だからこそ。
     誰も欠けてなるものか。
     倒れてなどやるものか。
    「……絶対に倒れませんよ」
     もっとも敵襲に晒され続けた成美が戦闘不能に陥らなかったのはひとえにサーヴァントの貢献と、厚い回復と防護の力が注がれたからに他ならない。額から流れ落ちる汗には赤が混じる。それでも少女は前を向く。ふらつく身体を聖剣で支えながら前を向く。
     護り手としての矜持を抱え、殿になると心に決める。
    「さて、私が砦です。さあおいでませ蝙蝠さん?」
     喉の奥から血の味がするも、真直ぐ見据えて啖呵を切った。
     その刹那だった。
    「――そのまま行って」
     飛び込む声に顔を上げる。目を見開く。
     タトゥーバットに突き出されるは白焔を纏う薙刀。風穴を開けるとはこの事だろうか。銀の髪靡かせて声の主が前に出ると同時、他にも同士がいる事をかなめは知る。
     気だるげな空気纏う少年が鋏を翻せば、夜に鮮血が舞う。
    「俺は早く戻って寝たいんだ……暴れ回るな」
     どうやら市内の掃討戦に出ていた中で余力のある班が、近辺の警邏にあたっていたらしい。彼らの背に後は任せて欲しいと書いてあるから、これ以上留まる理由もない。
    「すまない。感謝する」
     示天が短く告げる。
     同時、肩を貸し合いながら駆けていく。
     剣戟の音が徐々に遠くなる。
     どれだけ足を動かしただろう。唐突に戦闘音が途絶え、静寂に包まれる。恐らく彼らが用いているESPの効果範囲外に出たためだろう。戦場から確かに遠ざかった事を知り、由希奈は胸をなでおろした。
     その後互いに心霊治療等で癒せぬ傷を癒していた折、違和感が耳朶で弾ける。そして本当の意味で静けさが訪れた事に気が付いた。
    (終わった……のかな?)
     過る問いの答えは明らかだった。
     夜半に相応しい穏やかさに誰もが、この大規模な戦いに幕が下りた事を認識する。困難や課題が残ったとしても、津市の大虐殺は防ぐ事が出来たのだろう。
     仲間達もそれぞれ傷は深いが重傷とまでは至らず、それはこの場の仲間達が力を尽くした行動の結実だ。
     悔しく思わないと言えば嘘だ。それでも、
    「確実に数を減らす事は出来た。それは事実なんだ」
     耕平はゆるりと息を吐く。一緒に戦った仲間と駆けつけてくれた皆への感謝を籠めて、いちごと由希奈、彩華は痛みを引きずりながらも手を高く上げて、打ち鳴らした。

    「けれど、まだ完全に終わったわけじゃない。これからが、きっと……」
     奏は吐息を奥歯で噛み締める。自分達以上の数のタトゥーバットと相対したであろう灼滅者達、子爵と激戦を繰り広げたであろう灼滅者達に思いを馳せる。
     月が雲に朧にかかり、禍々しさを薄めていく。
     けれどその雲も足早に流れていく。

     夜明けにはまだ遠い。
     行く末は未だ、知る由もない。

    作者:中川沙智 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年11月6日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 6
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