魔女と踊ったダンスホール

    作者:菖蒲

    ●Hallowe'en
     橙の並んだ隘路にぽつりぽつりと蝋が垂れる。
     ジャック・オー・ランタンの深い笑いに誘われ、ステップを踏みながら訪れる不思議の国――魔女の魔法に掛かったかのように、木々に飾られたキャンディが揺らめき出す。
     そんな空間があればいい。
     ないなら、作ってしまえばいい。
     味気ない場所を仕立て上げたダンスホール。魔女の手をとりくるりと踊る。
     静まり返った木造建築の床を踏みしめて、飾りを見てはへたっぴと互いに笑いあった。
     誰も居ない教室で肩を寄せ合い小さく秘密の話をしよう。お化けに食べられてしまう前に、君だけに聞こえる様に、そっと。
     誰かが作り上げた迷路の中を走り抜け、飛び出したそこにディナーが広がる。
     白いテーブルクロスに出来た染みまでも、この日の為にあしらわれた者の様に思えて仕方がない。鮮やかな色をした青いケーキに、スコーン達が驚いた様に身を寄せ合った。
     ストロベリーとバニラの香りの混ざった紅茶に、塩を混ぜ込んだバターで焼いたクロワッサン。くぅ、と鳴った腹に思わず笑みが毀れて仕方がない。

    「ハロウィンパーティーなの!」
     瞳を輝かせた不破・真鶴(中学生エクスブレイン・dn0213)は来る10月31日の夜を心待ちにしている様だった。
     リトルウィッチの格好をし、教室で待ち構えるエクスブレインは秋の夜長を過ごしましょうと嬉しそうに微笑みを浮かべる。
     あまりに遅い時間はNGだ。
     シンデレラだって12時の鐘で帰ってしまう。
     よいこは眠りについて夢を見る時間に外をふらりと歩きだせば、本当の『妖怪』と出会ってしまうかもしれないから。
    「仮装をして踊ろうなの。食べようなの。そして、口々にこういうの!
     ――トリック・オア・トリート(おかしくれなきゃ、イタズラしちゃうぞ)!」


    ■リプレイ


     飾られた橙色に夢を馳せ、迷宮の入り口で妖精の蝶翅を揺らした姫君は王子を待ち望む。
    「お待ちしていました、王子さま」
     なんて、と茶化す徹に王子の洋装のオリヴィエは普段の雰囲気と違う彼女にどきりと胸を高鳴らせた。
     一目ぼれしたたぬき書生と手を取り合って入りこんだ古びた迷宮。
    「……ね、書生さん。お菓子と悪戯、どちらがお好き?」
     希沙の言葉に小太郎はお菓子をチョイスしようとし、ふわりと近づく彼女の香りと頬の感触に驚いて目を瞠る。
     頬に熱が昇ってゆく。悪戯狐は楽しげに笑って手を引いた。出口はどこかと彷徨い歩いて。
    「へへっ、みんなと一緒にハロウィンできてことぎうれしい!」
     忍者仮装の彼女が嬉しそうに【井の頭2-梅】の友人達を手招いた。きょろりと周囲を見回す紅葉を連れて、お姫様のドレスとティアラを身に付けたヴァーリは気恥ずかしそうにスカートの裾を掴む。
    「ま、まぁ、こんな恰好をしていても私を気にする様な人も居ないだろうし……」
     用意した菓子に瞳を輝かせるひよは「おいしそうでち」とエプロンとコック帽を揺らして嬉しそうに手をぱたぱた。迷路より食い気な彼女をじぃと見つめた砂羽がこてんと首を傾げる。
    「とりっく・おあ・とりーと。こう?」
     カボチャドレスに南瓜ランタンを揺らした彼女はリコリスが手渡したお菓子を満足そうに頬張った。
     小さな魔女の悪戯に気付くのはまだもう少し先――

     校舎に飾り付けられた南瓜たち。何処をどう間違えたのだろうと流希は茫然と南瓜を眺める。
    「妙にリアルな顔になってしまいましたね……うーん……ま、ハロウィンですし、こうゆうのが一つあっても……」
     赤い顔したジャックオーランタンが楽しげに校舎で生徒達を迎え入れている。
     【365】作のジャックオーランタン。飾ったけれど元気だろうかと紫王は思いを馳せる。
    「確か……勢いよく掘り過ぎて目が三つになったのよね」
     廃墟の校舎を往くひよりは傍らでそわそわとした仕草を見せる桜をちらりと見つめ小さく笑みを漏らす。
     浮かびあがる様に照らす灯りが雰囲気を作り出し、紫祈は眼前に現れた『三つ目ジャックオーランタン』に「うわ」と小さく声を漏らす。
    「他のものよりも目立っているわね。皆して苦労した甲斐があったわ」
     満足そうな逢魔がデジカメで撮影しながらも楽しげなクラブの友人達を眺めている。
    「……似てる気がしてくるから何これ怖い」
    「いやいやいや!?」
     紫王に「ふえぇ流石遵」と言わす為に仕込んだ黒魔術なんて何てその。日頃の鬱憤を晴らす為にでこぴんをお見舞いする春は可哀想だとそっと目を潰した。
    「し、しっし……」
    「芸術は、爆発です……」
     ――真柴・遵(憧哭ディスコ)のこと! と解説を一つ贈った萌火はメガホンを手にし大きな声で叫ぶ。
    「男は鼻の高さじゃないからぁぁぁぁ!」
     慟哭の響く校内を往く耀と威司はそっと手を取り合って笑い合う。
     天狗の衣装の耀は「神隠しちやいますよ♪」とお菓子を強請る様に手を伸ばす。差し出された焼き菓子に瞳を輝かせた耀へと、
    「俺が耀を神隠しして連れさっちゃいたいくらいだ。神隠し返しだな」
     校舎内を往く魔女の手を取ってマッドハッターは「結構暗いねぇ」と周囲を散策する。
    「怖いの?」と問い掛ける郁の言葉に修太郎は蝙蝠とかと指差した。本心は隠すつもりはないと告げた言葉に頬を染めて。
    「……私はあなたのことが好きだから」
     小声の言葉に、キャンディレイへのお返しの唐辛子チョコは素直になれない味がした。
     ヴァンパイアはアラブの踊り子へと「似合ってる」と楽しげに笑みを零す。千尋と共に歩むタシュラフェルは暗がりの校舎に怯えた様に手を握りしめた。
    「……千尋、離れないでね……?」
     怯えた彼女を宥めながら千尋が目指すのは二人だけの『パーティー会場』へ。
     きっと、これからが幸福の時間だ。
     屋上まで登りながらローブの裾を持ち上げた暦はゴシックロリータを下に仕込んで緊張した様に扉を開く。
    「卑怯ですよ」と告げた天女は瞳を細めて彼を見詰めた。
    「私の笑顔が好きだと言ってくれた暦さんが好きだって気持ち、愛しさ、間違えない。……もう躊躇わない」
     言葉と共に黄昏のショールでふわりと包み込んだ彼女は震える声音で彼を呼ぶ。
    「……おめでとう、頑張ったね」
     撫でた黒髪が指から逃げてゆく。震えた声音は、何処までも素直な彼女の言葉。
    「大好きな貴方の笑顔の傍に寄添わせてください」
     星と桜をちりばめたドレスを持ち上げて、翔琉へとお菓子を頂戴と笑いかける璃衣は胸を張る。
    「……お姫様は、実はステキな男を攫う悪い魔女だったのデス」
     ハロウィンっぽいだろと笑った彼女はくい、と彼の服の裾を引く。上目遣いに言葉を飲みこむ彼は卑怯だと呟いた。
    「……いつそんな技を覚えた」
    「ふふ、甘い事、しよ?」
     誘い文句に飴玉一つ。璃衣の口へと押し込んで、拗ねた彼女から頬に注がれる甘い悪戯に今は酔い痴れよう。
    「狼さん、とりっく・おあ・とりーと」
     愛らしく手を差し伸べた子羊――彩希に鷲司は肩を竦める。狼らしく笑みを零す彼は彼女の掌にビスケット一つ差し出した。
    「こっちにもお菓子くれ。トリックアンドトリート」
    「? はい」
     籠から飴を一つ取りだした彩希に鷲司が頬にひとつ、唇を落とす。
     一拍置いて、『言葉の意味』に気付いた後、頬に差した彩りに言葉を飲みこんで「嫌いじゃないわ」と呟いた。
     ジャック・オー・ランタンに火を灯して葉月との揃いの海賊服の裾をしっかりと折り畳む真火はそっと袋を取り出した。
    「お誕生日と聞いて。本当に些細なものではありますが……受け取って、くださいますか……?」
     ラッピングされたソレに葉月が嬉しいとこれから寒くなる冬を思ってそっと受け取る。
     遠巻きに聞こえるワルツに耳を澄ませて。
     揺れる光りの中、彼は楽しげに手を伸ばす――「Shall We Dance?」



     舞台の上から会場を見下ろして。アネラが用意した南瓜パンツを齧るひとつへと三義は困った様に笑う。
    「……ああ、俺のもあるんだ」
     ひとつの頭に被せた南瓜パンツ。これを吐いてダンスをしようと誘うアネラは小さく唇を尖らせた。
    「フラの肝は滑らかに鮮やかにそしてにこやかに! 腰を、こうっ!!」
     くいくいと腰を揺らしたアネラに悪霊払いかとぼんやりと考えた三義の足元で尻をふりふりと振ったひとつが楽しそうに踊っていた。
    「流石にハロウィンパーティーだけあって人も多いね。あ、あそこのお菓子美味しそうだ」
    「両手がふさがってるでしょ? わたしが食べさせてあげるわ」
     人魚姫を抱えた王子に樹は嬉しそうに手を伸ばす。抱え上げられた彼女の気恥ずかしそうな笑みに拓馬は嬉しそうに口元へ運ばれるお菓子を頬張った。
     裸足のシンデレラは嬉しそうに菓子を頬張り続ける。ちゆの頬に触れて「僕にお菓子はくれないの?」と悪魔が小さく笑いかける。
    「残念、悪戯できなくなっちゃった」
    「悪戯、したかったですか?」
     頬に一つ口付けて。それに慣れた自分に苦笑を浮かべながらも『悪魔の魔法使い』は嬉しそうに魔法を掛ける。
     硝子の靴なんて無くて良い。解けない魔法で不安を攫ってあげるから。
     水色のドレスの裾を持ち上げて、暗い教室よりも体育館に往きましょうと春陽は月人の手を引いた。
    「……べ、別に怖くなんてないのよ」
    「鐘が鳴った所でお前は逃げそうにもないけどな」
     くつくつと笑う月人の声に春陽は踊りましょうと『王子様』を舞台の真中へと連れ出した。
     態度は特別に甘く、甘く。悪戯を甘受すると唇を歪める彼へと――全力擽りの刑を!
     仮面で隠した素顔、明浩が探すのは詩織の姿。ふわりと揺れる薄黄のワンピースを揺らす彼女を見つけて、小さく息を付く。
     腐れ縁の黒い魔女。彼女の手を取った劇場の怪人は魔女の笑みに誘われた様に唇で弧を描く。
    「一曲いかがですかねぃ」
    「貴女のお望みのままに……」
     触れあう温かさに、不慣れなダンスさえも楽しくて――頬の熱が、解けそうにない。
     跪いて姫君の手を取った錬は陽菜の掌の温もりを感じながらゆっくりと視線を合わす。
    「エスコート、お願いね私の騎士様」
    「一曲踊って下さいますか」
     お姫様の言葉と共にダンスホールへ飛び出した。陽菜の髪が揺れ、錬のステップに誘われながら彼女は小さく笑みを浮かべた。
     傷口から漏れる焔がイフリートを思わせる。対象的なウンディーネは頬を赤く染め「カッコいい」と呟いた。
     手を取り合って踏んだステップに、ぎこちなさを感じても――君とだから楽しくて。
    「笑顔の花を咲かす、燃え盛る炎精と癒しの水精の円舞曲をご覧あれ!」
     楽しげに笑った彼の顔を覗き込み、「ねぇ」と囁くひよりは悠へと一言告げる――Trick or treat?
     頬に落とした口付けが精一杯の悪戯で。嗚呼、でもそれはお菓子より甘くて素敵な悪戯だった。


     踊り子の衣装を身に付けた瞳は傍らで魔女の仮装をした庵胡へと視線を落とす。
    「今宵は皆でハッピーハロウィン♪」
     アラビアンナイトの少年風味の陽桜に似合っていると笑いかけて、彼女達は南瓜茶を注いだカップを真鶴と打ち鳴らす。
    「真鶴さんも一杯楽しんでますか?」
    「とってもとっても楽しいの。陽桜さんは?」
     笑いかければ鳴りだすワルツの音に、庵胡がそわそわと尻尾を揺らす。陽桜へと手を伸ばし瞳は一緒に踊りましょうと柔らかく微笑んだ。
     悪魔の王子に笹追われて天使の姫君は胸に咲く青薔薇一輪に嬉しそうに笑みを漏らす。
    「君と踊るのは三度目かな、だいぶ息もあって来たね」
     練習した成果が出たのだろう。七狼とシェリーのダンスは息もぴったり。素敵な王子様との空間に彼女は嬉しそうに笑みを漏らす。
    「本当に綺麗だ。今年の君も十分綺麗なお姫様だよ」
     ワルツが終わっても、その手を離さずに、甘い紅茶とケーキで甘く蕩ける『終わらない』幸福な夜を過ごそうか。
     久々の男物の衣装。さくらえに「洋装も結構イケるじゃない」とウインク一つ見せた涼子の姿にさくらえは小さく笑う。
     赤の映える彼女は美しい。不思議な夜だからこそ、エスコートしてあげると手をとって踊り出す。
     澄まし顔の彼女が素直にお姫様の様に手を獲った事が余りに不思議で――こうふくで。
    「二回位なら、足踏んでも許してあげるわ。だから、エスコートよろしくね? 王子様」
     期待してるわよ、と囁く言葉に王子は笑う。不思議な夜だからこそ、王子と姫で居ようじゃないか。
     甘いキャンディの様な彼女は一国の姫の様――緊張した面立ちで「オレと一曲踊って頂けませんか」とキザに告げた彼へと「よろこんで」とららは一礼する。
     ダンスホールの中、魔法に掛かった様に二人で踊り、くるりと回る。
     それしかない不思議な空間でお姫様のららは王子様の『テツ先輩』と二人きり――もう少しだけと願ってやまない彼へとひとつ。
    「魔法はとけてしまうものだからね」
     なんて、只の独り言だけれど。
     西洋魔女風の黒いドレスの璃耶は吸血鬼の伊万里へと身を任せる。
     ワルツの間に、茫と感じたのは背を追いぬいた彼の男らしさがやけに頼もしく思えた事。
    「……ダンスが終わっちゃうのが、ちょっぴり寂しいです」
     今までは後ろで追いかけて来てくれた気がしていた――けれど、今は逆転した気がして。
    「ダンスは今日だけですが、いつまでも一緒におりますよ、伊万里さん。これからも、よろしくお願いします、ね」
     王子様、の言葉は飲み込んで笑顔をひとつ。魔法にかけられたように微笑む伊万里は嬉しそうに手をぎゅっと握った。
    「ん、ヴァンパイアはダークネスだけど、紅詩さんの吸血鬼なら攫われても良いかな?」
     くるりとターンをしながら囁いた七葉の言葉に紅詩はぎこちないダンスの中で嬉しそうに笑みを浮かべる。
    「七葉さんみたいな可愛い魔女なら、確かに攫いたくなってしまいますね」
     このまま踊り明かして攫ってしまいたい――なんて、染まる頬がどうにも愛らしい。
    「やぁ、お嬢さん。楽しんでいるかな?」
     ファントムの赤薔薇を手にとってシルキーはワルツへと攫われる。
     不意のターンに「ひゃ」と小さく漏れた声を掬う様に身を支えた天龍は悪戯めいて小さく笑う。
    「今日はハロウィンパーティー。悪戯心は大事だろ?」
    「――魔法にかけられたみたいだわ」
     刹那の時だからこそ、だからこそ一夜の夢は美しい。
     ケーキがコンセプトのドレスを揺らした茅花はベネチアンマスクを付けた優希へと手を差し伸べた。
     甘いバニラの香りに誘われて、「お手をどうぞ」の声に緊張した様に掌を重ねて踊る。
    「せーの」
     出鱈目な踊りと共に寂しげな瞳へと不安を宿した親愛なる彼女へと「優希ちゃん」と呼んだ茅花へと浮かべた下手くそな笑みの意味は、伝えられない。
     普段は犬派の桃香は今日はハロウィンらしい黒猫の衣装にを包む。
     仲良くダンスを行うペアを羨ましいとじっと見つめる彼女へと手を差し伸べた吸血鬼はへらりと笑う。
    「お手をどうぞお嬢さん?」
     遊の手をとって、くるりくるりと舞い踊る――刹那、バランスを崩し、倒れ込んだその腕の下で頬を染めた桃香が息を飲んだ。
     心臓が破裂しそうな程に音を立てる、今にも死んでしまいそうな、その時に彼女は。
    「えっ、と……小さな魔女さん、僕と踊って頂けませんか」
    「喜んで、執事様」
     裄宗の手を取って、楽しげに微笑む真鶴はダンスホールへと歩み出す。
     合言葉の『とりっくおあとりーと』に「悪戯されちゃうのね」と小さく笑った真鶴はくるりと一つターンした。
     黒い翼を揺らした堕天使は白い翼の天使に微笑みを浮かべる。
    「Voulez-vous danser avec moi?」
     のんびりと二人――楽しめればとシェリーの手を取ったユエは優しく笑う。
     父や兄を越えたいと身に付けたダンスに誘われて姉妹でくるくると踊り続ける。
     愛らしい飾りにお菓子、音楽、自然に浮かぶ笑みが穏やかな時間を感じさせて、幸せで。
    「…シェリはFarceがメイン、でしょう?」
     イブニングドレスにマスカレイドマスク。燕尾服姿の結城は夕の姿に息を飲む。
    「……折角の機会ですし、ワルツらしくやってみたいですから、頑張りますよ、ハイ」
     そっと手をとって踏み出す一歩とくるくると回る視界。変化を感じたとしても、彼の姿はいつまでも変わらない。
    「わらわ、ワルツ、踊れんのじゃよ」
     吸血鬼へとぎゅっと抱きついた大魔女に明莉は小さく笑みを浮かべる。ワルツは踊らないけれど心桜とならば踊れる気がして――自然にステップを踏んでゆく。
    「魔法はなんか使える?」
    「使えるのじゃ! ワン・ツ-・スリー!」
     帽子の鍔から取り出したキャンディ。楽しげに笑った彼女をぐっと抱き寄せて。
     赤い血潮を求めた言葉に食べちゃ駄目とキャンディを頬り込んだ。続きはまた、後で――
    「いち に、さん……」
     曲に合わせてステップを踏むミールィにヴォルクは小さく笑みを漏らす。
     少し伸びた背が、踊る事で感じられて、この侭時が止まればと願う様に彼はその手を伸ばす。
    「ミルの王子様、いつまでもこの手を離さないでね」
    「俺の小さなお姫様」
     この侭一緒に歩いて行こう――
    「――俺と踊って頂けますか、お姫様」
     余り上手じゃないの一言と共に『美女と野獣』のダンスが始まる。美女を頑張るとやる気を漲らせる彼女が可笑しくて、芥汰は小さく笑みを漏らした。
    「ふふ。楽シ! あくたんモ、楽シ?」
     ダンスの後は、お菓子が欲しいと走り出さんとする彼女へと告げた『トリック・オア・トリート』
     瞬く彼女の手をとって、彼は小さく笑みを浮かべる。
    「では、悪戯確定ということで。覚悟は良い?」
     針の止まった時計は放置して、『アリス』は『イカレ帽子屋』の手を取った。
    「紅茶に何か悪い物でも入っていたのかしら!」
     茶化す様に笑う美希は物語の様に言葉を紡ぐ。おいでと『あちら』の常套句と共に誘われたダンスホール。
     優生は柔らかく微笑んだ――ここではずっと6時とはいかないけれど。
     永遠のような一瞬。今宵、君とワルツを。
    「素敵な雪の歌姫を拐かしに来たぜ……なーンつッてな、似合うか?」
     からからと笑った昶にメルキューレは「私にとってのラウルが今日はいないので困りました」と軽口を叩く。
     キャンディーを舌先で転がして、耳にしたワルツに誘う様に手を差し伸べた彼へとメルキューレは小さく笑う。
    「ホントのオペラ座の怪人みてェに……このままマジで掻ッ攫いたくなるよな、月が綺麗な高台とかによ」
     霧になって消えてしまったら傍に居られるから。口説き文句は、ワルツの音に飲まれて消えた。
     今宵は不思議な夜だから――夢と現の狭間にて。
     君と踊ったダンスホールの灯は消えない。

    作者:菖蒲 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年10月31日
    難度:簡単
    参加:80人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 15/キャラが大事にされていた 4
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ