子爵襲来~いつもの朝が来るように

    作者:佐和

     きぃ。きぃ。
     タイヤがきしむ小さな音と共に、ミイラに押された車椅子がその洋館を進む。
     主を出迎えるように散らばるゴミ山の中には、破損した死体も見える。
     この洋館の元々の住人だったそれらを気にも留めず。
     車椅子に乗せられた子爵は、虚空に向けて声を上げた。
    「る……瑠架ちゃん僕の瑠架ちゃん。君のために、僕はここまで来たよ。
     さぁ、瑠架ちゃんの為に、この街の人間を全て、血祭りにあげるんだ。そうすれば、瑠架ちゃんは、僕に会いに来てくれる。
     あぁ、瑠架ちゃん……。
     しばらく見ないうちに、きっと成長しているよね。あぁ、その成長を今すぐ目に焼き付けたい、撫でて触って確かめたい、あぁ、瑠架ちゃん」
     ウゲロロォォ。
     妄言を言い終わるや否や、子爵の口から大量の粘液が吐き出され。
     それはすぐさま、無数の眷属へと姿を変える。
    「さぁ、僕のタトゥーバットよ、この街の人間を全て殺しつくせ!
     邪魔する奴がいるなら、誰でも構わない、すぐに殺してしまうんだ」
     主の声に応えるように、タトゥーバットの大群は夜空へと飛び立った。
     そして闇夜の中で、幾つかの群れに分かれる。

     そのうちの1つの群れは、ある住宅街を最初の狙いに定めた。
     がしゃん。
     12体のタトゥーバットは1つの家の窓を破り、一気に中へと侵入する。
     外灯だけが燈る、誰もが寝静まった深夜。
     目撃者もなく、悲鳴すら上がらぬまま、住人は眠ったまま惨殺される。
     そして、死者だけとなった家を後にしたタトゥーバットは。
     がしゃん。
     続けて、隣家にも襲来し。
     静寂の中で、次々と死の家を作り上げていく。
     
    「三重県津市……タトゥーバットに、襲われる」
     お菓子の入った袋をぎゅっと抱きしめて、八鳩・秋羽(小学生エクスブレイン・dn0089)は呟くように告げた。
     最近立て続けに起こっていた、タトゥーバット事件。
     多くの灼滅者による調査の結果、津市での動きが判明したという。
     ある洋館が、タトゥーバットの主人である子爵級ヴァンパイアの拠点となっていること。
     そしてそこから津市全域に、タトゥーバットが放たれること。
    「だから、津市の人達、守って、ほしい」
     拠点たる洋館への突入作戦も同時に行われるが、それでタトゥーバットの襲撃を防ぐことはできない。
     この場に集まった灼滅者達には、津市の各所に向かって、そのタトゥーバットを倒してほしいのだと言う。

     秋羽が指定した場所は、とある住宅街。
     タトゥーバットが家の中に入り込む前に、路上で迎え撃つ形となる。
    「戦い、仕掛ければ、こっちに向かって、くる。
     それに、皆、寝てる。家から出てこない、から、心配、いらない」
     一般人対策は不要と告げてから、秋羽は敵戦力の説明に移る。
     相対するタトゥーバットは12体とかなり多いため、初期の苦戦は免れないだろう。
     眷属だからと油断せず、素早く敵の数を減らす戦術が重要になってくる。
     ポジションは、ディフェンダー4体、ジャマー6体、スナイパー2体。
     攻撃手段は、魔法現象を引き起こす『超音波』と、体表面に描かれた呪術紋様を用い、直視した者を催眠状態に陥れる『紋様の瞳』。
     また、その『呪術紋様』での回復も行うことができる。
    「放って、おいたら、津市壊滅、かもしれない」
     一通りの説明を終えた秋羽は、集まった灼滅者達を改めて見据えて。
    「津市の皆、いつもの朝、迎えられるように……お願い、します」
     ぺこり、と頭を下げた。


    参加者
    羽柴・陽桜(こころつなぎ・d01490)
    丹生・蓮二(アンファセンド・d03879)
    マリア・スズキ(悪魔殺し・d03944)
    山田・菜々(家出娘・d12340)
    桜井・夕月(もふもふ信者の暴走黒獣・d13800)
    絡々・解(解疑心・d18761)
    レイッツァ・ウルヒリン(紫影の剱・d19883)
    蔵座・国臣(病院育ち・d31009)

    ■リプレイ

    ●いつもと違う夜
     外灯だけが夜闇を静かに退ける、誰も外にいない住宅街。
     指定されたその場所に、マリア・スズキ(悪魔殺し・d03944)は無言で佇む。
     静寂に包まれた家々にはそれぞれの営みがあり。
     それぞれの思いを抱いた1日が終わり、まだ真っ白な新しい1日の始まりを待っている。
     特別なことばかりではないけれど。
     笑い合い、乗り越え、過ごしていくかけがえのない日々。
     まだまだ続いていけるはずの、何でもない時間。
    「良い子達には、良い眠りを」
     それを思ってマリアは少し目を伏せて。
     すぐに、小さな羽音を聞き取って、夜空を見上げる。
    「そして……良き朝を」
     その傍らにマリアの霊犬が姿を現した。
     山田・菜々(家出娘・d12340)も、飛来したタトゥーバットの群れを睨みつけてぎゅっと拳を握り。
    「住民の平和はおいらたちが守るっすよ」
     決意と共に巨大化したその片腕を振り上げると、先頭の1体に叩きつける。
     その一撃に、タトゥーバット達の意識が家々から自分達へと向いた。
    「不法侵入は良くないよね」
     言って丹生・蓮二(アンファセンド・d03879)が足元をちらりと見ると、霊犬のつん様が、当然といいたげに胸を張って堂々と主人を見上げていて。
    「後は、夜中に騒ぐのも迷惑だね」
     その姿に苦笑しながら、念の為にとサウンドシャッターを展開する。
     戦場全ての音を覆い隠すESPの発動を確かめて。
     同じESPを用意していた羽柴・陽桜(こころつなぎ・d01490)は、重複しての展開は無意味と、桜色の縛霊手・はなうたに内蔵された祭壇を展開し、タトゥーバット達の中央部に結界を広げる。
    「広範囲無差別殺戮とはな」
     ライドキャリバー・鉄征の車体をぽんっと叩いてから、蔵座・国臣(病院育ち・d31009)はひらりとその精悍な体躯を翻し、シートに乗って。
    「斬り落とし、撃ち落とし、害獣駆除といこう」
     タトゥーバットへ向けて走り出した鉄征の上で、クロスグレイブを構えた。
     聖歌と共に開かれた銃口から光の砲弾が放たれると、その軌跡を追うように鉄征が突撃。
     その背を見送った桜井・夕月(もふもふ信者の暴走黒獣・d13800)は、うーんっと背伸びをしてから、下ろした手を胸の前でぐっと握り閉めて。
    「さてと、蝙蝠退治頑張りますかー」
     ふんわりとタトゥーバットを見据える。
    「安眠妨害するやつはやっつけちゃうぞー!」
     レイッツァ・ウルヒリン(紫影の剱・d19883)も軽い口調でどこか楽しげに言うと、除霊結界を構築。
    「あはは! この名探偵に出会ったのが運の尽きだったね!」
     そこに、絡々・解(解疑心・d18761)が素早く駆け出し、鋭い刃を翻した。
     それぞれの声だけを聞くと遊んでいるかのようだが、解の刃も、レイッツァの結界も、確実にタトゥーバットを捕えていて。
     夕月の異形巨大化した拳も、容赦なく敵を殴り飛ばしている。
    「ミキちゃん、コウモリの瞳攻撃には気をつけて! 絶対だよ!」
     後衛に残したビハインドの天那・摘木に声を張り上げてから、解は尚も前へと出た。
     レイッツァも、笑顔を浮かべながらも戦況を見据える赤瞳に油断は欠片もなく。
     九尾の狐のように、もっふもふな帯を展開して揺らしつつ、夕月も真面目にタトゥーバットの動きを追う。
    「皆でいつもの朝、迎えようね」
     振り返ることなく向けられた声に、霊犬のティンも一吠え、声だけで応えた。

    ●この夜を守って
     タトゥーバットは完全にターゲットを灼滅者へと変えていた。
     事前に聞いていた通りとはいえ簡単に引き付けられたことに安堵しながら、蓮二は向かってくる相手を見て。
     うわぁ、と嫌そうな表情を作る。
    「やっぱり、コウモリいっぱいはキモい。
     1匹ずつ見ると可愛い顔してんのにな……」
     改めてまじまじと見やるが、その視線を受け止めたのは、ギョロリとした暗い瞳と不気味な紋様。
    「……と思ったけどよく見るとそうでもないな」
     あっさり前言撤回して、嫌な顔に戻ると。
     その隣で同じ相手を見たマリアが、無表情のまま影を操り、淡々と切り裂いていった。
     同じ相手を中心に、レイッツァは鬼ごっこの怪談を語り。
    「蝙蝠っておいしいらしいケド」
    「そうなんすか?」
     合間に呟いた声に、菜々が振り向き首を傾げる。
     どうかなぁ、とレイッツァは苦笑して。
    「本当だとしても、群れてたら嫌だよね。普通の人も、灼滅者からしても」
    「まずは数を減らしていくっす」
     気合いを入れるように宣言してから、菜々は傷の多い個体へ杖と魔力とを叩きつけた。
    「多勢同士楽しくやろうぜー。先ずは、お前からだ」
     蓮二もバベルブレイカーのジェット噴射で、同じ敵に肉薄する。
     叩きつけられた杭打ちに続けて、夕月の帯がもっふもふと射出され、鋭く貫いていった。
     12体もの敵に対し、灼滅者達もサーヴァントが多く揃い、数だけなら引けを取らない。
     だが頭数が揃えばいいわけではない。
     サーヴァントとその主の能力は、同レベルの灼滅者より劣るのだから。
     だからこそ、灼滅者達は狙いを揃え、各個撃破で敵の数を減らそうとしていた。
     まず狙ったのはディフェンダー。
     だが、一番多いポジションはジャマーという、BS付与を狙った布陣の相手。
     その主力をフリーにはさせまいと、同じジャマーの陽桜だけは、罪を灼く光線を中衛へ向けて乱射する。
     そして、相手のBSで灼滅者達が最も警戒したのは、催眠。
     同士討ちを避けようと、紋様の瞳の魔力を受けた国臣はすぐさまキュアをと動くが。
     その回復の動きは気づけばタトゥーバットへと向かってしまう。
    「おっと……」
    「ティン、お願いですよ」
     くすりと笑って夕月が指示を飛ばせば、霊犬の瞳が国臣へと向けられた。
    「つん様もよろしく」
     蓮二の指示に2匹目の霊犬がその瞳を輝かせ。
    「僕もキュアするからねっ。任せて!」
     解も回復へと手を挙げる。
     早速、菜々にタトゥーバットが群がっているのを見て、癒しのオーラを放った。
    「助かるっす」
     ぺこり、と頭を下げた菜々に、解はひらひらと手を振って。
     思い出したかのようにタトゥーバットを眺める。
    「そういえば、コウモリって口から生まれるんだね」
     新発見だなあ、とどこかズレた感嘆の声を上げれば。
    「……なんとかに、刃物。
     頭、おかしいのが……力、持つのは。本当に、厄介」
     話に聞いた黒幕・子爵を思い返し、マリアは、ふぅ、とため息1つ。
     その顔は無表情ながらも、どこか呆れたような雰囲気が感じられます。
    「早く根本を討ってしまわねばな」
     国臣も、ちらりと一瞬だけ、とある方向を見やる。
     視認することはかなわないが、その先には子爵のいる屋敷があるはずで。
     今まさに、他の仲間達がそこへ乗り込んでいるはずだった。
     そちらの行方も気になるものの、だが自分に任された仕事はきちんとこなさねばならないと、目の前の敵を改めて見据え《ASCALON》を構える。
     応えるように鉄征がエンジン音を鳴らし、相棒と共にタトゥーバットへと走り出した。
    「っていうかさ! まず会いに来てもらおうってのが間違ってるよ!
     紳士ならレディがどこにいても迎えに行くものだろうに!」
     解もここにいない黒幕にぷんすか怒ってみせながら、護符をぴらぴらはためかせて。
     その動きに顔を向けたタトゥーバットに、摘木の霊撃が襲い掛かる。
    「キミがもし、子爵君にまた会えたなら、そう伝えておくれよ!
     あの世で伝えてくれたって構わないからね!」
     消えゆく1体を眺め、帽子の下でにやりと笑いながら、解はそう声をかけた。
    (「これで、あと11……」)
     敵の残数を淡々と数え、マリアはすぐに次の相手へと影を操る。
     だがその相手はディフェンダー。
     ダメージを与え辛い盾たるポジションで、早く数を減らすには倒しにくい相手。
     そして敵にも仲間がいて、庇い合い、回復し合って、さらに粘ってくる。
     さらに、当然ながら、その間にタトゥーバット達も攻撃を重ねてくる。
     数がほぼ同等だからこそ、タトゥーバット達も優位を得ようと集中攻撃を狙い。
     それは前衛にいる攻撃陣……鉄征に騎乗した国臣と菜々に向いていた。
    「ばさばさとうるさいっす」
     紋様の瞳を逆に睨み返し、傷を負いながらも菜々は流星の如き蹴りを繰り出して、仲間達と決めた撃破相手への攻撃を続けていく。
     しかし国臣は、催眠のBSを気にして、攻撃ではなく鉄征への回復に手を割き。
     解と霊犬達のディフェンダー陣にも、回復を重視する者が多くいた。
     だからこそ、同志討ちという事態は避けられてきたものの。
     敵の数が早く減らなければ、その危機事体は残り続けてしまうわけで。
    「がんがん殴っていきましょー」
     前衛の攻撃手数が少ないのをカバーするように、後衛から夕月が巨腕を振るい。
     メディックであるマリアも、最初だけはと攻撃へと傾倒する。
     それでもやはり。
    (「数、減らすのに……時間、かかっている」)
     マリアが感じた通り、戦況はじわじわと互いに削り合う、長期戦の様相を見せていた。
     超音波を受けた鉄征が姿を消し、続いてすぐに国臣も倒れて。
     杖に込めた魔力の爆発で1体を屠った菜々も、ふらりとよろめいて膝をつく。
     そこに向かった超音波から菜々を庇って、マリアの霊犬が掻き消えた。
     敵の数が減ると共に、倒れる仲間も増えていく状況。
    「2体倒したから、次はジャマー狙いだよね」
     それでも、レイッツァは前を見据え、努めて明るく声を上げる。
    「頑張るのですよ」
    「まだまだこれからっす」
     夕月の声にティンが応えるように吠え、菜々が気合いで立ち上がった。
     ジャマーの動きを抑えようと1人奮闘していた陽桜の肩に、蓮二が優しく手を添えて。
     頷き合うと、光線と暴風とで相手を纏めて薙ぎ払う。
     敵も味方も傷を与え傷を負い。
     じわりじわりと互いに数を減らしていく。
     解も倒れ、前衛がいなくなると、タトゥーバット達の目標は回復役へと向いたようで。
     その不気味な紋様に囲まれながらも、マリアは表情1つ変えずに淡々と回復の光を紡ぐ。
     自分が耐えれば、その分仲間達が敵を倒しやすくなると。
     自分が倒れても、その思いは仲間達が継いでくれると。
     恐らく他の仲間もそうだったのではないかと、ふと、思いながら。
    (「……良き朝を」)
     顔にも言葉にも出さぬまま、マリアはそれを信じ抜いて、倒れ伏した。 

    ●いつもの朝を
     続いて摘木の姿が掻き消えるのを見たレイッツァは、残る敵に苦い視線を向けた。
     残っているタトゥーバットは4体。
     大分傷を与えたディフェンダーとジャマー。そして無傷の2体はスナイパー。
    「撤退、とか考えた方がいいのかなぁ?」 
     レイッツァの言葉に、夕月は迷うように崑崙九尾を揺らし、蓮二が考え込む。
     サーヴァントは全て姿を消し、意識の有無の差はあれども4人が倒れていて。
     1人が1人を支えて逃げるならば、決断すべき状況となっていた。
     自身を、仲間の安全を思うからこその逡巡。
     だがしかし。
    「もう少し、頑張りたいの」
     そこに、小さいながらもはっきりと陽桜が声を上げた。
     藍色の瞳が真っ直ぐにタトゥーバットを……その向こうに広がる家々を見据える。
     明かりも誰の姿もなく、静かに眠る住宅街。
     陽桜には、その光景に重なって2年以上も前の記憶が見えていた。
     同じように人々が暮らす平穏だった街。
     でもその夜、その街には悲鳴が。怒号が。狂った笑い声が。
     慟哭。そして、血の臭いが。
     穏やかな時を踏みにじるように広がっていた。
     いつもの朝を迎えられなかった、阿佐ヶ谷という地の住宅街。
     助けたくても助けられなかった人達。
     どんなに泣いても戻ってこなかった日常。
    「あんなのは、もう嫌。だから」
     涙を潤ませて、でも決して泣かずに、陽桜は決意を告げる。
     まだ諦めたくないと。
     今度こそ守りたいと。
     強く強く、願う。
    「……そうだね」
     同じ光景を知る蓮二は、くすりと笑って断斬鋏を掲げて。
    「もうひと頑張り、ですね。蓮二先輩」
     夕月も陽桜に笑顔を見せながら、斬艦刀を振り上げた。
     そして2人は視線を交わし、頷き合って。
     同時に地を蹴り、手負いのタトゥーバットへ連撃を繰り出す。
     消えゆく1体を横目に、レイッツァは次の1体を指差して、鋭い裁きの光条を放った。
     応えてくれた仲間に遅れないように、陽桜もさくら・くるすを構える。
     石の十字架を抱くように覆う桜の枝花を、さらに抱くように。
     胸の中に灯してもらった温かな光を感じながら、光の砲弾を放つ。
     しかし、思いだけで戦況が好転するわけではない。
     攻撃しただけ攻撃が返ってきて、回復しただけ敵も回復をして。
     互いに削り合うような苦しい戦いが続いていく。
     そして、2体のタトゥーバットと共に、蓮二が、レイッツァが倒れ。
     強い一撃を受けふらつきながらも、夕月の影が最後の1体を喰らい尽くすように覆って。
    「陽桜ちゃん!」
    「いっけぇぇ!」
     夕月の合図と、倒れたまま叫ぶレイッツァの声に背を押されるように。
     陽桜ははなうたを振りかぶり、叩きつけた。

    ●朝が来る
     そして。
     全てのタトゥーバットが消え、外灯だけが灯る静かな夜が住宅街に戻った。
    「あー。よかった」
     声に陽桜が振り向くと、力が抜けた夕月がぺたんと道に座り込んでいて。
     仰向けに倒れたまま顔だけは上げていたレイッツァも、頭を地に戻した。
     どうにか身体を起こせた蓮二と菜々はまだしも、国臣と解、そしてマリアは倒れて気を失ったまま。
     本当にギリギリの、何とか掴めた勝利。
     はぁ、と長く息を吐いて、陽桜もすとんと腰を落とした。
    「人知れず平穏を守るなんて、おいらたち、ダークヒーローみたいで格好いいっすね」
    「うわー。ヒーローなら最後は決めポーズじゃないかなぁ。でもちょっと無理ー」
     菜々の言葉に応えながらも、レイッツァは起き上がれないようで。
    「あはは。格好悪いね」
     それを見て笑った蓮二も、立ち上がる素振りはない。
     それでも、灼滅者達の表情は晴れやかで。
     陽桜もほっとしたように笑顔を浮かべて、空を見上げた。
     まだそこは暗く、深い夜に覆われていて。
     朝日はまだまだ見えないけれど。
    (「あたしは……あたし達は、守れたんだ。今度こそ」)
     きっともうすぐ、いつもの朝が来るから。
     

    作者:佐和 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年11月6日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 2/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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