子爵襲来~そして朱雀門・瑠架は

    作者:陵かなめ

     タトゥーバットの大群が三重県津市の中心部にある洋館から飛び立っていった。
     空を覆う黒い影が消え、羽ばたく音も消え、そしてここに2体のダークネスが姿を現した。
    「これ以上、彼の暴挙を許せば、私達の計画に支障が出ます。
     かといって、彼が武蔵坂に灼滅されてしまえば、爵位級ヴァンパイアが総力を挙げて武蔵坂に戦争を仕掛けるでしょう」
     一人は赤い髪の少女の姿をしたヴァンパイア。名前を朱雀門・瑠架と言う。どんなに危険でも、絶対に止めなければならない。そう説明し、瑠架は子爵邸に入ろうとした。
     その瑠架に、もう1体のダークネス――短髪黒髪の男が声をかける。彼の名はラゴウ。大淫魔スキュラの腹心『八犬士』だった羅刹だ。
    「子爵だけではない。君が灼滅されても、全面戦争は避けられない。『奴』の思惑は、今の時点で、ヴァンパイアと武蔵坂の全面戦争を引き起こすことなのだろう」
     ラゴウは、瑠架に対して、自分の身の安全を最優先にするよう忠告したのだ。2体のダークネスの傍らには、2匹の狼が控えていた。

    ●依頼
    「タトゥーバット事件について、たくさんの灼滅者が調査してくれていたんだけど、三重県の津市で動きがあったようなんだ」
     千歳緑・太郎(中学生エクスブレイン・dn0146)が事件のあらましを説明した。
     三重県津市の洋館の一つが、タトゥーバットの主人であるヴァンパイアの拠点となり、そこから、津市全域にタトゥーバットが放たれると言うのだ。
     タトゥーバットは市内の人間を全て殺し尽くそうとするらしい。
    「だけどね、事件はこれだけでは無いんだよ。この事件の黒幕と思われるヴァンパイアの元に、朱雀門高校の副会長である朱雀門・瑠架と、八犬士の一人であるラゴウが現れるようなんだ」
     瑠架とラゴウ、太郎の言葉を聞き、知った名前に表情を険しくする灼滅者もいる。
     彼女達は、足柄山から逃亡に成功して合流したと思われる狼の眷属2体を連れており、黒幕の元へと向かっているようだ。
     彼女達が黒幕と合流してしまえば、黒幕を撃破できる可能性は無くなってしまう。
     そこで、洋館の入り口に到着した彼らを襲撃し、足止めをする必要があると太郎は言う。
    「彼女達は表玄関から洋館に入ろうとするから、ここで足止めして、裏口から潜入するチームが黒幕を撃破するまで時間を稼ぐことが目的となるよ」
     黒幕が撃破されれば彼女達は撤退するので、無理に灼滅を狙う必要はない。
     勿論、可能そうならば灼滅を目指しても良いが、そのあたりは現場の判断に任せる形となる。
    「瑠架とラゴウの2人に対しては、2チームで対応することになるよ。このチームは、瑠架の担当になるんだ。けれど、もし相手を一緒に行動させる場合は、こちらも連携が重要になってくるよ」

     次に、太郎は敵の戦闘能力について説明をした。
    「瑠架はヴァンパイアなので、ダンピール相当のサイキックを使用するよ。それから、『手をかざした先を爆破する、特殊なサイキック攻撃』も行うようなんだ」
     また、ラゴウは神薙使いとロケットハンマーのサイキックで戦う。
     2人が連れている狼の眷属はヒスイとグレン。ヒスイが契約の指輪のようなサイキック、グレンが無敵斬艦刀のようなサイキックを使う。
    「灼滅者の襲撃があった場合、ラゴウは灼滅者を防ぎつつ、瑠架を黒幕の元へ向かわせようとするみたいだね。瑠架も、ラゴウに後を託して館の中に向かおうとするから、それを阻止するか、或いは、黒幕の元に向かった瑠架を追いかけて接触を阻止しなければならないよ」
     ラゴウは眷属2体を瑠架の護衛にしたいと考えているが、瑠架は単身で突破しようとする。眷属の動きがどうなるかは、状況次第となるだろう。

    「朱雀門・瑠架の灼滅を狙うか、足止めに徹するかは、現場の判断に任せるよ。それから、黒幕との合流を許してしまった場合の対応も考える必要があるかもしれないね」
     太郎はそう締めくくり説明を終えた。


    参加者
    加藤・蝶胡蘭(ラヴファイター・d00151)
    花園・桃香(はなびらひとひらり・d03239)
    アリス・クインハート(灼滅者の国のアリス・d03765)
    文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712)
    カリル・サイプレス(京都貴船のご当地少年・d17918)
    三田村・太陽(断罪の獣・d19880)
    レオン・ヴァーミリオン(鉛の亡霊・d24267)
    白石・明日香(リア充宣伝担当幹部・d31470)

    ■リプレイ


     多数のタトゥーバットが屋敷から飛び立ち、そして屋敷の前に2体のダークネスが姿を現した。
     短く言葉を交わす間に、ラゴウが武器を振り上げる。
     動けばすぐにでも攻撃が飛んできそうだった。
     これではとても屋敷に走れない。先行しようとしていた灼滅者達は、立ち止まり相手の様子を窺った。
    「そうか――走れ」
     ラゴウのハンマーが地面を砕く音を聞き、ここだと思った。文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712)が弾ける様に走り出す。
    「お願いします」
     瑠架班である自分達へ向けられた瑠威の言葉に頷きを返し、カリル・サイプレス(京都貴船のご当地少年・d17918)、レオン・ヴァーミリオン(鉛の亡霊・d24267)に白石・明日香(リア充宣伝担当幹部・d31470)も後に続く。
     すでに瑠架は走り出している。
     少しでも早く屋敷に入り、彼女の足を止めなければならない。
     今は背後の仲間を信じ、4人は振り向かず屋敷へ走った。
    「ヒスイ! グレン!」
     更にラゴウの声が響く。
     2体の眷属が瑠架を追うように左右に別れ駆け出した。
    「よし、私達はグレンを」
     短く言い、加藤・蝶胡蘭(ラヴファイター・d00151)がグレンに向かう。
     ここで、グレンもラゴウと引き離したほうが良いだろう。
     ラゴウ班がヒスイを足止めするのを見て、アリス・クインハート(灼滅者の国のアリス・d03765)と花園・桃香(はなびらひとひらり・d03239)が頷き合う。
     すぐ横でガトリングの音が響いた。湯里がこちらへ向かうラゴウを足止めしてくれたのだ。
    「へへっ、ありがたいぜ。こっちも、そらっ」
     その隙に、三田村・太陽(断罪の獣・d19880)がグレンに向かってチェーンソー剣を振り上げた。
     派手な音を立て刃が駆動を始める。
     それを、わざと地面に叩き付けた。耳障りな機械音が響き、刃は地面を削る。
     グレンは太陽の剣を避けるように一つ飛び跳ね、屋敷に向かった。
    「私達は瑠架を追う、後は頼んだぞ!」
     短く声をかけ、蝶胡蘭はグレンを追うように走り出す。
    「任されたぜ」
     背後から脇差の声が聞こえた。
     強敵ラゴウとヒスイを引き受けてくれる仲間達へ信頼を寄せ、灼滅者達は瑠架を追った。


     既に瑠架は屋敷へ向かった。グレンもその後を追った。
     一同は瑠架とグレンを追い、屋敷へと急ぐ。
     すぐに瑠架とグレンの背中が見えた。
    「私達は津市にタトゥーバットが放たれるのを止めに来た」
     蝶胡蘭の声は周囲の音に邪魔されず瑠架に届く。
     瑠架がやっと足を止めた。
    「私達は津市にタトゥーバットが放たれるのを阻止しに来ました」
     重ねて同じ言葉を。
     緊張した面持ちで桃香も声をかける。瑠架と学園の灼滅者達は初対面だ。だが、互いがどういう者なのか、双方に説明の必要は無いだろう。
     灼滅者達は瑠架を取り囲むように展開し、慎重に武器を構えた。
     瑠架は自分を追って来たグレンを見て、それから灼滅者達に目を向けた。
    「既にタトゥーバットは放たれました。私達ができるのは、子爵にお願いしてタトゥーバットを引き返させ、これ以上の事件をおこさせない事だけです」
     それは冷静な返答だった。
    「そ……」
     静かな口調で語られた言葉に、一同は言葉を詰まらせる。
     タトゥーバットの大群は既にこの屋敷から飛び立っていった。その後、瑠架とラゴウが屋敷にやってきたのだ。
     既に放たれたものを、放たれる前に戻す事などできない。
     屋敷の入り口から僅かに風が吹き入る。
     瑠架のマントが微かに揺れた。
     だが、彼女の表情は揺れない。
    「私は子爵のもとへ行き、残虐な行為を止める事を目的としてここへ来ました」
     音も無く静かに瑠架が動く。その周辺に、霧が展開された。
    「僕達は瑠架さんを灼滅しないのですよ。グレンさんも、引いてはくれませんか?」
     霊犬のヴァレンを従えたカリルは、何とか引いてくれないだろうかと願った。瑠架は、悪い人っぽくないのだと感じている。彼女の考える事、感じる事に、自分達と同じものがあれば嬉しいのだと思う。
    「ぐるるる、ぅ」
     だが、武器を手にした灼滅者を見て、グレンがけん制するように低い唸り声を上げた。
    「瑠架さん……できる事なら……こんな形じゃなく……お友達として、お会いしたかったです……」
     アリスは言い、クロスグレイブの全砲門を瑠架に向ける。
    「私の目的は、子爵が行っている虐殺を止める事。お前達の目的も同じならば、今の状況は、友となるに最善の情況ではないでしょうか?」
     武器を向けられても瑠架は動じる事無く、真っ直ぐな視線でそう問いかけてきた。
    「……」
     双方『津の惨劇を止めることが目的』であるならば、今は友として手を取り合えるのではと瑠架は言ったのだ。
     だが彼女の問いかけに、灼滅者達は何も言う事ができなかった。
     子爵の残虐な行いを止めに来た瑠架は何も悪い事はしていない。
     むしろ子爵を灼滅するのに邪魔だから瑠架を足止めしている灼滅者の行動は、『津の惨劇を止めることが目的』と言う言い分に反している。
     返答無き事が返答だと感じたのだろうか。
     瑠架が走り出す。
     互いの言い分が上手く噛み合わないまま、戦いが始まった。


     この蝙蝠事件の元凶はぶっ倒す事にしたんでね、と、明日香は思う。
    (「悪いけど、あんたと子爵を合わせるわけにはいかない。とっととお帰り願うぜ!」)
     上段に構えた刀を一気に振り下ろし瑠架を斬りつけた。
     しっかりと肉を抉った手応えを感じる。
     相手はダークネス、強大な敵に変わりは無い。しかし、ラゴウほどの力は無いと見える。
    「この場は引いて下さい。こちらも必要以上にあなたを傷つけたくありません」
     霊犬のまっちゃと共に仲間を回復させながら、桃香は瑠架に声をかけた。仲間や一般人への被害は、絶対に出したくない。胸元の懐中時計に知らず手を這わせる。
    「瑠架さんにも、思うところはおありでしょうけど……どうか、この場は引いて下さい……私達も、できる限り、瑠架さんを傷つけたくはありません……」
     霧で体力を回復させる瑠架を見て、アリスもまた声をかけた。
     名家のお嬢様で、護ってくれたメイドもいて、自分と似た様な境遇の瑠架に、少しばかりの親近感もある。
     桃香とアリスの真剣な表情に、瑠架も正面から答えた。
    「私の言葉ならば、子爵を動かせます。爵位級である彼をあなた方が力でどうにかする事はできません」
    「それは……」
    「仮に、できたとしても、それは、より強力な爵位級のヴァンパイアを呼び込むことになるでしょう。その時の被害は、今回の比ではありません」
     2人はそれ以上言葉を返す事ができなかった。
     人々を守るという理屈で、瑠架の行動を否定する事はできないのだと悟る。
    「これまで朱雀門による大量虐殺が起きてないのは、君の存在が大きかったんだよな。こんな事言うの変だけど。ありがとな」
     戦いの最中、直哉の言葉は穏やかなものだった。
    「それは、私の存在ゆえではありません。全ては会長の意思です」
     走りながら瑠架が言う。
     灼滅者達が全力で攻撃すれば、彼女を灼滅させる事ができるだろう。だが、灼滅者達はそうしなかった。
     直哉は更に言葉を重ねた。
    「嘗て紫堂恭也は、君と生徒会長は信頼できると断言していた」
     仲間の攻撃が瑠架に飛ぶ。グレンが身を挺し、瑠架を庇った。
    「人とダークネスと灼滅者の未来。もしかしたら、分かり合える部分もあるのかもしれない。君や会長が目指すモノが何なのか、教えてはくれないか?」
     それは、今この戦いで意味のない情報かもしれない。それでも、聞かずには居れないのだ。
    「私達は、人とダークネスと灼滅者の均衡による平和を目指していました。朱雀門高校は、そのための調整機関を目指しているのです」
     グレンの傷を癒しながら、瑠架は答えてくれた。
    「しかし、これ以上、灼滅者がダークネスを狩り続けるのならば、均衡は灼滅者側に傾き崩壊してしまう……少なくとも、会長はそう考えました」
    「あ……」
     かつては、ダークネスと灼滅者のバランスは、ダークネス側に一方的に傾いていた。だから、灼滅者がダークネスを狩るのは、均衡を作り出すのに必要なことだった。
     だが現在はどうだろう。武蔵坂学園は、有力なダークネス組織でも無視できない力を有しているのは間違いない。
     直哉は瑠架の言葉を十分吟味し、考える。
    (「人とダークネスと灼滅者の勢力を均衡させて冷戦時のような平和を目論むならば、灼滅者の力をこそ削がなければならないのか?」)
     いや。人を守る灼滅者の理想とは、今いるダークネスを全て灼滅し、新たに発生するダークネスは事件が起こる前に説得して灼滅者にするか、それがだめなら灼滅し、ダークネスの被害を0にする事だ。
    「……それって、人と灼滅者とダークネスの共存といえるのか?」
     自分の口からこぼれた呟きに、直哉ははっと表情を変えた。
    「お、おぉーん」
     一瞬の隙に、グレンが灼滅者の中心へ踏み込んでくる。アリスや直哉を狙い、鋭い爪で薙ぎ払いをかけてきた。
    「佐助、そっちを頼むぜ」
     太陽がビハインドの小柳・佐助に仲間を守れと指示を送る。
    「あんたはあんたの思いがあるんだろうけど、それでも帰ってもらっちゃくれないか」
     太陽の言葉に、瑠架が小さく首を横に振った。
     この件に関して、もはや語る言葉は無いのだろう。
    「どうしても、ここを通ろうって言うんだな」
     口元に笑みを浮かべ、レオンがスターゲイザーを放った。その場を逃れようとしていた瑠架の身体が傾ぐ。
     瑠架には瑠架の信念があり、それを通そうとしている事は十分に分かる。その姿には好感を持った。だからこそ、レオンは真っ向から戦い、相手に応えようとするのだ。


     守る事を主眼に置いた戦いは長く続いた。
    「あなたの様に穏やかな方が何の為戦うのでしょうか? 僕達とあなたの目的に共通があるなら手を取れるのでは?」
     カリルはクロスグレイブでグレンを突き飛ばしながら瑠架に問いかける。
    「ダークネス灼滅だけが僕達の正義ではないです。あなたが助けを求めてるなら、お聞かせ下さいなのですよ」
    「をぉーん」
     グレンが大きく吼えた。傷ついた肉体を癒しているのだ。その身体は既にボロボロで、自由に動く事もままならない。あと一息で消えてしまうだろう。だがグレンは再び走る。
     今だ瑠架はこの戦場に留まっており、グレンを灼滅するか否か、仲間達も判断が分かれていた。
     そのため、決定的な一撃を与えない。
     瑠架はカリルの言葉に少しだけ首を捻った。
    「私に戦う意思はありません。この戦いは、私が、あなた達に一方的に攻撃されているものでしょう?」
     その言葉に、カリルははっとする。
     瑠架は、悪い人っぽくない、と感じていたはずだ。
     実際、瑠架は戦いに来たわけではない。彼女は、あくまで子爵の蛮行を止めるためにこの屋敷に来たのだと言っていたではないか。
     戦うつもりの無い瑠架に、足止め目的とは言え、戦闘を仕掛けたのは自分達灼滅者だ。
    「私は、これ以上の被害の拡大を防ぐため、子爵を止めに来たのです。灼滅だけが正義では無いと言うのならば、私を阻止する理由はどこにあるのですか」
    「う……」
     それは言えなかった。
     子爵を灼滅させるため、彼女を足止めしているのだと。
     カリルにはとても言葉には出来なかった。
     代わりに、明日香が刀を構え飛び出す。
    「だが、あんたと子爵を合わせるわけにはいかない」
     黒死斬を放ち、瑠架の行動を鈍らせた。
    「ぅ――」
     小さな呻き声を上げ、瑠架がよろめく。
    「すまないが貴方をこれ以上進ませるわけにはいかないんだ」
     だが、灼滅はしない。
     慎重に攻撃手段を選び、蝶胡蘭も追い討ちをかける。
     さらに、レオンがバベルブレイカーを振り上げた。
    「力弱き婦女子を取り囲んで乱暴狼藉とは感心できないな」
     その時、底冷えするような低い、そして強さを感じる声が響いた。
    「あ、ラ、ラゴウ……」
     桃香が呆然と呟く。
     屋敷の入り口から悠然と現れたその者を見て、灼滅者達は凍りついた。
    「そ、そんな」
     震える声で、誰かが呟く。
     ラゴウはゆっくりと瑠架の側まで歩くと、彼女を背に庇うように引き寄せ灼滅者達を見下ろした。
     彼がここに立っていると言う事は、足止めしていた灼滅者はどうなってしまった?
    「だが、約束だからな。お前達の命はとらない、そして、お前達を倒した後は、子爵の凶行を止めてみせよう。他に灼滅者が、この屋敷にいるのならば、子爵を止めると同時に、その者たちの救出も行おう」
     堂々とラゴウは言い放つ。
    「これでもまだ、お前達の戦う理由があるのならば、かかってくるがいい」
     大きなハンマーを担ぐその姿には、力が漲っている。同じ場に立つだけで、神経が磨耗して行くのが分かった。
    「……」
     その気迫に圧倒され、灼滅者達は言葉を失った。
     ラゴウが仲間を倒しこの戦いに加わる事など、想定していなかった。当然、その準備も無い。あくまでこの布陣は、瑠架と眷属一匹を足止めする事だけを考えたものなのだから。
    「では、子爵のもとへ向かいましょう」
     瑠架はラゴウにそう語り、歩き出す。
    「待て。あの子爵が愛してるのはイカれた脳内妄想の中の朱雀門・瑠架だ。現実のアンタの言葉は届かないよ、アレには」
     それでもレオンは2体のダークネスを呼び止めた。
     このままでは瑠架はここを通り過ぎ子爵のもとへと向かってしまう。
     それならば、堕ちてでも止めるしかない。
    「覚悟を決める」
     同じように考えた明日香も、首から提げている逆十字のペンダントを弄びながら呟いた。
    「子爵の行動も正直気味が悪……瑠架会いたさに人々を手にかけるなんて、許されることではありませんしね」
     桃香もそれに続こうとする。
     しかし誰も、堕ちなかった。
    「あ、堕ちれ……ない?」
     明日香が呆然と立ち尽くす。
     もしここを突破されるのなら、堕ちてでも阻止するつもりだった。
     だが、仲間を倒し現れたラゴウは『お前達の命はとらない』と宣言した。強大な力を持つダークネスが、灼滅者達の命の保障をしたのだ。
     だから危険は無い。
     これでは堕ちる事はできない。
    「瑠架さん……子爵さんの凶行をお止めしようとされるのはわかります……でも、子爵さんも……瑠架さんに何をなさるか、わからないです……」
     それでも、アリスは必死に訴えた。
     瑠架が、頷く。
    「では、子爵が本当に凶行を止めるかどうか、一緒に来て確認してはいかがでしょうか」
    「これ以上戦うつもりが無いのならば、見届けにくるといい」
     ラゴウも頷いた。見届けるための同行を条件に、戦闘をやめろという提案だ。
     灼滅者達は、互いに視線を交わす。
    「行こう。私達で見届けよう」
     意を決したように、蝶胡蘭が皆に言った。
     瑠架とラゴウは歩き出す。
     灼滅者達は武器を引いた。
     この戦いがどうなるのか、行く末を見届けるため、2体のダークネスの後を追うために。

    作者:陵かなめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年11月6日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 16/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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