子爵襲来~Viscount Encounter

    作者:西灰三

    ●子爵来たりて
     三つの死が生じた、館の住人だった。子爵がこの館に入ると同時に、ホコリを払うかのように腕を動かしただけだ。それだけで只の肉と骨の山になった。子爵はそんなものにも目もくれず、私物のゴミを運び入れる包帯まみれのメイドにも気を払わずに、肘から先のない腕を広げて愛を語り謳う。
    「る……瑠架ちゃん僕の瑠架ちゃん。君のために、僕はここまで来たよ。さぁ、瑠架ちゃんの為に、この街の人間を全て、血祭りにあげるんだ。そうすれば、瑠架ちゃんは、僕に会いに来てくれる。あぁ、瑠架ちゃん……。しばらく見ないうちに、きっと成長しているよね。あぁ、その成長を今すぐ目に焼き付けたい、撫でて触って確かめたい、あぁ、瑠架ちゃん」
     恍惚の表情を浮かべながら語る子爵の表情は、まるで恋する少女のようだ。無論それは表情だけで、その姿形にはまるで似つかわしくない。子爵はさらにその乖離が大きくなるような事を行う。口から大量の粘液を吐き出して蝙蝠の形と変える。蝙蝠達は館の窓や扉から一斉に飛び立っていく。
    「さぁ、僕のタトゥーバットよ、この街の人間を全て殺しつくせ! 邪魔する奴がいるなら、誰でも構わない、すぐに殺してしまうんだ」
     大量の蝙蝠達を見送ると、子爵は何かに気付いたように顔を上げ喜色を含んだ声を上げる。
    「瑠架ちゃんだ、瑠架ちゃんの匂いがする! やっぱり来てくれたんだねぇ、早く僕のところにきて!」
     館の中で子爵はラブコールを上げる。それを聞いているのは粛々と仕事をするメイドだけであった。

    ●血と蝙蝠の館へ
    「時が、来たようだな」
     神崎・ヤマト(高校生エクスブレイン・dn0002)が灼滅者達が集まったのを見計らって呟いた。彼は一瞬瞑目すると語り始める。
    「タトゥーバット事件について多くの灼滅者が調査してくれていたのだが、三重県の津市で動きがあった。三重県津市の洋館の一つがタトゥーバットの主人であるヴァンパイアの拠点となり、そこから津市全域にタトゥーバットが放たれるのが分かった」
     ヤマトの視線はいつになく厳しい眼差しだ。それは灼滅者に向けられたものではなく、これから目の前の者達に伝えられる事のせいだ。
    「津市の市民を守るために、皆には津市に向かってもらっているが、お前達には、ヴァンパイアの黒幕がいる洋館に突入して黒幕の撃破を行なって欲しい」
     それが簡単な物ではないと彼の語調が示している。
    「敵となるヴァンパイアは、自らを弱体化するために両手両足を切り落としている。この状態ならば決して勝てない相手ではない」
     つまり自らを弱体化させねば行動できない程に強力なダークネスである、という事だ。
    「だが、それに加えて全身を包帯で覆った小柄な女性ぐらいの身長のヴァンパイアの従者を連れているようだ。主に命令されればこの従者もまた戦闘に参加してくる。無論そうなれば更に状況は悪化するだろう」
     強力なダークネスに加えてもう一体。こちらも手立てを考える必要があるかもしれない。
    「更にもう一つ伝えなければならないことがある。同じ屋敷の中で他のチームの状況によって戦場に変化が起きる可能性がある。屋敷内にいるタトゥーバットや朱雀門の幹部達が現れるかもしれない。その時どうするかも考慮に入れておくと良いかも知れない」
     強力な敵と未知数の戦場、どうしようも無いほどに危険な戦いと言える。

    「敵の、主の方のヴァンパイアは先程も言ったが両手両足を切り落として弱体化している。これを館から、津市から撃退してくれ」
     灼滅とは言わない。もちろん多くの意味で危険な相手では有るので灼滅できれば最良の結果と言えるだろう。
    「主の方はギルティクロスとヴァンパイアミストを使用してくる。二つしか無いが高い能力から繰り出される攻撃だ、なお手足はないが飛び跳ねて移動するので戦闘に支障はないようだ。包帯の従者はヴァンパイアと影業のサイキックを使ってくる」
     そして、とヤマトは言葉を続ける。
    「主のヴァンパイアは当走路を断たれ、かつ追いつめられると手足を再生し弱体化を解除する。こうなると更に強化されるため勝つのは難しくなる、だがサイキックアブソーバーの影響で相手も撤退せざるを得なくなる。こういう選択肢もある、と覚えておいてくれ」

     ヤマトは改めて灼滅者に目を向ける。
    「相手はこのタトゥーバット事件の黒幕で、そして恐らくは爵位級ヴァンパイアだ。何が起きるか、どのような結果になるか、生存経路は見いだせなかった。……お前達がこの難局を乗り越えられる事を祈っている」


    参加者
    赤槻・布都乃(悪態憑き・d01959)
    戒道・蔵乃祐(グリーディロアー・d06549)
    虹真・美夜(紅蝕・d10062)
    琴鳴・縁(雪弦フィラメント・d10393)
    赤城・碧(強さを求むその根源は・d23118)
    空月・陽太(魔弾の悪魔の弟子・d25198)
    四方祇・暁(天狼・d31739)
    リュカ・メルツァー(光の境界・d32148)

    ■リプレイ


     古めかしい木の扉を力強く開いた。前方には闇、後方には多くの蝙蝠の群れとそれを食い止める仲間達。
    「此処は僕達に任せて先に行ってください!」
    「扉の向こうにヴァンプ野郎がいるんすよね。出来れば、この手で首を狩ってやりたいっすけど、それは今回譲るっす。……さあ、最初の餌食はどいつだ!」
     タトゥーバット達を引き付ける彼らとの間の扉が閉まると同時に、戦いの音が鈍く響く。互いに今やるべきことは言葉を交わす事ではなく武器で事を為す事だ。彼らは子爵のいる部屋を目指し、駆ける――。


     後ろから、下から。戦いの音が聞こえてくる。そのどれもが仲間達が血路を自分達のために開いている証拠だ。心の臓にまで達するその振動を感じながら、灼滅者達は遂に大きな扉の前へと辿り着く。年季の入っていたであろう扉を見て空月・陽太(魔弾の悪魔の弟子・d25198)が短く呟いた。
    「ここ、か」
     灼滅者達は扉越しにさえ分かる重圧を感じ取り、一際大きく息を吸う。僅かに心を落ち着けて、戒道・蔵乃祐(グリーディロアー・d06549)が扉をノックした。
    「お客様ですか。……少々お待ち下さい」
     果たしてこの声は話にあった侍従なのだろうかと、赤城・碧(強さを求むその根源は・d23118)がちらりと視線で仲間達に問えば四方祇・暁(天狼・d31739)が小さく頷く。
    「お客様。我が主の許可が降りました、どうぞ」
     がちゃり。やけに大きな金属音が鳴ると同時に扉が開かれる。部屋の中を覗いた灼滅者達の視線が注がれたのは丸い肉塊に頭がついたような何かだった。何も知らなければユーモラスかあるいはグロテクスなキャラクターとしか見えないそれは、灼滅者達にとってみればそんな存在ではないことが分かる。リュカ・メルツァー(光の境界・d32148)はその存在を真っ直ぐに見据える。
    「お目通り叶い光栄です。子爵」
     灼滅者達は従者に促されるように歩き出し、傅いた。礼儀を持った文句を言うのは赤槻・布都乃(悪態憑き・d01959)。
    「ふむぅーん? 君達灼滅者? 僕は瑠架ちゃんを待つのに忙しいんだけど。まあ僕は広く大きな心だから会ってあげたんだけどさ」
     琴鳴・縁(雪弦フィラメント・d10393)が子爵の口ぶりに眉を潜めなかったのは僥倖と言っていい。それほどに彼女は目の前の存在に嫌悪を抱いている。
    「その彼女は血の簒奪者にして闇の蒐集者、朱雀門・継人の末裔にして姉の筈ですが、子爵。貴方が黒の王・継人なのですか?」
     蔵乃祐がそう問えば子爵はどこか満足気に鼻を鳴らす、が肯定の返事は返ってこない。恐らくは高めに見積もられていると本人は感じているのだろう。意図はしないながらも気を良くした表情の子爵に布都乃が子爵に顔を向けて口を開いた。
    「この度の子爵に会う好機、実力感じたく参じた。命掛けで躍る覚悟。お力見せて頂きたい」
    「まるで汗臭いアンブレイカブルみたいな事言うね君達。まあいいや」
     大きな肉団子のような身体を車椅子から跳び立たせて灼滅者の前に落ちてきた。
    「少し遊んであげる。簡単に死なないでよ?」
     虹真・美夜(紅蝕・d10062)は目の前の愚かそうな相手は自分の求めているものに繋がりそうはない、と内心舌打ちした。


     子爵は腕で指示して侍従を引かせる。これは先程「子爵の実力を」と伝えた結果だろう。無論彼らが敵である子爵に対して礼を失する行動をしなかったのも大きい。だからこそ子爵も灼滅者の願いに答えたのだ。
    「まずは君達の実力見てあげるから、とりあえず撃ってきてみてよ」
     恐ろしい程の上から目線だ。だが灼滅者達には分かってしまう、だがこれは同時に灼滅者たちにとっては好機でもある。
    「ではお言葉に甘えさせてもらうでござる。……参る!」
     暁が闇に隠れ、そして即座に殲撃迅牙十文字で子爵の背後から斬りつける。
    「あ、結構速いね」
     確かに彼の攻撃の切っ先は子爵の身体に刺さっている、だがまるでその丸い肉体は鋼のような強靭さを以ってそれ以上の進入を拒んでいる。
    「硬い、な」
     陽太の銃口から放たれた弾丸は床を穿つだけに留まる。
    「硬いだけじゃ瑠架ちゃんを守れないからね、速くないと瑠架ちゃんの元へ行けないから」
     数瞬前まで照準の中にいた子爵はいつの間にか灼滅者達の背後にいる。
    「……! 清助!」
     縁が相棒の霊犬に指示を出すが、彼が子爵に突撃すると肉の弾力に弾かれてしまう。
    「本命はこっち!」
     清助が弾かれるのとは反対側から美夜が不意を打って子爵に爪を突き立てる。こちらは暁の一撃よりもやや深いが、それでも相手はあまり痛痒に感じていないようだ。
    「……これが爵位級か……!」
     リュカがイオと共に気弾と魔法を放つが大したダメージにはなっていない。演技という側面を抜きにしても子爵という存在が脅威の相手であることは間違いないようだ。
    「負傷していてこの威圧感か……!」
     イオが赤き逆十字に裂かれて消失する姿を見て暁がそう声を漏らす。その半分は相手を油断させるための演技、もう半分は本気。子爵の放つ攻撃の一つ一つが必殺の威力を持っている。たとえ防御に徹していたとしても、少し当たりどころが良ければそれだけで戦闘不能にまで追い込まれかねない。そう簡単にならないのは子爵が灼滅者達を必要以上に軽く見ているせいだ。
    「さすがに一撃が重いな……!」
     かろうじて子爵の攻撃に耐えた清助を祭霊光でリュカが癒やしながらそう口にする。
    「退路はちゃんとありますね、無いと困ります」
     その清助の主である縁は、同じく回復をしたあと背後の扉を意識する。それもまた演技。子爵は自らに届く攻撃を軽くいなしながらも満足気に灼滅者達の様子を眺めている。
    「流石子爵と呼ばれるだけある。前に出られると一溜りも無いな」
     そう碧が言った途端にビハインドの月代も子爵に一撃で撃破される。
    「っ……! 強い……! 一体どうすればいいんだ……!」
     碧は芝居じみた台詞を口にするが実際に強敵だ。今倒された月代と同じように布都乃のサヤも戦いの中で既に消滅している。彼らサーヴァントの防御能力は定められているが故に殆どの攻撃が致命打となる。ただ子爵は彼らの苦闘する様を長く見たいのか回復と交互に攻撃をするだけだ。それ故に長期戦になり耐えられている。陽太はじっとその時が来るのを待っている。
    「……紋様に長ける」
     ぼそりと布都乃が零す。
    「……もしやアラベスク子爵か。違うなら悪い。冥土の土産に名を伺いてえ」
     そんな緊張した戦況の中での問いかけ。油断している子爵は鷹揚にそれ対して返事をする。
    「僕はアラベスクでも無いよ。そこまで聞きたいのなら聞かせてあげよう!」
     こほんとわざとらしい咳払いをする子爵。常日頃から持ち上げられる機会も無いのだろう嬉しそうにマントを翻して自らの名を高らかに宣言する。
    「我が名は黒翼卿メイヨール! 覚えておくがいいぞ!」
     灼滅者達に取っては初めて聞く名前である、だがその事実が組織の中での扱いを物語っているとも言える。
    (「こんな性格なら簡単に扱えるはずですね……」)
     蔵乃祐がそんな子爵改めメイヨールの様子を見て内心で呟く。そう評価された子爵の意識は少しばかり疎かになっている、そして目に見える傷も増えてきた、ここが好機。
    「……今だ!」
     陽太は銃撃と共に叫び空中の子爵を射落とす。この機を待っていたと言わんばかりに子爵に対し灼滅者達が一斉に攻撃を仕掛ける。攻め手を務めていた蔵乃祐と美夜を始めとして全員が踏み込んだ攻撃を放つ。
    「どりゃっ!」
    「行くぞ『黒百合』!」
     空中で怯んだ子爵を布都乃がロケットハンマーで床に叩きつけ、碧が相棒を手に追撃し。
    「ロリコンでストーカーとか救いようが無いですね。救う気も無いですが……」
    「ようやくだ……観念しろ! 子爵!」
     縁とリュカの放つ気弾が子爵の纏っていた付与の力を打ち砕く。
    「こちらも背水の陣です、このまま決着を付けさせてもらいますよ!」
    「あたしに出来る全力で、あんたを真っ赤に染めてあげる」
     蔵乃祐と美夜の持つ十字の墓標が、そのまま子爵のものとなるような光線と打撃を加える。そしてその丸い身体の奥底までに届く刃を暁が突き立てる。
    「……これで、終わりでこざる!」
     刃を捻れば鮮血が大きく弧を描いて舞い、そして。


    「ぎゃああああぁぁ!? 痛いいいいいぃぃぃ!」
     ……子爵の叫びとともに暁の身体が大きく吹き飛んだ。暁はそのまま壁にぶつかって派手な音を立てる。そして子爵はよろよろと起き上がり灼滅者達を睨めつける。
    「……良くもお前達やってくれたなあっ!」
     子爵の先ほどまでの余裕は何処へやら、傷だらけの子爵の目は血走っている。その様子を見て陽太は奥歯を強く噛む、少しばかり相手を観察する事を失念していたようだ、2分で決着を付けるにはもう少し注意深さが必要だったろう。
    「おい、僕を守れ!」
     怒号のような命令が侍従に向けられる。同時に侍従は一つ礼をすると、灼滅者達と子爵の間に降り立つ。
    「その強さで、女性の後ろに隠れんぼ?」
    「瑠架さんはお優しいからこの後従者さんにも感謝することでしょうね……」
    「うるさいうるさい! そうやってお前達この僕をまた騙すつもりだろ! 騙されないぞ!」
     美夜と縁の言葉も子爵にはもう届かない。
    「……来るよ!」
     美夜が叫ぶと同時に今までとは全く違う速度で子爵が頭上に飛び上がる。そして赤い一撃が立ち上がったばかりの暁を切り捨てる。
    「……っ!」
     あえて言うのならそれは子爵にとって最も手軽に仕留められる相手だったからだ。耐性を伴わない彼の装備では到底耐えることはできない。
    「やられる前にやるぞ! 子爵の傷は深い!」
    「させるものか! 先に死ぬのはお前達だ!」
     布都乃が叫び、子爵が答える。どのみちここで子爵を逃すわけにはいかない。先程の蔵乃祐の言はここに来て更に状況に合致する。つまりは『背水の陣』だ。本気の子爵だけではなく従者も参加すれば圧倒的に灼滅者達にとって不利になる。
    「くそっ、回復が間に合わない!」
     リュカが歯噛みする。本気になった子爵は常にギルティクロスを放ってくる。常に見切り状態ではあるが、圧倒的な能力差から放たれるこの攻撃は灼滅者達に大きく傷をつけていく。それに加えて従者の攻撃もある、彼女は主を守るのを基本としているが攻撃を疎かにしているわけでもない。
    「絶対に仲間を守る……って……」
     次に倒れるのは碧だ。縁を守った彼も容赦の一片たりともない攻撃を受けて倒れ、そして彼が守った縁も直ぐに戦闘不能となる。その間にも灼滅者達の攻撃が子爵に向けられるが幾つかは従者に阻まれ押しきれない。
    「……あと、少し戦力があれば」
     蔵乃祐が呟く。今ここで彼らが新たな戦力を得るためには一つの選択しかない。――闇堕ち。この場で立っている灼滅者達は目の前の強敵を前に、自らの中にいる存在に語りかけようとする。だがその時、この緊迫する戦場に扉を開ける音と共に乱入者が現れる。
    「双方、そこまでだ」


     子爵と灼滅者達がその声の持ち主を見る。果たしてそれは「義」の犬士ラゴウその人だった。そして彼の後ろには別の灼滅者のチームがいた。なぜ、と問う前に子爵がピクリと鼻をひくつかせる。
    「この匂い……瑠架ちゃんだ!」
     その言葉に傷だらけの灼滅者達は更に奥から出てくる瑠架の姿に目を見張る。子爵はと言うと、先程までの激戦はまるで無かったかのように上機嫌だ。その彼に瑠架は小声で話を返しており、いつの間にか子爵は侍従の持ってきた車椅子に座っていた。
    「……これは一体……」
    「あいつらは増援ってわけじゃない」
    「瑠架さんは……子爵さんの凶行をお止めしようとしておられます……。私達はそれを見届けるために……一緒に来ました」
     蔵乃祐の当然とも言える疑問にレオンとアリスが返す。
    「それってどういうことよ?」
     美夜の更なる言葉に答える前に瑠架が灼滅者達に口を開く。
    「タトゥーバットの戦闘行動は中止させました。これで被害の拡大を防ぐことはできるでしょう。また、メイヨール子爵も私が責任をもって帰還させます。彼が勝手に事件を起こすことは、もう無いはずです。ご迷惑をかけましたが、あとの処理はお任せします」
    「ちょ、ちょっと待てよ! そんな勝手な話!」
     布都乃が叫ぶ。そんな彼を明日香が制する。
    「今のままの戦力では、これ以上は無理よ。相手にその気が無い。堕ちる事も出来なかったわ」
     目の前の彼女たちにはもう戦う気はないらしい。たとえ合ったとしてもここにいるメンバーで強力なダークネス4体を倒すのは不可能だろう。
    「………」
     陽太は押し黙っている。子爵と戦っているこちらに少しでも増援があれば、あるいは彼らが来るのがもう少し遅ければ闇堕ちしてでも倒すことはできたかもしれない。だがもう詮なき事と言うしか無い。
    「……子爵は倒せなかったがこれでも撃退と言うのだろうな」
     ぼそりと倒れた仲間達の手当をしていたリュカが呟いた。
    「……これ以上タトゥーバット事件が起こることも無いのなら成功と言って良いんだろう」
     身体を起こしながら碧は悔しそうに言った。成功には違いない、違いないが。
    「どうにも後味が悪いですね」
     縁が去っていく4体のダークネスの姿を見送って漏らす。灼滅者達の間に何とも言えない空気が蔓延る。それを払拭するように顔をしかめながら暁が立ち上がる。
    「拙者達はこうして無事だが、他の者達が気になる。確かめる必要があるでござろう」
     灼滅者達は彼の言に従い、この部屋を出る。この大規模な戦いはこうして幕を閉じた。外に出る頃には全てのタトゥーバットは灼滅されているだろう……。

    作者:西灰三 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年11月6日
    難度:難しい
    参加:8人
    結果:成功!
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