肌寒い夜は人恋し

    作者:幾夜緋琉

    ●肌寒い夜は人恋し
     秋葉原のとあるメイド喫茶。
     バックヤードで、仲良し二人組みが、メイド服に着替えながら交わす会話。
    『うーん……寒い。すっかり肌寒くなってきたなー』
    『そうよねー。でもメイド服だと、あのスカートとニーソックスの間、絶対領域って言うんだっけ? そこから風が吹き込んできて寒いんだよねー』
    『うんうん。スカートの所まであるニーソックスなんて無いし、あったらあったで絶対領域がー、とか言われるんだろうなー』
    『そうだよねー。こっちも生身だってのにさー。あ、それじゃあ先に私店に出てるねー♪』
    『うん、また後でねー♪』
     ……ちょっとした愚痴と、他愛も無い会話。
     そして友人を手を振って送り出し、そして彼女も、メイド服に袖を通す。
    『……うふふ♪ さぁ、今日もいーっぱい、お客さんを相手するわよー♪』
     とろんとした目は、何処か妖艶。
     今までの雰囲気からガラリと変わった彼女は、微笑みを浮かべながら、店へと出て行くのであった。
     
    「皆さんお集まりの様ですね? それではこの迷宵が、説明を始めさせて頂きますね」
     と野々宮・迷宵は、集まった灼滅者たちに一礼すると、早速説明を始める。
    「今回、秋葉原のとあるメイド喫茶に、フライングメイド服がまた現われてしまった様なのです。フライングメイド服に身を包んだ少女が、その力に取りつかれてしまいました」
    「幸い、フライングメイド服の彼女は、メイドさんとしても結構可愛い子の様で、今の所それを否定する人は居ない様です。ですが……メイド服を否定するような事を言われれば、例え一般人であっても牙をむいてくる事でしょう。そうなる前に、彼女のフライングメイド服を灼滅してきて頂きたいのです」

     と、そこまで言うと、迷宵は彼女の写真を皆に見せる。
     確かに可愛い子で、八重歯が特徴的な女の子。
    「彼女はメイド喫茶の店員ですから、店内での給仕がメインです。つまり、基本的には入店すれば、彼女と会うことが出来ます」
    「ですが、店内で戦う事は避けて欲しいところです。出来れば彼女を店外へ誘い出し、そこで灼滅して下さい……灼滅すると、服は破れてしまいますから、彼女の心の平穏の為にも……」
    「尚、彼女の攻撃手段は基本的に色仕掛けと、太もものガーターベルトに忍ばせた、ナイフです。武器を持つメイドさんというのは、何ともはや……といった具合ではありますが」
    「更に彼女の声により、招集される強化一般人の追っかけが四人居る様です。店外であっても、彼等は1、2分の内に現われ、皆さんへ牙をむいてきます。彼等は鉄パイプ、ナイフなど、物理的に痛い攻撃を叩き込んできますので、注意が必要ですね」

     そして、迷宵は。
    「何にしても、彼女がフライングメイド服のままでメイド喫茶に勤め続けているとなると、いつかはマズイ事になるのは間違いありません。どうか被害の少ない今の内に、彼女をフライングメイド服の魔の手から、救い出してあげて下さい。宜しくお願いします」
     と、頭を下げた。


    参加者
    宮廻・絢矢(群像英雄譚・d01017)
    前田・光明(高校生神薙使い・d03420)
    ゼノビア・ハーストレイリア(神名に於いて是を鋳造す・d08218)
    月叢・諒二(穿月・d20397)
    吉武・治衛(陽光は秋霖に降り注ぐ・d27741)
    今瀬・ルシア(光風・d33211)
    ウィスタリア・ウッド(藤の花房・d34784)
    敷原・舞(中学生サウンドソルジャー・d35853)

    ■リプレイ

    ●メイドの冬に
     秋葉原。
     極一般的なメイドカフェに、またもやフライングメイド服が姿を現したという連絡を受けた灼滅者達は、秋葉原へと向かう道すがら。
    「しかし、空飛ぶメイド服ねぇ……防寒にはならないよねー」
    「ああ。しかし絶対領域について言及したからには、きっちりと太股に武器を仕込むとは……その心意気や天晴れ、実にすばらしい」
    「……そういう、問題?」
    「まぁ、絶対領域とは永遠のテーマでもありますしね。。でも寒くても、僕としてはメイド服は着てほしい……おしゃれは我慢っていうけどね」
     宮廻・絢矢(群像英雄譚・d01017)月叢・諒二(穿月・d20397)に、ゼノビア・ハーストレイリア(神名に於いて是を鋳造す・d08218)と吉武・治衛(陽光は秋霖に降り注ぐ・d27741)の会話。
     誰にだって、メイドに対する理想概念がある。
     大多数の一般的な概念に、このメイドは近いのかもしれない……絶対領域に対する不満以外は。
     そんな仲間達の、本心なのか、それともリラックスしきっている言葉なのかに対し、敷原・舞(中学生サウンドソルジャー・d35853)はちょっと苦笑しながら。
    「何に為ても、この依頼は私の灼滅者初デビュー。自分の意思で戦うのは初めてで、人を傷付けるのって思うと怖いけど……私の時みたいに囚われているんだよね。頑張らないと!」
     ぐっと拳を握りしめた舞に、ウィスタリア・ウッド(藤の花房・d34784)は。
    「まぁ、そんなに緊張しなくていいと思うぞ。というかオレの方が緊張してる。メイドカフェ入るの二度目だわー。緊張するわー」
    「……?」
     きょとんとしてる舞。
     それはそれで仕方ないのかもしれない……いつもは、ウィスタリアは女装しているから。
    「まぁ……何というか、俺も最初誰なのか分かんなかったし。それだけいつものクオリティが凄いって事だな」
     苦笑する前田・光明(高校生神薙使い・d03420)に、やだなぁ、と笑うウィスタリア。
     そして、光明が。
    「ま、何に為ても一連の事件、なかなか収束する気配がないが、今は個別に対応していくしかないか」
     と言うと、絢矢、諒二も。
    「そうね。服の癖に人を誑かす悪い服は廃棄処分しちゃいましょ」
    「ああ。ちょっとそのメイド服、いただいていくとしよう」
     そして、今瀬・ルシア(光風・d33211)が。
    「さぁ、始まり始まりネ。そういえば。百物語と殺界形成って併用出来るのカナ?」
     とルシアの言葉にゼノビアが。
    「うー……どっちも人払い出来るものだから、恐らく大丈夫だと思うの」
    「そう。なら、チョット試してみよーっと」
     にこっと笑うルシア、そして灼滅者達は、二班に分かれて、秋葉原へと散らばっていくのであった。

    ●メイドの魅力
     そして、メイドカフェに向かった絢矢とウィスタリア。
    『お帰りなさいませ、ご主人様~!』
     と、黄色い声で歓迎される二人。
     店の中へ通されると共に、ウィスタリアは女の子達にラブフェロモンで魅了。
     幾分、メイドさん達の対応が良くなりつつ……ターゲットとなる、フライングメイド服を身につけた彼女の姿を探す。
     ……幾つか注文して、そして食べながらまた会話。
     ……そんな事をしていると、店外待機班の仲間達からメールが到着。
     迎撃場所の地図と、そこに向けたルートを確認。そして……。
    『はいりま~す』
     と、店に出てきた少女……彼女の顔と、写真を確認。
    「あの子だね」
    「了解」
     と短く言葉を掛け合い、頷くと、彼女に向けて手を揚げて呼ぶ。
    『はぁ~い。何か誤用でございますかぁ、ご主人様ぁ♪』
     ちょっと妖艶な笑みで、近づいてくる彼女。そんな彼女に。
    「キミが祥子ちゃん? 知り合いからさ、凄く可愛い子がいるって話てたんだけど……創造以上だな」
    『え、そうなんですかぁ。ありがとうございますぅ♪』
    「ねぇ……ちょっといいかい?』
     と、手をこまねき……そして彼女に。
    「ねぇ、よかったらこれからデートしない?」
    『えぇ~、こまりますよぉ♪』
    「ふふ。急でびっくりさせちゃったよね。でも一目惚れなんだ。おれも自分で驚いてる」
    「お仕事は他の人に任せちゃえばいいでしょ? 大丈夫、オレからうまーく言っておくからさ」
     にこりと微笑むウィスタリア、そして絢矢も。
    「そうそう。外に出るのなら出来れば写真が撮りたいなー。きみたち可愛いもんね!」
     と言って……そして二人の提案に。
    『もう、仕方ないですねぇ~……それじゃあ、30分後に店の外に向かいますねぇ♪』
     妖艶に微笑む彼女……そして彼女の代わりになる他のメイドさん達に、しっかりと根回しするウィスタリア。
     30分後、店の外に出てきた彼女を連れて、仲間達の待つ……少し離れた所の公園へ。
     二人と手を繋いでやってくるフライングメイド服の姿を見て、光明は。
    「……コスプレメイド服より、実業的なメイド服がやはり良い、という向きもある様だが、いかにもコスプレなメイド服も別にいいんじゃないか? どちらもアリだと思うんだ。だが、俺的にはもう少し年齢が欲しい所だな。熟女のたっぷりした肉体と、あんまっちなメイド服。こんな格好恥ずかしいともじもじする妙齢の恥じらい。そんなメイドさんが見られる店があるならば、毎日でも通いたい」
     饒舌に語る光明……それを理解出来ない仲間達。
     まぁ……好みは人それぞれである……その一方、改めて、灼滅者として彼女を倒す事に、僅かに葛藤を覚える舞。
    「……私の時のように、戦う事で助けるんだ。これは、人助け。これは人助けなんだ。習った通りにやれば、きっと上手くいくはず。頑張らないと!」
     と気合いを入れる舞に、ゼノビアは。
    「うん、頑張るの」
     と頷く……そして、メイドの彼女が、公園まで到着した所で。
    「ここで、写真いいかなー?」
     と絢矢が立ち止まると、それに彼女はくすりと微笑み。
    「そうねぇ……だれも居ない所に誘い込んで、もう……♪」
     更なる妖艶な微笑みを浮かべる彼女……と、その瞬間。
     舞がサウンドシャッターを使い、音を遮断すると、続けてルシアが殺界形成で人払い。
     その人払いに、彼女も気づいたようで。
    『……何よ、これ』
     と威嚇するような言葉を投げかけてくる。
     そんな彼女の前に、灼滅者達が居並び、構える。
    「フライングメイド服……ここで倒すの」
     とゼノビアが言葉を紡ぎ、そして先頭切って百鬼夜行の一撃を食らわせる。
     先手の一撃は流石に不意を突かれて攻撃命中。
    『いたっ……な、何よもう……そう、私に刃向かうのね! そう、なら分かったわ。殺してあげる!!』
     と、強い口調で言い放ち、そしてフトモモのガーターベルトに仕組んだナイフを取り出し、手に構える。
     そしてそのナイフを、鋭く、投げつける……その筋は、かなり鋭い一撃。
     その一撃に。
    「危ない! ……お願い、あの人の動きを止めて、私の糸!」
     と舞が咄嗟に結界糸を放ち、彼女の動きを阻害。そしてその一撃の太刀筋が、僅かに逸れて、外れてしまう。
    「感謝するよ」
     と、光明の言葉に微笑む舞。
     そして入れ替わるように、絢矢、諒二も。
    「メイド服にはおさげが一番だよね! まぁ、どんな格好でも言うけどさ!!」
    「そうだな……武器を持つメイドというのも、面白いとは思うが……ご主人様に刃向かうメイドというのはどうなんだろう?」
     とか言い放ちながら、グラインドファイアと鬼神変で攻撃してくる。
     両者クラッシャーというのもあり、一撃でかなりのダメージ。
     更にディフェンダーの光明、ルシア、そして治衛のライドキャリバーも、確実に彼女にダメージを与えていく。
     そして、ウィスタリア、治衛は。
    「しかし仕事でなけりゃナンパなんて出来ないわよ。コレでも奥手なんだから。でもね、可愛いと思ったのは本心なのよ?」
    「そうだね。確かに可愛いと思う……まぁ、性格には難があるみたいだけど」
    『キーッ!! 煩いわよ!!』
     と、ヒステリーに怒る彼女。
     一巡しただけでも、かなりのダメージを喰らった彼女……そして次のターンも、変わらず灼滅者達の猛攻が、彼女の体力を削る。
     そして、3ターン目……丁度、その時。
    『あそこだ、いたぞー!!』
    『祥子ちゃんを傷付ける奴は、みーんな敵だー!!』
     と、彼女の配下である、強化一般人達が3人出現。
     とは言え、来た方角は公園の入口……つまり、灼滅者達を囲む様な陣になる。
    『やっと来たの? ……全く、遅いわよ!』
     と、怒る彼女の言葉に対し、すいませんっ、と頭を下げる配下達。
     ……そんな強化一般人に。
    「全く……彼女に良い様にこき使われて、それで愉しいの?」
     と、治衛の言葉。
     でも、強化一般人達は、それでいいんだ、それが至福なんだ、と。
    『……まぁ、至福に感じるときは人それぞれだし、ま、仕方ないわね」
     と苦笑しつつ、ルシアが七不思議の言霊、水晶側の向こう側の話を強化一般人に投げかける。
     その間も、諒二、絢矢のクラッシャー陣はフライングメイド服の彼女へと攻撃をし続けていき、残るゼノビアや光明、ウィスタリアが強化一般人を攻撃。
     確実に一人ずつ気絶させていき……そして、彼女との戦闘を始めて、8分。
     救う為に現れた強化一般人達も、既にKOされていて……フライングメイド服の彼女も、もう服はぼろぼろ、眦に涙。
    『うぅ……!!』
     キッと睨み付ける彼女だが、そんな彼女に。
    「ごめんね? 狙いはそのメイド服なのよ。そのメイド服に支配され続けちゃうと、良いこと無いわよ? だから……此処で終わりにしましょ」
     とウィスタリアが宣告し、そして……彼女にレイザースラストの一撃を叩き込み……そして、彼女は吹き飛ばされ、崩れ落ちた。

    ●冬の風寒く
    「……終わった、の? ……ふひゃー……私、めちゃくちゃ緊張したっすー。助けられて良かったッスー」
     そして、無事に闘いも終わり、その場にぺたんと座り込む舞。
     倒れたフライングメイド服の彼女は……服はぼろぼろ、肌も所々が露わになってしまっている。
     そんな彼女に、即座に上着を掛けるウィスタリア。
    「ごめんね、ちょっとコレで我慢して」
     と言い……そして、男性陣が、彼女から目をそらす。
     彼女を囲むのは、女性陣。
     女性達が彼女が気を取り戻すまで待つと……程なく、目を覚ます。
    『……あれ? ここは……』
     記憶が朧気な彼女。
     そんな彼女に、優しく声を掛けながら、あった事をしっかりと説明……そして、今日は帰った方がいいよ、と告げて、店へと帰らせる。
     ……その後ろ姿に、舞は。
    「うん、無事でよかった。今度はこんな情けない姿、見せたく無いなぁ……」
     ぽつり呟く一言。
     それに、光明が。
    「大丈夫さ……一つ一つ成長していけば良いんだから、な」
     と、微笑み、励ますのであった。


    作者:幾夜緋琉 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年10月31日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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