芸術発表会2015～想いを詠う、言葉を謳う

■リプレイ

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　芸術発表会、詩・ポエム部門。
「それでは開会を宣言する！」
　ステージの上では、司会進行を勤める千星が高らかに開会を宣言し、一番目に発表するものの名を告げた。
　一番手でステージに上がったのは、霙。
　ぺこりと頭を下げて真っ先に目に飛び込んできたのは、恋人のアリスの顔。
　霙にとって、アリスは希望……。
「捨て去った愛のすべて　怯え枯れ果てた僕を　君は見つけてくれた
　すべらかな白銀　藍の眼差し　触れて見つめ安らいで　嘆く
　ほんとうはずっと　こわい　こわいんだ
　唯ひとりのひとよ　僕の　僕の君よ
　移ろいゆく虚ろな世界で　共に在っておくれ」
　まっすぐに彼女を見つめて、堂々と読み上げた霙の目に飛び込んできたのは、ほほを赤らめたアリスだった。
　拍手とともに霙と入れ替わって壇上に上がったのはローゼ。
　立ち居地に立ち、ふと顔を上げれば、そこに広がるのは薄明の空。
　世界がやさしい青に染まる時間。
　ローゼは物憂げに遠くを見つめ、息を吸った。
「彼は誰時の少し前　出窓に腰掛け想い耽る、
　目が眩む様な朝焼けに　今日は出会えるだろうか、
　雨が良い　雨で良い　寒ければ触れられるから、
　雨で良い　雨が良い　寒ければ側に居られるから、
　絆を壊したくないから　ホントウなんて伝えられないけど、
　だけど、今、この時だけは　わ た し の じ か ん、
　ブルーアワーに想いを込めて　……貴方の寝顔は私ダケのもの」
「……なんか幻想的だけど意味深な詩だな」
　拍手が鳴り止んだところでステージの端の千星がたずねると、ローゼは漆黒の長いかみを揺らした。
「朝焼けが綺麗に見えると雨になる。という意味の諺をモチーフに、伝えられない恋心をうたいあげたものですわ」
　次はティナ。
　これから読むポエムにむず痒さを感じつつも、しっかり胸を張った。
「キオクのカケラ拾い集めて　キラメキに幻視るキミの面影、
　どうして遠くに行ってしまったの？
　リーブミーアローン……リブアローン……ビリーブマイセルフ……、
　セツナイ想いが胸にこびりつく、
　まるで靴底の裏のガムみたい　とってもスティッキー、
　かき消そうとかきむしってもこの想い　どこまでも重く、
　沈む沈むシンクシンク辛苦辛苦、
　薬を下さい　晴れやかな処方箋、
　真夏の夜のユメ　キミのキオク、
　アイムドリーミングユアスマイル　スマイルミーアゲイン、
　微笑みを貼り付け心に剣を　今日もわたしは夜をゆく、
　独りきりのロンリーナイト」
　去年は可愛らしい恋のポエムを披露したが、今年はビター。そして言葉遊びが斬新だ。
　【玉川上水３－７】のフィンセントは、初めて作ったポエムを頑張って朗読する。
「舞い降りる羽根。気まぐれな羽根。そんな羽根を捕まえたくて。
　ひらりひらりと、舞い降りる羽根。そんな羽根を留めることなど出来なくて。
　切なくて切なくて、苦しくて。苦しくて苦しくて、ただ求めて。
　ただ思い焦がれる。
　ふわりふわりと、漂う羽根。そんな羽根を留めたくて。
　必死に手を伸ばして、羽根を追いかける。
　手折ることなどたやすかったけれど、そっと優しく触れたくて。
　そっとそっと手を伸ばし、追い続ける」
「その羽根ってなんだろう？」
　拍手の終わりで千星が首を傾げると、一礼で顔を上げついでに彼女を見、
「聞くなよ。それは野暮ってものだぜ？」
　と言い残し、フィンセントはステージを降りた。
　【星空芸能館】の今年のテーマは『音』。クラブ一番手は寛子。
　花近によって中央に運ばれたＤＪセットの後ろに立ち、自作のヒップホップのリズムに合わせれば、ノリのいいラップが館内を満たす。
「♪暗い都会の雑踏の中に　ひしめく奴らのノイズの中から、
　お前の鼓動(ビート)を聞き分けSerchin'　そして俺の鼓動(ビート)をSync、
　俺とお前と合わせるStep　いつものClubにGoin On、
　二人向かい合ってStep by Step　そして燃え上がるGroove＆Love♪」
　…Thank You!!　とクールに締めれば、手拍子が拍手に変わる。
「セカイはとても理不尽で　多くの人に絶望を押し付ける、
　私はそんなセカイが憎くて　出来ることなら壊してしまいたい、
　黒絶・望はとても醜くて　犯した罪はとても拭いきれなくて、
　私はそんな自分が汚らわしくて　苦しめて殺してしまいたい、
　皆はとても賑やかで　いつも笑顔にしてくれて、
　私はそんな皆が大好きで　幸せになって欲しいと願っている、
　彼はいつでも優しくて　一緒に居るだけで幸せで、
　私はそんな彼が愛おしくて　彼の為に尽くしたいと思っている、
　セカイが憎くて堪らない　それ以上に自分がとても憎い、
　苦しめて殺してしまいたいけれど　皆が生きろと望むから、
　皆の為に生きてゆきます」
　自分の胸のうちを全て言葉に代えて。
　望が詠むのは、懺悔と嫌悪と。それ以上の希望の詩。
　【星空芸能館】の二番手はファルケ。ぽろんとギターを鳴らすと、ゆっくりとコードを爪弾いていく。
「耳では聞こえなくても感じることが出来る音がある、
　それは心の音色だ、耳を澄ましてもこれだけは聞こえない、
　しかし、触れ合うと聞こえてくる、
　自分の心を通じて聞こえてくる、
　あの日、あの時感じたモノ、胸の高鳴りや鼓動、
　言葉に形容しがたいものだが確かにそれはある、
　そして、この大切なものを守りたい　いや、守らなければならない、
　あの時聞いた、彼女の心の音を」
　ファルケの脳裏に浮かぶのは、最愛の子に想いを告げられたときの事。
　歌の上手さは審査には含まれない。それ以上のあふれる思いに拍手が起こる。
　恥ずかしさに照れ笑いを浮かべながら、ファルケは高らかに手を上げた。
「清聴ありがとなー」
　【玉川上水３－７】の二番手は日和は、この学園にきて、クラスメイトと出逢って、たくさんの思い出が出来た。
　その気持ちを詩に込める。
「曇りなく前を見据え突き進んで行くヒーロー、
　ただただ勝つ為に？
　その目には何が映っているの？
　あの時バトンを渡した時から目に焼き付いている、
　力強い背中はとても美しいけれど、
　私もいつか追い付いて、
　きっとその横に並びたい」
「……恋文、ではないのか？」
　拍手が鳴り止んだタイミングの千星のツッコミに日和は顔を赤らめ、わたわたと釈明に徹し始める。
「ちちち、違うぞ！　そ、そういう気持ちもあるがっ」
　あっ。と、手で口を塞ぐも、時既に遅し。
「これはあくまでもファンレターだからな！」
　湯気が昇らんばかりの日和の赤ら顔に、その思いが届くといいと千星は思った。
　遥香はステージに立つと、目の前に夜の空を思い浮かべる。
　そこに上がってきたのは、お月様。
「よるをてらす　あなたのやさしいひかり、
　おひさまみたいに　つよくはないけど、
　みつづけても　めがいたくない、
　つきぐもさやかに　みえねども、
　それはそれで　いいじゃない、
　ただのくもりじゃ　ないんだもん、
　かけたりみちたり　おふねになったり、
　うさぎがおもちを　ついてたり、
　みつづけても　みあきないですし、
　つきにむらくも　あ　それじゃ、
　わたし　くもがいい、
　ちかくにいられる　うれしいし、
　よるをてらす　あなたのやさしいひかり」
　月に語りかけるようにふんわりと歌い上げたのは、ささやかな恋の歌。
　ぺこりと下げたお辞儀を合図に、心地よい余韻が拍手に掻き消えた。
「月って……」
「い、いったい誰のことなんだっ、えんみちゃんわからない、わかりませんよー？」
　千星のツッコミをさらりと交わし、遥香はすっとぼけたままステージを降りていった。
　アリスが吟唱するのは、英語の詩。
「The cycle of the Sun，the cycle of the Moon．
　Flowers sprout，bloom，petals，bear fruit．
　Everyone is born，grow old，sick and die．
　Arrow of time is faster than light speeds．
　Oh，be eternal in this world？」
　流石はネイティブスピーカー。そして哲学に明るいアリスの唱。
「す、すまない。和訳を教えてもらえないか……」
　そのすごさは解るが英語に明るくない千星に、アリスは小さく笑んだ。
「太陽の巡り、月の巡り、
　花は芽吹き、咲き誇り、散りゆき、実を結ぶ、
　人の世は生老病死、
　時の矢は、光よりも早く駆けていく、
　ああ、この世に永劫はあり得るのか？」
　ね。とアリスが読み上げると再び拍手が起こる。千星も思わずため息。
「和訳もすごい壮大だったんだなー」
　【星空芸能館】の三番手としてステージに上がった紗里亜はステージの中央でしっかりとしたお辞儀をし。
　背筋をしゃんと伸ばし、謳いはじめた。
「赤ちゃんが初めて聴く音　お母さんの音　とくん　とくん　とくん、
　泣いた時　笑った時　心が揺れる音　とっく　とっく　とっく、
　初めて人を好きになった音　初恋の音　とくっ　とくっ　とくっ、
　大事な　大事な人生の　岐路に立った音　どっ どっ どっ、
　大切な誰かの胸の鼓動　私と違う音　どどっ　どどっ　どどっ、
　響き合う命の音　いつか生まれ来る　新たな鼓動、
　いつか いつか私にも　……とくん　とくん」
　暖かで愛おしい命の音を、言葉と音の響きで紡ぎだす。
　ゆっくりと一礼すると、惜しみない拍手が会場を包んだ。
　続くのは
「今年もみんなでがんばるもん！」
　気合いを入れてステージに上がる。その手には小さなオルゴール。
「よろしくおねがいします」
　とオルゴールを開ければ、お気に入りの音色が優しく響く。
「キミの足音　キミのノック　キミの吐息　キミの鼓動　キミの笑い声、
　いつもおなじで　いつもちがう、
　たのしくて　うれしくて　やさしくて　力強くて　あたたかくて…、
　キミとボクの愛の音」
　オルゴールの調べも合間って、優しい響が会場を満たし。
　くるみはほんのり頬を染めて、
「ありがとうございました」
　とお辞儀をすれば、暖かな拍手が響いた。
　【星空芸能館】の五番手として心桜がステージに登ると、運ばれた木琴の後ろに立って、綿糸が巻かれた枹を手に。
「雨音　ぽとり　涙が　ぽとり、
　悲しい夜も　君の笑顔が明るい朝に変えるから、
　心音　とくん　君へ　とくん、
　聞かせて　生きている証を」
　擬音の後に温もりのある木琴の音をぽろんぽろんと響かせて。
　笑顔で明るく詩を披露した心桜は、深々とお辞儀をした。
　拍手終わりに千星が感嘆の声を上げる。
「音を木琴でも表現するとは」
「えへへ、わらわ、楽器は弾けないから木琴で精一杯なのじゃ」
　にっこり笑んだ心桜の心には、最愛の人。
（「彼氏さまに届けばよいなあ」）
　友達の応援に力が入っていた【玉川上水３－７】のラスト・麦は、緊張気味にステージに上がった。
（「正直、全ッ然自信はないっ！」）
　立ち居地に立って、深呼吸一回。覚悟を決めた表情はヒーローそのもの。
「秋といったら餃子祭り　お得な100円食べ歩き！
　陶器市では芸術散歩　表現自由の益子焼！
　紅葉見頃の日光の　東照宮では式年大祭、
　SL乗って景色を見れば　もうすぐ冬だと風が言う、
　冬になったらイチゴが旬　今年も楽しみ！」
　元気よく読んだ詩は、ご当地栃木の秋の楽しみ盛り沢山。まるでお誘いのように楽しい詩。
「なんか宣伝みたいだな」
　笑む千星に、麦はいやいやと手を降った。
「いやいや心の叫びだよ！　いつでもお待ちしております！」　
　最後のアピールで、笑いと再びの拍手が沸き起こった。
　開会から今のいままで瞑想をして心を鎮めていたエイジは、すっと目を開けるとステージに上がっていく。
　忍者スタイルに勇壮な歩き姿、そしてマスクの奥に光る血走る目と鬼気迫る眼力は、気合の表れである。
　戦いに赴くかの如く。すっと息を吸って――。
「我等が学園は　最強である、
　邪魔する闇は　愚か者、
　支配された世界覆す　我ら武蔵坂、
　闇を宿し、されど恐れず、
　我らの邪魔をする闇は　全て愚か物共、
　光ではなく陰にて戦おう、
　記憶にも記録にも残らずとも、
　それが人々のためなれば、
　この命を使い戦おう　闇よ灼滅せい」
　魂を込めて雄雄しく謡い上げるは、灼滅者を奮起させる戦歌。
　熱い歌に拍手が沸き起こる。
「かっこよかったなー」
　その力を持たない千星も思わず声を上げると、
「現実には最強とは程遠い我らでござる。が、だからこそ詩の上では強く、雄雄しくあれ！　そのような想いを込め詩を作り上げたでござる」
　はっきりと告げるエイジ。
　後段も、実に力強かった。
　アリスはステージに上がると、ある願いを込めて詩を読み出した。
「孤独に訪れたこの街で　私を癒すミルキィーブルー
　貴女と優しい声と綺麗な仕草が　幸せ色に私を染める
　出会ってくれてありがとう　これからもずっと一緒です」
　ちらりとステージ下の霙を見て、目が合ったのでハッと逸らし、拍手と同時に顔を真っ赤にしてステージ上から逃げ出してしまった。
　これからも一緒にいられますように。
　その願いだけが会場に響いている。
　【星空芸能館】のトリも、全体の大トリを飾るのは、えりな。
　中央に運ばれたグランドピアノの横に立つと、丁寧にお辞儀をして椅子に掛けた。
「耳を澄ませば聞こえるね？
　どこに居ても、どんな時でも…。
　水の音(ね)、風の音(ね)、テレビの音(ね)？
　自分の、家族の、友達の　聞こえる音に限りなく、
　世界と自分、自分と世界、心と心、人と人、
　皆をつなぐ、糸電話、
　世界をつなぐ音の糸は、心で世界を明るく照らす星座の光♪」
　伸びやかな歌声でゆったりと弾き語り謳うのは、輝く音の星の詩。
「ありがとうございました♪」
　椅子から立ち上がり、さらに丁寧にお辞儀をすれば、拍手の音がえりなを包み。
　こうして十七篇の想いは、聴衆の心に感動の風をもたらした。

●
　想いに順位をつけるのも無粋。だけど優秀者を選出するという決まりがある。
　審査は難航し、審査委員を務めたＰＴＡの皆様はかなり揉めたため、急遽審査中のエキシビションとして花近がステージに立った。アリスや心桜の期待もあり、三味線を片手に唄う。
「桜花乱れ　潤しの雨振り　紅葉染まりし　雪降り積もり、
　我が夢は　風土の唄を導いて　安泰の世を　招き呼ぶこと」
　それは五七五七七の短歌調に落とし込んだ、学園に来てさらに強くなった自身の夢の唄。
　拍手と共に、千星が審査結果のカードを持って壇上に駆け上がった。
「お待たせしました、結果を発表します。まず審査委員の皆様のお言葉から。『今年も皆さんのすばらしい作品に胸を打たれ感動いたしました。優秀賞を全員に差し上げたいのですが、規定によりひと作品を優秀賞に選出いたしました』」
　続けて千星は、優秀賞作品と受賞者の名を呼んだ。
「タイトル『無題』。おめでとう、園観・遥香」

作者：朝比奈万理	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2015年11月13日 難度：簡単 参加：17人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 0／素敵だった 1／キャラが大事にされていた 6
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