闇に潜みし羅刹は、少女に苦痛を齎す悪しき華

    作者:長野聖夜

     夜の街は危険と華に満たされる。増してや、都会であれば尚更だ。
     そんな都会にある町の一つにある、少し離れた一軒家。
    「ったく、天海の野郎、何考えてやがるんだよ。この俺様達を破門して、本当にやっていけるのか?」
     長身痩躯の1人の男。
     豪奢なスーツに身を包んだその男が、数人の少女を侍らせている。
    「おい! 何やっているんだよ! さっさと金出しな!」
     震える様子の少女に罵声を浴びせ、力任せに叩こうとする。
     少女は其れにビクリ、とその身を震わせ、ビクビクしながらそっと自らの財布を差し出した。
     其れを引っ手繰る様に奪い取り、そのまま札束の数を数える男。
    「ちっ! これだけかよ」
     忌々し気に、吐き捨てる様に呟く男が、少女を一睨み。
     少女は狂気じみながらも、何処か危険な華を感じさせるその笑みに……ガクガク震えながらも、目を離せなくなる。
     そんな少女を一瞥した時……。
    「あ……兄貴っ!」
    「旦那! 紫電の旦那!」
     不良っぽい2人の男が部屋に飛び込んできた。
    「ああっ?! なんだよ、火神、青神!?」
     怒鳴りつけられて、ビクリと背筋を震わせながら、青神と呼ばれた方が震えながら伝える。
    「そ……その……俺達を破門した天海の所に来た、依の奴が俺達のこと、どっかにチクったらしくて! もしかしたら……?!」
    「追手が掛かるってか? はっ。あいつらが俺達を捕まえられるわけないだろ」
     馬鹿にしたように鼻で笑う紫電。
     そして、近くにいた他の少女の顎を、無理矢理クイッ、と自分の方へと引き上げる。
     疲れた表情の少女が……そんな紫電の瞳に怯えを隠せず震える姿をみて、加虐心をそそられ、愉快そうに舌なめずりをペロリ、と1つ。
    「ま、もし来るとしたら、多分、噂の半端者達位じゃねぇの? ……そん時には、たっぷりと悲鳴を味わって、嬲り殺しにしてやるだけだけどな。この……”断罪者”の紫電様がな」
     そのまま紫電に突き飛ばされた少女は壁に激突して、苦し気に呻き地面に丸くなる少女。
     その様子を見てご満悦の様子の紫電に……火神たちは心底安心し、紫電がくれてやる、とばかりに顎で指した少女へと嬉しそうに近寄って行った。

    「……優希斗……どうしたの……?」
    「……えっ? あ……アリスちゃん、か」
     机の上でタロットを睨むようにしていた北条・優希斗(思索するエクスブレイン・dn0230) に、緊張しながら、アリス・ドール(斬撃の人形姫・d32721) が問いかける。
     普段、自分から男性に声を掛ける様子の少ないアリスに気遣われてしまい、何となく気恥ずかしくなりながら、優希斗は大丈夫、と苦笑を零した。
    「うん。この間、アリスちゃん達が倒してくれた羅刹を覚えているかな?」
    「……うん……。……夜見……だっけ……?」
     記憶の糸を探りながらたどたどしく返すアリスに、優希斗がああ、そうだね、と首を縦に振る。
    「確か……闇堕ちした子が……」
    「うん。琴さん……じゃなくて、依になるのか。彼女が天海の使者として齎してくれた情報を基に、予測して捕捉できた羅刹だったんだけど。実は、彼女から貰った情報の中で、まだどこにいるか所在が掴めていない羅刹がいたんだ」
     優希斗の説明に、アリスが、僅かにはっ、とした表情になる。
    「優希斗……もしかして……」
    「うん。この間アリスちゃんがくれたヒント。あのヒントと組み合わせて予測を立てて、漸くその所在を掴めたんだ」
    「じゃあ……」
     小さく続けるアリスに1つ頷く優希斗。
    「ああ。灼滅を頼めないか? ……天海の全てを信じる訳じゃないけれど、それでも、見過ごすことは出来ないからさ」
     軽く首を傾げた優希斗の願いに、アリスは、小さく首を縦に振った。

    「……今回の羅刹は3体。1人が紫電。後2人が、火神、青神。……とはいえ、一筋縄ではいかない相手、みたいだけど」
    「……どういう……こと……?」
     目を瞬かせるアリスに1つ頷き、優希斗が小さく溜息をつく。
    「天海勢力から得た情報によれば、紫電は、またの名を”断罪者”と言うらしくて。まあ、要するに裏で仕事をしていた訳なんだが……特に少女が苦しんだり、痛めつけられているさまを見るのが好きって言う……どうしようもない奴らしい」
     それでも、彼が破門されなかったのは、一重にその優れた腕故に。
     けれども、『人間の殺害の禁止』『人間を苦しめる行為の禁止』と言う天海が出したその命令に、紫電が従える筈がない。
     破門されたのは当然の帰結だろう。
    「……それで……?」
     言葉を咀嚼する様に頷き続きを促すアリスに、優希斗が実は……と小さく呟く。
    「紫電の能力は、人を”殺す”技に長けている、らしい」
     神薙使いに似た様なサイキックだけでなく、正しく、人を”殺す”技を使いこなす紫電。
    「……それは……ちょっと……厳しそう……」
    「うん。で、火神と、青神。この2人はディフェンダーになる」
     護り手である2体を壁にしつつ、紫電が後ろから攻撃をしてくる。
     このコンビネーションを何とかするのが、今回、最も重要な作戦になる、ということの様だ。
    「……分かった……気を付ける……」
    「ああ、よろしく頼む。……後、それから……」
     微かに躊躇う様な優希斗の姿に、アリスが微かに首を傾げる。
    「……特に紫電は、アリスちゃん位から、高校生になるかならないか位の女の子を甚振るのを楽しむ歪んだ性格を持っている。……戦いになったら、アリスちゃん位の子達が狙われやすくなるから、十分、気を付けて」
     優希斗の呟きに、アリスが再び首を縦に振った。

    「……正直に言えば、かなり厳しい相手だと思う。でも、それでも、アリスちゃん達なら大丈夫だと、俺は信じたい。ただ……厳しいと思ったら無理はしないことも大事だよ。……気を付けて」
    「うん……ありがと……優希斗」
     心配そうな優希斗の見送りに、アリスは小さく頷き、静かに教室を後にした。


    参加者
    ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)
    李白・御理(玩具修理者・d02346)
    聖刀・凛凛虎(不死身の暴君・d02654)
    御神・白焔(死ヲ語ル双ツ月・d03806)
    内山・弥太郎(覇山への道・d15775)
    リアナ・ディミニ(不変のオラトリオ・d18549)
    アリス・ドール(斬撃の人形姫・d32721)
    七夕・紅音(痛みを探す者・d34540)

    ■リプレイ


     ――都内某所にある一軒家。
     都心から少し離れた所にあるその家にの玄関から、2人の男が入ろうとしている。
     ……不意に、男たちの周囲から、音が消えた。
    「な……なにぃっ?!」
    「な、なんだよ、これ!?」
     驚きを露にする2人の男の周囲に、3人の男性と、1匹の犬が姿を現す。
     これは、李白・御理(玩具修理者・d02346) が生み出した、音を遮断する結界。

     ――それは、戦闘開始の合図。


    「雑魚に掛ける時間はねぇんだ。さっさと落ちてくれや」
     姿を現した聖刀・凛凛虎(不死身の暴君・d02654) があっさりとした表情のままにそう呟き、閃光百裂拳。
    「な……なんだっ、テメェら!」
     赤みがかった黒曜石の角を持った火神が少しばかり驚いた表情になりながら、乱打を受けてよろける。
    「ちっ……畜生! 天海の野郎、こんな奴等を飼っていやがったか!」
    「別に俺らは天海の配下じゃないっすよ」
     怒りのままに反撃をしてくる火神の攻撃を愛刀で受けながら、ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039) が小さく呟く。
     若干体に重さを感じるが、構わず愛刀を袈裟懸けに振りきり、凛凛虎の拳で踏鞴を踏んでいた火神に浅く無い一撃を与えた。
    「ぐぅっ?!」
    「全く、天海も後始末をきちんと付ければいいものを、自分達に面倒を押し付けて来て」
     ギィの呟きに怒りを覚えたか、反撃を仕掛けようとした瞬間、首筋に冷やりとした冷気を感じ、咄嗟に首を傾ける火神。
    「沈め」
     それは、御神・白焔(死ヲ語ル双ツ月・d03806) の放った螺穿槍。
     喉仏を貫かれての絶命は辛うじて避けつつも、首の皮と、顎の辺りを貫かれた痛みに、顔を顰める。
    「くっ……なんだよ、こいつら?! 戦い慣れていやがる……?!」
     おっかなびっくりしてる火神と、子犬の様に吼える青神。
    「ち、畜生! お前ら、よってたかって! この悪人どもめ!」
    「女の子を嬲るのが趣味な腐れ外道と一緒に居る屑にそんなこと言われる筋合いはないっすね」
     あまりにも外道な奴等なんで、怪我が吹っ飛んだっすよ、と蒼生に傷を癒されながら、内心でギィが呟き、灼滅者達は再度攻撃を開始した。


     ――その頃、一軒家内
     パリン、と窓が割れる甲高い音が、屋内に響く。
     その音に、紫電の周りで侍る様にしていた少女達が、思わず悲鳴を上げた。
    「ち、うるせえぞ、屑!」
     少女の1人を手荒く殴りつけ、そのまま割れた窓から入って来た侵入者を睨み付ける、紫電。
    「祈り捧げろ、オラトリオ」
     窓から飛び込んだリアナ・ディミニ(不変のオラトリオ・d18549) が呟くと同時に、ポニーテール姿と化し、槍を両手で構え、ルサールカの姿を取った影が、彼女の背に追随する。
     続けて捻り込むように放たれたその一撃に、驚く風も無く、左手を上げる紫電。
    「ハッ! 遅ぇよ!」
     紫の雷光に攻撃を相殺される間に、アリス・ドール(斬撃の人形姫・d32721) が猫のように身軽なしなやかさでその脇を駆け抜け、近くで恐怖に脅えて俯せになっている少女を素早く抱き抱える。
     その体のあちこちに生々しい傷痕を確認し、内心で怒りに小さく震えた。
    「あっ? なるほどねぇ。こりゃ、甚振り甲斐のある小娘がいるじゃねぇか」
     目の前に現れたアリスに、ペロリ、と嬉しそうに舌なめずりを一つ。
     そのまま紫のオーラを纏った腕を振り下ろす、紫電。
     アリスが少女を抱え込む様な恰好でその一撃を腕で受け止めた時、じん、と芯まで響きそうなほどに重い衝撃を受けた。
     ――でも……。
     不敵に微笑む、アリス。
    「……女の子が……いつも……あなたを怖がると……思わない方が……いいよ……」
    「さて……鬼退治を、始めましょうか」
     青神、火神たちと戦闘しているギィのことを案じつつ、七夕・紅音(痛みを探す者・d34540)が殺界形成を展開し、その腕を銀爪へと変貌させて容赦なくその胸を切り裂く。
     放たれたその一撃を、黒曜石化した腕で防ぎながら、紫電が口の端で笑った。
    「……フン、火神、青神は今頃足止めでも食らっているって所か」
    「冷静ですね」
     アリスが救った少女を引き取り保護しながら、内山・弥太郎(覇山への道・d15775) が左の人差し指からの光でアリスを癒す。
     先程、鞠の様に吹き飛ばされたもう一人の少女の方も気にかかるが、今すぐに保護に向かうのは難しそうだ。
    「サイゾー」
     愛犬たるサイゾーに命じて倒れる少女を守らせる、弥太郎。
    「あなたの様に、人の命を粗末にする様な奴を、見過ごすわけには行きません」
     雲耀剣で斬りかかる御理の刃を受け止め、紫電は馬鹿にした様に首を傾げる。
    「ああん? 正義の味方気取りかよ? そんなんでどうやって生きていくのを楽しむんだ、下らねぇ」
     そして、クククッ、と喉の奥を鳴らして笑った。
    「まあ、テメェら如き噂の半端者が俺を倒せるとは思わねぇが……折角だし、餓鬼どもを相手に戯れるのも、悪くはねぇな」
     御理を紅音の方に投げつけながら、紫電が肉食獣の笑み。
     やはり好戦的な相手か……と思ったが、その視線を周囲にさりげなく飛ばすことで、逃げる機会を用心深く伺っていることに気が付き、御理を受け止め、攻撃の機会を封じられた紅音が軽く舌打ちを一つ。
     ――これは……。
     奇襲が通じなかったことも含めて、自分達が不利な状況にいることを、紅音は肌で感じ取ったのだった。


    「行くぜ!」
     凛凛虎が素早く接近し、無数のオーラを叩き付ける。
     とにかく火力の高い攻撃で敵を落とすことが、自分達に必要な事だった。
     最初の一手で負傷を与えた火神に容赦なく攻撃を加えようとすると、青神がなけなしの勇気を振り絞ってその攻撃から火神を守る。
    「い、イテェッ、イテェ!」
    「おいおいどうした、この程度でもう降参か?!」
     苦しげな呻きをあげる青神を放置し、一瞬でその姿を掻き消す白焔。
    「ど、何処行きやがった!?」
     焦る火神だったが、気が付いた時、足の腱が骨毎斬られたかの様に砕かれ、ガクン、と思わず膝をつく火神。
     膝をついた火神に傷だらけで重たさを感じる体に苛立ちつつ、ギィが黒い炎を帯びた拳を浴びせる。
     本来であれば、その軌跡は見切られるものだが、蒼生の六文字射撃や、先の白焔の一撃で動きの鈍った火神には避け切れず、全身を焼かれた。
    「げ……ゲェェェェ!」
     悲鳴を癒しの力に変えて、火傷を癒す火神。
     火神を守るように青神が自らの腰に納めていた短刀を抜き、斬りかかってきた。
    「って、どっかのチンピラじゃないっすか、やっていること」
     白焔の代わりにその攻撃を愛刀で受けながら、ギィが溜息を一つ。
     青神が歯ぎしりする間に、凛凛虎が青神の隣をすり抜け、戦艦斬り。
     深紅の大剣による袈裟斬りに、肩から腰に掛けてを斬り下ろされた火神の背後に、白焔が一瞬で回り込む。
     今度は喉仏事喉を貫かれ、声を上げることすら出来ずに息絶える火神。
    「か……火神! ヒ……ヒィッ!」
     蒼生がギィを癒す間に、青神が脱兎の如く、走り出す。
    「! チッ! 待ちやがれ!」
     凛凛虎が其れに気が付き、慌ててその後を追う。
    「……どちらかを灼滅すれば、直ぐに逃げ出す相手だったか」
    「急がないと紅音たちがヤバイっす!」
     白焔の呟きにギィが頷き、2人は、凛凛虎と共に素早く青神の後を追った。


    「……くっ……!」
     毒霧を吹きつけて来る紫電の攻撃に、リアナが、冷や汗を滲ませる。
    「……切り裂く……」
     体を蝕む毒に顔を歪めそうになりながら、アリスが陽炎の様に紫電の視界から消え、次の瞬間、死角からその足を切り裂く。
     断たれた紫電の肉から鮮血が飛び散るが、気にした様子もなく、紫電がその服の中に隠している仕込み刃で、アリスを串刺しにしようと一突き。
     急所を狙ったその一撃を、猫の様にしなやかな動きでギリギリまで引き付けて体を僅かに傾け見切るアリスだったが、完全にその勢いを殺すことは出来ず、首の皮が斬られ、ツッ……と血が滴り落ちた。
    「アリス先輩……!」
     痛みを堪える様にする彼女を飛び越え、御理が星屑を帯びた蹴りを放つ。
     追撃をしようとしていた紫電の腕を砕かんばかりの勢いで蹴って御理が牽制する間に、弥太郎が、アリスを止血。
     続けてリアナが紫の影、ルサ-ルカを大蛇の形に変えて、紫電の右腕を覆う様に襲い掛からせる。
    「へぇ……まあ、俺の火力を抑えようとするのは、良手だぜ。……最も、こっちもあるけれどな!」
     右腕に絡みついた影を自らの方へ引くことで、逆にリアナを自分の方へと引き寄せ、そのまま左腕を紫のオーラに包み込み、そのまま真っ直ぐに突きこんでくる。
    「……! カハッ……!」
     腹部に強烈な一撃を受けたリアナが喀血。
     紅音が引き離そうと接近し雲耀剣。
     紅音の一撃で右腕を斬られ、その隙をついてリアナは離脱する。
    「サイゾー!」
     弥太郎の命令を受けたサイゾーに癒され、口の辺りについた血を拭い、妖冷弾を撃ち出すリアナ。
     撃ち出されたそれに紫電が肩を凍り付かせ。
    「……引き裂く……」
     アリスがその腕を銀爪に変え、紫電の胸板を一撃を見舞う。
     胸を切り裂かれ、血を流しながらもまだまだ楽しそうに笑いつつ、素早く毒霧を吹き付ける紫電。
     毒の蓄積による負傷を警戒し、咄嗟に灼滅者達が距離を取ったその時……。
    「あ……アニキッ!」
    「青神か! 丁度いい、やれ!」
     入り口から姿を現した青神に指示を出すと青神が大ジャンプ。
    「えっ?!」
    「くらえ!」
     警戒し、御理や弥太郎が上空を見た時、空中に飛びだした青神が起こした嵐が、前衛の者たちを飲み込んだ。
    「……くっ!」
    「……ぐっ?!」
     嵐に巻き込まれた家具やガラスの破片が2人を傷つけ、更に嵐がやんだ時、クラクラと激しい眩暈を覚える。
    「……ケホッ」
     ――……毒……。
     紫電によって蓄積されていた毒が更に累積し、内側から自分の体を食い荒らしていくような苦しみを覚えながらも、アリスは不敵に微笑み、刀を構えて紫電とその前に立ち塞がる青神を睨み付ける。
    「癒しの風よ!」
     弥太郎が小さく祈り、右手に持つ蒼く輝く剣を掲げ、癒しの風で2人を覆う。
     傷を癒され、毒を緩和されつつも負傷に顔を顰めながら、リアナは青神を睨み付けた。
    「火神の奴は?」
    「すいやせん!」
    「……フン、まあ、いいか。こっちもこうしてやりゃぁ、いいんだからな!」
     みなまで言わずに、紫電が素早くその指から紫の雷を放とうとする。
    「女性ばかり狙う、ただの卑怯者ですね、あなたは」
    「ハッ! 無駄な挑発だ!」
     弥太郎の挑発を聞き流し、そのままリアナを狙い、雷を放つ紫電。
    「させません……!」
     制約の弾丸で御理が止めようとするが、雷光の勢いを殺し切れない。
    「! くっ……?!」
     リアナが、影を展開して盾としようとするが。
     ――間に合わない……?!
     戦闘不能を覚悟した、その時。
    「やらせはしないっすよ!」
     目の前に覆いかぶさる様に影が1つ。
     ギィが我が身でその攻撃を受け止めていた。
    「大丈夫っすか、リアナさん?」
    「……ありがとうございます」
     彼女が小さく頷く間に、風のような速さで、白焔が駆け抜けていく。
     と同時に、不意に青神の背から、白焔の槍の穂先が突き出された。
    「ち、こいつは……!」
    「お前らは所詮犬っころだよ」
     続けて破壊と殺戮の使命を帯びた光が、乱打となって青神を襲う。
    「ゲハァ……!」
    「よう、犬っころ」
     苦し気に呻く青神とその向こうの紫電を、嘲る様に笑う凛凛虎。
     紫電がそんな凛凛虎を、鼻で笑って両腕を組んだ。
    「噂の半端者達の残りか。丁度いい、テメェらもまとめて相手してやるぜ」
    「あんまり、俺達を舐めない方がいいっすよ、腐れ外道。おっと、この言い様は外道丸に失礼っすか。あの羅刹は、自分なりのルールは持っていたっすからね」
     ギィの挑発を合図にする様に、恋人を傷つけられ、怒りを覚えた紅音が接近し、雲耀剣。
     怒気を孕んだその一撃にざっくりと左腕を斬り裂かれ苦しげな青神に、御理が続けてスターゲイザー。
     星の力を帯びた蹴りが青神の頭部を打ち据え、休む暇を与えず白焔が炎を帯びた足で一蹴する。
    「ぐぇぇっ……!」
     頭部を連続で蹴り飛ばされ地面に倒れる青神の死体を踏み越え、紫電が、その右腕に紫のオーラを這わせてリアナの影を破壊し、そのまま凛凛虎を殴り飛ばそうとするが。
    「無駄無駄無駄無駄無駄ぁっ!」
     負けじとばかりに斬艦刀で受け流しつつ、凛凛虎が拳を鋼化させての正拳突き。
     凛凛虎の其れが腹部に直撃し、紫電が微かに息を詰めるが、続けて左腕でギィを狙う。
    「やらせない!」
     リアナが牽制とばかりに影縛りで深手を負わせ、その勢いを弱めるが、完全には削ぎ切れず、紫電の刃がギィの心臓を貫こうとした、正にその時……。
     割って入るように姿を現したアリスが深々と刃に貫かれていた。
     それは、本来であれば致命傷になる一撃。
     ――だが……。
    「……逃がさない……」 
     魂が肉体を凌駕し、刃を抜いたアリスが狼型の影で紫電を締め上げる。
    「ちっ……!」
    「すまないっす、アリスさん!」
     礼を述べつつギィが紅蓮斬。
     それに追随して、紅音が雲耀剣で紫電を深々と断ち切り。
     影の様に姿を現した白焔が電光石火の蹴りでアキレス腱を断ち切り。
    「お前に断罪者なんて似合わんってこった!」
     凛凛虎が雷を帯びた拳で、紫電の顔を真正面から殴り飛ばし。
    「最後まで戦いましょう」
     御理の撃ち出した弾丸が、まだ健在だった片足を射抜き。
    「続きます」
     弥太郎が神霊剣で紫電の左腕を斬り裂き。
     蒼生と、サイゾーの斬魔刀が交差し、紫電の右腕を断ち切った。
     そして……。
    「これで……終わりです!」
     リアナの螺穿槍が紫電の胸を貫き、槍を引き抜く動作と共に、膝を崩す紫電。
    「ちっ……俺が……」
    「所詮、お前は駄犬でしかなかったってことだ」
     凛凛虎の言葉には答えず、紫電は地面に俯せに倒れた。


    「……『断罪者』の名……アリスが……もらう……から……」
     俯せに倒れている紫電に小さくアリスが呟く。
     まだ、僅かに息をしていた。
     例え、外道であったとしても、介錯位はしてやるべきだろう。
     だから、アリスはその手に持つ絶刀「Alice the Ripper」を背中から心臓目掛けて突き入れる。
     微かに息を漏らし、末期の痙攣の後に、消え逝く紫電。
     その間にサイゾーに守られていた少女を心霊手術で救護する弥太郎。
     程なくして、少女が呻く様に呟く声が聞こえて弥太郎が安堵の息をつく。
     幸いにも死者が出なかったことに安堵したリアナが紅音と共に負傷と疲労から倒れかけたギィを両側から支えたところで、ふと、胸に過ぎった想いを小さく口に出した。
    「天海の政策……これでは徒に事件を増やしただけ……何も変わっていないじゃないですか……」
     彼女の囁きに答えられる者は、誰もいなかった。



    作者:長野聖夜 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年11月13日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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