芸術発表会2015~レシピが綴る物語

    作者:菖蒲

    ●『芸術発表会』とは何ぞや
     秋とは、様々な可能性を内包している。
     食欲、スポーツ、読書――そして芸術。武蔵坂学園の秋の風物詩、芸術発表会。
     11月20日に開かれる一大イベントに向けて11月初頭から準備が始められている。時間割の変更が「この季節がきたか」と実感させるものだ。
     一部では、自習が増えて教師も楽だとか、出席を取らないからいろいろ誤魔化せて便利だとか……そんな声もちらほらと聞こえてくるが、多くの生徒にとっての『青春』はそんな声さえも打ち消す事だろう。

     芸術発表会の部門は『創作料理』『詩(ポエム)』『創作ダンス』『人物画』『書道』『器楽』『服飾』『総合芸術』の8つ。
     芸術発表会に参加する学生は、これらの芸術を磨き上げ、一つの作品を作りあげるのだ。

     11月13日に向け、芸術と言う名の火花を散らせ!
     それこそ――武蔵坂の『秋』なのである。

    ●recipe
    「……創作料理コンテスト、ですか」
    「食欲の秋、だもんなぁ」
     西園寺・アベル(高校生エクスブレイン・dn0191)の秋(せいしゅん)がやってきた。
     芸術発表会とはなんぞやと書かれたプリントを手にしたアベルの瞳が僅かながらに嬉しそうなのは『料理』が絡むからだろうか。
     君と共に騒がしい学内を歩いていた海島・汐(高校生殺人鬼・dn0214)が「今年も始まったなぁ」と『芸術発表会』に向けて張り切りだす学内を見返して息を付く。
    「芸術発表会の一つに創作料理コンテストというものがあります。
     生憎、私は裏方ですが……新しい『レシピ』に出会えるのは中々に興味深いですね」
     君への説明がいまいち足りていない。頬を掻いた汐は君へと情報を付けたしてゆく。

     芸術発表会は武蔵坂の秋のイベントだ。様々な部門で芸術を競い合う――そのうちの一つに『創作料理コンテスト』があるのだそうだ。
     友人同士で、クラブの仲間と、クラスメイトと、恋人と。勿論、誰とペアを組んでも良い。そう言った相手と競い合うのだって良いだろう。料理は作る過程も楽しいが、誰かの為に作るのだって勿論楽しみの一つだ。
    「アベルは裏方なのか……俺はどうしようかな」
    「芸術発表会は8つの部門がありますが……創作料理、ポエム、創作ダンス、人物画、書道、器楽、服飾、総合芸術――そのうち、創作料理部門に出てレシピを考案するのはどうでしょうか?」
     アベルの言葉に汐はそうだなと笑って見せる。君へ向けられた視線は期待が込められているようで――
    「武蔵坂学園に慣れてない人も、慣れてる人も、一人でも友人と一緒でも、『料理』はぜってー楽しいからさ。不器用な俺も頑張るし……だから、お前も一緒にやってみようぜ?」
    「何か迷うようでしたらどうぞ、参加してみて下さい。裏方としてサポートしますから……」
     どうぞ、と手渡された創作料理部門のチラシを手にした君は……。


    ■リプレイ


     秋の冴え冴えとした空気にふるりと体を震わせて、待ち望んだこの日がやってきた――!
     芸術発表会の『創作料理コンテスト』部門は賑わいを見せている。
     テーブルの上に並んだ色とりどりの食材を眺めながらアルコは気合十分、去年の雪辱を晴らすぜと腕まくり。
     愛しい誰かの幸せな笑顔を見る為に――いざ!
     自作のラスクにカルパッチョ風の炙りサーモン、アボガドソースと海老、レモンクリームと煮林檎タルト風、ココアクリームとオレンジペコのショコラ風……料理系からデザート系まで様々なカナッペを作り上げてゆく。
    「へへっ、結構色鮮やかになったぜっ! 名付けるなら、そうだな……『思い出カナッペ』かなっ」
     学園生活、灼滅者生活を思い出す様なそんな一品に思いを乗せて。
     設備十分、流石の武蔵坂学園キッチンにて薄めの生地を軽く焼いた巧は生地の中央に蒸かした甘さ控えめスイートポテト風餡を置く。勿論、蒸した甘藷に牛乳、バター、砂糖を加えたオリジナルのものだ。
     その外周にカスタードクリームを薄く塗りシナモンをきかせたリンゴの砂糖煮を並べるだけでも美味そのもの。
    「さて、何枚必要でしょうね……」
     一手間を惜しまない巧は栗の渋皮煮にミルクと三温糖を加えフードプロセッサーにかけて甘栗のみじん切りを咥えた甘めのマロンクリームを塗る。
     薄く剥いたリンゴの皮を紅葉の形に型抜きして、塩水に曝したものを飾れば、『秋道三色デザートピザ』の完成だ。
     甘い匂いの漂う室内で、パイ生地をうすく伸ばす真琴は「楽しみだなぁ」と笑みを零す七波に嬉しそうに表情を綻ばせる。
     紅茶を混ぜて紅茶風味のアップルパイ、スタンダードなものと二種類をセッティング。勿論アップルティーで林檎づくしの用意を整えた。
     真琴の下ごしらえした物を餃子の皮に並べ、油で揚げる七波はシナモンパウダーを振りかけて小さな『アップルパイもどき』を作成してみる。
    「こうしたアイディアお料理、楽しくておいしいです。また、一緒に作って下さい」
     嬉しそうな彼女にお茶会風のセッティングを完成させて、空腹の合図の音に二人揃って笑みを零した。
     勿論、旬の食材だって大切だ。広大なる自然な気にその身を投じた宥氣は現地直送フルーツを切り盛りにしたものをご提供。
    「自然界の素材そのものの良さを生かした料理も大事だな」
     旬の林檎の人気は上々。本場フランスで鍛えた腕を試す時が来たとジャンマリーは相方へと視線を送る。
     皮つきの林檎を厚めに剥いて作成したコンポート。赤と白の薔薇を作成する吉良は装飾係の相方へと絶対の信頼を置いているようで。
    「オレたちの考えたものがどこまで通用するか、腕試しだな」
     グラニュー糖で作成したカラメルソースを焦がして作った飾りとLOVEの文字。クランベリーソースのハートが二人の愛情を思わせる。
     火傷に気を使う様に声を掛けた吉良にきゅんと胸を高鳴らせたジャンマリーの幸福が料理からは感じられた。
     素材の味は大切だ。しかし、それを合わせる事で更なるハーモニーを産むのではと悠花は料理を続けた。
     フライパンに焼きそばと少量の水を加えて蒸し焼きに、冷凍チャーハンを混ぜ込んでソースと調味料で味を整えたものに卵を乗せる。名付けて『オムそばめし』の完成だ。
    「オムそばとそばめしを合わせただけでは、という突っ込みは却下します。ともかく、わたし、失敗しないので」
     ずずいと審査員へとアピールを欠かさない彼女の自信作のお味は?


    「審査員と言う名の食い倒れをしに来たわ……冗談よ?」
     真顔で告げる銘子に杣が尻尾を揺らして居る。杣とデートと瞳を輝かせるミカエラに織兎は「楽しみだぞ~」と料理作成に勤しむ【元社務所】のメンバーを眺めている。
     今年の彼らは一味違う。紗里亜と小次郎の戦いが勃発していた。
     惣菜屋の娘として紗里亜の作成する『お野菜たっぷり、季節の恵みまん』は倶楽部の畑で作成した野菜と茸に味付けし、しっかりと趣向を凝らした逸品だ。
     不足しがちな野菜をたっぷりと摂れ、干した事で旨みを増す優しの出汁があっさりとしながら肉や魚に負けない味わいを感じさせる。
     一方の小次郎は『冬の到来を待つ武蔵坂の大地』というテーマで作成する天麩羅が意外性を感じさせた。
     シフォン生地で包んだバニラアイスのテンプラにチョコのデコレーション。周辺のルバーブやベリーなど14種のデザートが織りなす季節の移り変わりがなんとも鮮やかだ。
    「こってりとあっさりどちらも良いけれど……」
    「料理……何でも好きだけど肉料理が食べ……みたいな!」
     きゅうと腹を鳴らした織兎に思い出を探す銘子が悩ましげに眉を寄せる。さて、ここで判定基準を確りと持ったミカエラの登場だ。
     色彩豊か――どちらも。歯ごたえ――これもどちらも。そして。
    「茸類~。いただきまっす!」
     今回は紗里亜の勝利と言う事で。勿論、小次郎の作品も美味しく頂きました。
     想希と悟のホットアップルパイは勿論、二人の愛の結晶だ。
     ホットアップルパイはバターを入れた鍋に林檎と砂糖。暫く煮てからシナモンを。
    「煮紅玉とろりめっちゃ甘そ」
     満たされるでと満足げな悟に想希は嬉しそうに眸を細める。箸休めにと作成された甘露煮の香りに幸せを予感させると想希は咽喉を鳴らす。
     盛り付けは悟作成の相思相愛な白鳥夫婦と林檎の木の葉を周囲に飾って、パイの湖を作ってゆく。
     さくりと落ち場を踏みしめて後とろり溢れる黄金の風、そして甘い香りと共に幸せが羽ばたいていく。
    「仕上げのアイスもそえて、甘さと酸味のハーモニーをご覧あれ」
     香る紅茶の香りに誘われて、幸せ溢れる収穫祭は始まったばかり。
     茶葉研究会『LEAVES』の名の通り【LEAVES】の三人はお茶をと秋をテーマにした弁当作りに勤しんだ。
     焙じ茶を使った炊き込みご飯は秋らしく栗をそのまま焼き、茶葉をフライパンで焙じて見せる。
    「この日の為に特訓してきたからねっ、任せて」
     胸を張る勇介に肉の担当者である芽衣が楽しみだと微笑みを浮かべる。しかし、その表情は真剣そのものだ。
     紅茶を使用して作成する角煮。味付けを施して、40分煮てから蒸す時間が訪れる。
     その間に作成した隠し味を入れたちょっと辛めのたれは他のメンバーの料理にもよく合う一品だ。
     芽衣と勇介の料理に合う様にとアイディア満載の曜灯はセイロンとシナモンのチャイを溶き卵に混ぜ合わせた卵焼きを一つ作成して見せる。
    「アイディア料理だね。良いお嫁さんになれるね!」
     微笑みを浮かべた曜灯の二品目は宇治茶の生茎を出し醤油で軽く似てから金平ごぼうを作成。白ゴマの風味が何とも香ばしい一品はご飯にもよく合うだろう。
    「ふふ、いいお弁当ができそうね」
     秋の行楽弁当がこちらこちらと手招くようで、思わず空腹のサインが鳴り響く。
    「ついにやってきたです芸術発表会! 今年も頑張るですよー!」
     ナノナノのもこもこがちょこんと乗った箒を手に魔法使いの三角帽を被っためりるがやる気を漲らせる。
     【魔法使いの隠れ家】の面々の作成する『魔法使いの巨大パフェ』はまるで魔法にかけられたように――鮮やかだ。
     透明な器に星やハートのカラフルゼリーを投入するめりるに続き、クリスマス仕様の帽子を被った真琴はゼリーのバランスを考えながらコーンフレークも振り撒いてゆく。
    「それっ!」
    「あ、フレークめっちゃ砕けた……」
     チョコチップバニラ、チョコ、バニラと積んでゆくアイスの重みに耐えきれないとギブアップの声が聞こえる。
     雪緒はアイスの倒壊防止にスティック型クッキーを挿入し、ぐらりと揺れるパフェの完成を祝い合う。
    「わー! かわいいのです! 魔法使いの巨大パフェの完成ですー!」
     一方の【フィニクス】の面々の野望は巨大だ。
     酸っぱいレモンアイスと生クリーム。不死鳥型の『とりさぶれ』を手にした清はぱちくりと瞬く。
     紅いグラデーションに波打つ形が不死鳥を連想させるパフェ用グラスを用意した勇弥のマジックに掛かったからだ。
     卵白と砂糖だけで作ったメレンゲで色付けを添えて色の変わる魔法に素敵だねと笑みを零すさくらえは恐る恐ると果物の皮を剥く。
    「あ」
     ずるりと刃物を滑らせたさくらえに周囲もひっと小さく息を飲む。彼女のそばで「芸術的ですね」と柔らかく告げる空凛が正しい切り方のレクチャーをせんと隣へと移動してくる。
    「技術は見事なものですが、えっと、よろしければ切り方教えましょうか?」
     二人掛かりで始まる包丁レクチャーは危険因子(さくらえ)を捕えている。
     その間にブルーベリーとチョコアイス、林檎の添え、パフェの具を揃えたそれに健がドラゴンフルーツを置いてゆく。
     ブレンド濃い目に入れたコーヒーで作成したコーヒーゼリーもカフェ:フィニクスの自慢の品だ。
    「健も手伝いよろしくね♪」
     大変なこともあれど、結果的には『大成功』なパフェ作り。無茶するなよと声を掛ける勇弥が手招けば、巨大パフェを背にやることは一つ。
    「目にも美味しい一品なはず!」
     健のブイサインに誘われて「こっちこっちぃ~」と手招く清がシャッターを切る。フレームに収まった笑顔の可愛らしさはなんとも言えない幸福に満ちていた。


     初めての芸術発表会は緊張の連続だ。料理の経験は皆無でも練習してきたと裄宗は郷土の料理を思い返す。
    「母上が秋田の出身なので、時折……作って下さいました」
     鶏もも肉、牛蒡、白滝に舞茸、ご飯をすりつぶして丸めただまこもち。記憶にある母の料理のレシピは解れど、一人では心細い。
    「今日は、それを作ります、ね。あの……海島先輩、不破さん、もし良ければ」
     一緒にとの誘いに「はりきっちゃう」と微笑む真鶴は汐の手を引いて裄宗先生のレシピを聞きながら調理に移る。
     出来上がりも楽しみだけど、作るのだって、皆でなら楽しいと。
     思い出に残るそれはどこか懐かしい香りがした――
     創作漬物丼の作り方は簡単と蘭花はたくあんを山盛りに乗せた丼をご提供。
     和食の好きなイリスは「例えば、かつ丼とか天丼みたいな料理は作りたくなるよね」とうんうんと頷いた。
     シンプルで誰でも簡単に作れる料理のポイントは高いという彼女の視線が注がれたたくあん丼。
    「審査員の皆さん、漬物の美味しさを味わって下さい」
    「……違う。イリスが求めてたのはコレじゃない」
     全力のたくあんはイリスのお眼鏡には掛からなかったようだ……。
     食べた人に喜んでもらえる料理――冬と言えばシチューだと久良は創作料理として和のテイストを追加する。
     名付けて『羊肉のスタウト煮込み 霜月風』だ。
     スタウトとチキンスープ、鰹だしと椎茸のだしでじっくり煮込んだ羊肉と秋野菜のシチューは絶品そのもの。
     シナモンで煮込んで臭みを消した羊肉と飴色タマネギがポイントだ。カラッと炒めたゴボウと下茹でした野菜をふんだんに使用したシチューを笑顔で豪快に調理する。
    「できるだけ、優しい味に仕上げてみたよ」
     料理は食べる人があってからこそ。一生懸命さが伝わればと久良は楽しげに瞳を細めた。
    「さて今年は一人で参加っちゅうことやし、しっかりキバっていかなな!」
     豆乳出汁の柔らかく優しい鍋は初冬に丁度良い。鱧の淡泊さはごま油で風味付けも完璧に。
     柚貴は料理に笑顔を込めて、楽しめる事を第一に作成してゆく。
     白さが全面的に押し出される鍋を春菊で色身をカヴァーし、シメはうどんで完成だ。
    「豆乳の柔らかな味わいで寒くなり始めるこの寒い冬もしっかり乗り切るためにいっぱい食うてくれな!」
     なめろう餡は鯵、鰯、秋刀魚、甘エビ、コウイカ、トビウオ、アワビ、ズワイガニ……。
     蟹も丹念に身をほじり、魚は頭を取り除きしっかり処理済み。円の隠し味は梅を一つ。
     トマトに大葉に紫蘇に茄子汁に九条ネギ、紫芋に南瓜にホウレン草に人参、様々な皮を作成しなめろう餡を包んでゆく。
    「うぅ……精根尽きた」
     ビスマス水餃子と名付けたそれに肩をがくりと落とした彼女のアイディア料理は秋らしさを感じられた。
    「みんなでカレーを作りましょう」
     具を持ちこんで、全部入れちゃう、と切なげな樹曰く、今回の料理は『闇カレー』だ。
     心配そうな樹をさておいて封華が用意したのは納豆、粒餡、ドリアン。匂いはカレーのスパイスで消える筈と遠慮なくぶちまけた彼女は祈る様に「お願い消えてくれますよね」と鍋を掻き混ぜている。
    「必殺美少女闇カレー! なんてね」
     鮭、アスパラ、そしてスパイスたるターメリック、クミン、コリアンダー、チリペッパー以下略を投入する響の楽しげな様子に【音楽遊所】の雲行きが悪くなる。
     すりおろし林檎と蜂蜜ミックスと牛肉という無難な具材が入れど、これは――
    「うう、凄い匂いなの……」
     ひょこりと顔を出した真鶴の言葉にはっとした様に樹が顔を上げる。慌てた封華の目の前に出来上がった闇カレーは匂いをさておいて、お味は……?


     秋は食べ物のおいしい季節――あるなは『秋の甘みのカップデザート』の御提供。
     じっくり加熱して甘みも十分な安納芋を裏ごしし生クリームと牛乳を混ぜたパンナコッタにはさっぱりとしたイチジクのフルーツソース。
     他のデザートも食べられる様にと小さめカップでのご提供。さて、そんな中でもあるなの視線が向いたのはソロ参加で寂しげな武流の料理。
     愛しい彼女の都合が合わなかったソロ参加の彼作の『秋巻』は『武流風秋巻』の名でアレンジが加えられていた。
     秋鮭を賽の目に切り、旨みを伝える細長く刻んだ人参と四方竹、干しエノキをイクラと南瓜クリームと一緒に春巻きの皮で包んで揚げた酔う風仕立て。
    「秋の味覚を手軽に食べられてぽかぽか暖かくなる料理がいいかなって」
     自慢げな彼に誘われて、乃麻は『食べる専門』だと「おいしいもんはしあわせやなー」と楽しげに頬張る。
     勿論、食べる専門である以上は様々な審査にも向かっている。甘い物が食べたいとアップルパイやパフェへと歩を進める彼女の視線に次は何が止まるだろうか?
     料理と言えば、ご当地。ご当地と言えば、料理。
    「と言う訳で今回はプチお好み焼きのコース料理って感じで挑んでみるよ!」
     そう告げた來鯉は前菜は少なめに岩手のどんどん焼きのアレンジを。
     サラダはたくあんと紅ショウガ、ネギを入れて焼く遠州焼きをベースにアレンジを加えた。
     メインは勿論、ご当地、庄原焼き。麺を米に、ソースをポン酢に変えたそれはあっさりと食べられる。
    「二皿目も広島のご当地お好み焼きの一つ」
     呉焼きは焼きうどんの様に調理したものを半月状に折って食べる物だ。ご当地ラッシュのラストを飾るのは徳島の豆焼き。
     炭水化物のフルコース。勿論、ご当地アピールを忘れない來鯉らしい一品だ。
     冬は寒い。【料理研】の三人はそんな初冬にぴったりな料理を作ると意気込んだ。
     厚切りベーコン、薄切りの豚肉、生鮭、じゃがいも、人参、ブロッコリー、ホウレンソウ、ハクサイ、ミニトマト。塩コショウにチキンコンソメ。
    「誰でも簡単につくれる簡単料理なんですけどね」
     楽しげに眸を細める安寿の隣で鮭のアラを炙って取った出汁でご飯を炊いて、海鮮親子丼の準備を整えた。
     バーナーで炙った身と醤油漬けの筋子が咥内で楽しげに踊っている。暖かいご飯の上に、筋子の湯葉巻きがなんとも真新しい。
    「崩して混ぜご飯みたいにしても湯葉のパリパリが混ざって楽しい触感がして美味いぞ」
     わ、と華月が感嘆の息を漏らす。鯛に鮭、にんじん、かまぼこ。たら、ホタテ、大根、白ネギ、ハクサイ、豆腐。
     昆布だしの一人鍋に紅白の色が美しい。代わり鍋は大根おろしともみじおろしの二種類でなんとも鮮やかだった。
    「勿論、ポン酢でどうぞ」
     確り用意された三品は何時も通りの彼女達の『料理』。
     見た目も味もしっかりしたソレとは対照的にシャグマアミガサタケという毒キノコを手にした危険人物がいた。
     弁解を聞けば「先生方、つまみ出すのは待ってほしい。
     確かに毒キノコだけど、こいつは毒抜きをして食べられるれっきとした食材。
     フィンランドなんか普通に売られてるしネットで購入も可能なんだぞ? 日本で言う河豚みたいな物だな」とのことである。
     煉の『禁断のキノコなべ ざ・さーど』はコンソメベースのスープで紫のとろみのある魔女の大鍋を思わせる。
     誰か、コレを食べる勇気がある人物を募集したい……。
     フランクフルト入りのカレーパン。今年こそ入賞狙いの光影は隣の惨劇から視線を逸らし出来たてに拘って配ってゆく。
    「ポイントは細かく刻んだ玉ねぎや豚肉の小間切れを入れたカレーだよ」
     カレーパンの中身は大きなポイントになる。それと共に食感の変わるボリュームあるウィンナーがカレーパンの常識を覆した。
     揚げたてほやほやのカリカリとした食感とウィンナーの肉厚に一度は驚かされる事だろう。
    「倭くんお料理お疲れ様!」
     瞳を輝かせるましろは『約束』のスイートポテトを見詰めて瞳を輝かせる。
     鳴門金時、アヤコマチ、アヤムラサキで黄・橙・紫の三色スイートポテトクリームを作成し、メレンゲクッキーの薔薇を添えた力作は愛しい彼女の為。
    「お店で売ってるのより美味しいよ……! 何か秘密があるのかなあ?」
     嬉しいと頬張るましろに倭は嬉しそうに口元を綻ばせる。隠し味はもちろん『美味しく食べて貰いたい』という思いだ。
    「美味しいのをありがとね、あーん♪」
    「こちらこそ、お前が美味しいと言ってくれるのが何よりの御褒美だよ」
     甘さは何もデザートからだけではないようだ。柔らかな甘みに暫し酔いしれて。
     幸福そうに「おいしくって、笑顔になれる料理、沢山ありますね♪」と陽桜は真鶴を手招いて食べ歩き。
     菓子を抱えた汐に「あたしは、お菓子が食べたいなぁ」とひとつつまみ食いして見せる。
     お城の様に大きなものも、びっくりする様な味の仕掛けも何があっても楽しみで。
     陽桜に「じゃあ、マナとびっくりを探しましょうね」と嬉しそうに笑う真鶴は彼女のお菓子知識に幸福そうに耳を傾けていた。
     ご期待スイーツの登場は胸の高鳴りを感じさせた。独逸料理では無くスイーツをセレクトした沙雪のナノナノパフェは何とも可愛らしい。
     白玉を食紅やチョコペンで細工した小さなナノナノを豆乳ベースのアイスクリームや生クリーム、バナナ、キウイ、リンゴ、カステラで飾ってゆく。
    「ナノナノの表情はノーマル、笑顔、寝むそうな感じの3種。可愛いだろう?」
     ヘルシーなのも嬉しい所。彼の微笑みに誘われて、アイスクリームを一口含めば冷たさが伝わった。
     真顔で『カラフルなゲルニカ』を眺める流希はラズベリーソースとクランベリージャムの併用された飴細工地獄変に悩まされる。
    「あ、味には自信がありますよ……」
     自分の持てる技術を詰め込んだそれは食べるには勇気のいる一品の様にも思えた。
    「文武両道がうちの道場の方針だからね、今日も頑張るよ!」
     なゆたの作成するアップルパイは裏ごししたサツマイモと秋の木の実を生地にふんだんに使用する。林檎を並べ、卵をハケで塗って終わりでないのが文武両道の道場娘。
     隠しアズのインスタントコーヒーは、ちょっとした苦みに林檎とサツマイモの甘みを感じさせる。
    「秋を閉じ込めたパイ、食べてみてね」
    「こっちも負けてませんよ? 名付けるなら秋のケーキ・アラカルトでしょうか?」
     柿、梨、葡萄の果汁を染み込ませた三種類のスポンジケーキ。それぞれの果汁を使用した三色クリーム。
     様々な組み合わせで楽しめる一口ケーキは組み合わせが違えばあっと驚く味わいが感じられて飽きが来ない。
     白桃の香りを染み込ませた茶葉で淹れた紅茶で食も進む事だろう。
     すんと鼻を揺らしながらも甘い香りに包まれた望はエクレアを提出して見せる。いちごクリームとカスタードクリーム。一つで二つの味が楽しめるのは大切な人が大好きな料理だからという一手間の句風。
     苺チョコとホワイトチョコに分けて、二つのチョコの境目にミルクチョコのアネモネを添える。
    「名前はそうですね……アネモネの花言葉と色に準えて『愛と希望のエクレア』とでもしましょうか」
     何処か恥ずかしいとへにゃりと肩を落とした望はプレゼントした時に、彼が喜んでくれるだろうかと四苦八苦。
     結果はどうなのだろうかと今から楽しみなモノだった。
     さて、大詰めの創作料理コンテスト。和正の「カズマ流ロブスター秋の味覚仕立て」は秋の季節満載だ。
     生きたままのロブスターを松茸とじっくり蒸す事で増す味わい。マツタケの香りと共にバターを擦り込んでグリルしたロブスターに茸を混ぜたアボガドソースを添える。
    「高級食材であるロブスターを食べる機会は普段あまり無いと思うからこの際だし思いっきり贅沢に食べられるようにしてみたぜ」
     この季節限定と言われれば食べない訳にはいかないではないか。
     贅沢料理に暫し舌鼓を打つのも悪くない。さあ、美味しい時間を楽しもうじゃないか――

     結果発表の時間だとフロアに集められた参加者各位に評価委員長を務める学生が投票結果を持ちよった。
     甘味を期待する声も多かった。尚且つ、創作性のある料理を作ったとして表彰されたのは……!
    「わ、わ、沙雪さんおめでとうございますなの!」
     舞台の上へと招かれたのはヘルシーパフェ作成の沙雪。豆乳ベースのアイスはヘルシーで女性からのスイーツの声が多かった今回のコンテストでは人気を博していたようだ。
     激戦区・創作料理コンテスト。
     秋の風物詩たるこのイベントで『秋』を味わい尽くして、満喫してみてはいかがだろうか?

    作者:菖蒲 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年11月13日
    難度:簡単
    参加:54人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 11/キャラが大事にされていた 5
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