いちごもちと羽二重そば餅、いちごモッチア登場

    作者:聖山葵

    「なんだ、またやってるのか?」
    「ああ」
     半ば呆れた様に尋ねた少年は戸口にいた級友の短い返事に教室の中を覗き込んだ。
    「いちごもちに決まってんだろ」
    「いいや、羽二重そば餅! ここは譲れない」
     机を挟んで言い争う少年と少女が話題にしているのは、おそらく机の上の二種類のお餅についてなのだろう。
    「あれって、どっちが上手いか食べ比べて終わるいつものだよな?」
    「そうそう。飽きないよなぁ、あいつら本当に」
     ただ、この時見物人二人はまだ気づかなかった。二人の内片方が羽二重そば餅を口にして固まったことに。
    「ん? 様子がおかしくないか」
    「……そう言われれば、って、何だよあれ?!」
     気づき、訝しんだ時には異変がもう誰の目にも明らかだった。
    「もっちあぁぁぁっ」
     涙目で咆吼したご当地怪人は、机の上の残ったいちごもちをひったくると窓を突き破って教室の外に飛び出したのだった。
     
    「闇もちぃして一般人がダークネスになる事件が発生しようとしている、今回はいちごもちだ」
     情報提供者である鈴木・レミ(データマイナー・d12371)のとなりで腕を組んだ座本・はるひ(大学生エクスブレイン・dn0088)は君達を出迎えるなり、そう告げた。
    「そしてこれが羽二重そば餅っすか」
    「ああ、土産のお裾分けだ。遠慮なく食べるといい」
    「いや、それより先に説明するべきじゃないっすか?」
    「……ふむ、一理あるな」
     一理どころかそれが本題だろうとどこからツッコミが入ってもおかしくない状況だったが、レミの言葉に頷いたはるひは説明に戻った。
    「では問題の一般人だが、人の意識を残したまま一時踏みとどまるようなのでね。君達には、件の人物が灼滅者の素質を持つのであれば闇堕ちから救い出して欲しい」
     また、完全なダークネスになってしまうようであれば、その前に灼滅をというのが、はるひからの依頼であった。

    「それで、今回闇もちぃしかけている人物の名は一小路・京護(いちこうじ・けいご)、高校一年生だ」
     餅の好み以外は親友と言っても良いぐらい仲の良い異性の友人と、いつものようにどちらの餅がうまいかと口論になった京護は、突如ご当地怪人いちごモッチアに変貌し、窓ガラスを突き破って教室の外に飛び出すらしい。
    「二人とも餅には妥協しない。相手を唸らせるべくより美味い餅を探した結果と言うことだな」
     おそらく、美味しいと思ってしまったのだろう、京護は羽二重そば餅を。そして敗北感に打ちのめされ、ご当地怪人に変貌してしまったのだろう。
    「ただし、この勝負は実質的に引き分けだったのだがね」
     友人の方もいちごもちを美味しいと感じてしまっていたのだが、間が悪かったというか何というか。言葉を交わす前にご当地怪人に変貌し飛び出してしまった京護は気づかなかったのだ、実質的な引き分けであることに。
    「闇堕ち一般人と接触し、人の心に呼びかけ説得することでダークネスの力を弱体化させることが出来るのは知っていると思うが、引き分けであったと言うことを伝えるだけでもそれなりに効果はあるだろう」
     そもそも闇堕ちした一般人を救出するには戦ってKOする必要がある。戦いが避けられないなら、説得でそれを優位に運べるなら試みても損はない。
    「ちなみにいちごモッチアとバベルの鎖に引っかかることなく君達が接触出来るのは、校庭を突っ切ったいちごモッチアが校門を出たタイミングになる。校門のすぐ前は休耕畑で遮蔽物もなく、高校は放課中だが、三十分以内なら人が通ることもない」
     よって、上手く説得出来さえすれば後は戦ってKOするだけという訳だ。
    「餞別にこのいちごもちを渡しておこう。これを差し出せば、いちごモッチアもこちらを無視することはない。ちなみに、戦闘になればいちごモッチアはご当地ヒーローとガトリングガン のサイキックに似た攻撃で応戦してくる」
     ただし、銃弾や弾丸のかわりに銃口から出てくるのは苺らしいが。

    「いずれにしても、すれ違いが産む悲劇など見過ごせないのでね」
     京護のことをよろしく頼むとはるひは君達へ頭を下げた。
     


    参加者
    黒岩・いちご(ないしょのアーティスト・d10643)
    鈴木・レミ(データマイナー・d12371)
    雷電・憂奈(高校生ご当地ヒーロー・d18369)
    東雲・菜々乃(読書の秋なのですよ・d18427)
    アイリス・アレイオン(光の魔法使い・d18724)
    システィナ・バーンシュタイン(罪深き追風・d19975)
    白石・作楽(櫻帰葬・d21566)
    カルナヴァル・ジンガムル(俺の指揮を見ろや・d24170)

    ■リプレイ

    ●為すべき事
    「いちごモッチアですか……いつかは来るかなぁって思っていましたけど」
     名前的になんか複雑ですよねと呟いた黒岩・いちご(ないしょのアーティスト・d10643)を横目で見た鈴木・レミ(データマイナー・d12371)は空を見上げる。
    (「とうとう、私もモッチアを見つける側になったっすか……」)
     面識は無いながらも話で相手のことは知っている同士の二人が居るのは、校門の前。
    (「うーん、闇もちぃかぁ」)
     声に出すことはなく、ただアイリス・アレイオン(光の魔法使い・d18724)はじっと門の向こうを見つめ。
    (「好きだからこそ相手のを食べてその美味しさに衝撃っていうのも分かるし……」)
     初めての遭遇となる闇もちぃしかけた一般人への感情と事情を知るが故にある一定の理解。
    (「こういう争いって絶えないよね……ボクは両方とも餡子入ってるから好きだけどね!」)
     システィナ・バーンシュタイン(罪深き追風・d19975)もまた「それにしても」と胸中で続ける。
    (「闇もちぃって初めてみるや」)
     頻繁に見られるようなら大問題だがそれはそれ。
    「闇堕……闇もちぃね。なんと言えばいいのか……」
     実際に闇もちぃと言う単語を口に出したカルナヴァル・ジンガムル(俺の指揮を見ろや・d24170)の方をちらりと見て白石・作楽(櫻帰葬・d21566)は視線を校門に戻す。
    (「闇もちぃ依頼は二度目だが……深く愛せるが故の悲劇なんだろうな」)
     結果としてダークネスになりかけ、やがてここに現れる。
    「いちごモッチアはなんとしても止めないといけないのです」
    「そうだね! 悲劇はここで幕を降ろさなきゃね! 降ろさなきゃね!!」
    「だな。何とか闇もちぃから救いだせる手助けが出来るといいのだが――」
     前触れもなく口を開いた東雲・菜々乃(読書の秋なのですよ・d18427)の言葉へカルナヴァルに少し遅れて同意してみせると、校門の向こうに人影が現れ。
    「あれは……来たようですね」
     若干きつめの目に映ったそれを雷電・憂奈(高校生ご当地ヒーロー・d18369)はご当地怪人のものと断じた。
    (「自分の大好きな餅に妥協しないというのは、凄いことだと思います。思いますが……」)
     憂奈の胸中で言葉を濁らせたのは、おそらくご当地怪人の容貌だろう。
    「そういえばいちごさんはいちごなのにいちご餅じゃなくて五平餅でしたね……」
     視線を逸らして割と関係のないことをいちごが口にしたのもおそらくは現実逃避から。
    「……美味しそう……凄く……」
     システィナの呟きは、ご当地怪人の容貌ではなく持参したお餅の方を見てのものだと思いたい。
    「ともあれ、助けなければですね」
    「そうっすね。闇もちぃの被害は抑えないと……ただ、モッチア多すぎないっすかね!?」
     もっとも、いつまでも現実逃避はしていられず、我に返ったいちごの言に同意しつつもレミは首を傾げ。
    「少しお話しませんか?」
     最初に声をかけたのは、いちごだった。

    ●性別判明
    「とりあえずこれを食べて落ち着くっすよ」
     まさにはるひの言うとおり、差し出されたいちごもちを前にご当地怪人がレミ達をスルーすることは無かった。
    「ここにもあるのですよ」
    「おおっ」
     よく見えるようにいちごもちを掲げた菜々乃へもいちごモッチアは反応し。
    「これ、渡さなきゃいけないの……かな?」
     自分の手にしたいちごもちとご当地怪人の間を視線に往復させ、システィナは葛藤したものの長くは続かない。
    「皆でいちごもち食おうぜ!」
     カルナヴァルの提案があっさり解決して見せたから。
    「そうもちぃな」
    「立ったままなのもあれですから、あちらへ」
     賛成したいちごモッチアへ憂奈が休耕畑へ敷かれたビニールシートを示し。
    「こちらに座ってください。それとお茶です。よろしければ……」
    「ありがとよ。何だか至れり尽くせりもちぃ」
     勧められたお茶を受け取ったご当地怪人は素直に腰を下ろす。
    「いいもちぃなぁ、こういうのも」
    「ああ。やはり和菓子には緑茶だな……美味な菓子に一服のお茶、これに勝る幸せはないな」
     頷いたのは、作楽。
    「まぁ、緑茶と和菓子って合うよね!」
     寒くないようにと用意していた衝立を支える様な形でシートの端に座り、アイリスは二人に同意する。
    「しかし、大変じゃないもちぃか、それ支えるの?」
     だが、いちごモッチアへ別のことを気にしたらしい、もっとも、問題はこの後だった。
    「大丈夫、そろそろ寒いもの。風邪ひいたら大変! 女の子が体を冷やしてはいけません!」
    「いや、俺男もちぃぜ?」
    「「えっ」」
     幾人かの口から声が漏れたのも、無理はない。いちごもちで人型を作ったような形状の容姿は性別不明ではあるものの、声変わりが消息を絶ったかの様に高い声だったからだ。
    「いや、もちろん男の子も、だし」
     くわっと食いつかんばかりだった先程と比べるとアイリスに勢いはないが、問題はそこになく。
    「それより何があったっすか、今日の授業は終了って訳じゃないっすよね?」
    「あ」
     レミの指摘で固まったご当地怪人は復活するなり、事情を話し始め。
    「……って訳もちぃ。今回こそ、今回こそ勝てると思っ」
    「落ち着いて下さい。せっかく美味しいいちごもちを食べてるのですから」
     愚痴っている内にテンションが上がりすぎたいちごモッチアの言葉を遮る形で憂奈は宥める。
    「美味しい? 本当にそう思うもちぃか?」
    「羽二重そば餅、美味かったんでしょ? だけど、いちごもちも同じくらい! もしくは以上に美味いじゃん!」
     食いついてきたところで今度はカルナヴァルが口を開き。
    「いちご餅は確かに美味しい。しかしっす!」
    「どちらが美味しいかの勝負はさておきですね、もう一方のお餅だって美味しくないわけではないでしょう?」
    「っ、そ、そういやそうもちぃが……」
     レミ達の声に視線を逸らしたのは、舌がこれまで友人と繰り広げた戦いを覚えているからか。
    「んー……相手のも美味しいって認めるのって凄く大変だけど、今回最終的には引き分けだったみたいだし……落ち着こうか……?」
     ご当地怪人が言葉に詰まった直後、ネタばらしをしたのは、システィナだった。
    「ひ、引き分けもちぃ?」
    「京護さんが羽二重そば餅を美味しいと感じた様に、御友人もいちご餅を美味しいと感じていたのだ」
     振り返るいちごモッチアへ作楽が仲間の言葉を補足する。
    「あいつも?」
    「はい、相手も同じ事思っていたんです。いちご餅が美味しいって」
     だから引き分けなんですよと続けたのは、いちご。
    「それに美味しいと思うことは、いちご餅への裏切りではないんですよ」
    「そうっす、羽二重そば餅と手を取り合って、さらに上手いいちご餅を作ればいいじゃないっすか!」
    「手を取り合う……もちぃ」
     反応がオウム返しなのは、それだけ衝撃を受けたと言うことなのだろう。
    「認め合えるのはいい事だよ、そういう友達がいるのもね? うちの学園にくると色んな餅好きの子がいるから、来るといいんだよ」
     続きながらアイリスがさりげなく勧誘すれば。
    「皆の言うように、相手を美味と感じたら負けではなく、互いに互いを認め合ってよりよい餅を切磋琢磨すればよいのではないか?」
    「そうそう。相手の餅が美味かったのなら、それ以上の餅を、作ってしまえばいいんだよ!」
     周囲を見回した作楽の提案に頷いたカルナヴァルは言う。
    「みんな違って! みんなイイ!!」
     これが言いたかったと言わんがばかりのドヤ顔だった。
    「ぐっ」
     ご当地怪人が呻いてしゃがみ込んだのは、この直後。
    「もちゃあああっ」
     更に咆吼を上げた時点で、作楽が動く。
    「一期は夢よ、ただ狂え」
     スレイヤーカードの封印を解いたのだ。
    「良くも邪魔してくれたもちぃ」
     敵意の籠もった瞳と言葉が裏付ける。追いつめられダークネスが表に出てきたと言うことを。

    ●いちごいちごいちご
    「穿て、荊月」
     踏み込みは、ガトリングガンをいちごモッチアが向けるより早かった。
    「もぢべっ」
    「いちごをばらまくなんて、そんな勿体ないこと――」
     説得で弱体化していたのか、反応出来ないご当地怪人の胴に捻りをくわえた突きが刺さり、体勢を崩したところに憂奈が帯を射出する。
    「くっ、もぢばっ」
     更に帯へ反応仕様としたところを、別方向からビハインドの琥界に霊撃を叩き込まれれば、迫る帯を避ける術など無かった。
    「もぢっ……ちく、しょう」
     身体を貫く帯を握りしめてよろめきつついちごモッチアはガトリングガンを構えようとするが、気づかなかった。
    「よそ見してる余裕はないっすよ?」
    「え? もぢべぶっ」
     声をかけられた直後、突っ込んできたライドキャリバーにはねられて宙を舞うまで、連係攻撃が途絶えていないことを。
    「ぶっ」
    「さー、男性ってことで思うところはあんまし無いけど全力で行かせてもらうっすよ」
     愉快な姿勢で地面に落ちたご当地怪人に視線をやったまま、レミはバイオレンスギターの弦に手を添え。
    「え、ちょ、もぢっ」
     衝撃波で再び宙に舞ういちごモッチアを今度は水晶で出来た刃を非物質化させたアイリスが追いすがり。
    「いくよ」
     振るわれた一撃は、霊魂と霊的防護だけを破壊する、ただ。
    「もぢあっ」
    「やっぱり、説得でだいぶ弱ってるのかな。なら、ボクも」
     悲鳴をあげて土の上に落とされようが、灼滅者達の攻撃は途切れなかった。
    「ぢべっ」
    「チャンスだね! 追い打ちしなきゃね!」
     システィナが出現させた逆十字に引き裂かれたご当地怪人をカルナヴァルの放出した殺気が包み込み、殺気は悲鳴押し潰し。
    「もちゃあああっ」
     数秒で内から引き裂かれた。
    「横もやってくれたもちぃ」
    「いちごもちもおいしいので落ち着いて欲しいのですよ」
    「これが落ち着いていられるもちぃか!」
     ズタボロになりつつも敵意の籠もる視線を向けるいちごモッチアは宥める菜々乃に声を荒げると、ガトリングガンを腰だめに構え。
    「っ」
     銃口からいちごが飛び出すより早く、いちごが射線に飛び込んだ。
    「くっ……いちご塗れの、いちごなんて……洒落じゃないんですから」
     それは、血かそれとも潰れたいちごか。身体の痛みに顔をしかめ掌の赤へ目を落とした灼滅者の方のいちごは聞いた。
    「ちょ、ちょー!? ど、どこに顔突っ込んでるんすかぁぁぁ!?」
    「え?」
     上擦った声を聞いて周囲を見回すと薄暗い布に囲まれた空間の先にあるのは一枚のパンツとそこから生えた二本の脚。
    「ショウガが合いそう……じゃなくて、ごめんなさい、わざとじゃっ」
     一瞬混乱からおかしい感想が飛び出していた気もするが、自分がスカートの中に頭を突っ込んでる事に気づいたいちごは慌ててスカートの中から頭を抜き。
    「あ」
     勢いでスカートをまくり、レミの下着を周囲に後悔する。
    「な、な、な、何してくれてるっすかぁぁぁ!」
    「ご、ごめんなさい、ごめぶっ、い、いたいですっアリカさんっ?!」
     ビハインドのアリカも加わり二人がかりでポコポコべしべしと始まったいちごへの制裁をいちごモッチアは横目で見ると。
    「……とりあえずこっちはこっちで続けるもちぃか?」
     一つ咳払いしてから提案した。割と気遣いの出来るご当地怪人なのかもしれない。
    「そうですね。でも、手加減はしないのですよ?」
    「望むところもちぃ」
     同意した菜々乃の言葉に、いちごモッチアはにぃと笑い。
    「では猫さん、先制攻撃なのです」
    「え」
     驚きの声を上げた直後だった。
    「にゃあっ」
    「ぶっ」
     肉球のパンチが綺麗に決まり。
    「ナイス。それじゃ、狭霧と犠牲になったいちごの為にもこの戦い、終わらせないとね」
    「えっ、犠牲ってあれ勝手に自滅して制裁受けてるだもぢばっ」
     白光と共に放たれたアイリスの斬撃がご当地怪人の指摘を中断させ。
    「もぢっ、ぐぎぎ……」
    「え、ええと……これも助ける為ですよね。いちご、これ以上飛ばされたら勿体ないですし」
     身体を起こそうとするいちごモッチアといちごまみれの間を視線で往復した憂奈は、助けるためですからと続けると交通標識を振り上げた。
    「もぢゃぁぁぁっ」
     戦場の音が遮断されていなければ、殴り倒されたご当地怪人があげる悲鳴は校内まで届いていたかも知れない。若干戦力は減っているものの、いちごモッチアは弱体化している上、もはやボロボロ。袋叩きにするには充分なのだ。つまり、直前のモノが最後という訳ではなく。
    「影の桜よ、その行方を縛れ」
    「もぢゃあっ」
     作楽の影に蹂躙されては悲鳴をあげ。
    「くそっ」
    「待って! いちごを撃ち込まないで! 服が! 髪のキューティクルが!!」
    「知らないもちぃ、これだけやって置いて自分は無傷とか虫が良すぎもぢゃばっ」
     最後に一矢報いんとカルナヴァルへガトリングガンを向けたところで衝撃波に跳ね飛ばされる。
    「う、ぐ……理不尽もちぃ」
     袋叩きで消耗していたのか、身を起こすのに失敗したご当地怪人は崩れ落ちると声に相応しい中性的な容姿の少年の姿に戻り始め。
    「あ」
     いちごについていた弾丸いちごの名残も消えて行く。
    「勿体なくなって良かったと思うべきか、それとも消えてしまって残念と思うべきでしょうか」
     憂奈はポツリと呟くが、消えてしまったモノは仕方ない。ともあれ戦いは終わったのだ。

    ●そして一人の少年は
    「せっかく貰ったいちごもちですから……」
     菜々乃の口からみんなで食べませんかと言う提案が為されたのは、無理もないことだったのかも知れない。
    「賛成、まだ残ってるみたいだもんね」
     真っ先に賛成したのは説得中もいちごもちの誘惑と戦っていたシスティナであり。
    「そうですね」
    「ですね」
     これに賛成に回た幾人かが加わり始まるのは、小さなお茶会だった。
    「ふぅ、ご馳走様っす。さて、とりあえずは……友達と話し合うところからっすか?」
    「そうですね。友人の方もいちごもちを美味しいと感じていた事を伝えればきっと仲直り出来ますよ。ですから――」
     意識を取り戻した京護はレミの言葉へ同意しつつ仲直りを促す憂奈へ無言で頷いて見せ。
    「誤解なんてよく話せばちゃんと解消できるっすよ。自信持って行くっす!!」
    「……かもな、ありがとよ。じゃあ、俺は戻るわ」
     背を押す声に感謝を口にした少年はビニールシートから腰を上げると、くるりと背を向け校門へと歩き出す。来た道を逆に辿って戻るのだろう。
    「で、それが終わったら、私達の学園に来ないっすか? いちご餅道はもちろん、その力もきっといい方向に活かせるっすよ」
     そんな京護の足が突然止まったのは、レミが背に問うたからか。
    「……考えておく」
     振り返ることなく言葉は返され、灼滅者達から表情は見えず。
    「世話になっちまったからな」
     だが、素っ気ない返事には続きがあった。
    「武蔵坂、か」
     反芻して去る京護と再会する日もそう遠くないのかも知れなかった。

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年11月13日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 8
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ