古代の力目覚めし者……俺!

    作者:るう

    ●とある中学校
    「へーいシンジ君、元気ぃー?」
     同級生の男子二人組が、急にシンジ少年のズボンをずり下ろした。けれども今日の彼の反応は、普段と全く違っていた。
     シンジは普段のように意味不明な呪文を呟きながら耐えたりはせず、彼らを鼻で笑い、それで満足かとだけ訊いてこう嘯く。
    「確かに今までの俺は……君らが滑稽とからかいたくなるものだった。しかし……」
     そこで彼が掌を握ると……そこには、『魔法の光』としか呼べない不思議な光。
    「すっげー……」
    「どうやってんだコレ……?」
     今までからかう対象でしかなかったシンジの姿が、同級生たちには唐突に偉大なものに見え始める。シンジは、口元を吊り上げて訊いた。
    「君らにからかわれすぎたお陰で、俺はどうやら、本当に『力』を得てしまったようだ。今までの事は水に流そう……共に、この力について研究してみないか?」

    ●武蔵坂学園、教室
    「……とかいう事があって、自宅で同級生と妙な研究をしてる中学生がいるらしいんだけどさ」
     神酒嶋・奈暗(快楽主義者・d29116)が聞きつけた噂に、神崎・ヤマト(高校生エクスブレイン・dn0002)が説明を加えた。
    「間違いない……シンジは今、ソロモンの悪魔への闇堕ちの途上にある! そして少年をからかっていた同級生二人は、その最初の信者となるだろう!」
     シンジはダークネスに魂を完全に乗っ取られる事なく、今は自らの意思とダークネスの力を両立させた状態にある。これは彼に灼滅者の素質が備わっている証拠かもしれないが、このままでは、じきに完全にダークネスと化してしまう事だろう。
    「そして……それを救えるタイミングまで、奈暗は予想してくれた! それは……!」
    「今度シンジが開くっていう、研究成果のお披露目セミナーの場だぜ!」

     セミナーは、彼の通う中学校で放課後に開かれる。使用を先生にも告げず、勝手に教室を会場にしてしまうのだ。
    「お前たちにはそれに参加し、好きなタイミングで戦いを挑んで貰いたい! そして少年を正気に戻し、可能であれば武蔵坂学園に灼滅者として迎え入れるのがお前たちに課された宿命だ!」
     ちなみにそのセミナーは、彼が正気だった頃から書き溜めていた黒歴史ノートの記述を、二人の助手と共に講義するだけだ。内容は、一万年以上前に栄え、彼の力の源流になったと彼が主張する超古代魔法文明について。
     その中に、彼を正気に戻すのに有益そうな記述があった、とヤマトは未来予測した。
    「それは……異性への欲望がその魔術を阻害するという理論だ! しかしシンジは中学生、すなわちそういうお年頃だ!!」
     つまり可愛い女の子のちやほやには、絶対に彼は抗えない。彼の魔術は弱体化する。
    「マジか……」
     奈暗も呆れるがマジだ。ちなみに姶良・幽花(中学生シャドウハンター・dn0128)が恐る恐る「年上でも平気?」と訊いたけれど、もちろんお姉さんでもOKなのが中学男子だ。
    「それと、助手二人はシンジさえ正気に戻せば元に戻る」
     それからヤマトはこう付け加えた。
     幾らダークネスになったからと言って彼に透視能力が備わるわけはない。武蔵坂学園の誇るトラップ部隊も存分に活躍できるだろう、と。


    参加者
    ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)
    唯済・光(確率と懸念の獣・d01710)
    東谷・円(ルーンアルクス・d02468)
    神虎・華夜(天覇絶葬・d06026)
    天木・桜太郎(夢見草・d10960)
    山田・透流(自称雷神の生まれ変わり・d17836)
    神酒嶋・奈暗(快楽主義者・d29116)
    額田部・まゆり(孔雀の姫・d34616)

    ■リプレイ

    ●セミナー前
    「ここね? 魔法の講義をしてくれるところは」
     大股で教室に入ってきた女の服装は、布にしては黒く、光沢なく、そして生きているかのごとく女自身に纏わりついていた。
     思わず注目する男子生徒らに流し目を返しつつ、女――神虎・華夜(天覇絶葬・d06026)は静かに着席してその細長い足を組む。
     どきり。
     シンジが慌てて視線を逸らし、次の入室者を探すフリをして入口へと遣った瞬間……今度は、まるで夏の海辺のごとき大胆な服装が目に入った。
     自慢のスタイルを見せつけながら、額田部・まゆり(孔雀の姫・d34616)は音を立てて椅子に腰を下ろす。頬杖をついた両腕の間から零れる、たわわな二つの実りの果実。シンジは慌てて左手を顔に当て、何か考え込むようなフリをする……もっともそれは、視線の先を彼女に覚られぬための、空虚な努力であったのだが。
     けれどもその、伸びた鼻の下を隠せぬ表情も、すぐに終わりを告げる事となった。
    「おお、ココだココだ。こいつは……背筋がゾクゾクするぜ」
    「超古代文明についての発表だなんて、すげー勇気あるよなァ……」
     天木・桜太郎(夢見草・d10960)と東谷・円(ルーンアルクス・d02468)は感心しながら入ってきた素振りを見せてこそいるが、もちろん、内心は将来悶絶する事になるだろうシンジを心配している。もっとも他人事として心配している円と違って、桜太郎はわが身の事のようにハラハラしていたが。

     そんなこんながありながら、教室には八名もの聴衆がやって来ていた……が。
    「少ないな……定説を覆される事を恐れぬ者は、こうも限られていると言うのか」
     小声で不満そうに呟くシンジ。そこへと、最後の入室者が現れた。
    「超古代文明のセミナー会場はここっすか? お邪魔するっす」
     遠慮というものをわざと見せずに部屋に入ったギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)は、まるでお手並み拝見とでも言うように、挑発的な目をシンジへと向けた。
     かくして……超古代史セミナーは始まった。

    ●妄想講義
    「……と言うように、これらのオーパーツの存在が我々に魔法の実在を示唆している。そして俺はその偉大な力の一端を得たのだが……そこ、ちゃんと聞いているのか?」
     シンジに不満そうに睨まれて、神酒嶋・奈暗(快楽主義者・d29116)も同じように睨み返した。
    「つまんねぇ講義してる方が悪いんだよ。全然頭に入ってきやしねー」
     これ見よがしに背もたれに寄りかかり、天井を見上げて欠伸してみせる。もっとも彼に、端から理解する気などはないのだが。
     明らかにシンジがイラッとした瞬間、山田・透流(自称雷神の生まれ変わり・d17836)がきらきらと目を輝かせて話の続きに興味を示した。
    「大丈夫……私には全部解ってる。誰も気がついてさえいない超古代の魔法文明だなんて、大人顔負けの凄い着眼点……!」
    「そ……そうだろ?」
     シンジの苛立ちが一瞬にして消える。そして一転得意げに、入口付近の二人を指差しながら奈暗を見た。
    「敵さえも感服させた俺の理論を理解できないなんて、随分と哀れな奴もいたものだな」
    「もう敵だなんて言わないでくれよシンジ……! 俺たちは、お前が本当の事を言ってたなんて知らなかっただけなんだからさ!」
    「もっと早く秘密を教えてくれれば、苛めようだなんて思わなかったぜ! ほんと……マジすまん!」
     イラッ☆
     かくも盛大にバカにされ、今度は奈暗の額に青筋が立つ番だ……そんな時。
    「キャーかっこいいー。苛められた相手に復讐するどころか秘密を教えて仲間にしてあげるだなんて、偉いよね」
     唯済・光(確率と懸念の獣・d01710)の台詞の最初はかなり棒読みだった気がするが、後半は嘘偽りのない本心だった。
     力を得たと知った瞬間、憎しみに導かれ虐殺を繰り広げようという者だっている。そんな『なりかけダークネス』達と比べれば、どれだけ彼に可愛げがある事か。
     席を立ち、背中から彼を抱きしめて存分に頭を撫でてやる光。シンジのこれからの苦労を思うなら、それくらいのいい思いはさせてあげたくなる。何故なら彼の不器用ながらも真っ直ぐな『普通の男の子』らしさが、彼女を『灼滅者』から『普通の女の子』に戻してくれるのだから……。
    「あっ……ずるい」
     負けじと透流も、満更でもなさそうな彼の手を引っ張る。
    「クラスメイトからのいじめにずっと耐えて、なのに凄い魔法の力を手に入れても寛大さを忘れないだなんて男前! こんなにも素晴らしい人がいるなら、研究をもっと進めて学会で発表したら億万長者にさえなってしまいそうな気さえする……ううん、歴史に名を残せるかもしれない!」
     かき混ぜられる髪。力強い握手。そして……ああ、さっきから背中に当たっている柔らかな感触は……。
    「お、オホン! 講義中は静粛に……!」
     光と透流を席に帰すと、シンジは再び話を続けた。
    (「うわー……オレだったらあんな事されたら耐えられねぇわ」)
     先程の憤りもどこへやら、見ているだけで逃げ出したくなってきた奈暗を差し置いて、妄想講義はさらに続いてゆく……。

    ●質疑応答……?
     退屈なセミナーの開始から、三十分が経過した。
     既にいろいろと耐え切れず、眠りの帳の向こうに逃避している奈暗。聞くに堪えない妄言の数々に、ギィの不快感も絶頂だ。
    「で、今の話が正しいって証拠、一体どこにあるんすかねぇ? 困るんすよ、こういう偽史捏造って」
     歴史の捏造。それが権力者にとって都合の良い支配の口実になるが故に、古今、どこの国でも一度は行なわれてきたとギィは指摘する。そして……それが紛争の火種になってきた事も。
    (「まずはこんなもんっすかね? 自分のツッコミにどれだけ食いついてくるか、お手並み拝見といたしやしょうか」)
     手薬煉を引くギィ。二人の対決姿勢を煽るべく、まゆりもシンジに声援を送った。
    「俺もオーパーツって好きなんだけどさ、ギャフンと言い返せるような面白い話をしてくれよ」
     ついでに、色仕掛けは柄じゃない、と小声で呟きつつも、机に押し付けた胸を強調する。口調も男勝りで、ガサツな印象を与えるまゆりだが、このワイルドな魅力でシンジの心を掴める自信はある。
    (「ま、俺にドキドキしちゃうのも仕方ねーよな」)
     そんな事を思いながら少年を見ると、彼はわざとらしく咳払いしてみせた。わくわくと期待の眼差しを向ける姶良・幽花(中学生シャドウハンター・dn0128)の前でとうとうと呪文を詠唱した後……魔力が、シンジの手の中にほのかに宿る。
    「これで今、君らはこの俺の話が正しい事を目の当たりにしたという事になる。これが証拠だが……何か質問がある者は?」
     シンジは、教室じゅうを見回した。すると、桜太郎の手が持ち上がった。
    「で、その『魔法』は、超古代魔法文明とやらとどう関係あるんですかねー?」
    「……どういう事だ?」
     あからさまに不機嫌なシンジをさらに追い詰めるべく、円が桜太郎の質問を補足する。
    「ずっとオーパーツの話しか聞かされてなかったンだけど、その呪文は一体どっから出てきたわけ?」
    「それは……まだ説明していないだけで、俺の研究の成果だ!」
    「研究の成果? 中学生がポッと解明できる程度の古代魔法なら、誰かが既に解き明かしてるだろ……」
     ぐぬぬ……。
     返答に窮したシンジへと、華夜から助け舟が出た。
    「細かい事なんて気にしてたら、魔法なんて使えないわよ? いい講義だったわ……あんな人たちの事なんて気にせずに、もう少しお姉さんに詳しく教えて貰えるかしら?」
     迫る華夜の服はいつ見ても、明らかに布とは異なっていて……いや、正常な物質だとすら思えない。それは、魔法の衣なのか……? ああ、そうか。
    「貴女は、僕が魔法を紐解いたと知って現れた、古代の魔法使いの末裔なのですね? いいでしょう……貴女に免じて、僕の理論をお教えしましょう!」
     その返答を聞いた桜太郎は、思わず血反吐を吐くところだった。
    (「バカかお前は!?」)
     この状況で魔法使いが現れるって、普通に考えて格上の相手による視察だろ!? そこで上から目線とか一体どーいう神経してるんだ!?
    「本物の魔法使いが教えを乞いにくるなんて! とにかく、凄い……凄すぎる!」
     透流にこれでもかと褒めちぎられて、シンジは照れを隠せずにいた。
    「ふっ……別におだてられたくて研究しているわけじゃないのだがな……」
     照れつつも威厳を見せようと四苦八苦する彼の様子も、光には非常に愛らしく見える。
    「ほーら、美人なお姉さんもちょっくら揉んでやるぜ? だから俺にも教えてくれよな?」
     まゆりにも迫られて、シンジは勿体ぶったようにノートを広げてみせた。
     お世辞にも綺麗とは言い難い文字で綴られた、『研究』の成果を。

    ●突き崩された根拠
     彼のド下手な説明を理解するのは困難ではあったが、まあつまり彼の言う『根拠』とやらを要約すれば、こんな感じになるらしい。
    『書き溜めていたノートの一部がオカルトサイトやら何やらの主張と一致したので、ノート全体が超古代魔法文明から自分に受け継がれた知識だったに違いない……なんかその通りにやったら魔法(サイキック)出ちゃったし』
    「なんか右目が疼いてきた。あー左目も疼いてきた気がする」
     さり気なく、お前は痛々しいんだよアピールする桜太郎。けれど、秘められた『もうやめておけ』のメッセージは本来の受け取り手には届かずに、隣の円にだけ伝わった。
     明らかに挙動不審な桜太郎に気付いて、円が物凄く楽しそうな顔をする。きっと、桜太郎は未来のシンジなのだろう……シンジも随分と滑稽に見えたが、こちらはこちらで面白そうだ。
     そんな二人の様子にも気付かず自説を述べ立て続けるシンジを、ギィが肩を竦めて邪魔をした。
    「いるんっすよねぇ、『一部が正しい』を『全部が正しい』に置き換える輩が」
     シンジは吼える。
    「聞き捨てならないな……それではまるで、俺の理論が間違いだ、とでも言いたげじゃないか!」
     ……その通りでございます。そもそも、その『一部』すらどこの馬の骨とも知れないトンデモなわけで。
     怒ったシンジが呪文の詠唱を始めるよりも早く、ギィのスレイヤーカードが封印を解く!
    「殲具……解放!」

    ●妄想の末
     配下二人が反応した時には既に、ギィの『剥守割砕』は漆黒の軌跡を描き、両者を纏めて吹き飛ばしていた。
    「な……!」
     慌てて印を結ぼうとするシンジ。その全身へと思い切り、光の霊力が絡みつく。
    「いい思いはさせてあげたと思うけど、私たち灼滅者だから、ごめんねー」
    「何でだよ……じゃない、謀ったな!」
     シンジがちょっぴり悲しそうな顔をしたのに気付き、ようやくの開戦をまだかまだかと待ちわびていた奈暗は、この戦いの勝利を確信した。
     実際、彼の放った術の狙いは……甘い! もっと女の子にモテたいという世俗的願望が、術の力を奪い去っているのだ!
     絶対零度を炎が切り裂く。奈暗の作った炎の道は、冷気の壁を押し広げる。押し退けられた冷気はまるで導かれるように……桜太郎の炎の中に吸い込まれてゆく。
     燃え上がる蹴撃。花と散った桜太郎の炎の中で、シンジは踊る。そんな黒歴史ノートに振り回されずとも、彼は、こんなにも特殊な『力』に溢れているというのに。
     憐れむ桜太郎とは逆の側に飛び去った冷気は、露出度の高いまゆりを苦しめた……けれども一本の魔法の矢が飛来して、彼女を暖かな力で包み込んだ。
    「そういう事させるわけにゃ行かないンでね」
     そう嗤った時には既に、円の手の中からは矢を放った弓は消え、イチイの槍が少年を貫く準備を整えている!
    「ごめんね!」
     目を瞑って放った幽花の魔弾に貫かれ、よろめいた少年の全身を……黒い『何か』が受け止めた。
    「確かに、魔法の素質は十分よ。だったら……この『服』の下、何色の下着かは判る?」
     しばしの沈黙。華夜の答えは……。
    「……何も着てないわよ」
     少年の一瞬の硬直と同時……鳥の甲高い鳴き声が響き渡る!
     広がる……目、目、目。
     自然ならざる、飾り羽持ちし雌孔雀は、まゆりが人造灼滅者たる証。その神々しさは冷たき炎と化して、シンジの全身を釘付けにする!
    「今だ……! あなたの超古代文明の力と、私の古の神の力……どっちが強いのか、いざ勝負! 私こそ、雷神の生まれ変わりの鳴神トール!」
     雷神の籠手が少年の顔面を掴み……後頭部を力任せに床へと叩きつけた!
    「まさか本当に……俺の研究が……間違っていたとでも言う……のか……」
     少年が天へと伸ばした腕の中から、彼のノートがばさりと零れ落ちた。

    ●少年の、真の『力』
    「終わったっすね」
     昏倒し、しかし消滅する様子を見せないシンジを見下ろして、ギィは小さく呟いた。
     少年はじきに意識を取り戻し、自分に止めを刺そうとしない灼滅者たちを見回して、どういう事だ……と怪訝そうな顔をする。
    「ようこそ、バベルの鎖の内側へ」
     ギィに、灼滅者たちの輪の中央に立たせられた。シンジは試しに、小さく呪文を唱えてみる。
     力は……消えていない。もっとも今の力では、周囲の誰一人とて倒せる気がしないのだけど。
    「講義、ありがとな。全然理解できなかったけど……お前のことは、ちょい解ったぜ」
     奈暗に背中を叩かれて、シンジはようやく、灼滅者たちに本当に敵意がないのだと理解した。もっとも皆の思惑――何故彼の講義を受け、そして戦う事になったのかまではさっぱり想像もつかなかったのだが……華夜に説明を受けるまでは。
    「最初から気付いていたわよね、これが普通のものじゃないって事。これに興味があるのなら……魔法の勉強をしなさい」
     華夜が影業の衣を引っ張って見せた瞬間……奈暗や桜太郎が慌てて背を向ける!
     誤魔化そうと棒つきキャンディを取り出して舐めながら、奈暗が聞く。
    「良かったら、オレ達の学園来るか?」
     桜太郎は……いい誤魔化し方を思いつかずに辺りを見回して、シンジの手から離れたノートに目が留まった。
     処分してやるべきかと逡巡し……結局。

    「正しいかどうかは置いておくとして、こりゃ確かにロマンだよなぁー……ソロモンの悪魔さえ関わってなけりゃ」
     桜太郎の広げたノートを横から覗き込み、まゆりはそう言ってけらけらと笑った。その声を聞きつけて、何が起こっていたのかを理解して、シンジは蒼白な表情になる。
    「やめろ……もうそのノートは必要ないんだ!!」
    「おや。数年後に悶絶するかと思ったが、数分後だったとはなァ」
     慌てる様子のシンジを興味深そうに眺めつつ、円は、恥ずかしがるのも当然だな、と内心思う。何故なら灼滅者たちが世界の闇の真実を明かした今、全てが釈迦に説法であった事が完全に明らかになってしまったのだから。

     世界は、少年の妄想よりもずっと奇妙で、そしてもっと救いようがない。
     だからシンジの黒歴史も決して最悪なものではなく……彼にも世界が救えるのかもしれない。
    「ん……武蔵坂学園にきたら、超古代文明なんて言ってるヒマもなくなると思うけど……頑張って。応援してる」
     そんな透流の声援も今は、羞恥のあまり大騒ぎする少年の耳には右から左になっているけれど。
     その喧騒が、まるで世界の真実を知ってもシンジがシンジらしいままだという事の証拠であるように思えて、光はやはり、そんな『普通の男の子』を愛おしく思う。
     願わくば、彼がいつまでも彼のままでありますように。
     そんな祈りが切実な意味を持っている事は……世界を支配する闇の存在と戦う者たちであれば、誰もが知っている事だろう。

    作者:るう 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年11月25日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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