秋田県は横手市、とある小学校……。
「きゃーッ!」
給食の時間、教室に響く悲鳴!
ツインテールの女の子を捕まえているのは、納豆姿の怪人だ。
異様に発達した右腕で納豆をぐりぐりとかき混ぜ、女の子にぐいぐい押し付けている。
「さっき、お前はこう言っていたな。『納豆なんて大っ嫌い』って」
「う、うん……」
すっかりおびえた顔で、女の子がうなずく。
助けに入った先生(アラサー女子)は、納豆色の全身タイツの男たちに捕まっている。
口に納豆を詰められ、「納豆、もう食べられない……」とうめきながら。
「俺は、納豆が大好きだ。だがそれと同じくらい、人が嫌がる顔を見るのが大好きだ。だからお前に納豆を食わせてやる。これぞ一石二鳥!」
「や、やめてー!」
「ハッハア! その悲鳴が大好物なのさあ!」
そして納豆怪人は、嫌がる女の子の口に、納豆を押し込む!
しばしの間、教室には悲鳴と笑い声が、交互に響き渡っていた……。
「納豆嫌いの女の子が、納豆責めにされる事件が起こる……!」
初雪崎・杏(高校生エクスブレイン・dn0225)が、いつになく闘志を燃やしていた。
「食べ物をこのように扱うとは許しがたい!」
「納豆を食べさせたいのか、嫌がらせしたいのか、どっちなのかなあ……あ、どっちもなんだっけ」
有栖川・萌(オルタナティヴヒロイン・d16747)が、納得する。
「どっちにしても、納豆を乱暴に扱うなんて許せないよね~」
でも、納豆責めにも興味あるかも~、と悶える萌。
「そういえば、横手といえば、焼きそばのイメージがあったが納豆も有名なのだな?」
「なんか、納豆発祥の地って言われてるらしいよ~?」
諸説あります。
ともかく、このままではいたいけな少女が、トラウマを刻まれてしまう。阻止しなければ。
「怪人が現れるのは、横手市のとある小学校の、給食の時間。怪人が女の子に接触したのを見計らって教室に突入、怪人を灼滅してくれ」
教室には、先生や児童がいるため、被害が及ばないようにしていただきたい。
怪人はご当地ヒーローの技を扱う。そしてその巨大な右腕は、納豆パワーに満ちており、縛霊手と同等のサイキックを発動させるという。
クラッシャーのポジションで攻撃してくるが、一番ダメージを負った相手を集中攻撃する傾向がある。なんてゲス野郎。
また、納豆戦闘員を、3名連れている。スナイパーが2人、ジャマーが1人。
戦闘員は、パンチくらいしかマトモな攻撃方法はないが、油断すると人質を取りに行こうとするので、油断は禁物だ。
「女の子が納豆好きになる可能性を摘み取られる前に、怪人を灼滅して欲しい」
もし余裕があるなら、納豆嫌いの女の子に、納豆のよさを教えてあげられれば……杏はそう付け足した。
参加者 | |
---|---|
鷹森・珠音(黒髪縛りの首塚守・d01531) |
瑠璃垣・恢(カットオフレゾナンス・d03192) |
楠木・朱音(繋ぐ鎖・d15137) |
有栖川・萌(オルタナティヴヒロイン・d16747) |
石神・鸞(仙人掌侍女・d24539) |
仮夢乃・聖也(小さな夢の管理人・d27159) |
白臼・早苗(静寂なるアコースティック・d27160) |
吉武・智秋(秋霖の先に陽光を望む・d32156) |
●楽しい給食
その日の教室には、部外者が紛れていた。
給食配膳スタイルで、給食を分けてもらったりなんかしている鷹森・珠音(黒髪縛りの首塚守・d01531)である。プラチナチケットの力は偉大。
珠音は、今日の献立である納豆をかき混ぜながら、
「納豆ってねばねばだけど、これが体をすっごく健康にしてくれるんだよねー」
「えー、あたし、納豆なんて大っ嫌い」
近くの女の子が、心底嫌そうに言った。次の瞬間だった。
「納豆が嫌いと聞いて!」
ドアが開き、横手納豆怪人一味が現れた! 広がる納豆臭!
嫌い発言をした女の子に素早く近づき、拘束してしまう。
「納豆が嫌いな子はいねがー! って、いてえ!」
「それはなまはげだ。同じ秋田だが」
怪人の腕をひねりあげたのは、1人の教育実習生。
その正体は、ばっちり変装した瑠璃垣・恢(カットオフレゾナンス・d03192)である。
「なるほど、ひどい匂いの変態がいるというのは本当だったか。さあみんな、下がっていて。先生、今からこの変態に教育的指導入れるから」
「お前のような、目の死んだ実習生がいるかあ! げふっ」
恢の指導は、物理的だった。拳だった。
「お、俺の鼻が……!」
「つるつるした納豆顔のどこに鼻がある! いいから離れやがれ、変質者!」
怪人の力が緩んだ隙に、楠木・朱音(繋ぐ鎖・d15137)が、女の子を引き離す。
予期せぬ乱入者に、戦闘員もおろおろ、指示待ち状態。
まして一般人である先生がパニックになるのも無理はない。
「ど、どちらさまですか!?」
「在校生の兄です!」
「なるほど!」
朱音が顔パスした。プラチナチケットの(以下略)。
「では、そちらの人は」
「そこの割烹着の子と、この子の姉です」
「そうなのです!」
珠音と仮夢乃・聖也(小さな夢の管理人・d27159)の小学生組を差したのは、白臼・早苗(静寂なるアコースティック・d27160)。
「ちなみに私も教育実習生でございます」
石神・鸞(仙人掌侍女・d24539)から深々と頭を下げられ、先生も思わずぺこり。
普段のサボテン姿ではなく、人型なのは、ちょっぴりレアだった。
●秋の避難訓練・実践編
「こうなりゃ、子どもを片っ端から捕まえてしまえ!」
「ねばー!」
アレな掛け声とともに、戦闘員たちが子どもたちを威嚇する。
しかし、両手を広げた吉武・智秋(秋霖の先に陽光を望む・d32156)が、立ちふさがった。
「傷つけるの、よくない」
智秋から、きっ、とにらまれ、たじろぐ戦闘員ズ。
「納豆姿……さては水戸のご当地怪人ね!」
クラスの子の友達として紛れた有栖川・萌(オルタナティヴヒロイン・d16747)が、そう決めつけてやる。
案の定、怪人の額にしわが寄った。
「ハッ、納豆イコール水戸とは発想が貧困な奴め。納豆の起源はここ、横手は金沢よ!」
「へぇ~そうなんだ。初めて知った~」
「詳しく聞きたいだろう? でも教えてやーらない!」
「え~、じゃあいいや。長い話嫌いだし~」
「なら、長い話をしてやろう!」
嫌な奴である。
ともあれ、萌の口車に乗って怪人が語っているうちに、廊下の向う側を指さし、避難を促す聖也。
「変質者が出たのですーっ! 落ち着いてあっちから逃げるのです! あっちから逃げたら安全なのです! はやくー!」
「これってあれだよね。変質者が出た時の訓練!」
ざわめく子どもたちの視線が、珠音に集まる。
「みんなー! 急いで校庭に避難しよう! 私たちが一番乗りだよー!」
「あっ、ずるい、待ってよー!」
緊張感のない様子が、かえって子どもたちに行動を促したらしい。
先生の手を引く珠音とともに、子どもたちをともない、教室を出ていく聖也。
「後は任せたのです!」
「おい、お前たち、さっきから何騒いでる!」
隣のクラスからやってきたのは、ジャージ姿のオッサン先生。
「ちっ、この忙しい時に!」
やむを得ず朱音が、先生を王者の風で包んだ。幸い、逃げる子どもたちは反対方向なので、影響はない。
「悪いけど、子どもたちを校庭に避難させてくれ」
「わ、わかった……」
恢や鸞が戦闘員を阻む間に、誘導を手助けする智秋。
「みんな、押さないで……逃げて、ね……先生の、指示に従って、しっかり逃げる……の」
「逃げられると追いかけたくなるなァ!」
灼滅者を振り切ろうとする怪人。だが、早苗がそれを許さない。
「私も、納豆、嫌い」
「!?」
早苗がぽつりともらしたフレーズが、怪人の足を止める。
「成程、納豆怪人とは良く言った。粘着ぶりが糸引いてやがる」
「栄養価が高いなどと言われますが、朝から臭い匂いをさせるのはどうかと思います」
朱音や鸞の言葉も、怪人の胸に突き刺さる。
「何を言う、この匂いがいいんだろうが」
「そうだよ~」
何だか嬉しそうな萌は、置いておいて。
ネクタイを緩めた恢の右腕が、影を纏う。
「ミュージック、スタート。さぁ、お前らを死ぬまでRockしてやる」
「何を気取って……って、子どもいない!?」
気づくのが遅いよ! とばかり、萌が怪人にびしり。
「どこが起源でも納豆の美味しさは変わらない。でも、それを嫌がらせに使うあなたに納豆を語る資格なんてないよ!」
●秋の避難訓練・反撃編
「ええい、ならお前らに嫌がらせしてやる!」
「ねばー!」
掛け声とともに、3人の戦闘員が飛びかかった。
給食時間のため、くっつけられた机が邪魔だ。自然と戦場は、廊下に移っていく。
サボテン姿に戻った鸞の華麗な蹴りが、戦闘員を襲う。
そのつま先は、ナイフのように鋭く、タイツを裂いていく。
「ね、ねばー!」
「そのフレーズは」
「少し危険だ!」
恢と朱音が続けて突き出した槍が、戦闘員を1人、撃破した。
「好き嫌いがあるのは良くないことでございますが、料理とは思い遣りが最高の調味料。自分勝手に好みを押し付けるだけでなく、相手の立場に立って考えることも大切かと」
「寝ぼけたことを! 頭の発酵が足りないようだな!」
怪人の太い右腕が、鸞を襲った。
さらに、ぬるん、と表面がスライドしたかと思うと、中から納豆の糸をまき散らす!
「これは……!」
「ハッハア! どうだ臭うぞ、ねばねばだぞ!」
「ご当地愛をこじらせた怪人は数多見たが、嫌がらせが趣味の奴は初めてだな……」
呆れる朱音。
「納豆で縛るなんて! でもちょっとうらやましいかも……」
黄色の交通標識をかざす萌。しかしどうしても、納豆フェチがうずうずしてしまう。
一方、早苗のクロスグレイブの全斉射に貫かれ、戦闘員の足がもつれる。
「何してる! 弱ってる奴を狙え!」
「ね、ねばー!」
よたよたと駆け出す戦闘員。
「そっちには、行かせない……の。このまま、どこにも……」
智秋が、縛霊手のパンチとともに、霊糸で相手を絡み取る。
だが、戦闘員にも意地がある。恢と、盾になろうとした智秋に、パンチが飛ぶ。
しかし智秋も、クロスさせた腕の隙間から相手を睨み、
「大丈夫、大丈夫……。私が、守るから……誰一人、倒れさせたりなんて、しないの」
「動くな、なのですー!」
めげずに迫る配下が、突然硬直した。いつの間にか、結界に足を踏み入れていたのだ!
「待たせたのです!」
皆が振り返ると、珠音と聖也が戻って来た。少々息が切れている。
聖也の結界に囚われた、戦闘員の1人が、ばったり倒れる。
「納豆はねばねばだけど、貴方みたいにねちっこくはないよ! 体にも教育にも悪いゆーは退治しちゃう!」
「納豆を押し付けた上、人の嫌がる顔を見て楽しむ怪人め! 蹴散らしてやるです!」
「1人や2人増えたところで!」
いきがる怪人と戦闘員に向け、珠音がマイクを構えた。
「私が昨日5分かけて作った入魂の一曲、聞いてください。鷹森珠音で『ねばねば☆Never Give Up!』」
「ね、ねば~」
麗しき歌声に魅了され、戦闘員が床に倒れた。
ちょっと満足そうなのはなぜだ。
「さあ、残るはお前1人。強要布教のゲス野郎に、納豆の何たるかを語れるものか。再教育してやる、変態納豆」
恢が、影纏う腕を突きつけた。
●納豆に罪はなく
「このままでは給食の時間が……早めに決着をつけた方がよさそうでございますね」
時計を確認した鸞の殺人注射器が、怪人の腹に刺さる。活力をみるみる吸い取られ、ふらつく怪人。
そのダメージを見抜き、恢の足元で、影が爆ぜた。影によって膨らんだ右腕を叩き込む。
インパクトの瞬間、がばりと開いた影の口が、怪人を一飲みした。
「いっておいで!」
聖也の掛け声とともに、影が疾走した。ユニコーンの形を取り、そのまま怪人と激突。
押し返す力を振り切って、廊下の端まで追い詰める。
「どうなのです!」
ブレーキをかけるように、怪人が巨腕を床に叩きつける。
射出された納豆の糸が、次々と灼滅者たちの体に巻き付く。
だが、早苗のリバイブメロディが流れた途端、ぷちぷちと糸が切れていく。
「ふつうのご当地怪人は、地域の品の良さを伝えるために、街頭とかでアピールするんじゃ……!?」
「そんな手垢のついたやり方、俺はごめんだ!」
切られた糸を振り捨てる怪人。
「子供の嫌いな食べ物の原因の多くは苦手意識、あなたはそうやって子供を怖がらせて、自分で納豆嫌いを生んでるんだよ……!」
「無理矢理食べさせなくても、食べてもらう方法はいくらでもあるんだよ~?」
萌の渦巻く風刃、そして珠音の紅十字が連続して浴びせられる。
「これで……デッドエンドだ!」
手首のスナップを利かせ、朱音がマテリアルロッドを回転させる。
蓄えた魔力で輝く杖を、槍のごとく突き出し、怪人の腹を穿つ。
魔力爆発の軌跡を一直線に描き、窓際へと吹き飛ばす。
「無理強いするのは……。駄目……」
床とエアシューズが摩擦を起こす。生じた炎が、智秋の足をコーティング。
熱気をまとって繰り出されたキックが、怪人を正面からとらえた。
とっさに早苗が開けた窓から飛び出すと、校庭の上空で爆散したのだった。
「やったですー!」
勝利の喜びを、ジャンプで表す聖也。窓から校庭に手を振り、
「さあ、子どもたちを呼び戻すです!」
「そうだな。その前に」
後片付けを始める朱音を、鸞が手伝う。テキパキとした動作は、さすがサボテンメイド。
もっとも、手際なら、智秋も負けてはいない。
「あんまり、長居するのはよくないかも、だけど」
そのうち、子供たちの喧騒が戻って来る。
早苗は、例の女の子を見つけると、視線の高さを合わせ、
「怖かったね……。でも、いつか納豆が怖くなくなったら、また食べてみようと思ってくれると、うれしいな」
「相談なら、乗らない事もない」
恢もうなずく。
しかし女の子は困った顔で、
「でも納豆ってヘンな匂いだし、ぐちゃぐちゃしてて気持ち悪いんだもん」
「嫌いなら無理矢理食べなくてもいいよ。でも、もしいつか食べてみたいって思ったら、これを試してみて?」
萌が差し出したメモには、オムレツなど、納豆嫌いの人でも食べられる レシピが書かれていた。納豆好きの萌としては『嫌い』をただ否定するのでなく、『好き』になって欲しいから。
とりあえず、受け取ってはくれたので、後は女の子次第だろう。
「好き嫌い、なくなると、いいね」
智秋も微笑む。
「どうか、みんなに納豆のトラウマが残りませんように……」
「きっと大丈夫だよ。責任は持てないけど。もぐもぐ」
心配する聖也の横で、食べかけの納豆を完食する珠音だった。
作者:七尾マサムネ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年11月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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