よく考えたらバナナって至高の凶器じゃね?

    作者:のらむ

    ●その思想、まさに狂気
     序列五六九位の、マリーと言う名の六六六人衆がいた。
     フランス貴族風の優雅なドレスを身に纏うマリーは常日頃から、自分に相応しい殺しの凶器を探し求め続けていた。
     剣、槍、銃、棍棒、格闘、その他諸々。
     長い間様々な武器を試してきたが、マリーの理想は高く、どれもこれも納得がいかなかった。
     ああ、こんなに素敵な凶器に巡り合えないなんて神様が意地悪してるんですわとか言って嘆き続けて約1年。
     ついにマリーは己の理想とする、至高の凶器を見つけたのである。スーパーで。
     そしてマリーはその凶器を手に、とある高校を訪れていた。
    「ふふふ……最強の凶器を手に入れたわたくしはまさに無敵……今日は愚民共が通うこの高校で、わたくしの素敵な殺しを見せつけてあげますわ」
     校舎の前に現れたマリーがドレスの中から取り出した至高の凶器。それは。
    「それは……バナナですわ!!」
     校舎の中に突入したマリーは、半冷凍のバナナを滅茶苦茶に投擲し、廊下に立っていた生徒達の頭を吹き飛ばした。
    「ふっふっふ……このフォルム、この持ち具合、この色合い、この豊潤な香り……これこそまさに至高の凶器! ああ、やっぱり神様は私を見捨てたりはしていなかったんですわ!!」
     何故その結論に至ったかは誰にも分からない。マリーは疲れていたのかもしれない。
    「ふふふ、ウフフ、ふふうふふふふ……!!」
     実に満足げな表情のマリーは、身の丈をも超えるバナナ型の曲刀を手にするとフルスイングし、甘い香りと共に教師の身体を真っ二つにした。
    「さあ愚民共、私にひれ伏しなさい! 私のバナナに殺される栄誉を、その身に受け止めるといいですわ! うふふふふ……!!」
     マリーはとにかく楽しげに、無為な虐殺を繰り広げていくのだった。


    「ええ……今回蒼羽・シアン(ハニートラッパー・d23346)さんからの的確すぎる情報提供の甲斐もあり、マリーという六六六人衆が引き起こす虐殺を予知する事が出来てしまいました。皆さんは現場へ向かい、これを阻止して下さい」
     神埼・ウィラ(インドア派エクスブレイン・dn0206)はそう言って赤いファイルを開き、事件の説明を始める。
    「事件が起きるのは、とある町中の高校です。マリーは昼の時間帯にその高校の校舎に突入して駆け巡り、生徒や教師達を無差別に虐殺します」
     マリーの虐殺の結果、この学校にいた200人の一般人の内、90人が犠牲となってしまう。
    「皆さんは奴がこの高校の校舎の正面玄関前に姿を表し、自慢の凶器を手に取った時点から、行動を起こす事が出来ます」
     それ以前のタイミングで一般人の避難誘導や、マリーへの接触を行おうとしてしまえば、マリーのバベルの鎖に察知されてしまうだろうとウィラは言う。
    「幸いにも、皆さんはマリーが校舎に突入する直前に介入する事が出来ます。一般人の九割以上が校舎内にいる為、マリーを校舎に近づけない事が重要になるかもしれません」

     そしてウィラは資料をめくり、マリーの説明に入る。
    「マリーは、フランス貴族風の優雅なドレスを身に纏ったお嬢様の様な奴です。マリーは以前から『至高の凶器』を探し求めていた様ですが、ついにそれがバナナだという結論に至った様です。二度は言いません」
     マリーの思考回路については考えるだけ無駄だが、とにかく今のマリーはバナナを愛し、そしてバナナ的なサイキックで殺人を行っている。
    「ふざけている様にも思えますし思いたいですが本人は至って真面目で、しかも戦闘能力は高いです。バナナなのに」
     マリーは凍ったバナナを投げつけたり、バナナ爆弾を爆発させたり、バナナ型の黄色い曲刀で斬りかかったり、バナナの如き殺気で敵を攻撃したり、バナナを食べたりして戦闘を行うらしい。
    「いいですか、こんなんでも強いですからね。見た目に惑わされず、決して油断はしないで下さいね。いや本当に」

     そこまでの説明を終え、ウィラはファイルをパタンと閉じた。
    「説明は以上です。何度でも言いますが、マリーは六六六人衆で、強敵です。全力でマリーと戦い、どうにかして人々の命を救って下さい。お気をつけて」


    参加者
    高柳・一葉(ビビッドダーク・d20301)
    興守・理利(赫き陽炎・d23317)
    蒼羽・シアン(ハニートラッパー・d23346)
    果乃・奈落(果て無き殺意・d26423)
    七識・蓮花(人間失格・d30311)
    不破・九朗(ムーンチャイルド・d31314)
    甘莉・結乃(異能の系譜・d31847)

    ■リプレイ


     バナナな六六六人衆、マリー。序列五六九位。
     優雅にバナナを使って殺人を行うこの六六六人衆の凶行を防ぐべく、灼滅者達はとある高校を訪れていた。
    「バナナなのに人殺しなんてさせるか! バナナなのに!」
    「ああうん、バナナだね……至高の凶器を探して辿り着いたのがバナナって一体……頭が痛くなってきたよ」
     アンゼリカ・アーベントロート(黄金少女・d28566)と不破・九朗(ムーンチャイルド・d31314)がそう思うのも無理はない。
     マリーは一体なぜバナナを凶器として使うのか。それは本人含め誰にも分からないのである。
    「バナナ……。どうでもいいよね。困った痛いコが出てきたから止めないとね」
    「ふざけた相手ですが、油断は禁物ですね……人の命がかかっているのですから」
     どんな性格だろうと六六六人衆に気を緩めてはいられないと、甘莉・結乃(異能の系譜・d31847)と興守・理利(赫き陽炎・d23317)が気を引き締める。
    「まあ、そんな面妖な武器で殺されるほうはたまったものではないでしょうが……と、来たみたいですよ。私達の敵が」
     いつでも行動を開始できる様待機していた七識・蓮花(人間失格・d30311)が、校門前に訪れたマリーの姿を発見した。
    「ふふふ……最強の凶器を手に入れたわたくしはまさに無敵……今日は愚民共が通うこの高校で、わたくしの素敵な殺しを見せつけてあげますわ」
     優雅っぽい雰囲気を出しつつマリーが凶器のバナナを手にした、次の瞬間。
    「あらぁ、美味しそうなバナナねお嬢サマ……でもそれ凶器じゃないわよ」
     蒼羽・シアン(ハニートラッパー・d23346)は『シュウテン蒼星鳥』の名を冠す杖を手に、マリーの前に立ち塞がった。
     流れるような動きで他の灼滅者達もマリーに迫り、瞬く間にマリーは包囲される。
     更に灼滅者達は校舎の外に出ている一般人達に向けパニックテレパスを含むESPを発動すると、校舎内に戻る様呼びかけた。
    「バナナ、か。まぁこういう突き抜けた奴は嫌いじゃない」
    「バナナか……プロってすごいね。シアンさんも頑張ってるしボクもがんばろ」
     そして柩と悠を含むサポートのメンバー達も、それぞれ行動を開始した。
    「危険人物が徘徊しているので校舎内に避難する様に。避難した後は決して外に出ないで下さいっす」
    「北側玄関から慌てず押し合わず中に入れ」
     天摩と作楽がグラウンドで授業を行っていた一般人達にそう呼びかけ、避難を促す。
    「ここに居れば安全だから、絶対に外に出ないでね」
    「絶対に正面玄関と窓に近づくな」
     輝乃と七星は校舎内の一般人達に外に出ない様念押しして回っていた。
    「今出ていくとヤベェから、校舎の中で待機しててくれ」
    「ああ、マジでやべぇぞ。なんてったったバナナ使いの人殺しだからな。あんなのは中々いねえ」
     錠と誠も同じく一般人達を外に出さない様活動していた。
    「シアンさんファイト―! 全力でお手伝いしますから、バッチリキメて下さい☆」
    「サトリなら心配は無い、と思うけれど……頑張って。無事に帰って来てね」
     ひなこと時生は、マリーと戦闘を繰り広げる灼滅者達の無事を祈っていた。
    「あらあら、これはどうしたものかしら……わたくしの鮮やかな殺しを邪魔しようとするなんて、愚民以下ね」
     自身を包囲し、避難誘導を行い始めた灼滅者達をマリーは薄い笑みを浮かべながら眺め、バナナ的な凶器を構える。
    「お前の好きにさせると思うか? しばらくここで俺たちの相手をしてもらうぞ」
     果乃・奈落(果て無き殺意・d26423)は武器を構え、マリーを校舎に近づけまいと立ち塞がる。
    「ふん……生憎わたくしも、灼滅者如きに好きにさせるような気はありませんわ……わたくしのバナナ殺戮術の神々しさにひれ伏し、そして死んで逝くが良いですわ!」
    「私もマリーさんのバナナ美技は見たいなー! それじゃあ、楽しい時間の始まりだね♪」
     マリーの言葉に高柳・一葉(ビビッドダーク・d20301)はそう応え、トントンと軽くステップを踏み戦闘の構えを取る。
     そして戦いが始まる。


    「フリージングバナナ!! ですわ!」
     マリーは早速手にした冷凍バナナを投擲しまくり、灼滅者達の身体にぶつけその身を凍らせていく。
    「……これは素晴らしいバナナですね。バナナを選ぶセンスも素晴らしいと思います」
     攻撃を受けた蓮花がそう告げると、マリーはまんざらでもない表情は浮かべる。
    「当然ですわ。これぞわたくしが到達した至高の凶器。このセンスを理解できたのは貴方が初めてですわ。誇っていいですわよ」
    「それはどうも」
     短く返した蓮花は槍を構え、マリーに接近する。
    「あなたのセンスには勝てないですが、こちらも全力を尽くしますよ」
     そして放たれた鋭い刺突がマリーの肩を突き刺した。
    「……もう一撃、いっておきましょうか」
     更に蓮花はダイダロスベルトを展開し、超高速の斬撃をマリーに放つ。
     その攻撃を避けきれなかったマリーは腕を斬られ、僅かな傷を負った。
    「理想の武器化。バナナなんて斬新だな! スゲー!」
     アンゼリカはとりあえずバナナを褒めつつ拳を放ち、アンゼリカをなるべく戦闘地点を校舎から遠ざけようと尽力する。
    「俺も続くぞ……手強い相手だが、勝機は十分にある」
     奈落は構えた槍の先端に妖気を込めながら、マリーに狙いを定めていく」
    「……ここだ」
     そして放たれた巨大な氷のつららが、マリーの胸を打ちその身を凍らせた。
    「わたくしのバナナ道を邪魔するものは、誰であろうと地獄行きですわ」
     マリーはふざけた得物とはまるで異なる赤黒い殺気を曲剣に纏い、奈落に向けて突きだした。
    「グ……!!」
     身体を貫いたその一撃に奈落は苦悶の声を上げるが、奈落の殺意も負けてはいなかった。
    「この程度で……俺を殺せると思うな……!!」
     奈落はフードの奥でカッと目を見開くと勢い良く槍を突き上げ、マリーの腹を貫いた。
    「この……! 灼滅者如きがわたくしのドレスを汚すなんて……!」
     刃を引き抜き後ろに奈落との距離を取ったマリーは、憎悪の視線で奈落を睨む。
    「おっと、君の相手は1人じゃないよ」
     その直後、マリーの背後から強襲した九朗は灼熱の蹴りをマリーの背に叩きこむ。
    「小賢しいですわ……これでも喰らいなさい!!」
     マリーは全方位にバナナ爆弾を投げまくり、自身を取り囲む灼滅者達を爆撃する。
    「いやー、良く出来てるなーこの爆弾! 朝食にもかかせないバナナを凶器に使おうだなんて、流石マリーさんは目の付け所がちがうねっ!」
     一葉は軽快に戦場を跳ね回って爆弾から仲間を庇いつつ、マリーに称賛の言葉を投げる。
    「ふふふ……そうでしょう? この爆弾はわたくしのサイキックエナジーが込められた最高品質の……」
     調子に乗って語り始めるマリーを、結乃は静かに眺めていた。
    「バナナが素晴らしいなら、自分だけ感動してればいいのに」
     マリーにも聞こえない位小さな声で呟くと、結乃は標識を構えマリーに接近する。
    「まずは一撃、動きを封じさせてもらうよ」
     結乃は赤くスタイルチェンジさせた標識をマリーの鳩尾に叩き付け、その動きを鈍らせる。
    「……その攻撃はかなり厄介ですわ」
     結乃の一撃に顔をしかめたマリーは、ドレスの懐から取りだしたバナナを食べてどうにかして己の傷を癒した。
    「互いに厳しい状況の筈なんだけどね。本当に緊張感のない相手」
     回復に手を割いた今を好機と見た結乃は、更にダイダロスベルトを展開し攻撃を仕掛けていく。
    「バナナ相手にやられたくはないかなー」
     そして結乃が放った無数の斬撃は、マリーの全身を切り裂いた。
    「くっ……わたくしのバナナ殺戮術はこんなものではありませんのよ!」
     手傷を負ったマリーは全身からバナナの如き殺気を放ち、灼滅者達の身体を蝕む。
    「これで傷を負うのは若干納得いかないけど……とにかくすぐに回復するよ!」
     そう言ってシアンが掲げた剣から祝福の風が放たれ、灼滅者達の傷が癒えていく。
     そしてこのタイミングでグラウンド内や校舎入口付近にいた一般人達は校舎の上階へと非難し終え、誠が戦闘に合流する。
     マリーを包囲し、気を惹きつつグラウンドで戦闘を続けるという灼滅者達の作戦は、成功した様だ。
    「どうやら、一先ずの策は成功した様ですね……ですがまだ勝負は決していません、このまま死力を尽くしましょう」
     ひとまずの一般人の無事が得られた事に安堵しつつも、理利は錫杖の如き長槍を構えマリーに接近する。
    「ダークネスの考えなど理解したくないですが、おれの中の殺人衝動が肯定的なので、その武器は有りなのでしょう」
    「あら、それなら闇堕ちすれば素敵な六六六人衆になりそうですわね、貴方」
    「嬉しくありません」
     シャンと響く音と共に放たれた理利の刺突は、マリーの胸を打ち勢いよく吹き飛ばす。
    「ところで1つ提案なのですが、バナナが解凍したら帰ってくれないでしょうか?」
    「さあ、どうしましょう。そこまでの時間が経った時に貴方が生きていれば、考えてあげてもよろしくてよ」
    「だったら、尚更負ける訳にはいきませんね」
     そして理利は『九結太刀』を構え、マリーとの距離を詰める。
     煩悩を断ち切る念が込められた静かな斬撃は、マリーの腕に深い傷を刻み込んだ。
    「フフフ……全く灼滅者と言うのは野蛮な連中ですわ。ですが私のバナナの力は、まだまだ尽きませんわ」
     マリーはバナナを手に更なる殺気を身に帯びながら、灼滅者達と戦いを続ける。


    「バナナか……武蔵坂にもバナナ使いというか自称バナナがいるし、こんなのが出てくるのも宣なるかな、ってことなのかな?」
    「誰の事か分かりませんが、その灼滅者とは強いシンパシーを感じますわね」
     九朗の言葉にそう返して、マリーは再びバナナ爆弾を構える。
    「さあ吹き飛びなさい! わたくしの華麗なバナナと共に!!」
     マリーはとにかく滅茶苦茶にバナナ爆弾を投げまくり、グラウンドは爆炎と甘い香りに包まれた。
    「確かに、この実力は本物だ……不思議な事に」
     仲間を庇いいくつもの爆風を浴びた九朗は、己の傷を盾で癒しながらマリーと相対する。
     九朗は放出した全身の魔力から炎に包まれた無数の矢を形成し、マリーに向けて撃って牽制する。
    「まだ終わりじゃない……もう一撃、決めて見せる」
     更に九朗は炎を宿した黒鉄の蛇腹剣『Ontologie』を振るい、その刃をマリーに伸ばす。
     放たれた灼熱の斬撃はマリーの身に鋭い傷を与え、その傷口は焼け焦げていく。
    「クッ……今のは結構効きましたわ……」
    「その程度で終わりと思うなよ」
     九朗に続きマリーに突撃した奈落が無数の拳を放ち、マリーの全身に打撃を与えていく。
    「この……あまり調子に乗らないで下さいませ!」
     叫ぶマリーは再び冷凍バナナを放ち、灼滅者達の身を凍らせていく。
    「こっちの消耗も結構激しくなってきたわね……でもナナ達も頑張ってくれたんだもの、あたしが全力を出さない訳にはいかないわ!」
     キツイ攻撃を受けたシアンだったが、すぐに己を奮い立たせ仲間たちの傷を癒していった。
    「というかここまで来たから言っちゃうけどね、なんでバナナなのよ!? ダークネスならなんでも凶器になるんでしょうけど、それにしたってないわ! 更に言うなら食べ物使って遊んでんじゃないわよ!」
     言いたいことを全部言い切ったシアンは、青いピンヒールに炎を纏わせながらマリーとの間合いを測る。
    「ふ……やはりこの至高の凶器は、灼滅者如きに理解できる代物ではないということですわ……哀れみを覚えますわ、灼滅者」
    「今一瞬心に浮かんだ本気の殺意をぶつけてやるわよ」
     そして一気にマリーに接近したシアンは炎の蹴りを放ち、マリーの鳩尾を穿つ。
    「エレル、続いて!!」
     シアンの呼びかけに応えたウイングキャットの『エレル』は翼から魔力を放ち、魔術によって生み出された蒼き雷鳥がマリーの足を貫いた。
     その隙にシアンは更に剣による刺突を放ち、マリーに追撃したのだった。
    「まあ最初から思ってたけど、人を死なせて素晴らしさを語られても全然心に響かないなー」
     畳み掛ける様に結乃が放った氷の刃が、マリーの身体に突き刺さる。
    「……あ、私の名誉の為に言っておきますが、センスが素晴らしいと言ったのは嘘ですよ、もちろん」
     蓮花は怪談蝋燭から放った炎の華で、マリーの身体を焼け焦がす。
    「うーん、私は本当に結構好きだけどなー、バナナ殺戮術! 他では見れない技だよねー!」
     一葉は全身に纏ったオーラを拳に溜めつつ、楽しげにマリーに投げかける。
    「……灼滅者如きに理解された所で、大して嬉しくはないですわ」
    「あ、そう? まーとにかく面白い物見せてくれたお礼に、私も本気出しちゃうよ!」
     そして一葉は自身のライドキャリバーを踏み台に二段ジャンプを行うと、マリーの頭上で拳を突きだす。
    「攻撃しながらガブリといったおう♪」
     一葉が放った鋭く巨大な牙の如きオーラは、マリーの首筋に喰らいつき齧り取った。
    「さあさあ、どんどん行くよ!」
     一葉は軽い口調ながらも攻撃目標を逸らすという意図を持ち、派手な立ち回りでマリーに攻撃を仕掛け続ける。
    「隙ありだよ!」
     そして一葉はマリーの死角から鋭い斬撃を放ち、その脚の一部を抉り取った。
    「ふふふ……!! わたくしのバナナ殺戮術を以てしてもここまで耐えるとは……どうやらあなたがたは中々骨のある灼滅者の様ですわ」
     マリーは優雅に、余裕たっぷりといった表情で灼滅者達を見まわす。
     しかしそう語るマリー自身の傷も浅くはなく、動きも鈍ってきている。
     撤退するか否かの判断を迫られているであろう事は、灼滅者達にも読み取れた。
     灼滅者達はマリーの攻撃を上手く分散させる事が出来、現状1人も倒れていない状態ではあったが、それもいつまで持つかは分からない。
    「ですがまた撤退しないというのなら……おれ達は闘いを続けるのみです」
     理利はそう呟いて刀を振り降ろし、マリーの身体に更に傷を刻む。
    「お前の武器はバナナかもしれないが、私の武器はこの拳だー! 受けてみろ!」
     アンゼリカは勢いよく言い切ると片腕を鬼の如く異形化させ、マリーに突撃する。
    「全力で殴り切る!!」
     そして放たれた重い拳はマリーの脳天に突き刺さり、マリーは地面に叩き伏せられた。
    「グッ……! 拳で殴るだなんて、野蛮人の常套手段ですわ!」
    「野蛮じゃないと名乗った覚えはないぞ! そして私は、お前に1つ言っておく事がある!」
     アンゼリカはビシッとマリーを指さす。
    「お前がバナナ好きなのは分かった。でもな、バナナを食べる時ってもっと救われてないとダメなんだぞ! お前はバナナを使ってみんなを不幸にしてるだけじゃないか!」
    「あなたみたいな子供に何が分かるというんですの!」
    「命の大切さと、私は六六六人衆が嫌いだという事だけははっきりと分かる!」
     そういってマリーは拳を固く握りしめ、全身のオーラをそこに集束させる。
    「さあ行くぞ、これが私達の本気だ!!」
     そしてアンゼリカは拳を構えて突撃し、それに続いた灼滅者達も一斉に攻撃を放った。
     蓮花が放った鋭い斬撃が胸を断ち、
     理利が放った複数の影燕が全身を喰らう。
     一葉が放った凶悪な炎の蹴りが脳天に突き刺さり、
     結乃が放った帯の斬撃が背を抉る。
     奈落が放った氷の刃が肩を貫き、
     九朗が放った炎の斬撃が首筋を斬る。
     シアンが放った素早い斬撃が脚を斬り、
     アンゼリカが拳を思いきり突きだした。
    「何度だって、殴りまくる!!」
     アンゼリカの怒涛の拳の連打はマリーの全身にめり込み、最後に放った顔面への一撃にマリーの身体は思いきり地面を転がった。
    「わ……わたくし程の高貴な人間の顔に傷を付けるなんて……すぐにでも殺して……」
     鼻を抑えながら溢れんばかりの殺気をアンゼリカに向けるマリーだったが、一瞬の間の後首を振った。
    「……いや、ここで死んだら元も子もないですわ。……今日の所は見逃してあげますわ、灼滅者!!」
     マリー物凄い勢いで走り灼滅者達の包囲網を抜けた。
     灼滅者達も逃げるならば深追いはしないというのが大まかな方針でもあったし、実際このまま続ければ誰がどうなるかは分からなかった。
     そしてマリーは灼滅者達の方を振り返り、キッと睨んだ。
    「ですが次に会った時は、わたくしとバナナは容赦しません事よ!!」
     そう言い残したマリーは、脱兎の如く駆け出し消え去って行った。
     後に残ったのは、甘ったるいバナナの香りのみだった。
     そこに鉄の様な血の臭いが混じっていなかったのは、灼滅者達の大きな成果だったと言えるだろう。

     こうして戦いは終わった。
     六六六人衆マリーの虐殺は、灼滅者達の作戦と死闘によって防がれた。
     そして大きな痛手を負ったマリーは、しばらくは大規模な活動を行う事もないだろう。
     深い傷を負いつつも、全員で戦いを終えた灼滅者達は学園に帰還する。
     マリーとの戦いは一旦終わりを迎えたが、灼滅者達には次なるダークネスとの戦いが待ち受けているのだろう。

    作者:のらむ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年11月19日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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