集結する光の軍勢~孤独なる双剣士の求めしものは

    作者:長野聖夜

    ●欠けている、何か
     ――東京都内 某所。
     両手をポケットに突っ込んだ高校生くらいの青年が、何が気に入らないのか、周囲に敵意を振りまきながら歩いている。
     ――なにが、絆だ。
     頭を揺さぶられるような何かに舌打ちを一つ。
     最後の方でついつい熱くなり、全力を出してしまったが、その時のあいつらの顔が今になっても忘れられない。
     ――人は、何処でも、どんな時でも独りなんだ。
     それが、現実。
     どんなに『絆』なんてものを紡いでも。
     死んでしまえば消えてしまう、儚いモノ。
     其れを求め続ける感性が、彼……孤牙 透には理解出来ない。
     ――否……したくないのかも知れない。
     そんな、時。
    「? なんだよ、こいつは……」
     秋の夜長の星空が、何時にも増して眩く感じて思わず顔を上げてしまう。
     空には、まるで、オーロラの様な光が、燦然と輝いて。
    (「……なんだよ……この感じ……」)
     ――それは、久しく忘れていた筈の、何か。
     気が付いた時、『彼』は、真っ直ぐに視線を向けていた。
     ――行かなきゃ、な。
     抑えきれない衝動に突き動かされ。
     六六六人衆、五五〇位、孤牙 透は、新宿橘華中学へと向かい始めた。

    ●孤独と、絆と
    「……皮肉って言うのはこういうことだよな……」 
     北条・優希斗(思索するエクスブレイン・dn02300)が、目の前に置かれた死神の逆位置のタロットを見て、溜息を1つ。
     集まって来た灼滅者達を見て、複雑な笑みを浮かべた。
    「ああ、皆。クロキバが灼滅されたのは知っているね?」
     優希斗の問いかけに灼滅者達が首を縦に振る。
     安土山で起きた事件の記憶は、まだ記憶に新しい。
    「最後に正気を取り戻してクロキバを誰かが継承することにはなったけれども。でも、これは大きな成果だったと思う」
     ただ……と優希斗が少しだけ沈痛な表情を浮かべた。
    「結果として、白の王セイメイの力は弱体化した。そこで……『タカト』が積極攻勢に移ったんだ」
     以前誘拐されて以降、所在を掴めずにいたラブリンスター。
     彼女の無差別篭絡術を利用することで、多くのダークネスを自らの配下に引き入れながら。
    「具体的にどう動くのかははっきりしないけど。でも何か大きな作戦を行うつもりなのは間違いない」
     淡々とした優希斗の言葉に、灼滅者達が息を呑みつつ、首を一つ縦に振る。
     其れに優希斗が頷き返した。
    「でも、武蔵坂学園と関わったことのあるダークネスの行動は、僕達にはある程度予測できるみたいなんだ。それで僕が見たものは……」
     少し息を詰め、静かに深呼吸をする、優希斗。
    「六六六人衆、第五五〇位、孤牙・透。……孤独を愛し、絆を否定する彼が、タカトの配下として合流する様。……彼を合流させれば、タカトは大きな力を得る。だから……危険な任務なのは、承知の上だけれど、タカトに合流する前に、彼の灼滅を、お願いしたい」
     優希斗の願いに、灼滅者達は其々の表情で、返事を返した。

    ●本気の『双剣士』
    「透は、数ヶ月前、人々の絆を否定し、其れを壊そうとある商店街に現れた時、君達の仲間が戦った相手だ。その時の実力は圧倒的で、上手く逃げられてしまったけれど」
     ただ其れは、一般人への被害を考慮して、灼滅者達が救出を行った結果。
     今回、彼に接触するのは、静まり返った夜の秋葉原、ということもあり、人気は殆どないらしい。
     つまり、最低限の人払いさえすれば、ただ灼滅することにだけ、全力を注ぐことが出来ると言うこと。
    「但し、その刀捌きは見事なものだ。そして、彼の厄介な所は、自分が『敵』と認めた相手に、確実に止めを刺そうとすることにある」
     鎧袖一触の刀捌きで倒れていないものを牽制しつつ、倒れている者に止めを刺す。
     それが、本気になった透の戦い方。
    「だから……死の危険は極めて高い。その上彼は、特殊な刀技を使いこなすらしい」
     尚、今回のポジションはクラッシャーだそうだ。
     このポジションも、彼の本気なのだと言う。
    「でも……絆を否定する透が、タカトの光に操られたのには……もしかしたら、彼の中の何かが、そうし易くさせていたのかも知れないね」
     もし、其れが何かわかれば、或いは多少は弱体化できるかもしれない。
     優希斗の補足に、灼滅者達は小さく首を縦に振った。
    「……タカトがこれ程までに一気に動くのは、大きな戦いの予兆なのは間違いない。……そんな時に、透の様な強力な六六六人衆をタカトの配下にはさせられない。こんな危険な戦いに、皆を送ることになるのは、正直心苦しいけれど……何かがあれば、必ず俺達が探し出す。だから……どうか、生きて帰って来てくれ」
     優希斗の願いの込められた祈りを受け止め、灼滅者達は、静かにその場を後にした。


    参加者
    神條・エルザ(クリミナルブラック・d01676)
    北斎院・既濁(彷徨い人・d04036)
    神乃夜・柚羽(燭紅蓮・d13017)
    嶋田・絹代(どうでもいい謎・d14475)
    高坂・透(だいたい寝てる・d24957)
    有城・雄哉(高校生ストリートファイター・d31751)
    ヘイズ・フォルク(青空のツバメ・d31821)
    東堂・時雨(悠久に降りしきる雨・d32225)

    ■リプレイ


     ――某日深夜 秋葉原。
     ――周囲に満ち満ちていく、圧倒的なまでの殺意。
     其れは、嶋田・絹代(どうでもいい謎・d14475) の作り出した、人々を遠ざける為の殺意の結界。
     気配に気が付いた少年は、胸に棘が突き刺さるような痛みと苛立ちを覚え、思わず舌打ちを1つ。
    「どこ行くんすかねぇ? 行く当てもなさそうなのがねぇ」
     絹代と共に現れた、8人の男女の姿に、孤牙は胸にざらつきを感じ、更に行き場のない怒りを覚える。
    「久方ぶりですね。覚えているでしょうか」
     神乃夜・柚羽(燭紅蓮・d13017) に、涼しくそう尋ねられたら尚更。
    「あっ? なんだよ、テメェ」
     怪訝そうな孤牙に、柚羽は静かに微笑みかける。
    「私は、貴方を記憶していますよ。『次は確実に殺したい』。そう、言われましたから」
    「……!」
     眉を顰める、孤牙。
     そのまま、腰に帯びた双刀を抜き、冷たく刺すような殺気を放つ。
     その殺気を盾で受け流しながら、神條・エルザ(クリミナルブラック・d01676) が何処か憐れむ様に語り掛けた。
    「……もう、終わらせよう。因縁を結んだ誼だ。お前のことは、私が覚えていてやるから」
    「……何でテメェらが、俺のことを知っているのかは俺には分からねぇ。ただ……テメェらを見てると、殺したくてしょうがなくなってくる」
    「お前は、本当は理解者を求めているんだろう? 絆を否定しているのに、人との縁を求めている様にしか、僕には見えない。でも……新宿橘華中学には、行かせない」
     有城・雄哉(高校生ストリートファイター・d31751) の冷たくも、何処か自分を映す鏡の様に感じさせるその呟きが、更に孤牙の神経を苛立たせた。
    「死ねよ、テメェら」
     何処かに突き刺さる痛みを感じながら、双刀を引き抜き腰だめに構え、孤牙 透は灼滅者達に斬りかかった。


    (絆を否定しつつも、心の何処かで絆を求めている、ですか……)
     サウンドシャッターで周囲の音を断ち切りながら、東堂・時雨(悠久に降りしきる雨・d32225) は、密かに思う。
    「まあ、例えそうだったとしても。俺にとって、アンタは敵や、孤牙 透」
     冷たく言い放ちながら、孤牙の周囲に鋼糸を展開する、時雨。
     時雨によって張り巡らされた目に見えぬ糸が、双刀を絡め取ろうとするが、孤牙はジグザグに動いて網を掻い潜り、双刀を振り抜いた。
    「! 気を付けて下さい!」
     以前とは異なる気配に、柚羽が仲間達に声を掛けつつ接近してクルセイドスラッシュ。
     自らの身を聖戦士化させつつ離脱する柚羽と入れ替わり、続けてエルザがグラインドファイア。
     炎に体を焼かれつつも、口元に鱶の笑みを浮かべた孤牙が、勢い衰えることなく双刀を振るう。
    「テメェらは確実にぶっ殺す! 俺の勘がそうしろって、疼くんでな!」
    「そう簡単にやらせるわけにはいかねぇんだよ」
     啖呵に啖呵で返しながら、北斎院・既濁(彷徨い人・d04036) が霧に紛れる様に姿を消す。
     WILD CASEの刃の煌めきが、孤牙の脚部を狙っていた。
    「チ!」
     咄嗟に動いて致命傷を避けるが、腿の一部が切り取られ鮮血が飛び散り、其れが、孤牙の動きを僅かに鈍らせる。
    「最近、まともな戦闘はしてなかったんだ、楽しませてくれよ!?」
     ヘイズ・フォルク(青空のツバメ・d31821) が好戦的な喜びを口に出しながら電磁式居合刀『雷華』を抜き放ち、一閃。
     光輝くその刃を孤牙は軽く紅刀でいなす。
    「ああん? なんだよ、テメェ?」
    「クラスメイトが世話になったみたいでね!」
     ヘイズの言葉に目を細めつつ、蹴りでヘイズを引き離す孤牙。
     だが、その隙を埋める様に絹代が蛇咬斬。
     蛇の様に巻きついた刃に肩を切り裂かれる孤牙を見ながら、高坂・透(だいたい寝てる・d24957) が先の衝撃波によって最も負傷していた雄哉にラビリンスアーマーを施した。
    「絆を嫌っているのに、絆の為に何処かに向かうなんて、なんだかアベコベだよねぇ?」
    「ああ? ……なんだよ、いきなり」
     僅かに眉を顰める孤牙の姿に苦笑を零す、透。
    「あの光を感じた時、そして今、君は何を感じているのかな?」
    「……あんまり苛立たせるんじゃねぇぞ、テメェ」
     呟き、次の動作に移るよりも早く、柚羽が接近し神霊剣。
     そのまま彼に囁きかける。
    「次に会ったら殺してやる。そう言われた時、針に糸が通ったと思いましたよ」
    「チッ……テメェ、また……!」
     頭の片隅に感じる微かな痛みに舌打ちしながら、柚羽を背後から切り裂こうとする、孤牙。
    「やらせない」
     その時には、雄哉が柚羽と背中合わせになり両腕を交差させて、その攻撃を受け止めるが。
     ――ぐっ……強い……!
     掲げているWOKシールドを破壊されたのでは、と錯覚してしまう程の衝撃に顔を歪めた。
    「これも同族嫌悪って言うんだろうか。お前を見ていると、僕も苛立ちを抑えきれない」
     ソーサルガーダーを使って傷を癒し、更になのからの支援を受けながら、雄哉は首を横に振る。
    「また、訳の分からねぇこと言いやがって……!」
    「お前の心の中は、誰にも覗けねぇし、お前の想いは誰にも見えねぇ。お前の本心だって、誰にも知ることは出来ねぇ」
     雄哉に覆い被せる様に、既濁が言い切り、孤牙の死角となる背後から姿を現し、その背を切り裂く。
     負傷しつつも、蒼刀で既濁に突き返す、孤牙。
     鋭い突きに肩を貫かれ鮮血を飛び散らせつつも、既濁の言葉は淀みない。
    「だから、人ってのは言葉で伝え、態度や表情で露にするんだ。テメーから発信しなければ何も伝わらないし、誰にも分かって貰えやしない」
    「孤牙 透。貴方は一体何を求めて、新宿橘中学に向かおうとしているのですか?」
     時雨が問いかけつつ姿を掻き消し、ティアーズリッパー。
     死角からの刃に孤牙が脇腹を切り裂かれつつ、双刃を振るう。
     その軌跡が、まるで、剣舞の様に美しく、散桜の様にひらひらと舞い降りる様な、不可思議な軌道を描いた。
     嫌な予感がした絹代が咄嗟に前に出てその攻撃を受け止めた時。
    「……ガァッ!」
     全身を細切れにされそうな程の痛みを受けて咄嗟にウロボロスシールドを起動させ、体中についた切創を修復する。
    「! そうか、今のが……!」
     視認できない程の速さに冷や汗を流しつつ、エルザが閃光百裂拳。
    「これ以上は、させるかぁ!」
     畳みかける様にヘイズが黒死斬で既濁が切り裂いた傷口を広げつつ孤牙のリーチを埋めるべく、思い切り踏み込み、鍔迫り合いに持ち込んだ。
    「チッ! 少しは出来るみてぇだな……!」
     火花を散らせつつヘイズを蹴り飛ばし、リーチを取り戻す、孤牙。
     ただそれでも、透のラビリンスアーマーとなののふわふわハートで、全身を斬り刻まれた痛みに苛まれる絹代を癒す時間は作れた。
    「……視えませんでした。……これが、貴方の本気、なんですね」
     一拍遅れて状況を理解した柚羽が、ほんの少しだけ嬉しそうに口の端に笑みを浮かべた。


    「殺し合うのは、嫌いじゃないんですよ。だって其の間は、殺す対象としてお互いを意識していますから」
     柚羽がマテリアルロッドに籠めた魔力を暴発させて、フォースブレイク。
     耳を劈くほどの爆発音が孤牙を飲み込むが、苦痛を意に介さず、クルクルと竜巻の様に体を回転させて、紅と蒼の刃を無尽蔵に連射する。
     エルザが入れ替わりに、フェイントを盾で受け止めつつ、サイキックを籠めた刃で孤牙を切り裂き、反撃で体を細切れにされる可能性を覚悟しつつ、雄哉が、その腕を硬化させて正拳突き。
     撃ち込まれた突きの衝撃を後ろに飛んで軽減する孤牙の作った隙間に踏み込み、ヘイズと時雨が左右から襲い掛かった。
     ヘイズの雷華による斬撃を紅刃で受け止めるが、衝撃から刃こぼれを起こし、時雨の撃ち出した鋼糸に蒼刃を絡め取られた。
    「ちっ……! やってくれるじゃねぇか!」
     叫びと共に、蒼刃に絡みついた糸を破壊し、紅刃を研ぎ澄ませた孤牙に、正面から既濁が突進しジグザグスラッシュ。
     足の腱を引き裂かれて出血させつつ孤牙がほんの僅かに苦痛に顔を歪めた。
    「もしかしてだけど、絆が無駄だなんだとか言って自分で斬り潰していってる辺り、そう言う風に自分に言い聞かせてたりするんじゃないっすかねぇ?」
     絹代が、その足元の影を黒い大蛇の姿に変貌させ、飲み込ませようと齧りつかせる。
     先ほどの一撃で受けた肩の傷を齧られ、僅かに顔を顰める孤牙。
    「どうして、絆をそこまで目の敵にするの?」
     夜霧隠れで前衛の仲間達を癒しながら、静かに問いかける、透。
     更にまだ傷が癒えきっていない雄哉をなのが回復。
     態勢を整え直されたことに孤牙が目を見開くが、即座に双刀を翻す。
    「調子に乗るな!」
     月光を思わせるほどの眩い光を帯びた衝撃波が、絹代や、雄哉達ディフェンダーの防御を剥がす。
    「斬り裂けぇ!」
     臆することなくヘイズが目にも止まらぬ速さで雷華を抜き放ち、一閃。
    「直ぐに動きを止めて差し上げますよ、孤牙 透!」
     時雨が鋼糸を張り巡らし蒼刃を封じようとする。
     更にエルザが炎を纏った蹴りでその腕を砕こうとし。
     其れに合わせて既濁が黒死斬で同じ腕を斬り落そうと急襲する。
    「チィッ!」
     孤牙が忌々し気にそれらの攻撃を塞ぐ間に、柚羽が接近し、クルセイドソードで袈裟斬り。
     反射的に孤牙が受けの姿勢を取った瞬間を狙って、左手のロッドを腹部に向けて突き出し、本命のフォースブレイク。
     圧倒的な魔力の奔流が孤牙の体の一部を吹き飛ばすが。
    「オラァ!」
     気合一声、孤牙が双刃を夜闇に閃かせ、その命を刈り取るべく舞う。
     対象は、柚羽。
     彼女を一番強い、と判断しているのだろう。
    「! やらせるものか!」
     させじ、と柚羽の前に立ち塞がったのは、雄哉。
     防御が破壊されているのを厭わず両腕でガードを固め、WOKシールドで受け止めるが。
     ……次の瞬間、彼の体が、まるで鞠の様に宙に舞った。
     圧倒的な速さで斬り込まれたその乱舞に、負傷が蓄積していた肉体が耐え切れなかったのだ。 
     全身を細切れにされんばかりの痛みに苛まれ、次に地面に戻ってきた時には、もはや膝をついて立っているのもやっと、というほどに消耗し、意識も殆ど朦朧としていた。
    「……フン、生きていやがったか」
     称賛とも、嘲りとも取れる孤牙の呟きを耳にしつつ、真っ直ぐに彼を見返す、雄哉。
     その背に故郷で自分に起きたことが、少しだけ重なった。
    「……ダークネスじゃなければ、分かり合えたかも……な……」
     そのまま、糸の切れた人形のように倒れ伏す。
    「……?!」
     雄哉の呟きに、孤牙が一瞬、その動きを止める。
     その隙を、絹代が見逃す筈がない。
    「絆が無駄だとか言っちゃっているけど、本当はそう言う風に自分に言い聞かせているだけじゃないっすか?」
     絹代の問いかけに、僅かに冷汗を垂らす孤牙の脇腹を、容赦なく抉り、破壊する。
    「僕も、出来れば知りたいな。君の過去を」
    「……?!」
     雄哉を保護するべく前に出た透の呟きは、十分以上の成果を上げた。
     そう……ヘイズと時雨が、左右から襲い掛かり、孤牙の動きを封殺する時間を作る程に。
     更に、既濁が一撃。
     息つく暇を与えない連携に、孤牙がまさかの防戦に回る。
     それでも隙をつき反撃する孤牙。
    「まだだ……まだ俺は生きてる、ぞ……?」
     一太刀で出来た切創を見て、ヘイズが笑う。
    「まだ……まだです……」
     痛みで糸を手放しそうになるのを堪えながら、時雨も微笑んだ。

     ――それから、数分……。

     決着の時が、訪れようとしていた。


    「これ程までやられるとは……なぁ!」
     最早誰が強いなどと言う事を判断する余裕を失った孤牙が、鋭く叫び、一気にエルザに肉薄する。
     双刀を翻すその攻撃を、咄嗟にWOKシールドで受け流そうとするが、とてもではないが間に合わない。
     だが……。
    「例え細切れにされても! アンタが死ぬまで私は死なねぇよ!」
     怒気を孕んだ大声を上げて、傷だらけの自らを奮い立たせた絹代が割って入り、全身を斬り裂かれ膝をつきつつも、孤牙を睨み付けた。
     既に負傷は限界を越え、魂に肉体を凌駕させつつ立ち塞がっても尚、鋭気衰えることの無い孤牙の攻撃を受け、もはや動くこともままならない。
     ただ……孤牙も限界が近いのは同じこと。
    「此処で、終わらせます」
     柚羽が静かにそう告げ、クルセイドソードで孤牙を斬りあげ。
    「さっさと倒れなさい、孤牙 透」
     時雨が冷徹に呟き、自らが展開していた糸の軌跡を辿って孤牙に接近、その急所を深々と斬り裂き。
    「ひたすら他人を拒絶するだけのお前にゃ、負けねぇよ」
     既濁の影から放たれた獣が、孤牙の胸に喰らいつき。
    「アンタの我侭に他人を巻き込むな。死ぬなら、1人で死ね!」
     ヘイズがその隙を縫ってチェーンソー剣で袈裟懸けにその体を切り裂き。
    「待っている人がいるから。皆を信じているから。僕は戦える」
     回復を捨て、攻撃へと転じた透が、テーピングテープでその身を締め上げ。
     そして……。
    「滅び去れ、孤牙透。その孤独から、私が解き放ってやる」
     サイキックソードによる刺突を繰り出したエルザが孤牙の心臓を貫いた時、孤牙の刃もまた、エルザの胸を貫いていた。
    「て、テメェ……」
     胸から大量に出血しつつ、絶望にその心を覆われている娘が、敢えて刃に身を曝したと気付く、孤牙。
    「お前の闇も、背負って行こう」
    「……チッ……テメェの絶望に……俺は負けた、か……」
     笑みと共に、エルザが刃を引き抜くと、孤牙は、地面に倒れ伏した。


    「エルザ!」
     グッタリと倒れかけたエルザの傍に矢の様に飛び出した既濁が彼女を支える。
     俯せに倒れた孤牙は、そんな既濁たちの様子を、死へと微睡む意識の狭間の中で、確かに見ていた。
    「チッ……『また』俺が……忘れられる、なんてな……」
     呻く様に微かに呟く孤牙の傍らに、柚羽が膝をつき、静かに、諭す様に語り掛ける。
    「私は、生きています。生きている私が忘れない限り、糸は通ったままです」
     ――私は……。
     きっと、彼のことを忘れない。
     相互の殺意。其れは歪な形ではあるけれども……決して消えることの無い、強い絆だと思うから。
     柚羽の呟きに、孤牙の目に先程までとは違う光が僅かに戻り……ほんの微かに息を漏らした。
    「……ハッ。こんなことなら、テメェらのこと、あの時殺しておけば、良かったぜ……」
    「お前……!」
     エルザが思わず息を呑む。
     今、彼は確かに記憶を取り戻していた。
     ――そう。彼が無意識に育み……何処かで心に残していた、『絆』と共に。
    「まっ……そう言う訳だ……。それじゃあ、先に地獄に行って、待ってるぜ、お前ら……」
     最期にそう告げ、孤牙は光の粒子となって消えて逝く。
    「……あばよ。寂しがりの、一匹狼さん」
     天空へと昇っていく光を見上げたヘイズの弔いの呟きが……吸い込まれる様に、夜の闇に消えて行った。

    作者:長野聖夜 重傷:神條・エルザ(イノセントブラック・d01676) 有城・雄哉(蒼穹の守護者・d31751) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年11月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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