集結する光の軍勢~喪服の屍王は因縁の地へ

    作者:御剣鋼

    ●深淵に灯る、光
     その迷宮は、まるで墓所だった。
     色彩が皆無に等しい迷宮の奥深くには、謁見の間のような空間が、只1つだけ。
     灯りも最小限の中、唯一の調度品とも言える王座に座した迷宮の主、ノーライフキング『シューネ』は、うつらうつらと微睡んでいた。
    「…………」
     見た目は17、8くらいの少女だろうか。
     肩まで揃えた銀髪に四肢は水晶、顔と手足以外は喪服で隠されていたけれど、彼女は白の王配下の屍王の1人でもある。
    「誰です」
     ふと、虚ろな碧色の瞳を大きく見開いたシューネは顔を上げると、一点に視線を止めた。
     ——その刹那。広間の中央に鮮明な光が灯り、シューネの意識を強く強く惹きつける。
    「……なんて眩い光なのだろう……」
     そう思ったのも一瞬だけ。
     敬愛していた白の王への忠誠心は掻き消え、眼前の光の為なら何でもしたいという想いに、強く囚われてしまう。
     そして、何かに惹かれるように、シューネは王座から立ち上がった。
    「わかりました。新宿橘華中学へ向かえば、宜しいのですね」
     完全に光の虜になったシューネは、ブーツの足音だけを静かに響かせ、迷宮を後にする。
     彼の地に、二度も足を運ぶことになろうとは、皮肉なものだ。
     けれど、因縁の地に向かうシューネの足取りに、迷いは一切なかった。

    ●集結する光の軍勢
    「慌ただしい中、お集り頂き、誠にありがとうございます」
     一礼した里中・清政(高校生エクスブレイン・dn0122)は、ベヘリタスの卵の事件で暗躍していた光の少年『タカト』と、アンデッド化して白の王『セイメイ』配下になった『クロキバ』の戦いに介入した灼滅者達が、クロキバを討ち取ったことを告げる。
     何度かクロキバ関連の事件に携わったことがある執事エクスブレインも、感慨深いものがありますねと、珍しく感情を洩らした。
    「これにより、白の王の計画に致命的なダメージを与えることが出来たのは、間違いございません」
     最後に正気を取り戻したクロキバは、自分が灼滅されることで、新たなクロキバの継承者が出現すると言い残している。
     クロキバを継承する者が誰になるかは判明していないけれど、白の王の手元から解き放ったことは、大殊勲と言えるだろう。
    「ですが、クロキバを失った白の王が弱まったことにより、白の王と敵対していた光の少年の積極攻勢にも、繋がってしまったようでございます」
     タカトは、拉致した淫魔『ラブリンスター』を利用し、多くのダークネスを無差別篭絡術で配下に組み入れようとしているという。
    「恐らく、集結させた軍勢を利用して、何か大きな作戦を行おうとしているものだと推測されます」
     タカトの力なのか、この作戦関連の予知は断片的で、全てを阻止することは難しい。
     けれど、武蔵坂学園に関わったことがあり、なんらかの『絆』があるダークネスについては、かなりの確率で予知することが可能なようだ。
    「皆様には、光の軍勢に加わろうとしている、白の王配下のノーライフキングの灼滅をお願い致します」
     ——その名を、シューネという。

    ●喪服の屍王は因縁の地へ
    「昨年の1月頃でしょうか、廃墟と化した新宿殲術病院で、シューネとガイオウガ派のイフリート『ヒイロカミ』が接触、激突する予知がございました」
     ……当時の武蔵坂には、2人を同時に相手する力量はなかった。
     2人の激突による周辺の被害を防ぐため、この事件に介入した灼滅者達がとった作戦は、先にヒイロカミと接触して現場から遠ざけ、時間を稼いでいる間に、シューネをやり過ごすというものだった。
    「今の皆様の力量でしたら、シューネと互角以上に渡り合えることができましょう」
     新宿殲術病院に立ち寄ったあと、シューネは自身が作り上げた迷宮に籠っていたようだ。
     なので、彼女の能力はその時の情報と殆ど変わっていないと、付け加える。
    「見た目は華奢ですが、西洋剣術の使い手でもあり、攻守のバランスがとれている前衛系でございます。反面、際立った力はございませんが、体力が高めでございますね」
     ポジションはクラッシャーで、武器はクルセイドソードに似た儀式剣。
     使用サイキックも、クルセイドソードとエクソシスト相応のものを使い分けてくるという。
     そして、戦場となる場所だが……。
    「無差別篭絡術で魅了された結果、単身で外に出たシューネは家族乗りのワゴン車をカージャックし、『新宿橘華中学』を目指しております」
    「なっ!!」
     言葉を失った一行に、執事エクスブレインは「申し訳ございません」と頭を深くする。
     残念ながら、ワゴン車をジャックされることは、防ぐことができない、と……。
    「ワゴン車は男性が運転しており、助手席には女性が、中列の座席にシューネ、後部座席のチャイルドシートに6歳くらいの子供が座っております」
    「大人2人と子供、どちらにも手を掛けることが出来る間合いだな」
    「3人を助ける場合は、連携が重要そうね」
     執事エクスブレインはバインダーから都内の地図を取り出すと、とある高速道路下に印をつける。
    「こちらの場所でございましたら、シューネのバベルの鎖に掛かることなく、接触することが可能でございます」
     ただし、運転手の父親は一般人だ。
     先に、人々を避けるようなESP等を展開していた場合、経路を変えてしまう恐れがある。
    「その場合、何が起きるか、わたくしにもわかりかねません」
     なので、基本は移動するワゴン車の前を何かで立ち阻んだり、力技等で塞いだりしたあと、家族3人を避難させつつ、戦闘を開始する手順になるだろう。
    「この事件はまるで、何らかの大事件の前触れのようにも、感じられます……」
     ここで、戦力を減らすことが出来なかった場合、タカトの計画を阻止することは、難しくなる。
     それに、配下を連れていない単身のノーライフキングと戦える状況は、滅多にない。
    「皆様ならやり遂げることが出来ると信じております、いってらっしゃいませ」
     1人1人に信頼の眼差しを送った執事エクスブレインは、柔らかく微笑む。
     そして、一礼して彼等を見送ったのだった。


    参加者
    御子柴・天嶺(碧き蝶を求めし者・d00919)
    迫水・優志(秋霜烈日・d01249)
    風真・和弥(風牙・d03497)
    神崎・摩耶(断崖の白百合・d05262)
    八咫・宗次郎(絢爛舞踏・d14456)
    蓮条・優希(星の入東風・d17218)
    柿崎・法子(それはよくあること・d17465)
    天神・緋弥香(月の瞬き・d21718)

    ■リプレイ

    ●屍王来たる
    「おっ、来たみたいだな」
     DSKノーズで屍王の業を嗅ぎ付けた蓮条・優希(星の入東風・d17218)が、物陰から手を振ると、高速道路下で待ち構える少年少女達の間に、緊張が奔る。
    「それじゃ、やるとしますかね」
     接触事故を装って、ターゲット車両にブレーキを踏ませ、その隙に人質の救出と、敵の牽制を同時に行う。
     ――難易度が高い作戦だ。
     風真・和弥(風牙・d03497)は、唇を強く結ぶ。
    「ミスは許されませんわね」
     すっと瞳を閉じる、天神・緋弥香(月の瞬き・d21718)。
     再び瞼を開くと、がらりと雰囲気が変わり、口調も威圧的なものに変貌する。
    「屍王を灼滅するチャンスが来るなんて……」
     新宿橘華中学に集結させ、戦争でもするつもりなのだろうか……。
     ふと、御子柴・天嶺(碧き蝶を求めし者・d00919)の脳裏に、ある屍王を逃がした過去が蘇る。
     迷いを振り払うように頭を振ると、向かい側に潜伏する優希に、視線だけを交わせた。
    「まさかシューネが今頃になって出てくるとは思わなかったよ」
     ポニーテールを揺らして呟く柿崎・法子(それはよくあること・d17465)に、神崎・摩耶(断崖の白百合・d05262)の表情が曇る。
    (「シューネ、か」)
     その名を聞いて、鮮明に思い出す炎獣の名がある。
     けれど、今は思いに耽る時ではないと頭を振ると、少し思う所があった八咫・宗次郎(絢爛舞踏・d14456)も、軽く肩を竦めてみせて。
    「まぁ……俺としては戦いが楽しければ良いのですが」
     今回は人質もいる。
     楽しむことより確実性を重視するべきだと告げる宗次郎に、迫水・優志(秋霜烈日・d01249)も力強く頷いた。
    「タカトの勢力だけじゃなく……あの野郎の勢力も削げるってのは好機だよな」
     高速道路下。
     接触ポイントに入ろうとしているワゴン車に、優志は鋭く双眸を細める。
     まるで、獲物を狙い定める獣のように……。
    「抜かりなくやろう」
     そう静かに呟いた優志は、接触するか否かのタイミングで、車の前に飛び出した。
     ――その刹那。強烈なブレーキ音が辺りに響く。
     周りの日常が一瞬で凍り付いた瞬間、7人は一陣の風となった。

    ●接触
     急速に速度を落とした車のフロントを、優志が力づくで押さえ込む。
     両足を強く地に食い込ませた刹那、足元とタイヤから火花が激しく散るが、支障はない。
    「天嶺、いるか?」
    「蓮条さん! OKです、お願いします」
     何としても車を停止させる。
     そう尽力する優志に答えようと、優希と天嶺が並走しながら車のサイドドアに貼り付く。
     漆黒の黒髪を靡かせた摩耶も後部ドアに手を伸ばし、三方向から一気にこじ開けた。
    「ばあちゃんも言ってたけど、善は急げってさ!」
     突然減速した車に、シューネは僅かに態勢を崩していて。
     ――絶好のチャンス。
     優希は狙い定めると、流星の力を宿した飛び蹴りを、勢い良く見舞った。
    「何者、――っ!」
    「無賃乗車は駄目ですよ!」
     優希がシューネを蹴り飛ばすと同時に、襟足を掴んだ天嶺が車外に引き摺り下ろす。
     反射的に受け身を取ったシューネは、人質を取る間もなく、外に投げ出された。
    「少々手荒な手段だが、許して欲しい」
     車が横転しないように気を付けながら、摩耶も車内に踏み込む。
    「もう大丈夫だ」
     怯えきった子供をチャイルドシートごと抱き抱えた摩耶は、素早く車外に運び出す。
     振り向けば、車が制止したタイミングで和弥が助手席に、戦場音を遮断していた緋弥香も、少し遅れて運転席に回り込んでいた。
    「子供は助けた、早く逃げろ」
     助手席で腰を抜かした母親を見るや否や、和弥は迷わずドアを日本刀で一閃する。
     和弥が母親を抱き抱えると、緋弥香も急いで父親を担ぎ上げ、後方に控える法子の元へ一気に駆け出した。
    「車の方は上手くいきましたね」
     僅かにタイミングがずれた時は冷汗を浮かべたものの、先にシューネを車から遠ざけていたことが、功を奏していて。
     救出と牽制は仲間に任せ、宗次郎は後続車避けのための、三角表示板を設置する。
     更に非常信号灯を置くと、周囲には何らかの事故対応中に見えたのだろう、後続車はこちらを気にしながらも、避けてくれた。
    「すみません! 落ち着いて退避してください!」
     後方で家族3人を受け取った法子は、帯を伸ばして傷を癒し、護りを固めて。
     3人の様子を見る限り、意識もはっきりしていて、自力で逃げることもできそうだ。
    「これは……」
    「包帯変わりです、歩けますか? ――!」
     法子が言葉を返そうとした刹那、激しい剣戟が鳴り響く。
     牽制班と屍王との戦いは、既に始まっていたのだ。
    「ここはボクに任せてシューネを」
    「わかった」
     人質を救出した今、最優先はシューネが『新宿橘華中学』に向かわないようにすること。
     先に合流を促す法子に和弥は頷き、緋弥香と宗次郎も直ぐに踵を返した。

    「御前達は、武蔵坂か……」
    「おっと、お急ぎなのは判るけど行かせないよ」
     一般人の保護を法子に託し、優志もシューネを惹きつけるように、包囲網に加わる。
     摩耶も急ぎ駆けつけ、4人で包囲を狭める中、天嶺が人を遠ざける殺気を飛ばした。
    「引き摺り出すと同時に展開させたかったのですが……」
    「相手は屍王だ、2人で牽制できただけでも上出来過ぎるぜ?」
     一般人の避難が完了するまで、シューネを自由にさせないのが、2人の役目。
     少し余裕が出た優希は半歩前に踏み出すと、風を思わせる細身の槍を旋回させる。
    「全開で戦っても問題ありませんわね」
     高飛車な笑みを薄ら浮かべた緋弥香の視線を受け、優志と天嶺が囲い込むように動く。
     しかし、相手も屍王。易々包囲されるほど愚かでは、ない――。
    「破っ!」
     護りが薄い箇所に狙い定めたシューネは、強烈な白光の斬撃を繰り出し、突破を狙う。
     ――刹那。死角から放たれた宗次郎の斬撃に、瞬時に刃を横にして受け流した。
    「タカトの所に行くよりも先に地獄にでも向かってろ」
    「小賢しいハエ共め……」
     宗次郎の挑発が、シューネを苛立たせる。
     その隙に和弥が入り、護りが薄い所には優希が位置を取って、包囲網を更に厚く形成させたのだった。

    ●煌めく刃
    「ここは通行止めだぜ」
     右手に一振りの刀、左手に小型の西洋剣。
     素早く距離を狭めた和弥は、シューネの腕ごと断ち切る勢いで、二刀に斬撃を乗せる。
     突破よりも撃破することを優先したシューネも剣を構え、迎撃態勢を整えた。
    「敵が集結するのを止めないわけには行きませんね」
     ――元より逃がすつもりはない。
     何処か面倒くさそうに吐き捨てた宗次郎も、足止め主体の攻撃を織り交ぜる。
     刃と斬撃が激しくぶつかる中、法子がメディックの位置に入った。
    「一般人の避難は完了したよ」
     大振りの剣に刻まれた祝福を癒しに変え、法子が味方前衛を癒す。
     痛みが和らぎ、武器を封じる縛めから解放された灼滅者達は、一斉に攻撃に転じた。
    「悪いがここで灼滅させて貰うぜ?」
     優志が目配せすると、天嶺が蒼、緋弥香が緋の薙刀で、左右から挟むように肉薄する。
     2人が同時に繰り出した螺旋の捻りをシューネは辛うじて刃先で捌いてみせるものの、優志のバベルブレイカーに左腹を鋭くねじ切られ、眉を歪ませた。
    「数で押し切れると思うな、武蔵坂」
    「そうでもないぞ、私はディフェンダーが本業でな」
     味方への攻撃は全て庇う勢いで前に出た摩耶が、シューネの反撃を反らす。
     そのまま強烈な破邪の斬撃を繰り出すと、紺色のコートを風の如く翻した優希が素早く距離を詰め、零距離からの一撃で守りごと撃ち砕いた。
    「ハエは訂正しよう」
     相手は火力と体力が高い、屍王。
     守りを砕かれようとも怯まず、灼滅者との間に堂々と距離を取る。
    「光よ、蛮族共を焼き払え!」
     シューネが剣を鋭く振うと同時に現れたのは、無慈悲なる十字架。
     ――刹那。十字架から放たれた光条が前列を薙ぎ払い、前衛の武器を封じた。
    「優志さん、援護射撃お願い出来ますか?」
     敵を鋭く見据えた緋弥香が駆け出すと、後方で頷いた優志が漆黒の影を伸ばす。
     鋭利な刃と化した大型犬の影を追うように、緋弥香が凄まじい膂力と共に殴りつけた。
     
    ●裁きの光条
     戦いの剣戟は更に激しさを増している。
     けれど、屍王と互角以上で渡り合っている状態に、天嶺は驚きを隠せずにいて。
    (「私達が強くなっているんだ……」)
     緋弥香が見出した隙に迷わず距離を狭めると、薙刀に宿した炎を鋭く突きつける。
     確かな手応えを感じていたのは、彼だけではなかった。
    (「報告書見ただけだけど、こいつは忠義者だったんだな」)
     あのセイメイの、ってのが癪だけど……。
     追い詰められても反撃の意思を弛めないシューネを、優希は嫌いになれなくて。
     ――それでも。
    「凩の勢いで、吹っ飛ばしてやるぜっ!」
     一般人に手が及ぶなら話しは別だ。
     天靴を加速させた優希がシューネに肉薄するや否や、鋭く身を捻って蹴り上げる。
     流星の力を宿した一撃に機動力を奪われたシューネは、たまらず後方に飛び退いた。
    (「無差別篭絡術、か……」)
     ふと、和弥の脳裏を過るのは、ラブリンスター達のこと。
     このような状況になっても彼女達を応援したい気持ちは変わらず、和弥は鮮血の如き緋のオーラを二刀に宿す。
     反撃に出たシューネも剣を鋭く振い、和弥を庇った摩耶の右肩を護りごと斬り裂いた。
    「焦らず手堅くいこう」
     状況も、地の利も、灼滅者側にある。
     肩を抑えながら距離を取った摩耶が、オーラを癒しの力に転換しようとした時、中列から声が飛んで来た。
    「状態異常は俺がフォローする、柿崎は神崎を頼む」
     それでも、数で押し切れる相手では、ない。
     回復が重複しないよう法子に告げた優志は、片刃の剣を胸の前に構える。
     剣から解放された癒しが味方前列を包む中、宗次郎も疲労を濃くした和弥に、癒しを秘めた帯を伸ばした時だった。
    「光よ、薙ぎ払え!」
     シューネが再び戦場に十字架を降ろすや否や、無慈悲なる裁光が後列を薙ぎ払う。
     咄嗟に優希の前に入った天嶺が薙刀を横にして受け流すものの、腕に浸透する衝撃は、骨に重く響くほどで。
    「気を付けて、敵の狙いが後列に変わったよ」
     片膝をついた宗次郎にすかさず法子が帯を伸ばし、癒しと守護の力を高める。
     回復は味方に任せ、緋弥香は裁光を抜けると、薙刀に螺旋の捻りを加えて鋭く穿った。
    「厳しいですわね……でも、まだ、行けますわ」
     ディフェンダーの摩耶と天嶺に疲れが見えてきた中、屍王の消耗も目に見えて明らかで。
     それでも両者は激しい火花を散らす。どちらかの命尽きるまで――。

    ●戦いか死か
    「流石はノーライフキング、だね」
     相手は現在でも高い個体戦闘力を誇るダークネス、質問を挟む余裕はない。
     今も、法子が回復を緩めてしまえば、後列から戦線が崩される緊張感すらあった。
    「解放は……無理か?」
     防御重視で様子を伺っていた摩耶も、戦いに専念するように斬撃系を織り交ぜる。
     あの時も私情を優先した代わりに、タカトの情報を殆ど掴むことができなかったのだ。
     ――だからこそ。
    「水晶の数珠というのがあったな、屍には透明な石棺が相応しい」
     今は、タカトの企みの一端を潰すことに、全力を尽くす!
     死角から斬撃を繰り出す摩耶に合わせ、後方からは優希と宗次郎が攻撃を重ねていく。
    「……っ、ここで倒れる訳には」
     肩で荒く息を吐いたシューネは態勢を整えようと、剣に刻まれた癒しの力を開放する。
     身を蝕む縛めから幾分解放されたシューネは、視線を僅かに動かした。
    「気をつけろ、突破に切り替える気だ!」
    「右に動きます、注意して下さい」
     終始、後方から敵の動きを観察していた優希が、急ぎ警告を上げる。
     同じポジションで視線と足運びを注視していた宗次郎も、高らかに声を張り上げて。
    「牽制は任せてくれ」
     囲い込みは仲間に託し、和弥が立ち阻むように真紅のバンダナを靡かせる。
     瞬時に身を低くして肉薄した和弥が、死角からの鋭い斬撃で足を狙い打つ。
     ――一閃。
     斬撃は骨まで届くものの、僅かに浅い。
     しかし、その一拍で緋弥香、天嶺、優志が退路を断ち、宗次郎が足止めを狙った。
    「ここで押し切りましょう」
    「逃がすか!」
     マフラーを軽やかに靡かせ、宗次郎が死角から斬撃を繰り出す。
     優希の鋼糸が、更に足取りを鈍らせて。
    「私は……」
     シューネの水晶の体から、鋭い裁きの光条が放たれる。
     しかし、灼滅者達は誰も倒れない。
     法子が大振りな剣に刻まれた祝福を癒しに変え、味方の戦線維持に努めていたからだ。
    「言っただろ? 灼滅するって」
     優志の眼差しは、例え闇に堕ちてでも確実に灼滅するという、強い意志を秘めていて。
     武器に影を宿し、強く地を蹴って跳躍した優志に合わせ、緋弥香と天嶺が駆け出した。
    「天嶺さん、前押さえて頂けるかしら……」
    「了解です……一気に行きますよ」
     小さく頷いた天嶺が瞬時に距離を狭め、凄まじい膂力と共に殴り付ける。
     漆黒の軌跡を追うように肉薄した緋弥香は、緋の薙刀に螺旋の捻りを乗せて――。
    「一気に決めますわ!」
     渾身の一撃が、がら空きになったシューネの胸を貫く。
     そして、屍王は糸が切れた人形のように、その場で崩れ落ちた。
    「行かなければ……今度こそ……」
     立ち上がろうとしたシューネの足が、乾いた音を立てて、崩れていく。
     少女は嫌々をするように頭を振ると、両手で己の体をそっと抱きしめた。
    「あの時みたいに、置いて行かれるのは……嫌」
     寂しく言葉を紡いだシューネに、摩耶が指先を伸ばす。
     けれど、指先が触れるよりも早く水晶の躯は風化し、晩秋の風に溶けて消えていった。

    ●それぞれの路
    「何とか終わりましたわね」
     先程までの威圧感が消え、元に戻った緋弥香に、天嶺はほっと胸を撫で下ろす。
    「皆、無事だな。あの家族は……」
    「3人は自力で逃げたよ。『無事に救うことが出来て』本当に良かったよ」
     恐らく、戦闘直前に展開したESPの効果もあったのだろう。
     終始、家族のことを気に掛けていた和弥に法子が告げると、天嶺も口元を緩めて。
    「次はタカトの目的潰してくれようか」
     光の少年の力は未知数で、その道のりは並大抵のことでないかもしれない、けれど。
     1年程前には届かなかった相手に、重傷者を出さず、闇堕ちする者もなく、打ち倒すことが出来たのは、何とも言えないものがあって。
    「ヒイロカミに会えた時、シューネの灼滅が手土産になればいいのですが……」
     不意に宗次郎が洩らした名に、摩耶の表情に陰りが差す。
     自分達は、クロキバを灼滅している。果たして、彼は……怒るだろうか。
    (「……それでも。勝てるくらい、強くなったのだな……私たちは」)

     確かな成長を感じた少年少女達の歩みは、力強く――。
     その足取りは、如何なる未来をも見据えるように、真っ直ぐ前を向いていたのだった。

    作者:御剣鋼 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年11月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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