集結する光の軍勢~VS死蝋形婦人

    作者:空白革命


     白髪に白い肌。豊満な胸に整った身体の女性が、ネオンのきらめく都内を歩いていた。
     道行く者たちが振り返る様子を気にとめることもなく、女はあるバーの前に立つ。
     彼女の後ろには、飲んだくれた若い男がいた。ここまでしつこくついてきた男だ。女の肩に手を置く。
    「なあ、俺と一緒に一晩だけ、な? いいだろ?」
     女は胸元から鍵を取り出し、扉の鍵を開けた。
    「入って?」
     男は彼女からのOKサインと見て、鼻息荒く女へと続く。
     ドアの奥は小さくて静かなバーだ。カウンター席がいくつか。ソファー席が二つほど。男はこんな店があるとは知らなかったが、きっと新しくできたのだろう。彼女はそこのママというわけだ。そして今から……。
    「何か飲む?」
    「あ、ああ……そうだな……」
     椅子に腰掛けると、高級そうな杯が置かれる。
     ブランデーが注がれ、艶めいた光を照り返した。
    「なんだか、すごい杯だな。象牙かなんかか……」
    「いいえ」
     酒を口にした直後、女の手が彼の頬へ触れた。
     顔が、唇が近づく。
     距離にして二センチというところで。
    「あなたの娘の頭蓋骨よ」
    「――!?」
     次の瞬間、女は口を非人間的なまでに開き、男の上半身をまるごと食いちぎった。
     血を吹き出して転がる男の下半身。
     それを見下ろして、女……いや、デモノイドロード『死蝋形婦人』は微笑んだ。
    「少し早かったかしら。あら――?」
     不意に、目の前に光が現われた。
     現われ。
     それを見た彼女は。
     まるで元からそうであったかのように。
    「いけないわ。タカト様のために働かなくちゃ……」
     なめし革のキャリーバックを手に、死蝋形婦人は店を出た。
     行き先は『新宿橘華中学』。


    「とても色んなことがあったね」
     天野川・カノン(中学生エクスブレイン・dn0180)は語った。
    「ベヘリタスの卵事件で光の少年タカトの暗躍を邪魔したり、アンデッド化クロキバの戦いに乱入して灼滅したり、その結果白のセイメイ計画に大打撃を与えたり。大殊勲だよね。……でも、一方でタカトの積極攻勢も始まっちゃったね。今回の事件は彼に拉致されたラブリンスターの無差別籠絡術を利用して行なわれたものだよ。どうも、ダークネスを次々配下にしているらしいの。邪魔したいけど、何かの影響で予知しきれないから、困ってるんだよね」
     そう言いながらも、ごそごそとタンスを漁った。
    「でも武蔵坂灼滅者に絆があるダークネスなら高確率で予知できるの。だから、今回はこれ」
     スケッチ画が机に置かれる。
     その顔に、一部の灼滅者は見覚えがあった。
    「デモノイドロード、死蝋形婦人」
      死蝋形婦人は殺した人間の死体を蝋燭やキセルなどに変えてその親族に見せつけるといった非常に残虐な行為を続けるデモノイドロードだ。
     一件目の事件でおきた凄惨さもさることながら、二件目とみられる蝋人形館事件は異常さもきわまるものだった。
     だが最も異常なのは死蝋形婦人そのものである。
     人の形をしたバケモノ。人の形を捨てるバケモノ。
     人間の持つ悪意を溶かして人の形に固めたもの。
     一度でも戦ったなら、その異常さと恐ろしさは充分に分かっているだろう。
     しかし、今回はそんな死蝋形婦人を灼滅するチャンスが巡ってきた。
     助けるべき人もなく。守るべき場所もない。
     ただ戦いに……いや、悪の灼滅に集中できるのだ。
    「都内のネオン街を歩いているところを襲撃するよ。人払いがいるし奇襲も難しいと思うけど、いざ戦いになれば、こっちのフィールドに持ち込めるからね。きっと、大丈夫だよ」


    参加者
    九条・龍也(真紅の荒獅子・d01065)
    東郷・時生(天稟不動・d10592)
    唐都万・蓮爾(亡郷・d16912)
    藤原・漣(とシエロ・d28511)
    富士川・見桜(響き渡る声・d31550)
    風見・春香(クライミースマイリー・d33760)
    ウィスタリア・ウッド(藤の花房・d34784)

    ■リプレイ

    ●死蝋形婦人
     夜のネオン街が静まりかえっていた。
     本来ならあらゆる大人で賑わう場所だが、殺界形成の影響で一人たりとも歩いていない。
    「タカトのやろう、何のつもりだ? あいつのやり方にはむかっ腹がたってたんだ。世の中何でも思い通りに行かないってことを教えてやる」
     道路の真ん中を歩く九条・龍也(真紅の荒獅子・d01065)。
     その左右を、唐都万・蓮爾(亡郷・d16912)と東郷・時生(天稟不動・d10592)がそれぞれ歩いている。
     時生は眼鏡を外し、重く呟いた。
    「我が身は盾。我が心は剣。全ては、護るために」
     時生の姿が一変する。
     同じく蓮爾も解除コードを唱え、自らの手をデモノイド寄生体で覆った。
    「『あのようなモノにも標が在るのですね。化物は化物同士仲良くいたしませう』」
     静寂の歓楽街をゆく一団。
     路地から現われたセラフィーナ・ドールハウス(人形師・d25752)が団に加わり歩き始める。
    「あれからずっと探していました。もう、犠牲者は出しません」
     カードを指の上で回転させると、彼女の後ろに西洋甲冑の騎士があらわれる。両腕を鞄へ差し込むと、固定された手袋を装着。指から伸びたオーラの糸を翼のように広げた。
     自販機の上に腰掛けていた風見・春香(クライミースマイリー・d33760)がすとんと下り、団に加わって歩き出す。
    「まさか、こんな形で相まみえるとはね。今回ばかりはタカトってやつに感謝しとくわ」
     腰から銃を抜き、指で回す春香。
     壁に背を預けていたウィスタリア・ウッド(藤の花房・d34784)が団に加わり、歩き出す。
    「そうね。追いかけっこはもうおしまい。逃げる子は鬼につかまって終わるものよ」
     しかしなぜか残念そうに嘆息しながら、ウィスタリアはカードを腰の帯から抜いた。
     十字路で立ち止まっていた富士川・見桜(響き渡る声・d31550)が振り返り、一団はそこで停止した。
     既に解除を終えている見桜は、服の胸元をつよく握った。
    「覚悟が必要だ。本当の覚悟が。私の力で、何かを守るためには……」
     強く目を閉じ、そして開く。
    「あら、あら。まあ、ごきげんよう。こんな夜遅くにどうしたのかしら」
     夜道に迷った子供を案ずるような口調と仕草で、しかし一切の温度のない声で、呼び止めるものがあった。
     死体のように白い肌。偽物のように白い髪。作り物のようによくできた身体。
     見桜たちは扇状に展開し、彼女の行く手を阻んだ。
    「迷子かしら。お姉さんが、お家に連れて行ってあげましょうか」
    「芝居はいい。お互い、知った顔だ」
    「……そうね」
     退路をも塞ぐように、藤原・漣(とシエロ・d28511)が彼女の後ろへと現われる。
    「久しぶり、死蝋形婦人」
     無防備にも身体ごと振り返り、漣へと首を傾げる婦人。
    「うれしいわ。やっと私を見つけてくれたのね」
    「……オレはあんまり、嬉しくないよ」
     本来ならその台詞は、もっと別の機会に聞くはずだったのに。

    ●美しさは盗まれた
     水晶の銃を両手に出現させ、漣は婦人へと襲いかかった。
     ガム跡だらけのアスファルトを駆けて殴りかかる。
     対して婦人は自らの指に炎をともし、白い煙を展開させた。
     ただいぶっただけの筈が、煙は路地一帯を埋め尽くす。
     漣の頭上に血まみれの老婆が上下逆さに現われ『まごをかえしてください』とわめきながら手を伸ばしてくる。
     だがなぜだろう。
     心がすこしも波打たない。
    「そこだ、お姉さん」
     シエロにサポートを任せっぱなしにして、漣は明後日の方向に腕を突き出した。
     柔らかい感触。それを突き破る感触。そしてなお柔らかい物体を掴み……。
    「前のお返し」
     一息に握りつぶした。
    「ア゛ァッ!」
     煙が晴れ、婦人は形容しがたい半液体をはき出しながらよたよたと後じさりした。
     不思議だ。因縁の敵と戦っているのに、なぜ自分はがっかりしているのか。
    「あんたの目的はどうでもいい。ここで死んでもらう」
     龍也が飛び込み、刀にオーラを纏わせたを斬撃を繰り出し。流れるように拳をコンビネーションで打ち込む。
     煙の上へぶわりと浮かび上がるビハインドのゐづみ。
     愉快に踊るように袖を振り、そのたびに霊障波が婦人を打ち、煙から抜け出た漣の手を引くようにして蓮爾は彼を回復した。
    「『あゝ、そうですね。人で無しの貴女に、人の儘勝つといふのも、面白き語りではございませぬか。其の力を振るって見なさい。僕に、人を棄てさせられれば貴女の勝ち』」
     蓮爾が漣を仲間の元へ投げると、その脇を抜けて時生が婦人へと急接近した。
     婦人が青白い炎を指先から燃やし、時生へと放つ。
     時生はそれを黄金に発光させた標識で振り払った。
    「過去の事件を読んだよ。子を使って親を絶望させるのが趣味か? それともお前がそうなった原因と関係でもあるのか? まあ、どのみち灼滅することにかわりないがな!」
     ポールを押しつけるようにして、道の端まで婦人を押し込む。
     無人の中華料理へ転がり込む二人。
     時生を振り払って起き上がった途端、大きな窓ガラスを二枚同時に突き破ってセラフィーナとビハインドの騎士が突入。
     槍と儀礼剣の突きを同時に繰り出し、婦人を壁へとピン留めする。
    「アッ、ア゛ァ!」
     口を大きく開き、ぐにゃりと変容しようとする婦人。
     そのタイミングを縫うように割り込んだ見桜が、婦人の胴体を剣で切断。
     回転して飛んでいく上半身めがけて魔法弾を連射。爆散させる。
     婦人はすぐにひとつにあつまり、転がるように店を飛び出した。
     だが、それを許す春香ではない。
     ダイダロスベルトを一斉展開し、婦人の腕や脚や腰や頭やあらゆる部位を巻き込み、店内へと引きずり戻す。
     かくして店内カウンターに打ち付けられた婦人の姿を、ウィスタリアは複雑な表情で見つめていた。
     呼吸を置いて、平常時の口調へ戻す。
    「会いたかったわ。夢にまでみた。あんたの笑った顔をずたずたにしてやりたかった。恋に落ちたみたいにあんたのことばかり考えてた」
     ガラス片の飛び散る店内に踏み込む。
     セラフィーナの霊力網や春香のベルトに巻き付けられた婦人はそれらを引きちぎろうとするが、次から次へと絡みつく彼女たちの攻撃におぼれていった。まるで蟻地獄に落ちたアリだ。
    「あんたは綺麗で醜悪で、そして恐くて。よくもわるくも揺さぶられたよ、強烈に。まるで芸術品みたいだって。でも……」
     ウィスタリアの言霊が香炉の煙のごとくエネルギーの渦をつくり、婦人の肉体組織を自己崩壊させていく。
     顔の形が元に戻ろうとしてくずれ、もどろうとして崩れていく。
    「今のあんたには何も感じない。無粋な操り手が無理に糸をゆわえた、出来の悪い人形みたい。哀しいわね、なんだか」
     運命とは、かくもはかないものか。
     いつか彼女とは運命的に戦い、運命的に殺し合い、いかなる形にしろ、自らの歴史に深く刻まれるものになるやもしれない……と、少しでも思ったが。
    「終わりだ、死蝋形婦人」
     短刀一閃。たったそれだけで婦人の首は飛び、厨房の鍋へと丁度良くはまり落ちた。
     なんとはかない、運命だろうか。

    ●痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
    「死んだか。随分と気味の悪いやつだったな」
     龍也はそう言って店を出た。
    「随分壊してしまったな」
    「『後は人に任せませう』」
     時生や蓮爾も店を出て行く。が、見桜は店の中で立ち尽くしていた。
     強い風に踏ん張ろうと立っていたのに、一向に風が吹いてこないような。
     注射針を怖がっていたのに問診だけで終わった診察のような。
     まるで肩すかしだ。
     龍夜の言う『気味の悪い奴』という表現が適切だ。
     死蝋形婦人は不気味だとか、恐ろしいだとか、そんな相手ではなかったはずなのに。
    「なんだろう。私」
    「何を期待して……」
     言葉がつながったような気がして、春香と顔を見合わせる。
     肩を下ろし、店を出る。
     と。
    「ああ」
     鍋の底から声がした。
    「いたい、のね」
     甘くあえぐような、華やぐような声だった。
     声には先程まで無かった温度が、それも激しく燃えるような熱があった。
     振り返る。
     既に戦闘姿勢にあったウィスタリアの顔は、笑っていた。
    「それでこそ」
     まるで芸術品のような美しい婦人の姿はそこには無かった。
     いびつにねじれ、まがまがしくゆがみ、おそろしく、それはふくらんだ。
     青。赤。白。黒。紫。青。鈍。赤。白。青。形容不明の半液体に覆われたデモノイド因子が虹色にきらめき、中華料理店のカウンターと天井、そして全ての椅子とテーブル、最後には出入り口の扉と窓フレームを破壊して道の反対側へ吹き飛ばした。
     目を剥いて振り返る龍夜たち。
    「まだ生きて」
    「――どころじゃねえっすよ!」
     咄嗟に銃を手に取った漣たちは、寄生体の波に呑まれた。

     起こったことを正確に述べることは難しい。
     痛覚や聴覚、視覚や嗅覚、あらゆる感覚が混乱した。幻影が見えるなどというレベルで語ることは難しい。彼らが見たのはそう……。
    『もっと痛くして、さあ』
     見桜は一糸まとわぬ美女に抱かれていた。
     美女の全身には一センチ大の穴が無数に空き、中から大量の子蜘蛛がわき出しては見桜にたかっていく。耳から肌から身体の奥からタカタカという音が鳴り響く。
    「い……いっ、いいいいっ……!」
     言葉を発するのも難しい。歯を食いしばるので精一杯だ。
     見桜は腕を剣化し、美女も蜘蛛もすべて振り払うように暴れ回った。
     逃げてはならない。
    「笑い飛ばせばいい。あの人のように!」
     切り裂いた場所が開かれ、見桜は路上へと転がり出た。寄生体から脱したことに、そこで初めて気づいた。
    「『後ろへ』」
     誘うように腕を振った蓮爾に頷き、彼の祭霊光を受けつつ後ろへと下がる。
     一方でゐづみたちの援護射撃に会わせ、龍也が迫り来る寄生体を次々に切り払っている。
    「なんなんだこいつ? デモノイドなんだよな!? 人の形を忘れてんのか?」
    「……最初からそんなやつですよ、『それ』は」
     見桜は再び剣を取り直し、寄生体へと斬りかかる。

     ウィスタリアは部屋にいた。
     ソファと絨毯とタペストリーのある小さな部屋だ。
     特徴があるとすればソファは人間で、絨毯は人間で、タペストリーは人間でできていたことだろうか。よくみれば壁紙は人間の胸部と腹部で。
    「ねえ、おかしいと思わない?」
     バケモノが言う。笑顔だ。
     だが笑顔以外何も無い
     というより、彼女の笑顔が無数に天井を埋め尽くしていた。
     ぼたぼたと溶けるように落ち、虫のような足をはやして立ち上がる。
    「私は、何になりたかったのかしら」
    「さあな……少なくともおれとは違うものだ」
     手元に銀のナイフがあった。それを手に取り、バケモノの顔面へと突き立てる。
     切り裂かれた床から転げ落ち、ウィスタリアは車のボンネットへと身体をぶつけた。
     寄生体から脱したのだと、そして気づく。
    「送り火ならくれてやる!」
     ウィスタリアの脇、つまりボンネットを駆け上ってジャンプする時生。
     寄生体へと炎の蹴りを放つと、組織を丸ごと破砕した。周囲へとかけらがまき散らされていく。
    「あと何人喰われた」
    「喰われた? ああ……きっと、あの二人だ」

     教会が燃えている。
     シスターたちが笑っている。
     天井からぶらさがった無数の人形が踊っている。
     人形だろうか?
     ああ、あれは人間か。
     生きた人間か。
     ステンドガラスは溶けていき、燭台は溶けていき、木のベンチに一人座る自分もまた、溶けていく。
     ああ、私も一緒に溶けていくのか。
     みんなたのしそうだ。
     いっしょにいこう。
    「……騎士さま」
     空間をまるごと切り裂いた西洋騎士に掴まれ、セラフィーナは野外へと飛び出す。
    「悪趣味な。最後まで、悪趣味なことで」
     セラフィーナはエネルギーの風を巻き起こし、自らと周囲の仲間から寄生体を吹き払った。
     もはやどのようにも形容できなくなった寄生体から、女の上半身が浮き上がった。
     まるで芸術品のように笑う。
    「ああ、痛いわ。痛み。痛みだわ。痛み」
     一言のべるたびに女の顔が浮き上がり、美しく笑う。
    「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――!」
     手が伸びる。無数の手が伸びる。
     寄生体から脱した春香を掴むとその腕をもぎ取った。
     もぎ取って飲み込んで、もういっぽんもぎ取る。
    「あんたが言ってたこと」
     不安定な体勢で立ちあがり、血を吐き捨てる春香。
    「返すわね。『あなた、人間とでも戦っているつもり?』」
    「「とんでもない!!」」
     無数の顔が一斉に迫り、口を開く。顔よりも大きく開いた口の奥には無数の眼球があった。
     春香は自らの寄生体を解き放ち、全身を鎧のように覆うと、その眼球へと手を突っ込んだ。
     毒の弾を乱射し、無数の顔を一斉に蹴って破壊する。
     連鎖するように周囲の寄生体も崩壊し、ずぐずぐと崩れ落ちていく。
     最後に残ったのは一糸まとわぬ女だった。
     いや、少女と言うべきだろうか。
     真っ白な髪の、小学生程度の少女である。
     少女はくずれそうになる顔を毎秒再構築しながら、天空を見上げる。
    「……そっか」
     漣は歩み寄り、少女の胸元にそっと手を当てた。
     心音は、聞こえない。
     しかし熱はあった。
     肉体が溶け、手がずぶりと沈む。
     一番奥にあったやわらかくてかたいものを撫で、漣は優しく握りつぶした。
    「ああ」
     世にも美しく笑う少女。
     年齢も性別もわからないように濁りきった、しかし無垢な声で、言う。
    「これが、こころのいたみ」
     そして少女ははじけてきえた。
     しゃぼんだまも、さながらに。

     デモノイドロード・死蝋形婦人の灼滅が完了した。
     死者零名。
     重傷者零名。
     損害、なし。

    作者:空白革命 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年11月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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