集結する光の軍勢~ジェイド

    作者:紫村雪乃


     そこは迷宮の奥であった。
     取り囲む壁は禍々しい漆黒の色をしていた。あらゆる光を吸い込む暗黒の色だ。
     石のように見えるが正確な素材はわからない。ひどく滑らかで、鋼のような冷たさを備えていた。
     突如。
     それは現れた。真闇の宇宙空間に生まれた太陽の如く、眩い光が迷宮の奥に現出したのである。
     その光をあび、ひとつの影が浮かび上がった。
     白骨の玉座に座す偉丈夫。驚くべきことにその半顔は髑髏そのものであった。ぽっかりと空いた洞のような左の眼窩の奥に、鬼火のような蒼い光がともっている。
     彼の名はジェイド。ノーライフキングであった。
    「……いくか」
     冷えた声をもらすと、屍の王は立ち上がった。

     屍王の姿が現れたのはどれほど後のことであったか。場所は新宿近くの公園であった。
     ずしり。
     屍王が足を踏み出した。すると公園で戯れていた人々が昏倒した。屍王のあまりに濃密な瘴気のためである。
     その歩み。歩一歩ごとに人々が倒れていく。まるで大海を分けていく預言者のように、倒れた人々の間を屍王は歩み進んでいった。


    「ノーライフキングが新宿橘華中学にむかっています」
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は灼滅者たちを見回した。
    「ベヘリタスの卵の事件で暗躍していた光の少年と、アンデッド化して白の王配下となったクロキバとの戦いに介入した灼滅者たちが、見事、クロキバを討ち取る事に成功したようです。これにより、白の王セイメイの計画に致命的なダメージを与える事ができたであろうと思われます。また、最後に正気を取り戻したクロキバは、自分が灼滅された事で、新たなクロキバの継承者が出現すると言い残しています。クロキバを継承する者が誰になるかは判りませんが、大殊勲といってよいでしょう。ただ」
     姫子の瞳に憂慮の光がういた。
    「クロキバを失った白の王の弱体化により、白の王と敵対していた光の少年『タカト』達の積極攻勢にも繋がってしまったようです」
     姫子はいった。光の少年『タカト』は、拉致したラブリンスターを利用し、多くのダークネスを無差別篭絡術を利用して配下に組み入れようとしているのであった。おそらくは集結させた軍勢を利用し、何か大きな作戦を行おうとしているのであろう。
    「ノーライフキングの名はジェイド。武器は大きな漆黒の鎌です。咎人の大鎌と似たような業をふるいますが、その威力は桁違い。一撃でもあびればいかに灼滅者であろうとただではすみません。そして、もうひとつ。ジェイドの左目です。エクソシストのヒーリングライトと逆の効力をもっているので注意が必要かと」
     姫子はもう一度灼滅者たちをみまわした。その瞳の憂慮の光はさらに強まっている。
     姫子は怯えているのだった。が、それでもいわなければならい。灼滅してほしい、と。
    「光の軍勢に加わろうとしているダークネスを灼滅しなければなりません。ここで戦力を減らすことができなければ、光の少年『タカト』を阻止する事ができなくなるかもしれないからです。だから、お願いします。ジェイドを灼滅し、無事に戻ってきてください」


    参加者
    比嘉・アレクセイ(貴馬大公の九つの呪文・d00365)
    竜胆・藍蘭(青薔薇の眠り姫・d00645)
    神威・天狼(十六夜の道化師・d02510)
    空井・玉(野良猫・d03686)
    エウロペア・プロシヨン(舞踏天球儀・d04163)
    撫桐・娑婆蔵(鷹の目・d10859)
    絡々・解(解疑心・d18761)
    新路・桃子(ビタースキート・d24483)

    ■リプレイ


     陽光が降り注ぐ公園。
     八人の男女が駆けていた。この中にあっては異邦人であるかのような研ぎ澄まされた気を風に溶かして。灼滅者たちであった。
    「本当にこちらで良いのか?」
     疑念を口にしたのは女であった。
     年齢は十八、九といったところか。目に染みるほど鮮やかな蒼の髪をなびかせた美しい娘であった。名をエウロペア・プロシヨン(舞踏天球儀・d04163)という。
     エウロペアが視線をむけた。その先、野生の虎を想起させる獰猛な面構えの男がうなずいた。
     これは十代半ばほどの少年。撫桐・娑婆蔵(鷹の目・d10859)という。
    「おそらく間違いはございやせん、プロシヨンの姉御」
     着流しの裾をひらめかせ、娑婆蔵がこたえた。
     事前に調べた位置関係。公園を横切り新宿橘華中学にむかうルートはひとつしかない。
    「私もそう思うよ」
     十四、五歳ほどの少女がいった。
     端正な顔立ちは日本と英国のクォーターであるからだ。美人といってよいが、少女にそれを誇る様子はなかった。むしろ前髪から覗く金色の瞳には刃の切っ先のような尖った光がある。――空井・玉(野良猫・d03686)である。
    「ならば、よいが」
     エウロペアは視線を前にもどした。因みに彼女も娑婆蔵と同じように着物――浴衣をまとっている。当然裾は割れ、真っ白な太ももが露わとなっていた。
    「新宿橘華中学ですか」
     抑揚を欠いた声音か流れた。声の主は十歳ほどの少女である。夜明け前を思わせる濃紺のドレス――フリルやレースをあしらったそれをまとっている故か、それとも整った顔立ちのためか、どこか人形めいていた。
     少女――竜胆・藍蘭(青薔薇の眠り姫・d00645)は続けた。
    「何を企んでいるのやらきになりますけど、今は目前の敵を倒しましょう」
    「ですね」
     遠慮がちではあるが、しっかりした声音で、その少年は同意した。
     比嘉・アレクセイ(貴馬大公の九つの呪文・d00365)。その名の示すとおり、日本とロシアのハーフである。彫りの深い顔立ちは優しげで、生真面目そうであった。
    「敵の集結を許すわけには行きません。何としてでもここで阻止しなければ」
    「そうそう」
     煌く金髪をゆらし、神威・天狼(十六夜の道化師・d02510)という名の少年が首を縦に振った。
    「折角白の王の戦力が削れたわけなんだし、ここで光の軍勢に勢いを与えちゃダメだよねー。それに」
     天狼の笑みが深くなった。口の端をわずかに吊り上げただけ。それだけのことなのに、背筋がぞくりとするような、それは軽やかで恐い笑みであった。左目の下の星型の黒子が、どういうわけか不吉な刻印のように見える。
    「俺、ノーライフキングって嫌いだしね」
     天狼はいった。これは彼には珍しく本音である。
     屍王は彼にとって宿敵であった。共に天を戴かざる敵である以上、必滅しなければならない。さらに過去、違う個体ではあるが何度か倒しきれなかったこともある。なおさらに屍王は見過ごしにはできぬ敵であった。
    「ふふん」
     ひっそりと鼻を鳴らした者がいる。十代後半の娘だ。名を新路・桃子(ビタースキート・d24483)といった。かなり豊満な肉体の持ち主で、疾走にあわせて胸が大きく揺れている。
     が、その肉体以外、どこといって目立ったところのない娘であった。おさげに眼鏡、そばかす。そして白いスカート。どこにでもいそうな、しかし、娘は人外の修羅であった。
    「要はぶっ殺せばいいのでしょう」
     ニンマリと桃子は嗤った。


    「ぬっ」
     呻き、その若者は足をとめた。疾走の余波で、黒のロングコートの裾が夜鴉の翼のようにはためく。
    「こいつは……」
     若者――絡々・解(解疑心・d18761)は息をつめた。ある殺人ゲームから帰還した過去をもつ恐るべき殺人鬼である解。それほどの魔人である彼をして、そうせざるを得ないほどの禍々しい瘴気が吹き付けてきたのだ。
    「……来やすぜ」
     こもっていた声を娑婆蔵は押し出した。
     その眼前。遠

    た。死神を思わせるマントをなびかせている。顔の半分は髑髏と化していた。
     その歩み。歩一歩ごとに周囲にいる人々が倒れていく。屍王が放つ高密度の瘴気のためだ。
     アレクセイは辺りを見回した。そこは広い通路となっており、他の人々の姿はなかった。
    「ここで待ち受けましょう。そのためには屍王の注意をひかなければ」
     藍蘭は人差し指で天を指し示した。
     次の瞬間である。七色の光が煌めいた。
     天空に現出した奇跡。それは水晶でできた巨大な十字架であった。
     藍蘭が指をゆっくりとおろした。次に指し示したのは屍王である。
     煌。
     爆発したように十字架が光った。いや、実際爆発した。光のみが。それは無数の光の礫となり屍王に降り注いだ。
     さらなる爆発。光子の熱量が破壊のそれへと変換される。世界が一瞬白く染まった。
     幾許か。
     色彩の戻った世界の中、何事もなかったかのように屍王は歩みを続けていた。まるで無人の野をゆく王のように威風堂々と。
    「ほう」
     エウロペアが感嘆の声をもらした。情欲に濡れ光る目を屍王の姿に据える。
    「気をやりそうな程に、はらわたまでもを震わせる禍々しさよ……」
     我知らず、エウロペアは喘ぐような声をもらした。股間から染み上がってくる物凄い性的興奮によって。
     死の予感。強大な敵を前にした戦慄が彼女の性的興奮を助長していたのであった。
    「この瘴気、常人が晒され続ければとても身が持たぬ。今すぐに、元を断たねば、な」
     その時だ。二人の男女が歩み寄ってきた。
     二人共二十歳ほど。仲睦まじく手をつないでいる。
    「待ちな」
     桃子が振り向いた。ぎくりとしてカップルが足をとめた。
     一見、桃子はありふれた娘だ。が、その瞳のなんたる異様さか。人外の存在のように血色の光を放っている。
    「失せな。死にたくなけりゃあな。これからここは戦場になる」
     桃子は告げた。顔色を変えてカップルが駈け去っていく。
    「後は倒れている人たちをどうするかだね。その前に」
     解は玉と娑婆蔵に目をむけた。
    「殺界形成とサウンドシャッターを」
     わかった、というように玉と娑婆蔵がうなずいた。
     次の瞬間である。超自然的な力場が辺りの空間を取り巻いた。
    「あんなのに街中歩かれたら、それだけで大事件だよ!」
     ねえ、ミキちゃん。ビハインドにむけた解の愛情のこもった視線に、ぎりりと殺気がからんだ。つい、と視線が屍王に転じられた。
    「ハロウィンは終わったんだよ!」


     ずしり。
     屍王の歩みはとまらない。灼滅者たちとの間合いは詰まっていく。
    「そうか」
     アレクセイは唸った。屍王の真意を悟ったのである。
    「僕たちなど眼中にないということですか」
     アレクセイは苦く笑った。彼は自身のことを出来損ないだと思っているからだ。が、それは間違いであった。
     比嘉・アレクセイ。魔神との契約適合体として魔術結社によって造られたデザインズチャイルドという稀有な存在なのであった。が、それでも――。
     屍王はアレクセイを見ていない。彼にとっては路傍の小石と同じであった。
    「確かに強い」
     一瞬で玉は我彼の戦力差を見抜いた。戦慄すべき実力の違いを。が、玉に動揺はなかった。
     玉がこれまでくぐり抜けてきた戦い。そのすべてにおいて敵は強く、そして、そのすべてにおいて彼女には負けられぬ事情があった。
    「要するに、今回も全ていつも通りだ。行くよクオリア。為すべき事を為す」
     玉の身を漆黒のスーツが包み込んだ。一輪バイク型のサーヴァントが答えるかのように轟音を響かせる。
    「ではエイジアには倒れている一般人を遠ざけさせようかの」
     エウロペアが命じると、翼の生えた猫が空を翔けた。屍王の脇を翔けすぎていったが、屍王は一顧だにしない。
    「へっ」
     娑婆蔵が笑った。
    「サーヴァントなんぞ羽虫ほどにも感じていないということでござんすか。なら、あっしならどうでござんすかねえ」
     娑婆蔵の手に光粒子が結実、実体化した。
     大剣。シュレッダー片刃型殺戮兵器――殲刀鋏だ。
    「撫桐組組長、撫桐娑婆蔵たァあっしのことでござんす」
     殲刀鋏を背に回し、娑婆蔵は見栄をきった。すると、ようやく屍王は足をとめた。
    「どけ。邪魔だ」
    「どきません」
     シャリン。魂震わせる音、響かせて。マテリアルロッドをアレクセイはかまえた。
    「ここで今一度、土へと戻ってもらいます!」
    「退れ、下郎」
     屍王の目がぎらと光った。迸り出る赤光が灼滅者を薙ぐ。
    「うっ」
     灼滅者たちが息をつめた。急速、かつ甚大な脱力感に襲われたのだ。命そのものが刈り取られた感覚。
     ぎしり。灼滅者たちの心気に亀裂がはしった。
    「癒しの力よ、仲間を助けてあげて下さい」
     祈り。藍蘭のそれは、表情と同じく鏡面のごとく静かだ。が、灼滅者たちの命は確実に育まれ、折れかけていた膝は確実にのばされた。
    「回復は僕に任せて、皆さんは安心して戦いに集中して下さい」
     託宣のように静まった声で藍蘭が告げた。ニッと天狼が笑む。いかにも楽しそうに。
    「だ、そうだよ、屍王。俺達のお姫様はお前よりも厳しいんだよね」
     天狼が手を振った。手先からするするとのびたのは光る呪紋が刻まれた帯だ。同時に解のビハインドが霊的な衝撃波を放つ。
     無造作に屍王が左腕ではじいた。衝撃波はそのまま受る。同時に踏み込み。他方の腕で横薙ぎした。
     いつの間にか、その手には巨大な漆黒の鎌が握られていた。地を削ぐような旋刃から放たれたのは鋼鉄すら断ち切る威力を秘めた刃風である。
     咄嗟にアレクセイと娑婆蔵が跳び退った。が、さしもの二人にも躱しきることは不可能であった。
    「くっ」
     鮮血をしぶかせ、アレクセイは膝をついた。そして娑婆蔵も――いや、違う。鮮血にまみれたのは解だ。娑婆蔵をかばったのである。
     二人は腹部がすっぱりと断ち切られていた。内臓に達するほどの傷だ。が、もし常人ならばおそらくは両断されていたに違いない。
    「絡々の兄貴! どうして――」
     愕然として叫ぶ娑婆蔵の眼前、解は血笑で報いた。
    「これは年上の意地だから! とかじゃなくて! あんな強そうな攻撃キミにあげるのは勿体ないからね! 僕ってば欲張りの悪い子だから独り占めしちゃいたくなるんだ! だからミキちゃんまで被害がいかないように急いで片付けておくれよ!」
     解はいった。本当のところは屍王に反撃したかったのだが、そんな余裕はない。
    「へい」
     修羅のごとき形相で娑婆蔵はうなずいた。
    「面倒掛けやした絡々の兄貴。きっちりケジメ取って参りまさァ」


    「……これがノーライフキングの力……! ですが負けるわけには!」
     ゆらりとアレクセイが立ち上がった。再び藍蘭が祈りを捧げる。清浄なる光が染めた銀の空間を傷の癒えたアレクセイと娑婆蔵が疾風と化して走った。
     屍王は強い。あまりにも強い一撃をもつ。二度のヒーリングライトによっても完全治癒せぬほどに。なればこそ短期において仕留めねばならなかった。
     アレクセイと娑婆蔵は同時に襲いかかった。左右に分かれて。
    「笑止」
     必殺の鎌はアレクセイにむかって唸りをあげた。彼の傷の方が深い故である。
    「そうくると思ったよ」
     玉の手から光流がのびた。それはアレクセイに巻きつくと、硬化。超常的防護殻となった。
     直後、鎌がアレクセイを薙いだ。容易く超常的防護殻が切り裂かれる。が、アレクセイが両断されることだけは免れた。
    「殺ったあ!」
     娑婆蔵の殲刀鋏がやや下方から屍王の脇腹むけて疾った。貫く、と娑婆蔵が思った瞬間である。のびた屍王の手が殲刀鋏の刃ががっしと掴んだ。
     ギンッ。
     屍王の左目が光った。噴出した血染めの光に撃たれ、物理的衝撃を受けたように娑婆蔵がはじき飛ばされた。
    「素っ首、刎ねてやろう」
     屍王が告げた。
     断罪の一撃。死そのものである鎌が娑婆蔵めがけて薙ぎつけられ――なかった。
     鎌はとまっていた。鋼糸にからみとられて。――アレクセイであった。
    「その厄介な瞳、潰させてもらいます!」
    「潰れるのは、うぬよ」
     屍王の左目が赤く光った。アレクセイが吹き飛ばされる。地に転がった時、すでに彼は昏倒していた。
    「ひれ伏せ、虫けらども」
     屍王が鎌を振った。瞬間、灼滅者たちの上空に無数の刃が現出。怒涛のように灼滅者たちを襲った。
    「まずいのう」
     エウロペアはひらりと身を舞わせた。素早く走らせた彼女の視線はすべての刃の位置座標を瞬時にして確認、飛来するそれを躱した。いや、正確には躱しきれなかった。エイジアが彼女をかばったのである。
    「やってくれたのう」
     エウロペアはぎりりと歯を軋らせた。辺りは血の海と化している。灼滅者たちの血だ。
     ふふん、と嘲笑った屍王の右目に、その時、不審の光がよぎった。
     確か灼滅者どもは八人いたはず。一人、足りぬ――。
    「生憎と、ここがお前の終着点だ――お前個人に恨みはねえが、死んでもらうぜえ」
     屍王の背後。血まみれ桃子が躍りあがった。真紅の狭霧が舞う。
    「ふんっ」
     屍王が鎌をふるった。
     ギギンッ。
     鎌がとまった。駆動式の刃がのこぎり状についた、チェーンソー型の武器――チェーンソー剣に受け止められて。
    「もう、こいつは使わせねえぜ」
     ニヤリとし、桃子が鎌の柄をつかんだ。
    「おのれ」
     屍王の左目が光った。
    「うぐっ」
     桃子が赤い閃光に貫かれた。が、鎌を掴むその手は放さない。
     その時、屍王は背後から吹きつける灼熱の殺気を感得した。迫る灼滅者たちだ。
    「ちいっ」
     鎌を放し、屍王が跳んだ。その眼前、炎を尾をひいて天狼が迫った。
    「鎌を放して逃げたね。お前は、もう王じゃない」
     紅蓮の炎をまとわせた蹴りを天狼は放った。腕を交差させ、屍王が受け止める。爆発したような衝撃とともに炎の花が咲いた。
    「ぬっ」
     衝撃を逃しきれず、屍王が地を削りつつ後退した。その右、通行止めの交通標識を振りかぶっているのは玉だ。
    「血色の悪い顔をしている割には、存外に元気な事だね」
     玉が交通標識を屍王に叩きつけた。隕石が地を穿ったような重い響き。暴虐的破壊力に空間が震え、屍王がよろけた。髑髏の半顔に亀裂がはしっている。
    「勝機」
    「一気にいくよ」
    「王、堕ちるべし」
     藍蘭が、解が、エウロペアが馳せた。瞬く間に肉薄、三条の剣光がたばしり、屍王の肉体を薙いだ。
    「ば、馬鹿な――」
     棒立ちとなった屍王が天を仰いだ。
     王が下郎に斃される。そのような馬鹿なことはあってはならなかった。が、事実として三つの刃が彼の存在そのものを断ち切っている。闇の細胞が、素粒子レベルで消滅しつつあった。
    「野郎共、引き上げでござんす」
     もはや廃王には興味なしとばかり。着流しの裾翻らせ、娑婆蔵が振り返った。
     屍の王が一人。この日、死んだ。

    作者:紫村雪乃 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年11月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ