集結する光の軍勢~偽りの光、偽りの武

    作者:悠久

    ●S県・山中
     人里を離れた山中に、ひとつの人影がある。鋭い眼光の、細身の体躯を持つ青年だ。
     不思議なことに、鬱蒼と生い茂った山林が彼の周りだけ何本も切り倒されていた。
     その理由は簡単だ。青年が音もなく片手を振るえば、周囲に生えた木々はたちまちにその太い幹を切断されてしまった。
     人間技ではない。刃物の切れ味にも等しい手刀を、青年は次々と周囲の木に見舞う。
    『……そろそろ、腹が減ったな』
     あらかた木々を切り倒し、そう呟く彼の名は光凌(こうりょう)。ただ強さだけを追い求めて生きるダークネス――アンブレイカブルである。
     かつて敗北を味わった彼は、頼りの大剣を捨て、徒手空拳による武を磨いていた。
    『そういえば先ほど、あちらに猪がいたはず……ん?』
     周囲をぐるりと見回した光凌の目の前に、不意にまばゆいばかりの光が現れる。
     これはなんだ、と。その言葉は声にならなかった。
     眼前の光はすべてを掻き消すように強く、強く輝いて。
     やがて。光凌は無言のまま、凄まじい速度で山中を走り始めた。
     近くの道路に出ると、偶然通りかかったオープンカーの空いた助手席目掛けて跳躍する。
    「うわっ! なんだ、あんた! どこから来やがった!?」
     突然の闖入者に慌てふためく運転手。光凌は答えることなく、一閃、手刀を振るった。
    『新宿橘華中学へ向かえ。……断るならば、お前もあのようになる』
     オープンカーの進路上、生い茂る木が一斉に切断され、山の斜面へ倒れて転がっていく。
     運転手は真っ青な顔でこくこくと頷き、慌ててアクセルを踏み込んだ。

    ●邂逅、再び
    「ベヘリタスの卵の事件で暗躍していた光の少年と、アンデッド化して白の王配下となったクロキバとの戦いに介入した灼滅者たちが、見事、クロキバを討ち取る事に成功したみたいだね」
     教室に集まった灼滅者達を前に、宮乃・戒(高校生エクスブレイン・dn0178)はそう説明を始める。
     この勝利により、白の王セイメイの計画には致命的なダメージを与える事ができただろう。
     また、最後に正気を取り戻したクロキバは、自分が灼滅された事で、新たなクロキバの継承者が出現すると言い残している。
     クロキバを継承する者が誰になるかは判らないが、大殊勲といってよいだろう。
    「ただ……クロキバを失った白の王の弱体化により、白の王と敵対していた、光の少年『タカト』達の積極攻勢にも繋がってしまったみたいなんだ」
     戒は表情を硬くする。
     光の少年『タカト』は、拉致したラブリンスターの無差別篭絡術を利用し、多くのダークネスを配下に組み入れようとしている。
     おそらく、集結させた軍勢を利用して、何か大きな作戦を行おうとしているのだろう。
     光の少年『タカト』の力であるのか、この作戦についての予知は断片的で、全てを阻止する事は難しい。
     しかし、武蔵坂学園に関わった事があり、なんらかの『絆』があるダークネスについては、かなりの確率で予知する事が可能なようだ。
    「皆には、かつて武蔵坂学園と関わり、今また、光の軍勢に加わろうとしているダークネスの灼滅に向かって欲しい。ここで戦力を減らすことができなければ、光の少年『タカト』を阻止できなくなるかもしれない」
     今回予測されたダークネスは、かつて灼滅者達と『武人の町』で相対したアンブレイカブル。名を、光凌という。
     以前はシン・ライリーの元に属していたが、武神大戦獄魔覇獄での敗北をきっかけに離脱。自らの無力を克服するため独りで修行に励んでいたところ、光の少年の影響を受けてしまったようだ。
    「光凌は通りすがりの一般人を脅し、S県の山中から都内の『新宿橘華中学』に向かおうとしている。今から向かえば、お昼過ぎ頃に、山の麓で光凌の乗る車を待ち伏せできるよ」
     山中から麓へ続く道路は一本道。待ち伏せ可能な山の麓、道路の両脇はまばらな雑木林だ。人家は離れており、一般人の姿は見られない。
    「まずは車を止めて運転手さんを救出。それから、道路上で光凌と戦うのがいいと思う。で、車を止める方法なんだけど……理由はよくわからないんだけど、近くに何本も切り倒された木が転がっているみたいなんだ。これ、バリケードとかに使えるんじゃないかな?」
     と、戒は手元の資料を捲りつつ、不思議そうに首を傾げた。
     戦闘の際、光凌はストリートファイターと無敵斬艦刀に似たサイキックの他、シャウトを使用する。ポジションはクラッシャー。一撃の破壊力は大きいものの、以前戦った時よりも灼滅者達も強くなっている。油断しなければ負けることはないだろう。
    「……たとえ何があったとしても、僕から君達に掛ける言葉はたったひとつだ。今回も、君達の活躍に期待しているよ」


    参加者
    神凪・陽和(天照・d02848)
    暴雨・サズヤ(逢魔時・d03349)
    ミルフィ・ラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・d03802)
    比良坂・逢真(スピニングホイール・d12994)
    杉凪・宥氣(天劍白華絶刀・d13015)
    異叢・流人(白烏・d13451)
    木元・明莉(楽天日和・d14267)
    雨堂・亜理沙(薄闇に霞む白・d28216)

    ■リプレイ


     山の麓へ至る道路には、丸太を積み上げたバリケードが設置されていた。
     昼を過ぎた頃。集まった灼滅者達はバリケードの傍らに立ち、山中に伸びる道路へ視線を向ける。
     急速に山を下る1台のオープンカー。怯えた表情の運転手の隣、無表情で助手席に座る青年は人ならざる者――アンブレイカブル、光凌。『新宿橘華中学』へと向かう彼を止めることが灼滅者達の目的だ。
    「タカト……ラブリンスターの力を、こんな形で使うとは……」
     ミルフィ・ラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・d03802)が複雑な表情で呟く。
    「不本意な形で堕とされた……光凌様を……武人の誇りを、取り戻して差し上げませんと……」
     ミルフィの言葉どおり、今の光凌は光の少年によって正気を捻じ曲げられた状態。ダークネスとはいえ、一度は武蔵坂学園と絆を結んだ相手だ。利用される姿を見るのは忍びない。
     車が麓にたどり着くと同時、バリケードに気付いた運転手が急ブレーキを踏む。
    「申し訳ありませんが、ここは通行止めです。回り道もさせません。……終点だよ」
     雨堂・亜理沙(薄闇に霞む白・d28216)が一歩前に出て、急停止した車に乗る2人へ声を掛けた。
     助手席、灼滅者達を見つめる光凌の瞳はどこか虚ろで、ふと生まれた感情が亜理沙の胸を衝く。
     (「これは哀れみではないな……。だとすれば、怒りか」)
    「光凌さん、貴方をこれ以上進ませる訳には参りません。タカトの軍勢集結阻止の為に。貴方をここでとめてみせます」
     神凪・陽和(天照・d02848)もまた、凛とした面持ちで光凌の前へ立ち塞がる。
     光凌がタカトへ合流することは武蔵坂学園にとって脅威となる。
     けれど、それ以上に。無差別籠絡術で光凌の武の信念を利用されることが、同じ武人である陽和には許せなかった。
     睨み合う1人と8人。その傍ら、未だ運転席で怯える一般人へ、比良坂・逢真(スピニングホイール・d12994)は下がっていろ、と声を掛ける。
     その言葉に従い、一般人は運転席から這い出た。その足が震えているのを見て取り、暴雨・サズヤ(逢魔時・d03349)は彼を抱きかかえ、安全な場所へと急ぎ避難させる。
     間もなく一帯は戦場と化す。その前に一般人を逃がさなければいけない。
    「あんたみたいな人とはこんな形じゃなく、互いの誇りを賭けて正面から挑んでみたかったよ」
     視界の端、遠ざかるサズヤを確認しながら、逢真は光凌へ語り掛ける。かつて武人の町で人間と共存していた誇り高き男とこんな形で戦うのは不本意だ、と。
    「アジフライ、好きだっただろ、アンタ」
     木元・明莉(楽天日和・d14267)は光凌の元へ進み出て、手にした包みを差し出した。それは以前、武人の町で光凌が好んでいたものだ。明莉はそこに同席したことがある。
     だが、光凌は受け取らなかった。敵意を浮かべ、明莉を――灼滅者達を見据えていた。
    「俺は木元・明莉。以前、アンタと武人の町で会った灼滅者だ」
     今の光凌はきっとそのことを覚えていない。けれど、それでも。
    「光凌、アンタをタカトの元には行かせない。貴方の死をもって、ここで足止めする」
    『俺には、行かねばならぬ場所がある。……邪魔しようというのか』
     光凌が運転手を取り戻そうという動きを見せた瞬間、異叢・流人(白烏・d13451)は無言でその前に立ち塞がった。
    (「予知内容から察するに、光凌は彼の前に現れた光のせいでこのような行動を起こしていると考えて良いだろう」)
     光こそが闇よりも危ないものだ――と。
     友人の言葉を思い出し、流人は微かな畏怖を覚えた。
    (「まさか、こんな形でその忠告を思い知るとはな」)
    「自分がなんでそこに向かおうとしているか自覚はある?」
     糖分補給にと食べていた菓子をしまいながら、杉凪・宥氣(天劍白華絶刀・d13015)はそう尋ねた。
     光凌からの答えはない。とはいえ、予想していたことだ。
    「まあ、こういうのは闘争で語った方が早いな」
     おもむろに肩を竦める宥氣の眼前、光凌の全身に壮絶なまでの闘気が満ちる。
     呼応するように、灼滅者達はそれぞれの武器を構えた。 


    「clothe……bound」
     宥氣が額にスレイヤーカードを翳し水平に振ると、その手に一振りの日本刀が現れる。空いた片手で耳元に触れ、宥氣は真っ先に光凌目掛け駆け出した。
    「安心しな、元より手加減とかは苦手だかんな!」
     言葉と共に、宥氣の握る刃が光の如く戦場を一閃する。
     跳躍する光凌の腹部は浅く切り裂かれて。その動きに合わせるように流人はエアシューズで地を滑った。光凌へ肉薄すると同時、繰り出した蹴りは激しく燃え上がる。
    (「クロキバのように、最後には光凌も元に戻る可能性はあるかもしれぬが……」)
     容易に叶うことではないだろう。だが、無理だと最初からあきらめれば、可能性は本当に失われる。
    「……異神の刃は異端なる存在を狩り屠る刃。やれる事はやってみるか」
     呟く流人の横、疾走する逢真。次の瞬間、その片腕が鬼神の如く膨れ上がり。
    「せめて、この戦いがアンタの魂に刻まれるような死闘になるよう、全力で挑ませて貰おう」
     猛烈な膂力と共に、逢真は変じた腕を振り下ろした。
     容赦はしない。たとえ一度は武蔵坂学園と絆を結んだ相手だとしても。
     戦場において迷いは最大の弱点となる。灼滅者達は最初から全力を尽くし、光凌との戦いに当たっていた。
     光凌の全身を覆う闘気が雷へと変じ、激しく光を散らす。
     刹那、繰り出された拳の行く先は逢真。だが、護り手の陽和がすかさず庇って。
    「優れた武には、全力の武にて、応えましょう」
     受け止めた拳の重さに、陽和は改めて、目の前の青年が優れた武人であると敬意を覚えた。だからこそ放ってはおけない。その強さを、信念を無理に悪用することは許さない。
     鋭い銀爪を繰り出す陽和。彼女に守られるように、ミルフィは自らの背へ炎の翼を顕現させた。ミルフィと同じ中衛に仲間の姿はないが、まずは自己強化が先決との判断だった。
    「タカトの所へ、貴方を行かせる訳には参りませんわ……。わたくし達と……ひと死合、付き合って下さいまし……」
     翼纏い武器を構えるミルフィの横を、一般人の避難を終えたサズヤが駆け抜け、雷を纏わせた拳を繰り出す。
     武人の町にいた頃の光凌が『タカト』に奪われてしまったのなら、取り戻したい。
     だから、今はただ信じていた。拳を交え、言葉を交わせば、微かな希望が見えるかもしれないと。
    「きっと、覚えているはず」
     サズヤがぽつりと呟いた言葉に、他の仲間達も背を押されるように進む。
     だが、光凌の手刀はその何倍もの質量を持つかのような強さをもって、サズヤへと襲い掛かる。
     亜理沙は戦況を素早く把握。すかさずダイダロスベルトを伸ばし、幾重もの癒しと護りを与えた。
    「そんな生温い攻めにやらせはしないよ」
     亜理沙の役割は、仲間達が光凌との戦いに集中できるよう、後衛から支援を務めること。
     目指すものは、誰ひとり欠けることない勝利。常なら温和な表情を鋭く変え、亜理沙は戦場に細かく目を配っていた。
    「俺はアンタに、武人の町のアンブレイカブルに憧れた」
     只真っ直ぐに強さを求める姿が羨ましいと思った――と。
     戦神の強さが宿る身で駆ける明莉は、毒を含んだ針を光凌の懐深く刺し入れる。
    「目を覚ませよ。貴方の自我と武の魂は、誰かの蹂躙を良しとする程弱かったのか!?」
     言葉に、声に、想いを乗せる。
     闘うことで繋がる縁、絆があると信じて。


     光凌の手刀が猛烈な膂力と共に前衛をまとめて薙ぎ払う。
     一撃が重い相手だ。ダメージの蓄積は激しく、その都度、回復を強いられる。
     激戦、未だ終わりは見えず。灼滅者達は、明莉を中心に操られた光凌へ言葉をかけ続けていた。
    「その拳を、誰の為に使うつもり? それは、光凌の目指す強さに本当に関わる事?」
     だが、呼び掛けるサズヤの声にはわずかな苦痛が滲む。
     攻防入り乱れる戦場において、誰を庇うか決めることはできない。負傷は蓄積し、思いのほか自己回復の機会も増えていた。
     だが、仲間を守る盾は1枚ではない。サズヤが傷つけば流人が、陽和が飛び出し、それぞれが頑強な壁となる。
     そして、ディフェンダー達の負傷を見て取り、後衛の亜理沙は素早く怪奇煙を生み出し、前衛をまとめて回復した。
    「皆さん、大丈夫ですか」
    「ん……問題ない」
     亜理沙の呼びかけへ言葉少なに軽く首を振り、サズヤは再び光凌へ迫る。傷の痛みは幾分か和らいだ。繰り出される蹴りが、炎の奔流となって襲い掛かる。
    「貴方の武への信念は、他の者の呼びかけであっさり崩れるものなのですか?」
     癒し切れぬ傷もそのまま、陽和は全身に『畏れ』を纏い、鬼気迫る斬撃を叩き付けた。
    「思い出してください。貴方は自分の意志で、強くなりたいと思ったんじゃないですか?」
     武器を合わせ、拳を交わせばわかる。光凌の強さは真摯に武を求めた者のそれだ。
     同じ武人であるからこそ救いたい。想いを込め、陽和は攻撃を続けていた。
     流人もまた、裂帛の気合いと共に痛みを振り払い、戦場を駆け抜ける。
     光凌へ肉薄すると同時、流人は素早い身のこなしで光凌の死角へ位置取り、幾重もの刃を閃かせて。
    「武の頂へと目指していた時のお前と今のお前……どれだけ今のお前が弱くなってしまったか、存分に叩き教えてやろう!」
     流人と光凌に面識はない。けれど、言葉ではなく力で語らうことはできる。
     力も、想いも全力。だからこそ、戦況は徐々に灼滅者の有利へ傾こうとしていた。
     そこには常に状況を見定め、適切な回復を行う亜理沙の働きがある。
     光凌が雄叫びと共に自らを焦がす炎を振り払うのを見て取り、亜理沙は素早く癒しの矢を放つ。それは今まさに攻撃を行おうとしていた宥氣へ向かい、彼の能力を呼び起こして。
    「六型終式『火鞠神楽舞』!」
     敵を見据える目は紅に染まり。握る刀へ炎を宿し、宥氣は舞うような動きで光凌を切り裂いた。その姿は、さながら炎の渦の如く。正確な狙いで放たれた一撃が、再び光凌の体を炎で包み込む。
     苦悶の声が光凌の喉を震わせた。その隙を逃さず、ミルフィは聖碑文を詠唱。時計仕掛けの十字砲が幾筋もの光の帯を生み出し、瞬く間に戦場を薙ぎ払う。
    「光凌様……その体たらくは、何ですの……?」
     ミルフィは必死に呼びかける。武の高みを目指していたはずの青年へ。
    「今の貴方のその姿が、本意でないなら……抗って下さいまし! そんな篭絡の術に屈する貴方では、無い筈ですわ……!」
     だが、返る言葉はない。そこに在るのは罪を灼かれ、動きの自由を奪われた光凌の姿。
    「鬼神、閃光拳!」
     逢真がすかさず異形の連撃を叩き込む。容赦ない拳は、光の如く闘気を煌めかせる。
    「あんたのその拳は何を勝ち取るために振るう?」
     光凌から向けられる拳は重く、けれどどこまでも空虚だ。信念のない強さが、逢真にとってはただ哀しい。
    「俺が戦いたいのは、本当のアンタだ!」
     ひときわ強く言い放つと、逢真は激しい連撃の末、光凌を大きく跳ね飛ばす。背後の雑木林が吹き飛ぶ青年を受け止め、激しく梢を揺らした。
     枝葉の擦れる音を聞きながら、明莉は悔しげに唇を噛み締めた。
     アンブレイカブルの、強さを求める想いが歪であるとは……判っている。
     できることなら生きて欲しい。そう願うものの、灼滅者として相対する以上、叶わない望みであると自覚している。
     だからこそ、最期はせめて武人の誇りを取り戻した光凌と拳を交わしたい。 
     けれど。どれだけ拳を交わしても、言葉を重ねても――想いは、届かないのだろうか?
     体勢を立て直し再び灼滅者達へ襲い掛かる光凌の体は、解除の追いつかない炎や足止めなどの行動阻害に侵され、もはや傷だらけだ。
     それでも彼は拳を向ける。虚ろな瞳で、明莉を見つめる。
    「目を……覚ませよ……!」
     噛み締めた唇から漏れた声。明莉は正面から光凌の鋼鉄拳を受け止めると、瞬時に出現させた銀の刃――激震を膂力のままに振り下ろした。
    『……っ』
     ついに光凌が地へ膝をつき、そして。
    『……以前にも、こうしてお前の刃を受けたことがあるな』
     彼が零した呟きに、明莉は――灼滅者達は目を瞠った。
    『やはり、お前達は強い、灼滅者。……良き戦い、だった……』
     光の戻った双眸で灼滅者達を見回すと、光凌は満足そうに口の端を上げ。

     そうして、逝った。


     灼滅されたダークネスは塵と消える。
     つい先ほどまで『彼』が居たはずの場所へ、明莉は手渡すことのできなかったアジフライをそっと置いた。
     最期の晩餐とはいかなかったものの、せめてもの手向けだ。
     か細い糸を手繰り寄せるように、絆は再び繋がった。それはけして1人の力によるものではない。
     それぞれの言葉が重なり、全力の戦いを交わし、そうして勝ち取った結果である、と。
     頬に流れる血を拭い、流人は改めて安堵の息を吐いた。戦いの終わった今、呼吸するだけで体中が痛みを訴える。それほどに熾烈な戦いだった。
     後悔はない。全力で戦って灼滅することが優れた武人に対する礼儀だ。
    「サズヤさん、お怪我は大丈夫ですか?」
    「……ん。神凪、も」
     仲間達の盾として最後まで立ち続けた明莉とサズヤが、顔を見合わせ、お互いの無事を確認し合う。
    「久々にいい感じに戦えたな……でもまだまだ力が足らない」
     耳元に触れた後、幾つかの錠剤を飲み込みながら宥氣はそう呟いた。過去は未だ、胸の内から消えてくれない。
    「武人の誇りを奪い、人の絆を弄ぶタカト。お前が何者だろうと必ずこの落とし前はつけさせてもらう。……俺の灼滅者としての矜持にかけてな」
     呟く逢真の声からは、押し殺された怒りが滲んでいた。
    「しかし……タカトは……新宿橘華中学に他のダークネスを集めて、一体何を……?」
     どこか不安が混じるミルフィの呟きに、亜理沙はふと視線を巡らせた。
     見つめる先は新宿方面。操られた光凌が目指し、また、他のダークネス達も集結しつつある場所。
     果たしてこの先、何が起ころうとしているのか。
     不穏な空気は消えることなく、戦い終えて訪れた静寂に、返る言葉はない。

    作者:悠久 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年11月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 2/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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