集結する光の軍勢~籠絡されたペンギン

    作者:森下映

    「今日も修行楽しかったなー! あっ」
     ペンギンの顔と羽根を模した耳あてつきの帽子を被った少女が、ぐーっと伸びをした瞬間、ガシャリとたくさんのキーホルダーを束ねたキーリングが落ちた。少女は微笑んでキーリングを拾い上げる。キーホルダーは全てペンギンのもの。その中に1つ、ラミネートされたペンギン柄のメモもあった。
    「よっしハンバーガー食べにいこ!」
     その少女……『ペンギン』と呼ばれているアンブレイカブルは、キーリングをポケットに入れ直して立ち上がった。
     が、その時。
    「うわ!」
     突如現れたまばゆい光。ペンギンは驚いて尻もちをつく。
    「……あ」
     ――行かなきゃ! 
     走りだすペンギン。そしてしばらく後。
    「止まれーーーーっ!!」
    「うわっ!」
     急ブレーキの音が響いた。大通りを走っていた乗用車の前、両腕を広げて立ちふさがっているのは……ペンギン。
    「あぶねーな! 何やってんだよ!」
    「ちょっと行ってほしいとこがあるんだ!」
     降りてきた運転手に近づき、ペンギンが言う。
    「はあ? 俺はこれから仕事で、」
    「!!!」
     ペンギンがシュッと手刀を振ったと同時、男の服が斜めに裂けた。その間に素早く男の背後にまわったペンギンは、男の首筋に手刀を当てる。
    「行ってくれるよね?」
    「は、はいいい」
    「カーナビ使っていいかな?」
    「ど、どうぞ」
     ペンギンは助手席に乗り込むと、目的地に『新宿橘華中学』と入力した。

    「みんな集まってくれてありがとう! さっそく本題に入るね!」
     と言って須藤・まりん(高校生エクスブレイン・dn0003)は説明を始めた。
     まりんの話によれば、ベヘリタスの卵の事件で暗躍していた光の少年と、アンデッド化して白の王配下となったクロキバとの戦いに介入した灼滅者たちが、見事クロキバを討ち取る事に成功した。それにより、白の王セイメイの計画に致命的なダメージを与える事もできただろう。
     また最後に正気を取り戻したクロキバは、自分が灼滅された事で新たなクロキバの継承者が出現すると言い残している。クロキバを継承する者が誰になるかは判らないが、これについても大殊勲といっていい。
     だがクロキバを失った白の王の弱体化は、白の王と敵対していた光の少年『タカト』達の積極攻勢にも繋がってしまったようだ。
    「光の少年『タカト』は拉致したラブリンスターを利用して、多くのダークネスを無差別篭絡術を使って配下に組み入れようとしているんだよ」
     おそらく集結させた軍勢を使い、何か大きな作戦を行おうとしているのだろう。
    「光の少年『タカト』の力なのかわからないけど、この作戦についての予知は断片的で、全てを阻止する事は難しい」
     だが武蔵坂学園に関わった事があり、なんらかの『絆』があるダークネスについては、かなりの確率で予知する事が可能。
    「皆には、かつて武蔵坂学園の灼滅者と関わり、今また光の軍勢に加わろうとしているダークネスの灼滅に向かって欲しいんだ」
     もしここで戦力を減らすことができなければ、光の少年『タカト』を阻止する事ができなくなるかもしれない。
    「今回光の軍勢に加わろうとしているのは、以前武人の町で武蔵坂学園の灼滅者と会ったことがある、『ペンギン』と呼ばれている女の子だよ」
     まりんが資料をめくる。
    「彼女と接触できるタイミングは『彼女が車の外にでてきた運転手の喉に手刀を当てた時点』。それまでも近辺に潜んでいる程度なら影響はないよ」
     ペンギンが戦闘時使用するサイキックは、ストリートファイター相当から1つ、月光衝、リングスラッシャー射出、クルセイドスラッシュ、シャウト相当。ペンギンは年齢不詳、身長160cmくらいの女の子で、ペンギンの帽子をかぶっており『とばない』ことを徹底した格闘スタイル。とばないかわりに非常に素早く、足やお腹、体側で滑って移動し、手刀から攻撃を放ってくる。ポジションはクラッシャーで、1年前に模擬戦を行った時より、修行の成果か強くなっているようだ。
    「以前、彼女とはとても良好な関係を築いて別れたんだったね……でも、」
     まりんは資料を閉じ、
    「何か大きな事件が起きそうな予感もあるし、とにかく今はできることを、ね。みんな、頼んだよ!」


    参加者
    詩夜・沙月(紅華の守護者・d03124)
    四天王寺・大和(聖霊至帝サーカイザー・d03600)
    銀城・七星(銀月輝継・d23348)
    翌檜・夜姫(羅漢柏のミコ・d29432)
    ベルベット・キス(偽竜の騎士・d30210)
    若桜・和弥(山桜花・d31076)
    綵・麗(生命を断ち切る瞳を封じる者・d35918)

    ■リプレイ


    (「洗脳されちゃったかー」)
     南極のご当地怪人を自任する『ペンギン』娘、アスティミロディア・メリオネリアニムス(たべられません・d19928)は呟いた。
    (「まぁいっか。再戦の機会であることには違いないし」)
     予知がなければペンギンは知らない間に招集されていたかもしれない。
     一方、
    (「害になる……ダークネスは、狩る……のみ。だけど」)
     かつて自ら視界を塞いだ目隠しの下、綵・麗(生命を断ち切る瞳を封じる者・d35918)は考える。
    (「洗脳……された……のと、戦って……狩るのは……自分の……意志で……戦って……欲しいのに」)
     俯き加減、銀色の長い髪が麗の頬を撫で、喪服の肩から流れた。
    (「でも……狩らなければ……いけないのなら、仕方ない。……狩る」)
    「一般人の保護は……任せる。怖がられる……から」
     不慣れな日本語で切れ切れに話す麗に、若桜・和弥(山桜花・d31076)が頷く。ペンギンの好きなハンバーガーをも持参している。仲間の目指すものには積極的に協力したいとも思っている。
    (「……でも、いざとなれば」)
     例え不本意でも、必要であれば。躊躇わない覚悟もできていた。
    (「うん……やらなくちゃ」)
     隣、翌檜・夜姫(羅漢柏のミコ・d29432)。女装した姿は自身を男性として認識することに酷く抵抗があるから。それは女系の神薙一族に素質を持って生まれ、親族から疎まれた過去によるものか。
    (「友好的だった人を灼滅するって、簡単には言えるものじゃないけれど」)
     視線の先には、いつものカルく元気な様子は影を潜めたベルベット・キス(偽竜の騎士・d30210)。
    (「ボクは、ペンギンちゃんをともだちだと思ってるよ」)
     心優しい少年。武人の町へ行った時も、彼はペンギンちゃんと仲良くなりたいと純粋に思っていた。事実また戦ったり遊んだりしたいといったベルベットにペンギンは自分もがんばらなくちゃと言い、笑顔で別れたのだ。なのに。
    (「……悲しい再会ですね」)
     自分が渡したペンギン柄のメモを、ペンギンは大事に持ち歩いていたことをまりんの予知で知った。また会えて嬉しいのに。詩夜・沙月(紅華の守護者・d03124)はその青い瞳でペンギンがやってくるはずの方向を見つめる。本来のペンギンと勝負をして、またハンバーガーを食べたい。正気に戻って、彼女に生きていて欲しい。ペンギンのことが好きだから。
    (「きっと私の望みは我侭で、偽善なのでしょう」)
     それでも意地は張り通す。
    (「……最後まで、諦めません」)
     それを阻む気はない。けれど自分は依頼を成功させることを優先に考える。首から下げたハンズフリーライトの調子を確かめつつ、潜み立つは銀城・七星(銀月輝継・d23348)。思いに揺れる心は時に危うい。そのつもりはなくとも、七星の立ち位置は防波堤となるかもしれない。
    (「ヒーローとは悪を滅する為の存在では無い。人を救う者こそがヒーローである」)
     四天王寺・大和(聖霊至帝サーカイザー・d03600)。眼鏡の下の表情までは見えない、暗闇。
     強引だとは自分でもわかっている。面倒な感情だとも思う。それでも、『ヒーロー』。
    (「なら、今成すべき正義は」)
    「止まれーーーーっ!!」
     少女が車道へ飛び出した。


    「カーナビ使っていいかな?」
    「ど、どうぞ」
    「久しぶり。……ね、用事の前に、お話しようよ」
     助手席に回ろうとしたペンギンの前、ベルベットが言った。ペンギンは怪訝そうに振り返る。その隙に和弥は男の前に立ちはだかり、
    (「合図したらすぐに車で逃げて下さい」)
     小声で伝えると、男はぶんぶんと首を縦に振った。
    「久しぶりって……君会ったことあったっけ? てか今急いでて、」
    「久しぶりやな」
     重ね、大和が言う。
    「覚えてるかどうかは今はどっちでもええ。一勝負頼めるか? そこでは狭いやろ。こっちこいや」
    「ん? 修行にきた人? でも今忙しいんだ! また今度に……あっ!」
     車が走りだした。
    「うわ、待ってよーー! あーー行っちゃったじゃん……どうしよ、歩いて行くには遠いし……」
     ペンギンは帽子ごと頭を抱える。
    「別の車探すかー。ごめん、勝負はまた別の機会に! ……って君たち?」
     囲まれていることに気づき、ペンギンが言った。
    「何者?」
     車のヘッドライトが去ったかわりに、夜姫の黒猫が白猫へとかわり、和弥の置いた魔術師のランプが真紅の炎を灯した。
    「新宿橘華中学に行くんですよね?」
     和弥の問いにペンギンは答えない。警戒している。
    「ということは……あれ、タカトさんと付き合い長いんです?」
    「!? タカトを知ってるんだ?」
     驚いた様子のペンギン。術の効果を探る事を意識した質問。和弥は続ける。
    「知ってるっていっても顔も見た事無くてさ。教えてよ、格好良い?」
    「あたしも顔は見たことないからわからないよ? 会ったのも一瞬だし」
     例のタカトの予兆、あれだけが接触であったようだ。
    「ねー」
     アスティミロディアが言った。
    「前に見せてもらったキーホルダーは?」 
     本人の考えや感情がどれほど生きてるか推し量るための質問。ペンギンは、
    「前に? 君にも会ったことあるのかな……覚えてないんだけど……わ、かわいいわんこ!」
     そう言ったペンギンに、コーギーの霊犬アヴィルネティオが人懐っこく尻尾を振る。アスティミロディアは、
    「あるよね? あなたが作ったって言ってた」
    「うーん、もしかしてこれ?」
     ペンギンがポケットからキーリングを出した。
    「恥ずかしいな、あんまりこういうの得意じゃないから」
    「……上手にできてる。し、可愛い」
    「そうかな!」
     以前と同じ会話。ペンギンが照れくさそうなのも同じ。そして、
    「? これなんだろ」
    「メモ、大事に持っていてくれたんですね」
     沙月が言う。
    「え、これ君の?」
    「私も、ペンギンさんの事、ずっと覚えてましたよ」
     沙月はこみ上げてくるものを堪え、
    「また勝負をして、一緒に食事をしましょう?」
    「うーん勝負っていわれると弱いんだけど、今は一刻も早く行かなきゃいけないんだ。悪いけどまた今度で、」
    「じゃあ、1つ提案を」
     灯りに照らされる銀の髪。夜姫が言った。
    「ボクらが負ければ君に協力を、君が負ければ新宿橘華中学に向かうのをやめてもらう。どうかな」
     ペンギンは少し考え、
    「それは……君たちはあたしを新宿橘華中学に行かせたくないってこと?」
    「そうなるね」
     夜姫が言う。
    「ん、正直にいってくれてありがと! あたしも嘘つくの嫌いだから正直に言うね!」
     ペンギンはにっと笑って言った。
    「あたしは行くよ!」
     そしてぐるりと全員を見渡すと、
    「みんなのことを倒してでもね!」
    「この身、一振りの凶器足れ」 
     七星がスレイヤーカードを解放。L'Heure Bleueに包まれた細身の身体の周囲に意志を持つ帯が浮かび上がり、足元には影の化生、幽羅と夜深が現れる。
    「勝たなきゃ何も掴めないって言うなら、そうしよう」
     次々と灼滅者達が封印を解除する中、和弥は自分の眼前で両拳を撃ち合わせた。それは暴力で物事の解決を図る事を当然だと思わない為の。伴う痛みを忘れない為の、彼女の儀式。
    「灼装……! 聖霊、至帝! サー、カイザー!!」
     大和もコンバットスーツ姿に変身、
    「……思い出させたるわ! 俺達の事を!」
    「なんだかわからないけどすごいやる気だね! あたしも負けないよ!」
     ペンギンが脇腹で滑り込んできた。


    「みんな只者じゃないねっ!」
     七星と麗の放った帯に身体を貫かれたペンギンが言った。しかしその前に盾となる輝きを纏っていたペンギンの動きは止まらず、片手を振り上げ斬撃を飛ばす。が、
    「!」
     ひらり外套が風を孕んだ。ベルベットの羽織ったクレストクレスタ。以前戦った経験から小柄な体を生かして重心を低く構え、斬撃を受け止める。
    「すご!」
     ペンギンは体勢を立てなおそうとしたが、既に素早く間合いを詰めた和弥が、させない。
    「私もあまり『とばない』けれど」
     咲き誇る『春の嵐』が瞳の色と呼応し、結わえられた黒髪を照らした。合気の足運び。合気道を土台に自分で肉付けしてきた和弥の戦闘スタイル。
    「お腹で滑るのまでは遠慮したいね。すり減りそうだ」 
     オーラが和弥の拳に集まる。次いで連打。その勢いに押されていくペンギンを待ち構える夜姫。
    「何故新宿橘華中学に行こうと思ったの?」
     聖歌が流れ出る。巨大な十字架の銃口をペンギンへ向け、夜姫が問いかけた。
    「なぜって、タカトにいわれたからだよーっ!」
     ペンギンはシューズのへりでストップをかけるや否や、今度は腹ばいで滑り出し、アスティミロディアの放ったビームを避ける。
    「それは本当に君の意思かな?」
    「え? うわ」
     命中率100%近い砲撃はペンギンでも避けられなかった。ピシリ凍るペンギンの身体を持ち上げ、叩きつける大和。続きライドキャリバーのカイザーサイクルが突撃。アヴィルネティオはベルベットの傷を癒やし、突撃で『とばされた』ペンギンへ、沙月が冷気を纏った刀、雪夜を振り下ろす。それは雪降る夜に霊山で生まれたという伝承持つ、愛する人の形見。
    「強いね!」
     血飛沫の向こう、ペンギンは嬉しそうに顔の血を拭った。


    「つ!」
     麗の長い銀髪が魔力に舞い上がり、その歌声がペンギンを直撃した。とはいえここまでペンギンは命中率の甘い攻撃は回避、戦闘は長引いていた。
    「覚えてる、ペンギンちゃん。あの時は楽しかったよね」
     ベルベットが言った。そして炎の蹴りを見事命中させるが、直後、叫ぶ。
    「もうやだよ。こんな戦い、全然楽しくない。キミと遊ぶんじゃない……誰かに遊ばれてるだけなんてッ」
    「こういう形でなければ再戦は大歓迎なんだけど。ボクも鳥のペンギンは大好きだからさ」
     シューズで踏み切り、アスティミロディアも言った。
    「こんな操られてやってるような戦闘で楽しい? 答えろ!! アンブレイカブル!!」
     いつもの彼女らしからぬ口調は、タカトに怒っていることが漏れだしている証拠。
    「君もペンギン? なのにとぶんだね」
     剣幕に困惑しながらもペンギンが言う。
    「跳躍式ペンギンコンバットってヤツだよ。南極では常識」
     その瞬間ペンギンが明らかに『蹴り』を警戒したことに、アスティミロディアは気づいた。
    「残念! 『今回』は違うんだ」
     アスティミロディアは交通標識『ペンギン注意報』の白くまどころでははない威力でペンギンを殴りつける。ペンギンは地面に大の字に倒れ、目を見開いたまま動かない。突如の静寂。
    「ペンギンちゃん」
     ベルベットはその傍らに座り、震える声で言った。
    「また一緒に。ハンバーガー、食べよ?」
    「あれ、君……イタタ」
     起き上がったペンギンを沙月が支える。
    「あ、久しぶり! あたしどうして、」
    「思い出せたか?」
     大和も片膝を折った。
    「うん。でも……なんか変な感じが」
    「すまんが、今だけで良い。俺達の言う事を聞いてくれ。光の軍勢に加わらん事。それだけを約束して欲しい」
    「それは、」
     デ、キ、ナ、イ。眼が虚ろな色に覆われた途端、ペンギンは後ろへ回旋するように滑り出た。
    「どうしたのーっ? もう終わり?」
     僅かな時間。確かにペンギンは1度彼らのことを思い出した。しかし。
    「!」
     手刀からの一閃。かばいに入ったカイザーサイクルが消滅し、麗が意識を喪う。頬に入った傷から滲みでた血を構いもせず、躊躇わず、七星はユウラとヤミを走らせ、ペンギンへ食いつかせる。
    「お前の実力では光の軍勢とやらに入ってもすぐ死ぬだけや。止めとけ」
     大和が言った。最後の望みを託して。それでも返ってきた言葉は、
    「あたしは行かなきゃ!」 
     戦闘が進む程に術の強さが明らかになり、そしてペンギンは回復する暇がなくなっていく。傷深く、これ以上の攻撃は致命傷となるかもしれないという段階まできた。
    「絆が無いなら……新しく作ればええ!」
    (「絶対にペンギンは殺さない殺させない」)
    「この拳が……俺達の絆!」
     変身を解いた姿でパンチを繰り出す大和。よろけながらも、再び腹で滑りこもうとしたペンギンに対しアスティミロディアは限りなく低い姿勢をとると、
    「対ペンギン天地返し!」
     これも手加減攻撃。ペンギンの腹を救い上げて投げ飛ばす。南極で鳥のペンギンが暴れたときに鎮める時にやっていたらしい。沙月も手加減攻撃の構えをとるが、ペンギンは鋼のように固めた手刀を振り上げる。
    「つ……ッ」
     ベルベットが鋼鉄の手刀をまともに喰らった。手加減攻撃では100%慈悲が発動する。だからペンギンは倒れない。攻撃もしかけてくる。ラブリンスターにタカト。元をどうにかしない限り、ペンギンの洗脳も完全には解けることはないのだろう。ということは。
    「……残念だけど、ここまでだね」
     夜姫が言った。洗脳が解けないまま逃がすという選択肢は彼らにはなかった。ベルベットは片膝をつき、浮かぶ涙を堪える。
    「ペンギンは!」
     ――殺させない。言いかけた大和の後ろ、
    「仲間を殺しかけてる敵を助ける……アンタは武蔵坂を裏切って、ダークネスにつくんスね」
     大和がどう感じたかはわからない。七星は至極冷静に、鈍銀の十字碑を構えた。
    「……!」
     灼滅するなら責任を取り、自分の手でと思っていた沙月。しかし手加減攻撃ではペンギンは灼滅できない。七星のGrimReaperから流れだす聖歌、走りこむ夜姫、死角へ沈む和弥。砲弾がペンギンへ命中。凍りついた脚を、武器を持たない和弥の手刀が断つ。傾く身体。夜姫の振り下ろした十字架に、ペンギンは崩れ落ちた。
    「あーあ、負けちゃったな……」 
     倒れたまま呟いたペンギンに、アスティミロディアは何か囁く。
    「……? いい、けど……あは……物好き……だ……ね……」
     ポケットからキーリングを取り出したペンギンの手が落ちかけた。その寸前、アスティミロディアと沙月はその手をキーリングごと握る。さらさらと消えていくペンギンの身体。キーリングだけが残され、アスティミロディアはキーリングからメモを外すと、沙月へ渡した。どんな結果になっても人前では泣かないと決めていた。沙月は黙ってラミネートされたメモの表面を指で拭う。
    「タカト……全き光……何処が……『光』なのだか……悪」
     意識を取り戻した麗が言った。黙祷を捧げる夜姫。ベルベットは、
    「和弥おねーさん、ハンバーガー……もらってもいいかな」
     和弥がベルベットに紙袋を渡す。ベルベットはハンバーガーの包み紙を剥き、
    「……約束だよ。いつかまた会えたら。ハンバーガー、食べに行こうね」
     冷めたハンバーガーを一口。そこからは進まない。
    「……これで一件落着……やと……?」
     握りしめすぎた大和の拳に血が滲む。
    「そんな事あってたまるか!! 何が正義や!! これがヒーローのやる事か…!!」
     大和の声がコンクリートへ沁みた。

    作者:森下映 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年11月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 8
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