大寒まで待てなくて胡麻豆腐羽二重餅となまこモッチア

    作者:聖山葵

    「もう駄目でち。嫌でち」
     温水プールの更衣室で膝を抱えた少女はうつろな目をしてポツリと呟いた。
    「食べたいでち……なまこ餅が食べたいでち。大寒まで待てないでち」
     ブツブツ呟く少女が異様に見えたのか、それとも着替えが終わったからか、更衣室の利用者達は水着姿で次々と立ち去り。
    「急がないと、遅れちゃう……あれ? 君、お腹が空いてるの?」
     遅れて更衣室に駆け込んできた女性は唯一の例外だった。
    「え?」 
     少女のお腹がきゅるるとなったのは、ちょうど声をかけられた時。
    「あー、やっぱり。じゃ、これを食べるといいよ? お餅、嫌いじゃなければだけど」
    「……いいでちか?」
     女性が鞄から何かを出した瞬間、虚ろだった少女の顔に生気が戻り初め。
    「うん」
    「いただきますでちっ」
     女性は笑顔で頷けば、少女の動きは早かった。渡されたモノを確認もせず一気に口に入れ。
    「良かった、美味しいでしょ、胡麻豆腐羽二重餅?」
    「んぐ?! ん、ん゛」
     女性の言葉で胡麻豆腐羽二重餅を喉につまらせた少女は、次の瞬間ご当地怪人へと変貌したのだった。

    「好きなモノをいつでも食べたいって所は、あたしわかるなぁ」
     ポツリと呟く東屋・桜花(もっちもち桜少女・d17925)にそれは良いから上からどいて欲しいんだけどと洩らしたのは、桜花の下敷きになった鳥井・和馬(中学生ファイアブラッド・dn0046)だった。
    「一般人が闇もちぃしてダークネスになる事件が起ころうとしている。今回はなまこも餅だな」
     体質柄、教室に入って来るなり躓き、和馬を押し倒し胸を押しつけて現実逃避している情報提供者を横目で一瞥した座本・はるひ(大学生エクスブレイン・dn0088)は君達に視線を戻すとそう告げた。
    「本来なら闇堕ちした時点で人の意識は消えてしまう、だが今回この少女は人の意識を残したまま一時踏みとどまるようなのでね」
     もし灼滅者の素質を持つのであれば闇堕ちからの救出を、また完全なダークネスになってしまうようであればその前に灼滅をと言うのがはるひからの依頼だった。
     「それで今回闇もちぃする少女だが、鼠谷・優海(そたに・ゆみ)。小学三年の女子生徒だな」
     空腹となまこ餅食べたさに消沈していたところで通りかかった女性からお餅を貰って食べた優海はもち肌な人の手足が生えた海鼠という形状のご当地怪人海鼠モッチアへと変貌し、更衣室を飛び出すという。
    「ようやく貰えると思った餅が別の餅だったことがいろんな意味でショックだったと言うことだ」
     良く確認せず食べた自分の浅はかさ、空腹で別の餅でも食べてしまいたいと言う思いからくる葛藤。
    「えーと、オイラどこから突っ込めばいい?」
    「少年、言いたいことは解るが、譲れないモノというのは個人差があるからな。桜餅の葉っぱを食べるかどうかと言う問題で闇もちぃしたりと」
     このくんだりで急に桜花が明後日の方向を見るが、仕様である。
    「話を戻そう。君達がなまこモッチアの持つバベルの鎖に引っかからず接触出来るのは、優海の居たスイミングスクールの外にある駐車場になる」
     この時スイミングスクールではレッスンが始まっている為、駐車場に人気はないのだとか。そして午前中の為、明かりも要らない。
    「まず、このなまこ餅を進呈しよう。これを差し出せば、なまこモッチアが君達をスルーして立ち去ることはない。こちらが話をすれば、その話に耳を傾けてもくれるだろう」
     闇堕ちした一般人を救うには戦ってKOする必要がある為、戦いは避けられないのだが、人の意識に呼びかけ説得することで弱体化させることは出来る。
    「話しかけ、説得出来れば戦いは優位に運べる。試みる価値があると私は見る」
     尚、今回のケースの場合、自責の念と葛藤と空腹が原因なのでお腹を一杯にした上で愚痴に付き合うなり慰めてやればそれなりの効果があるのではないかとはるひは言う。
    「小学生でも大寒以前になまこ餅を入手出来る方法を提示出来れば完璧だな」
     ちなみに、戦いになるとなまこモッチアはご当地ヒーローと影業のサイキックで応戦してくる。
    「ただし、伸ばしてくる触手は影のかわりに自前のモノだったりするが」
    「うわぁ」
    「うん、あたし知ってた」
     引きつる和馬の横で遠い目をしつつ桜花は言い。「私は、優海の様に幼い少女を抱きしめたり頬ずりしたいとは思うが、故にダークネスなどにはしたくない」
     真顔で幼い子供好きとしての平常運転をやってのけた変態エクスブレインは、君達に頭を下げると優海のことをよろしく頼むと言ったのだった。


    参加者
    乾・舞斗(硝子箱に彷徨う者・d01483)
    天峰・結城(全方位戦術師・d02939)
    黒木・摩那(昏黒の悪夢・d04566)
    雪乃城・菖蒲(紡ぎの唄・d11444)
    四季・彩華(白き探求者・d17634)
    東屋・桜花(もっちもち桜少女・d17925)
    双海・忍(中学生ファイアブラッド・d19237)
    天草・日和(深淵明媚を望む・d33461)

    ■リプレイ

    ●モッチアとの遭遇
    「ナマコ餅と胡麻豆腐羽二重餅を間違えて闇堕ちとか……どちらもおいしいお餅だと思うんですが、許せない一線ってあるんですね」
     黒木・摩那(昏黒の悪夢・d04566)は駐車場の入り口からスイミングスクールの建物を見やった。
    (「なまこ餅は初耳でしたが、調べると色々な種類がありましたし。よもぎ、黒砂糖、みかん、青のり……」)
     摩那が脳内で見つけた種類をお復習いすれば、徐に口を開いたのは、天草・日和(深淵明媚を望む・d33461)。
    「なまこと付くからなまこでも使っているかと思えば、形状のことを言っていたのか」
    「あ、うん。形状だけの筈なんだけどね」
     これに鳥井・和馬(中学生ファイアブラッド・dn0046)が頷けば、雪乃城・菖蒲(紡ぎの唄・d11444)は東屋・桜花(もっちもち桜少女・d17925)を見る。
    「大好きな物への執着は分からなくもないんですが……毎度お餅さんは、大変な感じですね……色々と」
    「ツッコミどころが多いのも餅族の特徴かなぁ……」
     遠い目をする桜花は元モッチアにして四季・彩華(白き探求者・d17634)に心境でモッチアのスペシャリストと言わしめる人物。
    「まあ、それでも桜花ちゃんがいるし、大丈夫だろう」
    「今回は攻撃の盾……いえ、餌食もいますからね」
    「え゛」
     平然と言ってのける天峰・結城(全方位戦術師・d02939)にその盾が固まったりしたが、それはそれ。
    「それにしてもこのモッチアは随分簡単な理由で闇堕ちするのだな……」
    「冬の死因の……というと怒られそうですが、食べ方を間違えると死にますからね……餅は」
     ポツリと漏らした日和の呟きに桜花がもの凄い反応速度であさっての方向を見る中、乾・舞斗(硝子箱に彷徨う者・d01483)が口にしたのは、一つのフォローか。
    「何? 彼女だけが特別ではないだと!?」
     誰かに解説されて困惑した日和が声を上げるも、モッチアのスペシャリストはあさっての方向を向き続けた。
    「ここはお餅愛を引っ張って、完全に闇落ちしてしまう前に助け出してあげましょう」
     そう摩那が纏めるまで。
    「あ、来たようです」
     いや、単にそれだけではなかったのか。
    「もちゃああっ」
     双海・忍(中学生ファイアブラッド・d19237)の上げた声に灼滅者の幾人かが建物の入り口に人影を確認した直後に、ご当地怪人は飛び出してきたのだから。
    「うわ」
    「……手足の生えたナマコって、今までで一番ひどい姿かもしれないね」
     誰かが声を漏らし、精神的な何かが削られそうななまこモッチアの姿を目にした桜花は言う、が。
    「なまこ餅おいしいです」
    「な、なまこ餅もちぃ!」
     その一番酷い姿を間近で見る羽目になったのは、摩那の方が早かった。求めていたモノを美味しいと食べている所を見せつける形になったのだから急接近も無理はない。
    「まずは食べて落ち着こう?」
    「え? いいもちぃ?」
     なまこ餅を差し出す桜花にもご当地怪人は脊髄反射波の速度で反応してみせる。
    「あなた、いい人もちぃな」
    「なまこ餅に合うと思ったお茶を持ってきました。お餅を喉に詰まらせないようにお茶もどうぞ」
     受け取ったお餅をすぐさま口に運び、いい人認定するなまこモッチアへ忍はお茶を勧め。
    「あ、ありがとうもちぃ」
     感謝する様は、頭と一体の胴体さえ見なければごく普通の一糸纏わぬ少女に見える。
    「何というか、色々と危ない気もしますね。久し振りの……モッチア?」
     仲間とご当地怪人の交流を暖かく見守っていた舞斗は、うねうねと喜びの踊りを踊る輪状に生えた触手を見て首を傾げた。

    ●モッチアで合ってますよ
    「美味しいお餅を食べれないのは辛いですね」
     なまこ餅を食べつつ事情を語るなまこモッチアに理解を示した菖蒲は、季節品や行事物ならば尚更ですと続ける。
    「うん、気持ちはわかるよ。あたしも桜餅食べたい時に柏餅渡されたら……って思うとね」
     隣で頷く誰かがチラチラ触手に目をやるのは、体質柄警戒しているのか。
    「悪くない……な」
     同じモノを見てやや熱っぽい視線を送っている日和はおそらく放置で良いと思う。
    「それで堕ちちゃう可能性ゼロとはあたしは言えないし……」
     立ち話もあれなのでと忍が敷いたビニールシートの上。でもと続けたなまこモッチアの『先輩』は言う。
    「たとえ愛する餅が違っても、餅好きは仲間だよ?」
     と。
    「なかま……もち?」
    「譲れないものがあるのは分かるよ。けど、胡麻豆腐羽二重餅も美味しかったでしょう?」
     言われた言葉を反芻するご当地怪人へ仲間の後を継いで話しかけた彩華は問い。
    「っ」
    「それはその餅だからじゃない、くれた人の好意があるからだよ」
    「びっくりして喉に詰まらせちゃったとしても、厚意は嬉しかったんじゃない?」
     言葉に詰まったなまこモッチアの顔(推定)を彩華に続く形で桜花が覗き込めば。
    「べ、別にそんなこと……」
    「胡麻豆腐羽二重餅もおいしいですよ」
     ぷいと体を逸らしたご当地怪人へ横から摩那が口を挟んだ。
    「なっ」
    「腹ぺこは最高のスパイスといいます。胡麻豆腐羽二重餅と間違えたからと言って、ナマコ餅がまずくなるわけでもないですし」
    「そ、それはそうもちぃけど……」
    「むしろライバルたる羽二重餅も認めてあげるべきでしょう。ライバルと書いて強敵ともいいますし」
     驚きから我に返りつつも正論に反論出来ないなまこモッチアへ示されたのは新たな考え方。
    「とも……うう、何が何だか解らなくなってきたもちぃ」
    「仕方ない。此処は一つ、ドMたる私が忍耐の何たるかを体で示し……くっ、触手はまだか?」
    「あー、うん、解らなくなってきたって言うか一部カオスだよね」
     謎のスタンバイをする誰かをちらりと見た、和馬は頭を抱えるご当地怪人に頷く。感じる威圧感は減退し、一応説得は効いているようなのだが明らかにツッコミ待ちの態をした一角があり。
    「……お雑煮の準備とするともうすぐ……来年なんですね……」
     舞斗の呟きは、現実逃避なのか、それとも。
    「あ、まだなまこ餅残ってるもちぃ。いただきま――」
    「こんにちは、鼠谷さん」
     結城が声をかけたのは、頭を抱えていたなまこモッチアが、残っているなまこ餅に気付き、手を伸ばしたすぐ後。
    「な、何もちぃ? このなまこ餅欲しかったほちぃか?」
     若干挙動不審になった元少女に違いますよと首を振ると結城は言った。
    「その姿のままだと、なまこ餅を一人で買う事も出来ないですよ?」
    「えっ」
     突然訪れたトドメに、ご当地怪人は石化したかのように動きを止め。
    「そんなの嫌も」
     嫌もちぃとでも言おうとしたのか硬直が解けるなり叫びかけたなまこモッチアがまた固まる。
    「これは……」
     そして、結城の声が漏れた直後だった。
    「ぐううっ、余計なことをしてくれたもちねっ」
     ご当地怪人が明確な敵意を一同に向けたのは。
    「追い込まれてダークネスの方が表に出てきましたか……所で喉に詰まったお餅は良かったのですか?」
    「え? あれなら身体の構造が変わったお陰か、もうすっかり大丈夫もちぃ」
     戦いが始まる気配を察しつつも舞斗が問えば、一瞬きょとんとしたなまこモッチアはどんと人なら胸のある辺りを拳で叩く。
    「そうですか、最悪、掃除機が必要かとも思ったのですが、それは何よりです」
    「それは心配をかけたもちぃね、ごめんなさいもちぃ……じゃなくてぇ!」
     見事なノリツッコミであった。
    「いよいよですね……頑張って優海さんを助けましょう」
     戦闘直前の緊迫感が木っ端微塵に砕かれる中、忍は和馬に呼びかけ。
    「あ、うん。だよね」
     ツッコミに加わるか悩んでいた感のあった和馬は我に返ると忍へ頷きを返して前に出る。
    「ディフェンダー、お願いしますね。サービスシーンは大切ですし」
    「ちょっ、サービスシーンって何ーっ?!」
     結城へ叫び返すのも忘れない。
    「むーっ、こっちを無視してコントやるとか馬鹿にするのも大概にするもちぃ! いくもちよっ!」
    「さてさて……それでは、申し訳ありませんけどちょっと痛いでしょうが……暴走を止めないと行けませんし覚悟してください」
     一方で何やら激昂したなまこモッチアに菖蒲が応じ、戦いは始まったのだった。

    ●まあ、こうなるな
    「もちゃああっ」
    「いくよ、彩華。ToLOVEるフラグは叩き壊――」
     雄叫びを上げて突進するご当地怪人を前に、仲間へ呼びかけだ誰かが迎えうち、互いの距離がほぼゼロになった瞬間だった。
    「させんっ」
    「え」
     日和が桜花を突き飛ばして庇ったのは。
    「さぁ、来い触ん゛」
     結果、ぶわっと花開くように広がった触手が日和を絡め取り、なまこの口が腰辺りまでを飲み込んだ。きっと影喰らいもどきなのだろう。
    「あ、日和姉んぶっ」
    「にゃーーっ?!」
    「桜花ちゃ、ちょっ」
     同じく仲間を庇おうと前に出ていた某少年に弾き飛ばされた元モッチアのもっちあ(名詞)が激突し、ピンボールの玉の如く角度を変えた桜花を受け止めようとしたが軌道の変化に対応出来ず押し倒される。
    「わ、わざとじゃないから…………!?」
     下になった彩華が顔をもっちあ(名詞)に埋める形でもがくが、捕食されかかってピクピク痙攣してる日和を含めて絡み合っているせいか、抜け出すのは、厳しいらしく。
    「顔押し付けないでっ、息がくすぐったいっ?!」
    「ご、ごめーん!?」
     開幕からある意味で全開だった。
    「あまり子供を殴るのは気が進みませんけど……このまま放置と言うわけにはいきませんからね」
    「あ、うん。言ってることはもっともだけど、別の意味でも放置出来ないよね、アレ」
     トランプのスートを胸元に具現化させる結城へ誰かが同意するが、本当に酷い状況である。
    「天草さんっ」
    「ん゛もべっ」
     高速で菖蒲が振り回したウロボロスブレイドにご当地怪人が斬り裂かれたはずみで唾液まみれの日和が吐き出され。
    「これ以上はやらせませんよ」
    「もちゃ、くっ」
    「とりあえず……癒やしますね」
     足止め以前に自分達から向かって行っちゃった面々への追い打ちを防ぐべく舞斗が影を伸ばし絡み取れば、忍はビハインドのうつし世はゆめへ顔をさらさせ、唾液まみれで横たわる誰かへ癒しの力を込めた矢を放つ。
    「うぐぐ、この程も゛っ」
     一方で、影の触手に絡み取られたご当地怪人は振り解こうともがいたところをライドキャリバーのサクラサイクロンに跳ね飛ばされ。
    「あ」
     落ちてきた先にいたのは、餅を小さく切って食べていた摩那。
    「そう言えば戦闘中でしたね」
    「いや、戦闘中って何でお餅食べもぢゃああっ」
     眼鏡の位置を調整するなり、ツッコもうとしたなまこモッチアは逆に黒槍で突かれ悲鳴をあげる。
    「一度にたくさん食べるのは喉詰まりの元! そんなときは飲み物で流し込みましょう」
     その一方で、螺穿槍を繰り出した摩那は空いた手にお茶を持ちずずずと啜り。
    「ふぅ、唐辛子味がピリッと効いてておいしいです」
    「何故でしょうかね……戦いの最中でしたよねと確認したくなるのは」
     間食しつつ戦う仲間に空を仰いだ灼滅者が居たとか居なかったとか。
    「はぁ、ようやく抜け出せた。いくよ、彩華」
    「あ、うん」
     だからこそ、ここから仕切り直すつもりだったのだろう。もつれていた二人は再度ご当地怪人へしかけた。
    「もべっ」
    「逃がさない」
     雷を宿した彩華のアッパーが浮かせたなまこの胴体を元モッチアが抱えあげる。
    「ぐ、ぎ、ただでやられないもちぃぃ」
    「え」
     ただ、そのまま叩き付けられるを良しとしなかったなまこモッチアは触手を伸ばし。
    「うつし世はゆめ、皆さんを」
    「っ、桜花姉ちゃ」
     指示を受けたビハインドと何処かの少年が盾になるべく割り込んで、事件は起きた。誰かが犠牲になったのだ。
    「はぁ、はぁ、思い知った、もちぃばっ」
     触手に絡みつけた犠牲者をぶら下げつつよたよたと身を起こしたご当地怪人は、最後まで言い終えるより早く、クロスグレイブで殴り倒され。
    「何をしている、何故私を差し置いて他の者を触手責めにしたぁっ!」
    「な、何を言おぼっ」
     理不尽な怒りに曝されたなまこモッチアは反論しようとして舞斗の影に呑まれる。
    「……どこからツッコめば良いんだろう、あれ?」
    「さあ? とりあえず、治療しますね」
     引きつった表情で見つめていた和馬に首を傾げて見せた忍は帯で味方を覆って傷を癒し。
    「これ以上はさせません」
    「もちゃべっ」
     菖蒲の射出した帯に貫かれ、ご当地怪人は悲鳴をあげる。カオスな戦いは尚も続いたのだ。
    「ぐ……まだ、戦えるもち」
     尤も、説得で弱体化している上、多勢に無勢。二分も経過すればズタボロになりつつも身構えようとするなまこモッチアが限界を向かえて居るのは誰の目にも明らかで。
    「犠牲者がこれ以上増える前に畳みかけますか。もうサービスシーンも充分でしょうし」
     結城は言う。
    「ん、んん!? や、やめて……!? ど、どうしてこうなるんだよ……!?」
    「ちょ、ちょっと、どこさわってるのーっ?!」
     触手に絡み取られた犠牲者+1を横目で見てから。尚、密着した誰かのどこをどんな感じで彩華がもっちあ(動詞)しているかはご想像にお任せする。
    「そ、その前に一言いいもちぃか? あの触手、私のじゃなくてそっちの姉ちゃんが回ふ」
    「一理あるな。いくぞ! 言いたいことは解る。だが、いくら好物とは違っていても、闇堕ちする程の事か!」
     何か言いかけたなまこモッチアの台詞を遮って背中に「お残し絶許おばちゃん」をゴゴゴと背負いつつ一喝したのは果たして誰であったか。
    「ちょ、全然解ってな」
    「……何? 闇堕ちじゃなくて闇もちぃ? そ、そうか」
    「いや、闇もちぃけど、そんなこと言ってないもべばっ」
     困惑する日和に尚も食い下がろうとしたご当地怪人は炎を宿した一撃に叩き伏せられ。
    「こ、こんな……こんなのって……」
     砂を付けた身体を起こしながらなまこモッチアが顔を上げると、そこには居た。
    「美味しかったし、人の優しさにも触れられた。なら、食べたいなまこ餅を美味しく食べる為にも、その闇を振り払おう?」
    「ちゃんと戻って、お礼言わないとね」
     テイク何度目か、今度こそ綺麗に決めようとする二人組が。
    「嫌もちぃ、こんな、こんな終わり方ってなべばっ」
     悲痛な声も繰り出された一撃に途中で断たれ、哀れなまこモッチアはポテッと倒され、人の姿に戻り始めたのだった。

    ●救出完了?
    「さて」
     ブランケットを抱えた菖蒲は、駐車場の一角へゆっくり歩み寄る。
    「……何となくそんな気はしてたんだよね、オイラ――」
     そこにいたのは、車止めに腰を下ろし遠い目をする一人の少年。
    「……ディフェンダーは、身を呈してくれた……そう、それだけなんです」
     いい笑顔だった、菖蒲が和馬を見る顔は。
    「……とりあえずこれを羽織って下さい」
    「え? あ、ありがとう」
     寒いですしと続けて差し出されたブランケットを和馬は受け取り。
    「通販で買ったなまこ餅ですけど、よかったらどうぞ」
    「いいでちか?」
     荷物のなくなった菖蒲が見るのは、手にしたなまこ餅を渡そうとする忍と驚きに目を見張りつつも、視線がなまこ餅から離せなくなっている少女の姿。
    「販売元もよかったら、教えますよ」
    「ぜ、是非教えて欲しいでち!」
     なまこ餅が大好きな少女なら、忍の提案を拒否出来るはずもない。
    「お餅が好きなら、あたし達の通ってる学園に来てみない?」
     即座に食いついてきた少女との会話に今度は元モッチアの先輩が加わり。
    「桜花ちゃんなら、安心……かなぁ?」
     平手の痕が残る彩華が首を傾げたのは、足下にある車止めに嫌の予感を覚えたから。
    「学園でちか?」
    「そう。あたしはお餅が好きな仲間とお餅屋さ、あ」
     問いかけに頷き補足説明をしようとしたところで、躓いたのはもはやお約束なのだろうか。
    「みゃあぁぁ」
    「あはは、やっぱりこうなっ」
     最後まで言い終えるよりも早く、悲鳴をあげた誰かが倒れ込み。
    「むぎゅう」
    「ご、ごめん。大丈夫……って、ごめん」
     巻き込まれた彩華はスクール水着に包まれた少女の胸と元凶のもっちあ(名詞)の間から慌てて頭を引き抜く。
    「くっ、出遅れた」
    「えーと」
     相変わらずのとらぶる展開力を見せつける元モッチア達を前に、何故か両手両膝を地に突き項垂れる日和を和馬は形容しがたい表情で見つめると、あまりの混沌さに、とりあえず考えることを止めた。
    「お、重いでち! 苦しいでち! 助けるでち!」
     とりあえず、少女は救い出せたのだ。何だかまた悲鳴をあげてる気もするけれど。


    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年11月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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