集結する光の軍勢~三度目の邂逅は

    作者:緋月シン


    「……ふぅ。やれやれ、もう少し、か……?」
     自分の思考を整理するように呟いてみるも、時折視線を後方や上空に向けてしまうのは、もう癖のようなものなのだろう。
     今更何を取り繕おうものでもないのだろうが、そのことにふと気付き、男は随分と軟弱になってしまったものだと自嘲の笑みを浮かべた。
     だがそんなことを考えることが出来るのも、こうして生きているからである。
    「ならばいつかはまた――」
     それがそこに現れたのは、その瞬間のことであった。
     一言でそれを言い表すならば、まばゆい光、とでも言うべきであろうか。唐突に眼前に現れたそれに対し、男は咄嗟に構えようとするも……その光を正面から見た瞬間、上げかけた腕を即座に下ろす。
     どころか、踵を返すとその場から歩き出した。
     その姿に先ほどまであった怯えはない。それどころではないからだ。
     そんなことよりも、今は一刻も早くタカトの為に動かなければならないのである。
     そのことに対して男が疑問を浮かべることはない。当たり前のことを当たり前にするのに、疑問など覚えようがないからだ。
    「ふむ……とはいえ、さすがに歩いていったら時間がかかりすぎるか」
     と、その場で周囲を見渡すと、男はちょうどいいものを見つけたとばかりに目を細めた。眼前を走り行く、複数の車である。
     男はそのうちの一台、今まさに目の前を通過しようとしているそれに目をつけると、そのまま地面へと拳を叩き込んだ。衝撃によって車の真下の地面が爆ぜ、そのまま二回、三回と横転し、強制的にその場に止めさせられる。
     何が起こったのか分からずに、運転手は軽くパニックに陥るが、そんなことは気にすることもなく、男は車へと近づくとドアを強引こじ開け中に乗り込んだ。
    「新宿橘華中学へと向かえ」
     突然のことに咄嗟に文句を言おうとした運転手であるが、男の眼光に怯み、恐怖に怯えながらも車を発進させる。
     そうして男――豪真という名のアンブレイカブルを乗せた車は、その目的地、新宿橘華中学へと向かっていくのであった。


    「さて、光の少年とクロキバとの戦いに関する顛末が報告書として上がっていたけれど、既に皆は目を通したかしら?」
     そこで一旦言葉を区切ると、四条・鏡華(中学生エクスブレイン・dn0110)はその場を見回した。それから、話の続きを始める。
     件のことに関しては、結論から言ってしまえば大殊勲を挙げられたと言っていいだろう。クロキバを討ち取る事に成功したことにより、白の王セイメイの計画に致命的なダメージを与える事が出来たはずだ。
     また、最後に正気を取り戻したクロキバは、自分が灼滅された事で、新たなクロキバの継承者が出現すると言い残している。クロキバを継承する者が誰になるかは判らないが、十分過ぎる戦果だ。
    「ただし、いいことばかりというわけではないわ」
     クロキバを失った白の王の弱体化により、白の王と敵対していた、光の少年『タカト』達の積極攻勢にも繋がってしまったようなのである。
     タカトは拉致したラブリンスターを利用し、多くのダークネスを無差別篭絡術を利用して配下に組み入れようとしているのだ。
     おそらく、集結させた軍勢を利用して、何か大きな作戦を行おうとしているのだろう。
    「けれどタカトの力なのか、この作戦についての予知は断片的で、全てを阻止する事は難しいわ」
     だが武蔵坂学園に関わった事があり、なんらかの『絆』があるダークネスについては、かなりの確率で予知する事が可能なようである。
    「今回皆に頼みたいのは、かつて武蔵坂学園と関わり、今また光の軍勢に加わろうとしているダークネスの灼滅よ。ここで戦力を減らすことが出来なければ、タカトを阻止する事ができなくなるかもしれないわ」
     かつて関わった、とは言え、今回皆に灼滅に向かってもらいたいダークネスと関わったのはそれほど昔のことではない。というよりも、関わったのはつい先日だと、そう言ってしまって構わないだろう。
    「そのダークネスの名前は、豪真。……覚えのある人もいるかもしれないけれど、先月と先々月に、羽虫型ベヘリタスから助けたアンブレイカブルよ」
     どうやら軍艦島と合流しようとしている最中のところで、タカトの方に取り込まれてしまったらしい。
    「タカトの横槍がなければ無事合流出来ていたのでしょうけれど……まあ、言っても仕方のないことね。……思うところもあるかもしれないけれど、割り切るしかないわ」
     豪真と接触可能なタイミングは、豪真が移動のために車を止めた直後になる。車に乗り込もうとする前に割り込み、運転手を救出した後、或いは救出しながら戦闘をする、といった感じとなるだろう。
    「先ほども言ったけれど、ここでタカトの戦力を減らすことが出来なければ、今後厳しい状況に陥ってしまう可能性があるわ。……もっとも、どっちにしろ何か嫌な予感はするのだけれど」
     ともあれ、よろしくお願いと、そう言い、鏡華は灼滅者達を見送ったのであった。


    参加者
    犬神・沙夜(ラビリンスドール【妖殺鬼録】・d01889)
    神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914)
    遠間・雪(ルールブレイカー・d02078)
    カリル・サイプレス(京都貴船のご当地少年・d17918)
    ルフィア・エリアル(廻り廻る・d23671)
    足利・命刻(ツギハギグラトニー・d24101)
    神之遊・水海(秋風秋月うなぎパイ・d25147)
    比良坂・柩(がしゃどくろ・d27049)

    ■リプレイ


     豪真が車のドアへと手を伸ばすべく動き出したのと、その腕が後方へと振り抜かれたのはほぼ同時であった。
     直後に鈍い音が響き――だがその眉が顰められたのは、拳に伝わった感触が想像していたそれと異なっていたからだ。
     振り返った先では、それを肯定するかの如く健在のままの少女が一人
     犬神・沙夜(ラビリンスドール【妖殺鬼録】・d01889)である。
     ただ、沙夜にとっても、その状況というのは不本意であった。本来であれば、そのまま車から引き離す予定だったのである。
     だがそれを認識した瞬間の、沙夜の反応は早かった。即座に後方へと飛び退き――一瞬の差で、豪真の拳が空を切る。
     しかし即座に地を踏み締め――だがそこに来たのは、沙夜一人ではない。
    「武蔵坂推参なの!」
     代わるように現れたのは、神之遊・水海(秋風秋月うなぎパイ・d25147)である。豪真の前ではこれで三度目となる、縁ある言葉と共に、その拳を叩き込んだ。
     だがある意味で予想通りと言うべきか、それによる豪真からの反応は特になかった。代わりとばかりに向けられた拳をかわしながら、一旦後方へと退き……直後、影が一つ歩を進める。
    「久しぶりだね、豪真。預けた手紙はちゃんと届けてくれたかな? ……なんてね」
     比良坂・柩(がしゃどくろ・d27049)だ。
     だがその言葉に対する反応も、やはり薄い。構わず動き出し――しかしそこに、さらに言葉が投げられた。
    「一つお聞きしたいのですが……豪真さんの目的は業大老さんの元へ参じる事ではないのですか? タカトさんの元へ行こうとする事に疑問は感じませんか?」
     カリル・サイプレス(京都貴船のご当地少年・d17918)だ。
     だがその返答は、拳で以って行なわれた。問答無用で振り抜かれたそれをカリルは慌ててかわすも、豪真は即座に足へと力を込め……そのまま踏み出すことがなかったのは、直後に糸が訪れたからだ。
     沙夜の放ったそれをかわしながら、豪真もまた一旦仕切り直すかのように後方へと飛び退く。着地し――だがそこで舌打ちをしたのは、ようやく今の攻防の意図を悟ったからだろう。先ほどまでそのすぐ傍にあったはずの車は、とうに走り去っていた。
     反射的に車の去っていった方へと視線を向け、だがそれを阻むように、車の運転手に逃げるよう促していた足利・命刻(ツギハギグラトニー・d24101)が立ち塞がる。
     さらにはルフィア・エリアル(廻り廻る・d23671)と神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914)も、その行く手を遮るため、囲うように立つ。
     その間に他の皆も近寄っており……それを確認した豪真は、再度舌を鳴らした。
    「貴様ら……一体何のつもりだ?」
     苛立ちが声になったようなそれに応えたのは、水海だ。用件は単刀直入に。
    「タカトの元に行きたければ私たちを倒して行きなさい!」
     それだけを告げた。
    「ふん……まあいい。貴様らが何を企もうが、俺の知ったことではない。邪魔するというのならば、叩き潰すまでだ」
     そのことに皆も依存はなく……そも、そのつもりで来た以上、あるはずもない。
    「戦うしかないのなら、望むところだにゃ!」
     遠間・雪(ルールブレイカー・d02078)も機甲斧槍【スワンチカ】――その手に持ったハルバートを大きく構える。何処か気楽な様子ながらも、臨戦態勢を整え――。
    「足利流威療術、臨床開始!」
     命刻の言葉を合図にするが如く、瞬間、双方がほぼ同時に激突した。


     戦闘開始直後、真っ先に豪真とぶつかり合ったのはルフィアであった。
     自身の腕を異形巨大化させると、一足飛びにその元へと踏み込む。至近からその顔を眺め……ふと思ったのは、ツキの無い奴だ、ということであった。
     ――2度あることは3度あるとは言うが……まあ、どう転ぶかね。
    「心を荒らされ、追っ手に追われ……そして最後は心をねじ曲げられ、偽りの主の狗になる……か。何というか、絵に描いたような転落人生じゃ無いか。せめて散るときくらい、自身を取り戻せるといいな」
     そんな思考と言葉と共に拳が振るわれ、迎え撃つのは、それと比べれば小さい拳だ。鈍い音が響き――だが打ち勝ったのは、小さい方であった。
     もっとも、互いの力量を考えれば驚くようなことでもない。その状況に拘泥することもなく、ルフィアはあっさりと腕を引いた。
    「仲間が2度助けた相手にトドメを刺す役目が回ってくるとはなんとも良い趣味……なかなかのシチュエーション…………いや、一応皮肉な結果と言っておこうか。ともあれ、タカトとやらのやっていることは邪魔しないといけないらしいのでな」
     言葉を残しながらそのまま身体ごと後方へと退き、しかし当たり前のようにただでは退かない。
    「ま、悪く思うな。全力でいくさ」
     代わるように放ったのは、Proof of 7.D.C[code:H]――射出された帯が、ルフィアを追おうとしていた豪真へとカウンター気味にぶち当たった。
     衝撃によって豪真の足が僅かに止まり、その隙を逃さず柩が飛び込む。
    「キミの今の状態は、キミ以上に知っている。もしかしたらボクたちは既に決まっていた結末を引き伸ばしただけに過ぎないのかも知れない。ここで終わらせてやるのも慈悲なのだろう」
     そのまま懐まで踏み込むと、柩もまたその異形巨大化した腕を握り締める。引き絞り――。
    「だけど、もしこれが『絆』というのなら、それがどこまで続くのか確かめてみるのも悪くない。キミが死ぬというのなら、自らの意思に殉じて死ぬべきだ」
     言葉の直後、響いたのは、先ほどと同じように鈍い音。ただしその拳に伝わったのは、確かにその身体を捉えた感触だ。
    「ところで一つ尋ねたいんだけど、ベヘリタスの卵を植え付けたタカトにキミは何故従っているんだい?」
     さらに反応を確かめるための言葉を放つも、やはりと言うべきか返ってきたのは拳。
     後方に飛び退き、入れ替わるように命刻が前に出た。
    「せやな。タカトはベヘリタスと組んでるんやで? ベヘリタスに襲われた事、もう忘れたんか?」
     語り掛けながら振るうのは、医療用の鋏に似た形状のそれだ。
    (「絆を利用して、ここまで大規模な籠絡術を展開するなんて……あっという間に『タカト軍』の出来上がりってわけやね」)
     その姿を眺めながら思い、伸ばされた腕を掻い潜る。
    「そもそも、軍艦島にまっすぐ向かうんとちゃうの?」
     すれ違いざまに斬り裂き――。
    「そうね。あんたが合流したいのは本当にそっちだったのかしら?」
     続き、明日等が言葉を重ねるも、変わらぬ動きに小さく息を吐き出す。
    (「本当に見境なく篭絡されていくのね……ラブリンスターが使っていたらもっと厄介な事になっていたのかしら」)
     そんなことを思いながらも、その手に握る槍を振るう。
    「そう……止まらないなら容赦はしないわ」
     氷塊を放つのに合わせてリンフォースが猫魔法を放ち、それとほぼ同時にカリルが前に踏み込んだ。霊犬のヴァレンと合わせ、地を蹴る。
     流星の如き煌きと剣閃を叩き込みながら込めるのは、豪真の意志が曲げられていることも何とかしたい、という思いだ。
     故に。
    「タカトさんのような人に、武人の誇りを利用されていいのですか!? 命を助けた方との約束や、自分の意志を無視して操られていることに、どうか気付いてください!」
     少しでも正気に戻る事を願い――瞬間、その瞳が自身を捉えたのを自覚した。
     だがそれは正気に戻ったということではなく、握り締められた拳が、その身体へと向かって放たれる。宙に浮いている以上、それをかわす術はなく……しかし、それがカリルの身に届くことはなかった。
     霊犬のバクゥが、直前に割って入ったからだ。
     とはいえそれは拳を受ける対象が変わっただけであり、身を以って防いだその身体が、吹き飛ばされる。
     だが豪真はそれに舌打ちを漏らした。周囲を見回し――。
    「先ほどから、貴様らは一体何を言っている? そもそも、貴様らは一体何者……いや、例え何であろうと、戯言諸共叩き潰せばいいだけか」
     その目を見、言葉を受け、沙夜はなるほどと頷いた。とりあえず分かったのは、豪真はこちらのことを覚えていない、ということである。
     そして分かったことはもう一つ。それは、正常な判断力を有しているということだ。
    (「考え方事体をまったく別の物に挿げ替えられた、と見るのが正しいでしょうか。……本人にその自覚が無いと厄介ですね。その持続時間も効果の強さも不明。面倒な能力が敵側に渡ったものです」)
     思いつつ、豪真へと指を動かし、鋼糸を放つ。
     本当は沙夜も問いかけてみようかと思っていたのだが……先ほどまでの様子を見るに、無駄だろう。
     最初から有効な回答が得られる可能性は低いと思ってはいたが、あれでは揺さぶりにすらなりそうもない。
     まあ、だからといってやることに違いはなく――。
    「貴方がどうなろうと知った事では無い、それは変りません。ですが貴方を助けようと力を尽くした者もいれば最後まで身を案じた者もいた。貴方にとっては関係ない事でしょうが、それだけに残念です」
     それでも放った言葉と同時、その身体へと鋼糸を巻き付ける。
     とはいえそれは即座に抜け出されてしまうだろうが――次の一手には十分だ。
    「バクゥ、必死に頑張るにゃ!」
     雪のその言葉に応えるように、緑色の炎を纏った身体が前に出、雪も負けじと踏み込む。
     放たれた六文銭に合わせ、雷を纏った拳を握り、一歩。ぶち込んだ。
     衝撃によって豪真の身体が僅かに後ろに下がり、そこに水海が飛び込む。
     正直なところ、水海の予想とは豪真の様子は違っていたのだが、どっちにしろ今までと違い会話は成立しないだろうと思ってはいたので、大した違いはないとも言える。
     そして何にせよ、結論は一つだ。
     ――キュア(物理)で殴り倒す。
     それだけである。
     ただ、思うところがないと言ったら、嘘になるだろう。
     本来水海と豪真は、水と油だ。
     でも。
     ――打倒タカトを点に、唯一交わることができたかも。
    「どっせい!」
     そんな思いをありったけ込め、異形巨大化した腕で以って全力でぶん殴った。


    「ふむ……やったか?」
    「そこ、わざわざフラグを立てないように」
     適当に呟いた言葉にツッコミが返ってきたことにルフィアは何処か満足そうに頷きながらも、豪真の倒れている場所を眺め首を傾げた。
     地面に叩きつけられた豪真は、そのまま動き出すことがなかったのだ。さすがに今ので倒せたとは思えず、どういうつもりなのかと訝しむ。
     しかしそんな思考を余所に、豪真がようやくといった感じで起き上がった。
     が、そこで皆が即座に動き出さなかったのは、何処となく違和感を覚えたからだ。
     特に、こちらを見るその目が何か――。
    「っ……ふん、どうした、怖気づいたのか? まあ、それならそれで、構わんがな。ならば俺はこのままお前達を叩き潰すまでだ。俺の目的を果たすために、な!」
     言うや否や、豪真は一足飛びに踏み込んできた。
     そこには容赦がなければ、遠慮もない。当たり前だ。敵を相手にして、どうしてそんなものが必要だというのか。
     その勢いのままに拳を振り抜き――直後に響いたのは、甲高い音であった。
     その先にあったのは、一振りの剣――それを手にした、柩だ。込められた力をしっかりと受け止め……ふと、思う。
     或いは……そう、或いは。先日軍艦島を調査した際に、道案内として確保する、というようなことを試みていれば、また違った道もあったのだろうか、と。
     だがそこまでを考え、その思考を否定する。重要なのは、結果として今この時があるということ。それだけだ。
     さらに押してこようとする豪真に対し、柩は敢えて力を抜いた。剣が押され、だが受け流すようにして、踏み込む。
     刃が滑り、直後に非物質化したそれが振り抜かれた。
     斬り裂かれた霊魂にその身体がふらつき、合わせ飛び込んでいたのはルフィア。
     殴りつけると同時に魔力を流し込み、先のそれとは違う意味でその内側から爆ぜる。
     しかしその目は未だ死んではおらず、構わず振り抜かれた拳がルフィアの身体を捉えた。吹き飛んだそれを追うべく動き、だがそれより先に割って入る影が一つ。
    「鬼さんこちら~にゃ!」
     雪だ。
     高速移動したその勢いのまま、ラリアットでその身体を薙ぎ払い、バクゥが合わせて斬り裂く。
     その間にカリルが指先に集めた霊力をルフィアへと撃ち出し、さらにヴァレンが牽制とばかりに六文銭を放つ。
     そしてその隙に踏み込んでいたのは、沙夜。
     影を宿しながら、殴り飛ばした。
     直後、豪真がその身を震わせたのは、何が理由であったのか。
     だがそれを知る術はなく、また意味もない。
     気が付けばその目も元に戻っており……そのことの意味に唇を噛み締めながら、命刻が飛び込む。
    「紅蓮の穂よ!」
     手にした炎の槍を叩き込み、その衝撃によって豪真の身体がよろめいたところを、逃さず明日等が捉えた。
     リンフォースの猫魔法が合わせて放たれ、突き出された槍は螺旋の如き捻りで以って穿ち、その身を貫く。
     だがそれでも豪真は耐え――しかしその時にはもう水海が迫っていた。
     振り抜かれた拳はかわせるタイミングではなく、またそれを許すつもりもない。
     衝撃は一瞬。だがそれで終わりではなく、流された魔力が、直後に爆ぜる。
     力の抜けた身体は、今度こそ堪えることも出来ず……そのまま地面へと、倒れこむのであった。

     動かなくなった豪真の姿を眺めながら、水海は溜息を一つ吐き出した。
    「一回目の邂逅でアンブレらしく死闘の果てに尽きて欲しいと思い、ベヘリタスから助けたけど……まさか自分たちが彼に終止符を打つだなんてね」
     ちょっとブルーな気分なの、と続け、再度溜息を吐く。
     と、そこに言葉を掛けたのは、雪だ。
    「どうにもならないこともあるにゃ。ならもっと前向きに考えるにゃ♪」
     無駄にいつも通りのハイテンションな様子に、つい苦笑めいたものが漏れる。
     だがそれは、ある意味では正しいのだ。事実ではあるし、タカトの戦力を削れたことも、間違いはない。
     ならば、そのことを喜ぶのもまた、間違いではないのだろう。
     まあ、実行できるかどうかは、別ではあるが。
     ともあれ。
     そうこうしている間に、周囲の片付けが終わった。明日等は同時に周囲の警戒もしていたようだが、それ以上の何かが起きる様子もない。
     引き上げを始め、命刻も続き――ふと、足を止めたのは、視界の端に見覚えのあるものを見つけたからだ。
     だが直後にそれは風に攫われると、舞い上がり、あっという間に飛んでいってしまう。
     命刻はその行方を、追うことはしなかった。最後にもう一度だけ豪真へと視線を移すも、すぐに前に戻す。
     そして一つだけ息を吐き出すと……皆の後に続き、今度こそ歩き出すのであった。

    作者:緋月シン 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年11月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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