●
「……外に出たくない……灼滅者怖い……ダークネス同士の抗争も怖い……」
とあるノーライフキング、これでも白の王セイメイの配下である。大体収集される度に理由をつけてはなるべく出ないようにしていた、要するにチキンなノーライフキングである。もっともダークネスである以上それなりに暴れてはいるのだが。
「……ん?」
そんな毎日を過ごしていると、目の前にまばゆい光がふっと現れる。それをぼうっと見ていたノーライフキングが一言。
「……働かなきゃ。これからダークネスとしてきちんとしないと。就職先は……『新宿橘華中学』か」
ちょっと変なノーライフキングは光に導かれて迷宮の外に出る。
「ベヘリタスの卵の事件で暗躍していた光の少年と、アンデッド化して白の王の配下になっていたクロキバ。この二つの戦いに介入した灼滅者がクロキバを灼滅できたみたいなんだ」
有明・クロエ(高校生エクスブレイン・dn0027)が集まった灼滅者達にまずは近況を説明する。
「これでセイメイに大きなダメージを与えたことができたんだ、あと正気に戻ったクロキバが次のクロキバが出ると言ったとか。色々あるけど大きな成果なんだ。なんだけど……」
ここでクロエが彼らを集めた理由を説明する。
「敵の居なくなったタカトが積極的に動き始めているんだ。手に入れたラブリンスターの無差別篭絡術を使ってたくさんのダークネスを配下に入れようとしてるみたい。多分なにか大きなことを起こそうとしているんだと思う」
そのダークネスを集める行為全てを止めることは難しいらしい。
「だけど少しでもボク達が関わった事がある相手なら『絆』とかで予知することが出来るみたいなんだ。……そこで皆にはそういう相手を合流する前に倒して欲しいんだ。ここで倒せるだけ倒しておかないとタカトを止められなくなるかもしれない」
クロエはそう言うと灼滅者達に倒すべき相手を説明する。
「みんなに倒してほしいのは白の王配下のノーライフキング。……結構離れてても『絆』って有効みたいだね。それはともかくそんな相手なんだ。何故かスーツを着て山の中を走るバスに乗ってるから、そこを襲撃して。……別のお客さんや運転手さんも5・6人乗ってるからその人達が巻き込まれないようにしてね」
とりあえずまずはバスを止める所から始めるといいだろう。
「戦闘になったらエクソシストとバトルオーラのサイキックで攻撃してくるよ。ポジションはクラッシャー、なんか妙にやる気みたい」
幸いにして配下もいないのでノーライフキングとしては楽に戦える部類のようである。油断すべきではないが。
「とにかく確実に倒してきてね、なにか胸騒ぎがするんだ。それじゃ頑張ってきて、行ってらっしゃい!」
参加者 | |
---|---|
凪・辰巳(蒼の唱剣士・d00489) |
墨沢・由希奈(墨染直路・d01252) |
由津里・好弥(ギフテッド・d01879) |
銀夜目・右九兵衛(ミッドナイトアイ・d02632) |
風華・彼方(小学生エクソシスト・d02968) |
炎導・淼(ー・d04945) |
神西・煌希(戴天の煌・d16768) |
セレス・ホークウィンド(白楽天・d25000) |
●
山の中、色づいた葉もそれなりに落ち始めて道路に散らばっている。そんな季節の移り変わりを窓ガラスに写して、バスは踏ん張りながら走る。
「……ん?」
老齢の運転手が道路の先にあるものを見てゆっくりと速度を落とす。このバスの運行ルート上に山崩れでもあったのか、倒れた木々や岩が転がっており、誘導灯を持った青年が立っていた。
「すいませ~ん。急遽通行止めになっちゃったんですよ~」
その青年は凪・辰巳(蒼の唱剣士・d00489)である。そんな事情を話している間に他の灼滅者達が一斉にバスの扉を開けて突入する。
「うひぇええ、あかんわァ、怖いわァ、逃げなー! 皆も逃げまひょ、こないなとこにおったら死んでまうー!」
真っ先に突入しておいてかつ闇纏いをしていた銀夜目・右九兵衛(ミッドナイトアイ・d02632)がさも最初からいたように叫ぶ。
「えー、なんだってー?」
「ほら婆さんも逃げなって、バスジャックやって」
「降りられた方はバスの後方にお願いしまーす」
そんな一幕もありつつ、一般人は辰巳の誘導や神西・煌希(戴天の煌・d16768)の殺界形成もあってさっとバスから降りていく。その時間は仲間達が稼いでいた。
「よお。そんなに急いでどこへ行くんだ?」
「え、な、何!? これ就職試験!? それとも集団圧迫面接!? へぶっ!?」
セレス・ホークウィンド(白楽天・d25000)に小突かれてノーライフキングは頭を揺らす。
「で、このバスは新宿橘華中学行じゃねーからな?」
「し、調べたから知ってるさ! ちゃんと乗り換えしないと行けないことくらい!」
「その新宿橘華中学ってどこ?」
「それは新宿に決まってる」
「じゃあ新宿のどこ?」
「……え?」
炎導・淼(ー・d04945)と風華・彼方(小学生エクソシスト・d02968)の問いかけにノーライフキングは押し黙る。その姿を一般人退避の手伝いをしていた由津里・好弥(ギフテッド・d01879)が生温い表情で見ていた。
「ンな狭い所じゃなくてよお、存分に闘えるトコで俺らとやろうぜぇ!」
「バスを壊せば、就職説明会に遅れちゃうよ?だから、どうせ戦うなら外でやらない?」
煌希と墨沢・由希奈(墨染直路・d01252)の言葉に『え、ええ、はい』と慣れない口調で返事をしてノーライフキングはバスを降りた。
●
「……で、面接官の方ですか」
どの世の中にダークネスを面接する灼滅者がいるというのか。外に出た彼はこれから戦うはずなのに、どうにも緊張感が欠けている。
「……えーと、ノーライフニート、はんやっけ」
「に、ニートちゃうわ! いえ、ニートじゃありません」
取り繕った敬語でノーライフニートは右九兵衛に答える。
「……さっきから思っていたんだけどよ」
「は、はいなんでしょう!」
「スーツ着慣れてないだろ」
淼の問いかけにノーライフニートは、痛いところ突かれた的表情をする。なおまだサイキックは一度たりとも放たれておりません。
「スーツ姿は似合うが着られてるように見えるぞ」
「ううっ、やっぱり急ぎで作ったのはダメだったんでしょうか……」
セレスの言葉に更に窮するノーライフニート。セレスの鋭い目には明らかに能力的に自分たちより上のはずなのだが。
「……なんか調子狂う相手だな、おい……」
煌希はげんなりした顔を浮かべる、少しばかり相手も戦う気を見せないとこちらからもやりにくい。彼の隣でニュイも少しばかりため息をついた。
「就職活動は大事だと思うけど、就職先は斬新コーポよりブラックじゃないかな!」
「いえ、あんなブラックな所気付いたら潰れてましたし、今度こそはと思い伺いました!」
由希奈の言葉にノーライフニートは首を横に振った。なんか目がそれこそブラックな所のホームページに出てる人に似ている。
(「それにしても、タカトが使ったって言うラブリンスターの洗脳の力ってすごいね」)
彼方の目の前のノーライフキングは本来は相当な臆病者だったのだろう。それがこのように妙な立ち振舞をするというのは凄まじい影響力としかいえないだろう。
「あ、あのところで、次の試験のために面接の結果をお聞きしたいのですが……早く新宿へ行かないと」
「うどんで首吊れば?」
「酷っ!? ご当地怪人の友達もいないボッチにそんな心無い言葉を!」
好弥はそっけなく返した。と言うかこんな巻き込まれただけのちょっと頭のおかしいノーライフニートにかまっている暇なんて無いし。
「前向きなのはいいんだけどね……。そもそも俺達は灼滅者でお前はダークネスだ。意味は分かるよな」
「あ」
辰巳に言われてノーライフニートは小さく声を上げた。
「まあ、ここで俺達を倒せたらいきなり出世できるかもな」
「そ、そうですよね! それじゃ皆さんをこれから皆殺しにしますね!」
よくわからない宣戦布告をされて彼は『accensione』と呟き武器を手にとった。
●
ノーライフニートが気合を入れると全身から闘気が立ち上る。
「あ、戦うのはかまへんけど。ビジネス文書とか書けんの?」
右九兵衛の手元で武器についたレドームが唸りを上げる。
「え、やっぱり書けなきゃダメですか」
「ダメに決まっとるん、ええか『拝啓、霜月を迎えて――』」
それビジネス文書ではなく時候の挨拶である。そんな訳の分からない会話を交わしつつ、ついでに攻撃も交差する。
「そんな話してるくらいの余裕はあるってことか……!」
ノーライフニートの放った光の束を、相棒の寸と共に身を張って防ぐ淼。確かにこれまで力を温存してきたが故の威力の高さだ。ただまともな戦闘経験がなさそうなのが隙か。
(「戦闘力も充分……これだけの力を集めてタカトは何をするつもりだ?」)
愛用の槍を手にセレスが降り注ぐ光の中を走る。突き出された槍がノーライフニートの腿を抉る。
「ひ、ひぃっ!?」
「さっきまでの威勢はどうしたんだよ」
「そ、そうでしたね。ここで挫けていてはいけません」
煌希の言葉にノーライフニートは拳を固めて振り回す。ダークネスの膂力による連撃は確実に灼滅者の力を削ぐ。
「やるじゃねえか。それじゃ、俺の手番と行くぜえ」
だが彼の返す拳は敵には届かない。代わりに踏み込むのは由希奈。彼女もまた拳を強く握る。
「うん、拳と拳の勝負だね、そーれっ!」
「ちょ、ちょっと待って……」
敵と彼女の間で拳が無数にぶつかり合えば、互いに弾かれるように離れる。吹き飛んだノーライフニートが態勢を立て直そうとしたその瞬間に、彼の身体に光の矢が突き刺さる。撃ち込んだのは彼方、既に彼は次の矢をつがえている。
「経を縛れ、鉄鎖の礫!」
その矢が放たれるよりも早く辰巳の指先から制約の弾丸が放たれる。弾丸はよろめいたノーライフニートの身体を一際強く縛り付ける。
「う、動けない……」
「くぉらー」
「ごふっ」
そんな動きの鈍ったノーライフニートを全力でボコる好弥。どことなく八つ当たりの雰囲気も見えもなくもない。色々とめった打ちにされながらもノーライフニートはよろよろと立ち上がり、自分に回復サイキックを使う。
「こ、これが社会の厳しさと言う奴ですか」
その身についたバッドステータスなんかも一緒に治しつつ立ち上がる。性懲りもなくノーライフニートは立ち上がり戦闘を続ける。
●
とは言うものの。基本的に一体の敵が自己を回復し始めたら大体ジリ貧になるわけで。灼滅者達の攻勢により一気にノーライフニートは追いつめられていく。
「決着を付けさせてもらうぜ!」
辰巳が守りに徹そうとしたノーライフニートの背後に高速で回り込み、敵のオーラごと斬りつける。あまりに容赦のない一撃に敵は涙目になるがもはや灼滅者達の攻撃は止まらない。
「心機一転の一歩は素晴らしいが……諦めて貰おう」
「そ、そんなせっかく頑張って外に出たっていうのに!」
風を切るようにセレスがナイフを閃かせればノーライフニートの身体に次々と切り傷がついていく。
「あー! 高かったのに!」
「あ、スーツは残してあげようかなと思ってたけど……少しでも傷が少ないようにしてあげるね」
由希奈の神霊剣が敵の霊的防御と魂だけを切り裂いていく。HPに傷が付いているんですが、それは。
「まあ今さら服だけを気にして攻撃でけへんし?」
容赦なくフルボッコ状態のノーライフニートに右九兵衛がビームを叩き込む。
「そんな殺生な!」
言いつつ残された力で敵は光線を放つが、そちらは彼方の放った矢に阻まれる。もうどうにもならないっぽい。
「良かったじゃないか、似合ってなかったんだし」
「これから似合う男になる予定だったんですよ!」
淼の炎の蹴りを受ければもうスーツは形をなしてない、あわれ。
「……俺がスーツ着たら似合うと思う?」
敵を殴りながら煌希はニュイに聞くが、ニュイはそっけない。
「お疲れ様でした。今後のあなたが活躍しないようお祈りします」
好弥の槍の穂先が深々とノーライフニートの腹に突き刺さる。
「残念ながら、模擬面接は落選だよっ……!」
由希奈のその言葉に絶望した表情を浮かべ、ついでに心臓の部分に彼方の矢が刺さったノーライフニートは消失していった。
●
ノーライフニートを灼滅した彼らは道路の片付けをしていた。このままでは通れないし。
「それにしてもタカトと言うのは……顔も見せないくせに……」
好弥はブツブツと騒擾罪やら集会禁止やらと文句を言っている。
「何怒っているんだ?」
「タカトの事らしい、手は動いているから良いんじゃないか」
淼と煌希は小さく言葉を交わす。
「……タカトって、自分の力で全然仕事しない人って感じだね」
彼方がそういう印象を持つのも仕方がない。直接武蔵坂学園が相対したのはクロキバの時の一度のみだ。あとは『絆』絡みのダークネスくらいしか接触できていない。
「何にせよ戦力を増やさせるわけにはいかない。ただでさえ新宿橘華中学はブレイズゲートなのだから、秘宝とあれこれで無限の勢力になりかねない」
セレスも片付けをしながらこの事件の後を思う。
「最終的に、どれだけのダークネスが集まるんだろう……」
由希奈が呟くと同時に右九兵衛に連れられたバスの乗客たちが来るのが見える。
「……お、来たな。俺達も撤収しよう」
辰巳の言葉を機に灼滅者達はこの場を離れていく、なにか予感めいたものを抱きながら。
作者:西灰三 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
|
種類:
公開:2015年11月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
|
||
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
|
||
あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
|
||
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|