集結する光の軍勢~赤く染まったバス

    作者:天木一

    「さて、今日の夕食はどうしますか、肌寒くなってきましたし、鍋なんかもいいかもしれませんねぇ」
     身なりの良い上品さを持った初老の男性が、バス停のベンチで車が来るのを待っていた。
    「おや? なんですかな、この光は……」
     その目の前にまばゆい光が現れる。それをまともに見た男性の瞳から光が失われていく。
    「ふむふむ、気が変わりました。食事は後回しにしましょう」
     男性の前にバスが止まると、杖をついて立ち上がりバスに乗り込む。中はちょうど帰宅途中の会社員や学生が大勢乗っていた。その中を歩き運転席に向かう。
    「新宿橘華中学に向かいなさい」
    「はい? 何ですかいったい? このバスはそんなところは通りませんよ」
     男性の言葉に運転手が首を捻り、目的地を通らないと説明する。
    「聴こえなかったのですか? 私は尋ねたのではありません。行けと命令しているのです」
    「おい爺さん。俺は今から家に帰るんだよ、だだこねてねーで座れよ」
     バスが出発しないのに苛立った乗客が男性の方を掴む。すると杖を回して腕を捻り間接を極めるとそのまま砕いた。
    「いぎぃぃぃぃぃっ」
    「私は今この運転手さんと話しているのです。邪魔しないでもらえるかな?」
     倒れた乗客の頭を男性は杖で突く。すると破裂して頭が砕け散った。
    「きゃああああああ!」
    「人殺し!」
    「やれやれ、最近の若い者はすぐに騒ぐ、黙りなさい」
     叫ぶ女の頭を突く。するとその頭部も同じように破裂して血が撒き散らされる。
    「騒ぐようなら皆このようになりますよ?」
     殺気の籠もった声が響くと、乗客たちは震えて縮こまった。
    「それでは出発してくれますね?」
    「は、はい!」
     バスは乗客を乗せたまま、新宿橘華中学に向けて走り出した。

    「やあ、また新たな動きがあったみたいだね」
     能登・誠一郎(高校生エクスブレイン・dn0103)が灼滅者達に事件の説明を始める。
    「ベヘリタスの卵の事件で暗躍していた光の少年と、アンデッド化して白の王配下となったクロキバとの戦いに介入した灼滅者たちが、クロキバを討ち取る事に成功したみたいだね」
     この結果、白の王セイメイの計画に致命的なダメージを与える事ができた。
    「最後に正気に戻ったクロキバが、自分の継承者が出現すると言い残していったらしい。誰が継承するのかは分からないけど、作戦は大成功だったみたいだね」
     だがいいことばかりでもない。白の王の弱体化により、白の王と敵対していた、光の少年『タカト』達の積極攻勢に繋がってしまったのだ。
    「光の少年『タカト』は、拉致したラブリンスターを利用して、多くのダークネスを無差別篭絡術で配下にしようとしているみたいなんだ」
     集結させた軍勢を用いてなんらかの作戦を行うつもりなのだろう。
    「光の少年『タカト』の力なのか、この作戦の予知は断片的で、全てを阻止する事は難しいようなんだ。でも、武蔵坂学園に関わった事があって、なんらかの『絆』があるダークネスについては、かなりの確率で予知する事が可能なんだよ」
     それを利用してダークネスの行動を予知し、介入する事ができる。
    「みんなには武蔵坂学園と関わった事があるダークネスの灼滅に向かって欲しいんだ」
     灼滅者達は頷き、敵の詳細な情報に耳を傾ける。
    「今回倒してもらいたいのは、かつてみんなに殺戮を阻止してもらった、六六六人衆の五七四番、朽木重蔵だよ。見た目は年老いた初老の男性だけど、動きも速いし戦闘力も高いよ」
     敵は一体だが以前の戦いでは灼滅しきれなかった相手だ。油断できる相手ではない。
    「神奈川県でバスを奪って新宿橘華中学へ向けて移動中だね。ルートは分かっているから、東京に入る前に接触する事ができるよ」
     待ち伏せし、どうにかしてバスを止めてダークネスと戦う事になる。
    「可能な限り乗客も助けてあげて欲しい。敵は気に入らなければすぐに殺してしまうような殺人鬼だからね。放っておけば被害は増えるばかりだよ」
     既に2名が死んでいるが、まだ生きた乗客は10名以上乗っている。
    「これは新しい大事件の前触れのように感じるね。軍勢を集めて何をするつもりなのか、嫌な予感しかしないけど、みんなの力ならそれを阻止できると信じてるよ。だから無事に敵を倒して帰ってきて欲しい」
     誠一郎の言葉に、灼滅者は自身に満ちた顔で任せろと胸を叩いた。そして敵の行動を阻止する為、急ぎ現場へと向かうのだった。


    参加者
    花藤・焔(魔斬刃姫・d01510)
    西条・霧華(大学生殺人鬼・d01751)
    神宮時・蒼(大地に咲く旋律・d03337)
    丹生・蓮二(アンファセンド・d03879)
    八葉・文(夜の闇に潜む一撃・d12377)
    水城・恭太朗(図々しい雑草・d13442)
    月姫・舞(炊事場の主・d20689)
    有馬・鈴(ハンドメイダー・d32029)

    ■リプレイ

    ●バスジャック
     神奈川から東京へと向かうルートの道路沿いに灼滅者達が待ち伏せる。
    「大きな戦いの前哨戦ですね。ここで確実に仕留めましょう」
     手足を軽く動かしながら花藤・焔(魔斬刃姫・d01510)は、バスが来る方向をじっと見つめた。
    「タカトの野望も朽木・重蔵の凶行も、どちらも止めて見せます」
     西条・霧華(大学生殺人鬼・d01751)は微笑を消して鋭い視線を向ける。
    「一般人を巻き込む事を厭わない以上、彼らは私達の敵です。例えその全てを止める事は叶わないとしても……」
     それでも手の届く範囲のものを守ってみせると、腰の刀に触った。
    「……絆ではなく、魂……。……ラブリンスターさん、大丈夫、でしょうか……」
     神宮時・蒼(大地に咲く旋律・d03337)は利用されたラブリンスターの安否を心配する。
     そうして暫くすると、一台のバスが向かってきた。
    「来たね。できれば、普通に止まってほしいんだけど」
     影で出来た傘を差していた有馬・鈴(ハンドメイダー・d32029)は影を蝶にして霧散させ、仲間と共に道路の真ん中に立ち塞がる。正面に人を発見したバスは若干スピードを落とすが、中では脅された運転手が目を閉じてアクセルを踏んで突っ込んでくる。
     バスの乗客が正面に気を取られているうちに、スピードを落としたバスに近づく2人の人影。疾走する勢いのまま跳躍し、フロントガラスとリアガラスを突き破って中に突入した。
    「こんばんは、バスジャックジャックでーす」
    「こんばんは、バスジャックジャックです」
     まるで友人に挨拶するような軽いノリで、丹生・蓮二(アンファセンド・d03879)と水城・恭太朗(図々しい雑草・d13442)はポーズを決めながらバスに侵入して乗客を見渡す。床に転がる一般人の死体に顔を歪めながらも、後ろの方に固まり脅えたように座り込む人々を確認し、前にいる運転手とスーツ姿の身なりのいい初老の男が座っているのが視界に入る。
    「窓から入ってくるとは何ですか非常識な。走っているバスに飛び乗りバスジャック? 冗談にしても質が悪いですね」
     やれやれと首を振りながら男が席を立つ。情報通りの背格好、この男が朽木・重蔵だとすぐに分かった。
    「教育的指導が必要ですな」
     朽木がすっと杖を恭太朗に向ける。それを蓮二が手で掴んだ。だがすぐに掴んだにも関わらず先端が心臓を狙い胸の皮膚を抉っていた。
    「恭太朗ー、このじーさん迷子かな? おくっとく?(あの世に)」
    「バスの乗り方もわかんねーくらい耄碌してるし、送ってやんねーとな」
     軽口を叩く蓮二に、傷を負いながらも恭太朗は笑い返しながら朽木に組み付く。朽木は迎撃しようとするが蓮二は杖を手放さない。その時車が急激に止まった。
    「これも経験……かしらね? あまり何度もしたくないけど……ねっ!」
    「それではいきますよ!! どっせーい!!!」
    「うりゃっ」
     バスの正面に立った八葉・文(夜の闇に潜む一撃・d12377)と、焔、鈴の3人が受け止め、その細腕からは考えられない力で前輪を持ち上げて車を止めていた。目を閉じていた運転手が驚いて顔を上げ、ブレーキを踏んで車を止めた。
    「貴方は私を殺してくれる? それとも殺されるのかしら」
     そこでバスの正面に立った月姫・舞(炊事場の主・d20689)が呟くと、その手に刀が現れた。とんっと軽やかに跳躍すると刃を縦横に奔らせ、バスのフロントガラスを切り取った。
    「ここから放り出してください」
     舞が中の2人に向けて声を掛けると、恭太朗がすぐさま朽木を持ち上げて外に飛び出した。
    「くっ、こんなジジイじゃなく、ラブリンを抱き上げたかった……!」
    「ヤバイじーさんと遭いたくなかったら外には出ないよーに」
     振り向いた蓮二が残った乗客に声を掛けながら続いて飛び出す。

    ●紳士
    「離れなさい、暑苦しい」
     朽木が空中で恭太朗を弾き飛ばし、ふわりと杖を突いて着地する。
    「最近の若い者には困ったものだ、このような場所で足止めとは。私には急ぎ行かねばならぬ場所があるというのに」
    「その目……あなたは自分の意思で動いているわけでは無さそうですね。可哀相に」
     待ち構えていた霧華が挑発するように声を掛けながら眼鏡を外す。
    「蓮華の花言葉をご存知ですか?」
     表情を消した霧華の足元から影が伸びる。朽木が返事をするよりも早く影が襲い掛かった。
    「さて、花には疎くて知りませんな」
     朽木が杖を弧を描くように振るうと、影が消し飛んだ。だがその影を死角にして槍を手にした蒼が接近していた。
    「……穿ち、貫け……」
     鋭い突きを前に朽木は体を捻る。胸を狙った穂先は肩を貫いた。
    「痛いですよお嬢さん。お仕置きが必要ですね」
     朽木が杖の先端をすっと蒼に向ける。何の危険も無さそうなただの杖。だがそこから感じる殺気は死をイメージさせた。
    「……防技、渦潮」
     それを文が薙刀を振るうと、柄が幾つにも別れ鞭のように渦を巻いて杖を弾いた。
    「ほう、思ったよりもやりますな。ではこれでどうですか」
     感心したように頷いた朽木がふっと視界から消える。
    「後ろです!」
     一瞬で文の背後に回りこんでいた朽木に、焔が赤い大きな剣を振り下ろす。朽木は杖で受け止めるが、質量に押し負けて吹き飛ばされる。
    「年寄りを労わろうという気持ちはないんですかね」
    「お年寄りならもう少し大人しくしたらどうですか?」
     木の葉のように着地した朽木に、舞が巨大な十字架を押し付けるようにぶつけて動きを止める。
    「おおーっと、これはチャンス!」
     蓮二がシャキシャキと鋏を鳴らしながら近づき、肩の傷口を狙って鋏で切りつける。
    「身動きのできない人を襲うとは、子供のモラルはここまで落ちてしまったのかね」
     溜息を吐きながら朽木は舞の額を指で突く。すると力が抜けたように舞は膝をついた。
    「ならばしっかりと体に教育する必要があるようだ。私が小さなころも躾に厳しかったものだよ」
     くるりと回転しながら横に薙ぎ払う。
    「こんなジジイになるなんて、きっと教育が間違ってたんだな」
     飛び込んだ恭太朗が暴言を吐きながらその一撃に蹴りを当てる。ぶつかる衝撃に両者が離れる。恭太朗は空中で回転して後ろ回し蹴りを放つ。だがそれよりも一歩速く朽木がその背中に杖を当てた。
    「う……ごはっ」
     内部が爆発したような衝撃に恭太朗が口から血を吐く。
    「どうです? 血の味と共に体に覚えこむのです」
    「バカな若者だからあんたの言ってる事がさっっぱり理解出来ない」
     着地したところを狙おうとする朽木に、蓮二と霊犬のつん様が同時に鋏と咥えた刀で挟撃を仕掛け朽木に攻撃する間を与えない。
    「それは躾とは言えないわね、普通の人間なら死んでしまうもの」
     鈴が蝋燭に黒い炎を灯し、漂う黒煙が蜻蛉、蝶々、蜂の形となって仲間の下へ飛び傷を癒していく。
    「まずはその足を潰します」
     焔は膝が地につく程低く踏み込み、肩で押すように状態を捻り足元を薙ぎ払う。朽木は跳んで躱そうとするが、それよりも速く刃は足を斬りつけた。
    「年を取ったら足が思うように動かなくなりますな」
     朽木が杖を使って着地する。その背後には霧華が音を消して近づいていた。振り上げた刀を振り下ろす。
    「足だけでなく体も動かないようにしましょうか」
     刃が背中に食い込み血が溢れる。
    「まだ私には行かねばならない場所があるので遠慮しておきますよ」
     朽木は振り向きもせずに脇から背後に杖を突き出す。先端が霧華の脇腹を突き、肋骨をへし折った。そこへ割り込むように跳躍した蒼が頭上から槍を突き刺す。しかし朽木は咄嗟に体を捻る。それを予想していたように蒼は地面に刺した槍を支柱にして回転するように蹴りを放ち、朽木を吹き飛ばす。
    「……何故、貴方は、新宿橘華中学に、行こうと、思った、のですか?」
     地に降り立ちながら蒼が尋ねる。
    「何故? ……そうですな、何故なのか……そう、誰かに呼ばれているような気がするのですよ」
    「……呼ばれている、感じ、ですか……」
     地面を転がった朽木は起き上がりながら服を叩き、とんとんと杖をつく。
    「ですので私はただそこに向かいたいだけなのですよ、邪魔をしないでもらえますかな?」
    「お爺さん、貴方がバスを再度発進させようとも、他のバスに変えようとも、何度でも止めるよ」
     文がブーツの車輪を高速回転させ、赤い羽根の幻影を纏った踵落としを叩き込む。朽木は杖を盾にして勢いに逆らわずに後ろに下がった。

    ●躾け
    「ならば、君達全員に躾を施してから向かうとしましょう」
     一瞬にして文の目の前に迫ると、朽木は杖を胸に突きつける。触れただけの接触。だが文の体が仰け反る。
    「さらしを仕込んでへんかったら危なかったわ」
     文の胸元には無数の眼の装飾された布が覗いていた。
    「ふむ、ですがそう何度も防げますかな?」
     そう言って朽木が杖を向けるが、その横を霧華がすれ違い様に胴を薙ぐ。
    「あなたの相手は一人ではありません」
     霧華はそのまま間合いを離す。それを目で追ってしまった朽木の背後から恭太朗が鋏を背中に突き刺す。
    「爺が乗んのはバスじゃなくて船だよ。三途の川渡るやつ」
     ぺっと血の混じった唾を吐き捨て、恭太朗は鋏を抜きながら肉を抉り取る。
    「流石に三途の川は遠慮したいですな、私は老後に若い者に向かって偉そうに説教を垂れるような爺になると決めているのでね」
     朽木が杖を振り上げて恭太朗の頭をかち割ろうと振り下ろす。
    「そりゃ老害じゃねぇかこのジジイ!」
     つん様がその攻撃を代わりに受け、蓮二が剣を振り抜く。刃は朽木の肩を深く傷つける。
    「年配の人にそんな事を言ってはいけませんよ。我々は人生の先輩なのですから、敬いなさい」
     朽木が杖で胸を叩く。だがその前に蜻蛉等の柄がついた帯が巻きついた。蓮二は吹き飛ばされるが、ダメージが減少されていた。
    「敬われたいなら、相応の態度をしてほしいんだけど」
     鈴が続けて恭太朗にも帯を巻きつけ治療を施す。
    「礼儀やマナーにうるさい貴方がバスジャックとは、随分と趣旨替えしたようですね? 所詮、口先だけの老害でしたか」
     舞が持つ鞄から影が這い出て足を切りつけた。
    「老害老害と、美しくない日本語を連呼してはいけません。言葉の乱れは世の乱れ。その口を閉じてしまいなさい」
     朽木は舞の元に接近する。だが足に負傷した朽木の動きは精彩を欠いていた。そこへ焔が大上段から剣を叩き込む。朽木は杖を横にして受け止めた。
    「ぬっぅ」
    「このまま斬り潰します」
     体重を乗せるように焔が力を込める。少しずつ杖を押し下げ刃が朽木の額を切る。
    「ほっ」
     気の抜けるような掛け声と共に朽木が力を抜いて回転して剣を受け流す。そして焔の背中を突いて吹き飛ばした。
    「まだまだですな、力だけでは私には届きませんよ」
    「……それなら、これは、どう、ですか……」
     小さな体が朽木の懐に飛び込む。蒼は拳にオーラを纏わせ、息もつかせぬ連打を叩き込む。朽木も杖で受け止めようとするが手数に負けて追いつかない。
    「若い者は元気ですな、付き合うには骨が折れますよ」
     朽木は杖で地面を叩く。すると衝撃波となって蒼を引き離した。
    「ウチは刃。 あんたの闇を切り裂き、穿つ……刃や」
     風圧を裂くように文が接近する。
    「断つのは挟む、だけやないんよ」
     手にした巨大な両刃の鋏を腹に突き刺した。
    「開いて……断つ!」
     持ち手の片方に足をかけ、鋏を一気に開ける。すると先端が無理矢理腹をねじ開けた。
    「ぐっあっこれはきついですな……」
     腹を押さえて朽木は間合いを取ろうとする。
    「悪を極めんとした男の業(わざ)と業(ごう)を見なさい―――血河飛翔っ、濡れ燕!」
     その間合いを一気に詰め寄った舞が刀を振り抜く。刃が逆袈裟に朽木の体を斬り裂いた。
    「これほどとは、最近の若い者を侮っていましたか、だがまだまだ負けませんよ」
    「ジジイの時代は終わったんだよ」
     朽木が杖を振り抜くと、蓮二が蹴りでその一撃を受ける。吹き飛ばされそうなったところでつん様が蓮二の背中を蹴り押し、その勢いで朽木の杖を押し返した。
    「ぬお?」
    「渡り賃は無料でいいや、だからさっさと逝っちまえよ」
     バランスを崩す朽木の胸を恭太朗が鋏で切り裂く。
    「くっこんな所で立ち止まる訳にはいかないんですよ」
     満身創痍になりながらも朽木は杖を振るう。だがその前に符が蝶の形となって飛び交い邪魔をした。
    「あなた、タカトのこと知ってる?? 知らない人の為に命張るの」
     鈴が次々と符を飛ばして動きを阻害する。
    「何故かは知りませんが行かねば気がすまないのですよ」
     朽木が杖を回転させ符を弾き飛ばす。そこへ飛び込んだ舞が足を斬りつけ、焔が剣を横に振り抜き脇腹を抉る。そして下から蒼が跳ぶように獣の腕で宙へ殴り上げた。
    「ぐぅぅ」
     そこへ左右から蓮二と恭太朗が炎を纏った飛び蹴りを同時に叩き込む。朽木は燃やされながら落下してくる。
    「『あなたは私の苦痛を和らげる』……。」
     花言葉を呟くと霧華は刃を一閃させる。切っ先は喉を深く捉えた。
    「そ、んな、まだ70年しか生きていないというのに……後50年は後進に道を譲る気はなかった、のですが……」
     口から血が溢れる。取り落とした杖が転がり喘ぐように喉を掻き、血に溺れるように朽木は息絶えた。

    ●新宿
    「助けられる人はみんな助ける事ができたね」
     余計な犠牲者を増やさずに済んだと文は胸をなでおろす。
    「もう降りても安全よ」
     バスで脅える人々に鈴が声をかける。すると人々が恐る恐る外に出始めた。
    「タカトが居る限りこうした事態は止まらないかもしれませんね……」
     眼鏡を掛け直した霧華は難しい表情でバスを降りる巻き込まれた人々を見る。
    「……ラブリンスターさん、……大丈夫、でしょうか……。……たくさん、助けて、いただいた、のに……。」
     敵に捕らわれたラブリンスターを心配して蒼は手をぎゅっと握る。
    「待っててラブリンすぐに俺が助けに行くから……」
     ラブリンファンである恭太朗は東京方面を見ながらそう誓った。
    「じゃあ次はタカトを倒さないとね」
     蓮二が軽い調子で笑みを浮かべる。だがその眼は真剣な光を宿していた。
    「これはもらっていきますね」
     舞は朽木が消え去った後に残った杖を拾い上げた。そしてバスに向かい、残された2人の遺体に仮初の命を与える。2人は何があったのか分からぬまま、起き上がり外に出て行った。灼滅者達はそれを悲しげな表情で見送る。
    「……それにしても。新宿橘華中学に、なにか、ある、のでしょうか……」
     蒼の言葉に皆が朽木が目指していた道の先を見やる。その先は暗闇に包まれ先行きは閉ざされていた。
    「さてタカトはどう動くんでしょうね」
     焔は呟き、バスに背を向けて歩き出す。
     タカトの企みで犠牲になる人をこれ以上増やしてはならないと、灼滅者達は次なる戦いの予感を胸に、東京へと戻るのだった。

    作者:天木一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年11月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ