集結する光の軍勢~赤き法衣の屍王

    作者:のらむ


     地下深くに創り上げられた、某所にあるノーライフキングの迷宮。
     煌びやかな装飾品やステンドグラスに彩られたその美しい迷宮の各地には、ノーライフキングの配下であるアンデッド達が徘徊している。
     そしてその最深奥、最も華美な装飾群に包まれた大部屋の中央に、彼らの主であるノーライフキングが豪華な椅子に座り佇んでいた。
     そのノーライフキングは飾られた絵画や彫像を鑑賞しながら、1人考えに耽っていた。
    「死体の収集を命じた我が配下がことごとく灼滅されている……戦力を増やす為に戦力を削られてしまっては元も子もない」
     身体の右半分が水晶、左半分が白骨で出来たそのノーライフキングは、鮮やかな赤色の法衣を身に纏い、手には十字型の杖が握られている。
     このノーライフキングの名は、ジーフ。これまでこの男の配下であるアンデッド達と灼滅者達は、数度対峙してきた。
    「だがこの私が外界に出る事などはあり得ない……仕方ない。今は選り好みせず、無差別に素材を集めるとするか」
     そしてジーフが己の配下達に命令を下そうとした、次の瞬間。
     どこからか現れた眩い光が、ジーフを包み込む。
    「な……! これは一体……グオオオオオオ!!」
     その光をまともに見てしまったジーフは、思わず目を抑え床に転がり落ちる。
     その物音に気付いた警備役のアンデッド達が、ドタドタとジーフの部屋に転がりこむ。
    「…………何でもない。下がっていろ」
     ジーフはそう言って立ち上がると、長い間出ていなかった自室から外に出て、自室よりも更に長い間出ていなかった己の迷宮の外にまで出て行った。
     ジーフは付近を見渡し、目をつけた黒塗りの高級車のドアを叩く。
    「はい……ッ!?」
     突然目の前に顔を出した水晶と白骨の異形に、車に乗っていた男性は唖然とする。
    「光栄に思え。貴様は我の運転係として選ばれた……よもや断るなどという事はないだろうな?」
    「は、は、はい!! どうぞ後部座席にお乗りください、お客様!!」
     水晶の奥の瞳を赤く光らせると、男はすぐに鍵を開放して車から降り、ジーフに代わって車の扉を開けた。
    「そうかそうか、中々物分かりの良い男だ。お前が望むなら我が配下にしてやっても構わんぞ」
     そしてジーフが後部座席に乗り込むと、男は恐々と訪ねた。
    「えっと、それで……行き先は、どちらまで」
    「新宿橘華中学だ」


    「ベヘリタスの卵事件で暗躍していた光の少年と、アンデッド化して白の王配下となったクロキバとの戦いに介入した武蔵坂の灼滅者達が、なんとクロキバを討ち取る事に成功した様です」
     神埼・ウィラ(インドア派エクスブレイン・dn0206)は赤いファイルを開き、説明を続ける。
    「この結果、白の王セイメイの計画に致命的なダメージを与える事に成功。まだ、最後に正気を取り戻したクロキバは、己が灼滅されたことで新たなクロキバの継承者が出現すると言い残しました」
     しかし、とウィラは続ける。
    「一方の光の少年『タカト』は、拉致したラブリンスターを利用し、多くのダークネスを無差別籠絡術で配下に組み入れようとする作戦を始めた様です」
     この作戦は非常に大規模なものではあるが、この作戦に関する予知は非常に断片的で、全てを阻止する事は難しいのだとウィラは言う。
    「ですが武蔵坂学園と関わりのあり、なんらかの『絆』があるダークネスに関しては、かなりの確率で予知する事が可能みたいです。」  そしてウィラは資料をめくり、具体的な事件についての説明に入る。
    「今回私が予知したのは、ジーフという名のノーライフキングです。美しい装飾品や絵画等、芸術品に対して強い興味を持つこの男は、自分好みに改造した迷宮の奥底でずっと引きこもっていました」
     しかし今回無差別籠絡術を受けてしまったジーフは、己で迷宮の外に出る事となる。
    「ジーフはとある車をジャックし、新宿橘華中学へと向かいます。皆さんはこの車がとある山道の中腹に訪れた段階で、接触を仕掛けてもらう形となります」
     まずは車の運転手である男を救出し、それからジーフと戦闘を行うのがいいだろうとウィラは言う。
    「ジーフ自身も別に男を殺したい訳ではありませんし、案外あっさり逃がしてくれると思います。灼滅者である皆さんは別でしょうが」
     そう言って更に資料をめくったウィラは、ジーフの戦闘能力について説明する。
    「ノーライフキングは、ダークネスの中でも高い力を持つ種族です。その戦闘能力はかなりのものと思われます」
     ジーフは手にした十字型の杖でいくつもの禍々しい魔術を放ち、戦闘を行うらしい。
    「本人は激しく戦場を動き回る様な動きが嫌いで、戦闘中もあまり動きませんが、その攻撃力はかなりの物です。特に突出しているのは攻撃力ですが、回避力や防御力も平均を下回ってはいません。決して油断はせず、事に当たってください」 そこまでの説明を終え、ウィラはファイルをパタンと閉じた。
    「説明は以上です。……今回の作戦がタカトによる戦力増強作戦ならば、その先には更に大規模な何らかの大作戦を想定している筈です。この時点である程度その戦力を削っておかなければ、タカトの作戦を阻止する事が出来なくなるかもしれません……という訳で、お気をつけて。皆さんが無事に、全員で帰ってくることを祈っています」


    参加者
    木嶋・キィン(あざみと砂獣・d04461)
    待宵・露香(野分の過ぎて・d04960)
    華槻・灯倭(月灯りの雪華・d06983)
    水無瀬・旭(瞳に宿した決意・d12324)
    ユメ・リントヴルム(竜胆の夢・d23700)
    レオン・ヴァーミリオン(鉛の亡霊・d24267)
    エリノア・テルメッツ(串刺し嬢・d26318)
    柊・玲奈(カミサマを喪した少女・d30607)

    ■リプレイ


     タカトの無差別籠絡術を受けたノーライフキング、ジーフ。
     灼滅者達に幾度となく配下を灼滅されたジーフが新宿に向かうのを阻止し、灼滅するべく、灼滅者達は暗闇に包まれた山道付近に集結していた。
    「無差別籠絡術……か。ラブリンスターが持っていた力だし……ずっと引きこもっていた人を外に出す程の力って、とても強力なものなんだね」
    「そうだねぇ……なんてーか、こうも大っぴらに使われると気持ち悪い能力でもあるよね。自分の意思は無関係にってとこが、特に…………だけどラブリンスターは、この力に頼らずにアイドル業を続けてきたんだよなぁ」
     華槻・灯倭(月灯りの雪華・d06983)とレオン・ヴァーミリオン(鉛の亡霊・d24267)はそんな話をしつつ、ジーフを乗せた車の到着を待つ。
    「タカトに籠絡されたノーライフキングね。思う所はあるけど、この機会を逃さず灼滅するわ。タカトに合流すると拙いでしょうしね」
     エリノア・テルメッツ(串刺し嬢・d26318)がそう呟くと、灼滅者達の視界に車のライトが映る。
     灼滅者達はすぐさまその車に向けてライトを向けつつ、進路を塞ぐように立つ。
    「ん、あれは一体……っ!!」
     自然と前方に注意を向けていた運転手は灼滅者の姿に気付くと、急ブレーキを踏み車は停止した。
    「何をしている、馬鹿者。早く進まんか」
    「い、いえ、しかし……」
     ジーフと運転手がそんなやり取りをしている内に、運転手の側の扉が勢いよく開け放たれた。
    「イイ車だな。ちょっと借りたい。降りろ」
    「え、あの、あなたは一体」
    「いいから降りろ! そして振り返らずに山を下れ!」
     王者の風を使用した木嶋・キィン(あざみと砂獣・d04461)の言葉に従い、運転手は車から飛び出しふらふらと走り去って行った。
     幸いにも運転手は山道沿いに走って行ったので、しばらくすれば町に無事到着する事が出来るだろう。
    「…………」
     ジーフは無言で車から降りると杖を構え、灼滅者達を見まわす。
    「私の邪魔をするとはな、貴様らは……ん?」
     ガサガサと揺れた木をジーフが見上げると、そこには枝の上に仁王立ちした待宵・露香(野分の過ぎて・d04960)がいた。
    「光に惑って巣穴から飛び出した羽虫のようなドクロさん、たとえ月影に隠れようと、人に仇なさんとする企みはこの露香が見逃さないわ! さあ大人しくわたし達に倒され……ちょっ、ここ案外高っ、あっ、まず、グハッ!!」
    「貴様らは……何者だ? まさか灼滅者共か?」
     口上の締めの飛び降りを失敗して顔を打った露香をジーフは華麗にスルーし、水晶の奥の瞳で灼滅者達を睨む。
    「そのまさかだよ。……それにしてもこれって、戦支度以外の何物でもないよなぁ……。何であれ、ここで止めさせて貰うよ」
     水無瀬・旭(瞳に宿した決意・d12324)は双刃の槍を頭上で力強く回転させ、戦闘の構えを取る。。
    「アナタに殺され、死体を配下として操られた人達のその無念、ここで晴らさせて貰うよ!」
     柊・玲奈(カミサマを喪した少女・d30607)は刀の柄に手をかけてそう言い切る。
     そしてユメ・リントヴルム(竜胆の夢・d23700)が、ジーフの前に進み出る。
    「やあやあ、ようやく会えたね! 実は今日は、ここに記念日を祝いに来たんだよ」
     ユメは笑顔で、しかし誰よりも冷たい声で、ジーフに告げる。
    「だって、今日が君の命日だもの」
    「ほう……死を司る我等に死を刻み込むとのたまうか。愚かな」
     ジーフは十字の杖を掲げ、その先端に魔力を込める。
    「死を刻まれるのは貴様等の方だと心得ろ」
     黒き炎の奔流が放たれ、闘いは始まった。


    「いきなり全力か……まあ、だったらこっちも全力で受けるだけか」
     放たれた黒炎から仲間を庇うべく飛び出したレオンは、全身を焼け焦がされながらも耐え、反撃に放った斬撃でジーフの身体を砕く。
    「さっきは少しヘマしたけど、今度こそ決めるわよ! ……凍り付きなさい!」
     露香は全身の魔力を放出しつつ魔術を詠唱すると、ジーフの足元に魔方陣が浮かび上がる。
     次の瞬間、魔方陣は強い光を放ったかと思うと冷気を放ち、ジーフの身体の一部が凍り付いた。
    「新宿橘華中学でなにをするつもり? ベヘリタスに手を出すつもりなの?」
    「それを私が知っていたとしても、応える義理などありはしない」
    「まあ、そう言うと思ってたわ……けち臭いわね。とにかくもう一撃、喰らいなさい!」
     露香は『カウリオドゥース』の名を持つ杖に魔力を流し込みながら、ジーフに突撃する。
    「混沌を縛る唯一の法、無二にして原初の理、絶対の純粋、『力』よ! ……フォースブレイク!」
     露香が振り降ろした杖はジーフの骨を砕き、流し込まれた魔力は更にその骨の一部を消し飛ばした。
    「灼滅者の身で生意気な……身の程をわきまえるがいい」
    「グ……! あはは……回復役を狙ってくるなんて承知の上だよ……だが、そう簡単には倒れないさ」
     ジーフが放った水晶の刃が旭を貫くが、旭はすぐさま己の傷を癒し戦線を維持する。
    「私も前に出るよ……敵の攻撃は聞いてた通りかなり強力。早く決着を付けなきゃね」
     灯倭は純白のエアシューズに炎を纏わせると、軽やかな動作でジーフに接近する。
     そして放たれた炎の蹴りはジーフの肩を打ち、膨大な熱はその身体を焦がした。
    「成り損ないがそこまでの力を持つか」
     ジーフはそう呟くと杖を掲げ、降臨させた十字架から黄金の光線を放つ。
    「クッ……まだ私の攻撃は終わらないよ! 一惺、私に続いて」
     灯倭は降り注ぐ光線の間を潜り抜け、霊犬の『一惺』と共にジーフに突撃する。
    「ここだよ」
     一惺が振るった斬魔刀と灯倭が放った青水晶の斬撃が、ジーフの胸を斬り抉った。
    「オレも続くぜ、まずは一撃喰らわせてやる」
     灯倭に続きジーフに接近したキィンが無数の糸を放つと、ジーフの身体が締め上げられ動きが封じられる。
    「ふん……小賢しい真似を」
     ジーフは呟き糸を引きちぎると、黒き炎で再び灼滅者達を襲う。
    「クッ……! 本当に攻撃の威力が強い……昔相対したノーライフキングとは、格が違う」
     玲奈は、かつて闇堕ちした友の姿が頭に浮かび、一瞬心が震えそうになる。
    「……いいや、こんな事じゃ駄目ね。私は倒した彼らに誓ったんだから……仇を討つって」
     玲奈は心に決めた誓いを思い起こし自身を奮い立たせると、激しいダイダロスベルトの斬撃でジーフを斬る。
    「無駄だ。たかが灼滅者が私の力に敵うと思うか」
    「当然。……そんなに余裕を見せてると、足元を掬われるよ!」
     そう呟いた玲奈は刀を構え、ジーフに肉薄する。
     その途中で刀の刃を非物質化させた玲奈は、鞘をすり抜けさせるという変則的な抜刀術をジーフに放つ。
    「決して退かない……あなたは、必ずここで灼滅するから」
     玲奈が放った静かな斬撃は、ジーフの魂を斬り直接傷を付けた。
    「ずっと引きこもっていたキミは知らないかもしれないけどね、最近の灼滅者は随分としぶとくてしつこいんだよ?」
     更にユメは灼熱の蹴りを放ち、水晶を打ち砕く。
     そしてエリノアはバベルブレイカーを装着したまま、ジーフと相対する。
    「簡単に籠絡された挙句、場当たり的に足を確保する……それだけだと威厳が無いだけで済む話だけど、眷属すら連れていなかったのは失敗だったわね。今のあなたは、私達にとって恰好の標的なのよ」
    「自分は狩る側だとでも? ダークネスは灼滅者の上位互換だという事を忘れるな」
    「古い考えね。呆れるわ……まあ、油断はしないけれど」
     ジーフが放った炎の隙間をくぐり抜け、エリノアはジーフの懐まで潜り込む。
    「喰らいなさい」
     そして突き出された赤熱した杭はジーフの胸を削り取り、ジーフの身体は吹き飛ばされる。
    「この程度で終わりじゃないわ……このまま一気に攻める」
     エリノアは構えた槍に緋色のオーラを纏わせながら、後ろに退いたジーフに突撃する。
    「慄け咎人、今宵はお前が串刺しよ!」
     赤き刺突はジーフの胸を穿ち、一気に貫通させた。
    「離れろ……!!」
     力づくで槍を引き抜いたジーフは己の傷を癒しながら、灼滅者達を見まわす。
    「無礼な連中だ……私を傷つけ、更にはタカトへ仕えるという役目すら妨害する。なんと罪深い事だ」
     ジーフは十字架の杖を構えなおしながら、心の底からそう思った。


     闘いは続き、灼滅者達は畳み掛ける様にジーフに猛攻を仕掛けていったが、ジーフも負けてはいない」
    「死骸を晒せ、灼滅者」
     ジーフの黒き炎は何度でも、灼滅者達の身体を焼け焦がしていく。
    「焦らず、落ち着いて……そして、確実に仕留めよう。後ろは俺が受け持つから」
     戦線を維持する重要な役割を担っている旭は、激しい攻撃にも冷静に対処し、柔らかな風で仲間たちの傷を癒していく。
     そうして旭は愛用の槍『鐵断』を構えると、ジーフとの間合いを測る。
     二つの刃を持つ槍をグルグルと大きく回転させながら、旭はその刃に風を纏わせていく。
    「敵の動きもかなり鈍ってきている……ここで外しはしないよ」
     そして旭は大きく槍を振るうと、放たれた竜巻の様な風の刃が、ジーフの全身を斬る。
    「ここでお前を見逃せば、必ず悲劇が振り撒かれる。そんな暴挙を認める訳にはいかないから……俺は、貴方の命を奪う『悪』となる」
     決してこの行為は正義では無いと旭は断じ、旭はジーフの死角へと回る。
     続けて放たれた槍の一撃が、ジーフの足を一瞬にして砕いた。
    「さあ、わたしもどんどん攻めるわよ……レイザースラスト!」
     露香が射出したダイダロスベルトは、ジーフの肩を撃ち貫いた。
    「そういえばあんたは、美術館に現れたゾンビ共の親玉でもあったんだよな……あん時とは違ってあんたも使役される側か。気分はどうだ?」
    「構うものか。全てはタカトの為だ」
    「そうかよ。これは重症だな。元に戻る気配は全くねえ」
     キィンはジーフの返答を聞くと漆黒のベルトループを展開し、ジーフへと狙いを定めていく。
    「ここだ!!」
     放たれた鋭い射出はジーフの全身を抉り、打ち砕く。
    「小癪な……我が一撃を持って死ね、灼滅者よ」
     そしてジーフは赤き疾風の刃を生み出し、キィンに向けて放つ。
    「……そうはさせないよ!」
     しかしそこに飛び出した灯倭が刃を受け止め、全身を切り裂かれる。
    「わりぃ、助かったぜ華槻。このチャンスを活かすぜ」
     そう言ってキィンはすぐにジーフの元に近づくと、手を掲げる。
    「光も都合よく導いてくれるばかりじゃない……ジャッジを下し、解放してやる」
     そして至近距離から放たれた巨大な光条がジーフを包み、その全身が焼かれていった。
    「恐らく、このノーライフキングはもうそこまでの体力を残していない筈……今が攻め時ね」
     エリノアは鋭い拳の連打でジーフの全身を穿ち、身体に大きな風穴を空けた。
    「身体の修復が追い付かなくなってしまっている……ここは下手に傷を癒すべきではないな」
     ジーフは攻撃に集中しようと杖を構え、魔力を込めていく。
    「おっと、仲間を攻撃する前にボクを相手してくれるかな? ボクの役目は、キミが死ぬまでの時間稼ぎなんだからな」
    「鬱陶しい男だ……その望み通り、今すぐ貴様の存在を消し飛ばしてやろう!」
     常にジーフに張り付き、仲間へ向けられた攻撃を多く庇ってきたレオンに、ジーフは水晶の刃を突き刺した。
     重なった傷に心臓への一撃が追加され、レオンはたまらず膝を付く。
     しかしその致命的な一撃にも、レオンは倒れはしなかった。
    「グ……!! ハ、ハハハハハ! 誰の存在を消し飛ばすって? 今日この場で消え去るのはお前だけだ、屍王!!」
     そしてレオンはボルトカッター状の巨大工具鋏を携え、流れる血も気に留めずジーフに突撃する。
    「その自慢の水晶、全部オレが剥ぎ取ってやる!!」
     力任せに刃をジーフの腹に突き立てたレオンは更に力任せに鋏を握り、バキバキと音を立てて水晶を粉々に砕いた。
    「その首、貰った!!」
     一気に攻撃に転じたレオンは更に巨大な処刑刀を振るうと、ジーフの首は大きく切り裂かれた。
    「あと少しの筈だよ。皆、一気に攻めきろう!」 
     レオンの猛撃に続いた玲奈は槍による刺突でジーフの頭の骨を砕いた。
    「グ……! 闇に堕とさぬ身で、何故ここまでの力を出せるのか……」
     ジーフの身体を構成する骨と水晶の多くが崩壊を始めており、ジーフの命が消えるまでそう遠くはないという事が見て取れた。
     重ね続けられたバッドステータスに雁字搦めにされ、ジーフは最早碌に攻撃も回復も行うことができなくなっていた。
    「ボクはね、屍王は全部潰すって決めてるんだ」
     そして、ユメは淡々と唯ひたすらに、目の前に敵を潰す事を目的に動いていく。
    「この身に水晶を纏った時、誓った」
     容赦なく放たれる杭の一撃が、ジーフの胸を貫く。
    「例え朽ち果てようと、その存在を赦しはしないと!」
     赤く輝く炎の蹴りが、ジーフの脳天を砕き焼く。
     そしてユメは、刃に赤と青の焔が灯る鞭剣『Coil of a flame』を構え、ボロボロのジーフの前に立つ。
    「これで終わりにしようか、屍王。今更逃げるだなんて言わないよね? まあ言った所で逃がす筈もないけど」
     ユメはそう言うと薄い笑みを浮かべ、剣先をジーフに向けた。
    「何故……何故だ……私は偉大なる屍王、ジーフ。この力はタカトの為に役立たれる筈だったというのに……!!」
    「それは残念だったね、さようなら」
     ユメはジーフに攻撃をさせる暇も与えず、一気に攻勢に出る。
     そしてそれに続いた灼滅者達が、一斉に攻撃を仕掛けた。
     キィンが放った聖なる光条が胸を貫き、
     露香が放った氷の魔術が全身を凍りつかせる。
     アサヒが放った双刃の斬撃が骨を砕き、
     レオンが振り下ろした鋏がジーフの十字杖を砕き、喰らった。
     エリノアが放った杭の一撃が胸を穿ち、
     玲奈が放った見えざる斬撃が魂を砕く。
     灯倭が振るった水晶の刃が全身を斬り、
     ユメが焔を纏った刃を伸ばす。
    「簒奪した命に悔いて、消え去れ」
     一閃。
     放たれた刃は強固な水晶で出来たジーフの首を容易く刈り取った。
     ゴトリと落ちた水晶の首から、断末魔の声が流れる。
    「な、何故だ……何故私が……? 神聖な存在である私が、何故灼滅者に殺されなければ……」
    「しつこいよ」
     グシャリトユメがジーフの頭部を踏み砕くと、その身体も完全に砕け、跡形も無く消え去った。
     後に残ったのは煤けた赤い法衣と、欠けた十字の杖だけだった。

    作者:のらむ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年11月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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