●カレー食うと身体が黄色くなるっていう噂があってだね
「我が名はカレーイーター! 貴様も黄色くなれェー!」
全身真っ黄色の巨大な魔神めいた何かが、道行く人たちに無理矢理カレーを食わせていた。
「きゃータスケテー!」
「ナマステー!」
もうその時点で軽くおばかな光景なのだが、カレーを食わされた人は何でか知らんが全身が黄色い塗料まみれになっていた。
「カレーを食うと身体が黄色くなるのだ! さあ貴様もカレーを食えェー!」
●この季節でも水着姿をつらぬく度胸
「という都市伝説でした」
「そうでしたか」
黒木・摩那(昏黒の悪夢・d04566)は『カレーを食べ過ぎると、体が黄色くなるよ』というともすれば疲れた人のつぶやきみたいなことを言った結果、こんな予知が返ってきた。
知らない人から見れば二人とも何言ってんだこいつ状態である。
あと関係ないけどこの水着姿が依頼テーマにえらくマッチしている。
「実体化したこの都市伝説は道行く人にカレーを食わせて身体を黄色くするという行為を繰り返しています。はやく灼滅しなくては……町中黄色い人だらけになってしまう!」
エクスブレインは深刻そうに言っているけど、顔がモロに笑っていた。
「それで、都市伝説の攻撃方法は……?」
「カレーを喰わせてきます。灼滅者は黄色くならないそうですが」
「回復方法は?」
「カレーを喰います」
「特徴は?」
「カレーです」
「ううん……」
腕組みして瞑目する摩那。
「……強敵ですね!」
参加者 | |
---|---|
大堂寺・勇飛(三千大千世界・d00263) |
黒木・摩那(昏黒の悪夢・d04566) |
ナハトムジーク・フィルツェーン(黎明の道化師・d12478) |
契葉・刹那(響震者・d15537) |
久成・杏子(いっぱいがんばるっ・d17363) |
黒絶・望(人喰い死神は北風の隷属・d25986) |
氷川・紗子(高校生神薙使い・d31152) |
南野・まひる(猫と猫と猫と猫と猫と猫美少女・d33257) |
●カレーが嫌いな日本人なんて本当にいるのか?
突然だが、全身を黄色く塗られたおっさんが路上でのびていた。
「だ、大丈夫ですか!?」
近づくのか近づかないのか微妙なラインを保ちつつ契葉・刹那(響震者・d15537)が駆け寄ると、おっさんは震えた手を上げた。
「くっ……くい……」
「くい?」
「食い過ぎた」
がっくりと力尽きるおっさん。
刹那はおっさんに福神漬けをお供えすると、手を合わせてなむなむした。
「なんてむごい」
「ほんとうだよ。食べさせるならチャーハンの方がずっといいよ」
南野・まひる(猫と猫と猫と猫と猫と猫美少女・d33257)は鼻をぐしぐしやって言った。
「いやそういうことではなく」
「カレーは金曜日と決まっていますのに……」
目を背けて無駄に悲しい顔をする氷川・紗子(高校生神薙使い・d31152)。
「いやそういうことでもなく」
「カレーだけとか、サービスが足りんよ。ラッシーをつけろラッシーを」
葉巻きみたいにちくわくわえたやーつことナハトムジーク・フィルツェーン(黎明の道化師・d12478)がニヒルに言った。
「いやそういうことでもなくですね」
「そうよ」
黒木・摩那(昏黒の悪夢・d04566)は眼鏡を吐息で曇らせて言った。
「カレーは人によって具に拘りがあるものなの。それを無差別に……なんてむごい」
「いやそういうこと……でも、あるのかな……」
刹那が折れ始めた。
「許せねえ」
シリアス顔で虚空をにらむ大堂寺・勇飛(三千大千世界・d00263)。
「俺は、激辛以外許せねえんだ」
「あー、そっちのー」
刹那は早くもツッコミを諦めた。
あのねあのねと言って両手を振る久成・杏子(いっぱいがんばるっ・d17363)。
「あっちもこっちも黄色い人でいっぱいなのねえ! カレー絶対喰わせる魔神さん、楽し――大変そうなの!」
「うん!」
なんだかすごくほっこりした。
もうエンディングテーマ流して帰ってもいいかなって思った。
ゆっくりと振り返る黒絶・望(人喰い死神は北風の隷属・d25986)。
「あの、行かないんですか? 帰るんですか?」
●高校生の時夏休み中毎日カレー食ってたけど飽きた記憶がない
帰って貰っては困る。
ここでリプレイが終わったらもうあと四千文字くらいカレー屋で好みのカレー食いつつだらだらする話になってしまう。
「八名さまでお待ちのちくわ大明神さまー」
「それは私たちだ」
ナハトムジークこと赤ちくわさんが仲間を引き連れて奥のテーブル席へ座った。
「ご注文は」
「そうだな……グリーンカレーないの?」
「かえってるゥ!」
メニュー表を広げて叫ぶまひる。
「世はカレー絶対喰わす魔神! この店は吾輩が占拠した。グリーンカレーはない!」
「おいかけてきてるゥ!」
メニュー表をテーブルに叩き付けて叫ぶまひる。
「ならば死ねぃ!」
両手の指という指の間に無数のちくわを挟んだ赤ちくわマンがカレー魔神へと襲いかかった。
実際にはあんま見たことの無い金属製の薄っぺらいじょうろみたいなあの、なんだ、カレーのルーを注ぐやーつを両手に持った魔神と火花散る白熱のバトルを繰り広げる赤ちくわマン。
よく見たら周囲の客も店員も勿論店長も全員真っ黄色になっていた。
「だめだ。ここは日常の空間じゃない。都市伝説が実体化した非日常の空間なんだ。私も、戦わなくちゃ……!」
まひるは立ち上がり、スプーンを構えた。
「チャーハンあるの!?」
「ない!」
「ならば死ねぃ!」
両手にネコとチャーハンを持って飛びかかるまひる。
ネコとちくわとカレーとチャーハンの飛び散る熾烈なバトルが始まった。
ちくわを口にくわえてすごむ赤ちくわマン。
「さあカレーをよこせよ。ハリーハリーカリー!」
たぶんこれが言いたいがための時間であった。
妙子がなんかのチェックシートを熱心に書き込んでいた。
横から覗き込む勇飛。
「何書いてるんだ」
「食べられないもののリストです。カレーに入れないようにって」
妙子のチェックシートっていうかその備考欄には、里芋や大根、こんにゃくやらっきょうが入っていたら抜いてくれというリストが書いてあった。
「こんなの入れてる店のほうが少ないだろ。カツオ梅とかフルーツ蜜豆とか絶対入れないぞ。らっきょうだって、言わなきゃ入れてくれないくらいのモンだろ」
「あるところにはあるんですよ」
豆知識。チェーン店レベルのカレー屋でも『にんじんを抜いてくれ』みたいに頼めば抜いてくれる。
ただしカレーは予め大量に煮込んで具材を溶け合わせる食い物なので『俺はじゃがいもアレルギーだから絶対に入れてくれるな』といった注文には応えがたい。そういう人はもう自分で作ろう。
「へえ、難しいもんなんだな」
勇飛はトレーを手にとり、店のカウンターへ立った。カウンター越しにすぐ厨房があり、そこではナンを焼いている。
店内の保冷庫でついさっきまで熟成させていたナンを手でこね広げ、もうナンを焼く以外の用途では使えないような専用のばかでかい鍋でたっぷりの油と共に焼く。ナンの香ばしさが伝わってきたかと思えばすぐにざる籠にナンが追加されていく。無論焼きたて。無論熱い。
それを皿にのせ、手前の鍋からカレーをよそう。
今も尚奥で作り続けている実質できたてのカレーである。
左から順に甘口・中辛・激辛と書かれているが、見るに違いは辛さだけではない。というか全く別物のカレーが三種類入っている。
「どういうことだ……」
カレーって辛さの違いくらいしかないんじゃねーのくらいに思っていた勇飛は困惑しながらも辛口を選択。
鍋にお玉を沈め、かきあげてみて目を剥いた。
煮卵。
煮卵である。
煮卵がまんま入っていた。
「お、おい! これどういうことだ!?」
「ご存じありません? おでんや鍋みたいに、ゆで卵を一緒に煮込むと美味しいんですよ」
「それはそうだろうが……フッ」
この店は今現在食べ放題タイムである。ナンもご飯もカレーも取り放題。っていうかさっきから魔神がめっちゃ沢山作っている。
勇飛は頷いて、カレーをお椀によそった。あと今日のプレは大体使わねえなと思った。
「そいつは重畳」
なので決め台詞だけは言って置いた。
「私、カレーは野菜の形が残っているものが好きなんです。目に見えて満足感があると言いますか……」
野菜がごろごろ入ったカレーにナンをこすりつけ、摩那は己の内を語った。
ナレーションかなってくらい心情が口から出ていた。
関係ないけど、アニメとかで心情がやたら口に出るのは尺短縮のための手法である。リアルにあんなやついねーのは、リアルに30分の尺がないからだ。
「あくまで『どちらかと言えば』ですけどね。あ、ところで、カレーは飲み物というのは、俗説ですか?」
「『噛まない』という意味では、おそらく」
望はお皿に添えたスプーンを見下ろして言った。
拳で軽くスプーンの先端を叩き、回転しながら飛んだスプーンをキャッチ。
それを両手で二本同時に行ない、目の前の山盛りカレーライスへと構えた。
「カレー絶対喰わせる魔神の作ったカレー。きっと美味しいに決まっています。これぞ食滅者(フードファイター)の宿敵なのです……」
「フード……えっ、なんて?」
「百万杯はいきます」
「ひゃく、え、なんて?」
ちなみにプレイングにはカレーライスラスト→福神の漬物→カレ喰らい→辛味変のループで戦いますと書いてあります。嘘です。
体力四割をきったら『もっと美味しいカレーが食べたいのです!!』とシャウトしますと書いてあります。これは嘘じゃありません。
「……幸せなのです」
「カレーを!」
刹那はスコップみたいな形をしたスプーンを取り出した。
「食べます!」
もう一方の手に先割れのスプーンを取りだした。
「今日のためにお腹ぺこぺこにして奇譚です! 美味しいカレーを、いただきます!」
うまーとか言いながらカレーに挑みかかる刹那。
この挑みかかるという表現はなにもオーバーなことではない。
カレーライス。
ライスの重量は1300グラム。
かかっているルーの量を合わせるとかなり大変なことになる重量だが、恐ろしいことにカツやらフライやら唐揚げやらもつ煮込みやらが大量に乗っていた。
一昔前、とあるチェーン店でこれを食べきったら乗ってるトッピングも含めてタダになるというチャレンジメニューがあって、それを全国のチェーン店でやってブラックリスト入りした人といのがいる。しかも割と沢山居る。従業員の休憩室に顔写真が貼られている。
あくまで推測だが、望や刹那はこの畑のひとではなかろうか?
「うっ、おいひい……こんな都市伝説を倒さなくちゃならないなんて、慈悲はないんですか」
「……」
店先でごろんと転がったラプソディとねこざぐれいとがうろんな目で見ていた。
勇飛さんちの龍星号のシートにごろんと転がって見ていた。
福神漬けをさっさかのせる刹那。
「地方によってはこれ、レーズンが入ることがあるんですってね」
「そのカレー、神戸で見たのよ? ご飯にレーズン入ってたなのよ?」
こっちはこっちでマイペースにカレーがっつきつつ喋る杏子、とねこさん。
店先で三匹ピラミッドみたいに積み上がってたらおもしろそうだったが、今は杏子の膝に乗っかっている。
「あのね、カレーはね、りんごとはちみつのが好きよ!」
「ロングセラーですもんねえ。実際にリンゴと蜂蜜を入れてもああはならないといいますか……」
「あとあと、カレーおせんべいにカレーをつけたらね、とってもおいしいの!」
「カレー粉がまぶしてあるようなものですしねえ……」
「あとあとあと、ブロッコリー入れたらびっくりする味になるの!」
「シチューには合うんですけどねえ……」
なんだか和やかに過ぎていく時間。
膝の上でねこさんがあくびをした……ところで、はっと気づいた。
これ、戦闘する依頼だ。
●カレー屋でバイトしてたら体重が55キロまで減った男の話、する?
「くらえカレー魔神!」
「うりゃー!」
カレー魔神にカレーとチャーハンを同時にそおいする赤ちくわマンとチャーハンJC(スナイパーとクラッシャー的行動)。
その後ろでは妙子が服を汚さないようにカレーうどんをすすり(メディック的行動)、摩那は投げやりに槍を投げつつカレーライスのご飯を崩していた(クラッシャー的行動)。
その間刹那は1300グラムのカレーを完食して勝利した刹那UC状態(ディフェンダー的行動)となり、杏子は三匹のねこたちと共にカレーうまうま空間を維持(ディフェンダー的行動)していた。
「戦闘する依頼と言っておきながらほとんど皆食べてるじゃないですか。一体どういうことなんですか」
望は自分のことを棚に上げて山盛りカレーライスをがっつきつつ(クラッシャー的行動)振り返った。
「後よろしくおねがいしますね!」
「お、応!」
決め台詞のチャンスを逃さない勇飛である。
「せめて祈ろう」
勇飛はここぞとばかりに除霊を結界すると幻狼が銀爪撃して閃光の百裂拳がグラインドにファイアした。
何が起こってんのかよくわっがんねーから今度誰かGIFアニメかなにかにしていただきたい。
「汝の魂に、幸いあれ」
爆発するカレー魔神を背に瞑目する勇飛。決め台詞ノルマをきっちり達成する勇飛の鏡である。
「なんという強さ。貴様たちは何という名だ」
「フ、俺は――」
「食滅者です」
決め顔で振り返った勇飛にかぶる形で望が名乗った。
「食滅者、か……覚えておこう」
「お、おい」
「だが世界にカレーがある限り吾輩は何度でもよみが――」
喋ってる途中にまひるがちゅるんって吸った。
魔神をちゅるんって吸った。
「あっおいまだ喋ってる喋って……あー……」
「では皆さんごいっしょに」
ぱちんと手を合わせる摩那たち。
「「ごちそうさまでした」」
作者:空白革命 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年11月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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