我のイガこそ最強! 積丹ウニ怪人!

    「今年も栗怪人が逝ったか。イガ怪人の面汚しめ」
     北海道は、積丹半島。
     神威岬の先端で風を受けるのは、積丹ウニ怪人……その名もシャコ。
     ウニちっくな頭のトゲトゲは妙にスタイリッシュな生え方で、スパイク付のアーマーの色は、しいて言うならウニブラック。
     しかし怪人仲間からのあだ名は、ずばり『シャコたん』である。
     ……『シャコたん』である。
    「灼滅者ごときにやられてしまうとは、同じイガ持ちとして情けない。やはりイガ怪人の最高峰はウニ怪人だな。私が出張るとしよう……」
     決意に身を焦がし、身を翻すシャコたん……もといウニ怪人。
    「いや、その前に腹ごしらえだ」
     怪人の足は、真っ直ぐにウニ丼の店へと向いていた。

    「新しいウニ怪人の噂を聞いたよ……」
     マルティナ・ベルクシュタイン(世界不思議ハンター・d02828)の情報を元に、初雪崎・杏(高校生エクスブレイン・dn0225)がウニ怪人の動きを察知したのは、ある秋の日の事。
    「ウニや栗怪人は、一部では『イガ怪人勢』としてお互いに意識しているようだな」
     今回、積丹ウニ怪人が、戦いに備え腹ごしらえをすることが予知された。最前の接触タイミングは、そのウニ丼店での食事中である。
    「しかし、怪人に食事を中断する気はないようだ。大人しく食事が終わるのを待つか、説得なり挑発して戦いに持ち込まなければならないな」
     ちなみに食事が終わるのを待っていると、ウニパワー全開となり、若干戦闘力が増してしまうというデメリットがある。
    「ってことは、楽にボコる……げふんげふん、灼滅するには、挑発する必要があるんだね……」
    (「殺る気だ! この人殺る気満々だよ!」)
     マルティナの足元で、霊犬の権三郎さんが、物申したげな顔をしていた。
    「この怪人は、あまり物事に動じない性格のようなのだが、反応しそうなキーワードは、イガ怪人、『シャコたん』、あたりか……」
     我こそはイガ怪人勢最強なり、という高いプライドの持ち主なので、そこを刺激してやるべきだろうか。
     ただし、『シャコたん』の方は、挑発の仕方次第では逆効果な予感もする、と杏は言う。
    「それで、怪人が使う技は、ご当地ヒーローのサイキックと……他には……?」
    「ウニボロスブレイドだ」
    「ウロボロスブレイド……?」
    「ウニボロスブレイドだ」
     しばし見つめ合う2人と1匹。
     耐え切れず、杏は顔を赤く染めた。
    「べ、別に私が付けた名前ではない! 奴のダジャレセンスだ!」
    「能力自体はウロボロスブレイドと一緒……?」
    「あ、ああ。刃にトゲがついているがな」
     ポジションはスナイパー。当てる気満々である。
    「シャコたんって呼んだら……怒るかな、シャコたん……」
    (「やべえ、呼ぶ気満々だ!」)
    「権三郎さんがまた何か言いたげだが……」
    「なんのこと……?」
     杏の指摘に、マルティナは小首を傾げた。
     権三郎さんがスルーされた。


    参加者
    天鈴・ウルスラ(星に願いを・d00165)
    天津・麻羅(神・d00345)
    神泉・希紗(理想を胸に秘めし者・d02012)
    空井・玉(野良猫・d03686)
    五十里・香(魔弾幕の射手・d04239)
    冴凪・翼(猛虎添翼・d05699)
    神凪・燐(伊邪那美・d06868)
    若林・ひなこ(夢見るピンキーヒロイン・d21761)

    ■リプレイ

    ●孤独のシャコたん
    (「うう、ウニ丼……美味しそうなんだよ」)
     怪人の食事風景を近くの席から見つめるのは、神泉・希紗(理想を胸に秘めし者・d02012)。
     次々と、怪人の口に運ばれるウニと白米。
    「旬を過ぎてもやはりウニは美味いな。もぐもぐ」
    (「くう~、後でそのトゲトゲぜ~んぶ刈ってツルツルにしてあげるんだよ!」)
     お冷を手に、希紗がぐぬぬと歯を食いしばっている頃。
     店の外では、五十里・香(魔弾幕の射手・d04239)たちが、怪人の食事が終わるのを今や遅しと待っていた。
    「積丹ウニ超楽しみー!」
     若林・ひなこ(夢見るピンキーヒロイン・d21761)のハイテンションの理由は、吸収した積丹パワーか、それとも食欲か。
    「何はともあれ、まずは腹ごしらえ、分かる! 分かるよ怪人!」
    「ええ、ウニ、おいしいですよね」
     店からのいい匂いに、お腹をおさえる冴凪・翼(猛虎添翼・d05699)を見て、穏やかに微笑む神凪・燐(伊邪那美・d06868)。
    「そうそう! ……じゃなかった、面倒事はさっさと片付けないとなー」
    「この怪人、何かイガ関係で妙なプライド持ってるみたいですが、周囲に多大な被害を及ぼす前に退治しちゃいましょう」
     怪人も、最後の晩餐になるとは思っていまい。今は昼だが。
    「ふっ、いくらパワー全開になろうと所詮は倒されるだけの邪神……好きなだけウニを食べて力を付けると良い」
     腕組み仁王立ちの天津・麻羅(神・d00345)の横では、空井・玉(野良猫・d03686)がスマホでこの店の評判を確認中。
    「にしても、昔の日本人は、よーあんなモノを食おうと発想出来たもんでゴザルなぁ」
     あのウニ独特のビジュアルに、天鈴・ウルスラ(星に願いを・d00165)が、妙な感心をこぼしていると。
    「おっ」
     店から出てきたウニ怪人と目が合った。
    「おや、こんにちはデース」
    「こんにちは。……こんにちは?」
     怪人がこちらを二度見した。
    「蝦蛄たん! 甲殻怪人の蝦蛄たんじゃないか!」
     怪人を指差す玉。
     しかし、怪人の頭のてっぺんから足の先までチェックすると、
    「……すみません人違いでした! 『シャコたん』違いでした!」
    「『シャコたん』って呼ぶなああああ!」
    「『シャコたん』カワイイー!」
    「だから『シャコたん』言うなああ!」
     ひなこに遊ばれるウニ怪人。
    「反応するのはあだ名の方か? イガ怪人のプライドどこ行った」
     香のツッコミは、『シャコたん』……もとい、ウニ怪人の耳には届かない。

    ●灼滅はウニ丼のあとで
    「ともかく、ちょっと顔を貸してもらおうか」
     香が、店と反対の方角を差すと、怪人は渋い顔。
    「貴様ら、見たところ灼滅者のようだな。そちらから来てくれるとは手間が省けたが、貴様らのいいなりは納得がいかんな。こちとら天下のウニだぞ。イガ怪人で一番有名だぞ」
    「はて、イガものと来れば栗が一番でゴザろう。秋の食べ物の代表格として、昔から親しまれてるデース。むしろ栗しか浮かばないっていうか……他になんか有ったっけ? デース」
     わざとらしく、首を傾げるウルスラ。
    「栗ごときと一緒にするな! 反吐が出るわ!」
    「むっ、山鹿栗怪人のトゲ超痛かったし、イガ守ろうと頑張る姿は超カッコ良かったです! バカにするなんて許しません!」
    「名物ウニに誇りを持つのはよいことですが、それで迷惑をかけるのはいけません。まして他の怪人を悪く言うなんて」
     ひなこと燐から、ダブルでお叱りを受ける怪人。
     ダメ押しは、麻羅からの挑発。
    「ウニ丼を食べてパワー全開になったお主と、人気がなく広い所で相手してやろうというのじゃ。ここまでお膳立てして尻込みする様では、所詮は……のう」
    「そこまで言われて、黙っているイガ怪人はいない。だが、場所は私が指定するぞ。とおっ!」
    「とおっ」
     怪人に合わせ灼滅者もジャンプすると、場所と時間は、怪人が前にいた岬に移る。
     高まる緊張感……を破り、希紗がとてとてと駆けてくるのを、玉が見つけた。
    「お待たせ~、お客さんの方は大丈夫だよ!」
     全員集合したところで、天星弓を構え殺気を放つ翼。その心中は、
    「……ウニって焼いても美味いよな? 怪人も美味い?」
    「私を食う気なのか?」
    「それでは私もお手伝いを」
     燐の動きに、怪人がおののく。
    「私を食う手伝いを!?」
    「違いますよ」
     燐のお手伝いはサウンドシャッター。
    「それでは、みらくるピンキー☆めいくあっぷ!」
     ウニ丼へのアツい思いが、ひなこを変身させる!
    「癒し系どさんこアイドル・メリーピンク参上☆ あえてフルパワー待ったのがなぜかわかりますか? その状態でコテンパンにしたら超楽しいからですよフッフッフー!」
     わるいえがおだった。
    「そしてわしは天津・麻羅、高天原の神(自称)なのじゃ! この地の民を誑かす邪神めが、このわしが成敗してやるのじゃっ!」
    「というわけで、始めようか、『シャコたん』」
     香が、『NHgT』の名を持つウロボロスブレイドを抜いた。

    ●ビストロシャコたん
    「まずは、そこの大人しそうな眼鏡女子から料理してやろう!」
     怪人が狙いを定めたのは、燐。
     だが、その身がどす黒い殺気を放った。眼鏡の奥の瞳は、もはや笑っていない……!
    「ひっ」
     たじろぐ怪人を、ウルスラのダイダロスベルトが狙う。
    「右、いや左か!?」
    「残念、上デース」
     絶妙なタイミングで角度を変え、怪人の服を切り裂いていく。
    「希紗の目の前であんなに美味しそうにウニ丼を食べた罪……きっちり償ってもらうんだよっ!」
     鬼神化した腕で、希紗が怪人を殴る。
    「これは希紗の分! これも希紗の分!」
    「多くない? お前1人の分、多くない?」
    「なら、私の分も追加してやる」
     がすん。香のマテリアルロッドが、怪人を地面に叩きつけた。顔面から。
     容赦ない仲間たちに続き、玉の日本刀『A.B.C ver.0.6』が閃く。先行していたクオリアの突撃に合わせ、力いっぱい叩き斬る。
     挙句に、翼から蹴り飛ばされた怪人は、とっさに体をボールのように丸め、地面を転がる。
    「まさにウニそのものだな!」
     翼、感心。
    「ウニ、フルパワーァァァァァ!」
     ぎゅるん、と回って人型に戻ると、怪人の手には刺々しい得物が握られていた。
     近くにいたウルスラを、そのウニ鞭剣で縛り上げてしまう。
    「これが噂のウニボロスブレイド、デース!?」
     動くとトゲが当たって痛い!
    「支援と回復ならお任せを☆」
     ひなこのダイダロスベルトが、ウルスラの傷を保護した。包帯と鎧の二重効果!
    「むっ。だが、ウニボロスブレイドの威力は思い知っただろう!」
    「ええい、厄介な武器を使う邪神じゃな!」
     きっ! にらみとともに、麻羅の必殺・神ビームが、ウニボロスブレイドを弾いた。
     開いたガードに、メンチがパンチ。ちゃっかり、トゲの少ない部分を狙って。

    ●突撃、積丹の昼ごはん!
    「ところでなんで名前がシャコたんデース? エビの怪人ならギリギリ解るにしても……」
     焔蹴りで相手の体を焼きつつ、ウルスラが問いかけた。
    「『積丹』からの『シャコたん』であって、『蝦蛄』ではない! というか、そもそもこのあだ名認めてないからな私!」
     反論しつつ、燐と格闘する怪人。
     俊敏な身のこなしで、かわす燐……いや、ただ避けているだけではない。挙動1つごとに、怪人のイガを切り落としているのだ。
     イガを踏み越え、香がウロボロスブレイドを繰り出す。
    「お前、いい武器をもっているな。だが、ウニボロスブレイドの方がイガの分、強い!」
    「使い手のセンスはないようだがな」
     怪人のウニボロスブレイドと絡み合うように打ち合った後、剣刃の嵐を巻き起こす。
    「チャンス! タマちゃん! 甲賀流グランドクロスで行くよ!」
    「えっ」
    「イガのライバル、それは甲賀をおいて他になし! いっくよーーーーおぉぉぉぉ!!!」
     希紗が玉の方へ、怪人を蹴り飛ばす。
     説明しよう!
     甲賀流グランドクロスとは、蹴りを叩き込んだ点を中心に、居合斬りの連撃で十文字に斬り裂く必殺技である!
     だが、
    「打ち合わせとかしてないよ!?」
     玉がとっさに繰り出した日本刀は、微妙にタイミングがずれていた。
     浅く脇腹を切られ、地味な感じで崖っぷちに転がっていく怪人。
    「あー! 失敗したよー!」
    「……ノリで無茶振りするのホントやめよう?」
     2人がそれぞれ頭を抱える間に、こっそり後退しようとする怪人。
    「おおっと、敵前逃亡たぁ随分とカッコ悪いねぇ……ま、『シャコたん』なんてあだ名つけられる奴じゃその程度かもな」
     翼の拳が、焔を灯す。
     赤熱化したオーラが、相手のあごをとらえた。
    「がッ! た、態勢を立て直そうとしただけだ! イガ怪人最強の私が、この程度で臆するとでも?」
     折れた歯を吐き捨てながら、ウニボロスサイクロンを繰り出す。
     イガの乱舞をくぐり抜け、麻羅が行く。
    「くらえ、神ダイナミック!」
     怪人を、えぐい角度で地面にぶつける麻羅。
    「中身出ちゃう! くそっ、ウニパワー全開のはずなのに……! まさか、食べ過ぎ!?」
    「これで、とどめですー!」
     ひなこの交通標識が、怪人の脳天をかち割った。ぱっくり。
    「こ、この私がやられるとは……!」
     愕然とするウニ怪人だったが、一転、いい笑顔になると、
    「いいだろう……灼滅者、お前がイガ怪人ナンバーワンだ」
    「その称号はいらん」
     香が首を振ると、ウニ怪人が爆散した。
     さらばウニ怪人。美味しくいただくことはできなかったよ。
    「さて、露払いは終わったわけだし……ウニ丼! 食べてってもいいよな? な?」
    「この瞬間を待ってたんだよ! お腹ぺっこぺこー!」
     翼がウニ丼の名を出した途端、ぬわーっとテンションの上がる希紗。
     その昂ぶりのまま、再び店へ。
     皆がウニ丼一択の中、麻羅は、
    「わしはここであえていくら丼を頼むのじゃ!!」
     それはそれで美味しそう。
    「お、来たぞ」
     香が、人数分の丼を迎える。
    「いただきます。怪人も、こうしてウニ丼を食べているだけなら悪いことはなかったんですけどね……って、あらあら」
    「キャー! 積丹ウニー! 旬過ぎても濃厚なこの甘さ! サイコーですっ!!」
     ゆっくり味わう燐と、誰よりハイテンションでかきこむひなこ。
    「はい、タマちゃん! あ~んして」
     希紗が、玉に一口分のウニ丼を差し出す。
    「あーん……」
     つーん。
    「ってこれ、ウニの量よりわさびが多い……!」
    「あー! タマちゃんの方がウニ多い! ずるいずるい!」
     ぬけぬけと口を開けて待つ希紗に、玉はわさびをねじこんだ。山ほど。
     つーん。
    「……ッ!」
     そんなわさび地獄絵図を、まったり眺めるウルスラ。
    「仲良きことは美しきかな、デース」
     やがて、皆の丼は、綺麗にからっぽ。
    「あー、美味かった! 満腹満腹! あ、土産も買ってかなきゃ!」
     北海道をまだまだ満喫する気満々の翼であった。

    作者:七尾マサムネ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年11月23日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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