邪心は紅蓮に灼かれ

    作者:夕狩こあら

     とある河川の上流に湧く温泉は、秘湯マニアのクチコミによって密かに人気を集めているのだが、ここ最近は『別のマニア』の注目スポットにもなっているという。
    「大自然に佇む裸も最高だが、大自然に脱ぎ捨てられた下着も最高だ!」
     下着泥棒である。
     男は興奮を抑えつつ、静かに脱衣所に近付き、ゆっくりとドアノブに手を掛けた。
    「若い娘さんの純白のがいいなぁハァハァ」
     その時、背後の森よりガサッと大きな音が立ち、男はギクリとして振り向く。
    「ヘヘ……同業者同士、仲良くしようじゃありませんか」
     最早彼も慣れたもの。彼は突如現れた客人にも動じず、逆に誘い合わせ、大いに変態趣味を分かち合うつもりだった。
     然し――そこに現れたのは見た事もない炎の牡鹿で、
    「おわああっ! 化け物!」
    「メイイイイィィィッ!」
     それは燃える角を振りながら、灼眼を怒らせて来る。
    「ッ!」
     哀れ下着泥棒は、次の瞬間、その鋭角に喉を貫かれて絶命した。
     
    「呉羽の姉御~、大変ッス~!」
    「また咎人が闇の手に?」
    「今度は、気紛れに移動してきた鹿型イフリートに、下着ドロが、襲われる事が、分かったん、ス!」
    「下着……ドロ……」
     息を切らしてやって来た日下部・ノビル(三下エクスブレイン・dn0220)が途切れ途切れに説明する内容に、天城・呉羽(蒼き鋼の聖女・d26855)はそっと眉根を寄せた。
    「自業自得と思うかもしれないんスけど、ここは下着ドロの安全も確保した上で、イフリートを灼滅して来て欲しいんス!」
     下着泥棒とて、か弱き一般人。イフリート諸共灼滅してはならない。
     呉羽は括れた腰に手を当てながら、ノビルに仕方なく頷いた。
    「ただコイツも慣れたもので、ちょっと声を掛けたくらいじゃ言葉巧みに丸め込まれる可能性があるんで、注意が必要ッスね!」
     面倒臭い、と思うなかれ。
     なるべくなら、彼が下着を掴み取る前に思いとどまるよう導いて欲しい。
    「このイフリートは、見た目は屈強な牡鹿で、頭部に生えた角をメインに攻撃を仕掛けて来るッス。身体は常に明るく燃えていて、己の炎で作った影を影業のように使うみたいッス」
     戦闘時のポジションはキャスター。
     前面は角を中心とした攻撃の要が、太い後脚には機動の要がある。
    「ただ、ヤツも獣……生命の危機を感じれば、得意の跳躍を活かしてサッサと逃げてしまうおそれがあるんで、布陣には注意が必要っすよ」
     大自然に逃げ込まれては、圧倒的に敵が有利。追討は難しいだろう。
    「戦闘を勝利で収めた後は、温泉で疲れを癒して来て欲しいッス。その頃には脱衣所も安全になってる筈っすから!」
     ノビルより地図を受け取った呉羽は、
    「ご武運を!」
     その背に敬礼を受け取って現場に向かった。


    参加者
    御神・白焔(死ヲ語ル双ツ月・d03806)
    深火神・六花(火防女・d04775)
    龍統・光明(千変万化の九頭龍神・d07159)
    皇樹・零桜奈(漆黒の天使・d08424)
    備傘・鎗輔(極楽本屋・d12663)
    倉丈・姫月(白兎の騎士・d24431)
    天城・呉羽(蒼き鋼の聖女・d26855)
    天城・紗夕(蒼き霧の聖女・d27143)

    ■リプレイ


     平野より一足早く冬を迎える深山は、樹々を抜ける風も凛と冴え渡り、岩間を流れる川はサァァァ……と耳を掠める水音に出湯を隠しつつ、穏やかに佇む。
     四方に広がる大自然に目を遣りながら、其処に潜む敵の息吹に戒心を巡らせる倉丈・姫月(白兎の騎士・d24431)は、
    「イフリートも問題じゃが、下着泥棒にも困ったものじゃ」
     と、脱衣所を一瞥し、済んだ大気に溜息を混ぜた。
    「現行犯逮捕が一番攻めやすそうですね」
     彼の声に頷きつつ、そのドアノブに手を掛けた天城・紗夕(蒼き霧の聖女・d27143)は、
    「今回の責任者という事で呉羽の下着を……って、何故既に私の下着が!?」
     中に入った瞬間、脱衣籠に置かれた見覚えのある紫の上下に、直ぐさま振り向いた。
    「ちょっと呉羽! どういう事!?」
    「囮としてさゆ姉のを置いておこうって……さゆ姉も同じこと考えてた?」
     義姉の吃驚を受け止めるは、天城・呉羽(蒼き鋼の聖女・d26855)。
    「つるんぺたんなブラも特殊な需要はある筈」
    「な、っ」
     彼女は、特殊って――と口篭る紗夕の手にある自分の下着も仲良く並べると、
    「どちらが取られるか勝負ね」
    「ちょっ、と――」
     本人の同意を得る前に、その手を引いて物陰に潜む。
     彼女が急かす通り、確かに刻は迫っていて、
    「山奥に佇む下着ハァハァ……活きの良い下着ハァハァ……」
     間もなく件の下着泥棒が、荒い息遣いで現れた。
     男は颯爽と脱衣籠を覗き込むと、
    「……ピンクの揃いが可愛い豊満型に、慎ましやかな魅惑の紫……あぁん、大当たり!」
     嬉々と手を擦り合わせて「お宝」を鷲掴んだ。
     その時、
    「シスター呉羽の懺悔室ー」
     どんどんぱふぱふー。
    「盗みは良くない」
    「!? まさか、本体……様……?」
     是に頷く聖女が男の前に立ち、罪深き告解と有難い説教が始まると思いきや。
    「処でどっちの下着が好み?」
    「ファッ?」
    「中身はいらないの? さゆ姉ならあげるよ?」
    「ま、まじで! 欲スィ!」
    「ちょっと!」
     迷える子羊を苛む呉羽の言は、肩を怒らせた紗夕に遮られる。
     と、――そこに忍び寄る影は、懺悔も終わらぬ裡に煉獄へと誘うか、
    「この手の輩は再犯するから、二度と欲情しないよう精神折檻が必要だね」
     不敵な笑みを満面に湛えた備傘・鎗輔(極楽本屋・d12663)が、祝詞を紡ぐが如く濃厚なエロスを語り、咎人を桃色地獄に突き堕とした。
    「はわ、はわわ……」
     下着フェチの種類から、下着を盗まれて取り乱す女性を好む人種、敢えて捕まる剛の者の存在など――あらゆる業を脳髄まで流し込む、その表情は普段とは真逆に感情豊か。
     彼に圧倒された男が愈々意識を手放す頃、介錯を施したのは龍統・光明(千変万化の九頭龍神・d07159)。
    「因果応報ってヤツだが……寝覚めが悪くなるのも嫌だし、仕方ない」
    「ぐえっ」
     断罪の一撃を限りなく押し殺し、当身を入れて男を床に沈めた後は、来る戦闘に巻き込まぬよう身を拘束し、
    「正直……あまり……助ける気には……ならないけど……」
     死なせるのも後味が悪い、と溜息を零した皇樹・零桜奈(漆黒の天使・d08424)は、男を安全な位置まで運びつつ、殺気を払って戦場を整えた。
     そうして脱衣所に男を安置すれば、外では敵を迎え撃つのみ――。
    (「炎神、山の大神……何事も無く、炎邪灼滅叶いますように……」)
     一心に祈念していた深火神・六花(火防女・d04775)は、艶髪を遊ばせる涼風が風向きを変えて熱帯びる瞬間に細顎を持ち上げると、
    「――現れたか」
     更に静寂に沁むテノール――御神・白焔(死ヲ語ル双ツ月・d03806)が、枝葉を灼いて踏み歩くイフリートを捉え、その低い嘶きを犀利なる炯眼に迎える。
    「……ブルッ」
     怒れる灼眼は彼の眸に青き極光を見ると、その煌きを蹂躙すべく炎蹄を蹴り上げた。


     大気すら焼かんとする炎獣の殺気に、零桜奈と六花は闘争のペルソナを浮かび上がらせ、
    「ソノ死ノ為ニ、対象ノ破壊ヲ是トスル」
    「炎神! 輪壊!! ――炎邪角王! ここにて滅せよ!!」
     多くを語らぬ唇は好戦的に嫣然を湛え、優艶のメイドは厳然たる士と相成り、迫る業火の塊を激痛にもてなす。
    「メェイイイイッッッ!」
     火球の如く突進する躯を【蒼炎の大盾】にて受け止めた零桜奈は、その堅牢を以て前列の耐性を高めると、衝撃を散らした瞬間に赫熊甲「金神(がちりん)」を解放した六花が、機動の要――後脚を狙う。
    「金縛、掴み捕れ!」
    「メ゛ェェエッ!」
     痛撃は甘んじたものの、強い脚蹴りに捕縛を拒んだイフリートは、次いで追撃を駈るクラッシャー陣に赫々たる炎の奔流を浴びせた。
    「グルルルルルルッッッ」
    「よく鳴く」
     威嚇して吼える炎獣とは対照的に白焔は寡黙。
     唯、轟音を弾いて飛び込む巨杭は雄弁か、風を集めて旋回した切先は鋭く炎を穿ち、
    「斬り裂く、九頭龍……龍ヶ逆鱗」
     灼熱を裂いた光明のブレイドサイクロンは、躍る様に撓って燃える躰に創痍を刻んだ。
    「ギギギギィィッ!」
     斬撃に火粉が舞い、繁吹く血は炎の花となって散り――両者の連撃に堪らず叫喚したイフリートは、焔の翼を羽撃かせて傷を塞ぐと、怒りに力を増して火影を走らせた。
    「そういえば、イフリートってなんで温泉目的で来るのかな?」
    「偶々通りがかったにしては多いのう」
     言を交わしつつ盾を成すは鎗輔と姫月。
     片や白き花弁の如く身を翻して影刃を蹴落とせば、同時に迫る巨躯には古書キックが小気味良く降り墜ち、
    「メェイイイッッ!」
     更にわんこすけが遠巻きに六文銭射撃を撃ち込めば、弾幕に包まれた邪獣は痛撃に踏鞴を踏む。
     漸く脚を止めたイフリートは、ここに初めて灼滅者らの囲繞に気付いたか、
    「温泉はどうしてこうもイフリートやら変態やらを呼び寄せるのか」
    「……呉羽の所為かな……」
     左右より天翔る双翼――呉羽と紗夕の連撃に明らかな焦燥を見せた。
    「ッッ、メエェェッ!」
     両角の間、狭い額を的確に捉えた縛霊撃が頭ごと押え付けた瞬間、滑るように疾駆した殲術執刀法が、攻撃の要である角の片方を手折る。
    「イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛ッッッ!」
     自らの誇りを断たれた炎獣は痛撃と憤怒に絶叫すると、愈々その眼を灼光に滾らせ、焔の怒涛を四方に巡らせて灼滅者達を蹴散らした。
    「――ッ、そう猛るな。暑くて敵わんのじゃ」
     迸る紅蓮に姫月は柔肌を灼かれつつも、縛霊撃にて振り払い、
    「目には目を、歯には歯を、炎には炎をってね」
     鎗輔は片腕を呑み込む焦熱を受け取りながら、グラインドファイアを被せて相殺する。
     正邪の焔は渦を成して爆ぜ、衝撃と烈風が戦場を駆け抜ける中、風切る翼となって碧空に躍ったのは零桜奈。
    「貴様も……獣なら……弱肉強食が……自然の……摂理……だろう……」
     紅蓮の幻獣種とて強者に淘汰される身に変わりなく、神速で繰り出された十字架戦闘術は誰がその強者かを見せ付けるようにイフリートの躯を後退させる。
    「ブルルルルッッッ!」
    「まるで初めて退いたと言うような表情ですね」
     熾烈なる打突に頭を振った炎獣は、紗夕が紡ぐ祝福の言葉に火傷を癒していく彼等を睨め回し、蹄を鳴らして苛立ちを露にした。
    「裁かれるのも初めてだろうね」
     激情を駆り立てるように殲術執刀法を差し出す呉羽は淡然と、
    「メィィィィイイッッ!」
     スナイパーならではの精緻な軌道に脚を斬り、体幹を崩した瞬間にはジャマーの六花が畳み掛ける。
    「煌星、叩き落せ!」
    「グルルァァッ!」
     重力を纏う踵落としに後脚は折れ曲がり、得意の跳躍を押さえ込まれた矢先、光矢の如く飛び込む斬撃が十字を描いて交わった。
     光明と白焔である。
    「散り誇れ、閃刃流那龍……蓮華」
     絶【形無し】が身を暴いて冴光を放ったのも一瞬、「散華」の掛け声に血飛沫の蓮華が咲き散り、
    「イ゛イ゛イ゛イ゛ィィィッッ!!」
     その剣閃に潜り込んだ黒死斬は軌跡すら見せぬ。
     斬れるほど鋭い蹴りは炎血を噴く筋を断ち、
    「先ず1本――」
     と、後脚の片方を地に転がした。


     敵を大きく劣勢に傾けた今、当初より包囲網を維持してきた灼滅者達は、此処に圧倒的優位を得る。
    「メイィィィ……ッ、ッッ」
     機動の要となる後脚、その片方を失った炎獣は敗色濃厚を悟ってか、紅き魔眼は囲繞の隙間を探るよう泳ぎ出し、
    「退路を探し始めたのう」
    「抉じ開ける気か」
     物言わぬ獣の視線に挙動を追っていたディフェンダー陣は、強靭なる盾を堅持して脱出を阻んだ。
    「何処に行くつもりじゃ」
    「わふっ」
     わんこすけは常にイフリートの跳躍の先に位置取って逃亡を防ぎ、姫月もまた空中機動を駆使して蹄が向かう先を神霊剣に牽制すれば、
    「ギギィィィイイ!!」
     反駁に放たれる紅炎には、零桜奈が眸の色に似た蒼炎を被せて蹴散らす。
    「己が宿敵……炎禍を……逃しは……しない……」
     ここで仕留める――。
     熾烈なる焔の角逐は爆音と熱風で木々を揺らすも、灼滅者達の布陣は終ぞ乱れず、
    「逃げそうな場所は押えてあるからね。動きが読み易いよ」
     更に前もって戦場の地理を把握していた鎗輔は地の利を得たもの。
     進路を予測して合わせたカウンターアタックは感情の絆を結んで疾く鋭く、身に纏う【召された本の魂】は眩き光の掌打となって絶望を突き付けた。
    「グルルルルッッッ!」
     痛痒に躯を折りつつも、生への渇求は殺がれぬか――猛牙を剥いて気焔を吐く炎獣は、尚も火影を揺らし、
    「メェイイイッ!」
     眼前に正対する白焔を捕えたと思いきや、掴んだのは――空。
    「己より疾い者は知らぬらしい」
    「――!」
     前触れ無く目の前から消え失せた影は、枝葉に風を残したのも瞬刻、蒼天より墜下して角を断ち切り、
    「イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛ッッ……ッ!」
     激痛を叫ぶイフリートは、それが【封焔戎装““罰”】より弾かれた灼罪の光条と知る間もなく悶えるのみ。
     超速の立体機動に翻弄された炎獣には容赦なく追撃が迫り、
    「何を言わなくても合わせてくれるから、さゆ姉好き」
     そう言って敵懐に潜る呉羽の傍らには、阿吽の呼吸で続く紗夕。
    「……と、とにかくちゃっちゃとイフリート倒しますよ!」
     性格は斯くも異なる二人ながら、狙うは言わずもがな後脚と合致している。
     同時同部位に炸裂した神霊剣と零距離格闘は、残る片脚の骨を髄まで断ち、遂に燃え盛る巨躯を地に転がした。
    「メェギギギギッッッ!」
     退路を拓く猛角を失い、躍動する脚も奪われれば、最早逃げられまい。
     イフリートは不死の紅翼を広げて体勢を立て直すも、震える前脚では死角に回り込む六花の影すら追えず、
    「炎邪角王! 山の大神の御前に伏せ!! ――飛燕、捉えろ……!」
     闇雲に地を這う火影ごと居合いの息吹に斬られれば、彼女の言葉通り、疾駆する斬撃にのたうつばかり。
     今際の刻を悟りつつ、未だ包囲の向こう側に視線を注ぐ命には、光明が止めを差し、
    「総餓の名の元其の業……創破よ喰らい尽せ」
     澱みなき言に紡がれて解き放たれた2匹の巨龍には声もない。
    「……ッッ……ッッッ……!!」
     イフリートは燃える血潮の最期の一滴まで喰われ――頓て燻りと消えた。

     軍庭に漂う熱を秋風が運んだのは寸刻の後。
    「来世在らば、次は和魂と生らん事を……」
     武装を解いて拍手を一つ蒼穹に染ませた六花は、一心に祈念して魂を見送った。


    「お疲れ様」
     イフリートを灼滅した一同は、然し未だ安堵に落ち着く間もなく、次は脱衣所へと向かって「残る懸念」に対応していた。
     共闘した仲間を労いつつ、脱衣所の扉を開けた光明は、その音に目を覚ました男を灼眼に見下ろし、
    「お前がやっているのは犯罪だ。此れに懲りたら悔い改めろ」
    「はっ、はひ……」
     言い訳一つ許さぬ確かな語調が、盗みの玄人に罪を認めさせ、
    「下着泥棒は……窃盗行為……立派な……犯罪だ……」
    「ひっ、お助け……!」
     隣に据わる零桜奈が、犯罪者に容赦はせぬと武器を構えて凄めば、余程の恐怖に男は何度も首肯するのみ。
    「今回のは余罪もあるし、罪の告白を聞くだけでは済ませられないかな」
     シスター呉羽は改心の光を最終手段に、咎人に慙愧の念を呼び起こすと、
    「うっ、うっ、すみませんでした……」
    「今なら悔い改め、新しい意気込みと共に生きていける筈」
     己の過ちに涙する子羊には、シスター紗夕が慈悲に溢れた声を掛け、
    「うぅ、お巡りさん……アッシです……!」
     すっかり心を洗濯した下着泥棒は、固く決意して立ち上がると、拝借した「お宝」を握り締めたまま、交番へと走っていった。
    「あっ、私の……! 待っ――!」
    「……尊い犠牲を忘れない」
     哀れ義姉妹が仕掛けたトラップはそのまま物的証拠となり――社会貢献。
    「これで少しは懲りてくれるといいんだけどね。まったく」
     走り去る男の背を嘆息して見送った鎗輔は張り紙を掲げ、
    『下着ドロは最低の行為です。
     見つけ次第、説教(物理)と折檻(精神)を施して、警察に突き出します』
     その字面より滲み出る闇黒のオーラを受け取った姫月は、
    「これで思い留まってくれると良いのじゃが」
     と、被害者が出ぬよう頷いたのだが、この場合、誰が被害者であるかは言うまでもない。
     一方の外では、白焔が戦闘痕の始末をする傍ら、六花が怪力と経験を活かして温泉を掘り当てており、
    「その速さ……職人芸だな」
    「ホントに手馴れてきた……!」
     自分で唖然とする程、手際良く癒しの場を整えて一同を呼び入れた。
    「イフリートも下着泥棒も居なくなれば、平和な湯じゃ」
    「細流で湯温を調整するのか」
     姫月と光明は手に掬う湯の温かさに漸く制勝の感を得、
    「これなら温泉卵を作って食べられるかな」
     人数分のタオルを配っていた筈の鎗輔はというと、足湯がてら卵を入れた籠を湯に沈めており、至る所まで準備が出来ている。
     水着姿で湯に浸かる六花は、その温もりにほっと吐息を一つ、
    (「これで温泉三連続……まぁ、嬉しいけれど、それ以上に何か起きそうな……」)
     その第六感は正しく、声の方向に瞳を繋いだ――その時、
    「重篤な……負傷者も……出ず……何より……」
     仲間の無事を確認して戦場を去ろうとした零桜奈の蒼眸に、白き柔肌が飛び込んだ。
    「さゆ姉のリアクションを肴に温泉を楽しまないとね」
     ぬく湯に上気した呉羽の膨らみはビキニ越しにたゆんと揺すられ、
    「……今日は直接、八つ当たりしないと!」
     義妹の挑発に応戦した紗夕は、罪な果実に手を伸ばして遠慮なく揉みしだく。
     それは余りに刺激的な絵で、
    (「天城様ご姉妹が……!?」)
     六花はハラハラと見守る中、紳士然たる白焔は咄嗟に目を反らしたようだが、
    「……!」
     ラッキースケベ体質なる零桜奈は、視界一杯にその光景を焼き付ける事となり、暫しその弾力が彼を悩ませた事は――秘密にしておこう。

     斯くして深山の秘湯に平穏を届けた一同は、勝利の福音に心身を温めて癒し、鋭気も新たに次なる戦場へ旅立ったという――。
     

    作者:夕狩こあら 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年11月23日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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