eSports!

    作者:飛翔優

    ●新たな知識を求める獣
     eSports。
     エレクトロニック・Sportsの略。
     大雑把に語るなら、複数のプレイヤーで対戦されるコンピューターを競技として捉えた、情報社会に生まれた新しいスポーツ。現在においてはプロはもちろんプロチームやプロリーグも存在する概念。
     夕暮れ時、仕事を終えて自宅へ向かう男も、そんなeSportsに魅せられた者の一人。彼は仕事の傍ら海外製のオンラインゲームに勤しみ、海外で行われる招待制の大会出場権がかかった試合に出場したこともある、プロに片足を突っ込んでいる実力者。
     今日もまた腕を磨くため、早足で自宅へと向かっている。
     夕日が沈み世界が夜に染まった時、彼もまた自宅のあるマンション前に到達した。
     マンションの玄関扉を開けようとした時、不意に、力が抜けたように崩れ落ちた。
     気を失った男を見下ろすのは、獣のパーツをいくつも組み合わせて作ったような姿を持つ化物……はぐれ眷属・ブエル兵。
     ブエル兵は静かな息遣いを紡ぎながら、男から知識を奪い続けていく……。

    ●夕暮れ時の教室にて
     灼滅者たちを出迎えた倉科・葉月(大学生エクスブレイン・dn0020)は、静かな笑みを湛えたまま説明を開始した。
    「とある街のマンション前。はぐれ眷属・ブエル兵が出現することが発覚しました」
     ブエル兵。
     人間から現代の知識を吸収する、獣のパーツをいくつも組み合わせて作られたようなはぐれ眷属。
     知識を吸収された人間は衰弱し、通常はおおよそ十五分後に死亡する。
     また、知識を吸収するまでは姿を消していて触ることもできない……という特徴も持つ。
    「人ひとりの命がかかっている相手です。全力での戦いをお願いします」
     続いて……と、葉月は地図を広げた。
    「ブエル兵が出現するのはこのマンション前。時間帯は夕方、日が沈んですぐのころ。被害者はこのマンションに住む会社員の男性、ですね」
     男性は海外製のオンラインゲームに勤しんでおり、その腕前は招待制の大会へ呼ばれる可能性もあるほどの実力者。
     その知識をブエル兵は狙ったのだろう。
    「ブエル兵が出現するまでは、こちらから手出しすることはできません。ですので……一度、男性をブエル兵に襲わせる必要があります」
     男性が襲われた直後、ブエル兵は出現。その後、十五分以内に退治できなければ男性は衰弱死してしまうだろう。
    「ですので、即座に戦いを仕掛けて十五分以内に退治する、という流れになりますね」
     敵戦力はブエル兵のみ。力量は、灼滅者八人ならば十分に倒せる程度。
     攻撃面に特化しており、多数の兵士の幻影を召喚して敵陣に連続した打撃を与える。大規模破壊魔法の幻影を呼び起こし敵陣の動きを制限する。大型怪物の幻影を作り出し攻撃する盾として従える……と言った行動を取ってくる。
    「以上で説明を終了します」
     地図などを手渡し、締めくくりへと移行した。
    「放っておけば確実に被害者が出てしまう、危険な状態です。どうか、全力での戦いをお願いします。何よりも無事に帰ってきて下さいね? 約束ですよ?」


    参加者
    影道・惡人(シャドウアクト・d00898)
    高倉・奏(二律背反・d10164)
    深束・葵(ミスメイデン・d11424)
    エルカ・エーネ(おもちゃばこ・d17366)
    栗元・良顕(雨の・d21094)
    櫻井・聖(白狼の聖騎士・d33003)
    守部・在方(日陰で瞳を借りる者・d34871)
    白砂・周(小学生七不思議使い・d35889)

    ■リプレイ

    ●ゲームの知識を持つ男
     おぼろに輝く月が世界を包む静かな夜。電灯を淡く輝かせ、仕事帰りの人々を出迎えていくマンションの玄関口。
     灼滅者たちは玄関口近くの植え込みや柱の側に隠れるように待機し、一人の男性の帰宅を……その男性の持つ知識を求めたブエル兵の出現を待っていた。
     動いていないからだろう。吹き荒ぶ風は冷たく肌を刺す。
     高倉・奏(二律背反・d10164)は白いため息を吐きながら、誰にともなく呟いた。
    「全く傍迷惑な話ですよ。彼は知識を奪われる為にゲームの腕を鍛えた訳じゃないってのに」
     今宵の男性は、セミプロと呼ばれるほどのゲームの腕を高めた者。
     ブエル兵が求めたのは、そのeSportsと呼ばれるゲームの知識。
    「ブエル兵って確かソロモンの悪魔の眷属でしたっけ。自分の眷属くらいきちんと管理して欲しいもんですけど……」
     半ばにて愚痴へと変わった言葉は、やがて決意へと灼滅の決意へと移行した。
     一方、深束・葵(ミスメイデン・d11424)は小首をかしげている。
     曰く、初めて聞いた言葉、eSports。エレクトロニック・Sportsの略。いつの間にネトゲがカルチャーになったのだろうか……と。
     傍らでは、エルカ・エーネ(おもちゃばこ・d17366)がまた別の言葉を呟いた。
    「ゲーム知識っていいものだよね、私もほしいよ? でも、それとこれとは話が別だもんね」
     その言葉に、否を唱える者はいない。
     各々の思いを胸に様々な言葉が交わされた後、一人の男性がマンションへと向かってくる姿が見えた。
     灼滅者たちが身構える中、男性は淡い光が照らす場所……玄関口で、糸の切れた人形のように崩れ落ちる。
     傍らには、獣のパーツをいくつも組み合わせて作られたような異形……ブエル兵!
     灼滅者たちは、人払いの力を用いた上で一斉に物陰から飛び出した。
     さなか、白砂・周(小学生七不思議使い・d35889)はブエル兵を前に思考する。
     知識を吸収する、ということは捕食するということなのだろうか? ならば、果たしてそれはどんな味なんだろう?
    「……てゆっかさ、仕事終わりの楽しみを邪魔したら可哀想だろ!」
     半ばにて思考を打ち切り、ブエル兵に宣戦布告の言葉をぶつけた。
     その頃には総員、ブエル兵と男性を分断するような位置への移動を完了。
     倒れた男性が風邪を引かないよう、栗元・良顕(雨の・d21094)は布団をかぶせて上げた後にブエル兵へと向き直る。
     これから、目の前のブエル兵は男性から吸収した知識が元になったかのような力を使ってくる。
     せっかくゲームの知識を得たのだし、もっと愉しそうな感じになってくれても良いのに……と。
    「……」
     小さなため息を吐きだした後、一本の注射器を取り出した。
     長い時間をかけるわけにも行かないからと、攻撃を仕掛けるために駆けて行く。
     仲間たちが牽制してくれているうちに……と、周はビハインドの先生と共に男性を布団にくるむ形で持ち上げた。
     男性を戦闘に巻き込むわけにも行かないから。
     今はただ、安全圏にて眠っていてもらおうか。

    ●制限時間は十五分
    「ま、パパッとな」
     速攻を仕掛けると、影道・惡人(シャドウアクト・d00898)はオーラの塊を撃ち出した。
     額で受けたブエル兵が仰け反る中、守部・在方(日陰で瞳を借りる者・d34871)が赤い番傘を空へと投げた後に杖を握りしめて駆けて行く。
     瞳に宿るのは、主のために知識を蒐集している主なきブエル兵に対して感じた虚しさか。
     されど力に手心を加える事はなく、思いっきりフルスイング!
     腕のようなパーツに受け止められるも、魔力を爆破。
     爆風に乗って退きながら、投げた番傘をつかみとった。
     その後を追いかけるかのように、幾千共思しき兵士たちの幻影が前衛陣を取り囲む。
    「な、なんかいっぱい人が出てきたね、うん。これもげーむの内容の反映なのかな?」
     櫻井・聖(白狼の聖騎士・d33003)は驚く様子を見せながらも、慌てることなく風に言葉を載せた。
     風は、兵士たちの幻影によって衝撃を受けた者たちを治療する。
     治療お受けたライドキャリバーがエンジン音を唸らせ駆ける中、葵は兵士たちの幻影の合間を潜り抜けるように帯を放つ。
    「速攻で行かないとね」
    「その為にも、あなたたちにかまっている暇はないのだよ!」
     エルカは兵士たちを跳ね除けながら駆け抜けて、ブエル兵の正面へと到達する。
     剣を振り上げたエルカに反応し、ブエル兵は後退しようと身をかがめた。
     その身体を、エルカのウイングキャット・プリムラの魔法が拘束する!
    「プリムラ、ナイス!」
     すかさずエルカは剣を振り下ろし、ブエル兵を斜めに切り裂いた。
    「どんどん追い込んでいこうね!」
     元気な言葉を響かせながら、続く攻撃の機会を伺っていく。
     制限時間は十五分。
     すでに一分の時が経過した。
     長いようで短い時の中、灼滅者たちは駆け抜ける……!

     良顕が見つめる先、光が爆ぜた。
     赤々と燃える炎が前衛陣を包み込み、その身体を蝕んでいく……様な光景が、良顕の瞳に写り込んできた。
     きっとそれも、ゲームの光景。
    「……ほんと、破壊ばかりじゃないはずなのに」
     良顕はため息を吐きながら、鋏に紅蓮のオーラを纏わせ斬りかかる。
     一方、奏は前衛陣の様子を確認した後、聖に視線を送った。
     ブエル兵が攻撃面に特化しているとはいえ、数を厚くした前衛陣はある程度は軽減することができる。
     余裕がある時は片方が攻撃に回らなければ間に合わないかもしれない。
    「まだ、大丈夫そうですし、治療は櫻井さんに任せました。私は攻めます」
     だから奏は駆け出した。
     足に炎を宿しブエル兵と肉薄し……。
    「ほら! 神父様やる気を出す! あくびをしない!」
     どことなく気だるげだったビハインド・神父様を叱責しつつ、ブエル兵の額めがけて蹴りを放つ。
     避けようとしたブエル兵を神父様の霊障が抑えこみ、炎のキックは額にヒット。
     ブエル兵が炎上していく中、聖は風に言葉を乗せた。
    「分かったよ。辛くなりそうだったら知らせるね、うん」
     どれだけ追い込まれたとしても、自分と奏の二人で治療の力を用いれば一気に回復する事ができるはず。
     後は、攻撃しきれるか。
     男性が衰弱死してしまう前に、ブエル兵を討伐することができるか……!
    「大丈夫、攻撃も順調なんだよ、うん」
     聖が、時には奏も支えているから、全員が各々の役目を遂行する完璧に遂行することができている。
     時が経つにつれて、ブエル兵の動きは鈍くなっている。
     このまま戦っていけば大丈夫……と、聖は再び風に言葉を載せた。
     先生のダメージが癒えていくのを確認しながら、周は足に炎を宿して走り出す。
    「もっともっと、激しく燃えろ!」
     腰の入ったソバットを放ち、ブエル兵をよろめかせた。
     炎が赤々と燃える中……七分の時が経過しようとしていた……。

    ●ファイナルターン
     十分の時が経過し、残りは五分。
     近づくタイムリミット。
     されど心揺らすことなく、惡人は手元にオーラを集めていく。
    「さ、弱点も割れたバッドステータスも刻んだ。後は確実に決めちまうだけだ」
     静かに告げながらオーラの塊を打ち出して、炎に焼かれ続けているブエル兵の中心を打ち据える。
     在方は番傘をブエル兵に投げつけた後、断罪輪片手に自らを回転させながら近づいた。
     番傘をはねのけたブエル兵に肉薄し、切り刻みながら向こう側へ。
    「……」
     回転を辞めるとともに踵を返し、番傘を拾いながら再び仕掛ける機会を伺っていく。
     視線で追いかけようとしていたブエル兵に、爆熱の弾丸が撃ち込まれた。
     担い手たる葵は口元に笑みを浮かべながら、真っ直ぐにブエル兵を示していく。
    「突撃、お願いね」
     命じられるまま、ライドキャリバーが鋼のボディをぶちかます。
     ふらつきながらも、ブエル兵は大きな熊の幻影を生み出した。
     獣の幻影はライドキャリバーに爪を振るった後、ブエル兵を守るようにかしずいていく。
     灼滅者たちは幻影を打ち破り、再びブエル兵へと到達する!
     攻めに攻めて攻め続け、残り時間は……三分!
    「迷う時間はありませんね。神父様! 行きますよ!」
     奏は縛霊手で固めた拳を握りしめ、ブエル兵に向かって駆け出した。
     神父様が霊障を放ちブエル兵を押さえつけていく中、拳を振るいブエル兵を地面に伏せさせる。
     立ち上がる隙など与えぬと先生が得物を振り下ろした時、周が炎の右足を振りかぶった。
    「一気に決めちゃおう!」
     ブエル兵を、遥かな空へと飛ばしていく。
     身動きの取れぬブエル兵を、プリムラの放つ魔法が拘束。
     さなかにはエルカが踏み込んで、剣を下から切り上げた!
    「続いて!」
     再び跳ね飛ばされたブエル兵の向かう先、良顕が注射器片手に待っている。
    「……」
     ぼんやりとした瞳で見つめながら、良顕は注射針でぶっ刺した。
     それでもブエル兵は身じろぎする。
     拘束から逃れようと暴れていく。
     けれど動くことはできないだろう……と、在方は静かな足取りで歩み寄った。
    「……ほんと、とても虚しい……」
     本能のままに知識を蒐集しようとしたブエル兵に終わりを与えるため、杖を思いっきり振り下ろす。
     衝撃を与えるとともに魔力を爆発させたなら、その間を影が駆け抜けて。
     担い手たる惡人が操るまま、影はブエル兵を飲み込んだ。
     影と炎に抱かれながら、ブエル兵は消滅し……。
    「ぁ? 勝ちゃなんでもいんだよ」
     惡人の言葉が、勝利の報を告げていく。
     時間に直せば、約十三分。無事、灼滅者たちは男性を救い出すことに成功したのである。

    「んじゃ後は任せたぜ」
     後の対処を仲間たちに任せると、惡人は一人背を向けた。
    「そいやまだログイン処理してねーゲームあったな、帰ったらやるか」
     呟きながら立ち去っていく惡人を見送った後、在方は仲間たちに呼びかける。
    「私達も立ち去りましょうか。不運な事件に巻き込まれた記憶なんて、それこそ、悪夢だと思ったほうが良いじゃないかと思いますし」
     男性はきっと、程なくして目覚める。
     ベンチに寝かしつけるだけでも、風邪を引くこともないだろう。
     在方に従い、灼滅者たちは男性を運んだ後にマンションに背を向けた。
     帰還へ向かい歩き出す中、聖はひとりごちていく。
    「知識はやっぱり自分で身につけてこそだよね、うん。だから人の知識を奪って自分の知識にするなんて、知識を奪われた人も主もボクも絶対許してはくれないんだよね、うん」
     人の集めた知識を奪う、ブエル兵。
     はぐれる前は主のために収集していたであろう、ブエル兵。
     今日、また一体、その存在に幕を引くことができた。
     祝福してくれているかのように、月は明るく輝いて……!

    作者:飛翔優 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年11月19日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ