怪人は再生進化する?! 惨上!  温泉饅頭怪人Ω!

    作者:長野聖夜

    ●知らないことを、知る。きっと其れは、成長の証
     とある混浴温泉にて。
    「くっ……ねっと……ねっとなるものがこの世にあったと言うのか……」
     既にこの世のものでは無いことを棚に置き、グヌヌヌヌ……と呻く残留思念。
    「ねっとさえ、ねっとさえあれば……きっと俺は……温泉饅頭による温泉饅頭の為の世界征服を……!」
    「大丈夫ですか?」
     餡の如く甘く優しく耳に染み入る少女の声。
    「な……何奴?!」
    「安心して下さい。私は、慈愛のコルネリウス。私は傷つき嘆く者を見捨てたりなんてしません」
    「そ……そうか! それならば、是非俺を救ってくれ! このままあの世に行くことなどできない! あの温泉饅頭の何たるかを知らない者達に敗れたままなど……!」
     残留思念の捲し立てに静かに頷き、彼女は小さく祈りを捧げる。
    「プレスター・ジョン。この哀れな方を貴方の国に匿ってください……」
     祈りと共に姿を現し、歓喜の想いを隠さず呟き続ける温泉怪人。
    「ねっと、ねっと……そうか!」
     閃いた、と言う表情になり、その頭上に豆電球を点灯させる。
    「ネット(網)さえ手に入れれば、温泉饅頭の良さを全ての人々に知らしめ、温泉饅頭の為の世界征服を実現できる! フハハハハ……もう、試作品なんかじゃない! 我が名は、進化した怪人、再生温泉饅頭怪人Ω~!」
     何故か、ドカ~ン! と背後で大爆発。

     ――再生温泉饅頭怪人Ω、惨上の瞬間であった……。
     
    ●惨上! 再生温泉饅頭怪人Ω!
    「……何と言うか……本当に出て来るとは思ってなかったよ……桐香先輩」
    「まあ、私も本当に復活してくるとは思っていませんでしたわ」
     何故か引き攣った笑みを浮かべている北条・優希斗(思索するエクスブレイン・dn0230) の呟きに、緋薙・桐香(針入り水晶・d06788)が溜息を一つ。
     しかし、バンダナを巻いて殺る気満々でやって来ている桐香の姿に必死にツッコミを堪えながら、優希斗が続ける。
    「温泉饅頭怪人βが、桐香先輩達に逆襲する為に、慈愛のコルネリウスの力を借りて、復活する、なんてね。ちなみに多少力は上がっているみたいだよ」
    「それも、コルネリウスの力なのでしょうか?」
     軽く首を傾げる桐香に分からない、と首を横に振る優希斗。
    「まあ、介入のタイミングは、コルネリウスの幻が彼に力を与えた直後だから、幻に、一応軽く聞いたり、話し掛けたり位は出来るけれどね」
     優希斗の呟きに、なるほど、と小さく首を縦に振る、桐香。
    「どちらにせよ、怪人が再生するのは分かりましたわ。ならば、其れを灼滅して来れば良いですわね?」
     桐香の確認に、優希斗が頼むよ、桐香先輩、と首を縦に振った。

    ●戦力把握
    「基本的には、前回と同じサイキックを使用してくるね。ただ、人気のない時間に再生してくるから、人払いは最低限で大丈夫だと思う」
    「前回と同じ、と言うと?」
     桐香の呟きに軽く、首を1つ縦に振る優希斗。
    「うん。ご当地ヒーローと、バトルオーラに類似したサイキックを使用してくる。ただ、さっきも少し言った通り、やや能力が強化されているみたいだ。具体的には、灼滅者9人分、位かな。後、ポジションがクラッシャーなのも気を付けて欲しい」
    「つまり、火力が高い、と言う事ですわね」
     桐香の確認に、そうだね、と優希斗が頷く。
    「まあ、きちんと準備を整えて行けば、多分、桐香先輩たちの実力なら十分灼滅出来ると思う。その後に、温泉で日頃の疲れを癒してくるのも、意外と良いかも知れないね」
     優希斗の呟きに、桐香は色々な意味で嬉しそうに頷いた。
    「……しかし、相変わらずよく分からないな。慈愛のコルネリウスは、どうしてこれ程までに、残留思念に力を与え続けるんだろう……。とはいえ、見過ごすことも出来ない相手だ。桐香先輩、どうかよろしく頼む」
    「分かりましたわ、優希斗さん。ふふっ……楽しみですわ♪」
     呟き、仲間達と共にその場を後にする桐香達を……優希斗は少しだけ苦笑を零しながら見送った。


    参加者
    アリス・クインハート(灼滅者の国のアリス・d03765)
    緋薙・桐香(針入り水晶・d06788)
    黒岩・いちご(ないしょのアーティスト・d10643)
    鴻上・朱香(宝石少女ジュエリア・d16560)
    新月・灯(誰がために・d17537)
    踏鞴・釼(覇気の一閃・d22555)
    照崎・瑞葉(死損ないのディベルティメント・d29367)
    白川・雪緒(白雪姫もとい市松人形・d33515)

    ■リプレイ

    ●秘密
     ――とある、夜の温泉にて。
    「プレスター・ジョン。この哀れな方を貴方の国に匿ってください……」
     怪人復活の為に祈りを捧げるコルネリウスの幻影。
     彼女の姿を見るや否や、アリス・クインハート(灼滅者の国のアリス・d03765) を筆頭に、灼滅者達が静かにその場に姿を現す。
    「ある所に……」
     人払いの為、何処かおどろおどろしく、ポツリ、ポツリ、と怪談話を始める白川・雪緒(白雪姫もとい市松人形・d33515) 。
     話が始まるや否や、まるで物理法則を無視する様な勢いで耳を塞ぐは、照崎・瑞葉(死損ないのディベルティメント・d29367) 。
    「コワクナイコワクナイコワクナイドラゲナイ……」
     貼り付けた様な笑顔を浮かべて、壊れたテープの様にブツブツとコワクナイと繰り返し、徹底的に自己暗示をかける瑞葉の傍らで、新月・灯(誰がために・d17537) が音を遮断する結界を張っていた。
    「コルネリウスさん、いらしていたんですね……良かった……」
     幻影の姿を確認し、安堵した様に胸を押さえて息をつくアリスの様子が気になったか、チラリと雪緒達を見る幻影。
    「ベヘリタスが、デスギガスを手に入れた様ですわよ」
     鴻上・朱香(宝石少女ジュエリア・d16560) が、そう、幻影に警告を発した時。
     コルネリウスの幻影が、朱香たちの方に向き直った。
    「知っています」
     何気なく告げられた少女の一言。
     けれども其れは、朱香たちに衝撃を与えるには、十分過ぎた。
     やはり、と言う想いと、まさか、と言う想いが錯綜し、朱香達は、其々に顔を見合わせる。
     驚きのあまり恐怖も吹っ飛んだ瑞葉が立ち上がり、目を細めた。
    「コルっちって、デスギガスが篭絡されたこと、どう思っているの?」
    「もしかして、タカトさんに対抗する為に、思念の方をあの国に……?」
     瑞葉とアリスの問いかけには答えぬ幻影。
     ただ、その表情から、デスギガスが篭絡された件を、決して快く思っていないことが、雪緒には読み取れる。
    (そもそも思う所が無ければわたくし達に話すこともないでしょうしね)
     束の間の、沈黙。
    「もし……」
     冷たく突き刺さるような、重苦しい空気を打ち破ったのは、灯。
     灯の呟きに、幻影は彼女へと視線を向けた。
    「もし、教えて頂けるのでしたら、『歓喜のデスギガス』の弱点を教えて頂けませんでしょうか?」
     告げられた其れは、あまりにも重く。
     ……けれども其れは、灼滅者達が喉から手が出るほどに欲しがっている重要な情報。
     ――夜の闇を、天使が通り過ぎていく。
     沈黙を打ち破ったのは、幻影の方だった。
    「……デスギガスは、巨大なシャドウです。敵は、デスギガスの体に布陣するでしょう」
     灯や踏鞴・釼(覇気の一閃・d22555) 達が思わず息を呑む。
     デスギガスがどれほど巨大な敵であるのかを、改めて認識したのだから。
     しかし、続けられたコルネリウスの言葉に、灼滅者達は、一瞬、我が耳を疑った。
    「歓喜の門の下。あなた達の体の、へそに当たる部分。それが、デスギガスの弱点です。そこを攻撃さえすれば、デスギガスを強制送還出来るでしょう」
     ――告げられた其れは、雪緒達の問いへの明確な回答故に。
    「……嘘ではなさそう、だな」
     釼の口から思わず零れた一言に、雪緒が静かに首肯する。
     その表情と態度から、嘘を微塵も感じ取れなかったから。
     だからこそ、雪緒は確信する。
     ――彼女の言葉が、全て『真実』であることを。
    「デスギガスの弱点を教えたと言うことは、貴方自身も変わっている、と言う事なの?」
     緋薙・桐香(針入り水晶・d06788)が問いかけるが、其れには答えず、消えていくコルネリウスの幻影。
     アリスが、幻影に一礼するよりも、僅かに速く。
    「今度こそ、ネット(網)の真実を知り進化した、この俺、再生温泉饅頭怪人Ωが、貴様達を成敗してくれる!」
    「……βって、本当に試作品だったんですか?」
     幻影との会話の間、さりげなく怪人を警戒していた黒岩・いちご(ないしょのアーティスト・d10643) が苦笑を零しながらツッコミを一つ。
     気を取り直した桐香が、口の端にサディスティックな笑みを浮かべた。
    「き……貴様は、あの時の……!」
     その背に饅頭を浮かべながら、何処か引き攣った笑みを浮かべる怪人Ω。
     その姿は、桐香の嗜虐心を、益々煽った。
    「フフッ……。また、Erzahlen Sie Schrei(悲鳴を聞かせて)ね、Ω?」
    「この間は、りんごがいたから楽させてもらいましたけど。結局、私の手で決着付けないといけないのですね」
     スレイヤーカードを起動させ、桐香が武装する傍ら、いちごが溜息交じりに小さく呟く。
     そんな、いちご達の様子に怒りを覚えて。
    「行くぞ! 温泉饅頭の何たるかを知らない愚か者達よ!」
     雄叫びを上げた再生温泉饅頭怪人Ωが、灼滅者達に突撃を敢行した。

    ●勝負だ! 再生温泉饅頭怪人Ω!
    「アリカさん、桐香さんと仲良くですよ?」
     突撃してくるΩにいちごが苦笑を零しながらダイダロスベルトを射出。
     放たれた帯にその身を締め上げられるΩに、不承不承頷きつつ、アリカが自らの手で一撃を加える。
    「コルネリウスさん……」
     先程見た彼女の幻影を思い浮かべながら、アリスが自らの裡のシャドウと言う名の闇にその身を浸す間に、瑞葉が星の力を帯びたスライディング。
     足に痛打を受けながら、Ωはテンション最大で両手を腰に当てて大仰に笑った。
    「フハハハハハッ! 進化した俺にその程度の攻撃通じるものか!」
    「どうかしら?」
     口元に残虐な笑みを浮かべつつ、桐香が炎を帯びた足でハイキック。
     水着が脱げかける程の勢いで放たれた鋭い蹴りが、容赦なくΩの右頬を張飛ばす。
    「グハァ!」
    「温泉饅頭は確かに美味い。美味いが、ネット(インターネット)でどうするつもりだ?」
     悲鳴を上げながら吹き飛ばされるΩに接近し、戦闘態勢を取った朱香がトラウナックル。
     真っ直ぐに放たれた拳がΩの胸を撃ち抜き、苦し気に身をくの字に曲げるΩ。
    「グ……決まっているだろう! ネット(網)の中に、大量の温泉饅頭を包み、全ての人々の口の中に放り込むのだ! また、もし温泉饅頭を嫌う悪い奴等が居れば、ネット(網)で、一網打尽にしてくれよう!」
     ――この怪人、本当にネット=網を使えば、温泉饅頭をより多くの人々に広げることが出来ると考えているらしい……。
    「……食べ物をぶん投げるどころか、好きでもない人に無理矢理食わせる為の手段にネット(網)を使おうとする怪人には、再度この世からご退場願います」
     雪緒が呟きつつ、灯に防護の符を施し、バッドステータスに備えさせる。
    「重要な情報をくれたのはいいが……どうせ復活させるならば、ネット(インターネット)の意味位教えておいてやれ……」
     溜息をつきつつ釼が縛霊手で覆った拳で裏拳を一発。
     強烈な裏拳に拳の一部を砕かれながらも、Ω無数の温泉饅頭型オーラを放つ。
     狙われた桐香を咄嗟に庇ういちごだったが、攻撃を受け止めた拍子に足をお湯で滑らせて、ムニョン、と柔らかい感触を感じつつ転んだ。
    「わっ?!」
    「あんっ……」
     胸を触られ、思わず甘い声を上げる桐香を、傍にいたアリカがポカポカ叩いた。
    「ちょっ、何で私を叩くの!?」
    「取り敢えず、敵を倒すのが先だよね!?」
     隣で起きているトラブるから目を逸らし、瑞葉が霊力を帯びた腕でΩに殴り掛かると、鈍い音と共に、Ωがグァァァァ! と大きな悲鳴を上げた。
    「くっ……くそぉ! ネット(網)の真実を知り進化した俺が、押されている、だとぉ?!」
    「……ネット(インターネット)の意味、ちゃんと分かっています?」
     確かに前よりも技の切れは鋭い気はするが、勘違いから(間違った方向に)成長しているΩに苦笑を零しながら、いちごが突込み。
     挑発されたΩが頭の温泉饅頭から湯気を噴かせた。
    「な……何だとぅ! 貴様、俺を愚弄するのか?!」
    「取り敢えず、傷を癒すのが先ね」
     溜息をつきつつ呟き、灯が天使の様な歌声で昔流行った美しいアニメソングを歌い、いちごの傷を癒すのだった。

    ●さらば! 再生温泉饅頭怪人Ω!
    「ごめんなさい……温泉饅頭怪人さん……灼滅者として……私達も、力を得た貴方を放っておけません……」
     小さく呟いたアリスが、アームドクロックワークスを構え、罪を灼く光線を撃つ。
     光線がΩの肩を撃ち抜き、苦痛と体を襲う痺れに顔を顰めるΩ。
    「ぐ……ぐぅ……!」
    「続くよ!」
     瑞葉がアリスに追随して、トラウナックルでΩを殴りつける。
    「ヌァァァァ!」
     苦しげに呻くΩに接近し、星屑の力を帯びたミドルキックを叩き付ける釼。
    「ク……クゥ!」
     肝臓を蹴り飛ばされつつも、踵落としで反撃するΩ。
     強烈なΩの蹴りだったが、其れは、その背に釼を庇う様に飛び出した瑞葉が両腕を交差させて受け止めた。
    「くっ……!」 
     両足に力を籠め踏ん張る瑞葉の為に、灯が流行のアニメソングを歌いあげ、瑞葉の傷を癒していく。
    「ちなみにわたくしは、薄皮饅頭派ですから」
    「な、何だとぉ! 貴様、温泉饅頭以外の饅頭を食べると言うのか! ええ~い、せいば……オグゥホ?!」
     さりげなく告げた雪緒にツッコミを返したΩだったが、何時の間にか腕に張りつけられていた符に力を奪われて、ヘナヘナとへたり込む。
     その懐に素早く桐香が潜り込み、その脇腹毎肉を抉った。
    「ギャァッ?!」
     パッ、と血の華を咲かせながら、痛みのあまりに脇腹を抑えるΩ。
     その苦しげな姿が楽しくてしょうがないと言う表情の桐香に、少しだけ背筋が寒くなるのを感じつつ、朱香が怪人のボディに容赦なく拳をぶち込む。
    「歯を食いしばれ!」
     叫びと同時に放たれたストレートがΩの鳩尾を直撃し、ゴハァ、と体をくの字に曲げるΩ。
    「アリカさん!」
     ウロボロスシールドで自分の傷をいちごが癒す間に、アリカがその顔を晒す。
     まるで、見たくないものを見たかの様に、Ωの顔から血の気が引き、かの有名な画家の絵の叫びの様な表情を浮かべた。
    「……ヒィィィィ……!」
    「ごめんなさい……!」
     Ωの声を断ち切る様に、【Vopal sword Ark】と言う電子音声が鳴り響き、アリスが大剣状に変形したアームドクロックワークスでクルセイドスラッシュ。
     袈裟懸けに放たれたその一撃が深々とΩを斬り裂き、Ωが痛い、痛い、と呻きながらも反撃とばかりに、無数の温泉饅頭オーラを叩きつけようとした直後。
    「桐香さん!」
     いちごが咄嗟に彼女を突き飛ばして代わりに攻撃を受けて倒れる。
     そのまま、先程までの激しい攻撃で捲れていた臍の下……水着が脱げたあの部分にうっかり顔を突っ込んでしまった。
    「あんっ、くすぐった……ぃ」
    「す、すみません!? わざとではないんですがっ」
     恥ずかしそうに、悩ましげな声を上げる桐香に焦りつつ、飛び起きるいちご。
     さりげなく怪人の腹部にガンナイフを密着させ、引金を引く。
    「グハアッ!」
     腹部を銃に撃ち抜かれて、大仰に仰け反り後退するΩの隙を見逃さず。
    「一気にやらせて頂きましょう」
     雪緒が素早く自らの影でΩをきつく締めあげて。
     釼が、霊木で作り上げられた鞘『霧打桐丸』に蓄えていた魔力を一気に放出し、フォースブレイク。
     爆発に大きくその身を傾がせたΩに、朱香がΩの目の前から掻き消える様に姿を消してΩの背後に回り、その腰をガッチリと掴んでいた。
    「魅せてやる」
     冷たく言い放ち、バックドロップの態勢を取り。
    「天地が逆転する瞬間をな」
     そのまま脳天からΩを叩きつけた。
     朱香の地獄投げで脳震盪を起こしつつ、口から泡を吹くΩ。
    「いくよ!」
     瑞葉が縛霊手に籠めた霊力で、Ωの体を縛り上げ。
     アリカが霊障波で、周囲の桶や、椅子を叩き付けた。
     そして……。
    「行くわよ!」
     状況に気が付いた灯が回復を捨て、影縛りで攻撃に転じ。
     影によって全身を締め上げられ、動きを止めたΩを。
    「これで止めだ」
     釼がガッチリと掴み、地獄投げ。
     地面に叩きつけられた反動でΩが空中へと投げ出されたが。
    「この程度の負傷で俺が……!」
     そう言って華麗に着地する。
     ――しかし……。
     火傷と、トラウマによる心の傷が、全身を苛んだ。
    「ぐ……グァァァァァァ!」
     その絶叫を最期に。
     再生温泉饅頭怪人Ωは、光の粒子となって消えていくのだった。

    ●戦いの後の、束の間の休息
     ――チャポン。
    「ふぅ、働いた後の温泉は格別ですわね、いちごさん?」
    「ええ、そうですね……」
     湯に浸かりながら意味ありげに笑う桐香が横目をいちごに流す。
     その目線に、湯で温まっている筈のいちごの背に寒気が走った。
     そんな2人の様子を、アリカが落ち着かない様子で交互に見ている。
     程なくして。
     桐香が近づき、上目遣いにいちごを見上げた。
    「ふふっ、今回はいちごさんも沢山働いてお疲れでしょうしね?」
     戦いの最中のトラブるを思い出し、引き攣った笑みを浮かべるいちご。
    「お、お手柔らかに……?」
    「ふふふ……」
     桐香がそんないちごにわざとらしく密着し、胸を押し付けた。
    「こんな感じ、でしたよね?」
    「あうあう……」
     顔を真っ赤にしたいちごを見たアリカが桐香の後ろから接近し、ポカポカと彼女を叩く。
    「だから、なんで私を叩くのよ?!」
     思わずツッコミを入れながら、桐香がバシャリ、とアリカにお湯を掛けると、アリカも負けじとばかりにお湯を彼女に掛け返し……そのままお湯掛け合戦に移行した。 
    「キャッ?!」
     少し離れた所にいた灯にお湯が掛かり、灯が反射的にお返しする。
     キャッキャ、キャッキャと始まった合戦の中で揺れている灯達の胸を、朱香がじ~っ、と見つめていた。
     揺れ動く胸を必死に避けるいちごだが……何だかとても楽しそう。
    「……」
     淡々と、自分の平らな胸を見下ろす、朱香。
    「……うう~……」
    (やっぱり、胸って……)
    「大丈夫! 私もだから!」
     のんびりと隣で温泉に浸かっていた瑞葉が自分の胸を指し、それからさめざめと少しだけ泣いた。
     そのまま、どちらからともなく肩を叩き、互いに互いを慰め始める。
     そんな朱香と瑞葉はさておいて。
    「こう、ゆっくり浸かっているとやっぱり気持ちいいですわね……」
     少し離れた場所で、水着姿で温泉に浸かりつつ、温泉饅頭を美味しく頂きながら呟く雪緒。
    「うむ。傷が癒されていく様だ……」
     体の古傷を労わるように撫でながら、雪緒に同意する様に頷く釼。
     釼達の傍で温泉を堪能しつつ、アリスがそっと呟いた。
    「できれば……コルネリウスさんとも、ご一緒したかったです……」
     
     アリスの呟きを拾う様に、優しい秋風が釼達を撫でていく。

     こうして、一通り温泉を楽しみ、灼滅者達は武蔵坂学園に帰投した。

     ――温泉饅頭と、今後の戦いに左右する、貴重な情報を手土産に。

    作者:長野聖夜 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年11月25日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 17/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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